有価証券報告書-第25期(2023/01/01-2023/12/31)

【提出】
2024/03/29 16:30
【資料】
PDFをみる
【項目】
110項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 経営方針
当社は以下のMission、Vision及びValueを掲げております。

アイビスはモバイルに精通した技術者集団
イラストは 言語も 民族も 宗教も ジェンダーも関係ない
モバイルペイントアプリで世界のコミュニケーションを創造する

アイビスは世界での Made in Japan のプレゼンスを上げていく

高い技術のエキスパート集団
最新の技術を習得し続け、高度な技術のエキスパート集団で
あるという自覚を持ち、社会の課題を解決する
スピーディな意思決定と実行
スピーディに動作するソフトウェアを開発するのみならず、スピーディに意思決定を行い実行する
継続的なチャレンジ
スピードを緩めることなくチャレンジし続けることにより、新しい価値を創り出す

(2) 経営環境
<モバイル事業>2023年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の5類感染症移行後は、社会活動や経済活動が活性化し、物価高による実質賃金の不透明感はあるものの、本格的に経済が復調する様子が伺えることとなりました。当社の主要サービスである「ibisPaint」を含むモバイル向けアプリ市場規模は、日本だけでなく世界においても年々拡大し、総務省が公表する令和5年版情報通信白書によると、2016年以降右肩上がりで推移しており、2024年以降も拡大していく予測がされております。また、2023年の広告市場はCOVID-19の影響が緩和したことで拡大し、その中でもインターネット広告費は他の媒体と比べ最も大きな成長率(株式会社電通「2022年日本の広告費」)となっており、モバイル向けアプリ市場規模の拡大と相関して今後も拡大していくと予測しております。
当社のアプリは累計93.2%が海外からのダウンロードですが、同市場においては、発展途上段階や人口増加の国も多数あり、「ibisPaint」にはまだまだ多くの未開拓ユーザが全世界に存在すると考えております。
当社は市場の大きさを以下に想定しております。
a.ネット広告市場
TAM(注)1ターゲット市場当社売上高実績(注)2
国内(注)3655億円72億円4.4億円
国外(注)44,973億円552億円13.9億円

(注)1.TAM(Total Addressable Market)獲得可能な最大市場規模のこと。
2.当社売上高実績は2023年12月期の数値(以下、同様)。
3.ネット広告市場(国内)におけるTAMの額655億円は、株式会社電通が発表した調査レポート「2022年 日本の広告費」上での2022年の「インターネット広告媒体費」2兆4,801億円のうち、ディスプレイ広告7,372億円・動画広告5,920億円・成果報酬型広告965億円、以上合計1兆4,257億円に、総務省が発表した「令和5年版 情報通信白書(第5章第11節)」上でのスマートフォンの保有割合77.3%、及び経済産業省が発表した調査レポート「電子商取引に関する市場調査の結果(2023年8月31日公表)」上での2022年の「デジタル系分野のBtoC-EC市場規模 ⦆ ⑤その他」の割合6.0%の乗算結果4.6%を掛けて算出。又、ターゲット市場の額72億円は、2022年3月25日~2022年3月28日に株式会社クロス・マーケティング経由で実施した日本でのイラストアプリに関するアンケート調査上で、母集団(N=5,154)のうち、デジタルイラストを描く顕在層・潜在層の割合11.1%をネット広告市場(国内)におけるTAMの額に掛けて算出。
4.ネット広告市場(海外)におけるTAMの額4,973億円は、Grand View Research, Inc.が発表した「In-app Advertising Market Report Scope」上での「Market size value in 2022」21兆2,794億円(USD 151.1billion。円へは2023年12月29日時点のTTB140.83円で換算)に、便宜上、(注)3の2022年の「インターネット広告媒体費」に対する前述の媒体費3種類の割合57.5%、及び乗算結果4.6%を掛けて算出した額5,628億円から国内のTAMの額655億円を差し引いて算出。又、ターゲット市場の額552億円は、前述のデジタルイラストを描く顕在層・潜在層の割合11.1%をネット広告市場(海外)におけるTAMの額に掛けて算出。
b.アプリ販売市場
TAMターゲット市場当社売上高実績
国内(注)5960億円106億円2.0億円
国外(注)61兆6,518億円1,833億円3.9億円

