有価証券報告書-第27期(2025/04/01-2026/03/31)

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2026/06/23 15:37
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当社は、医療現場の課題を解決するための多様なモダリティ(医薬品、医療機器、人工知能(AI)を活用したプログラム医療機器)の開発を進めており、医療イノベーションの創出を通じて、生涯にわたり心身の健康を享受できる新たな医療の実現を目指しています。
日本を含む先進国では超高齢化が進み、平均寿命と健康寿命(心身ともに健康で自立して生活できる期間であり、平均寿命から寝たきりや認知症などの介護状態の期間を差し引いた期間)の差が約10年あることが大きな課題となっています。加齢と共に生じる種々の疾患、例えば、がん、循環器疾患、呼吸器疾患、糖尿病などを治療できれば、健康寿命の延伸に繋げることができます。これら4疾患は全世界の死亡者数の70-80%程度を占めるとされており、世界保健機関(WHO)でも老化や生活習慣に伴う重要な疾患として位置付けています。
当社は、これら4疾患の治療薬を含め、健康寿命の延伸に資する医薬品、女性・小児の疾患治療薬など医学的あるいは社会的にも重要な課題を解決すべく取り組んでいます。
がん、循環器疾患、呼吸器疾患、糖尿病など具体的な加齢疾患に加えて、国際的な超高齢化社会を迎えて著しい成長が期待される「長寿分野」の研究及び事業にも注力します(図表1)。これまでの抗加齢・長寿医療は食事療法、運動療法、サプリメント・健康食品などが大半でした。当社は、セノリティック医薬品(老化細胞を除去し、がん化を促進する事なく老化関連疾患を抑制する内服薬)など新たな医療価値の創出に向けても挑戦します。
< 図表1 当社が目指す新たな医療 >
多様なモダリティ(開発領域)と適応疾患
当社の研究開発は、当初はコンピューター工学と低分子スクリーニングを基盤として創薬したPAI-1阻害薬などの医薬品開発を主体としていました。その後、医療現場のニーズ及び課題解決の必要性に応えるため、現在では開発領域(モダリティ)を拡大しています。
・ 医薬品(様々な適応疾患)
・ 医療機器(現場のニーズに直結)
・ 人工知能(AI)を活用したプログラム医療機器(診断・治療支援)
当社のビジネス・モデルの特長
当社は、国内外の大学などの研究機関で着想された多様なコンセプトやシーズを、基礎研究から臨床開発(医師主導治験)まで一気通貫でつなぎ、製薬企業等の実用化企業へ導出することで医療イノベーションを創出しています(図表2)。
< 図表2 当社のビジネス・モデル >
効率的な開発とリスク分散(オープンイノベーションの推進)
医薬品開発は成功確率が低く、期間と投資が大きい高リスクな事業です。当社は以下の方針で研究開発の迅速化及び効率化を図っています。
・ 外部公的研究機関や医療機関との連携:国内外の大学など公的研究機関や医療機関との連携を基盤とし、少ない自己資源でも多くのパイプラインの開発を実施
・ 多様な事業ポートフォリオ:多様なモダリティや適応を組み合わせることで事業リスクを分散
・ オープンイノベーションの活用:東北大学や広島大学に研究開発基盤を有し、オープンリソースに基づく非臨床試験から臨床試験を一気通貫で実施
医師主導治験の活用
基礎研究から臨床試験まで実施できる医師(physician-scientist)との共同研究を重視しており、治験は基本的に「医師主導」で実施しています。これまでに31件の医師主導臨床試験(うち治験28件)の実績があります。
・ 利点:医師自らが立案・実施するため、医療現場の課題や実情に即した試験計画が可能
・ 当社の特長:既存薬の適応拡大ではなく、全て未承認薬(first-in-human)、新規適応。GLPやGMP、GCPなどの基準を厳格に遵守しているため、薬事承認取得可能(2024年9月、悪性黒色腫治療薬の厚生労働大臣指定「希少疾病用医薬品」を受けています)
(1) 事業モデル
自社開発品(自社シーズ)を有する一方で、大学等から外部シーズを獲得し医師主導治験を活用しながら治療コンセプトの実証PoC(Proof of Concept)まで成長させ、製薬企業へライセンスアウトすることが、当社のビジネス・モデルです。現パイプラインの中で、自社シーズは、PAI-1阻害薬及びピリドキサミン等の医薬品や極細内視鏡(医療機器)であり、外部シーズはプログラム医療機器(AI)が該当します(「事業の内容 (2) 当社のコア技術」をご参照ください)。多様なモダリティ(医薬品、医療機器、AIを活用したプログラム医療機器等)の研究開発を業務としていますが、大学など公的研究機関との共同研究で基礎研究~非臨床試験を行い、さらに臨床開発(医師主導治験)までを一気通貫でつなげる開発を行っています。
自社シーズに対する臨床応用の可能性を広げるために基礎研究~非臨床試験を広く展開する必要があります。当社では、自社化合物をオープンリソースとして研究者に提供することで新たな用途の発見(適応拡大)に積極的に取組んでいます(オープンイノベーション)。非臨床試験の成績から、科学的や医学的な重要性や新規性、事業性の視点からプロジェクトを選定し、臨床試験(医師主導治験)で検討します(図表3)。共同研究を実施した大学等研究機関と共同で基礎研究~非臨床試験に対する特許(用途特許)を出願し、共同研究先から独占実施権の許諾を受けた後に、臨床開発~事業化に取り組みます。
< 図表3 当社の事業戦略 >
TREx:東北大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ
HiREx:広島大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ
国内・海外の製薬企業等(出口企業)に対して、製品の開発権、製造権、販売権等をライセンスアウトすることで、契約一時金、開発の進捗に応じて支払われるマイルストーン収入、製品上市後に売上高の一定割合が支払われるロイヤリティ収入、売上高に対する目標値を達成するごとに支払われる販売マイルストーン収入等を得る事業モデルを採用しています(図表4)。比較的早期の研究開発段階において、将来のライセンス契約を前提としたオプション権付き共同研究契約(オプション契約)を出口候補企業と締結することもあります(事業系統図の(共同研究))。
当社の事業セグメントは、医薬品、医療機器などの開発・販売等のみの単一セグメントであり、事業系統図及び事業収入の形態は以下のとおりです。
< 図表4 事業系統図及び事業収益形態 >(事業系統図)

(事業収入の形態)
収入形態内容
a.アップフロント収入
(契約一時金収入)
オプション契約(第一交渉権付与)やライセンス許諾の契約時に一時金として得られる収入
b.マイルストーン収入開発段階ごとに設定した目標(開発マイルストーン)を達成するごとに得られる一時金収入。また、製品上市後に、売上高に対する目標値(販売マイルストーン)を達成するごとに得られる一時金収入
c.ロイヤリティ収入製品が上市された後に、ライセンス許諾の契約を締結した導出先事業会社より当該製品の売上高に対して予め契約によって設定した一定割合を得られる収入
d.共同研究・受託研究
収入
当社の知的財産を活用した共同研究・受託研究実施の対価として得られる収入

< 図表5 当社の事業戦略 >
1研究開発
・公的研究機関や医療機関との連携
・多様なモダリティ
・豊富なパイプラインと適応疾患
・医師主導治験の実績と経験
■24件の臨床試験(第Ⅰ相、第Ⅱ相)を実施済み
・国内バイオベンチャーとして最大級の臨床試験実績
■7件の臨床試験(2件の第Ⅲ相を含む)を2026年度実施中
■公的研究機関や医療機関と連携し、迅速かつ効率的に基礎研究から非臨床試験、さらに臨床試験までを実施
・自社シーズをオープンリソースとして提供し、適応拡大によりパイプラインを拡大
・適応疾患に最適な医療機関で臨床開発を実施
■オリジナルな医療シーズ
・がん幹細胞に着目した慢性骨髄性白血病治療薬
・抗加齢、長寿内服薬(セノリティック医薬品)
・免疫チェックポイント阻害内服薬(悪性黒色腫、血管肉腫、非小細胞肺がん、膵臓がん)
・抗線維化作用、抗炎症作用に基づく肺疾患治療薬(COVID-19肺障害)
・脱毛症治療薬(男性型、加齢性)
・腹膜透析用の極細内視鏡(径1mm程度)
・人工知能を活用した診断や治療を支援するプログラム医療機器
■医薬品ではPAI-1阻害薬のがん、抗加齢・長寿領域での開発に注力
2企業提携
・PoC取得後のライセンスアウトによる開発コストの低減・企業価値の最大化
・ライセンスアウトの確度を高めるためのオプション契約等出口戦略を重視
■PAI-1阻害薬(RS5441)の脱毛症治療薬としての権利を米国Eirion Therapeutics Inc.(エイリオン社)に導出
■ディスポーザブル極細内視鏡(RS9001)を株式会社ハイレックスメディカルに導出
■呼吸機能検査診断AIをチェスト株式会社に導出
■維持血液透析医療支援AIを、ニプロ株式会社、東レ・メディカル株式会社と共同開発
3公的資金活用による自社研究開発費用の削減■慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、ディスポーザブル極細内視鏡、維持血液透析医療支援AI、糖尿病医療支援AIで公的資金活用
4多様なモダリティのポートフォリオ形成による事業リスクの低減、早期の黒字化と将来の収益確保■医薬品事業は、研究開発費や研究開発期間が大きく事業リスクは高いが、上市後には極めて高い収益
