有価証券報告書-第9期(2023/04/01-2024/03/31)

【提出】
2024/06/17 15:47
【資料】
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【項目】
161項目
(2)「戦略」
①気候変動に関する事項
当社グループは、気候変動を含む環境課題を経営の重要課題として捉えており、2019年6月にTCFD提言への賛同を表明し、ホームページや統合報告書にて透明性のある開示に努めております。また、SDGsと事業の整合性を高めるために、2020年9月よりUNEP FI(国連環境計画・金融イニシアティブ)が提唱するPRB(責任銀行原則)に署名し、サステナブルファイナンスの推進に努めております。
A.リスクと機会
当社グループは、気候変動に起因するリスクが、事業運営、戦略、財務計画に影響を与えることを認識しております。シナリオ分析などを活用した気候関連のリスク管理に取り組むと同時に、脱炭素社会の実現に向け、お客様の温室効果ガス排出量削減やエネルギー効率向上に向けた投融資(サステナブルファイナンス)を事業機会と捉え、環境負荷軽減を目的とした金融面での取り組みを積極的に展開してまいります。
B.移行計画の策定


地域の脱炭素社会の実現に関して重要な役割を担う地域価値共創グループとして、Scope1・2における2030年度までのカーボンニュートラル(算定範囲:当社及び当社100%出資子会社)の達成を目指しております。
また、グループ内の取り組み・施策に加え、地域・お客様の脱炭素支援に向けた移行戦略の策定を行いました。
2023年度は環境省のポートフォリオ・カーボン分析支援事業に採択され、投融資先のCO2排出量の総量の分析・把握を行い、高排出セクターである畜産セクターを想定した移行戦略の検討を行いました。
なお、投融資先のCO2排出量の算定にあたっては、2022年5月に加盟した国際イニシアティブ「Partnership for Carbon Accounting Financials(PCAF)」の基準に則り、引き続き開示の充実に取り組んでまいります。
肥後銀行においては、2024年1月に100%出資の再生可能エネルギー事業子会社として株式会社KSエナジーを設立しました。また、CO2排出量算定システム「Zero-Carbon-System(通称:炭削くん」)」を開発し、サービスの提供を開始しております。
また、鹿児島銀行では、2024年4月に産学官金の連携による「鹿児島県畜産業におけるGX推進及び産業振興に向けた連携協定」を締結し、牛から排出される温室効果ガスの削減及び生産コストの低減・生産性向上に向けた取り組みを進めております。
脱炭素をはじめとする環境課題に対してグループ全体での知見を深め、今後も地域ならびにお客様のCO2排出量の可視化と削減に向けた取り組みを進めてまいります。
C.シナリオ分析
事業における気候変動の影響を具体的に把握するため、肥後銀行、鹿児島銀行において2050年までのシナリオ分析を実施し、グループ全体でシナリオ分析の高度化、精緻化を行いました。
気候関連リスクとして、「物理的リスク」と「移行リスク」を認識し、「物理的リスク」では水災など異常気象に伴う資産の毀損による信用コストの増大、「移行リスク」では気候変動に伴う規制強化や消費嗜好の変化などにより影響を受けるお客様に対する信用コストの増大を想定しております。
<物理的リスク>気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の8.5シナリオ(4℃シナリオ)を前提とし、気候変動に起因する自然災害の大半を占め、九州で特に発生確率の高い水災による信用コストへの影響を試算しました。
水災などによる肥後銀行と鹿児島銀行が設定している担保不動産の損傷に起因する価値毀損の推計結果(直接影響)及び建物の損傷に起因するお客様の事業停滞日数の推計結果(間接影響)から、2050年までの信用コストの増加額は最大で66億円程度という結果になりました。
直接影響
(担保価値毀損)
間接影響
(お客様の事業停滞による業績悪化)
リスクイベント水災
シナリオ4℃シナリオ(※1)
地域熊本県・鹿児島県・宮崎県
リスク指標信用コスト
分析結果(※2)信用コスト増加額17億円信用コスト増加額49億円