(注)5.アプリ販売市場(国内)におけるTAMの額960億円は、経済産業省が発表した調査レポート「電子商取引に関する市場調査の結果(2023年8月31日公表)」上での2022年の「デジタル系分野のBtoC-EC市場規模 ⦆ ⑤その他」1,242億円に、総務省が発表した「令和5年版 情報通信白書(第4章第11節)」上でのスマートフォンの保有割合77.3%を掛けて算出。又、ターゲット市場の額106億円は、(注)3のデジタルイラストを描く顕在層・潜在層の割合11.1%をアプリ販売市場(国内)におけるTAMの額に掛けて算出。
6.アプリ販売市場(海外)におけるTAMの額1兆7,478億円は、Grand View Research, Inc.が発表した「Mobile Application Market Report Scope」上での「Market size value in 2022」29兆1,306億円(USD 206.85 billion。円への換算方法は(注)4と同じ)から、便宜上、(注)3の2022年の「デジタル系分野のBtoC-EC市場規模 ⦆ ⑤その他」の割合6.0%を掛けて算出した額1兆7,478億円から国内のTAMの額960億円を差し引いて算出。又、ターゲット市場の額1,833億円は、(注)3と同様、デジタルイラストを描く顕在層・潜在層の割合11.1%をアプリ販売市場(海外)におけるTAMの額に掛けて算出。
<ソリューション事業>2019年3月に経済産業省が公表したIT人材需給に関する調査によると、IT人材の供給数は減っていく一方で、需要数が高まることから需給ギャップが拡がり、2030年には約41万人から79万人のIT人材不足が生じると見られております。2023年においてはコロナ禍による世界的な経済停滞の影響から脱して、企業からのシステム投資需要も堅調さを取り戻すこととなり、中長期的に市場は引き続き拡大していくものと考えております。
また、日本企業において経済産業省が推進する「DX化」というトレンドがあります。特に業務の効率化、働き方改革などでは「スマホ化」の需要は一段と増えております。さらに受託開発に目を向けると、大手企業からのロボティクス案件などもあり、これからも当社の最新技術思考が顧客にアピールできると考えております。PCから「スマホ×DX化」という相乗効果による追い風を受けて、アプリ開発市場は持続的に拡大していくものと考えられます。
TAMターゲット市場当社売上高実績
受託開発(注)78兆7,673億円5兆7,338億円2.7億円
IT技術者派遣(注)81兆3,405億円1兆53億円13.5億円

