訂正有価証券届出書(新規公開時)

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2024/12/09 15:30
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176項目

対処すべき課題


文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において、当社グループが判断したものです。なお、本書で記載する市場データは外部の調査会社の調査に基づくものであり、当社では正確性を独自に検証しておらず、現在及び将来における実際の市場の規模・状況と大きく異なる可能性があります。
(1)経営の基本方針
当社グループは、「『記憶』で世界をおもしろくする。『記憶』の可能性を追求し、新しい価値を創り出すことで、これまでにない体験や経験を生み出し、世界を変えていく。」とのミッションのもと「『記憶』の技術をコアとして、一人ひとりの新たな未来を実現できる製品やサービス、仕組みを提供する。」というビジョンを掲げ、「メモリ技術」で新しい時代を切り拓き、世界を変えていくことを目指しています。
ミッション・ビジョンを実現するために、従業員一人ひとりが取り込んでいく価値観を以下の行動方針としてまとめています。
・ 一人ひとりが夢を持ち、語ることができる
・ 制約を設けず、可能性を追求する
・ 柔軟な発想で自ら考え、行動する
・ 多様な価値観を尊重し、協力し合う
・ 常に誠実さと、透明性をもって行動する
(2)経営環境及び経営方針
世界中に広がるデータエコノミーの波の中で、人々が扱うデジタルデータの総量は増加の一途を辿っており、これまで、日々増加するデジタルデータの処理のために、デジタルカメラ、スマートフォン、タブレット端末、PC等においてフラッシュメモリが使用されてきました。今後も、AIの発展を筆頭にクラウド、5G、IoT等の普及により、世界における生成データ量は、2023年から2028年まで年平均成長率24.4%で成長し、2028年には394ZB(ゼタバイト)(注)まで伸長することが予想されています(出典:IDC“Worldwide IDC Global DataSphere Forecast, 2024–2028: AI Everywhere, But Upsurge in Data Will Take Time”, Doc # US52076424, May 2024)。当社は、オートモーティブ、エンターテインメント、ロボティクス、医療・ヘルスケア、インダストリーなど様々なシーンでメモリが果たす役割が重要になると考え、フラッシュメモリの利用も伸長すると見込んでおります。
(注) ZB(ゼタバイト)とは、10の21乗バイトを指し、データの量やコンピュータの記憶装置の大きさを表す単位として使用されます。
また、フラッシュメモリの技術革新とそれによる記憶容量の増大は、様々なフラッシュメモリのアプリケーションへの採用と新しいマーケットの創出を牽引してきました。さらに、データ量の増加とフラッシュメモリの技術革新によって、HDDから、読み出し性能、衝撃・振動等の耐環境性、静寂性及び待機時の省消費電力性等により優れるSSDへの置き換えも進んでいます。データ量の増加とフラッシュメモリの技術革新の好循環によって、フラッシュメモリ市場は成長を続けるものと当社は考えており、第三者の調査機関であるTechInsightsによれば、フラッシュメモリ全体の需要は約2.7倍に伸長する(2023年-2028年(予想))と見込まれております(出典:TechInsights Inc.“NAND Market Report Q3 2024”)。
フラッシュメモリ市場における主要なアプリケーションはデータセンター、スマートフォン及びPCであり、TechInsightsによれば、データ総量ベースの各アプリケーションのフラッシュメモリ需要につき、データセンターの年平均成長率は38.9%(2023年-2028年(予想))、スマートフォンの年平均成長率は19.7%(2023年-2028年(予想))、PCの年平均成長率は13.0%(2023年-2028年(予想))と見込まれております(出典:TechInsights Inc.“NAND Market Report Q3 2024”)。
アプリケーション毎のフラッシュメモリの需要予想 単位:EB(注)
アプリケーション2023年2024年
(予想)
2025年
(予想)
2026年
(予想)
2027年
(予想)
2028年
(予想)
年平均成長率
(2023年-2028年)
(予想)
