有価証券報告書-第105期(2023/04/01-2024/03/31)
(2) 戦略
① 組織が特定した、短期・中期・長期の気候関連のリスクと機会
気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change、以下“IPCC”)の最新の第6次評価報告書によりますと、地球温暖化が人間活動の影響で発生していることは「疑う余地がない」と評価されており、世界の平均気温は工業化以前(1850年頃)比較して既に約1.1℃上昇していると分析されています。今後、どのように気候変動が進んでいくか不確実な中、当社グループの財務に影響を及ぼす重要な気候関連のリスクと機会を特定するべく、TCFD提言で推奨されているシナリオ分析を実施しました。具体的なプロセス、前提条件、採用した2つのシナリオの概要については以下の通りです。
■シナリオ分析のプロセス
■シナリオ分析の前提条件
■採用シナリオの概要
・1850~1900年を基準とした世界平均気温の変化

(出所)IPCC 第6次評価報告書 第一作業部会(WG1) 政策決定者向け要約(SPM)
② 気候関連のリスクと機会が組織の事業、戦略、財務計画に及ぼす影響
シナリオ分析で特定した気候関連のリスクと機会、及び財務影響、対応策・戦略は以下の通りです。
③ 複数シナリオを考慮した、組織戦略のレジリエンス
シナリオ分析結果を要約しますと、1.5℃シナリオにおいては、炭素税や非鉄金属価格の高騰リスクによる財務影響が大きいと想定されるものの、GHG排出量の削減や適時適切な販売価格への反映で影響を抑えてまいります。機会として、当社の主力製品であるダイヤモンド工具は長寿命、高能率という特徴を持ち、気候変動の緩和に向けたソリューションとして販売拡大が想定されます。特に、電子・半導体市場向けの工具需要が伸長すると考えており、研究開発強化、生産設備増強及び販売強化により機会の取り込みを図ってまいります。
4℃シナリオにおいて、2030年時点では急性リスクは顕在化せず当社財務に与える影響は小さいものの、2050年までの時間軸においては河川沿いの工場や営業拠点においてリスクが高まる可能性があるため、BCP体制の継続的な強化等の対策を講じて財務影響の極小化を図りつつ、国土強靭化に向けた建設業界向け工具需要の取り込みを図ってまいります。
いずれのシナリオにおいてもレジリエント(強靭)に当社グループが企業価値を向上していけるよう、今後も継続的にシナリオ分析を実施の上、対応策・戦略の実践を進めてまいります。
① 組織が特定した、短期・中期・長期の気候関連のリスクと機会
気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change、以下“IPCC”)の最新の第6次評価報告書によりますと、地球温暖化が人間活動の影響で発生していることは「疑う余地がない」と評価されており、世界の平均気温は工業化以前(1850年頃)比較して既に約1.1℃上昇していると分析されています。今後、どのように気候変動が進んでいくか不確実な中、当社グループの財務に影響を及ぼす重要な気候関連のリスクと機会を特定するべく、TCFD提言で推奨されているシナリオ分析を実施しました。具体的なプロセス、前提条件、採用した2つのシナリオの概要については以下の通りです。
■シナリオ分析のプロセス
| 1.前提条件の設定 | 対象事業部門(当社及び国内連結子会社2社)、時間軸、影響度、 採用シナリオを選定 |
| 2.リスクと機会の重要度評価及び特定 | 採用シナリオの参考文献から、今後想定される気候関連リスクと機会を幅広く洗い出した上で、当社にとって重要なリスクと機会を集約・特定 |
| 3.インパクト評価 | 重要と特定された気候関連リスクと機会につき、定量分析が可能な項目については2030年時点(一部2050年時点)における財務的影響を算定 |
| 4.戦略・対応策の検討 | 財務的影響の算定結果を踏まえ、リスクと機会に対する対応策や戦略を策定 |
■シナリオ分析の前提条件
| 対象事業部門 | 時間軸 | 財務影響 |
| 当社及び国内連結子会社2社 | 短期:~単年度 中期:~2030年度 長期:~2050年度 | 営業利益(単年度)への影響を基準として、 大:1億円以上 中:10百万円以上1億円未満 小:10百万円未満 |
■採用シナリオの概要
| 採用シナリオ | 想定事象・主なパラメータ | 主な参考文献 |
