有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2020/06/11 15:01
【資料】
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【項目】
125項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において、当社が判断したものであります。
(1) 会社の経営の基本方針
当社は、「イノベーション( i )を3乗(Cube)する」という思いを社名に冠し、「ITをもっと身近に」をミッションとして、最良のテクノロジーと最高のエンジニアリングを用いることで創り出すサービスがそれぞれの企業活動に革新をもたらし、人々の生活をより豊かな方向へと導いていくイノベーションの連鎖を生み出すサービスの創造に挑戦し続けております。また、「笑顔をつくるソリューションカンパニー」というビジョンを掲げ、笑顔の多い、よりよい社会を実現するために、未来にふさわしい新たな価値づくりに貢献することを目指しております。
(2) 目標とする経営指標
CLOMOの導入社数(CLOMOを導入している企業などの法人や、学校や官公庁などの公的機関の組織数)、ライセンス継続率を指標としております。
(3) 経営環境と経営戦略
当社の主軸事業であるCLOMO事業は、モバイル端末管理市場に属しており、B to BのSaaS事業を提供しております。今後のマーケット動向としては、法人のスマートフォン導入加速と、フィーチャーフォン(従来型携帯電話)からのスマートフォンへの変更、PHSのサービス終了に伴う医療機関でのスマートフォンの導入により、スマートフォン・タブレット等のモバイル端末の出荷数の増加が見込まれております。スマートフォン・タブレット等のモバイル利用の普及に伴い、モバイル端末の管理や、モバイル端末を利用しての業務効率のニーズが増加すると期待されています。
さらに、当社のビジネスモデルであるサブスクリプションビジネス(ソフトウェアの購入ではなく、利用期間に応じて料金を支払う契約形態のビジネス)は、従来のプロダクト販売型ビジネスとは違い、物の所有から必要に応じて利用することへの大きな変革を生み出し、多額の設備投資や煩雑な事務処理を少額の利用料と簡易的な事務処理へ変化させることにより、そのニーズは世界的に広まっております。
また、モバイル端末管理市場はPCのSIM対応(常時ネット接続対応)によるMDMのPC管理市場への進出やIoT市場でのセキュリティ強化により市場の拡大の可能性があります。

このような環境下で、当社は、携帯電話販売会社である株式会社NTTドコモとの協業を中心として大きく顧客数を伸ばしております。今後については、CLOMO事業の拡大に経営資源を集中することが重要と判断し、以下の4点の特徴及び強みを活かし企業価値の向上を図ってまいります。
① 統合的な一貫体制(競争力の源泉)
当社は、ソフトウェア開発・ライセンス販売・サービスの運用・プラットフォームの管理・カスタマーサポートの全ての業務を自社でコントロールし、統合的な一貫体制が構築されております。したがって、サービスの運用やカスタマーサポートで得た知見や顧客の要望を、新たなソフトウェアの開発や既存のソフトウェアの改善に速やかに生かすことが可能であり、それが当社の競争力の源泉となっております。
現在の主軸サービスであるCLOMO事業はもちろん、IoTなどの新たな技術対応や新サービスの提供も、この確立された体制により、効率的に収益性の高いサービスを提供することが可能であると考えております。

※1 ライセンス数の増加、高付加価値商品への転換による売上増
※2 機能追加による売上増
② 独立的で自由な販売戦略
当社は、携帯電話販売会社のいずれとも資本提携並びにOEM化(相手先ブランド名での提供)を行わず、多くの携帯電話販売会社やIT流通商社との広範囲な連携による販売協力体制が構築されており、独立的で自由な販売戦略を展開しております。
③ 低コストの収益構造
当社のCLOMOサービスは、クラウドを利用したSaaS事業であるため、クラウド上のソフトウェア管理コストだけで多くの顧客の対応が可能であり、ビジネス規模の拡大によるスケールメリットを享受することができます。
④ サブスクリプションビジネスによる収益の安定性と成長性
当社のCLOMOサービスは、サブスクリプションビジネスかつ半数以上の契約は年間契約であるため、当事業年度に獲得した新規注文のうち、当事業年度中に収益認識されるものは一部であり、残りは契約期間によって翌事業年度以降の収益となります。また、CLOMO MDM解約率(Churn Rate)は0.29%(注)となります。
(注)2019年6月期の月次の解約率の平均値。月次の解約率は、当月に解約されたライセンス数を、前月末時点で契約済みのライセンス数で除した値です。
月間解約率=(ある月の解約ライセンス数)÷(ある月の前月末時点の利用ライセンス数)