■医療機器やプログラム医療機器の事業収益は医薬品と比べると小さいが、研究開発費や研究開発期間のリスクは小さく、早期収益
■これら2つの事業ポートフォリオを、同時に複数のパイプラインで進めることでリスクを分散し、早期の黒字化と将来の収益を期待
5オープンイノベーションの推進■2022年1月東北大学にオープンイノベーションラボ(Tohoku University x Renascience Open Innovation Labo:TREx)を開設
■2023年4月広島大学にオープンイノベーションラボ(Hiroshima University x Renascience Open Innovation Labo:HiREx)を開設
■2025年1月ノースウエスタン大学Potocsnak Longevity Institute(長寿研究所)の日本の研究室を東北大学内のオープンイノベーション拠点である東北大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(TREx)内に設立


(2) 当社のコア技術
① 当社のパイプライン概況(2026年5月末現在)
< 図表6 パイプライン >
② パイプラインの概要
当社の研究開発活動の方針
事業ポートフォリオ
当社は、大きく医薬品と医療機器・プログラム医療機器の2つの事業ポートフォリオを手掛けていますが、これはリスクを分散し、早期の黒字化と将来の収益の拡大を目指すからです(図表7)。医薬品事業は研究開発費や研究開発期間の規模が大きく事業リスクが高い分野ですが、上市後には高い収益が期待できます。一方、医療機器やプログラム医療機器事業は医薬品と比べて市場規模は小さいものの、研究開発費や研究開発期間の規模や事業リスクは小さく、比較的早期に当社収益に繋がります。
< 図表7 開発戦略 >
がんと抗加齢・長寿
医薬品領域では、PAI-1阻害薬(RS5614、RS5441)の開発が主体です。PAI-1阻害薬RS5614は、免疫系を活性化しがん細胞や老化細胞の除去を促進させるなどの作用の他に、抗血栓、抗炎症や抗線維化など多様な作用を有しています。がんに対しては、国内で複数のがん種に対する試験を実施中です(慢性骨髄性白血病第Ⅲ相試験、悪性黒色腫第Ⅲ相試験、血管肉腫第Ⅱ相試験、肺がん後期第Ⅱ相試験)。まずは、日本で希少がん(悪性黒色腫、血管肉腫、慢性骨髄性白血病)に対する薬事承認を取得することにより、本医薬品の上市と臨床応用を目指します。悪性黒色腫の第Ⅲ相試験は既に日本で開始しているため(2025年2月18日適時開示)、薬事承認に向けての国外でのブリッジング試験を複数の国の規制当局と協議中です(2025年12月15日適時開示)。血管肉腫に関しては、日本で実施中の第Ⅱ相試験が終了し(2025年12月12日適時開示)、既存治療に比べて極めて良い結果が得られたので(2026年2月10日適時開示)、薬事承認に向けて速やかな第Ⅲ相試験を実施する予定です。並行して、肺がん、膵臓がんなどがん種の適応を拡大し、将来の大きな市場を確保するための第Ⅱ相試験を実施しています(2025年11月26日適時開示、2025年12月16日適時開示)。
さらにPAI-1阻害薬では、超高齢化社会の到来を迎えて、今後国際的に著しい成長が期待される「抗加齢・長寿分野」の研究並びに事業にも注力します。近年、これまでの古典的な老化治療(食事療法、運動療法、睡眠療法、サプリメントなど)とは異なる新たな老化に対する治療アプローチやモダリティ[幹細胞治療、エクソソーム治療、エピジェネティック・リプログラミング(老化細胞若返り)、セノリティクス(老化細胞除去)]が提案されており、臨床試験も展開されつつあります。「老化」への治療法開発という挑戦は、社会構造の基盤となるヘルスケアのイノベーションをもたらし、重要なプラットフォーム事業としても捉えられているために、高額な資金が投資されている分野です。当社のPAI-1阻害薬(RS5614)は、複数経路にまたがり統合的に介入することで、崩れた生体全体の機能を改善できる医薬品候補です。老化環境の改善、老化細胞の除去及び生物学的年齢の若返りを通じて、種々の加齢疾患を予防・治療できる可能性を有しており、セノリティクス医薬品としては適したプロファイルとモダリティを備えています。本剤は生物製剤や核酸系医薬品ではなく、低コストで大量合成可能な低分子化合物(分子量:424.81、錠剤)です。大量の工業的生産が可能で、安定した品質の医薬品を生産可能で、グローバルな供給が可能です。RS5614は経口投与が可能で、他の生物製剤とは異なり、自宅で投与できます。細胞製剤、エクソソーム、遺伝子治療などのバイオ医薬品とは異なり、地理的又は物流上の制約を受けることなく容易に輸送できます。細胞製剤やエクソソームとは異なり、ドナーも必要としません。最も重要な安全性に関しても、細胞製剤、エクソソーム、遺伝子治療などのバイオ医薬品に比べて副作用が少ないことはメリットであり、XPRIZE Healthspanのセミファイナル試験でも、高い安全性が確認されています。世界的な高齢化は、先進国と新興国の両方において深刻な社会問題となっています。長寿医療は、富裕層だけでなく、多くの人々にとって必要な医療でなくてはならず、内服薬であるRS5614は、幹細胞治療、エクソソーム治療、エピジェネティック・リプログラミング遺伝子治療、他のモダリティによるセノリティクス医薬品に対しても優位性は高いと考えます。
『ヒトが心身共に生涯にわたって健康を享受できるための新しい医療を創造する』という当社理念の実現のみならず、超高齢化という社会的及び医学的に大きな課題を解決することができ、さらには当社の企業価値の向上にも大きく貢献できます。PAI-1阻害薬RS5614は、がんで薬事承認を受けた後に、抗加齢・長寿関連疾患の医薬品として使用されることが想定されるため、国際的な認知度や実績の蓄積が必要であり、XPRIZE Healthspanへの参加と入賞によりセノリティック医薬品としての成果と評価が高まれば、国際的な事業展開が期待されます。RS5441の実例(導出先のエイリオン社で男性型脱毛症及び加齢性脱毛症外用薬として開発中)もあり、今後PAI-1阻害薬RS5614の感覚器(皮膚科など)あるいは骨筋肉領域の医療用医薬品やOTC医薬品に関しても非臨床試験を進める予定です。
(a) RS5614(PAI-1阻害薬)
[ PAI-1阻害薬 ]
PAI-1は血栓の分解(線溶系という)に必要な分子ですが、近年ではがんや抗加齢・長寿に関連して発症する種々の疾患に関与することを強く示唆する一連の知見が明らかとなっており、がんや抗加齢・長寿に関わる創薬の標的と考えられます。しかし、これまでヒトのPAI-1分子の活性を阻害できる医薬品は、臨床応用されていません。当社は、加齢に伴い生じる一連の疾患を治療できる可能性を持ったPAI-1阻害薬の開発に取り組んできました。
ヒトのPAI-1分子の結晶構造を基に、コンピューター工学を利用した約200万バーチャル化合物ライブラリーの探索から96個のPAI-1阻害候補化合物を取得しました(図表8)。PAI-1活性阻害作用(PAI-1による組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)阻害抑制)及びPAI-1/tPA複合体の形成阻害を指標として、新規阻害化合物を10年以上かけてこれまで1,400個以上合成スクリーニングし、さらにそれらの活性や安全性などを評価する中で、安全性に優れた経口投与可能な臨床開発候補化合物RS5614を取得いたしました。当社のPAI-1阻害薬はPAI-1分子内のビトロネクチン結合部に結合し、PAI-1を不安定化してその分解を促進する可能性が示されました(図表9にRS5484を例示、International Journal of Molecular Sciences 2021)。

< 図表8 新規PAI-1阻害薬の合成と構造最適化による臨床開発候補品の取得 >
(出典:東北大学)
< 図表9 PAI-1とPAI-1阻害薬RS5484複合体のX線構造解析 >
(出典:東北大学)
[ RS5614の薬剤概要 ]
非臨床安全性GLP試験
1)安全性薬理試験ではhERG試験(10 μM)、ラットの中枢神経系(300 mg/kg)、サルの心血管系及び呼吸器系試験(300 mg/kg)で陰性、2)一般毒性試験ではラットの26週間経口投与試験(無毒性量400 mg/kg/日)、サルの39週間経口投与試験(無毒性量30 mg/kg/日)で陰性、3)遺伝毒性試験では法定3試験で陰性、4)光毒性試験陰性、5)生殖・発生毒性試験も陰性です。以上の安全性試験の成績を含めて、薬物動態試験や物性データなどの製造販売承認を行うために必要な非臨床試験成績を有しています。
第Ⅰ相臨床試験(健常成人男子)
薬機法に基づくGCP(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)条件下での医師主導治験で、GMP(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理に関する基準)で製造された治験薬を用いて実施しました。第Ⅰ相単回投与試験では、RS5614の240 mgまでの安全性が確認され、第Ⅰ相反復投与試験においては、120 mgを7日間経口投与した際に発現した有害事象はいずれも軽度でした。
知的財産権