データセンター12721829536948965838.9%
スマートフォン29734640248358973019.7%
PC23525830133639143313.0%
その他44525769839817.2%
合計7038741,0551,2561,5521,91922.2%

出典:TechInsights Inc.“NAND Market Report Q3 2024”
(注) EB(エクサバイト)とは、10の18乗バイトを指し、データの量やコンピュータの記憶装置の大きさを表す単位として使用されます。
近年は、AI活用の普及やクラウドコンピューティング等ビッグデータビジネスの進展により、データセンター、エンタープライズ向けフラッシュメモリ需要の拡大傾向に加え、スマートフォン及びノートPC搭載メモリも大容量化傾向にあります。アプリケーション別では、SSD & ストレージ向けメモリ及びスマートデバイス向けメモリのそれぞれについて、記憶容量ベースでの市場規模は拡大傾向にあり、今後も記憶容量ベースでの市場規模の拡大傾向を当社は見込んでいます。
新型コロナウイルス感染拡大時においては、在宅勤務や在宅学習への移行によりスマートフォンやPCの需要が急増しましたが、今後はこれらの買替えサイクルが到来することが予想されます。また、かかる買替え需要においては、AI搭載製品の比率が高まると予想されており、これはフラッシュメモリの需要増加にさらにつながる可能性があります。TechInsightsによれば、AI搭載のスマートフォン及びPCは、大規模言語モデル(LLM)及びAI処理専用ロジックASIC(Application Specific Integrated Circuit)を搭載したスマートフォン及びPCが想定されており、各アプリケーションにおけるAI搭載製品の比率(出荷台数ベース)について、スマートフォンにおいては、2024年は0.5%、2025年は3.8%、2028年は47.6%、PCにおいては、2024年は9.8%、2025年は17.5%、2028年は32.6%に増加すると予想されています(出典:TechInsights Inc.“NAND Market Report Q3 2024”)。また、生成AIが生成したデータは自動的にデバイスに保存されることとなるため、その結果、必要な1個当たりメモリ容量が増加することとなり、大容量のAI搭載製品がさらに普及することが予想されます。
さらに、データセンターからのフラッシュメモリ需要も、AIサーバーを中心に拡大すると予想されています。従来のサーバーとは異なり、AIサーバーには、電力効率が高く、高速なデータ転送ができるストレージが求められるところ、SSDは、DRAM及びHDDと比較して、性能、消費電力及びコストの面でバランスが良いことから、AIサーバーに不可欠なものとなると当社は考えています。TechInsightsによれば、データセンター向けフラッシュメモリ需要全体に占めるAIデータセンター向けSSD比率(記憶容量ベース)は、2023年の18.3%から2028年には53.3%に増加すると予想されており、また、AIデータセンター向けSSD需要は、2023年から2028年にかけて年平均成長率72.0%で成長すると予想されています(出典:TechInsights Inc.“NAND Market Report Q3 2024”)。
データセンター向けフラッシュメモリ需要の推移 (注) 単位:EB
2023年2024年
(予想)
2025年
(予想)
2026年
(予想)
2027年
(予想)
2028年
(予想)
年平均成長率
(2023年-2028年)
(予想)
AIデータセンター向けSSD236511416223935172.0%
従来型データセンター向け
SSD
9714116919623628924.3%
その他7111212141922.8%
合計12721829536948965838.9%

出典:TechInsights Inc.“NAND Market Report Q3 2024”
(注) フラッシュメモリの消費量(サーバーの販売、データセンター構築等)に基づくものであり、フラッシュメモリ製造事業者によるデータセンターや従来の企業向けメモリ及びSSDの販売量に基づくものではありません。