当社サービスは、毎月の新たな受注により積み上げ式のストックビジネスであるため、受注が解約を超過していれば、上記の図のとおりライセンス数が増加していきます。
(一般的なサブスクリプションビジネスのイメージ図)
(4) 当社の対処すべき課題
① 売上の拡大
当社が属するEMM(MDM)の市場は、スマートフォンのビジネス利用の増加により成長を遂げており、当社も取引企業数・ライセンス数の増加により、収益基盤が拡大しております。一方で海外からの参入も含め、国内市場においては競合他社も増えてきています。これまでは、国内の大企業が主な取引先でしたが、今後は中小企業や公共法人・自治体・学校や、これまでとは違った業種・業態への展開により国内シェアを拡大し収益を確保すると共に、海外も視野に入れた積極的な事業展開を実施してまいります。
一方で、当社の技術開発力をベースにした高機能化・周辺機能の追加・複数種類の端末の管理機能拡充などにより、アップセルとクロスセルを高め、顧客単位の売上増・コスト減少に取り組んでいく必要があると考えております。加えて顧客の信頼を厚くするためのサポート体制の充実(顧客定着・リピートオーダー・解約率の減少)、新規事業の展開が重要な経営課題と認識しております。
また、B to Bのクラウドを利用したSaaS事業でもあるため、顧客の予期せぬ急増や、一度に多量のライセンスを受注した場合においても、当社は新規で物理的なサーバー機器を調達、構築する必要がないことから円滑に対応でき、当社に大きな負担はありません。導入までのサポートを大きな負荷無く短期間で済ませることで、成長の一層の加速に取り組んでまいります。
② 組織人員体制(開発体制)
エンドユーザーの増加、特に大企業の増加に比例して、その要望や品質に対する要求レベルは年々高くなっており、質・量ともに開発体制を改善していくことは、エンドユーザーのニーズに応えていく上で必要不可欠な課題と考えております。近年のITエンジニアの採用環境については、売り手市場が継続しており厳しい状況となっております。この様な状況への対応として、エンジニアが成長し充実した仕事・生活ができる実感をもてるような環境を作り、それを対外的にアピールする機会を増やすことで、エンジニアにとって魅力的な職場としての認知を広めていきたいと考えております。また、内部のエンジニアに対する成長の機会を増やすため、社内勉強会の開催や社外勉強会への登壇、海外で開催するエンジニア向け年次カンファレンスなどへ積極的に参加してまいります。
③ 研究開発
毎期、事業の発展充実のため、積極的に研究開発活動に取り組んでおり、ライセンス数やアップセル・クロスセルの増加、解約率の低減のためにエンドユーザーのニーズを具現化することを進めております。自社の業務プロセス改善や業務の迅速化・効率化を目的とした研究開発も進めており、自社利用でノウハウを蓄積し、新サービス提供へ繋げる想定です。さらに、テスト自動化などを研究開発の対象としております。
④ 品質保証体制の強化
当社のエンドユーザーに提供するサービスを構成するソフトウェアについては、様々な施策を実施してきた結果、エンドユーザー満足度の向上によるユーザーの定着(解約率の低下)が進んできております。この取り組みは常に改善し、継続していかなければならないため、そのための仕組みづくりが課題と認識しております。この方向性を継続し、ソフトウェアエンジニアリングにおける改善をさらに進めることが課題と認識しております。品質改善に対するブレを少なくするため、ソフトウェアエンジニアへの研修などにより定期的な知識共有を進めます。検証体制においては、可能な限り製品検証体制の自動化を進め、人が実施すべき重要な部分については、特に改善活動を行う時間を確保するとともに、品質の精度を高めます。また、検証時間の短縮により、リリースサイクルが短縮化されることにもなります。当社はサービス品質向上のため、さまざまな改善活動に積極的に取り組むことを考えております。
⑤ カスタマーサクセスの体制構築
当社では、これまでの問題解決型の「カスタマーサポート」から、エンドユーザーの成功体験を目的とした「カスタマーサクセス」を達成する活動にシフトすることが今後の課題と認識しております。これは、エンドユーザーの製品利用状況を精緻に把握し、適切な利用法を提案することでエンドユーザーによるモバイル端末導入の効果を高めてもらう新しい取り組みです。エンドユーザーの成功に寄り添うことで、製品に対する心理的なロイヤルティが向上し、製品の継続利用やライセンスの追加、関連製品の購入などに繋がります。
既存のエンドユーザーの解約を防止するとともに、ARPS(Annual Revenue per Subscriber:会員年間売上)を増加することで、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を更に向上すべく、本活動をさらに強化してまいります。
⑥ 従業員の意欲、能力の向上
当社は、従業員の目標設定、評価方法を明確化し、従業員の評価の適正化を図るとともに、急速なIT技術の進歩やグローバル化にあわせて、この変革のスピードに対応できるような人材を育成していく体制を整えることも急務であると考えております。引き続きそれらを見据え、従業員一人一人の上昇志向と能力の向上を図ってまいります。