有価証券報告書-第24期(2022/01/01-2022/12/31)

【提出】
2023/03/31 9:41
【資料】
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【項目】
130項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 会社の経営の基本方針
① 経営方針
当社グループは、「生命が長い時間をかけて獲得した遺伝子の力を借りて画期的な遺伝子医薬を開発・実用化し、人々の健康と希望にあふれた暮らしの実現に貢献する」ことを企業理念としています。
「遺伝子医薬のグローバルリーダー」となることがその柱です。これを実現するために、治療法のない病気に対する新薬を開発することで新市場を創出するという目標を掲げております。
② 利益配分に関する基本方針
当社グループの事業のステージは、現時点では創薬における先行投資の段階にあることから、利益配当は実施しておりません。
当社グループは研究開発活動を継続的に実施していく必要があることから、当面は、利益配当は実施せず、研究開発資金の確保を優先する方針です。しかしながら株主への利益還元についても重要な経営課題と認識しており、将来、収益が改善した折には、経営成績及び財政状態を勘案しながら、利益配当も検討する所存です。
③ 投資単位の引き下げに関する方針
投資単位の引き下げは、個人株主増加や株式流動性向上のために望ましい施策であると考えております。このため、投資単位の引き下げについては、株価の動向を見極めつつ、引き下げによる費用増加、当社株式の出来高、株主数、株主分布状況を考慮しながら、慎重に検討していきたいと考えております。
(2) 経営環境
従来は低分子化合物が中心であった医薬品市場は、創薬ターゲットの枯渇を背景に、抗体などのバイオ医薬品や核酸医薬品などの市場が拡大してモダリティ(※1)の多様化を迎えていますが、研究開発の成功確率は決して高くなく、研究開発費は年々増大する傾向にあります。また、治療技術の向上により再生医療や遺伝子治療など新たな治療法の開発も進み、さらにはゲノム解析技術の進歩による個別化医療の普及、デジタル・IT技術を用いたデジタル医療の登場など、治療選択肢は広がりを見せています。一方で、難病、希少疾患をはじめ、未だに治療法のない疾患も多数存在し、高いアンメット・メディカル・ニーズ(※2)があります。それら疾患の治療の実現に向けて、世界中のバイオベンチャーや製薬会社が研究開発を加速しています。
※1 低分子薬、抗体医薬、核酸医薬、細胞治療、遺伝子細胞治療、遺伝子治療などの治療手段のこと
※2 未だ満たされていない医療ニーズ、つまり有効な治療方法がない疾患に対する医療ニーズのこと
(3) 目標とする経営指標
当社グループは研究開発型の創薬系バイオベンチャーであり、利益が本格的に拡大するのは、現在開発している複数の新薬が上市され、提携先からロイヤリティの支払いを受ける時期になる予定です。従って、現段階においては、提携先から契約一時金や開発協力金を受け取り財務リスクの低減を図りながら、研究開発を進め、営業利益をはじめとした各種利益項目の黒字化を目指しております。
(4) 中長期的な会社の経営戦略
具体的には以下の方針に沿って事業を進めてまいります。
・主要製品「コラテジェン®」の製品価値最大化
当社の主要製品である遺伝子治療用製品「コラテジェン®」は、2019年3月に国内初の遺伝子治療用製品として条件及び期限付製造販売承認を厚生労働省から取得し、同年9月から販売しております。現在、製造販売後承認条件評価を進めており、日本国内における本承認に向けた準備を進めております。また、米国開発に経営資源を集中的に投入し、下肢潰瘍を有する慢性動脈閉塞症を適応症として米国での承認取得を目指しております。2022年12月には、後期第Ⅱ相臨床試験において予定した症例数の投与を完了いたしました。今後は、米国臨床試験で得られたデータを活用して欧州展開も目指します。さらにイスラエルでは、同国における独占販売権を許諾したKamada社が2022年にイスラエル保健省に対して承認申請を行い、現在販売開始に向けた準備を進めております。適応症についても、慢性動脈閉塞症の他に、「コラテジェン®」の生物活性を生かせる強皮症などの種々疾患への適応拡大の可能性を追求していきます。これらの諸施策により、「コラテジェン®」の製品価値の最大化をはかります。
・グローバル展開の推進
