有価証券報告書-第36期(2023/04/01-2024/03/31)

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2024/06/19 16:14
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148項目

対処すべき課題

当連結会計年度の経済及び情報サービス産業における経営環境は以下のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
国内及び海外の経済は、世界的な金融引締めや物価上昇等の影響があるものの、全体としては緩やかな回復基調にあります。
景気の先行きについては、引き続き改善方向とは思われますが、地政学的問題等による海外景気の下振れ、金融資本市場の変動等のリスクには十分に注意する必要があります。
国内の情報サービス産業においては、お客様企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みが引き続き本格化しており、物価上昇等IT投資抑制の要因となり得る要素はあるものの、需要環境はより堅調に推移していくものと見られています。
海外の情報サービス産業においても、世界的な金融引締めの影響によるIT投資抑制は懸念され、一部の地域において弱さが見られるものの、お客様企業におけるDXの加速、デジタル領域シフトの需要は継続しており、需要環境は堅調に推移していくものと見られています。
[経営施策の取り組み状況]
当社グループは、2025年のGlobal 3rd Stage達成に向けて、「Realizing a Sustainable Future」をスローガンに掲げ、未来に向けた価値をつくり、さまざまな人々をテクノロジーでつなぐことでお客様とともにサステナブルな社会を実現することを目指します。その実現に向け、中期経営計画で策定した5つの戦略とサステナビリティ経営を推進しました。2023年7月に、当社グループは持株会社体制に移行し、当社は「株式会社NTTデータグループ」に商号変更しました。
戦略1. ITとConnectivityの融合による新たなサービスの創出
ITとConnectivityを融合したEdgeからCloudまでを含む総合的なマネージドサービスの提供や、企業・業界の枠を超えた業際連携を実現し、新たな社会プラットフォームや革新的なサービスの創出に取り組んでいます。
当社グループの従来からの強みであるシステム構築力と、2022年から新たにグループに加わったNTT Ltd.のEdge to Cloud におけるサービスオペレーション力を連携させた成果が、2023年度においても引き続き上がっています。例えば北米では、グローバルに事業展開する製造業のお客様から、倉庫内でのフォークリフトの自動制御を目的としたプラットフォーム構築案件を獲得しました。
また、社会課題への取り組みにおいては、防災情報処理伝達システム「DPIS」をインドネシアに提供することが決定しました。政府から災害情報を迅速に発信して国民の安全・安心を守るためのシステムであり、将来的にインドネシアにおいて複数の防災関係機関情報の統合化・標準化を目指します。さらに、世界各国へ日本の防災DXソリューション・防災ノウハウの展開を目指します。
戦略2.Foresight起点のコンサルティング力強化
お客様・業界の未来を構想するインダストリコンサルティング力と、テクノロジー起点で未来を構想するテクノロジーコンサルティング力を強化し、共創パートナーとしてお客様の成長を支え、ビジネス変革を実現していきます。
Foresight起点でのお客様への価値提供力を生かし、2023年度においては、運輸業界のお客様に対して、経営課題にアプローチし、変革の提言から成果創出まで遂行するなど、既存の事業領域を超えた案件を獲得しました。
戦略3.アセットベースのビジネスモデルへの進化
グローバルレベルで当社グループ内の技術・知見・経験等をアセット化し、それらを有効活用することで、お客様への提供価値を最大化していきます。
2023年度においては、地方銀行様向け共同システム「MEJAR」(注1)に、勘定系システムをオープン化するフレームワーク「PITON」(注2)を適用し、銀行業界初となるマルチバンクオープン勘定系システムの稼働を開始しました。今後も「PITON」を活用し金融勘定系システムのオープン化を進めるとともに、将来的なバンキングシステム専用クラウドの実現に向け取り組みます。
戦略4.先進技術活用力とシステム開発技術力の強化
未来の競争力獲得に向けた先進技術活用力の強化と生産性向上に向けたシステム開発技術力の強化を両輪で進めています。
2023年度においては、Generative AI 推進室を設立し、グローバルレベルでの生成AI展開戦略を通じてお客様のバリューチェーンの変革に注力するとともに、生成AIを活用した抜本的な業務効率の向上、イノベーションの促進、企業文化の醸成等社内の大きな変革を推進しています。当社の保有する10以上の生成AI関連アセットを活用し、お客様との共創プロジェクトを200件程度グローバル横断で展開しているほか、社内でも生成AIの活用を推進しソフトウェア開発等における生産性向上に取り組んでいます。
これらの取り組みが評価され、HFS Research社発行の「HFS Horizons:Generative Enterprise Services, 2023」レポートにおいて最高位の評価である「Horizon 3 Market Leader」の1社に選出されました。