RS5614に関して、物質特許(出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:日本・米国・欧州・カナダ・豪州・中国・韓国・インド 登録済、存続期間満了日:米国 2030年8月7日、日本を含むその他各国 2030年3月31日)に加えて、非臨床試験や臨床試験からがんや抗加齢・長寿に関わる複数の用途特許(①慢性骨髄性白血病治療用途、出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:日本・米国・欧州 登録済、存続期間満了日:2034年4月15日、②免疫チェックポイント分子の発現抑制、出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:日本 登録済、米国・欧州 出願中、存続期間満了日:2040年9月30日)、③線溶系亢進薬、及びその用途、出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:日本 登録済、米国・欧州 出願中、存続期間満了日:2041年5月30日(見込)、④エフェロサイトーシス亢進剤、出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:日本出願中、⑤PAI-1阻害薬の抗加齢・長寿作用、出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:日本出願中)を出願することで、知的財産権の有効期間を延長しています。
RS5441に関して、物質特許(出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:日本、米国 登録済、存続期間満了日:2029年3月31日)を出願しています。導出先のEirion Therapeutics Inc.(エイリオン社)でも用途特許を出願して、知的財産権の有効期間を延長しています。
導出
男性型脱毛症治療を含む皮膚疾患領域におけるRS5441の用途については、2016年6月に米国Eirion Therapeutics Inc.に独占的実施権を許諾しました。RS5614のがん領域(慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、血管肉腫、膵臓がん)や抗加齢・長寿については国内外の製薬企業などに導出し、実用化する予定です。
[ 慢性骨髄性白血病(CML)治療薬 ]
血液がんである慢性骨髄性白血病(CML)は、骨髄内の「骨髄ニッチ」と呼ばれる部位に存在する血液細胞の元になる細胞(造血幹細胞)の遺伝子に変異が生じ、がん化した疾患です。CMLに対する標準治療は、イマチニブなどの分子標的治療薬であるチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)です。TKIの開発によりCML患者の生存率は大きく改善しました。TKIはCML細胞には作用しますが、CML細胞の元になる細胞(CML幹細胞)には作用しないことから、TKIを休薬するとCML細胞は再び増殖し、がんが再発します。CMLを治療するためには長期にわたる高額なTKI治療の継続が必要です。
最近、深い分子遺伝学的奏効(deep molecular response、DMR:がんの原因遺伝子が検出されない状態)が一定期間継続しているCML患者では、TKIを中止しても再発が生じない状態(無治療寛解維持)となることが明らかになりました。しかし、3年間程度の治療期間で無治療寛解維持を達成できる患者の割合は5~10%にしか過ぎません。無治療寛解維持を達成するためには、少なくとも2年以上のDMRの維持が必要とされています。
当社PAI-1阻害薬RS5614はCML幹細胞に作用して骨髄ニッチから遊離させます(Blood 2017)(図表10)。遊離したCML幹細胞はTKIにより死滅するため、骨髄ニッチのCML幹細胞は消滅して、CMLを根治できる可能性が示唆されました。実際に、CMLモデルマウスにRS5614とTKIを併用することで、TKI単独投与に比べて骨髄に残るCML幹細胞数が著明に減少し、生存率を大きく向上させることが可能です(Blood 2017)。
< 図表10 PAI-1阻害薬によるがん幹細胞動員の分子機序 >
(出典:東海大学)
後期第Ⅱ相試験
CML患者を対象にTKIとRS5614を併用し、RS5614投与開始後48週の有効性と安全性を確認するための後期第Ⅱ相試験(非盲検)を、東北大学、秋田大学、東海大学の大学・医療機関で実施しました。その結果、33例中DMRを達成した症例は11例(33.3%)であり(TKI治療期間が3年以上5年以下の患者では50.0%)、過去の試験結果に基づくヒストリカルコントロールの8%と比較して4倍程度上昇できました。重篤な有害事象も認められず、TKIとRS5614併用の有効性及び安全性が確認されました(Cancer Medicine 2023)。
第Ⅲ相試験
後期第Ⅱ相試験の成績に基づいて、東北大学、東海大学、秋田大学など12の大学・医療機関と共同で、CML患者を対象にTKIとRS5614の併用効果を検証するプラセボ対照二重盲検の第Ⅲ相試験を実施中です(2022年8月3日適時開示)。本試験は日本医療研究開発機構(AMED)「革新的がん医療実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の助成を受けています(2022年3月22日適時開示)。TKI治療期間が3年以上6年未満のCML患者60例を対象とし、TKIとRS5614の併用によるDMR達成率の有意な上昇と2年間の無治療寛解維持を検証します。2024年12月に実施されたAMED「革新的がん医療実用化研究事業」の最終年度評価の結果、第Ⅲ相試験の目標症例数の登録が予定通り2023年12月に完了し、順調に実施されているとの理由から、助成期間が延長されました(2024年12月3日開示)。2026年3月期さらに2027年3月期にも助成を受けることが決定しました(2025年5月7日、2026年2月12日適時開示)。
[ 悪性黒色腫(メラノーマ) ]
悪性黒色腫は表皮にある色素を作る細胞(メラノサイト)のがんで、悪性度が高いがんです。欧米に比較すると日本の患者数は約4,000人と希少ながんです。日本人患者は海外患者とは異なる遺伝子変異を有することから、標準治療である免疫チェックポイント阻害薬、特に抗PD-1抗体(ニボルマブ、商品名オプジーボ)による治療効果が限定的であることが報告されています(Ann Oncol. 2020)。抗CTLA4抗体(イピリムマブ、商品名:ヤーボイ)とニボルマブとの併用による奏効率は33.3%と、ニボルマブ単剤の20%と比べて高いですが、併用患者の約70%で重度の免疫関連副作用が発症することが問題となっています。さらに、2種類の高額な抗体医薬を使用しなければなりません。そのため、副作用が無く、奏効率を向上でき、抗体医薬より安価な、内服で使用できる簡便な併用薬の開発が望まれています。
第Ⅱ相試験
民間非営利組織(NPO)「Japan Skin Cancer Network(JSCaN)」に属する東北大学、筑波大学、都立駒込病院、近畿大学、名古屋市立大学、熊本大学の6大学と共同で、悪性黒色腫に対するRS5614とニボルマブとの併用の有効性と安全性を確認するための第Ⅱ相試験(非盲検)を実施しました。本試験は、AMED「橋渡し研究プログラムシーズC(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の助成を受けて実施した多施設共同、非盲検試験です。RS5614をニボルマブと8週間併用することにより、29例の患者のうち7例において奏効(24.1%)が確認され、ニボルマブとイピリムマブの併用の奏効(海外21%、国内13.5%)を凌駕する結果が得られました(2024年2月22日適時開示)。さらに、ニボルマブとRS5614の併用により62%という高い病勢制御率も得られました。一方、ニボルマブとイピリムマブ併用で生じる重篤な免疫関連副作用は認めませんでした(2024年2月22日適時開示)。本試験の結果は科学誌『British Journal of Dermatology』に掲載されました(2024年6月7日適時開示)。
第Ⅱ相試験の結果から、厚生労働大臣指定「希少疾病用医薬品」を受けました(2024年9月2日適時開示)。希少疾病用医薬品指定を受けたことにより、悪性黒色腫治療薬としてのRS5614の薬価算定における市場性加算が加わり、さらに承認後の再審査期間が延長されて本治療薬事業の独占期間が長くなります。
第Ⅲ相試験
現在、根治切除不能悪性黒色腫患者124例を対象に、ニボルマブとRS5614との併用の有効性及び安全性を検証する第Ⅲ相試験を、ランダム化プラセボ対照二重盲検試験として、東北大学病院など国内18施設で実施しています(2025年2月18日適時開示)。国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の令和7年度希少疾病用医薬品等試験研究助成事業に、第Ⅲ相試験を対象とした申請が採択され(2025年7月16日適時開示)、2025年4月~2028年3月の間の3事業年度において、悪性黒色腫の関連研究費として支出した経費の2分の1を上限とし、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の当該事業予算の範囲内で事業年度毎に助成を受けられます。本第Ⅲ相試験では、124名の患者を予定していますが、2026年5月末時点で98名登録と順調に進んでいます。
台湾における薬事承認を視野に台北医学大学とブリッジングスタディを実施するための契約を締結しました(2025年12月15日適時開示)。現在、台北医学大学が主体となって、台湾の規制当局であるTaiwan Food and Drug Administration (TFDA) と臨床試験に向けた協議を進めています。
[ 血管肉腫の治療 ]
