有価証券報告書-第70期(2023/04/01-2024/03/31)

【提出】
2024/06/25 15:13
【資料】
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【項目】
152項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当社が当連結会計年度末現在において判断したものです。
(1)経営の基本方針
当社は、「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」という経営理念の追求のため、「人間として何が正しいか」を判断基準とした企業哲学である「京セラフィロソフィ」と、独自の経営管理システムである「アメーバ経営」の実践を通して、持続的な売上拡大と高い収益性の実現を目指しています。
(2)中期の経営目標
当社は、今後の中期的な経営目標を設定し、その達成に必要な施策を明確化するために、2024年3月期から2026年3月期までの中期経営計画を策定し、遂行しています。
中期経営計画における主要な施策は次のとおりです。
・長期的な展望に基づいた先行投資の集中実施
・高成長の実現に向けたグループ内経営資源の競争優位分野への統合・結集
・事業の選択と集中の推進、及び低成長・低採算領域における構造改革の実施
・社会課題解決型の新規事業創出に向けた研究開発体制の強化
(中期経営計画)
2026年3月期目標
売上高2兆5,000億円
税引前利益3,500億円
税引前利益率14.0%
ROE7.0%以上

中期経営計画の達成に向けて、当社は、既存事業への設備投資及び新規事業創出のための研究開発の一層の拡大を見込んでいます。この資金の源泉としては、営業活動によるキャッシュ・フローに加え、金融資産を活用した借入金を充当する計画です。
詳細は下記キャピタル・アロケーションをご参照ください。
(2024年3月期から2026年3月期までの投資計画を含むキャピタル・アロケーション)
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(3)中長期的な経営環境及び対処すべき課題
AI技術や5G通信技術の進化とともに社会全体のデジタル化が加速しており、今後も半導体関連産業や電子部品産業の更なる拡大が見込まれます。また、技術の進化と併せて、脱炭素等の環境対応や労働人口減少に対する生産現場のスマート化の進展等、様々な社会課題の解決に貢献する技術やサービスへのニーズが高まっています。
当社はこれらの環境変化を事業機会と捉え、当社の強みである幅広い事業領域と多様な技術、強固な財務基盤を活用し、社会課題の解決に貢献する製品やソリューションの展開を通じ、事業拡大を図ります。
a. 既存事業の拡大及び新規事業の創出に向けた投資の強化
AIの活用領域拡大に伴い、中長期的に5G/6Gや半導体、モビリティ関連市場での各種製品の需要が見込まれます。これらの市場においては、より高精細、高性能、高品質な製品供給が求められる一方、需要の変動や技術革新の加速化により、生産能力だけでなく、ニーズの変化にタイムリーに対応できる供給体制の構築が必要となっています。当社は高シェア製品を中心に、引き続き国内外において新工場棟の建設を進めるとともに、デジタル技術の活用による生産現場のスマートファクトリー化等の積極的な設備投資を進め、既存事業の拡大に努めます。
また、新製品・新技術開発の促進に向けて、グループ内外の経営リソースの一層の活用による開発力の強化及びスピードアップ、並びに人材育成に努め、事業領域の拡大を図ります。
さらに、長期的な事業成長を支える新規事業の創出に向けた研究開発への投資も積極的に進めています。新素材等の応用展開による様々な領域への新製品開発をはじめ、当社の強みである幅広い技術資産を組み合わせることにより、独自性が高く、社会課題の解決に貢献する新規事業の創出を図ります。
b. 収益性向上に向けた事業の選択と集中
当社は、高収益事業の一層の収益性の向上並びに課題事業の収益性改善を図るため、経営陣主導による事業モニタリングを強化し、事業体制や事業領域、製品展開の見直し等を進め、事業の選択と集中に取り組んでいます。
コアコンポーネントセグメント及び電子部品セグメントにおいては、より高収益な事業体制の構築に向けて高付加価値製品等の競争優位領域に注力するとともに、生産性向上に向けたスマートファクトリーの導入や生産管理面でのデジタル技術の活用等による効率化を進めます。
ソリューションセグメントにおいては、保有している様々な技術や製品の融合により、新たな事業モデルを構築するとともに、構造改革を実行することで収益性の改善・向上を図ります。
c. サステナブル経営の推進
当社は持続的な企業運営に向けて、環境や社会課題への対応並びにコーポレート・ガバナンスの強化に取り組みます。
環境面では脱炭素社会の実現を目指し、再生可能エネルギーの普及に努めています。自社拠点への太陽光発電システムの設置導入を進めるとともに、地域・社会全体での温室効果ガス排出量削減に向けて、太陽電池、燃料電池、蓄電池の3つの電池を活用した新たな電力サービスの創出に取り組んでいます。
社会面では、経営理念である「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」の実現を目指し、社員一人ひとりがいきいきと活躍できるよう、働きやすさの醸成に努めるとともに、DEI(Diversity, Equity & Inclusion)の推進や従業員エンゲージメント向上への積極的な取り組みを進めています。また、特に世界的に意識が高まっている人権問題については、自社だけでなくサプライチェーンにおけるデューデリジェンスを実施する等の対応を進めています。
コーポレート・ガバナンスについては、企業価値向上を目指し、取締役会の更なる多様性や実効性の向上、中長期の事業戦略及び資本戦略に関する積極的な議論等を進めます。また、リスクマネジメント及びコンプライアンスの推進等により、サステナブル経営の実践を図ります。
(4)レポーティングセグメント別の対処すべき課題等
<レポーティングセグメント別 中期経営計画>a. コアコンポーネント
(a) 経営戦略
・半導体関連市場への注力
・生産性向上のための積極的な設備投資の実行
(b) 中期目標(2026年3月期)
売上高7,800億円
事業利益1,404億円
利益率18.0%

