訂正有価証券届出書(新規公開時)

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2024/03/04 9:00
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178項目
当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)会社の経営の基本方針
当社グループは以下の経営理念のもとに、事業を展開しております。
世界の誰もが「豊かさ」を享受できる社会をつくる。
テクノロジーと、人の経験知で、世界のリアルコマースを変える。
・効率化された店舗網で、モノを流通させる力
・データとIoTを駆使する力
流通小売業界には、食品の廃棄物や欠品などによるムダや在庫/物流が最適化されていないことによるムラ、商慣習として古くから存在するリベート等のムリなど、サプライチェーンにおける各種工程の中に『ムダ・ムラ・ムリ』が多く存在すると考えております。当社グループはこの『ムダ・ムラ・ムリ』の削減を推進し、お客様への新しいお買い物体験の提供、食品・消費財メーカーや物流企業と協業したサプライチェーン改革・マーケティング改革の推進、テクノロジーを活用したオペレーションの効率化などに取り組むことで、当社グループのPurposeの実現を目指しております。
(2)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
主な経営指標として、連結売上高成長率、既存店売上高成長率、連結売上高営業利益率、新規出店数等のKPI(Key Performance Indicators)を重視し、成長性や収益性を向上させることを目指します。
(3)経営戦略等
当社の子会社及び関連会社は、当社グループの現状における主力事業である流通小売事業を営む会社及びリテールテック関連プロダクトの開発や導入・展開を行うリテールAI事業を営む会社等で構成されております。
現在、情報通信分野における技術革新やデジタルデバイスの普及、それに伴う大量のデータとそれらを分析・処理する技術の発達によって、オンラインとオフラインが融合し、既存の産業においても従来型のビジネスモデルからの変革が強く求められています。
当社は、流通小売業界には多くの『ムダ・ムラ・ムリ』が存在していると考えております。当社は、欠品/ロス、R&D、支店/商談、広告、リベートに係るコストを広く合算した総額は約40兆円にのぼると試算しており、国内の流通小売業の売上高約154兆円(注1)との対比でも、かかる『ムダ・ムラ・ムリ』の大きさが見て取れると考えております。当社グループは、テクノロジーを活用しながら『ムダ・ムラ・ムリ』を解消していくことで、お客様に新たな価値を提供することができるものと考えております。当社グループは流通小売事業において、リアルの店舗運営を行うことで、お客様やサプライチェーン全体の課題や真のニーズを把握し、それらをリテールAI事業の開発に反映させております。それによって、流通小売事業の収益性や生産性の向上を実現するとともに、現場において真に効果を上げることのできるプロダクトやソリューションを開発し、グループ外の小売企業や食品・消費財メーカーに対してサービス提供を行っております。
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(注)1.流通小売業の売上高は経済産業省「商業動態統計」2022年に基づいて記載しております。
2.欠品/ロスは、飲食料品業界の食品廃棄額、資産ロス(万引・不正・管理ミスによる損失)及び機会ロス(欠品による売上高の減少)の合計額であり、食品廃棄額は経済産業省「商業動態統計」(2022年度)及び全国スーパーマーケット協会ほか「スーパーマーケット年次統計調査報告書」(2023年10月)から推計、資産ロスは経済産業省「商業動態統計」(2022年度)及び全国万引犯罪防止機構「第12回全国小売業不明ロス・店舗セキュリティ実態調査分析報告書」(2018年)から推計、機会ロスは経済産業省「商業動態統計」(2022年度)及びDaniel Corsten, Thomas Gruen「On Shelf Availability: An Examination of the Extent, the Causes, and the Efforts to Address Retail Out-of-Stocks」(2005)(欠品による売上高の減少率(世界平均))から推計しております。
R&Dは、食品飲料メーカー、消費財メーカー及び衣食関連の卸・小売に係る研究開発費及び研究開発部門の人件費総額の合計額であり、食品飲料・消費財メーカーに係る研究開発費は上場企業の開示データ(出所:Quick)における「研究開発費」を集計して推計、衣食関連の卸・小売に係る研究開発費は経済産業省「企業活動基本調査」(2022年度)から推計、人件費総額は経済産業省「企業活動基本調査」(2022年度)を基にR&D部門の推定人員数×一人当たり推定人件費総額で試算しております。
