有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2020/08/27 15:00
【資料】
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【項目】
98項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において、当社グループが判断したものです。なお、本書に掲載する外部市場データにおける各予想値は、各予想時点に基づき記載されており、これらが実際の数値と一致する保証はありません。各予想値は一定の前提又は仮定に基づくものであって、実際の結果と異なる可能性があります。
(1)経営の基本方針
当社グループは、「『記憶』で世界をおもしろくする。『記憶』の可能性を追求し、新しい価値を創り出すことで、これまでにない体験や経験を生み出し、世界を変えていく。」とのミッションのもと「『記憶』の技術をコアとして、一人ひとりの新たな未来を実現できる製品やサービス、仕組みを提供する。」というビジョンを掲げ、「メモリ技術」で時代を塗り替え、世界を進化させ続けることを目指しています。
ミッション・ビジョンを実現するために、従業員一人ひとりが取り込んでいく価値観を以下の行動方針としてまとめています。
・ 一人ひとりが夢を持ち、語ることができる
・ 制約を設けず、可能性を追求する
・ 柔軟な発想で自ら考え、行動する
・ 多様な価値観を尊重し、協力し合う
・ 常に誠実さと、透明性をもって行動する
(2)経営環境及び経営方針
世界中に広がるデータエコノミーの波の中で、人々が扱うデジタルデータの総量は増加の一途を辿っており、現在までには、デジタルカメラ、スマートフォン、タブレット端末、PCにおいて使用され、今後も、クラウド、次世代通信規格「5G」、IoT、AI、自動運転の普及により、2010年から2024年までの年平均成長率は29%で成長し2024年の世界におけるデータ発生量は143ZB(ゼタバイト)(注)まで伸長することが予想されています(出典:IDC “Worldwide Global DataSphere Forecast, 2020–2024 2020年4月”)。
(注)ZB(ゼタバイト)とは、10の21乗バイトを指し、データの量やコンピュータの記憶装置の大きさを表す単位として使用されます。
グローバルでのデータ発生量の推移 単位:ZB
2010年2011年2012年2013年2014年2015年2016年2017年2018年2019年2020年(予想)2021年(予想)2022年
(予想)
2023年(予想)2024年(予想)
46810141823293645597793115143

出典:IDC Worldwide Global DataSphere Forecast, 2020–2024 2020年4月
また、フラッシュメモリの技術革新とそれによる記憶容量増大は、様々なフラッシュメモリのアプリケーションへの採用と新しいマーケットの創出を牽引してきました。更に、データ量の増加とフラッシュメモリの技術革新によって、HDDからフラッシュメモリを使用した、より読み出し性能、衝撃・振動等の耐環境性、静寂性及び待機時の省消費電力性等に優れるSSDへの置き換えも進んでいます。データ量の増加とフラッシュメモリの技術革新の好循環によって、フラッシュメモリ市場は急速な成長を続けるものと当社は考えており、Gartner, Inc. Forecastによれば、フラッシュメモリのグローバル市場規模は、2005年から2020年にかけて約5倍成長となる120億ドルから560億ドルに増加し、2024年には1,060億ドルへと更に成長することが予想されております。
フラッシュメモリのグローバル市場規模・予想 単位:十億ドル
2005年2010年2015年2020年(予想)2024年(予想)
12213156106

(注)本書に記載するガートナー・レポート(以下「ガートナー・レポート」という。)は、ガートナーシンジケート・サブスクリプション・サービスの一部としてガートナーが発行したリサーチ・オピニオンまたは見解を表すものであり、事実を述べているものではありません。ガートナー・レポートの内容はいずれも、そのレポートが公開された当時の内容であり、本資料が公開された日の内容ではありません。また、ガートナー・レポートに記載されている見解は予告なく変更されることがあります。