※1 国土交通省が公表するハザードマップ及び「治水経済調査マニュアル」を使用し、資産ごとの浸水深及び浸水深に応じた被害額を算定しております。
※2 IPCCによるRCP8.5シナリオ等を参照しています。
<移行リスク>TCFD提言にて定義されるエネルギーセクターにおいて、移行リスクの定量化を実施いたしました。選定したセクターにおける当社グループの融資先について、炭素税やエネルギー価格及び製品構成の変化による融資先の営業費用への影響、および需要の増減に伴う売上への影響から、信用コストの増加額を試算しました。2050年までの信用コストの増加額は単年度最大で146億円程度という結果となりました。今後は、分析対象の拡大を通じて移行リスクの精緻化を図ってまいります。
直接影響
シナリオ1.5℃シナリオ(※)
分析対象TCFDが定義するエネルギーセクター
地域国内
分析期間2050年まで
リスク指標信用コスト
分析結果単年度最大で146億円程度

※IEA(国際エネルギー機関)による2050年ネットゼロ排出シナリオ(NZE2050)を参照しております。
ただし、NZE2050シナリオにはない日本のシナリオデータについては、必要に応じて表明宣言シナリオ(APS)等により補完しております。
D.炭素関連資産
当社グループの貸出金に占める炭素関連セクターの割合は以下のとおりです。
エネルギー運輸素材・建築物農業・食料・林産物
1.96%2.14%10.49%3.04%

※TCFD提言及び日本標準産業分類並びに肥後銀行・鹿児島銀行の業種コード等を用いて分類
[エネルギー]石油及びガス、石炭、電力ユーティリティ
(再生可能エネルギー発電者、独立系発電事業者、水道事業者を除く)
[運輸]航空貨物、旅客空輸、海上輸送、鉄道輸送、トラックサービス、自動車及び部品
[素材・建築物]金属・鉱業、化学、建設資材、資本財、不動産管理・開発
[農業・食料・林産物]飲料、農業、加工食品・加工肉、製紙・林業製品
E.物理的リスク・移行リスクを踏まえた当社グループの主なリスクと機会
短期(3年以内)、中期(3~10年)、長期(10年以上)の時間軸で気候変動に伴うリスクと機会の分析を行っております。
リスク異常気象の激甚化によるお客様の事業活動の停滞、物損被害の発生によって、お客様の事業や財務状況へ影響し、当社グループ貸出資産の価値が毀損する恐れがあります。(短期~長期)
環境問題への対応が競合と比べ劣後することにより当社グループの企業評価が低下する恐れがあります。(短期~長期)
炭素税導入、石油石炭税率引き上げ等の気候変動に関連する政策や温室効果ガス(GHG)排出規制や新築建築物のエネルギー効率規制の強化によって、お客様の事業や財務状況へ影響し、当社グループ貸出資産の価値が毀損する恐れがあります。(中期~長期)
機会エネルギーセクターにおける再生可能エネルギーの普及、不動産セクターにおける高効率建築や低炭素建材の導入、自動車・運輸セクターにおける電気自動車や低炭素技術の拡大など、お客様の脱炭素化に向けた設備投資等による資金需要の増加が見込まれます。(短期~長期)
自然災害の激甚化や環境配慮意識の向上によるお客様の行動変化により、自然災害に備えた保険商品や環境保全に関連した金融商品・サービスの提供機会の増加が見込まれます。(短期~長期)
すべてのセクターに共通して、異常気象の激甚化により、お客様の防災設備への追加インフラ投資等による資金需要の増加が見込まれます。(中期~長期)

②生物多様性に関する事項
当社グループは、2022年9月に「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)フォーラム」に参画し、2024年1月にTNFD提言の早期採用企業へ登録いたしました。また、2024年4月に、グループにおける自然資本・生物多様性への取り組み推進のため「生物多様性保全方針」を制定いたしました。また、生物多様性を身近に感じる機会の提供として、グループ共通スマートフォンアプリ「Hugmeg(ハグメグ)」において、株式会社バイオームが提供するいきものコレクションアプリ「Biome」との連携企画『南九州いきものクエスト』を2024年4月から7月に実施しています。
当社グループの事業活動と自然資本の関係を依存と影響という観点で整理するため、ENCOREツールを用い、11セクターの分析を行いました。分析の結果、生態系サービスへの依存関係においては「地下水」「地表水」「水質」「洪水・暴風抑制」への依存が、自然資本への影響関係においては、「GHG排出量」「水質汚染物質」「水の利用」への影響が大きいことがわかりました。今後は、TNFD提言で推奨されているLEAPアプローチを用い分析を進めてまいります。