さらに、データセンター向けフラッシュメモリ需要は、AI学習サーバー及びAI推論サーバー向けフラッシュメモリ需要の増加により加速しており、今後もAI推論サーバーを中心に成長することが見込まれます。TechInsightsによれば、従来型データセンター向けSSD、AI学習向けSSD及びAI推論向けSSDのフラッシュメモリ需要は、2023年の97EB、17EB、6EBから、2029年には289EB、74EB、277EBにそれぞれ増加すると予測されており、AI推論サーバー向けフラッシュメモリ需要は、AI推論サーバーの台数とサーバー当たりの記憶容量の双方が増加することにより増加すると予想されています(出典:TechInsights Inc.“NAND Market Report Q3 2024”)。
データセンター向けフラッシュメモリ需要予想の内訳 単位:EB
2023年2024年
(予想)
2025年
(予想)
2026年
(予想)
2027年
(予想)
2028年
(予想)
AI推論向けSSD63374115179277
AI学習向けSSD173240476074
従来型データセンター向けSSD97141169196236289
その他71112121419
合計127218295369489658

出典:TechInsights Inc.“NAND Market Report Q3 2024”
他方で、フラッシュメモリ製造事業者においては競合他社が大容量化を推し進め供給を増やすことが予想され、価格競争が見込まれることから、単位記憶容量あたりの販売価格は一定レベルで継続的に下落していく傾向が見込まれます。また、SSDはフラッシュメモリを主記憶デバイスとして使っている製品であるため、今後もフラッシュメモリの価格に連動してSSDの単位記憶容量あたりの販売価格も下落していく傾向が見込まれると当社は考えております。
加えて、フラッシュメモリ市場は、一般に、急速な技術革新と生産性の向上、顧客からの需要の変動と継続的な価格下落圧力、競合他社との市場シェア獲得競争等により、需給の循環的変動傾向が顕著であり、周期的に市況の改善と悪化が繰り返されていると考えております。
当社グループとしては、このようなマーケット環境において、当社グループの強みと考える高成長市場にアクセス可能な幅広い製品ポートフォリオをもって、規模が大きく高成長が見込めるエンドマーケットにて、これらのアプリケーションにおける各主要顧客との強固な関係構築を継続してまいります。また、業界をリードする技術競争力を有するフラッシュメモリ業界におけるテクノロジーリーダーとして、市場リーダーの求める製品の開発を推進するとともに、世界最大級(注)のフラッシュメモリ工場を活用し、生産規模及び生産効率を最大化することで高いコスト競争力を実現してまいります。
(注) TechInsights Inc.“NAND Market Report Q3 2024”。2024年4月から6月におけるビット生産量ベースで世界第1位(Western Digitalグループの生産量を含む。)
足元の世界経済は、先進国においては一部において物価上昇が頭打ちを示していますが、労働市場と個人消費が引き続き堅調であることから、主要国の高金利政策が続いています。新興国の多くにおいては製造業の回復が見られる一方で、不動産市場低迷の影響から個人消費は弱含んでいます。また、地政学リスクは引き続き高い状況にあり、これらの要因により世界経済における不透明な見通しが続いています。
フラッシュメモリ市場においては、2022年後半から継続した需要低迷に伴い、顧客の在庫水準が上昇し、需給バランスが急激に悪化し、販売価格の大幅な下落を招きました。2023年後半からフラッシュメモリ製造業者各社の減産及び投資抑制が効果を表し始め、また顧客における在庫水準が適正化に向かったため、需給バランスの改善と販売価格上昇が生じました。足元のフラッシュメモリ市場は、顧客の在庫水準の正常化や需要の回復により、需給バランスは改善しました。アプリケーション別では、SSD & ストレージにつきましては、PC向け需要は回復が弱含みましたが、データセンター・エンタープライズSSDの需要は、顧客の在庫水準の正常化やAI需要により伸長しました。AI用途での大容量のSSDに加えて、一般サーバーの需要回復も見込まれています。スマートデバイスにつきましては、スマートフォン向け需要は穏やかに回復しました。今後、オンデバイスAIの普及、メモリ搭載容量の増加に伴う買い替え需要も期待されます。
このような経営環境において、当社グループは、次の経営方針・経営戦略によりビジョンを実現していきます。
[SSD & ストレージ]