| 1.5℃シナリオ | ・気候変動政策を導入し、持続可能な発展が進むシナリオ。パリ協定と整合し、2050年頃にカーボンニュートラルを実現。2100年時点の気温上昇は1.5℃以下に抑えられる。 ・世界各国でカーボンプライシングの導入が進み、世界的に炭素税が上昇。2030年時点で140USD/t-CO2を想定。 ・化石燃料の需要が低下し価格が下落。電力については、再エネ比率が2050年時点で80%まで上昇見込。 | IEA World Energy Outlook 2023 (NZE2050) IPCC 第6次評価報告書(SSP1-1.9) |
| 4℃シナリオ | ・気候変動政策を導入せず、自然災害が激甚化するシナリオ。2100年時点の気温上昇は4.4℃を想定。 ・世界各国でカーボンプライシングの導入は進まず現状程度で推移。 ・化石燃料の需要は増え続け価格も上昇。電力についても、化石燃料が主で再エネ比率は2050年時点65%に留まる(STEPS)。 ・GHG排出量削減の遅れにより、温暖化が進行し、急性的な異常気象(サイクロン・洪水等)が増加。慢性的な影響により、2100年時点で最大1.1mの海面上昇リスクもあり。 | IEA World Energy Outlook 2023 (Pre-Paris/STEPS) IPCC 第6次評価報告書(SSP5-8.5) |
・1850~1900年を基準とした世界平均気温の変化

(出所)IPCC 第6次評価報告書 第一作業部会(WG1) 政策決定者向け要約(SPM)
② 気候関連のリスクと機会が組織の事業、戦略、財務計画に及ぼす影響
シナリオ分析で特定した気候関連のリスクと機会、及び財務影響、対応策・戦略は以下の通りです。
| リスク ・機会 | 細区分 | 要因・ ドライバー | 当社財務への 影響概要 | 時間軸 | 1.5℃ シナリオ 財務影響 | 4℃ シナリオ 財務影響 | 対応策・戦略 |
| 2030年 | 2030年 | ||||||
| 移行リスク | 政策 ・法規制 | 炭素税・カーボンプライシング導入 | 炭素税導入または排出権取引に伴い、製造コストが増加する恐れがある | 中―長期 | 大 | 小 | ■当社工具の長寿命化、工具のリサイクル普及によるライフサイクルCO2排出量の低減 ■電力・エネルギー使用の合理化によるCO2排出量の削減 ■製造工程の改善によるCO2排出量の削減 ■工場における太陽光発電の活用(三重、千葉、山梨の3工場で太陽光発電を導入済。随時追加導入を検討) ■気候変動対応に関する全社的な教育、社内浸透の推進 |
| 脱炭素政策推進に向けたエネルギー・電力規制強化 | 脱炭素化政策推進により、化石燃料由来のエネルギー(電力)や原材料の調達コストが増加する恐れがある | 中―長期 | 小 | 小 | |||
| GHG排出量等、環境データの報告義務強化 | 報告・開示義務の厳格化やサプライチェーン企業の要請により、情報開示・レポーティングに係る事業コストが増加する恐れがある | 中期 | 中 | 小 | ■ITを活用した社内データの収集及び管理の効率化 | ||
| 技術 | 低炭素技術への移行のための先行コスト | 製造工程の脱炭素化に係る設備投資コストが増加する恐れがある | 中期 | 中 | 小 | ■製品開発の段階から、脱炭素化に配慮した製品・工程設計 ■投資対効果を見極めた上で適時適切な設備投資の実施 | |
| 市場 | 顧客行動の変化 | ガソリン車関連市場の縮小に伴い、当社関連製品・サービスの需要低下及び売上減少の恐れがある | 短―中期 | 大 | 小 | ■個別プロジェクト立ち上げによる動向調査やPDCA管理 ■内燃機関向けから電動化向けに開発・設計リソース投入 ■電動化で市場拡大が見込まれる業界への販売拡販 | |
| 原材料コストの高騰 | 電動化や再エネ等の脱炭素製品の需要増に伴う資源価格の高騰により、当社製品に使用されるアルミ、銅、レアメタル等の非鉄金属の調達コストが増加する恐れがある | 中―長期 | 大 | 小 | ■調達コストに応じた適時適切な製品価格の見直し・転嫁 ■代替仕入先や代替材料の検討推進 | ||
| 評判 | ステークホルダー(特に投資家)の影響低下 | 当社の気候変動対策が不十分と見做され、投資家・金融機関による評価低下や株価下落に繋がる恐れがある | 中期 | 小―中 | 小 | ■気候変動対策を適宜適切に実施するとともに、実施内容の適切な開示 ■環境マネジメントシステムに基づく法令遵守の徹底 |
| リスク ・機会 | 細区分 | 要因・ ドライバー | 当社財務への 影響概要 | 時間軸 | 1.5℃シナリオ財務影響 | 4℃シナリオ財務影響 | 対応策・戦略 |
| 2030年 | 2030年 | ||||||