出典:Gartner, Inc. Forecast NAND Flash Supply and Demand, Worldwide, 1Q19-4Q21, 2Q20 Update, June 2020
このように、クラウドコンピューティング等ビッグデータビジネスの拡大に伴うデータセンター向けメモリ需要の拡大、スマートフォン搭載メモリの大容量化傾向、ノートPCのHDDからSSDへの切替え加速に伴い、当社グループの主力製品であるスマートデバイス及びSSD & ストレージの容量ベースでの市場規模は拡大傾向にあり、今後も記録容量ベースでの市場規模の拡大傾向を当社は見込んでいますが、他方で、フラッシュメモリ製造事業者においてはベンダー各社が微細化や3次元化を推し進め供給を増やすことが予想され、価格競争が見込まれることから、単位記録容量あたりの販売価格は一定レベルで継続的に下落していく傾向が見込まれます。また、SSDはフラッシュメモリを主記憶デバイスとして使っている製品であるため、今後もフラッシュメモリの価格に連動してSSDの単位記録容量あたりの販売価格も下落していく傾向が見込まれると当社は考えております。
加えて、フラッシュメモリ市場は、一般に、急速な技術革新と生産性の向上、顧客からの需要の変動と継続的な価格下落圧力、競合他社との市場シェア獲得競争等により、需給の循環的変動傾向が顕著であり、周期的に市況の改善と悪化が繰り返されていると考えております。2018年度後半から2019年度前半にかけて、3次元メモリの開発・大容量化とそれに伴う急激な生産性の向上による供給過剰と、データセンターSSD関連需要が市場関係者の当初の認識と乖離する結果となったことが重なったことにより、著しい市況の悪化を経験しました。もっとも、当社グループ及び競合他社による設備投資及び出荷量の抑制の効果等により、2019年度後半からは需給のバランスが改善され始め、足元では良好な市場環境が継続しています。
フラッシュメモリ市場における主要なアプリケーションはスマートフォンとSSDであり、スマートフォンの記憶容量ベースの年平均成長率は28%(2020年(予想)-2024年(予想))、SSDの年平均成長率は40%(2020年(予想)-2024年(予想))と見込まれており、特に高成長が期待されるのはSSDであると当社は考えております。
主要アプリケーションごとのフラッシュメモリ消費量見通し 単位:百万GB
アプリ
ケー
ション
2017年2018年2019年2020年
(予想)
2021年
(予想)
2022年
(予想)
2023年
(予想)
2024年
(予想)
年平均成長率(2020年-2024年)
SSD69,562106,646158,610231,525331,706471,870662,197888,71040%
スマートフォン58,40488,111131,954158,839200,307262,545345,234421,07928%
その他46,74056,61172,11285,921113,020146,439185,813225,03227%
合計174,706251,368362,675476,284645,034880,8531,193,2441,534,82134%

(注)1.本書に記載するガートナー・レポート(以下「ガートナー・レポート」という。)は、ガートナーシンジケート・サブスクリプション・サービスの一部としてガートナーが発行したリサーチ・オピニオンまたは見解を表すものであり、事実を述べているものではありません。ガートナー・レポートの内容はいずれも、そのレポートが公開された当時の内容であり、本資料が公開された日の内容ではありません。また、ガートナー・レポートに記載されている見解は予告なく変更されることがあります。
2. スマートフォンはガートナーのカテゴリーにおけるPhone, Basic, Smart OS、Phone Premium, Smart OS及び Phone, Utility, Smart OSの合計
出典:Gartner, Inc. Forecast NAND Flash Supply and Demand, Worldwide, 1Q19-4Q21, 2Q20 Update, June 2020
また、当社グループとしては、このようなマーケット環境において、当社グループの強みと考える高成長市場にアクセス可能な幅広い製品ポートフォリオをもって、規模が大きく高成長が見込めるエンドマーケットにて、これらのアプリケーションにおける各主要顧客との強固な関係構築を継続してまいります。また、業界をリードする技術競争力を有するフラッシュメモリ業界におけるテクノロジーリーダーとして、市場リーダーの求める製品の開発を推進するとともに、世界最大級のフラッシュメモリ工場を活用し、生産規模及び生産効率を最大化することで高いコスト競争力を実現してまいります。
