有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2020/06/26 15:00
【資料】
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【項目】
128項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在にて当社が判断したものであります。
(1)会社の中期ビジョン・経営の基本方針
①中期ビジョン
「テクノロジーで不動産領域に革新的プラットフォームを創造する」を中期ビジョンとして掲げ、不動産領域で真の価値を創造し、当社に関わる全ての人の幸福実現を目指しております。
②経営の基本方針
イ.不動産業務支援サービスをワンストップで提供する。
ロ.自社開発からアフターサポートまでの一貫したサービスを提供する。
ハ.付加価値の高い商品を開発・提供する。
ニ.お客様と真摯に向き合う営業、サポートを行う。
(2)中長期的な会社の経営戦略
当社が掲げる中期ビジョン「テクノロジーで不動産領域に革新的プラットフォームを創造する」を達成するためには、顧客基盤を拡大し、不動産業全体をカバーするサービス提供が重要であると認識しております。
当社では、不動産業の中核となる業者間物件流通サービス「不動産BB」を無償にすることにより、短期間で顧客基盤(無償ユーザー)を拡大し、構築した基盤に、有償サービスを投下しアップセルしていく戦略を実行しております。有償サービスのアップセルにあたっては「不動産BB」内で流通している物件情報を利用して、仲介業務支援サービスであるホームページ作成ツール「Web Manager Pro3」や不動産ポータルサイト連携「物件データ連動」を中心に顧客に提供し、物件情報の2次活用により効率的な仲介業務を支援いたします。加えて、仲介業務における新たなコミュニケーションの在り方となる非対面仲介サービスを提供し、これまで対面が常識であった内見や、入居申込み、重要事項説明を非対面で対応できるよう「Web内見」「電子入居申込」「IT重説」で支援いたします。また、管理業務支援サービスにおける当社の主要な製品である「賃貸革命」の販売にも注力し、「賃貸革命」の全国シェアも伸ばしていく方針です。
現在の不動産業界の労働生産性は他の業界に比して低く、その格差は広がりつつあります。従いまして不動産テック業界自体は拡大傾向で、不動産事業者によるIT投資市場は今後飛躍的な拡大が見込まれているという調査結果(出典:矢野経済研究所「不動産テック市場規模推移と予測」(2018年11月28日))もあります。少子高齢化に端を発した働き方改革の奨励、国土交通省主導での賃貸取引書面を電子化する社会実験の実施、電子決済においては経済産業省が2025年までに国内のキャッシュレス決済率を40%まで引き上げる目標を掲げるなど、当社の事業拡大の活動には大きな追い風が吹いていると同時に、当社はその中でも基幹システムを持つ有利なポジションであると考えております。
(出典:経済産業省「キャッシュレスの現状及び意義」(2020年1月))

また、不動産業務を支援するだけでなく、ITを活用して経営そのものを支援する方向に当社の事業を拡大すべく、取り組みを始めております。一つの例として、既に提供を開始している「賃貸革命 会計連動オプション」は、賃貸革命で管理する入出金のデータを主な会計ソフトとデータ連動することで、不動産会社の事業者としての経営管理を効率化することを目的としております。これは不動産業務支援の枠を超えた事業者への経営支援の第一歩であり、今後もこの「経営支援」の視点を持って事業者の課題解決に寄与するサービスを提供すべく、自社の基幹システムを最大限に活用しながらソリューション開発・外部連携を実施し、当社の事業拡大を有利に進めて参ります。
当社の事業活動の副産物として、不動産事業者が扱う膨大な物件データ、入居者属性データ等があります。これらは統計データとしての活用許諾を得ているデータであります。世の中では過去の不動産広告情報を蓄積してAI等で分析し、賃料や投資資産査定に活用するサービスも急成長しております。当社の有するデータは、流通する広告情報だけではなく、実際に存在する建物と居住者のリアルタイムな情報であり、データの入出力によってデータベースを日々拡張しております。このビッグデータを用いたサービスの一つとして、物件情報登録時に、該当する建物情報を入力候補として提示する機能を仲介業務支援サービスに加えており、当社既存サービスの利便性向上に寄与しております。今後は過去の不動産取引情報等を活かした市場における「消費者の購買分析」や、行政から公表される路線価・公示価格の情報を活用した「資産価値評価」などの新たな事業を進めてまいります。
更には、不動産購入時のソリューションとして住宅ローンの取次業など、金融商品・ファイナンス事業も進めてまいります。不動産の賃貸業務において当社は非対面仲介サービスを提供し、借り主と不動産会社をWebを通してシームレスに繋ぐ提案を行っておりますが、不動産売買業務においては住宅ローンの融資関連手続きなど、効率化できる要素が多く残っております。当社の既存商品を通じて蓄積された、買い主・物件・不動産会社・売り主のデータ情報を活用し、金融商品・ファイナンス事業での発展も進めてまいります。

(3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
高品質なサービスを安定的に提供していくためには、健全な財務基盤の維持が重要であると考えており、売上高の対前年増加額、収益性については経常利益の対前年増加額を重要指標としております。
(4)経営環境
当社における経営環境については、「第2 事業の状況3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ①財政状態及び経営成績の状況」の記載をご参照下さい。