戦略5.人財・組織力の最大化
「Best Place to Work」をキーワードに、多様な人財が成長し活躍する魅力的な企業へと変革していくことを目指し、先進技術が学べる育成プログラムの導入、自律的キャリア支援、多様な人財が活躍できる制度・先進的な職場環境の整備に取り組んでいます。
約2カ月の集中プログラムでデジタルスキルの習得を図るDigital Boot Camp、先端領域での業務経験を獲得するためのDigital Acceleration Programや、AWS、Microsoft、Google Cloud等のパートナー企業とのアライアンスを通じたデジタル人財育成、若手から経営トップに至るまでの多くの女性社員が活躍できる環境づくり、LGBTQ等性的マイノリティに関する取り組み、障がい者雇用の促進施策を通じたDiversity Equity & Inclusion(注3)を推進しています。
これらの結果として、トップ・エンプロイヤー・インスティチュートより、世界29カ国と4地域においてTop Employer認定を受けるとともに、「Global Top Employer 2024」として認定を受けた企業17社の一つに名を連ねることとなりました。
また、Diversity Equity & Inclusionの領域で、包括的な評価を行う「Global Equality Standard」の認証を2023年5月に取得しました。
サステナビリティ経営
サステナブルな社会の実現に向けて、「Realizing a Sustainable Future」というスローガンのもと、事業活動と企業活動により、社会課題の解決や地球環境への貢献に取り組むことで、お客様とともに成長していきます。2022年7月には、「Regenerating Ecosystems(環境)」、「Clients' Growth(経済)」、「Inclusive Society(社会)」の3つの軸に加え、サステナビリティ経営を推進するために取り組むべき重要な課題として、9つのマテリアリティを策定しました。
2023年度における地球環境への貢献(Regenerating Ecosystems)については、グローバルで加速するNet-Zeroへの取り組み要請を踏まえ、2021年策定の気候変動対応ビジョンを改定し、2050年を改めて2040年までに自社並びにサプライチェーンの温室効果ガス排出量(Scope1~3)の実質ゼロ実現を目指す「NTT DATA NET-ZERO Vision 2040」を新たに策定しました。この計画に基づき、再生可能エネルギーの導入やデータセンターの低PUE化を推進し、自社のオペレーションにおけるデータセンターの直接・間接排出量(Scope1・2)について2030年までに、オフィス・その他を含めた自社全体のScope1・2について2035年までに、実質ゼロを目指します。Science Based Targets initiativeよりNet-Zero目標の認定も取得しました。
また、お客様のサステナビリティ経営に貢献するC-Turtle等のサステナビリティオファリングの創出を推進しており、C-Turtleはこれまでに累計1,000社への導入を達成しています。
これら当社の取り組みが評価され、CDP(注4)が実施するサプライヤーエンゲージメント評価において、最高評価の「サプライヤーエンゲージメント・リーダー」に2年連続で選定されたほか、米国のS&P Global社が発行した「The S&P Sustainability Yearbook 2024」において「情報技術サービスおよびインターネットソフトウェア・サービス」分野の上位1%に選定されました。
また、2024年4月から、国内外をまたぐサステナビリティ経営推進のためのガバナンス体制として、取締役副社長執行役員(提出日現在においては、代表取締役副社長執行役員)であるコーポレート総括担当役員を委員長とするサステナビリティ経営推進委員会を設置しています。
詳細については、「第一部 企業情報 第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組」をご参照ください。
持株会社体制への移行と新たな海外事業運営体制
これまで当社の日本国内の事業は継続的に拡大し、海外においても2022年10月のNTT Ltd.との事業統合により急速に事業が拡大しています。
これらの状況を踏まえて、当社グループは今後のさらなる事業拡大に向けたグローバル経営体制にシフトし、グローバルを前提とした戦略の下で国内・海外のニーズ、商習慣、法規制を踏まえてイノベーション、マーケティング、ガバナンス、デリバリーの仕組みを構築し、事業環境の変化に迅速に対応するため、2023年7月に持株会社体制へ移行しました。
当社がグループ経営における指揮管理を、国内事業会社である株式会社NTTデータ及び海外事業会社である株式会社NTT DATA, Inc.が自律的な事業運営を担う体制とすることで、機動的な事業運営と適切なガバナンスを推進しています。
また、2024年4月から株式会社NTT DATA, Inc.は新たなグローバル事業運営体制に移行しています。地域単位で一元的にオファリングを提供するリージョナルユニット、グローバルで共通的なサービスを提供するグローバルユニット、コーポレート機能を担うグローバル本社からなる体制とし、お客様エンゲージメントを強化するとともに、スケールメリットを生かしたグローバルでのサービスの提供能力を強化していきます。