最近の新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延により、各国政府が感染防止の緊急措置を講じたことに伴い、経済活動が停滞し個人消費や企業業績に影響を与えております。フラッシュメモリ業界におきましても消費活動の落ち込みからスマートフォン向けの需要が低迷し、また製造・サプライチェーンへの影響等もあった一方、新しい生活様式に対応する在宅勤務やオンライン学習、ビデオストリーミングサービス等の拡大に伴いデータセンター向けの需要増加が見られました。また、次世代通信規格「5G」の普及や自動運転技術の開発加速など進化し続けるデジタル社会における長期的なメモリ需要の拡大が期待されるものの、米中貿易摩擦などの国際情勢への懸念や依然として新型コロナウイルス感染症がグローバル経済に大きな影響を与えており、先行きは不透明な状況が続いております。
このような経営環境において、当社グループにおいては、次の経営方針・経営戦略によりビジョンを実現していきます。
[SSD & ストレージ]
SSDは特に高成長が期待されるアプリケーションですが、その中でもクラウドサービスの普及に伴うデータセンター向けの需要や、エンタープライズ向けストレージ機器の組み込み容量の増加等を受けて、Forward Insightsによれば、データセンター・エンタープライズSSD市場は、売上高ベースで2015年から2019年までは年平均成長率12%の成長を実現し、2019年から2024年にかけてもIoT、AIの進展や、今後の次世代通信規格「5G」に伴うストレージの高機能化により、年平均成長率20%の成長が見込まれています(出典:Forward Insights:“SSD Insight Q1/18”及びForward Insights “SSD Insight Q2/20”)。また、一般消費者向け市場をターゲットとするSSDであるクライアントSSD(PC、ラップトップ、タブレットコンピュータ等の一般消費者向け市場をターゲットとするSSD)についても、売上高ベースで2015年から2019年までは年平均成長率9%の成長を実現し、2019年から2024年にかけても、PCにおけるHDDからSSDへの置き換え等により、年平均成長率8%の成長が見込まれています(出典:Forward Insights “SSD Insight Q1/18”及びForward Insights “SSD Insight Q2/20”)。
SSDにおける用途別の市場規模 単位:十億ドル
用途2015年2019年2024年
(予想)
年平均成長率
2015年-2019年2015年-2024年2019年-2024年
データセンター・エンタープライズSSD692412%17%20%
クライアントSSD812189%9%8%

出典:Forward Insights:“SSD Insight Q1/18”及びForward Insights “SSD Insight Q2/20”
かかる市場環境を踏まえ、当社グループは、大手データセンター向けを中心としたデータセンターSSDのシェア獲得を目指します。具体的には、当社グループのデータセンター向けメモリ製品の販売で培った実績に基づいた顧客からの信頼と、蓄積した顧客の品質・信頼性要求とその製品化ノウハウを最大限活用するとともに、エンジニアリングリソースをデータセンター向けに集中することで、かかる需要の獲得とデータセンターSSDにおけるシェアの拡大を目指します。更に、当社グループは、2020年7月に、台湾・LITE-ONテクノロジー社のSSD事業を買収しており、かかる買収で獲得した顧客基盤や350人以上のファームウェア等にかかるエンジニアを獲得し、SSD製品におけるさらなるシェア拡大に取り組み、中期的にはSSD市場におけるより高いシェアの確保を目指します。