SSDは高成長が期待されるアプリケーションですが、その中でもクラウドサービスの普及に伴うデータセンター向けの需要や、エンタープライズ向けストレージ機器の組み込み容量の増加等を受けて、データセンター・エンタープライズSSD市場について成長が見込まれると当社は考えております。TechInsightsによると、エンタープライズSSD市場は、2025年に第4世代から第5世代へと急速に移行が進むと予測されており、第5世代のエンタープライズPCIeSSDの出荷台数は2024年の210万台から、2025年には1,050万台、2026年には2,130万台へと増加し、それぞれ2025年と2026年のエンタープライズSSDの総出荷台数の30%と54%を占めることが予想されています(出典:TechInsights Inc.“NAND Market Report Q3 2024”)。また、データセンター・エンタープライズSSDは、クライアントSSDと比較して、単位記憶容量あたりの販売価格が高い傾向にあります。TechInsightsによれば、2023年におけるギガバイト当たり平均販売価格は、クライアントSSDは0.05ドルに近い水準であるのに対して、データセンター・エンタープライズSSDは0.06ドルに近い水準であるとされています(出典:TechInsights Inc.“NAND Market Report Q3 2024”)。
また、上記のとおり、データセンターからのフラッシュメモリ需要は、今後AIサーバーを中心に拡大すると予想されているところ、AIサーバーの増加に伴い、より大きな記憶容量のSSDの需要が喚起されると考えられます。TechInsightsによれば、SSDストレージ容量はAIデータセンター向けSSDの方が大きいと予測されており、従来型データセンター向けSSDでは、2023年は2.6TB、2028年は6.0TBに増加するにとどまるのに対して、AIデータセンター向けSSDでは、2023年の4.9TBから、2028年には12.9TBまで増加すると予測されています(出典:TechInsights Inc.“NAND Market Report Q3 2024”)。
かかる市場環境を踏まえ、当社グループは、中期的には大手データセンター、エンタープライズ顧客向けを中心としたデータセンター、エンタープライズSSDのより高いシェアの確保に取り組み、長期的にはSSD市場におけるより高いシェアの獲得を目指します。具体的には、2023年8月にエンタープライズ・データセンター向けPCIe® 5.0対応NVMe™ SSDのサンプル出荷、また2023年12月には当社最新SSDがPCIe® 5.0とNVMe™ 2.0の認証を取得するなど、最新のインターフェースに対応した製品を早期に市場投入しており、それを起点として、CBA(CMOS directly Bonded to Array)とOPS(On Pitch SGD)技術を適用したBiCS FLASH™第8世代の市場投入等により、今後拡大する市場においてシェア拡大を目指します。
さらに、一般消費者向け市場をターゲットとするSSDであるクライアントSSD(PC、ラップトップ、タブレットコンピュータ等の一般消費者向け市場をターゲットとするSSD)についても、当社は成長が見込まれると考えております。
クライアントSSDについては、2020年7月に台湾・LITE-ONテクノロジー社から買収したSolid State Storage Technology Corporationの開発リソースと当社開発リソースを融合し、技術力の強化と開発の効率化によって、お客様の要求にタイムリーに応えていきます。
さらに、急速に普及しているAIの活用に伴い、大規模言語モデルの開発、学習、推論用途でデータセンター、エンタープライズ向け大容量ストレージの需要の高まり、AIを搭載したエッジデバイスの登場によるクライアントSSD市場の更なる拡大も期待されております。TechInsightsによれば、AI搭載PCのSSD1台当たり平均ストレージ密度は、2024年には892GB、2028年には1,373GBに増加すると予測されており、AIを搭載したエッジデバイスは、大容量のクライアントSSDの需要につながると予想されています(出典:TechInsights Inc.“NAND Market Report Q3 2024”)。当社グループはこのような新たな市場の変化を逃すことなく、業界主要企業との関係性構築に努めながら、新たな需要の喚起、創出、販売の拡大を目指します。
[スマートデバイス]