| 物理的リスク | 急性リスク | 台風、洪水などの異常気象の激甚化 | 異常気象により、当社資産(固定資産及び在庫等)の毀損・特別損失の計上に繋がる恐れがある(=直接損害) | 長期 | 小 | 小(2050年は中) | ■BCM体制の継続的な強化 ■老朽建物及び設備の更新、補強 ■2社購買の普及 ■従業員教育の徹底 ■火災保険内容の適時適切な見直し及び補償拡充 |
| 異常気象により、当社の工場稼働の停止・売上の減少に繋がる恐れがある(=間接損害) | 長期 | 小 | 小(2050年は中) | ||||
| サプライヤーの被災による原材料の供給停止が、工場の稼働・出荷に影響し、売上減少する恐れがある | 長期 | 小 | 小 | ||||
| 慢性リスク | 平均気温の上昇 | 気温上昇により、空調コストが増加する恐れがある | 中―長期 | 小―中 | 中 | ■工場における省人化・自動化推進(自動測定・自動包装) ■健康経営の推進、工場内温熱環境の改善 ■安全衛生の観点から、勤務時間帯・勤務形態の柔軟な運用 | |
| 製造拠点、営業拠点ともに空調管理された環境ではあるが、さらなる気温上昇により、従業員の労働環境・生産性の悪化で操業コスト増に繋がる恐れがある | 長期 | 小 | 中 | ||||
| 機会 | 資源効率 | 効率的な生産及び流通プロセスの使用 | 省力化設備等の導入で工程が削減され、製造コスト低下が見込まれる | 中期 | 中―大 | 小 | ■設備投資時の戦略的な省力化設備の導入 ■プロセスイノベーションの推進 |
| 製品及びサ|ビス | 緩和に向けた商品及びサービスの開発・拡張 | ダイヤモンド工具は、その他の工具と比べて、長寿命かつ高能率であることから、製造現場での環境負荷削減に繋がるため売上増加が見込まれる。中でも、電着ダイヤモンドワイヤ「エコメップ」は特に環境負荷削減に寄与し、売上増加が見込まれる | 中期 | 大 | 小 | ■長寿命製品の更なる品質強化、開発、販売拡大 ■更なる加工時間短縮、加工能率アップを可能とする工具の開発 ■当社製品の省エネ性能や環境負荷削減効果の見える化・検証及びマーケティングでの活用 | |
| 半導体、電子部品市場拡大による関連製品の売上・収益性増加が見込まれる | 短―中期 | 大 | 小 | ■電子・半導体業界向け工具の研究開発強化、生産設備増強及び販売強化(パワー半導体等向け主要5製品など) |
| リスク ・機会 | 細区分 | 要因・ ドライバー | 当社財務への 影響概要 | 時間軸 | 1.5℃シナリオ財務影響 | 4℃シナリオ財務影響 | 対応策・戦略 |
| 2030年 | 2030年 | ||||||
| 機会 | 製品及びサ|ビス | 緩和に向けた商品及びサービスの開発・拡張 | 自動車市場における電動化の進展や蓄電池市場の拡大による関連製品の売上・収益性増加が見込まれる | 短―中期 | 中 | 小 | ■電動化、蓄電池市場向け工具の研究開発強化、生産設備増強及び販売強化(ベアリング関連製品、磁性材料用製品など) |
| レジリエンス | 適応に向けた商品及びサービスの開発・拡張 | 防災・国土強靭化に関連する製品・サービスの需要増、売上増加する恐れがある | 長期 | 小 | 中 | ■建設業界向け工具の研究開発強化、生産設備増強及び販売強化(石材建設用製品、老朽化した建造物の解体用製品など) |
③ 複数シナリオを考慮した、組織戦略のレジリエンス
シナリオ分析結果を要約しますと、1.5℃シナリオにおいては、炭素税や非鉄金属価格の高騰リスクによる財務影響が大きいと想定されるものの、GHG排出量の削減や適時適切な販売価格への反映で影響を抑えてまいります。機会として、当社の主力製品であるダイヤモンド工具は長寿命、高能率という特徴を持ち、気候変動の緩和に向けたソリューションとして販売拡大が想定されます。特に、電子・半導体市場向けの工具需要が伸長すると考えており、研究開発強化、生産設備増強及び販売強化により機会の取り込みを図ってまいります。
4℃シナリオにおいて、2030年時点では急性リスクは顕在化せず当社財務に与える影響は小さいものの、2050年までの時間軸においては河川沿いの工場や営業拠点においてリスクが高まる可能性があるため、BCP体制の継続的な強化等の対策を講じて財務影響の極小化を図りつつ、国土強靭化に向けた建設業界向け工具需要の取り込みを図ってまいります。
いずれのシナリオにおいてもレジリエント(強靭)に当社グループが企業価値を向上していけるよう、今後も継続的にシナリオ分析を実施の上、対応策・戦略の実践を進めてまいります。