更に、新規市場としての家庭用ゲーム機向けSSD市場にも注力していきます。家庭用ゲーム機大手企業の一部では、次世代ゲーム機より、ストレージをHDDからSSDに移行することを公表しており、これを受けて家庭用ゲーム機向けSSDは、2020年度から成長が期待されるマーケットになっていると考えております。IDCによれば、当該公表を受け、コンシューマエレクトロニクスSSDの需要見通しは、2020年は当初予想から1.9倍、2021年は同1.6倍、2022年は同1.3倍(いずれも容量ベース)に上方に見通しを変更しています(出典:IDC “Worldwide Solid State Drive Forecast, 2019–2023” (#US43828819, May 2019), IDC “Worldwide Solid State Drive Forecast, 2020–2024” (#US45172620, May 2020))。当社グループは、このような新たな市場への参入機会を逃すことなく、業界主要企業との関係性構築に努めてまいります。
コンシューマエレクトロニクスSSDの需要見通しの変化
(家庭用ゲーム機大手企業の一部がストレージをHDDからSSDに移行することを公表したことによる変化)
単位:PB(ペタバイト)(注)
見通し時点2020年(予想)2021年(予想)2022年(予想)
2019年5月時点の見通し8,17018,89633,099
2020年5月時点の見通し15,59130,92143,488
変化率1.9x1.6x1.3x

出典:IDC “Worldwide Solid State Drive Forecast, 2019–2023” (#US43828819, May 2019), IDC “Worldwide Solid State Drive Forecast, 2020–2024” (#US45172620, May 2020)
(注)PB(ペタバイト)とは、10の15乗バイトを指し、データの量やコンピュータの記憶装置の大きさを表す単位として使用されます。
当社グループは、メモリ価値を最大化する先端技術と製品開発を進め、開発とマーケティング及び生産体制のグローバル最適化を強化していきます。顧客ニーズに合わせた製品の開発と供給、また、IoT、AIの進展や、今後の次世代通信規格「5G」等に伴うストレージの高機能化にも対応していきます。
[スマートデバイス]
当社グループが現状強みを有しているスマートフォン市場は依然として規模が大きく、成長しているアプリケーションであり、当社グループにとって引き続き重要なマーケットとなっています。今後、スマートフォン出荷台数については、これまでと同様の伸長は期待できないと考えられるものの、スマートフォン一台当たりのフラッシュメモリ搭載量は年平均成長率19%(2020年(予想)-2024年(予想))と予想され、スマートフォン向けのフラッシュメモリの需要を牽引していくと見込んでおります。その結果、2020年から2024年にかけて、スマートフォン向けのフラッシュメモリの需要は年平均成長率28%の成長が見込まれております。(データ量ベース。出典:Gartner, Inc. Forecast NAND Flash Supply and Demand, Worldwide, 1Q19-4Q21, 2Q20 Update, June 2020)
スマートフォン向けのフラッシュメモリ消費量見通し 単位:十億GB
2020年(予想)2021年(予想)2022年(予想)2023年(予想)2024年(予想)年平均成長率
(2020年-2024年)
15920026334542128%

(注)1.本書に記載するガートナー・レポート(以下「ガートナー・レポート」という。)は、ガートナーシンジケート・サブスクリプション・サービスの一部としてガートナーが発行したリサーチ・オピニオンまたは見解を表すものであり、事実を述べているものではありません。ガートナー・レポートの内容はいずれも、そのレポートが公開された当時の内容であり、本資料が公開された日の内容ではありません。また、ガートナー・レポートに記載されている見解は予告なく変更されることがあります。
2. スマートフォンはガートナーのカテゴリーにおけるPhone, Basic, Smart OS、Phone Premium, Smart OS及び Phone, Utility, Smart OSの合計
出典:Gartner, Inc. Forecast NAND Flash Supply and Demand, Worldwide, 1Q19-4Q21, 2Q20 Update, June 2020
スマートフォン市場において、当社グループは、これまで培ってきた技術力、生産能力、生産性等に基づき、グローバルな主要企業と強固な関係性を長年に亘って構築しており、当該顧客のみが有する最先端のテクノロジーニーズに対応した信頼性の高い高品質な製品やサポートを提供しております。当社グループのかかる強みを活かして、記憶容量ベースでの市場拡大に合わせて、「BiCS FLASH™」の大容量化・積層化・量産化を推進することで、今後もスマートフォン市場におけるシェアを維持してまいります。
