有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2023/02/17 15:00
【資料】
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【項目】
130項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 経営方針
当社は以下のミッション、ビジョン及び経営理念を掲げております。
<ミッション>
アイビスはモバイルに精通した技術者集団。
「モバイルペイントアプリ」で世界のコミュニケーションを創造する。
<ビジョン>
アイビスの「IBIS」は、"Ibis is Beyond the Internet Service"を意味しています。これは、アイビスが、ネットワークサービスを通じて、「人と人をつなぐ」ことを目的として設立された会社であることを表しています。アイビスは、これからのネットワーク社会において、顧客に対し、我々の技術を提供し、よりエキサイティングでスピーディな社会の創出の一役を担えればと思っております。
<経営理念>■高い技術とスピードのアイビス
アイビスは、単にネットワークサービスを提供する会社ではありません。常に顧客に最もマッチしたソフトウェアを開発し、高い技術力でいかなる障壁も打破します。また、スピーディな経営と、素早い顧客対応を行い、お客様のIT戦略をいち早く実現します。
■顧客第一主義
アイビスは、顧客を第一に考えています。まず、顧客の方向へ向き(Oriented)、対話をし(Communication)、問題を解決し(Solution)、満足していただき(Satisfaction)、信頼を得る(Reliance)というプラスのスパイラルの構築を行います。

■大きくなってもベンチャー魂
アイビスは、会社の規模が大きくなっても初心を忘れず、高い技術とスピードを維持し続け、熱いベンチャー魂で未来の社会を開拓し続けます。
(2) 経営環境
<モバイル事業>2020年は世界的に消費者の物理的欲求、購買行動がオンラインの場に移行し、巣ごもり需要から家の中でも楽しめるゲーム、動画、音楽、書籍等のデジタルコンテンツ需要が全般的に高まったと考えられます。当社の主要サービスである『ibisPaint』を含むモバイル向けアプリ市場規模は、日本だけでなく世界においても年々拡大しており、総務省が公表する令和3年版情報通信白書によると、2016年以降右肩上がりで推移しており、2023年以降も拡大していく予測がされております。また、2021年の広告市場は新型コロナウイルス感染症の影響が緩和したことで拡大しており、その中でもインターネット広告費は他の媒体と比べ最も大きな成長率(株式会社電通「2021年日本の広告費」)となっており、モバイル向けアプリ市場規模の拡大と相関して今後も拡大していくと予測しております。
当社のアプリは累計92.5%が海外からのダウンロードですが、同市場においては、発展途上段階や人口増加の国も多数あり、『ibisPaint』にはまだまだ多くの未開拓ユーザが全世界に存在すると考えております。
当社は市場の大きさを以下に想定しております。
a.ネット広告市場
TAM(注1)ターゲット市場当社売上高実績(注2)
国内(注3)1兆2,924億円1,434億円2.0億円
国外(注4)8兆7,487億円9,711億円12.1億円

(注1):TAM(Total Addressable Market)獲得可能な最大市場規模のこと。
(注2):当社売上高実績は2021年12月期の数値(以下、同様)。
(注3):ネット広告市場(国内)におけるTAMの額は、株式会社電通が作成した調査レポート「2021年 日本の広告費」の2021年「インターネット広告媒体費」より抜粋。ターゲット市場の額は、デジタル絵を描くユーザの割合11.1%(2022年3月25日~2022年3月28日に株式会社クロス・マーケティングで実施した日本でのお絵かきアプリに関するアンケート調査を基に算定)をTAMの額に掛けて算出。
(注4):ネット広告市場(海外)におけるTAMの額は、Grand View Research, Inc.が作成した「In-app Advertising Market Report Scope」の「Market size value in 2021」14兆6,055億円(USD 110.9 billion。円へは2022年12月30日時点のTTBレート131.7円で換算)に株式会社電通が作成した調査レポート「2021年 日本の広告費」のインターネット広告費に対する媒体費三種類の割合59.9%を掛けて算出。ターゲット市場の額は、デジタル絵を描くユーザの割合11.1%をTAMの額に掛けて算出。
b.アプリ販売市場
TAMターゲット市場当社売上高実績
国内(注5)1,171億円129億円0.9億円
国外(注6)1兆4,822億円1,645億円1.4億円