支店/商談は、日本全国に支店を構え、営業拠点が点在すること及び個別商談を行うことによる非効率性を指しており、経済産業省「商業動態統計」(2022年度)及び日本ロジスティクスシステム協会「物流コスト調査」(2022年度)等から推計しております。
広告は、日本の総広告費であり、電通「2022年日本の広告費」に基づいて算出しております。
リベートは、消費財メーカーの販促費用の合計であり、経済産業省「工業統計調査」(2020年)及びデロイトトーマツ「消費財メーカーにおける販促費用最適化:ゼロベース予算を活用した最適化アプローチ」から推計しております。
各事業における重要な戦略は以下のとおりです。
<流通小売事業>①生鮮など「食」を強化した生活必需店づくり
当社の強みの一つに、既存店成長を支える唯一無二と自負するビジネスモデルがあります。具体的には、生鮮を中心とした多様な商品展開によるワンストップショッピングの提供です。戦略的に「食」の強化を推進しながら、お客様の需要を喚起しています。惣菜開発を担うグループ会社の㈱明治屋において、熟練の料理人がメニュー開発から調理まで一貫して行っており、当社の商品である「ベーコンエッグおにぎり」は「お弁当・お惣菜大賞2023(注)」にて、優秀賞を受賞しました。
また、生鮮四品(青果、精肉、鮮魚、惣菜)においては、おいしさと優位性ある価格を実現する商品開発を強化しており、集客ドライバーかつ収益性も高い商材として、売上高成長と収益性向上を牽引し、2023年6月期時点で流通小売売上高のうち約24.2%(前年同期間比1.0ポイント増)を占めています。その中でも、惣菜の2023年6月期の売上高構成比は流通小売売上高のうち約5.2%(前年同期間比0.4ポイント増)を占めており、その構成比を今後も更に引き上げていくことを目指します。
食品は地域によって、季節性や嗜好が異なる商品であることから、店舗を展開する地域のニーズに合わせた品揃えを実現しています。新規出店及び改装を契機として、中央卸売市場だけでなく地方卸売市場の開拓を進めながらも、こだわりの商品に関しては生産者様と直接取引を開始することにより、地場産の生鮮食品を安定的に調達するネットワークを構築しており、生鮮をはじめとする食品の品揃えが充実したことから、売上高増大に大きく寄与する店舗が増加しております。
外食産業における経験者を採用することで組織体制を厚くしつつ、グループ内のリソースを有効活用しながら、幅広い世代のお客様に喜んでいただけるような生活必需店の拡大に取組んでおります。
②マルチフォーマットによるエリアのドミナント化
特定のエリアに複数フォーマットの店舗をドミナント展開することで、当該エリア全体の市場シェア拡大を狙うことを方針としております。
主力フォーマットであり収益力の高いスーパーセンターを中心にしながら、近隣のsmartや小型店、広域商圏から集客可能なメガセンターが相互補完する位置付けであります。平日と休日における、ニーズが高い商品やお買い物に費やす時間の違いによって、お客様による店舗の使い分けに、全方位型で対応しています。
さらに、スーパーセンターを出店の中核としつつ、周辺にTRIAL GO等の小型サテライト型店舗をドミナント展開することで、近隣店舗からの効率的な配荷が可能になり、小型店全店に店内キッチンなどの専用設備を有することなく、できたてのお弁当やお惣菜の販売が可能となるものであります。
③製造小売業への変革
精肉などを加工するプロセスセンター(PC)やお惣菜加工を担うセントラルキッチン(CK)を自社内に有することで、生産インフラを強化しています。
生鮮食品など、商品における「食」の強化を実現するため及び店舗ネットワーク拡大に備えるため、2023年12月期末時点において日本全国にPCを6ヶ所、CK(店舗併設型を除く。)を3ヶ所有しております。
お弁当、お惣菜においては、「できたて」商品の提供にこだわる一方、店内調理の負担を考慮した効率的なサプライチェーンの構築を実現しています。
例えば、惣菜製造の過程において、食材の加工はPCで行って、焼くなどの最終調理加工のみを店内キッチンで行うことによって、お客様にできたてを提供しております。また、小型店など調理スペースがない店舗においては近隣の大型店から毎日配荷する仕組みができています。
さらに、商品ラインナップ拡充と高い収益性の2点を意識して、プライベートブランド(PB)商品も強化しております。2023年6月期におけるPB商品の売上高は、流通小売売上高の約10.3%(前年同期間比1.1ポイント増)を占めていますが、今後もPB商品の流通小売売上高に占める割合を高めることを目指します。PB商品の中でも、お水やお茶などの飲料が人気商品であり、福岡県田川市にお茶製造工場、大分県由布市にお水(ナチュラルミネラルウォーター)工場を有し、製造ノウハウを構築してまいりました。お茶製造工場はグループ内の物流センターに隣接していることから、横持ち運搬コストをかけずに、競争力ある価格を実現しています。