血管肉腫は国内約300人程度の極めて希少ながんであり、5年生存率は9%と非常に低く、悪性度の高いがんです。血管肉腫の標準治療の第1選択薬はパクリタキセルですが、血管肉腫患者の全生存率は649日と短く、長期寛解を得ることは困難です。PAI-1は主として血管内皮から産生されるため、血管内皮細胞の腫瘍である血管肉腫には、PAI-1が多く発現しております。血管肉腫の患者検体を用いた解析で、PAI-1が多く発現している患者の予後は悪いことが明らかとなっています。パクリタキセルはがん細胞を死滅(アポトーシス)させますが、PAI-1を多く発現しているがん細胞はアポトーシスに耐性であることから、PAI-1の発現量が多い血管肉腫では、パクリタキセルが効きにくいと考えられます。
第Ⅱ相試験
PAI-1阻害薬RS5614を併用することにより、パクリタキセルの治療効果を増強できる可能性に基づき、東北大学など7医療機関と「皮膚血管肉腫に対するパクリタキセルとRS5614併用の安全性・有効性を検討する第Ⅱ相試験(非盲検)」を開始し(2023年10月26日適時開示)、16例の症例登録を完了し(2025年6月20日適時開示)、全登録患者の投与を予定どおり完了しました(2025年12月12日適時開示)。主要評価項目の解析対象となる16症例において、治療開始28週時点画像判定(中央判定)では、完全奏効(CR)率は12.5%でした。さらに、無増悪生存期間(PFS)及び全生存期間(OS)は、それぞれ4.0ヶ月及び20.8ヶ月であり、本邦で前向き臨床試験として実施されたパゾパニブ(JCOG1605)の試験結果である2.8ヶ月及び12.1ヶ月を凌駕する結果が得られました。また、15例中13例(86.7%)で病勢の安定が確認され、高い病勢制御率が示されました(2026年2月10日適時開示)。一方、重篤な副作用や未知の副作用の発現は乏しく、治験薬との因果関係が否定できないGrade3以上の有害事象は16例中5例(31.25%)であり(肝機能障害及び白血球減少)、いずれも回復しており、重篤な治験薬関連有害事象は認められませんでした。JCOG1605におけるGrade3以上の有害事象の70%と比較しても、本剤はより良好な忍容性を示していると考えられます。現在、本試験の評価及びデータ解析を進めており、最終的な治験総括報告書は2026年6月頃を予定しています。
[ 非小細胞肺がんの治療 ]
肺がんは日本のがん死亡原因の第一位であり、非小細胞肺がんは全体の85%を占めます。その中で根治的手術が適応とならない局所進行非小細胞肺がん患者は年間1万人にも至ります。非小細胞肺がんモデルマウスを用いた非臨床試験により、免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブとRS5614の併用投与はニボルマブ単剤投与よりも高い治療効果が得られることを確認しました。さらに、PAI-1ががん血管の新生をもたらし、肺がん細胞の増殖能を亢進していること、ニボルマブに耐性となった肺がん細胞がPAI-1を多く発現していることなどを見出しました。
前期第Ⅱ相試験
切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん患者(3次治療以降の患者)を対象に、広島大学、島根大学、岡山大学、鳥取大学、四国がんセンター、広島市民病院などの医療機関と協力して、ニボルマブとRS5614との併用投与の有効性及び安全性を確認するための前期第Ⅱ相試験(非盲検試験)を開始し(2023年9月26日適時開示)、36症例の登録を終了しました(2025年7月3日適時開示)。その後、治験調整医師(治験代表医師)及び治験責任医師(実施医師)から、有効性(奏効)が確認できている患者もいることから、RS5614の投与継続の依頼があり、試験期間を3ヶ月延長し(2025年11月26日適時開示)、試験は終了しました(2026年3月5日適時開示)。全症例(3次治療以降)での評価は、主要評価項目である奏効率(ORR)は8.3%、副次評価項目である6ヶ月無増悪生存割合(PFS)22.5%でした。そのうち3次治療として本治験治療を受けた11例で評価すると、奏効率18.2%、6ヶ月無増悪生存割合 27.5%と高い有効性を示す結果が得られました。最終的な治験総括報告書は2026年8月頃を予定しています。
後期第Ⅱ相試験
局所進行非小細胞肺がん患者に対しては、根治を目的として化学放射線療法が標準治療として行われ、化学放射線療法後に病勢進行や重篤な放射線肺障害を含む合併症が認められない症例では、免疫チェックポイント阻害薬デュルバルマブによる地固め療法が施行されます。前期第Ⅱ相試験において、RS5614の免疫チェックポイント阻害薬の効果増強が期待されること、また、早期の治療がより有効性が高い結果が得られていることから、後期第Ⅱ相として「局所進行非小細胞肺がんを対象に、初回標準治療である化学放射線療法とデュルバルマブによる地固め療法に対するPAI-1阻害薬(RS5614)併用療法の有効性と安全性を検討する医師主導治験(2025年11月26日適時開示)」を、広島大学病院など12医療機関と2026年4月頃に開始しました(2026年4月24日適時開示)。
非小細胞肺がんに対する初回標準治療の課題として、1)放射線治療に対する抵抗性、2)化学治療に対する耐性、3)免疫チェックポイント阻害薬に対する耐性、4)放射線や免疫チェックポイント阻害薬に伴う肺障害(副作用)などがあります。次相試験の目的は、根治手術が適応とならない局所進行非小細胞肺がん患者対象とし、根治照射を含む化学放射線療法及びデュルバルマブによる地固め療法にPAI-1阻害薬RS5614を併用することで、1)化学放射線療法及びデュルバルマブによる抗腫瘍効果増強による根治率の向上と、2)放射線療法及びデュルバルマブによる肺障害(副作用)の抑制による治療安全性の改善が得られるかを検討し、RS5614併用治療が現行の初回標準治療を上回る新たな治療となり得るかを明らかにすることです。
当社は、国立大学法人広島大学と非小細胞肺がんに対する非臨床試験及び臨床試験に向けての共同研究契約を締結し、さらに包括的研究協力に関する協定書を締結して(2023年4月24日適時開示)、オープンイノベーション拠点(Hiroshima University x Renascience Open Innovation Labo:HiREx)を設けています。これら肺がんの試験はHiRExを主体に実施しています。
[ 膵臓がんの治療 ]
膵がんは悪性腫瘍における疾患別死亡数の第3位ですが、早期発見が極めて困難な悪性疾患であり、診断時に切除可能な膵がんは15-20%に過ぎず、46.3%が遠隔転移陽性と診断される予後不良のがんです。膵がんで長期生存を得るには根治的切除が必須ですが、たとえ根治的切除が達成しても切除後の再発が極めて多い悪性腫瘍であり、その予後は18.8-31.3%と未だに不良です。遠隔転移を有する膵がんや切除後再発膵がんに対する標準治療は化学療法ですが、有効な治療法が少なく、FOLFIRINOX療法(奏効率、31.6%;全生存期間、11.1ヶ月)やゲムシタビン及びナブパクリタキセル療法(GnP療法:奏効率、29%;全生存期間、8.5ヶ月)にても5年生存率は全体で10%程度であり(遠隔臓器やリンパ節に転移した段階であるステージ4では1~3%)、既存の標準治療を増強する治療薬が求められています。
PAI-1は、膵臓がんの予後不良因子の1つです。PAI-1阻害薬RS5614は、がん組織において、上皮間葉転換の抑制、Tリンパ球の活性化、腫瘍浸潤マクロファージ(TAM)の減少、腫瘍内のTリンパ球数の増加、がん細胞上の免疫チェックポイント分子発現の低下、がん細胞の免疫チェックポイント分子阻害薬への耐性解除、腫瘍免疫微小環境の改善、腫瘍免疫の活性化など作用を有しています(2025年11月11日当社ニュース掲載)。さらに、PAI-1阻害薬の薬理作用である抗血栓作用や抗線維化作用、さらにはがん関連線維芽細胞(CAF)の減少は、膵がんの腫瘍環境を考える上でも有用な薬理作用を有しています。
第Ⅱ相試験
「遠隔転移を有する切除不能膵がん又は再発膵がんに対するゲムシタビン及びナブパクリタキセル療法とRS5614併用の安全性・有効性を検討する第Ⅱ相試験(非盲検)」を開始しました(2025年12月16日適時開示)。2026年5月12日に東北大学病院など3医療機関で最初の患者登録が行われ、試験が開始されました(2026年5月12日適時開示)。遠隔転移を有する切除不能膵がん又は再発膵がん患者50名を対象に、主要評価項目を奏効率として本試験を実施します。
[ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う肺傷害治療薬 ]
