有価証券報告書-第115期(平成28年4月1日-平成29年3月31日)

【提出】
2017/06/29 13:40
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【項目】
125項目

研究開発活動

当社グループの当連結会計年度における研究開発費は101億円であり,うち当社の研究開発費は99億円である。研究開発活動は当社の技術研究所と事業部門の技術開発部署で行われており,その内容は主に当社建設事業に係るものである。
当社は,建築・土木分野の生産性向上や品質確保のための新工法・新技術の研究開発はもとより,多様化する社会ニーズに対応するための新分野・先端技術分野や,さらに地球環境問題に寄与するための研究開発にも,幅広く積極的に取り組んでいる。技術研究所を中心とした研究開発活動は,基礎・応用研究から商品開発まで多岐にわたっており,異業種企業,公的研究機関,国内外の大学との技術交流,共同開発も積極的に推進している。
これまでの研究開発の成果として,地震動予測で日本建築学会賞(論文)を,液状化対策技術で日本建築学会賞(技術)を受賞した他,土木学会,日本火災学会,日本建築仕上学会,日本風工学会より種々の賞を受賞した。
当連結会計年度における研究開発活動の主な成果は次のとおりである。
(1)生産技術・i-Construction
①屋内位置情報を基盤とした現場情報共有システムを開発
建設現場における作業関係者間のコミュニケーション効率の向上を目的に,屋内位置情報を基盤とした現場情報共有システムを,国際航業㈱と共同開発した。現場内に設置した測位インフラから現場作業者の位置情報を取得し,作業者がその場所で必要とする施工管理情報をスマート端末にプッシュ配信する。
②環境負荷の少ない解体工法「シミズ・クールカット」を本格適用
環境負荷の少ない解体工法「シミズ・クールカット(2013年:㈱コンセックとの共同開発)」を本格適用した。シミズ・クールカットによって,解体に伴う振動がほぼゼロ,敷地境界での騒音は従来工法の3/4程度(85dB→63dB),粉じん量は10%以下となることを確認した。
③200㎏クラスの重量鉄筋を楽に運べるアシストロボを開発
重量鉄筋の配筋作業をアシストするロボットアーム型の作業支援ロボット「配筋アシストロボ」を,アクティブリンク㈱※,㈱エスシー・マシーナリと共同開発した。従来,6~7人を要していた重量200㎏クラスにもおよぶ重量鉄筋の配筋作業を,1/2程度に省人化できる。
※アクティブリンク㈱は2017年4月1日に社名を㈱ATOUNに変更した。
④ICTを活用したダムコンクリート締固め管理システムを開発
バイブレータ付きバックホウ(バイバック)による,ダムコンクリートのICTを活用した締固め管理システムを開発した。3Dスキャナと油量センサでコンクリート打設面の平滑度評価を,バイブレータの作動油量で締固めの完了判定を行う。締固め管理を定量的に行うことが可能となり,ダムコンクリートの一層の品質向上を図る。
⑤「山岳トンネル三次元前方予測・探査システム」を開発
切羽前方30~50m先までの地山性状を三次元で予測・見える化するシステム「山岳トンネル三次元前方予測・探査システム」を開発・実用化した。トンネル掘削時に打設するロックボルトの削孔エネルギーデータで切羽前方の地山性状を予測することで,山岳トンネル施工の効率化と安全性向上を図る。
⑥日常探査が可能な切羽前方探査システム「S-BEAT」を開発
トンネル掘削振動の反射波を利用して,掘削作業を中断することなく,切羽前方50~100m先までの地山状況を三次元的に探査するシステム「S-BEAT」を開発した。掘削作業に使用する資機材を探査に利用するため導入が容易で日常的に使用でき,山岳トンネル施工のさらなる生産性向上が期待できる。