[生産・販売]
当社グループが製造合弁契約を締結しているWestern Digitalグループと合わせた当社グループのフラッシュメモリの2019年の出荷量は世界最大級となる約35%のシェアを有しております(出典:Omdia, NAND Memory Market Tracker 2020年4月。本調査結果は当社のために作成されたものではなく、また、Omdiaは本調査結果の正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。)。さらに、生産規模の拡大のため、第二拠点として立ち上げた北上工場により、多拠点化に向けた運営体制を構築することで、更なる出荷量の拡大を図ります。また、フラッシュメモリの製造は、材料となるシリコンウエハー上に微細な集積回路を作りこむため、工程は数百に及び、製造プロセスの効率化が重要になります。当社は、四日市工場において5つの製造棟間を繋ぐ棟間搬送を駆使し、製造棟全体の設備の稼働率を高めることで生産性を向上させる総合生産体制を採用し、また、四日市工場と北上工場をデジタルシステムで連携(当該体制を当社グループではデジタルツインと表現しております。)することにより、四日市工場での経験とデータを有効に活用し、歩留り向上を図るなどの取組みを通じて高い生産効率の実現を図っています。今後も継続して生産効率の向上を図り、フラッシュメモリ市場の需要成長に見合う出荷量成長率(メモリ容量単位の昨年度対比成長率)を維持することを目指しております。
販売に関しては、海外現地法人リソースを充当するとともに、効率的な顧客管理(CRM)等、顧客のニーズに対応した販売インフラの拡充を進めます。
[研究開発]
データ処理量の増大に伴い、フラッシュメモリに代表される不揮発性半導体メモリについても、特にSSD用途において高速動作が要求される傾向にあります。当社グループは、フラッシュメモリ業界のパイオニアとして1987年に世界初のNAND型フラッシュメモリを発明し(注)、1991年には世界で初めてNAND型フラッシュメモリを量産し(注)、2014年には15 nmプロセスを用いた128ギガビットNAND型フラッシュメモリの量産を世界で初めて達成しました(注)。また、3次元フラッシュメモリの開発においても、世界初の3次元フラッシュメモリを2007年に開発し(注)、2015年には48層積層プロセスを用いたBiCS FLASH™を世界で初めてサンプル出荷し(注)、また2019年には半円型構造セルを世界で初めて開発(注)する等、コスト効率を高めながらメモリ容量を飛躍的に拡大する技術革新をリードしてきました。当社グループは今後も約35年に亘って培った技術力を武器に、大容量、低コスト、高性能化による市場競争力のあるフラッシュメモリの開発を進めると共に、信頼性、安定性も備えた、フラッシュメモリ新製品に代わる次世代メモリの開発も進めていきます。そして、これら将来のビジネスに必要な研究開発投資を積極的に行います。
(注) 上記における発明、開発、量産及びサンプル出荷に関する記述については、それぞれ出願又は発表時点における当社グループ調べによります。
[財務施策]
当社グループは、中長期的に、想定されるフラッシュメモリ市場の需要成長に見合う出荷量成長率(記憶容量ベース)を維持すること、メモリ製品の販売価格が過去と同程度の下落傾向となること、及び当社グループが過去と同程度のギガバイト当たりのコストの削減を実現することを前提に、フラッシュメモリ市場の周期的市況におけるトレンドとして、高いNon-GAAP営業利益率(Non-GAAP数値については、「第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」で定義される「Non-GAAP指標」をご参照ください。)を実現していくことを目指しております。
また、当社グループは、2021年3月期第1四半期末において、1兆5,827億円の有利子負債(国際会計基準において負債と認識される社債型優先株式を含みます。)に対し、2,641億円の現預金を有しており、ネット・デットは1兆3,187億円となります。当社グループは、事業活動等により生じるフリー・キャッシュ・フローを有利子不負債の返済に充当し、中長期的にはネット・キャッシュ(有利子負債の額を現預金の額が上回る状況)の実現を目指します。