スマートフォン市場は依然として規模が大きく、成長しているアプリケーションであり、当社グループにとって引き続き重要なマーケットとなっています。今後、スマートフォン出荷台数については、これまでと同様の伸長は期待できないと考えられるものの、スマートフォン1台当たりのフラッシュメモリ搭載量は成長を続けると予想され、スマートフォン向けのフラッシュメモリの需要を牽引していくと見込んでおります。TechInsightsによれば、スマートフォン1台あたりのメモリ容量は、2023年の231GBから2028年には458GBとなることが予想されており、スマートフォン向けフラッシュメモリの需要を牽引すると予想されています(出典:TechInsights Inc.“NAND Market Report Q3 2024”)。
スマートフォン市場において、当社グループは、これまで培ってきた技術力、生産能力、生産性等に基づき、グローバルな主要企業と強固な関係性を長年に亘って構築しており、当該顧客のみが有する最先端のテクノロジーニーズに対応した信頼性の高い高品質な製品やサポートを提供しております。当社グループのかかる強みを活かして、記憶容量ベースでの市場拡大に合わせて、「BiCS FLASH™」の大容量化・積層化・量産化を推進することで、今後もスマートフォン市場におけるシェアを維持してまいります。
[生産・販売]
当社グループが製造合弁契約を締結しているWestern Digitalグループと合わせたフラッシュメモリの2024年4月から6月までのビット生産量は世界最大級となる約31%(注)のシェアを有しております。さらに、拡大するフラッシュメモリ市場に対応すべく、四日市工場及び北上工場の生産能力の強化により、更なる出荷量の拡大を図ります。また、フラッシュメモリの製造は、材料となるシリコンウエハー上に微細な集積回路を作りこむため、工程は数百に及び、製造プロセスの効率化が重要になります。当社グループは、製造過程におけるAIの活用や、四日市工場において製造棟間を繋ぐ棟間搬送を駆使し、製造棟全体の設備の稼働率を高めることで生産性を向上させる総合生産体制を採用することにより、各工場の知見とデータの相互活用により、高い生産効率の実現を図っていきます。今後も継続して生産効率の向上を図り、フラッシュメモリ市場の需要成長に見合う出荷量成長率(メモリ容量単位の前年比成長率)を維持することを目指しております。また、TechInsightsによれば、フラッシュメモリの設備投資額については今後低水準で推移することが予想されていますが(出典:TechInsights Inc.“NAND Market Report Q3 2024”)、当社も設備投資については引き続き規律あるアプローチを採用した上で、投資の効率化を図ります。加えて、ギガバイト当たりのコストの削減も図ってまいります。
販売に関しては、海外現地法人リソースを充当するとともに、効率的な顧客管理(CRM)等、顧客のニーズに対応した販売インフラの拡充を進めます。
(注) TechInsights Inc.“NAND Market Report Q3 2024”。2024年4月から6月におけるビット生産量ベースで世界第1位(Western Digitalグループの生産量を含む。)
[研究開発]
データ処理量の増大に伴い、フラッシュメモリに代表される不揮発性半導体メモリについても、特にSSD用途において高速動作が要求される傾向にあります。当社グループは、フラッシュメモリ業界のパイオニアとして1987年に世界初のNAND型フラッシュメモリを発明し(注1)、1991年には世界で初めてNAND型フラッシュメモリを量産しました(注1)。また、2024年には当社グループのSSDが、国際宇宙ステーション(ISS)での科学実験を行うサーバーのストレージに使われることになりました。本書提出日時点では、CBA技術・OPS技術や218層積層プロセスを用いたBiCS FLASH™第8世代を製品化するなど、コスト効率を高めながらメモリ容量を拡大する技術革新を行ってきました。直近3連結会計年度における当社グループの売上収益に占める研究開発費並びに販売費及び一般管理費(注2)の割合(平均)はそれぞれ11.7%及び5.3%(合計17.1%)であり、他社の公表情報も踏まえれば同業他社と比べて売上収益に比して低い水準に留めていると認識しており、コスト管理に対して規律あるアプローチを維持しています。
更なる技術革新に向けて、2023年6月に横浜市内に新たな研究・技術開発施設の稼働を開始しました。これにより分散していた技術開発機能を集結し、フラッシュメモリ、SSDの研究開発の効率性を高めます。また、2024年4月に先端技術研究所を新設し、AI技術の基礎研究からその応用、また次世代メモリ等の研究開発、新規事業につながる技術創出を強化していきます。
当社グループは今後も技術力を武器に、大容量、低コスト、高性能化による市場競争力のあるフラッシュメモリの開発を進めるとともに、信頼性、安定性も備えた、フラッシュメモリ新製品に代わる次世代メモリの開発も進めていきます。そして、これら将来のビジネスに必要な研究開発投資を積極的に行います。