2020年初頭、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、医療面及び社会面の双方で深刻な問題となりました。感染者の多くは軽症でしたが、一部の高齢者や糖尿病、腎臓病患者は重症肺炎に至りました。軽症患者は在宅療養で様子を見ていましたが、発症時は軽症でも急速に重症化する症例も多く、外来患者にも経口投与が可能である安全な肺炎の重症化を防ぐ治療薬の開発が喫緊の課題でした。COVID-19による重症肺炎では炎症や線維化などの病変が急速に進行し、血管内皮障害や凝固亢進の特徴的な所見が認められることから、PAI-1阻害薬の有する抗血栓、線溶、抗線維化、抗炎症などの作用が有効と考えられました。そこで、速やかに試験の準備に着手し(PMDA相談、治験薬製造、臨床プロトコール確定)、半年後の2020年秋にはCOVID-19肺炎に対するPAI-1阻害薬の安全性を評価するための前期第Ⅱ相試験(非盲検)を実施し、2021年6月に治験総括報告書を纏めました。PAI-1阻害薬RS5614を投与された肺炎の入院患者26名全員が副作用もなく無事退院されました(Scientific Reports 2024)。2021年3月にAMED「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択され、2021年4月のPMDA事前面談に基づき実施計画書を確定し、2021年6月から東北大学、京都大学、東京科学大学、東海大学等国内20の大学等の医療機関と共同で、COVID-19に伴う肺傷害患者(中等症、入院患者)を対象とするプラセボ対照二重盲検の後期第Ⅱ相試験を開始しました。本試験は、COVID-19の流行時期やウイルス株変異の影響を受け、試験の対象となる肺炎入院患者数が減少したため、最終的に入院患者75例(RS5614群39例、プラセボ群36例)を対象に試験を終了し、治験総括報告書を纏めました(2023年4月17日適時開示)。有効性の主要評価項目である「酸素化悪化指標スケールの総和」は、両群間で統計学的な有意差は認めませんでしたが、プラセボ群に対してRS5614群で悪化の抑制が見られ、特に中等症Ⅰ患者での有効性が示唆されました。さらに、酸素治療が必要となる症例の割合も、入院後3~5日でRS5614群の方が少ないことから、早期治療でのRS5614の有効性が示唆されました。また、RS5614群では、プラセボ群と異なり、肺炎画像所見の改善も認めました。副作用発現率はRS5614群とプラセボ群で同程度であり、COVID-19に伴う肺傷害患者に対するRS5614の安全性も確認できました。
RS5614は抗ウイルス薬とは作用機序が全く異なり、内服が可能な医薬品です。現在、COVID-19は落ち着いていますが、将来の新たなウイルスの発生に際して速やかに臨床試験が実施できるよう準備をしています。前期及び後期第Ⅱ相医師主導試験の結果は、2024年1月に科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。
[ 全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)の治療 ]
全身性強皮症(systemic sclerosis)は、皮膚と内臓諸臓器の血管障害と線維化を特徴とする全身性の自己免疫疾患で難病に指定されています(指定難病51)。全身性強皮症は免疫異常、血管障害、線維化を主な病態として、臓器線維化による臨床症状として、レイノー症状、皮膚硬化、間質性肺疾患(Interstitial lung disease、ILD)、強皮症腎クリーゼ、心病変、肺動脈性肺高血圧症など、さまざまな多臓器障害を生じます。他の自己免疫疾患に比してステロイドや免疫抑制薬の効果は限定的です。特に間質性肺疾患は全身性強皮症の死因の35%を占めており、また間質性肺疾患が直接の死因とならない場合でも、高度な呼吸機能低下により生活の質(QOL)や日常の生活動作(ADL)の著しい低下を招きます。間質性肺疾患に対しては、ステロイドや免疫抑制薬が第一選択薬ですが、その治療効果は充分ではありません。近年、抗線維化薬であるニンテダニブが承認されましたが、進行を抑制する作用はあるものの、間質性肺疾患を改善する作用は無く、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患に対する新規治療薬の開発が強く望まれています。
第Ⅱ相試験
AMEDの令和5年度「難治性疾患実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択され(2023年3月15日適時開示)、東北大学など12医療機関と「全身性強皮症に伴う間質性肺疾患に対するPAI-1阻害薬RS5614の第Ⅱ相試験(プラセボ対照二重盲検)」を開始し(2023年10月19日適時開示)、全登録患者の投与(1年間)を予定通り完了し(2025年11月25日適時開示)、試験は終了しました(2026年4月10日適時開示)。試験の結果、主要評価項目である48週時点の%FVCの変化量については、RS5614群においてプラセボ群に対する有意な上乗せ効果は認められませんでした。一方、皮膚硬化の指標であるmRSSについては、48週時点単独では明確な群間差を認めませんでしたが、治療経過全体を踏まえた追加解析において改善傾向が示唆されました。
[ 抗加齢・長寿研究 ]
PAI-1阻害薬RS5614を用いた国内及び米国の研究機関との共同研究により、加齢に関連して発症する種々の疾患の予防や健康寿命を延伸できる可能性を示唆する一連の知見を明らかにしました。
ⅰ 細胞の老化(Senescence)
生物の細胞は、細胞老化と呼ばれる現象のために無制限には増殖できません。細胞老化には、遺伝子のテロメア長の短縮、p53,p21,p16ink4aなどの細胞周期調節因子が関与しています。老化した細胞はPAI-1の発現が極めて高く、PAI-1阻害薬により細胞周期調節因子、老化関連β-ガラクトシダーゼ(SA-β-gal)染色、IL-6等インターロイキンなどの細胞老化随伴分泌現象(SASP:senescence-associated secretory phenotype)、DNA損傷応答などの老化バイオマーカーは改善し、心筋細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞の細胞老化が阻害されます(Oncotarget 2016)。また、PAI-1阻害薬はヒト早老症であるハッチンソン-ギルフォード症候群の患者線維芽細胞のDNA損傷を減弱し、ミトコンドリア障害を改善し、細胞の老化を改善します(Cell Death and Disease.2022)。
ⅱ 組織や個体の老化(Aging)
細胞のみならず、老化した組織や個体(klothoマウス、早老症として有名なウェルナー症候群のヒト)でも、PAI-1の発現が高いことが報告されました(Proc Natl Acad Sci USA. 2014)。老化(早老症)モデルであるklothoマウスを用いた非臨床試験で、PAI-1阻害薬の経口投与によりこのモデルの老化症状が改善できます(Proc Natl Acad Sci USA. 2014)。
ⅲ 加齢に関連する疾患
加齢とともに、がん、血管(動脈硬化)、肺(肺気腫、慢性閉塞性肺疾患)、代謝(糖尿病、肥満)、腎臓(慢性腎臓病)、骨筋肉(骨粗鬆症、変形性関節症、サルコペニア)、脳(脳血管障害、アルツハイマー病・認知症)などの様々な疾患が発症します。興味深いことに、これら疾患ではPAI-1の発現は極めて高く、PAI-1阻害薬RS5614を投与することにより病態が改善できます(Biomedical J, 2026)。
RS5614は、血管老化の進展を抑制するだけでなく、RS5614投与前の血管老化症状よりもさらに症状を改善することが明らかになりました(J Clin Invest. 2025)。「人は血管とともに老いる」といわれるように、加齢とともに血管が老化し、この血管の老化が健康寿命に大きく影響すると考えられます。現代の様々な生活習慣病(高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、高脂血症)が血管老化を加速します。PAI-1阻害薬が血管の老化を防止するだけでなく、回復できる事実は極めて興味深い知見です。
ⅳ 長寿家系の疫学的調査
米国ノースウエスタン大学との共同研究で、アーミッシュコミュニティーの人々を調査し、PAI-1遺伝子を持たない人は持っている人に比べて10年長生きすることを見出しました(Science Advances 2017)。この事実は、2017年11月にニューヨーク・タイムズを始め(THE NEW YORK TIMES, NOVEMBER 21, 2017)、多くの新聞で報道されました。さらに、アーミッシュのヒトと同じPAI-1遺伝子の異常を有するマウスの寿命は、正常のマウスに比べて20%程度長いことも示されました(J Clin Invest. 2025)。
これらPAI-1阻害薬の抗加齢作用に基づき、「老化細胞を除去し、がん化を促進する事なく老化関連疾患を抑制する新たな新規低分子医薬品」のコンセプト(セノリティック医薬品)を提唱し、東北大学、東海大学、広島大学の研究機関及び医療機関との共同でXPRIZE Healthspan(https://www.xprize.org/prizes/healthspan)に応募しました。XPRIZE財団が主催するXPRIZE Healthspanは、健康寿命を積極的に10年以上延伸することを目的とし、2030年までに健康寿命を延ばすことができた研究チームに対して、総額1億米ドルを支払うという世界的な長寿コンペティションです。世界から600以上のエントリー、200以上の書類申請があり、治療アプローチとして、低分子医薬品、バイオ医薬品(エクソソーム、免疫調節剤、抗体医薬)、遺伝子治療、幹細胞治療、医療機器(デジタルヘルスデバイス、電気医療機器、磁気医療機器)、サプリメント、機能性食品、食事制限、運動療法、さらにそれらの組み合わせが提案されました。
当社は、米国ニューヨークで開催されたXPRIZE Healthspanの受賞セレモニーでTOP40(セミファイナリスト)に入賞し、賞金25万米ドルを受け取りました(2025年5月13日適時開示)。セミファイナリストは、セミファイナル臨床試験を実施し、2026年4月に報告書を提出しました。2026年8月にTOP10(ファイナリスト)が選出され(賞金100万米ドル)、最終コンペティションのための4年のファイナル臨床研究が実施されます。ファイナル臨床研究を実施したTOP10のチームの中からグランプリが選ばれます(最大8,100万米ドル)。