(注5):アプリ販売市場(国内)におけるTAMの額は、経済産業省が作成した調査レポート「電子商取引に関する市場調査の結果(2022年8月12日公表)」の2021年「デジタル系分野のBtoC-EC市場規模 ⦆ ⑤その他」より抜粋。ターゲット市場の額は、デジタル絵を描くユーザの割合11.1%をTAMの額に掛けて算出。
(注6):アプリ販売市場(海外)におけるTAMの額は、Grand View Research, Inc.が作成した「Mobile Application Market Report Scope」の「Market size value in 2021」24兆7,042億円(USD 187.58 billion。円への換算方法は(注3)と同じ)に、2021年の「デジタル系分野のBtoC-EC市場規模」の「合計」に対する「⑤その他」の割合6.0%を掛けて算出。ターゲット市場の額は、デジタル絵を描くユーザの割合11.1%をTAMの額に掛けて算出。
<ソリューション事業>2019年3月に経済産業省が公表したIT人材需給に関する調査によると、IT人材の供給数は減っていく一方で、需要数が高まることから需給ギャップが拡がり、2030年には約41万人から79万人のIT人材不足が生じると見られております。2020年においてはコロナ禍による世界的な経済停滞の影響を受け、派遣技術者の待機コスト増加等により当社は減益となりましたが、IT分野は製造業等と比較するとテレワークによる稼働も容易であり、IT人材需要の底堅さがあると考えられることから、コロナ禍がどこまで続くか不透明な状況においても、影響は限定的であり、中長期的に市場は拡大していくものと考えております。
また、日本企業において「DX化」というトレンドがあります。特に業務の効率化、働き方改革などでは「スマホ化」の需要は一段と増えております。さらに受託開発に目を向けると、大手企業からのロボティクス案件などもあり、これからも当社の最新技術思考が顧客にアピールできると考えております。PCから「スマホ×DX化」という相乗効果による追い風を受けて、ソフトウェア開発市場は持続的に拡大していくものと考えられます。
TAMターゲット市場当社売上高実績
IT技術者派遣(注7)1兆2,369億円9,276億円9.5億円
受託開発(注8)9兆7,661億円6兆3,834億円1.2億円

(注7):IT技術者派遣市場におけるTAMの額は、「令和2年度労働者派遣事業報告書の集計結果(厚生労働省)」及び「労働者派遣事業の令和3年6月1日現在の状況(厚生労働省)」より算出。ターゲット市場の額は、「令和2年度労働者派遣事業報告書の集計結果(厚生労働省)」の労働者派遣事業に係る総売上高のうち、当社事業者拠点が属する地域の割合をTAMの額に掛けて算出。
(注8):受託開発市場におけるTAMの額は、「平成30年特定サービス産業実態調査(経済産業省)」の「受注ソフトウェア開発」の年間売上高より抜粋。ターゲット市場の額は、当社の事業所が存在する都道府県の「受注ソフトウェア開発」の年間売上高(東京都4兆7,585億円、愛知県6,245億円、大阪府1兆4億円)の合計額から算出。
(3) 経営戦略
<モバイル事業>モバイル事業は、ターゲット市場に対して売上規模が極めて小さく、当面は世界的なマーケットで売上拡大に注力するステージであると考えております。
① 高機能戦略
『ibisPaint』はリリース当初より、モバイル端末用に適合、最適化することを念頭に置いて開発した自社製品ですが、競合他社の製品は、一般的にハードウェアの性能が高いPC端末用に開発された製品が多く、かつ、開発において多大な人件費を継続的に投入しております。当社の製品は、プロのイラストレーター等が使用するパソコンのペイントソフト並みの機能を搭載しているものの、他社との差別化において、継続的な改善と新機能の追加、及びモバイル端末用としてのさらなるUI(ユーザインターフェイス)の強化は事業戦略上の根幹をなすものであります。加えて、昨今のAI(人工知能)技術の発展等により、さらに付加価値を高めた製品の開発も可能となっていることから、当面は、高機能戦略を踏襲し、ユーザにとって魅力のある製品を開発し続けることによって、全世界でのシェアの拡大を進めてまいります。
② 定額課金(サブスクリプション)強化
同事業におけるBtoCビジネスにおける収益源としましては、広告非表示機能を含む追加機能や追加素材等の利用が可能となるサブスクリプション(定額課金)型のプレミアム会員サービスと、アプリ上の広告が非表示となる売切型アプリの2種類の方法があります。これまでは累計ダウンロード数の増加=広告ビジネスにおける収益を最重視しておりましたが、今後は、プレミアム会員サービスへの誘導を強化するプロモーション策を実施し、同サービス経由での売上も増加させることにより、同事業内において、市況の影響を直接受けやすい広告ビジネスの売上に過度に依拠しないような収益構造を目指し、リスク分散してまいります。
③ 人材採用・育成強化
同事業におけるアプリ開発は、プログラミングの知識はもちろんのこと、線形代数等の数学的知識も必要とされるため、従来までは優秀な中途未経験者を厳選して採用し、中長期にわたって継続的に人材育成を行ってまいりました。しかし、付加価値の高い自社製品を継続的に開発するためには、今迄以上にモバイルアプリ開発エンジニアの採用及び人材育成を強化する必要があることから、今後は新卒・中途の両方において、高度な知識・経験のある人材の確保に積極的に取り組むとともに、体系的な研修制度の導入や、公正な人事評価制度などを整備し、人材の育成や定着に努めてまいります。
<ソリューション事業>ソリューション事業も、モバイル事業と同様、ターゲット市場に対して売上規模が極めて小さく、当面は売上拡大に注力するステージであると考えております。
① SI(システムインテグレーション)体制構築
当社のソリューション事業は、IT技術者派遣と受託開発の2つのサービスを提供しておりますが、いずれもソフトウェアベンダーの域を出るものではありません。経営理念のとおり顧客に選定してもらえるよう、当社ならではの技術を磨き、上流工程であるシステム導入におけるコンサルティングから、下流行程である開発、運用までワンストップで構築、提供できる体制を積極的に推進してまいります。
② モバイルDX(デジタルトランスフォーメーション)支援
卓越したモバイル技術という強みを活かし、モバイルDXという追い風に乗って、新しい顧客を開発してまいります。
③ eラーニング強化
当社においては、従業員IT技術者の教育研修のため、eラーニングサービスを2018年より導入・運用しておりましたが、技術革新が著しい昨今において、より専門性が高く、より実務に役立つeラーニングサービスの追加提供や社外研修を新規導入するなど、より充実した教育訓練を実施してまいります。
④ 品質リスクマネジメント
モバイルアプリの受託開発については、主に請負契約で受注することが多く、時代に適合した品質管理の確立が重要となっております。会社として標準化された品質管理手法を取り入れることによって、より良い品質のシステムを顧客へ提供できるように事業を推進してまいります。
⑤ 人材採用
モバイル事業と同じく、ソリューション事業においても、あらゆる顧客の開発ニーズに応えられる、高い技術力を有する経験豊かなシステムエンジニアの採用を強化する必要があることから、これらの人材の確保に積極的に取り組んでまいります。
(4) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は事業の成長性、収益性及び当社全体としての収益性を判断する指標として売上高、営業利益を重視しております。また、サービス別ではモバイル事業の主要サービスである『ibisPaint』の新規ダウンロード数、DAU(注)、及びソリューション事業の派遣技術者数を重要な指標として位置づけ、増加に向けた企業運営に努めております。なお、各指標の推移は以下のとおりであります。
2020年12月期2021年12月期2022年12月期
新規ダウンロード数(千回)63,79094,39884,888
DAU(千人)3,3275,6466,129
派遣技術者数(人)162145163