(注)7.受託開発市場におけるTAMの額8兆7673億円は、総務省が発表した「2021年情報通信業基本調査」上での2020年の市場規模の内、「受託開発ソフトウェア業」の額より抜粋。又、ターゲット市場の額5兆7,338億円は、経済産業省が発表した「平成30年特定サービス産業実態調査(経済産業省)」上の当社の事業所が存在する都道府県の「受注ソフトウェア開発」の年間売上高(東京都4兆7,585億円、愛知県6,245億円、大阪府1兆4億円)の合計の額6兆3,834億円を「受注ソフトウェア開発」の年間売上高9兆7,661億円で除して算出した割合65.4%をTAMの額に掛けて算出。
8.IT技術者派遣市場におけるTAMの額1兆3405億円は、厚生労働省が発表した「令和3年度 労働者派遣事業報告書の集計結果」上の情報処理・通信技術者1日当たりの平均派遣料金32,394円を×20日×12ヶ月として算出した額と「労働者派遣事業の令和4年6月1日現在の状況」上の情報処理・通信技術者派遣労働者数172,445人を積算して算出。又、ターゲット市場の額1兆53億円は、前述の一つ目の資料上の当社の事業所が存在する都道府県の年間売上高(南関東3兆7,276億円、東海1兆2,042億円、近畿1兆2,433億円)の合計の額6兆1,751億円を労働者派遣事業に係る総売上高8兆2,363億円で除して算出した割合75.0%をTAMの額に掛けて算出。
(3) 経営戦略
<モバイル事業>モバイル事業は、特にアプリ課金市場においては、ターゲット市場に対して売上規模がまだまだ小さく、当面は世界的なマーケットで売上拡大に注力するステージであると考えております。
① 高機能戦略
「ibisPaint」はリリース当初より、モバイル端末用に適合、最適化することを念頭に置いて開発した自社製品ですが、競合他社の製品は、一般的にハードウェアの性能が高いPC端末用に開発された製品が多く、かつ、開発において多大な人件費を継続的に投入しております。当社の製品は、プロのイラストレーター等が使用するパソコンのペイントソフト並みの機能を搭載しているものの、他社との差別化において、継続的な改善と新機能の追加、及びモバイル端末用としてのさらなるUI(ユーザインターフェース)及びUX(ユーザエクスペリエンス)の強化は事業戦略上の根幹をなすものであります。加えて、昨今のAI(人工知能)技術の発展等により、さらに付加価値を高めた製品の開発も可能となっていることから、当面は、高機能戦略を踏襲し、ユーザにとって魅力のある製品を開発し続けることによって、全世界でのシェアの拡大を進めてまいります。
② サブスクリプション強化
同事業におけるBtoCビジネスにおける収益源としましては、広告非表示機能を含む追加機能や追加素材、追加ストレージ等の利用が可能となるサブスクリプション(定額課金)型のプレミアム会員サービスと、アプリ上の広告が非表示となる売切型アプリの2種類の方法があります。これまでは累計ダウンロード数の増加=広告ビジネスにおける収益を最重視しておりましたが、今後は、プレミアム会員サービスへの誘導を強化するプロモーション策を実施し、同サービス経由での売上も増加させることにより、同事業内において、市況の影響を直接受けやすい広告ビジネスの売上に過度に依拠しないような収益構造を目指し、リスク分散してまいります。
③ プロ向け展開強化
「ibisPaint」はモバイルペイントアプリのNo.1ブランドだからこそ、PC版も使いたい既存ユーザが多数存在したため、2022年6月にWindows版をリリースし、随時、機能拡充を行ってまいりました。当初は売切型のみ販売しておりましたが、2024年3月にはサブスクリプション型の提供を開始しております。また、クリエイターの求める機能を引き続き搭載するなど、機能を拡張し続けることで、将来的にプロのクリエイター向けマーケットへの本格的参入も想定しております。全デバイスで「ibisPaint」ブランドを確立し、新たな収入源を獲得してまいります。
<ソリューション事業>ソリューション事業は、ターゲット市場に対して売上規模が極めて小さく、当面は売上拡大に注力するステージであると考えております。
① SI(システムインテグレーション)体制構築
当社のソリューション事業は、受託開発とIT技術者派遣の2つのサービスを提供しておりますが、受託開発を強化し、高付加価値なSler化を推進してまいります。モバイルDX(デジタルトランスフォーメーション)という追い風に乗って、当社が得意とするスマートフォンやタブレットなどインターネット端末のアプリケーション開発における最新の技術を磨き続け、システム導入におけるコンサルティングや要件定義から、設計、開発、運用までワンストップで新しい顧客へ提供できる体制を積極的に推進してまいります。
② 新たな開発手法等への取り組み
スマートフォンやタブレットなどのアプリ開発は、アジャイルやスクラムなどの最新のアプリケーション開発手法や、AI・Web3.0などを活用した開発生産性の抜本的向上策などの技術進化が著しい分野であります。当社は、高い品質管理マネジメントと利益管理マネジメントの両立を目指して、継続して新しい開発手法等を取り入れてまいります。
③ eラーニング強化
当社においては、全社従業員向けの教育研修として、2018年よりeラーニングサービスを導入・運用しておりましたが、ソリューション事業所属のIT技術者においては、技術革新が著しい昨今において、最新の開発技術・言語・スキルが学べるより専門性が高いeラーニングサービスの追加提供を2023年より導入いたしました。今後は、更に、社外研修を新規提供するなど、更に充実した教育研修制度を構築、実施してまいります。
(4) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は事業の成長性、収益性を判断する重要な経営指標としまして、売上高、営業利益、営業利益率を重視しております。また、サービス別ではモバイル事業の主要サービスである「ibisPaint」のDAU(注)、サブスクリプション契約数、及びソリューション事業のITエンジニア数を重要な事業KPIとして位置づけ、増加に向けた企業運営に努めております。なお、各指標の推移は以下のとおりであります。
2021年12月期2022年12月期2023年12月期
DAU(千人)5,6636,2105,781
サブスクリプション契約数(人)36,61266,257119,380
ITエンジニア数(人)159181240