セミファイナル試験は、特定臨床研究として東北大学病院で開始し(2025年8月18日適時開示)、20例の患者登録を完了しました(2025年10月1日適時開示)。速報結果では、RS5614を4ヶ月間投与することにより、生物学的年齢(エピジェネティック・クロック)が平均2~3歳若返り(Horvath法で3.4歳、PC-Horvath法で1.9歳の有意な若齢化)、老化関連microRNA(SA-miRNA)の有意な減少、免疫系の活性化(NK細胞数の正常化、樹状細胞数の増加)、造血幹細胞の機能回復(造血幹・前駆細胞数の有意な増加)、ならびに酸化ストレスマーカーの改善(AGEs/CML低下)など、広く各種臓器に対して抗加齢作用が確認されました(2026年5月14日適時開示)。比較的健康な高齢者に対してもRS5614は安全に経口で投与できることが確認されました。今回のセミファイナル試験結果とファイナル試験概要を取りまとめて、2026年4月中旬にXPRIZE Healthspan評価委員会に提出しました。2026年8月にファイナリスト(TOP10)として採択されれば、ファイナル試験は日本・米国・サウジアラビア・台湾との国際共同臨床試験として実施し、100~150名程度の高齢者を対象としたプラセボ対照盲検試験で免疫機能、筋肉機能、認知機能を評価する予定です。本プロジェクトに関して、下記に記載するように、ノースウエスタン大学Potocsnak Longevity Institute(長寿研究所)(2025年11月10日適時開示)、台北医学大学(2025年12月15日適時開示)、サウジアラビアのキング・アブドラ国際医療研究センター(King Abdullah International Medical Research Center:KAIMRC)(2026年2月9日適時開示)との間で、臨床試験を共同で実施するための基本合意書を締結しています。
長寿関連事業(医療用医薬品、OTC医薬品、さらには動物医薬品)は、超高齢化を背景に経済や生活に与える効果も極めて大きな成長分野です。PAI-1阻害薬RS5441の脱毛症治療薬としての実例もあり、当社のPAI-1阻害薬の抗加齢・長寿研究をさらに展開する予定です。なお、当社のがん及び抗加齢・長寿領域に関連する取材記事が、科学誌『Nature(Digital edition)』に掲載されました(2025年12月1日開示)。
[ RS5441_男性型脱毛症及び加齢性脱毛症外用薬 ]
毛髪は毛が伸びる成長期、毛が抜けやすくなる退行期、毛が抜ける休止期と複数の相からなる周期を持って成長しています。男性型脱毛症(AGA)は,毛周期を繰り返す過程で成長期が短くなり,休止期にとどまる毛包(毛根を包み成長させる組織)が多くなる疾患で、日本人男性の頻度は50代以降で40%以上です。米国ノースウエスタン大学との共同研究により、PAI-1を過剰発現するマウスは脱毛が激しく、一方このマウスにPAI-1阻害薬RS5441を経口投与すると著明な発毛が認められることが分かりました。RS5441の投与により総毛包数が93.5%増加し、退行期の毛包数は64%減少しました。
2016年10月に皮膚科疾患用途におけるRS5441の独占的権利をエイリオン社に許諾し、同社で男性型脱毛症及び加齢性脱毛症外用薬(ET-02)として開発されています。男性型脱毛症患者の頭皮組織移植片60検体を用いた非臨床試験で、ET-02による治療4ヶ月目の発毛率は標準治療薬ミノキシジルによる発毛率の4倍高いという結果が得られました。男性型脱毛症(加齢性脱毛症)治療に対する安全性と有効性を評価する第Ⅰ相臨床試験が開始され(2024年7月3日適時開示)、ET-02(RS5441)は安全で、良好な忍容性を示し、プラセボ群と比較して非軟毛(又は正常)の毛数が6倍に増加することが報告されました(2025年1月9日適時開示)。同社において、引き続き米国における第Ⅱ相臨床試験に向けた準備・検討が進められており、将来的にET-02が商業化された場合にはエイリオン社からロイヤリティを受領する予定です。なお、特許期間満了(2029年3月31日)後も一定期間((a) ET-02の製品が当社許諾特許の有効な請求範囲でカバーされる最終日、(b) ET-02の製品に関する規制又はデータ独占権の満了日、及び (c) ET-02の製品の最初の販売から10年後、のいずれか遅い日まで)ロイヤリティが受領できる契約となっております。
(b) RS8001(ピリドキサミン)
[ ピリドキサミンと精神疾患 ]
私たちが喜怒哀楽を感じたり、様々なことを感じたりする時、脳内では「神経伝達物質」が行き交っています。神経伝達物質は神経細胞と神経細胞を接続する部分(シナプス)から分泌され、他の神経細胞へ情報を伝達します。神経伝達物質には様々な種類があり、その中でアミノ基を有した物質を脳内モノアミンと言います。代表的なものとして、抗ストレス作用を有するγ-アミノ酪酸(GABA)、精神安定をもたらすセロトニン、意欲や多幸感を高めるドーパミンなどがあり、これらは月経前症候群 / 月経前不快気分障害、更年期障害の精神疾患などの発症に関与することが知られています。
当社で開発中のRS8001(ピリドキサミン)は、天然ビタミンB6のひとつのタイプです。水溶性のビタミンで、極めて安全な医薬品ですが、日本を含めて先進国では未承認の医薬品です。ピリドキサミンは、GABAやセロトニンの産生や代謝を改善し、脳内でのこれら神経伝達物質の増加をもたらすことが、化学反応や動物試験から推測されています。
当社は、東京都医学総合研究所と共同で、自殺や殺人といった自傷他害行為を伴う重篤な統合失調症の多発家系からグリオキサラーゼ1(GLO1)遺伝子変異が原因であることを見出したことを皮切りに精神疾患領域における検討を開始しました。グリオキサラーゼは解糖系から生成する反応性カルボニル化合物(RCOs)であるメチルグリオキサールを無毒化するので、グリオキサラーゼの活性低下に伴い蓄積するRCOsにより脳内モノアミンが捕捉されてしまうことが、統合失調症の一部の発症機序であると示唆されました。また、東北大学との共同研究で、ピリドキサミンがカルボニル化合物と脳内モノアミンの反応を阻止することを発見しました。ピリドキサミンは、脳内モノアミン生合成に不可欠な補酵素としてその産生を促進するだけでなく、カルボニル化合物による脳内モノアミンの分解を阻害することで、脳内モノアミンの量を調節する作用を有すると考えられます(図表11)。
< 図表11 ピリドキサミンの作用機序と天然ビタミンB6の構造 >■ピリドキサミンの作用コンセプト

(出典:東北大学)
実際に、マウスを用いた実験において、脳の細胞外液に含まれる各種伝達物質を、最新の質量分析技術で解析したところ、ピリドキサミン投与により、額のすぐ後ろにある前頭前皮質ではGABA濃度は変化しませんでしたが、脳の深いところにある海馬及び線条体では脳内GABA濃度が上昇していました。神経細胞に光感受性分子を発現するラットを使い、光ファイバーを介して海馬の神経細胞を刺激してピリドキサミンの作用を検討したところ、光刺激を繰り返すとラットは興奮性の発作を引き起こしますが(4日目がピークとなる)、ピリドキサミン投与により発作は著明に抑制されました。このようにピリドキサミンは神経細胞の過剰な興奮性を抑制します。
[ ピリドキサミンの薬剤概要 ]
ピリドキサミンの製造販売承認申請に必要となる非臨床試験の成績は、薬機法に基づく医薬品GLP(医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令)とICH(医薬品規制調和国際会議)のガイドラインに従って収集しました。
非臨床安全性GLP試験
1)安全性薬理試験ではhERG試験で陰性、2)ラットの中枢神経系(1,000 mg/kg)、イヌの心血管系及び呼吸器系試験(300 mg/kg)で陰性、3)一般毒性試験ではラットの6ヶ月間経口投与試験(無毒性量100 mg/kg/日)、イヌの12ヶ月経口投与試験(無毒性量50 mg/kg/日)、4)遺伝毒性試験は3法定試験で陰性、5)生殖・発生毒性試験も陰性です。以上の安全性試験の成績を含めて、薬物動態試験や物性データなどの製造販売承認を行うために必要なフルセットでの非臨床試験成績を有しています。
第Ⅰ相臨床試験(健常成人男子)
薬機法に基づくGCP(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)条件下での医師主導治験で、GMP(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理に関する基準)で製造された治験薬を用いて実施しました。第Ⅰ相単回投与試験では、RS8001の1,200 mgまでの安全性が確認され、第Ⅰ相反復投与試験においては、900 mg(1日2回分服用)を7日間経口投与した際に発現した有害事象はいずれも軽度でした。
知的財産権
RS8001について、パイプライン各適応症の用途特許を出願しております(①自閉スペクトラム症用途特許、出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:米国 登録済、存続期間満了日:米国 2038年9月25日;②月経前不快気分障害及び月経前症候群用途特許、出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:日本 登録済、存続期間満了日:2035年12月28日)。また、RS8001大量投与に伴いビタミンB1欠乏(ウェルニッケ脳症)が起こることを見出したので、ビタミンB1(チアミン)と組み合わせて予防する特許も日本及び米国に出願して権利を補強しています(出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:日本、米国 登録済、存続期間満了日:2035年8月26日)。また、三井化学株式会社と、RS8001を組換え微生物で製造する製法特許を共同で出願しています(出願人:三井化学株式会社・株式会社レナサイエンス、最新状況:日本 登録済、存続期間満了日:2038年5月11日)。