遺伝子医薬のグローバルリーダーとして、革新的な医薬品を世界中の患者さんにお届けする当社のミッションに従い、世界最大市場である米国及びこれに続く欧州主要国を中心に医薬品の開発並びに事業化のグローバル展開を推進します。既にグローバル展開に取り組んでいる「コラテジェン®」以外の品目についても、米国を中心にグローバル展開を視野に臨床開発を進め、グローバル・パートナーとの提携を活用した展開を進めていきます。
・創薬プラットフォームの深化と拡大
基本プラットフォームであるプラスミドDNA(※3)及び核酸(※4)について、プラットフォームの深化をはかりながら創薬を推進します。プラスミドDNAは、構造の改変や最適化、標的の臓器・組織に効率よく届ける薬物送達システム(Drug Delivery System:DDS)を組み合わせて、より効率の高い遺伝子発現を目指します。2022年9月よりスタンフォード大学と共同研究を開始した改良型DNAワクチンの経鼻投与製剤はこの一例です。核酸医薬については、現在椎間板性腰痛の治療薬として開発中のNF-κBデコイオリゴDNAにDDS等を組み合わせた他疾患領域への展開、miRNAをターゲットとした核酸医薬にも挑戦していきます。また、プラスミドDNAやウイルスベクター(※5)を用いて遺伝子を補充・付加する従来の遺伝子治療に加え、異常な遺伝子や不要な遺伝子の修復や破壊が可能な、究極の遺伝子治療とも言われるゲノム編集を用いた治療法の開発が世界的に進められ、激しい競争が繰り広げられています。2020年に子会社化したEmendo社は、新規CRISPRヌクレアーゼ(※6)を探索・最適化する独自のプラットフォーム技術(OMNI Platform)により疾患に応じて構築するゲノム編集戦略を用いて、これまでゲノム編集では対象とできなかった疾患を含め、様々な疾患に対する安全で有効な治療の開発を進めております。これらの取り組みにより、当社グループとしてパイプラインの拡大に繋げていきます。
・パイプラインの継続的拡大
当社グループの創薬プラットフォームを利用した研究開発によりパイプラインの継続的な拡大をはかりますが、遺伝子治療、核酸医薬、遺伝子編集を含む遺伝子医薬の領域は極めて進歩が速く、多様なモダリティーの開発が進められている技術分野です。そのため、当社グループは、国内外の大学などで生まれた研究成果や、国内外の企業の開発品を積極的に導入し、開発パイプラインの継続的な拡大を図っていきます。またこれまでに資本参加したMyBiotics Pharma Ltd.(ビジネス対象:マイクロバイオーム(※7)-常在菌の培養、製剤化)なども活用し、各種疾患の治療や予防、健康維持の製品開発及び診断事業など具体的なビジネスに向けた取り組みを行っていきます。
・希少遺伝性疾患への取り組み強化及び検査事業の活用
2022年に希少遺伝性疾患のスクリーニング検査事業を開始したアンジェスクリニカルリサーチラボラトリー(以下「ACRL」といいます)では、スクリーニング検査の事業地域を広げ、検査の種類・項目を増やして事業の拡大をはかっていくのと並行して、当社グループの研究開発や事業への活用を推進していきます。当社グループは、希少遺伝性疾患であるムコ多糖症VI型の治療薬「ナグラザイム®」について、バイオマリンファーマシューティカルインク(米国)との提携に基づき、国内で承認を取得して販売した実績があり、小児科KOL(※8)とのネットワーク構築など希少遺伝性疾患治療薬を展開するためのノウハウを有しています。これらの実績とノウハウを活用して、希少遺伝的疾患ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群及びプロジェロイド・ラミノパチーの治療薬であるゾキンヴィについて、2022年5月に米国のバイオ医薬品企業 Eiger BioPharmaceuticals Inc.(以下「Eiger社」といいます)と締結した日本での独占販売契約に基づいて現在承認申請に向けた準備を進めていますが、ACRLにおいて、同疾患の検査を実施する準備を進めています。さらに、ゾキンヴィに続く希少遺伝性疾患治療薬やゲノム編集における遺伝子検査にもACRLの検査事業を活用していきます。これらの取り組みにより、当社グループの医薬品の研究開発・事業と検査事業を有機的に結び付けてシナジー効果を追求していきます。
※3 染色体とは別個に存在し、独立して複製する小さなDNA分子 遺伝子工学研究においてプラスミドDNAは必須のツール
※4 細胞核の中に存在している物質でDNAとRNA2つがあり、DNAは「親から子へ、細胞から細胞へ」性質を伝える遺伝子の本体として働いており、RNAはDNAの情報に基づいてタンパク質を合成する働きを担っています