自社工場の製造キャパシティ増強や、PC及びCKの拠点拡大によって、SPA(製造小売業)化を目指す方針であります。
(注)一般社団法人全国スーパーマーケット協会が主催する、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、専門店等で実際に販売している数多くのお弁当・お惣菜・サラダ・パン等の中から、食の専門家で構成された審査員により、特に優れた商品を選出し表彰するプログラムです。
<リテールAI事業>①基盤の拡充
リテールAI事業の開発する各種IoTデバイスを活用したプロダクトやデータ分析プラットフォーム等をグループ内及びグループ外に広く展開することが事業戦略上の優先事項と考え、各種プロダクトの機能向上や導入・展開・保守体制の拡充を行っております。
開発に関しては、国内及び海外(主に中国)のエンジニアを組織化し、オペレーション・ドリブンのコンセプトのもと、流通小売事業とも連携しながら、現場からのフィードバックに対してスピード感を持って開発に反映するPDCAサイクルを高速で回転させています。
導入に関しては、グループ内での展開を優先的に行うとともに、POSベンダーや店舗機器メーカー等の外部企業とのアライアンスを活用し、グループ外の小売事業者へのプロダクト導入を加速させていく方針であります。
②データを活用した流通業界の効率化
流通業界は、サプライチェーン上に、メーカーや卸、物流事業者、小売事業者など多くの企業が参加する巨大な業界である一方、様々な情報及びデータが企業毎に分断されているなど、業界全体の効率化が実現されていないという課題があり、当社では、これを流通業界の『ムダ・ムラ・ムリ』と表現しております。
商品データや地域データに加えて、会員データや購買データなどの顧客データ・インストアデータを活用することで、これらの『ムダ・ムラ・ムリ』を削減することを目指しております。
具体的には、約989万人(2023年12月末時点)(注)の会員データと紐づいたID-POSデータを活用したワン・トゥ・ワンマーケティングや実店舗のメディア化などの販促戦略に取組んでおり、食品・消費財メーカーや広告代理店との実証実験を継続しております。実証実験を通じて、効果が確認できたものに関しては、プロダクト化を行い、グループ外の小売業への展開も行っていく方針であります。
(注)プリペイド会員数及び決済アプリ(SU-PAY)アカウント登録者数の単純合算であり、同一顧客の重複を一部含みます。
(4)経営環境
今後の当社グループを取り巻く経営環境は、国内における人口減少と少子高齢化の加速に伴い、より厳しさを増していくものと考えております。内閣府の令和5年版高齢社会白書によると、国内人口は2055年には約1億人まで減少し、生産年齢人口比率も50%に近づいていくと予測されております。国内全体における消費の拡大が見込まれない中で、当社グループが主力で取り扱う「食」や「日用生活消耗品」の消費は一定の規模を維持し、顧客属性や地域に応じた嗜好の細分化がより一層進んでいくものと認識しております。
小売業界においては、お客様の購買行動の変化への対応、働き手の確保、データ活用などの業界課題によって、従来型のビジネスモデルからの変革が強く求められております。海外においては、BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)やクリック&コレクトといった新しい買い物の形が生活に定着しつつあり、国内においてもオフラインとオンラインの融合は極めて重要な経営課題として認識されております。
さらに、海外における金利上昇やそれに伴う円安の進行、商品の仕入価格の上昇、エネルギー価格の高騰などによるコスト上昇が企業業績に与える影響も深刻であり、それらを吸収し、収益を確保できる企業の選別が一層進んでいくものと思われます。
(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループは流通小売事業において、新規出店によって売場面積を増やすとともに、生鮮・食の更なる強化、店舗改装などによって店舗の集客力及び収益性を高めてまいります。また、リテールAI事業においては、プロダクトやソリューションの新規開発や既存プロダクトの機能改善により、小売企業、食品・消費財メーカー、ベンダー等への更なる提供価値の向上に努めてまいります。
①新規出店と店舗改装
当社グループの主力事業である流通小売事業では、店舗の新規出店や既存店舗の改装による集客力及び収益性の向上は重要な成長ドライバーであります。
当社では独自開発の商圏分析ソフトであるRetail Mapによって、広範な自社データ(顧客属性、購買情報など)や一般データ(商圏情報、地図情報、統計情報など)をスピーディーに取得する環境を整備しており、当社の出退店及び既存店の改善に活用しております。