適応症
更年期障害の臨床研究を実施中です。
第Ⅱ相臨床試験(医師主導治験)の課題
精神領域での薬剤の有効性を評価する第Ⅱ相試験で重要な点は、1)適切な対象患者の選定と2)プラセボ効果を減少する治験計画です。更年期障害は多様な精神症状を呈するheterogeneous(質的に異なる)な疾患集団ですが、ピリドキサミンは全ての症状に有効な薬剤ではありません。本薬剤の有効性を適切に評価するための対象患者を適切に選択することが重要な課題です。heterogeneousな疾患や症状のために統計学的な有意差を得るには多くの症例数が不可欠です。また、精神領域での試験では、プラセボ効果が強く影響することが試験の評価を困難にする大きな原因となっています。そこで、更年期障害の臨床研究では、最初にプラセボ薬のみを登録患者全員に服用頂き、有効性を認めた患者(プラセボ効果が高い患者集団)を除外した患者を対象に、実薬とプラセボ薬の二重盲検法による試験(プラセボリードイン方式)を採用し、プラセボ効果の排除による適切な薬剤評価の手法を採用しています。
[ 更年期障害 ]
更年期障害は、内分泌学的変動に加えて心理・社会的ストレスが加わることにより発症するホットフラッシュ・発汗などの血管運動神経症状、易疲労感・関節痛などの身体症状、うつ・不安・不眠などの精神症状です。東京科学大学・女性健康医学講座では、これら症状がビタミンB6の摂取量と逆相関することを見出しました。2021年12月更年期障害に対するRS8001(ピリドキサミン)の臨床研究に関して東京科学大学と共同研究契約を締結し(2021年12月15日適時開示)。2023年3月にAMED「女性の健康の包括的支援実用化研究事業(代表機関:東京科学大学、当社は協力機関)」に採択され、臨床研究が開始されました。本臨床研究では、プラセボ効果をできる限り排除する目的でプラセボリードイン方式を採用した二重盲検法(各群25名)で実施しています。
(c) 核酸医薬品
(概要)
当社は、医療の課題を解決するため様々なモダリティを活用した医療ソリューションを研究開発しており、医師主導治験を活用した臨床試験を複数のパイプラインで実施しています。ルクサナバイオテク株式会社(以下、「ルクサナバイオテク」)は、国立大学法人大阪大学大学院薬学研究科の小比賀聡教授が開発した人工修飾核酸を活用した創薬基盤技術を活用して、高い有効性と安全性を有するバイオ医薬品(核酸医薬品)を研究開発しています。そこで、ルクサナバイオテクの有する人工修飾核酸技術と当社の有する医師主導治験における実績と経験を活かして、新たな医薬品モダリティであるバイオ医薬品に関する共同研究契約を締結し、低分子医薬品に加えて核酸医薬品の研究開発に着手しています。核酸医薬は従来の低分子医薬や抗体医薬では狙えない遺伝子を創薬ターゲットとする新しい創薬モダリティですが、副作用や標的臓器へのデリバリーシステムなど課題も多いです。ルクサナバイオテクは、世界に先駆け架橋型人工核酸(LNA/BNA)の創製に成功し、核酸医薬品の革新的基盤技術となる有効性向上のための人工核酸(AmNA,GuNA,scpBNA,BANAなど)や安全性向上のための化学修飾(糖部修飾5'-cpや塩基部修飾5-OH-Cなど)、さらには脳や筋肉へ核酸医薬を送達させるデリバリー技術などを確立し、核酸医薬品の抱える課題の幾つかを解決してきました。当社とルクサナバイオテク社は、AMEDの令和6年度「スマートバイオ創薬等研究支援事業」に分担研究者として申請し、「革新的核酸医薬技術を基盤とした神経・筋難病治療薬の開発」に採択されました。本事業では、大阪大学、京都大学とのオープンイノベーションに基づき、難病疾患である多系統萎縮症・パーキンソン病、筋ジストロフィーを対象として、アンチセンス核酸(ASO)やアンチmiRNA核酸(AMO)の核酸医薬シーズの開発を実施します。
(d) RS9001(ディスポーザブル極細内視鏡)
腹膜透析は在宅での透析を可能とし、医療経済的にもメリットのある治療法です。しかし、腹膜が経年劣化し重篤な合併症を引き起こす事があるので、5年程度で腹膜透析治療が中止される症例が多いです。腹膜の状態を確認するためには、開腹手術若しくは腹腔鏡による侵襲的な観察しか無く、患者にも負担を強いています。腹膜透析患者は透析液を注入するチューブを常に腹膜に挿入した状態にあるため、この細いチューブを通して挿入し非侵襲的に腹腔内を観察する極細内視鏡の開発を着想し、東北大学、順天堂大学、東京慈恵会医科大学らと共同開発しました。多くの医師の意見を基に、医療現場のスペックに適した外径約1mm程度のディスポーザブルファイバースコープです。本医療機器は、従来の消化器系の内視鏡とは異なるコンセプトで開発されたもので、胃瘻チューブ、尿道バルーン、気管チューブ、注射針からの挿入が可能で、様々な臨床的有用性も期待できます
この極細内視鏡は、腹腔内を可視化するためのファイバースコープ部分と操作性を容易にするためのガイドカテーテル部分から構成されています。ファイバースコープはPMDAに承認申請され(2022年9月14日適時開示)、厚生労働省から薬事承認されました(2022年12月26日適時開示)。本製品の詳細は、以下のとおりです。
・ 承認番号:30400BZX00294000
・ 一般的名称:軟性腹腔鏡
・ 販売名:経カテーテル腹腔鏡 PD VIEW
・ 類別コード:器 25
株式会社ハイレックスコーポレーション及びその子会社である株式会社ハイレックスメディカルと付属品であるガイドカテーテル作成を含めた医療機器開発に関する共同研究契約を締結し(2022年9月1日適時開示)、その後株式会社ハイレックスメディカルとライセンス契約を締結し(2024年5月20日適時開示)、開発を進めてきました。ガイドカテーテルの開発及び製造の目処もつき、多施設共同臨床試験でも有害事象は認められず、安定期腹膜透析患者の臨床評価を補完する有意義な非侵襲的検査法であることが確認されました(2024年6月24日、2026年3月4日適時開示)。ガイドカテーテルとファイバースコープを合わせて2026年内に薬事申請する予定です。
(e) AIを活用したプログラム医療機器(Software as a Medical Device:SaMD)
当社は、1)医療ニーズの把握と医療現場での開発を重視する視点、2)多くの医師や診療科とのネットワーク、3)医薬品や医療機器の医師主導治験で蓄積された経験やノウハウを基に、医師と医療機関、AI技術を有するITベンダー、出口の製薬・ヘルステック企業間を結ぶハブとなり、医療分野でのAI研究から事業までを繋げるエコシステムの創出にも取り組んでいます。薬機法に則った臨床試験(医師主導治験)が実施できるために、実地臨床に役立てられる本格的なAI医療ソリューション(診断、治療)の開発も可能です。現在、呼吸機能検査診断、維持血液透析医療支援、糖尿病治療支援、嚥下機能低下診断などの領域でAIを活用したプログラム医療機器(SaMD)を開発しています。当社のAIを活用したプログラム医療機器の開発に関しては、科学誌『Nature』の取材記事も参照ください(2024年3月18日開示)。
プログラム医療機器における海外展開として、台北医学大学の100%子会社であるTaipei Medical University(TMU)-Biotech社と共同研究契約を締結しました(2024年8月30日適時開示)。台北医学大学は6つの病院を擁し、ベッド数は3,000床に至り、それら豊富な医療データを活用してSaMDの研究開発が実施可能です。また、サウジアラビア最大の研究・医療機関である「キング・アブドラ国際医療研究センター(KAIMRC)」との間でも、プログラム医療機器の開発や事業化に向けた連携を進めていくための基本合意書を締結しました(2025年10月6日適時開示)。
[ RSAI01_呼吸機能検査診断プログラム医療機器 ]
世界保健機関(WHO)では、がん・糖尿病・循環器疾患に加えて呼吸器疾患を重要な疾患として考えています。代表的な呼吸器疾患は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や喘息などです。呼吸器機能を診断する検査の普及が不充分なために、COPDなど呼吸器疾患の有病率、罹患率、死亡率などは明らかでは有りません。呼吸器疾患や呼吸器機能の検査の中でスパイロメトリーが最も重要ですが、患者の協力(努力呼吸)が必要である点に加えて、正しく検査が行えたかどうかを判定し、かつ出力された結果(フローボリューム曲線)を解釈することが非専門医には難しいためです。非専門医でも簡便に結果解釈できるシステムの開発は、呼吸器疾患を診断し、早期治療を行う上で重要な医療課題と考えられます。フローボリューム曲線を解釈するプログラム医療機器を、京都大学、チェスト株式会社、NECソリューションイノベータ株式会社(NES)と共同で開発しています。2023年3月に開発段階の研究を終了し、チェスト株式会社より事業化段階への移行に関するマイルストーンを受領し(2023年6月14日適時開示)、さらに対象地域拡大(国際展開)に係るオプション権行使に伴う一時金を受領しました(2025年2月12日適時開示)。
[ RSAI02_維持血液透析医療支援プログラム医療機器 ]