(c) 事業環境見通し及び主な事業戦略
当レポーティングセグメントの主要市場である半導体市場は、中長期的に最先端品を中心に大幅な需要増を見込んでおり、ロジックは2022年から2030年にかけて年平均成長率(CAGR)11%、メモリーは同5%の成長を予想しています。
当社は、半導体市場向けにネットワークサーバー用有機パッケージ、半導体用セラミックパッケージ、半導体製造装置用ファインセラミック部品を供給しています。パッケージ製品では戦略顧客における高いシェアに加え、有機パッケージでは大型高多層化に対応する製造技術を、セラミックパッケージでは高い供給能力や材料・プロセス技術を、また、半導体製造装置用ファインセラミック部品では精密加工や温度均一性等、先端品の技術・品質・生産対応力と先進装置メーカーとの長年にわたる強固な信頼関係を有しています。当社はこれらの強みを活かすことで、先端半導体を中心に顧客要求へ迅速かつ的確に対応し、高い市場シェアの維持・拡大を図ります。
この事業成長の実現には、生産能力の増強が必要であり、当社は顧客との密な連携に基づく更なる先行投資の強化、及び建築資材調達や工期の長期化を考慮した新工場、新棟建設の早期対応を図るため、2024年3月期から2026年3月期までの3年間で過去最大規模となる4,000億円の設備投資を計画しています。長期的需要増を見据えた新工場棟の立ち上げに加え、既存工場のスクラップ&ビルドを実施することで主要製品の生産容量の拡大を進め、市場要求への対応を図ります。
b. 電子部品
(a) 経営戦略
・京セラ㈱電子部品とKyocera AVX Components Corporation(KAVX)とのシナジー最大化によるシェア拡大
・コンデンサとタイミングデバイスへの注力
(b) 中期目標(2026年3月期)
売上高5,000億円
事業利益1,000億円
利益率20.0%