現在、熊本県においては、ビジネスにおける土地利用の転換の加速や水需要の増大により、地下水涵養量の減少が懸念されています。そのような中、肥後銀行では、ウォーターポジティブ実現のための科学に基づくシナリオの見える化とネイチャーファイナンスのメカニズム開発に関する有識者の勉強会に参加しております。
また、生物多様性に関しては、JBIBや30by30アライアンスなど各種イニシアティブへ参画し、業種の垣根を越えた情報交換に努めております。今後も、長年取り組んでいる水資源涵養事業などの環境保全活動等を通じた地域貢献を継続するとともに、事業活動を通じた自然資本・生物多様性への依存と影響、リスクと機会を認識し、施策の検討と透明性のある開示に努めてまいります。
③人的資本に関する事項
<人材育成方針>
当社グループは、パーパスにもとづき、私たちの共創ビジョンを実現するため、金融の枠にとどまらない様々なフィールドで貢献できる多様な人材を育成してまいります。

(主な取組み)
・地域総合金融事業の深化に向けた人材育成
役職・業務分野に応じ金融業務能力の向上を図るため「年次・役職別研修」をはじめ、金融コンサルティング、事業再生支援、市場運用等の「業務別研修」を行い、金融機能の徹底した深化・強化に向けて人材の育成に取り組んでおります。
・地域価値共創事業の拡充のための人材育成
地域とともに成長し、活力あふれる地域社会の実現に向け、グループ一体で地域価値共創分野における人材の育成に取り組んでおります。
・デジタル社会に向けたDX推進を担う人材の育成
デジタル社会への環境変化に対応した資質・能力を育み、地域のデジタル化・高付加価値化をけん引する人材の育成に取り組んでおります。
・KFGビジネスモデル確立に向けた人材育成
事業展開が加速し、変化への対応が求められる中で、多様な価値観を持つ人材をまとめるリーダーや、次世代の当社収益基盤となる事業のリスク管理を担える人材の計画的育成に取り組んでおります。
・第四次グループ中期経営計画においては、上記人材育成方針の下、「未来のKFGグループを支える人材ポートフォリオの構築」をテーマに、各種施策を実施してまいります。

<社内環境整備方針>
当社グループは、人権方針に則り、自由闊達な組織風土のもと、従業員一人ひとりが能力を十分に発揮し、自分らしくいきいきと活躍することができる社内環境を構築してまいります。

(主な取組み)
・多様性の尊重とはたらきがいの向上
多様化する個人の価値観やライフスタイルの変化に対応するため、ライフイベントに応じた働き方の選択肢や家庭と仕事の両立支援を拡充することで、従業員一人ひとりが主体的にキャリアパスを描くことができる環境を提供してまいります。
・多様な学習と挑戦機会の提供
従業員一人ひとりの自律的成長を支援するため、時間や場所にとらわれない多様な学習機会を積極的に提供するとともに、従業員自らが手を挙げて、多様なフィールドにチャレンジする機会を提供し、新しいことへの挑戦や成長意欲を支援する体制を整備してまいります。
・こころと体の健康増進支援
従業員がいきいきとやりがいをもって働き、お客様の信頼と期待に応え、地域とともに成長し、活力あふれる地域社会の実現に貢献できるよう、従業員一人ひとりのこころと体の健康増進に取組み、健康経営を実践してまいります。
肥後銀行及び鹿児島銀行は、ともに頭取を「健康経営責任者」として、健康保険組合等とも連携し、課題解決に向けた「健康経営戦略マップ」を策定して、健康経営推進に取り組んでおります。
※2023年度は、肥後銀行、鹿児島銀行ともに経済産業省と日本健康会議が共同で実施する「健康経営優良法人2024(大規模法人部門)」に認定され、肥後銀行はホワイト500として認定されております。
・第四次グループ中期経営計画においては、上記社内環境整備方針の下、「多様な人材が活躍する働きやすい職場環境の構築」をテーマに各種施策を実施してまいります。