⑦コンクリートの充填状況を予測する三次元シミュレーションシステムを開発
型枠内へのコンクリートの充填状況を予測する三次元シミュレーションシステムを開発した。高密度配筋となる高架橋などの土木構造物を対象に,最適なコンクリート材料・配合,施工方法などの組合せを施工計画に反映することが可能になる。
⑧亀裂から出る高水圧の湧水を抑制する技術を開発
岐阜県瑞浪市にある瑞浪超深地層研究所において,高水圧の湧水を抑制するグラウチング技術を,日本原子力研究開発機構と共同開発した。深度500m水平坑道で,グラウチングによる湧水抑制技術を実施した結果,実施しない場合の予測値に対して湧水量を約1/100まで低減した。
(2)防災・BCP技術
①機器免震システム「安震スライダー」を開発・初適用
地震時に重要設備機器の安全性を向上させる機器免震システム「安震スライダー」を日本ピラー工業㈱と共同開発し,初適用した。安震スライダーは,2014年に両社で共同開発した立体自動倉庫向けの免震システム「ラックベーススライダー」をバージョンアップしたもので,軽荷重の機器に対応できることを特長とする。
②高性能免震システム「マルチステップ免震」の適用実績が50万㎡突破
超精密環境生産施設・研究施設向け高性能免震システム「マルチステップ免震(2007年開発)」の適用実績が,延床面積50万㎡を突破した。マルチステップ免震は微振動抑制と地震対応の免震機能を兼ね備えた高性能免震システムであり,平常時には生産・研究施設の生産機能に影響を及ぼす微小な揺れを抑制,大地震時には被害を最小化し早期復旧に寄与する。
③「1855年安政江戸地震」の震源と揺れを推定
近年の地震観測記録に基づき,歴史資料が残る首都直下地震の中で最大被害をもたらした「1855年安政江戸地震」の震源モデルと地震動を推定し,その特性を明らかにした。この震源モデルから推定される首都圏での地震動には,建物に大きな影響を与える周期1~2秒の揺れが卓越する特性があることが分かった。今後,この研究成果を都心部での超高層建物等の耐震設計に反映していく。
④「ちきゅう」の断層掘削試料の分析と動力学解析による南海トラフ地震での断層すべり量の定
量的評価
地球深部探査船「ちきゅう」により採取された日本海溝と南海トラフのプレート境界断層の試料を大阪大学,海洋研究開発機構高知コア研究所,カリフォルニア工科大学,国立研究開発法人建築研究所,東京大学地震研究所,京都大学防災研究所と共同で分析し,2011年東北地方太平洋沖地震での海溝付近の巨大すべり約80mを再現した。また,南海トラフ地震での海溝付近の断層が,約30~50m程度すべる可能性を世界で初めて明らかにした。
(3)環境・設備技術
①ニーズを先取りし,再生医療エンジニアリングを展開
再生医療の普及に伴う細胞培養施設の建設ニーズに対応すべく,細胞加工・調製施設「S-Cellラボ」を当社技術研究所内に建設した。S-Cellラボは,培養の過程で細胞に影響を与える種々の環境要因をリアルタイム・モニタリングし,細胞培養環境を最適化する高度な環境制御機能を備える。今後,この研究施設の中で実際に各種細胞を培養しながら最適な培養環境を究明し,再生医療エンジニアリングに展開する。
②病室内の不快な臭いをいち早くキャッチし,換気で解消する「スメルケア」を開発
病室内の快適性の向上を目的として,病室向けの臭気制御システム「スメルケア」を,新コスモス電機㈱と共同開発した。スメルケアは,オムツ交換や食事に伴う臭気を半導体センサにより拡散前に素早く感知し,給排気ファンを臭気濃度に合わせて即時に制御する。
③置換空調技術を応用したクリーン空調システムを開発
クリーンルームの生産効率向上と省エネルギーを両立する,クリーン空調システム「置換クリーン空調」を開発した。清浄冷気をクリーンルームの床面に向って吹き出し,生産装置などの内部発熱により温まった室内空気と置換することで,室内空調と作業エリアの清浄化を行う。天井部に空調設備を設置する必要がないため階高を最大限活用でき,より大型の生産装置の導入が可能になる。