(5)対処すべき課題
当社が対処すべき主な課題は以下のとおりであります。
①「不動産BB」のユーザー拡大
当社の成長を維持するためには、不動産業の中核にあたる業者間での物件情報共有を支援する業者間物件流通サービス「不動産BB」の利用者数を増やし、顧客基盤を拡大させていくことが重要であると認識しております。さらなる利用社数の拡大のために、既存ユーザーからの要望をサービスに反映する機能改善や、サービス未導入である大手管理会社への積極的な架電によるサービスのご案内など、「不動産BB」の利便性強化と利用促進に取り組んでおります。
②新規事業の強化
当社は、AI・ビッグデータを活用し、新規事業の強化を進めていくことが重要であると認識しております。当社が持つ膨大な物件情報・入居者属性のデータは、不動産市場における消費者の行動分析や購買分析、投資家に向けた資産価値の評価など、分析手法によって多数のアプローチが可能なデータであります。既にデータ活用の1つとして、物件情報データを活用し、システム内の入力補助となる機能を仲介集客支援サービスに備えておりますが、さらなる価値を顧客に提供するため、データサイエンスのアプローチから新たな付加価値を生み出し、新規事業の強化として取り組んでおります。今後は、当社に蓄積された物件データベースにアクセスし条件に一致する情報を反映させ、入力を補助する「入力補助機能」や当社のデータベースに蓄積された不動産取引の成約情報を活用し市場における消費者の購買分析を行う「消費者・購買分析」、過去の不動産取引の成約情報と行政より公表されている路線価・公示価格の情報をもとに資産価値の評価を行う「資産価値評価」等、新規事業の強化として取り組んでまいります。
また、不動産購入時のソリューションとなる金融商品・ファイナンス事業においても蓄積されたデータ活用を行い新規事業としての強化を行ってまいります。
③既存事業の強化(都道府県毎の導入率向上)
当社が提供する製品・サービスの導入社数は全国6,079社(2020年5月31日時点)となっておりますが、都道府県別の宅建業者に対する導入率には偏りがあり、最も導入率が高い都道府県においては約20%である一方、導入率が低い都道府県においては約6%となっております。導入率が高ければ、そのエリアにおいて効率的な活動ができることから収益性も高まります。当社としては、この導入率が低い都道府県に対し、販売の強化を行い、導入率を上げ、収益性を高めていくことが重要であると認識しております。現在、無償提供中である「不動産BB」による顧客基盤の拡大を行い、遠方地での商談においてはWeb会議システム等を活用しながら課題解決に向けて取り組んでおります。
④市場拡大・新規開業企業への対応
国土交通省の報告によれば、宅建業者数は微増で推移しており、なかでも法人業者数が増加傾向にあります。また、毎年5,000社以上の事業者が新規開業を行っており、その度に設備投資による商談の機会が創出されております。不動産事業へのソリューションを提供する当社としては、その機会に確実に当社の製品・サービスの魅力を伝え、早期に導入いただけるよう、販売の強化を行っていくことが重要であると認識しております。Webマーケティングによるプロモーション活動や顧客からの紹介案件の創出など、様々な角度から販売を強化し、課題解決に向けて取り組んでおります。
(出典:国土交通省「平成30年度宅地建物取引業法の施行状況調査結果」(2019年9月30日))
⑤政府動向への対応と不動産における労働生産性の向上
政府主導で推進される働き方改革やキャッシュレスの推進、世界最先端デジタル国家創造宣言などの重要な施策に対しては、当社の製品・サービスが時代にそぐわないものとならぬよう、常に最新の情報を入手しながら素早く対応を行うことが重要であると認識しております。また、日本の業種別GDP第2位で11.5%を占める「不動産業界」ですが、2000年を100とする労働生産性は、2017年に全業界では107.2と向上しているのに対し、不動産業界は78.1と悪化し、最下位となっています。また、米国と比べた場合には、IT資本投入は米国の1割程度で労働生産性は米国の4割程度というデータがあります。日本の労働生産性は政府の施策による後押しもあり今後成長していくことが予想されますが、当社も生産性向上に繋がる業務支援サービス提供事業社として、この課題解決に取り組んでおります。
(出典:総務省「ICTの経済分析に関する調査」(2019年3月)、厚生労働省「労働経済の分析」(2015年版))
⑥セキュリティ対策の向上
当社が進めている電子契約サービスにおいては、個人情報保護の観点から利用者に安心してサービスをご利用いただくための強固なセキュリティ対策を行い、今まで以上にデータの堅牢性を高める必要があります。Webアプリケーションを取り巻く脅威は常に時代と共に変化しており、多様化するサイバー攻撃を防ぐためには、積極的な研究開発を行い適切な対策を講じる事が重要であると考えているため、課題として取り組んでおります。
⑦人材の確保と育成
当社は、今後の事業拡大のための重要な経営資源は人材であると考えており、優秀な人材の確保と育成が重要な課題であると認識しております。積極的な採用活動を行い優秀な人材を採用していくとともに、社内における教育体制の強化に取り組んでおります。
⑧経営管理体制の強化
当社は、今後持続的な成長を図っていくためには、事業の成長や業容の拡大に伴い、経営管理体制のさらなる充実・強化が課題であると認識しており、株主やその他ステークホルダーに信頼される企業となるために、コーポレート・ガバナンスへの積極的な取組みが不可欠であると考えております。そのため、優秀な人材の採用・育成により業務執行体制の充実を図り、コーポレート・ガバナンスが有効に機能するような仕組みを強化・維持していくとともに、業務の適正性及び財務報告の信頼性を確保するための内部統制システムの適切な運用、さらに健全な倫理観に基づく法令遵守を徹底しております。