慢性腎不全患者は、廃絶した腎臓の代わりに除水と老廃物の除去を行うために週3回、生涯にわたって血液透析を受けます。除水不足は心不全、高血圧等心肺機能に障害を与える一方、過度な除水は透析中の低血圧を生じ、気分不良、意識消失といった有害事象をもたらします。不適切な除水量の設定により除水不足や過除水が生じ有害事象が発生すると医療従事者は患者対応に追われ、大きな負担となります。透析病院では数十名の患者を対象に、1名の医師、数名の看護師や臨床工学技士を中心に管理が行われていますが、人的資源は充分ではなく、透析中に発生する急激な低血圧などの合併症の発生は、少ない人的資源を消費し、患者の生命予後にも悪影響を及ぼします。安全安心な血液透析を実現するために、適切な目標総除水量を予測するプログラム医療機器を、聖路加国際大学、東北大学、ニプロ株式会社、日本電気株式会社(NEC)、NESと共同で開発しています。このプログラム医療機器はNEC北米研究所と共同で開発した人工知能(AI)であるDual-Channel Combiner Network(DCCN)をコア技術として活用しています。AMED「医療機器開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は協力機関)」に採択され(2023年2月27日適時開示)、2023年4月にPMDA開発前相談を実施し、2024年1月にはPMDAプロトコール相談を完了しました。薬事承認申請のための臨床性能試験を実施し(2024年10月21日適時開示)、目標症例数である150症例の登録を達成し(2025年4月9日適時開示)、最終結果は当初設定していた主要評価項目の目標正解率80%を10%上回る成績(正解率90.0%)であり、専門医に対するプログラム医療機器の非劣性(同等)が実証されました(2025年10月20日適時開示)。また、AMEDより本事業の実用化を加速するための研究費(調整費)143,000千円の追加配賦を受けました(2025年9月10日適時開示)。これにより、本来当社の費用負担にて実施する予定であった実用化に向けたシステム開発費用が削減されました。本プログラム医療機器の実用化に向けて、東レ・メディカル株式会社(2023年12月8日適時開示)、ニプロ株式会社(2024年3月14日適時開示)と共同開発契約を締結しました。さらに、薬事承認申請や事業化に向けた取組みを加速するため、ニプロ株式会社との間で共同開発契約の変更に関する覚書を締結しました(2025年10月30日適時開示)。2022年10月に基本となる知的財産権を出願し、2023年5月に国際出願、2024年1月には新たな知財を追加出願しました。(「第2 事業の状況 6 研究開発活動」をご参照ください)。
[ RSAI03_糖尿病治療支援プログラム医療機器 ]
糖尿病の血糖値を厳格にコントロールし、糖尿病合併症を予防するためにはインスリン注射治療が必要です。しかし、インスリンの安全な用量域は狭く、過剰投与で低血糖を生じるために、患者ごとに最適な種類と投与量を選定する必要があります。一方、糖尿病専門医は医師全体の2%もおらず、地理的にも偏在しているため、現状では糖尿病患者の主治医が糖尿病専門医であるとは限らず、むしろ非専門医に受診することが多いです。非専門医にも専門医レベルのインスリン治療を実行できるよう支援するプログラム医療機器を東北大学及びNECと共同で開発しています。このプログラム医療機器は、NECが開発したAIであるSkill Acquisition Learning、SAiL(スキル獲得学習)を東北大学で医療用にカスタマイズしたDM-SAiLをコア技術として活用しています。東北大学病院に入院する約1,000名(約1,080,000臨床パラメータ)の患者データに基づく学習が終了し、専門医の処方するインスリンの投与量から2単位程度の誤差で予測するプログラム医療機器が開発できています。AMED「医工連携イノベーション推進事業(開発・事業化事業)(当社が代表機関)」に採択され(2022年4月20日適時開示)、2024年2月にPMDAプロトコール相談を実施し、臨床性能試験のプロトコールが確定しました。薬事承認のための臨床性能試験を実施し(2024年8月19日適時開示)、目標症例数である130症例のデータを取得しました。解析の結果、最終的な正解率は85.46%と、主要評価項目の目標正解率80%を上回る結果であり、専門医に対するプログラム医療機器の非劣性(同等)が実証され、総括報告書を纏めました(2025年3月6日適時開示)。また、2022年6月に基本となる知的財産権を出願し、2023年4月には国際出願を行いました。また、東北大学とユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のマッチングファンドに採択され、国際共同研究を推進しています(2026年3月3日適時開示)。
[ その他のプログラム医療機器 ]
実用化を視野に入れた呼吸機能検査診断、維持血液透析医療支援、糖尿病治療支援などのプログラム医療機器に加えて、下記の探索研究段階でのプログラム医療機器の開発も実施しています。
・RSAI04_嚥下機能低下診断プログラム医療機器
加齢に伴い口腔機能が低下しますが、その状態(オーラルフレイル)を放置すると摂食障害や構音(発話)障害等多くの身体的、社会的障害、さらには全身性の筋肉虚弱(フレイル)につながるため、早期の診断と適切な処置が重要です。高齢社会において口腔機能低下のひとつである摂食嚥下障害は増加し、高齢者の主な死因とされる肺炎の約7割が誤嚥によるとの報告もあります。誤嚥性肺炎の予防には嚥下機能低下の早期発見とリハビリテーション等の治療介入が重要ですが、現在では、嚥下内視鏡検査、嚥下透視検査方法等患者負担の大きい嚥下評価法しかありません。嚥下と会話で使用する器官は舌や口腔・咽頭等共通部分が多く、会話から嚥下機能を評価できる可能性に着目し、嚥下機能障害を会話時の音声データから評価可能なプログラム医療機器を東北大学、NECと共同で開発しております。既に、健常者と嚥下機能低下患者の音声を区別できるプログラム医療機器を開発し、2023年3月に基本となる知的財産権を出願しました。さらに、2023年12月にはPMDA開発前相談を実施しました。
・乳がん病理診断プログラム医療機器
乳がんは日本人女性のがんの中で最も患者数が多く、生涯に乳がんを患う日本人女性は11人に1人と言われています。しこりや画像診断等で乳がんが疑われた場合、最終診断は病理診断ですが、診断には経験を積んだ病理医が必要です。当社は東北大学大学院医学系研究科病理検査学教室と共同で、病理画像から乳がんの病変を検出するAIを開発しています。探索研究段階では、検出モデルを3クラス(良性、非浸潤がん、浸潤がん)又は2クラス(良性、悪性)で分類し、それぞれ88.3%と90.5%での診断精度を達成しました(科学誌『Journal of Pathology Informatics』に掲載)。
さらに、この技術を応用し、乳がんの術中迅速病理診断の支援のためのAI開発に取り組んでいます。術中迅速診断は、乳がんの外科手術の範囲などを決定するための病理診断として極めて重要ですが、限られた時間や人材(病理医)で対応しなければならず、乳がんの病理診断に対して高い専門性を有する病理医が必要とされます。標本受領から10~20分以内に診断を下さねばならず、加えて凍結切片の品質は相対的に低下する傾向があります。これらの課題を解決するために、術中迅速診断の支援のためのAIを開発しました。2025年12月に本AIについての論文が掲載されました(科学誌「The Tohoku Journal of Experimental Medicine」)。
・心臓植込み型デバイス患者における不整脈・心不全発症予測プログラム医療機器
心不全患者には植込み型除細動器(ICD)、両心室ペースメーカ(CRT-P)など心臓植込み型電気デバイスが広く使用されます。これら心臓植込み型電気デバイスを活用することで、自宅にいながら、刻々と変化する生体情報の経時的な遠隔モニタリングが可能となります。当社は、東北大学と共同で、心臓植込み型電気デバイス患者の遠隔モニタリング情報を活用し、心不全及び致死性不整脈の発症を事前に予測するAIを東北大学大学院医学系研究科循環器内科学教室と共同で開発しています。
・人工心臓患者における血栓発生予測プログラム医療機器
植込み型補助人工心臓は末期心不全患者の生命維持には欠かせない治療ですが、血栓など合併症が課題です。当社は、株式会社ハイレックスメディカル及び東北大学と共同で補助人工心臓の血栓発生を予測するAIの開発に取り組んでいます。
(f) 診断薬
[ 血中フェニルアラニン測定キット ]
フェニルケトン尿症は、適切な治療を行わないと知能発達遅延等の重篤な症状が出現します。1977年に生後マス・スクリーニング検査が実施され、ほぼ全ての患児が早期に発見されるようになりました。フェニルケトン尿症の治療には、フェニルアラニンを制限するための食事療法を正しく行う必要があり、定期的な医療機関での検査が必要ですが、数ヶ月に1度の採血では、きめ細やかな食事管理ができません。自宅で簡便かつ正確に血中フェニルアラニン濃度を測定するシステムを、東北大学大学院医学系研究科小児科学教室と共同で開発しています。糖尿病患者での自己血糖管理のように、家庭でいつでも自己測定が可能になれば、フェニルケトン尿症を有する患者のきめ細やかな食事管理が実現できます。2021年5月には診断薬に関する特許を東北大学と共同で出願し、同年6月にはPMDA相談を行いました。2023年5月に本研究内容が科学誌『Molecular Genetics and Metabolism Reports』に掲載されました。

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