(注)1.上記における発明、開発、量産及びサンプル出荷に関する記述については、それぞれ出願又は発表時点における当社グループ調べによります。
2.販売費及び一般管理費に含まれる研究開発費を控除し、PPA影響額を調整したものです。
[財務施策]
当社グループは、中長期的に、想定されるフラッシュメモリ市場の需要成長に見合う出荷量成長率(記憶容量ベース)を維持すること、メモリ製品の販売価格が過去と同程度の下落傾向となること、及び当社グループが過去と同程度のギガバイト当たりのコストの削減を実現することを前提に、フラッシュメモリ市場の周期的市況におけるトレンドとして、高いNon-GAAP営業利益率(Non-GAAP数値については、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」で定義される「Non-GAAP指標」をご参照ください。)を実現していくことを目指しております。
また、当社グループは、2024年3月期末において、1兆4,341億円の有利子負債(IFRSにおいて負債と認識される社債型優先株式を含みます。)に対し、1,876億円の現預金を有しており、ネット有利子負債は1兆2,465億円となります。当社グループは、事業活動等により生じるフリー・キャッシュ・フローを将来の成長資金として使用すると共に有利子負債の返済に充当し、財務体質を改善し、中長期的にはネット・キャッシュ(有利子負債の額を現預金の額が上回る状況)を目指します。
なお、当社のネット有利子負債/Non-GAAP EBITDA(倍)の過去の推移は以下のとおりです。
2022年3月期2023年3月期2024年3月期2025年3月期
中間期(注)
1.383.5114.151.19

(注) 2025年3月期中間期については、当社のネット有利子負債/Non-GAAP EBITDAの割合は、同中間期のNon-GAAP EBITDAの数値に2を乗じた数値を用いて年換算ベースで算出しております。
(3)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① 拡大する市場についての対応
中期的なフラッシュメモリ市場は引き続き拡大が見込まれており、当社は競争力のあるBiCS FLASH™第8世代の早期立ち上げ、市場要求に合った新製品の投入、特に市場伸長が見込まれるデータセンター・エンタープライズSSDの新製品の投入によるシェア拡大を目指します。また、クライアントSSD市場で拡大が見込まれる4ビット/セル(QLC)製品の開発及び市場展開を進めます。さらに、急速に普及しているAIの活用に伴い、大規模言語モデルの開発、学習、推論用途でデータセンター、エンタープライズ向け大容量ストレージの需要の高まり、AIを搭載したエッジデバイスの登場も期待されており、当社グループはこのような新たな市場の変化を逃すことなく、業界主要企業との関係構築に努めながら、新たな需要の喚起、新規創出によるビジネス拡大を積極的に推進します。
② 開発競争力の強化
3次元フラッシュメモリは高積層化に伴い開発難易度が高まり、競争は激化しています。その中でコストや性能における競争力を維持していく技術開発が重要と考えています。CBA技術等を生かし、高ビット密度化、高速インターフェース向けの技術開発を推進し、最先端の規格や市場要求に対応していきます。新メモリの研究開発や、BiCS FLASH™応用製品の開発、新材料やAI、システム技術の研究にも積極的に取り組みます。これらの研究開発を強化するため、2023年6月に横浜市内に新たな研究・技術開発施設の稼働を開始しました。神奈川県内に分散していた機能を集結し、研究開発の効率性を高めます。2024年4月に先端技術研究所を新設し、次世代メモリ等の研究開発、新規事業につながる技術創出を強化していきます。
③ 財務健全性の確保
引き続き財務の健全性を高めてまいります。資本構成の最適化並びにより有利な条件の実現及び財務コストの削減を目的としたリファイナンスに取り組み、全体的な財務の安定性を高めていきます。また、強固な財務指標を維持し、財務管理を慎重に行うことにより、信用力の向上に努めます。
財務健全性の確保のため、弾力的なキャッシュ・フローの創出に注力します。具体的には、現在の投資効率を維持しつつ、設備投資については政府からの補助金も活用しながら引き続き規律あるアプローチを採用した上で、在庫管理のベストプラクティスを導入し、需要と供給のバランスの維持を図ります。
④ 生産能力拡大及び地政学リスクへの対応