(注):DAUは「Daily Active Users」の略で一日あたりのアクティブユーザのこと。
(5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① 営業強化策
<モバイル事業>自社開発のモバイルペイントアプリ『ibisPaint』においては、ユーザのニーズ、トレンドの変化などにスピーディに対応し、AIやディープラーニングなど最先端の技術を活用することによって、顧客のさらなる拡大を図り、広告収入、及びサブスクリプション収入の増加を目指してまいります。
<ソリューション事業>モバイルアプリの受託開発においては、コンシューマ向けアプリから業務アプリまで、常に新しい技術を取り入れながら、企画・設計から開発・運用・保守まで、ワンストップでトータルにSIサービスを提供する体制を構築してまいります。
IT技術者派遣においては、東京・名古屋・大阪の拠点を中心に、各クライアントの高い要望に対してスピーディかつ、的確に派遣技術者を送り込む体制を構築するとともに、クライアント・取引エリアの開拓・拡大を図ってまいります。
② 人材の確保及び育成
急速な技術革新への対応と、あらゆる職種での人材の質及び量の向上が事業拡大には不可欠であり、このような環境や変化に対応し、適切にニーズにあったサービスを提供できる体制を構築していくことが重要であると認識しております。そのために、優秀な人材の確保と育成は、事業発展のための根幹と考え、当社として必要な人材の定義を改めて明確化した上で、適時必要な戦力となる社員の採用を行い、育成していくことを、業容拡大への源泉としてまいります。
③ 内部管理体制の強化
当社は管理機能集中や各種システム導入による情報セキュリティ機能の向上及び、会社法だけでなく金融商品取引法にも対応した内部統制システムの整備を行うなど、有効性が高く、効率の良い内部管理体制の強化を行ってまいりました。今後は、前事業年度までに構築した体制を高機能に維持していくために人員の採用と育成に注力しながら、引き続き内部管理体制を強化していく方針であります。
④ 健全な財務基盤の構築
優秀な人材の採用及び育成、製品開発及び研究開発活動への対応を行うために、事業資金の安定的な確保が必要不可欠であると考えております。資金確保については、自己資金、金融機関からの借入、及び営業活動によるキャッシュ・フローから充当していくことを基本方針としております。なお、今後事業拡大に向けた投資資金需要に対応すべく、エクイティファイナンス等で資金調達していくことを検討しております。