有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2021/05/21 15:00
【資料】
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【項目】
159項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において、当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針
当社グループは、「すべてのステークホルダーに価値と成長をもたらす100年企業グループ」創出というグループビジョンを掲げ、中小企業経営の近代化(使命)と、よき伝統の尊重と戦略合理的経営を追求していくこと(価値観)を目指しております。中小企業経営において変化が求められる今の時代に、古き良き伝統のみに縛られるのではなく、経営の変革により企業価値を継続・発展させていくことを基本的な経営方針としております。
(2)経営上目標とする客観的な指標
当社グループは経営上目標とする指標として、経常利益を選定しております。
当社はM&Aを実行する際、各子会社の正常収益力を基にLBOファイナンス(※)によって買収資金を調達しており、各子会社の事業活動そのものだけでなくM&Aスキーム一連のファイナンスアレンジの巧拙も、事業パフォーマンスの評価軸として重要と考えております。そのため、各子会社の本業からもたらされる収益力の改善のみならず、財務の健全化に取り組み金融費用の最適化を行い、当社及び子会社毎に経常利益の確保を目標に設定、管理しております。
(※)LBOファイナンスとは、企業やファンドが他社を買収する際、自己資金だけではなく、買収先の資産や将来のキャッシュ・フローを見合いとした借入等で調達した資金を元手に買収を行う方法です。
(3)経営環境
①事業承継・M&A市場
中小企業庁より2017年7月に発表された「中小企業の事業承継に関する集中実施期間について(事業承継5ヶ年計画)」によると、今後5年間で30万以上の経営者が70歳になるにもかかわらず、6割が後継者未定と発表されております。また、高齢化が進むと企業の業績が停滞していること(売上増は70代で14%、30代で51%)や、70代の承継準備を行っている経営者は約半数とされていることも報告されています。
また、同じく中小企業庁より2019年12月に発表された「第三者承継支援総合パッケージ」によると、中小企業のM&Aは年間4,000件弱に留まり、潜在的な後継者不在の中小企業数(127万弱)からして不十分であり、このうち2025年までに黒字廃業の可能性のある約60万社の第三者承継を促すことを目標とした施策が報告されています。更には、市場規模のベースとなる中小企業(資本金1千万円以上1億円未満)の売上高規模は、2017年度で約130兆円となっており、このうち、わが国のモノづくりを支える製造業は約11%にのぼります。事業承継を中心とした2017年度のM&A件数は、わが国全体で3,050件の成約実績があり、中小企業の実施状況は非公表であるものの、上場しているM&A仲介会社3社の発表を合計すると526件の実績となっております(中小企業白書2018年版)。事業承継課題を抱える中小企業は今後益々増加していくものと考えられ、市場は拡大傾向にあります。
②自動車内外装部品・自動車精密部品製造市場
自動車内外装部品に絞った業界数値は公表されておりませんが、日本自動車部品工業会がまとめた2019年度「自動車部品出荷動向調査結果」によると、自動車車体部品合計で4兆6,050億円の出荷額となっております(2019年4月~2020年3月)。今後、自動車の電動化が進む中、防音性・静粛性は益々求められる傾向にあり、市場は拡大傾向にあります。
また、当社の自動車精密部品製造分野においては、IEA(国際エネルギー機関)発表のトランスミッション別自動車市場予測によると、2025年のハイブリッド電気自動車(HEV)、オートマチックトランスミッション(AT)、マニュアルトランスミッション(MT)は合計で年間1億台の見通しとなっており、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)は増加見込みであるものの、AT関連の需要は当面続くものと予測されております。
電動化や自動運転など次世代技術の開発競争が激化し、「100年に1度」と言われる自動車業界の変革期を生き抜くため規模拡大で競争力を強化する動きが活発化しております。業界再編の波が押し寄せる中、サプライヤーも大手・中堅を中心に再編が進む一方、中小サプライヤーの事業継続が大きな課題となっております。
③FA装置製造市場
経済産業省の「2017年スマートファクトリーロードマップ」によると、IoT・AI・ロボット等の活用によるモノづくりのスマート化に向けた取組がグローバル競争を勝ち抜くために必要である旨発表されています。IoTやロボットによるデータ活用により、エンジニアリングチェーンやサプライチェーンのネットワーク化・最適化・自動化を進め、製品化・商品化の時間短縮や生産性向上等を実現していくことが未来のモノづくりに求められております。