(c) 事業環境見通し及び主な事業戦略
当レポーティングセグメントの主要製品は、エレクトロニクス産業の進展に伴う拡大が予想されており、2022年から2025年にかけての各市場のCAGRは、コネクタで4%、積層セラミックコンデンサで10%、タイミングデバイスで5%、ポリマータンタルで7%を予想しています。
当社の主な強みは、ICの高集積化に貢献する小型・高精度化技術や、産業機器、車載、医療及び航空宇宙と多岐にわたるKAVXのディストリビューター販売チャネル及び物流ネットワークです。この強みを活かし、タンタルコンデンサやタイミングデバイスで高い市場シェアの維持を図ると同時に、積層セラミックコンデンサやコネクタにおいては市場シェアの向上を目指します。
また、事業拡大を支える生産体制の確立に向け3年間合計で2,100億円の設備投資を計画しており、生産能力拡大に向けたグローバル体制の構築と自動化・省人化に不可欠なデジタル技術の積極採用を進めます。具体的には、タイでの新工場建設や鹿児島国分工場での新棟建設に加え、既存のKAVX拠点への自動化ラインの導入を推進します。
これらの取り組みを通じ、シナジーを発揮することで市場成長率を上回る成長を目指します。
c. ソリューション
(a) 経営戦略
・既存事業の持続的な成長・拡大
・コミュニケーション事業及びエネルギー事業の構造改革による収益改善
(b) 中期目標(2026年3月期)
売上高1兆2,500億円
事業利益1,250億円
利益率10.0%

(c) 事業環境見通し及び主な事業戦略
当レポーティングセグメントの事業戦略は、既存事業の拡大及び構造改革の推進です。
既存事業の拡大については、機械工具事業及びドキュメントソリューション事業を中心に成長を図ります。機械工具事業の主要市場である切削工具市場は2023年から2025年にかけてCAGR4%の成長が予測されており、空圧・電動工具市場でも同程度の成長が期待されています。切削工具では付加価値の高い特注工具や新工法の開発力を活かし、成長産業や大手顧客の開拓を図り、アジア、欧州向けの販路を強化することで事業拡大を行います。空圧・電動工具では、開発、製造、販売、サービスまで一貫体制の強みを活かしたグローバルシェアの拡大と、充電プラットフォームの共通化等、事業内技術連携による付加価値創出に取り組みます。さらにドキュメントソリューション事業のベトナム生産拠点を活用する等、セグメント内でのリソースの有効活用による収益性向上に取り組み、米国での商業建築向けビジネスやMRO(副資材)等の新規ビジネスを強化することで事業拡大を図ります。
ドキュメントソリューション事業については、オフィスでのペーパーレス化が進み、MFP・プリンター市場のCAGRは2023年から2025年にかけて△4%と縮小する一方、商業用インクジェットは8%、ECM(Enterprise Contents Management)は5%と成長が予想されます。このような環境下、MFP・プリンターでは、長寿命設計の強みを活かした環境に優しい新製品の積極投入によるシェア拡大を図ります。商業用インクジェットでは多種多様な用紙への印刷が可能な新製品投入や、アパレル業界が抱える水質汚染と大量廃棄の社会課題解決に貢献する産業用デジタル捺染機FOREARTHを市場投入することで事業の拡大を図ります。ECM・ドキュメントBPO(Business Process Outsourcing)サービスでは、自社製ECMソフトウェアのラインアップ拡充とグローバル展開を図ります。ドキュメントソリューションの強みでもある、環境に優しい製品とソリューションの組み合わせで、持続可能な社会実現に貢献していきます。
構造改革については、コミュニケーション事業及びエネルギー事業の収益性向上に取り組みます。
コミュニケーション事業においては、事業構造の抜本的転換で商品・カテゴリーの選択と集中、及び法人向けソリューション事業への注力を進めていきます。具体的には、コンシューマー向けスマートフォン事業を終息させ、ミリ波5G通信等のインフラ関連事業や収益性の高い法人向け製品とそれに付随する通信ソリューションサービスの提供にシフトするとともに、京セラコミュニケーションシステム㈱の主力事業であるICTサービス、エンジニアリング事業を拡大していきます。
エネルギー事業については、再生可能エネルギー需要とエネルギー価格高騰に対応する法人向け電力販売サービスの拡大を進めます。太陽電池は、長期信頼性というブランド価値の訴求による事業拡大、蓄電池は、原価低減による収益性向上と新製品投入による販売拡大を図ります。また、多様な電源の再生可能エネルギーを調達し自社で需給管理を行い企業に電力を販売する「再エネ電力供給ビジネス」を推進することで、従来のモノ売りからコト売りへ転換を進めます。
以上の施策を通じて、市場性と収益性の両面から各事業の見極めを行い、将来の成長分野へリソースを集中・統合することで、成長と収益性の向上を図ります。