※5 分子生物学研究において遺伝物質を細胞に送達するために使用される遺伝子の運び屋(ベクター)のうち、ウイルスをベースとしたもの
※6 ゲノム編集に使用されるDNAを切断する酵素
※7 ヒトの体に共生する微生物(細菌・真菌・ウイルスなど)の総体のこと
※8 Key Opinion Leader 知識が豊富で権威性があり影響力を兼ね備えた医師などの専門家のこと
<当社グループの経営戦略>医薬品開発には一般に多額の資金と長い期間が必要であり、加えて開発の成功確率の点で大きなリスクを伴います。最先端の技術を使い革新的な医薬品開発に挑戦している当社グループの場合には、特にこれが当てはまります。さらに販売面においても、販売・マーケティング機能を自社で構築するには多額の資金を必要とします。このため、経営資源の限られたベンチャー企業である当社グループは、当社グループが開発中の医薬品の後期臨床開発や販売・マーケティングについては他の製薬企業と積極的に提携することで、提携先が持つ医薬品開発力・販売力を活用し、さらに提携先から契約一時金・マイルストーン及びロイヤリティを受け取ることで、開発・財務面でのリスクを低減することを目指しています。
なお、当社グループは、未だ先行投資の段階にあるため現時点では親会社株主に帰属する当期純損失を計上しておりますが、事業計画に沿って研究開発を着実に進め、将来、医薬品の販売から得られる収益によって損益を改善し、さらには利益を拡大する計画です。
<開発段階と収益構成>
<一般的な新薬開発のプロセスと期間>
プロセス期間内容
基礎研究2~3年医薬品ターゲットの同定、候補物質の創製及び絞込み
前臨床試験3~5年実験動物を用いた有効性及び安全性の確認試験
臨床試験3~7年第Ⅰ相:少数の健康人を対象に、安全性及び薬物動態を確認する試験
第Ⅱ相:少数の患者を対象に、有効性及び安全性を確認する試験
第Ⅲ相:多数の患者を対象に、有効性及び安全性を最終的に確認する試験
申請・承認1~2年国(厚生労働省)による審査

(5) 会社の対処すべき課題
当社グループは、創薬系バイオベンチャーとして、次世代のバイオ医薬品である遺伝子医薬(DNAプラスミド製剤、核酸医薬)や治療ワクチンなどの医薬品開発と製造販売の事業を推進しております。さらに2020年度より、先進のゲノム編集技術を有するEmendo社を買収し、事業基盤の拡大を推進してまいりました。
一方で医薬品事業は、製品化までに多額の資金と長い時間を要する等の特性があり、当社グループは継続的な営業損失の発生及び営業キャッシュ・フローのマイナスを計上している状況にあり、全ての開発投資を補うに足る収益は生じておりません。そのため、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在しております。
このような環境のもと、当社グループは、当該状況の解消と継続的な発展を目指し、下記を重要な課題として取組んでおります。
① 自社既存プロジェクトの推進
当社グループは、現在開発している医薬品等のプロジェクトを確実に進捗させることが当社の重要な課題と認識しております。
当社グループは、2019年3月に国内初の遺伝子治療用製品「コラテジェン®」の条件及び期限付承認を厚生労働省から取得し、同年9月から販売を開始いたしました。現在、製造販売後承認条件評価を行うとともに米国での閉塞性動脈硬化症を対象とした後期第Ⅱ相臨床試験を進めております。また、米国において第Ⅰ相臨床試験を実施した椎間板性腰痛症向け核酸医薬NF-κBデコイオリゴDNAは、2023年1月30日に日本国内における第Ⅱ相臨床試験を行うことを決定いたしました。また、2020年3月より開発を進めていた新型コロナウイルス感染症の武漢型予防DNAワクチンの開発は中止に至りましたが、広範な免疫応答を刺激し、ウイルスの増殖防止、拡散の阻止が期待される改良型DNAワクチンの経鼻投与製剤に関する共同研究をスタンフォード大学と開始いたしました。Vasomune Therapeutics, Inc.(以下「Vasomune社」といいます。)と共同開発しているTie2受容体アゴニストは2022年1月より重度の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による肺炎を対象に前期第Ⅱ相臨床試験を進めておりましたが、重症化しにくいオミクロン株への置き換わりが急速に進んだことにより、対象をインフルエンザ等のウイルス性及び細菌性肺炎を含む急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に広げ、臨床試験を米国及び南米で継続的に進めております。