[経営環境の見通し]
社会を取り巻く環境は日々大きく変化しており、地球環境への貢献を含む社会課題の解決と、新しい価値創造をはじめとする経済価値向上の両立等、企業経営に求められる要素は多様化しています。また、テクノロジーの進化を背景にさまざまなモノ・ヒトがつながることで、企業活動から人々の消費・生活スタイルまであらゆる社会トレンドが変化しています。これらにより、お客様のニーズも多様化・高度化し、ITサービスの重要性は引き続き高まっており、需要環境については堅調に推移していくものと見られています。
一方で、世界的な金融引締めと物価上昇等の影響による投資抑制や地政学的問題等による景気の下振れが懸念されているほか、IT市場においては、コンサルティング企業との競合や新規プレイヤーの参入等により競争環境は依然として激化しています。
このような環境において当社グループがお客様へ貢献し続けるために、グローバルレベルでのさらなる競争力強化及び財務健全性の確保が必要と考えています。
[対処すべき課題]
海外事業の質を伴った成長
国内事業に比べ収益性が低い海外事業の収益性改善に引き続き取り組む必要があると認識しています。
競争力の強化
DXに代表されるITサービスの重要性の高まり、また、競争環境の激化に対応するため、さらなるデジタル関連ケイパビリティの獲得等を進める必要があると認識しています。
事業成長に向けた投資
さらなる事業成長に向けた投資と、投資収益性や財務健全性への影響を考慮した適切な投資管理の必要性を認識しています。
人財の拡充
世界的に人財獲得競争が激化していることを踏まえ、多様な人財が長期に活躍できる環境・文化への変革に取り組む必要があると認識しています。
[課題への対処]
海外事業の質を伴った成長
海外事業全体の収益性・競争力を高めるため事業構造改革を進めており、海外EBITA率※は2022年度の8.0%から2023年度に8.6%まで改善しています。2024年4月から3つのリージョナルユニットと2つのグローバルユニットに再編し、シナジー創出を含む事業成長、海外事業構造改革の効果の発現により2025年度の海外EBITA率10%※の達成を目指します。
※M&A・構造改革等の一時的なコストを除く
競争力の強化
中期経営計画の5つの戦略の徹底を継続し、競争優位性強化を進め、高度化したニーズ・技術等に対応していきます。
事業成長に向けた投資
投資と成長の好循環の確立と、Global 3rd Stageに向けた事業成長のため、Strategic Investments、M&A投資、データセンター投資の枠組みで積極的な投資を継続します。
注力技術・Industry領域の強化や次世代ビジネスの創出を目的とするStrategic Investmentsは、投資枠を今中期経営計画から大幅に拡大しており、2023年度は300億円規模の支出を伴った施策を実施しました。2024年度も継続して同規模の投資を行います。 M&A投資については、デジタル関連ケイパビリティ獲得や北米等主要マーケットにおけるシェア拡大に向け、進めていきます。また、国内においても、コンサルティング力やデジタルテクノロジー及びシステム開発力の強化、アセット拡充を進め、さらに事業を拡大させていくため、積極的にM&A投資を行います。データセンター投資については、当社グループはグローバルでプレゼンスの高いデータセンター事業者であり、また本事業は将来的にも成長の継続が予測されていることから、中長期的な事業基盤の重要領域と位置付け積極的に投資を行います。
一方で、データセンター事業において設備投資額は有利子負債で調達しているため、金融費用も増加傾向にあります。引き続きNet Debt EBITDA 倍率を財務健全性の指標として、EBITDA創出力増加に合わせて有利子負債の増加をコントロールしていきます。
人財の拡充
国内では、新卒採用の拡充に加え、経験者採用の強化に向けジョブ型雇用制度が適用されるFlexible Grade、スペシャリストのキャリアパスを実現するTechnical Grade等の新人事制度活用や対外ブランディング強化を行い、デジタル人財の獲得を増加・拡充させていきます。
海外においては、グローバル成長戦略に必要な人財の確保をM&A等の手段も含めて進めています。
また、獲得した人財の多様な力を新たな競争力につなげ、高度化したニーズ・技術等への対応力を高めていくことが必要であると考えており、人財の活躍に向けた制度の充実と、グローバル共通のトレーニングメニューの確立や人財交流等を中長期視点で進めていきます。
(注1) MEJAR(Most Efficient Joint Advanced Regional banking-system)
当社グループが構築・銀行が主体で運営する、地方銀行・第二地方銀行向け基幹系共同センターです。次期MEJARは2030年頃開始予定です。
参加行は ㈱横浜銀行、㈱北海道銀行、㈱北陸銀行、㈱七十七銀行、㈱東日本銀行であり、㈱広島銀行が2030年度に参加予定です。
(注2) PITON
当社グループが提供する、メインフレーム上に構築されたシステムをオープン化するためのフレームワークです。
(注3) Diversity Equity & Inclusion
持続可能な社会の実現のために取り組むべき多様性、公平性、包摂性のことです。
(注4) CDP
投資家、企業、国家、地域、都市が自らの環境影響を管理するための、グローバルな情報開示システムを運営する、英国の慈善団体が管理する非政府組織(NGO)のことです。