当社グループにおけるコネクタ自動機等のFA装置製造事業は、省人化、スマートファクトリー化の推進関連事業であります。主力製品であるコネクタ自動機においては、スマートフォンやタブレット端末(携帯型情報端末)の普及拡大により小型・薄型化に対応した高速・多機能対応コネクタが登場しております。また、安全性や快適性、環境性能の向上から電子化が進む車載向けでは、高速・大容量のデータ伝送性能を持つコネクタや高電圧対応の小型コネクタなどが開発され自動車技術の進化に貢献しております。これらコネクタを製造する自動機においても需要は継続的に見込まれるものと推測されます。
(4)経営戦略
①基本方針
当社グループは、M&A及び子会社の変革・進化を通じてグループ全体の成長を図るビジネスモデルとなっております。上記経営環境の下、当社グループとして持続的な成長を維持する基本方針として、以下の施策を実施してまいります。
(ⅰ)M&A・アライアンス戦略(セレンディップインベストメントスタンダード)
当社グループは高付加価値分野、成長性の見込めるスマートファクトリー(※)分野、更にはオートモーティブサプライヤー分野を主なターゲットとしてM&A戦略を実行していく予定であります。投資プロセスの標準化に注力し、特定の事業分野・地域に偏らないM&A戦略を実行し、ターゲット企業に対しプロ経営者を派遣することで、当社が蓄積してきたPMIに関する独自のノウハウを活かすことにより経営体質の強化と長期的な企業価値の向上を目指してまいります。また、投資プロセスの標準化と品質の向上に併せて、短期投資にも対応可能な回収モデルを確立してまいります。
共同投資を前提とした金融機関や事業会社との戦略的アライアンスや、当社グループ事業分野である自動車内外装部品製造事業・FA装置製造事業の成長に必要なR&D(新技術の研究開発活動)を活性化するためのベンチャー投資も積極的に戦略化・実行してまいります。
(※)スマートファクトリーとは、工場内のあらゆる機器や設備、工場内で行う人の作業などのデータを、IoT(モノのインターネット)などを活用して取得・収集し、このデータを分析・活用することで新たな付加価値を生み出せるようにする工場を指します。
(ⅱ)PMI標準化、R&D投資戦略(セレンディップスマートサクセッション)
当社は、M&A成立後にプロ経営者をチームで派遣することにより、経営課題の洗い出し、バックオフィスの生産性向上施策、業務改善と組織基盤の整備等を行っております。M&A成立後の統合プロセスであるPMIにおいては、「見える化」による課題抽出と課題解決のための仮説の「体系化」、「標準化」の実行により課題解決成功事例の共有化を図っており、これらを当社グループの独自ノウハウとして蓄積しております。M&A後の統合で培われたこのノウハウの更なる向上と独自性の強化を図るための「PMIスタンダード」の確立、教育の徹底によるプロ経営者の育成を継続的に実施してまいります。
子会社工場をスマートファクトリーのモデル工場とし、製造現場に操作が容易でマルチランゲージにも対応したユーザーインターフェース(タブレット端末等)を設置すること等により、データ収集及びデータ活用を促進し生産性向上を図ってまいります。その他、R&Dの強化、事業承継関連サービス開発、高度設計人材のグループ内での活用等も積極的に進めてまいります。
(ⅲ)財務の健全化、資金調達の多様化、グループ経営の効率化、企業価値の最大化(セレンディップグループマネジメントシステム)
当社グループは、グループ経営の課題として収益基盤の安定化と子会社財務の健全化を目指しております。具体的には、投資効率と財務健全性の最適バランス化、当社グループ内の資金を有効活用し最適配分を行うための事業ポートフォリオ戦略によるグループ財務の安定、更には予算精度向上による継続的な収益力の改善を図ってまいります。
事業ポートフォリオ戦略による投資余力の確保、金融、会計、法律等の多分野にわたる複雑で高度な専門知識やノウハウを組み合わせて「全体最適」な資金調達手段を導き出し、機動的・多様な資金調達を目指してまいります。
グループ経営の品質向上とリソースの共有による業務平準化・効率化を図るため、グループシェアードサービス(※1)を推進してまいります。
当社グループ全体の企業価値の最大化と保護を目指し、事業承継プラットフォーム(※2)機能の強化やガバナンス、リスクマネジメント、コンプライアンス、情報セキュリティの強化・教育の徹底推進にも努めてまいります。
(※1)当社がいう「グループシェアードサービス」とは、人事・労務・経理・財務・法務・IT部門等のバックオフィス業務の標準化することにより、新たに当社グループ傘下となった企業を短期間に業務品質・生産性向上できる基盤を指します。
(※2)当社がいう「事業承継プラットフォーム」とは、M&A案件発掘から経営執行まで一貫した組織、プロ経営者がチームマネジメントを組成できるプロフェッショナルの集合、ナレッジ(知識)の蓄積とノウハウの還流を実現するための基盤であり、経営を軸とした有機的な仕組みを指します。