これら開発中の医薬品について、今後も優先順位を意識しながら開発を進めてまいります。
② 開発パイプラインの拡充と事業基盤の拡大
当社グループの主力事業である医薬品開発では、開発品の製品化は非常に難易度が高いため、常に開発パイプラインを充実させることが重要な課題と認識しております。
当社グループはゲノム編集における先進技術を持つ子会社のEmendo社において、究極の遺伝子治療ともいわれるゲノム編集で具体的なプロジェクト化に向けて準備を進めています。同社は、ゲノム編集の安全な医療応用を目指し、新規CRISPRヌクレアーゼを探索・最適化するプラットフォーム技術(OMNI Platform)を確立しており、血液、眼科、肝代謝などの疾患領域についてパイプラインを構築しており、最も進んだELANE関連重症先天性好中球減少症を対象としたプロジェクトは米国での臨床試験実施に向けFDAと協議を開始しております。Emendo社ではゲノム編集技術の開発をとおして、遺伝性希少疾患に加え様々な疾患へのゲノム編集技術による治療を検討しております。
当社グループは、大変希少な致死性の遺伝的早老症であるハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群及びプロジェロイド・ラミノパチーの治療薬Zokinvyの日本での独占販売契約を2022年5月に米国のバイオ医薬品企業Eiger社と締結し、現在承認取得に向け準備を進めております。また、新型コロナウイルス感染症を含むウイルス性肺疾患に対する改良型DNAワクチンの経鼻投与製剤についてスタンフォード大学と開始した共同研究を進め、早期に臨床開発に移行し開発パイプライン拡大に繋げられるように取組んでまいります。
また、2021年に開設いたしましたACRLの「希少遺伝性疾患のオプショナルスクリーニング検査」はこれまで首都圏を対象として受託をしておりましたが、今後は対象地域の拡大並びに民間の検査会社などからの受託を目指し受託活動を進めてまいります。さらに、これまでのスクリーニング検査に加え、希少遺伝性疾患の確定検査や治療の効果をモニタリングするバイオマーカーの検査など、希少遺伝性疾患の診断から治療に至るまでの包括的な検査を実施できる体制の構築を進めてまいります。
これらの開発パイプラインの拡充や事業基盤の拡大により、当社グループは遺伝子治療の世界でグローバルリーダーを目指します。
今後も、ライセンス導入や共同開発、創薬プラットフォーム技術の獲得を目指した事業提携に加え、他社に対する資本参加や他社の買収等により開発品パイプラインの拡充による事業基盤の拡大を図り、将来の成長を実現してまいります。
③ 開発プロジェクトにおける提携先の確保
当社グループでは、製薬会社との提携により、開発リスクを低減するとともに、契約一時金・マイルストーンや開発協力金を受け取ることにより財務リスクを低減しながら開発を進め、上市後にロイヤリティを受領するという提携モデルを基本方針としております。
HGF遺伝子治療用製品「コラテジェン®」に関しましては、日本と米国を対象とした独占的販売契約を田辺三菱製薬と締結しており、マイルストーン収入やロイヤリティ収入が見込めます。また、イスラエルにおきましては、独占的販売権の許諾について2019年2月に基本合意書を締結したKamada社が、2022年にイスラエル保健省に承認申請を行い受理されました。さらにトルコにおいては、2020年10月にスペシャルティ薬(特定疾患専門薬)を扱うEr-Kim社と独占的販売権許諾に関する基本合意書を締結しました。
今後も、更なる製薬会社等との提携を検討するとともに、開発プロジェクトに協力いただける企業を開拓し、事業基盤の強化に努めてまいります。
④ 資金調達の実施
当社グループにとって、研究開発活動及び事業基盤の拡大を推進することは継続的な発展のために重要であり、そのためには状況に応じ機動的に資金調達を行うことが必要となります。2022年10月12日に発行したCantor Fitzgerald & Co.を割当先とする第42回新株予約権(第三者割当て)について2022年12月末日までにその一部が行使され、35億89百万円(新株予約権発行による入金を含む)を調達いたしました。今後も、研究開発活動推進及び企業活動維持のために必要となる資金調達の可能性を適宜検討してまいります。
しかしながら、現時点において上記に記載したプロジェクトを継続的に進めるための資金調達の方法、調達金額、調達時期については確定しておらず、継続企業の前提に関する重要な不確実性が存在していると判断しております。