(注):DAUは「Daily Active Users」の略で一日あたりのアクティブユーザのこと。
(5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
今後の見通しにつきましては、国際情勢の不安定さによりエネルギー・原材料価格の高騰や金融引き締め政策、為替相場の急激な変動などが依然として続き、景気の先行きは不透明な状況が続くものと想定しております。そのような中、当社は、当事業年度より、モバイル事業、ソリューション事業共に、売上高を成長させるとともに、利益の額及び率を重視する経営方針に転換することといたしました。
<モバイル事業>モバイル事業については、当事業年度までの8年にわたる海外プロモーション投資の効果により、製品ブランドが世界レベルで各段に向上し、口コミのみでヘビーユーザが獲得できる土壌が整ったこと、全世界でのibisPaintのアクティブユーザ数における対直接競合シェアは当事業年度で83.9%(注)となり、ここ数年、高い占有率を継続している状況が続いていること、以上2点を考慮して、2024年12月期は広告宣伝投資(広告宣伝費)を前年同期比△52.6%と1/2弱に大きく減少させ、オーガニック成長(グロース)へ転換することといたしました。同事業において対処すべき主な課題としましては、以下の2点が挙げられます。
(注)アクティブユーザシェアのデータは2023年の数値。data.ai調べ。比較対象は当社が全世界で直接競合するものとして考えている5アプリ。
①マーケティング強化策
自社開発のモバイルペイントアプリ「ibisPaint」について、ユーザのニーズ、トレンドの変化などに今迄以上にスピーディに対応し、AIやディープラーニングなど最先端且つ高度な技術を最大限活用することによって、顧客の更なる拡大及び深耕を図り、引き続き、サブスクリプション(プレミアム会員サービス)の強化とプロマーケットの開拓を目指してまいります。
②開発人材の確保及び育成
同事業の拡大には、急速な技術革新への対応と、海外マーケッターや海外サポートなども含めたあらゆる職種での人材の質及び量の向上が不可欠であり、このような環境や変化に対応し、ニーズにあった適切なサービスを提供できる体制を構築していくことが重要であると認識しております。特に、同事業におけるモバイルアプリ開発エンジニアには、高度なプログラミングの知識はもちろんのこと、画像処理技術を調査・研究・実装するための論理的思考力及び科学的リテラシーが求められます。そのため、高い専門性を有する優秀な理系出身者人材の確保と育成は同事業発展のための根幹と考え、必要な戦力となる社員の採用を行い、育成していくことを高成長の源泉としてまいります。そして、セグメント利益の額及び率の更なる向上を目指してまいります。
<ソリューション事業>ソリューション事業については、高採算な受託開発の強化を継続しつつ、各拠点への選択と集中を進める方針を掲げております。同事業において対処すべき主な課題としましては、以下の2点が挙げられます。
①営業強化策
スマートフォンやタブレットなどのアプリケーション受託開発について、システムコンサルティングからクラウドサーバ運用・保守まで高い付加価値を提供するSI体制を構築しながら、今迄以上に多彩な業種業態の法人クライアントの開拓・拡大を図ることで顧客満足度の更なる向上を目指してまいります。
②開発人材の確保及び育成
ソリューション事業においても、あらゆる顧客の開発ニーズに応えられるハイスキルな技術力を有する豊かな経験が求められます。優秀な人材の確保と育成は、同事業発展のための根幹と考え、適時必要な戦力となる社員の採用を行い、育成していくことを安定成長の源泉としてまいります。また、最新の技術を駆使して受託案件の開発生産性を更に向上させるなどして、セグメント利益の額及び率の更なる向上を目指してまいります。
<全社>当社は管理機能集中や各種システム導入による情報セキュリティ機能の向上及び、会社法だけでなく金融商品取引法にも対応した内部統制システムの整備を行うなど、有効性が高く、効率の良い内部管理体制の強化を行ってまいりました。今後は、これまでに構築した体制を高機能に維持していくために人員の採用と育成に注力しながら、引き続き内部管理体制を強化していく方針であります。