(3)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① メモリ需要増大に対する生産体制の拡充
データセンター、エンタープライズを中心に市場拡大が見込まれる当社グループ主力製品のフラッシュメモリ及びSSDの需要増大に対処するため、生産体制の拡充を図ります。既存の製造拠点である四日市工場に加え、岩手県北上市に第二拠点である北上工場を立ち上げました。四日市工場では、66万㎡(東京ドーム約14個分)の敷地に6つの製造棟を配置し、技術開発部門とも緊密に連携しながら世界最先端のフラッシュメモリを生産し、北上工場においては今後も続くと想定されるフラッシュメモリの需要に継続的に対応するため、岩手県北上市に新製造棟を建設し、生産を開始致しました。北上工場は今後の拡張余地を十分に残しております。
また生産効率確保に当たり、四日市工場においては5つの製造棟間を繋ぐ棟間搬送を駆使し、製造棟全体の機器の稼働率を高めること、開発と量産拠点の一体化、AI技術による歩留り改善に努めております。加えて、四日市工場と北上工場とをデジタルシステムで連携することにより、四日市工場での経験とデータを有効に活用し、歩留まり向上に貢献することで、高い生産効率を達成しております。
現状においても前述の通り、Western Digitalグループと合わせたフラッシュメモリの出荷量ベースで世界最大級のシェアを有しており、世界最大級の生産規模から生じるスケールメリットに加え、独自の効率化施策によって高いコスト競争力を実現しておりますが、更なる生産拡大のため、既存の製造拠点においても新たな生産設備等の投資を継続してまいります。
② 多様化する事業環境に適した人材の確保及び育成
多様化し続ける事業環境と市場ニーズに迅速に対応していくため、技術者をはじめとした様々なビジネス能力を持つ優秀な人材を確保することが必須と捉えています。当社グループの人材基盤強化を図るため、新卒学生をターゲットとしたテレビCMの放映、新卒理系学生向けのセミナーの開催、専門知識や経験豊富な中途採用市場の活用など積極的な人材採用施策に取り組んでいます。
また、グローバル競争を生き抜く、創造力とバイタリティーに溢れる人材を生み出すため、人材育成体系を強化し、役職・役割に応じて、育成活動を行っています。この他、働き方改革への取り組みとして、2017年度から事務・技術職を中心に部門や対象者を限定した在宅勤務制度の一部試行を開始し、2019年10月からは試行部門の範囲を拡大して、全部門を対象としました。今般の新型コロナウイルスの感染が拡大する状況下においては、試行対象者の拡大や在宅勤務を行うことができる日数の上限の見直しなどを行い、本制度の積極的な活用を推進しています。今後は、従業員のアンケート結果を踏まえ、試行継続の取扱(含む正式導入)や取扱の見直し等を検討していく予定です。
③ 技術開発・製造技術強化による競争力向上
当社は、競合他社との競争が激しいメモリ技術開発や需要拡大に応えていくためには市場動向を見極めながら中長期的な技術開発計画の策定と実行、更にコスト競争力を高める製造技術開発の強化が必要であると考えております。当社グループではメモリ製品における要素技術開発計画など技術開発戦略を策定し技術基盤の強化を図ると同時に、メモリ製品は価格が継続的に下落していくという傾向を有すると当社は考えており、そのような市場特性を踏まえ、これに対処するため生産効率改善を目指した製造技術の開発にも取り組んでいます。
(4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、メモリ市場におけるシェアの獲得状況及び物量と売価の状況を適切にとらえる観点及び適切なコスト管理を実現していく観点から売上収益と営業利益を重要な経営指標と考えております。またPPA(Purchase Price Allocation)(注)を含む非経常的な項目を控除したNon-GAAP営業利益も経営者の意思決定に使用しております。なお、Non-GAAP営業利益を含むNon-GAAP数値については、「第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」で定義される「Non-GAAP指標」をご参照ください。
(注)PPA(Purchase Price Allocation)については、株式会社Pangeaによる旧東芝メモリ株式の買収に伴い実施した資産の公正価値を基礎とした取得金額の配分手続を指します。以下同じです。