拡大するフラッシュメモリ市場に対応し、需要に沿った生産能力の拡大を図ります。今後、適切なタイミングで北上工場の拡張を行います。また、競争力のある最先端のBiCS FLASH™製品を市場に投入することでコスト競争力を維持しながら、投資効率を改善し、設備投資額の最適化を行います。後工程拠点は、米中対立や台湾有事等の地政学リスクを見据えた後工程拠点計画を推進し、リスク低減を図ります。2022年7月には、四日市工場及び北上工場におけるBiCS FLASH™第6世代及び第8世代を生産する設備投資計画が、2024年2月には、上記工場におけるBiCS FLASH™第8世代及び第9世代を生産する設備投資計画が、それぞれ経済産業大臣により、「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律」に基づく「特定半導体生産施設整備等計画」に認定(注)されました。半導体は情報通信技術やエネルギー、国防など多くの分野で必要不可欠であり、当社は、日本国内における最先端フラッシュメモリの開発・生産の強化を通じて、半導体関連産業の発展に貢献してまいります。
(注) 特定半導体生産施設整備等計画認定番号「2022半経第002号-2」(2022年7月26日付認定及び2024年2月6日付変更の認定)並びに「2023半経第002号-1」(2024年2月6日付認定)。
⑤ サプライチェーンの強靭化
2022年2月からのロシアによるウクライナ侵攻の長期化や能登半島地震等の自然災害によるサプライチェーンへの影響や、原油価格の高止まりによる原材料価格の高騰が、当社の調達コストの増加や製品供給網に影響を与えています。これらに対応すべく、複数の調達先確保や部品の共通化及び部品点数の削減により調達コストの改善や強靭なサプライチェーンの構築を進めます。
⑥ サステナビリティの取り組み
当社グループは気候変動への取り組みを経営の最重要課題の一つと位置付けております。当社は気候関連財務情報開示タスクフォース(以下、「TCFD」という。)の提言に賛同を表明しています。当社グループはこのTCFD提言に基づき、気候変動に対して、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの視点から分析を行い、TCFDに沿った取り組みと情報開示を積極的に進めています。また、2023年4月には、2050年度までに当社グループのグローバルな事業活動に伴う温室効果ガスの直接・間接排出(スコープ1、2)をネットゼロにするという新たな目標を設定しました。当社グループはこの目標を達成するため、地球温暖化係数の高いガスの除害装置を対象設備に2011年度以降100%設置しています。また、2040年度までに再生可能エネルギー由来の電力比率を100%とする長期目標の達成に向け、自家消費型太陽光発電システムの導入や、再生可能エネルギー証書の市場調達を進めるなど、今後も最適かつ安定的な再生可能エネルギーの調達に努めます。
また、多様化し続ける事業環境と市場ニーズに迅速に対応していくためには、技術者をはじめとした様々な人材を確保することが必須となります。当社グループは、多様な人材がそれぞれの力を十分に発揮することが、イノベーションを創出し、企業の成長や社会への新しい価値創造につながるという考えから、女性の経営参画の推進等、ダイバーシティ(多様性)への取組みを積極的に進めています。
当社の具体的な取組については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」もご参照ください。
(4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、メモリ市場におけるシェアの獲得状況及び物量と売価の状況を適切にとらえる観点及び適切なコスト管理を実現していく観点から売上収益と営業利益を重要な経営指標と考えております。またPPA(Purchase Price Allocation)(注)を含む非経常的な項目を控除したNon-GAAP営業利益も経営者の意思決定に使用しております。なお、Non-GAAP営業利益を含むNon-GAAP数値については、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」で定義される「Non-GAAP指標」をご参照ください。
(注) PPA(Purchase Price Allocation)については、株式会社Pangeaによる旧東芝メモリ株式の買収等に伴い実施した資産の公正価値を基礎とした取得金額の配分手続を指します。以下同じです。