④「再生の杜」ビオトープによる生物多様性への貢献を確認
「再生の杜」の10年間にわたるモニタリングによって,都市部の人工的な緑地が生物多様性を高めることを確認した。2006年4月に当社技術研究所内に建設した都市型の大規模ビオトープ「再生の杜」において,生物相や植生環境の継続的なモニタリングを実施してきた。その結果,都市部に構築された人工的な緑地が,生物生息環境を着実に形成し,生物多様性向上に寄与していることが確認できた。
⑤移動式の温熱・風環境計測システムを開発
都市の屋外温熱環境を簡便に計測できる,移動式の環境計測システムを開発・実用化した。このシステムは,エリアの温熱環境を計測する「エリア計測車」と局地の温熱や風環境を計測する「スポット計測車」から構成され,ヒートアイランド現象等により酷暑化が進む都市において,酷暑緩和策が必要な地点や原因の特定に役立てる。実用化第一弾として,夏季に都心で計画されているマラソンコースの温熱環境を,東京大学と共同で計測した。
⑥ベトナムの枯葉剤汚染土壌の無害化
ベトナム政府機関の要請に基づき,ダイオキシン汚染土壌,いわゆる枯葉剤汚染土壌に対する当社土壌洗浄技術の有効性確認実験を実施した。その結果,同国汚染土壌の大半を占めるとみられる汚染レベル20,000pg-TEQ/gの汚染土壌におけるダイオキシン除去率は95%に達し,洗浄後は7割程度が再利用可能な1,000pg-TEQ/g未満の浄化土に再生できることを確認した。今後,パイロットテストの実施や大規模な浄化事業の実施などの可能性について広く検討を進めていく。
⑦埋め立て処理された石炭灰(エージング灰)を再生資材化
石炭火力発電所から発生する石炭灰(新生灰)のうち,処分場に埋め立てられた石炭灰(エージング灰)のリサイクル技術を恵和興業㈱,東北電力㈱と共同開発した。エージング灰にセメントと水を混合することで,砂粒状のリサイクル資材として,路盤材,盛土材に活用する。東北地方の震災復興事業での活用を目指し,自治体,省庁など関係機関に提案していく。
(4)ICT・AI活用技術
①車イス利用者や視覚障がい者などに対応した屋内外ナビゲーション・システムを開発
インクルーシブなまちづくりを支援する屋内外ナビゲーション・システムを,日本アイ・ビー・エム㈱東京基礎研究所と共同開発した。汎用のスマートデバイスを用い,位置測定機能・音声ナビゲーション機能・対話機能を備えたスマートフォン・アプリ,空間情報データベース,位置情報インフラが協調して,屋内外を継ぎ目なくナビゲーションすることで,車イス利用者や視覚障がい者などの円滑な移動をサポートする。
さらに,日本橋室町地区を対象として,バリアフリー・ストレスフリーな街づくりの実現に向けた公開実験を,日本アイ・ビー・エム㈱,三井不動産㈱と共同実施した。
②名古屋大学と共同でシールド機操作のAI化に挑戦
熟練オペレータの経験や技量に基づくシールド機操作のAIによるモデル化を,名古屋大学と共同で実施している。これまでに構築した操作モデルで,オペレータの操作行動を7割近く再現できており,これを発展させてシールド機操作へのAI活用を目指す。
③ディープラーニングで建物の電力需要を高精度で予測するシステムを開発
AI技術による建物電力需要の高精度予測システムを,中部大学の協力を得て開発した。日々の電力需要と気象データ,設備・施設利用状況等の関係を蓄積,AIを使ってピーク電力需要の予測を行った。1年分のデータで検証した結果,従来の電力需要予測システムに比べて3.6ポイントの精度向上を実現し,予測誤差が5.7%に収まることを確認した。本技術の活用により,電力関連事業ならびに施設のエネルギー運用の効率化が見込まれる。