②成長戦略
当社グループとして更なる成長のための戦略として、以下の施策を実施してまいります。
(ⅰ)新市場への進出
「CASE(※1)」「AI/IoT」「5G」「医療機器」等の新たに注目されている分野・市場への調査研究及び開発の実施、「研究開発」「販売・アフターサービス」といったスマイルカーブ(※2)における付加価値の高い領域への進出を検討してまいります。
(※1)「CASE」とは「Connected:コネクティッド化」「Autonomous:自動運転化」「Shared/Service:シェア/サービス化」「Electric:電動化」の4つの頭文字をとったもので、自動車の製造・販売会社から、クルマを移動するための手段としてサービスを提供する会社への変化を意味します。
(※2)スマイルカーブとは、一般的に事業プロセスの上流や下流は高い利益率を上げることができるが、中流の部分は高い利益率を上げることが厳しく、そのような両端が少し上がった形の曲線をいいます。
(ⅱ)技術革新・現場改革
「リサイクル率向上」「低騒音化」といった環境に配慮した持続的目標の設定、「工場の省人」「無人化による生産性及び品質の向上」といった生産技術革新、「DX推進によるアナログプロセスを撤廃する」等の生産現場改革を更に追求してまいります。
(ⅲ)海外展開等
海外生産拠点として北米やASEAN地域へ現地アライアンスを活用した進出を検討してまいります。その際には、「高品質デリバリー」「リモート生産管理体制」等の技術伝承を提供する予定であります。また、高度外国人材の採用・育成・活用にも注力してまいります。
(5)優先的に対処すべき事実上及び財務上の課題
当社グループは、M&Aによる事業承継により傘下に収めた子会社の成長を通じてグループ全体の成長を図るビジネスモデルとなっており、子会社における既存事業の成長のため、及び上記のソリューション拡充のため、以下の課題に注力してまいります。
①M&A対象企業の発掘・事業の成長
当社グループはM&A案件の発掘に際し、金融機関、M&A仲介会社等様々なリソースを活用し、精緻な企業分析、M&A後の成長戦略、PMI戦略、グループシナジー等を十分に勘案した上で戦略化・実行していくことが重要であると認識しております。ターゲット案件に対しては、当社取締役を中心とした経営層及び関係部門で構成する投資委員会において、十分な審議、戦略立案等を行い、当社グループの成長に結び付くM&Aの実行に注力してまいります。
②プロ経営者の積極的採用・育成強化
当社グループの最も重要な経営資源は人材であり、M&A後のプロ経営者派遣を行う上で人材の採用・育成強化は継続的な経営課題であると認識しております。他社との差別化を推進していくため、更にはM&A案件の成功に対応するため、当該分野における優秀な専門家人材を積極的に採用し、育成強化してまいります。
③当社グループの一体化・意思統一
当社は、M&Aを実行しグループ内に取り込み成長することを基本的な事業戦略としております。グループ企業が増加する過程においては、各社のこれまでの歴史・企業風土・文化の違いから価値観の相違が生まれる等、一つのグループ企業として全社が同じ目標に向かい一体化していくことは容易では無いものと認識しております。
これらの課題に対し、各社横断的な会議体やコミュニケーションの場を設け、積極的な信頼関係の構築に努めてまいりたいと考えております。更には年に一度、方針説明会を開催しており、グループ方針を理解するとともに一体化・意思統一を図ってまいります。
④グローバル展開
当社グループは、子会社における海外人材の採用や海外取引は存在するものの、グローバル案件を遂行するため、業務提携・技術提携、新たな販売先・仕入先開拓等のグルーバルな事業展開に対応できる人材の強化、ネットワークの構築等は必要であると判断しております。今後、グローバルな事業展開力や経営執行力を当社グループの機能に取り込むことにより、グローバル対応力の充実に努めてまいります。
⑤新市場への挑戦、技術革新・現場改革
当社グループの一部の子会社が身を置く自動車業界では、環境規制の強化による電動化の進展、自動運転技術の進化、コネクティッドカーの普及、クルマが所有するものからシェア(共有)するものへ変わるといったライフスタイルの変化など、いわゆるCASE領域の進展がめざましく、加えて車外騒音規制の強化など自動車産業の構造は、『100年に一度の大変革期』を迎えています。事業の枠組みや前提条件が大きく変わろうとする中、新市場への挑戦、新しい技術(技術革新)・新しいやり方(現場改革)に果敢に挑戦してまいります。
⑥財務体質の改善
当社はM&Aを実行する際、各子会社の正常収益力を基にLBOファイナンスによって買収資金を調達しているため有利子負債比率が高い水準にあります。利益の蓄積のほか、様々な資金調達手法を活用し、財務体質の強化を図ってまいります。
⑦内部統制の充実
企業経営の透明性と開示情報の正確性の確保、諸法規等の遵守のため、内部統制システムの整備・充実を継続的に推進し、内部管理体制の強化に取り組んでまいります。