主力フォーマットであるスーパーセンターを今後も主軸としつつ、店舗サイズや商品構成の異なる複数の店舗フォーマットを有することにより、食品スーパー、家電・家具量販店、ホームセンター、アパレル店舗など、他社撤退跡地への柔軟な居抜き出店と、自社競合を低減したドミナント出店を可能としております。
また、自社出店以外にも事業再編やパートナーシップを通じた事業拡大についても積極的に検討しており、2023年10月23日付の株式会社佐藤長からの一部事業の譲受を通じた小型店舗の拡大も実現しております。
<過去5期における店舗数の推移(単位:店)>
店舗フォーマット売場面積2020年3月期末2021年3月期末2021年6月期末2022年6月期末2023年6月期末
メガセンター約8,000㎡2019202224
スーパーセンター約4,000㎡162173173175181
smart/小型店約1,400㎡以下6971727480
合計-251263265271285

<2024年6月期における店舗数の推移(単位:店)>
店舗フォーマット売場面積第1四半期会計期間末
(2023年9月30日時点)
第2四半期会計期間末
(2023年12月31日時点)
メガセンター約8,000㎡2424
スーパーセンター約4,000㎡180183
smart/小型店約1,400㎡以下79104
合計-283311

当社グループは、2021年6月期から2022年6月期にかけて、既存店の改装によって生鮮や惣菜など「食」を強化した店舗作りにリソースを投じたことから、戦略的に新規出店数を抑制してまいりました。
2023年6月期以降は「食」を強化した新規出店が実施できており、2024年6月期以降も事業の譲受等のインオーガニックな成長もあわせて、上記抑制以前の出店ペースを目指し日本全国に店舗網拡大のペースを更に加速していく予定であります。
出店地域は、店舗ネットワークを有する九州におけるドミナント展開と、九州以外の地域におけるネットワーク拡大の両方を積極的に推進することを目指しております。
出店フォーマットは、主力のスーパーセンターを中心としながら、ロードサイドにおける大型店メガセンター並びに都市部におけるsmart及び小型店の出店を行うほか、スーパーセンターのサテライト型店舗(TRIAL GO等)の出店を拡充することで、各地域のお客様支持の獲得・拡大を目指してまいります。
既存店につきましては、Skip CartなどのIoTデバイスの導入や、機械化や効率化により削減した人時をより高付加価値の作業に割り当てるというオペレーションの改善、生鮮食品をはじめとする地域の特性に合わせた品揃えの強化など店舗改装を進め、地域のお客様が便利に楽しくお買い物をしていただける魅力的な売り場を実現します。2023年6月期は30店舗で改装しており、一定の売上高向上効果が発現しています。また、今後数年間は毎年総店舗数の1割程度の改装を見込んでおります。
こうした新規出店及び店舗改装等に加え、継続的な商品構成の見直しや適切な売価設定、販売費・一般管理費を含む徹底的なコストコントロール等を実施することにより、集客力及び収益性の向上を目指してまいります。
②人材戦略
リテールテック関連プロダクトの開発を行うエンジニア、生鮮など「食」を強化した生活必需店づくりを支える職人などの当社グループの成長戦略実現に向けては人材が必要不可欠であると考えております。経営戦略として人材確保は重要な経営課題と捉えており、各グループ会社に人事責任者を設置し、外部からの採用だけでなく、グループ横断的な育成に対して積極的に取組んでおります。
③テクノロジーやデータの利活用
お客様の嗜好の細分化、購買行動の多様化、電子商取引(EC)比率の向上などの外部環境の変化によって、実店舗運営を中心に事業活動を行う小売事業者にとっても、ITやAI等のテクノロジーの活用は必要不可欠な要素となってきております。当社グループにおいては、創業時よりITやデータを活用した経営を一貫して行ってきており、現在においては「リテールAI事業」として事業セグメントを「流通小売事業」と分離し、テクノロジーを活用したプロダクト及びソリューションの開発投資を積極的に行っております。それらのテクノロジーを自社利用するだけでなく、グループ外の小売企業や食品・消費財メーカー等にも提供し、サービス利用料等を収受しております。
流通業界にとって、テクノロジーやデータを活用したビジネスモデルの変革は非常に重要であり、デジタルトランスフォーメーション(DX)へのニーズや投資意欲は益々高くなっていくものと考えております。グループ内での活用はもちろんのこと、データをメーカーや卸/物流及び小売企業間でシームレスに共有することで、業界全体の流通エコシステムを構築し、また、プロダクトやソリューションをグループ外の企業にも展開していくことで、流通業界に残る『ムダ・ムラ・ムリ』を解消し、業界の効率化を実現していきたいと考えております。