有価証券報告書-第27期(2025/04/01-2026/03/31)
有報資料
文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1)会社の経営方針
当社は、医療現場の課題を解決するための多様なモダリティ(医薬品、医療機器、AIを活用したプログラム医療機器)を、医療現場で研究開発し、医療イノベーション創出に貢献することで、ヒトが心身ともに生涯にわたって健康を享受できるための新しい医療を創造することを経営理念として掲げています。
(2)経営戦略
① 多様なモダリティ開発
当社は特定の技術に特化したベンチャーでは無く、広くモダリティ(医薬品、医療機器など治療の様式)の開発に取り組みます。医薬品産業も、低分子医薬品を中心とした開発から、バイオ医薬品(抗体医薬、核酸医薬品、遺伝子治療、細胞治療)へと、モダリティが多様化しつつあります。近年の工学系や情報系技術の進歩により、情報・工学技術との融合による新たな医療の模索も進んでおり、欧米や国内の大手製薬企業では既に医薬品単体のビジネスから医療ソリューション全般にわたるビジネスへの転換を迎えております。医薬品、医療機器、さらにはAIを活用したプログラム医療機器など、医療現場での治療のオプションも広がりつつあります。当社もこれまで主体であった化学系や生物系の研究に加えて、工学系や情報系の研究にも視野を広げ、がん、抗加齢・長寿、人工知能(AI)など重点研究領域(図表12)を主体に多彩で魅力ある研究と事業のポートフォリオを創出します。
< 図表12 重点研究領域 >
(出典:当社作成)
広くモダリティ開発に取り組むことには、早期の黒字化と将来の収益確保の両立という経営面での利点もあります。医薬品事業は、研究開発費や研究開発期間が比較的大きく事業リスクが高い分野ですが、上市後には極めて高い収益が期待できる事業です。一方、医療機器やプログラム医療機器の事業収益は医薬品と比べると小さいですが、研究開発費や研究開発期間のリスクは小さく、早期に当社収益につながります。当社は、これら2つの事業ポートフォリオを、同時に複数のパイプラインで進めることにより、リスクを分散しながら早期の黒字化と将来の収益の拡大を目指します。
② 少子高齢化の医療課題
平均寿命と健康寿命(平均寿命から寝たきりや認知症などの介護状態の期間を差し引いた期間)の差が約10年あることが大きな課題となっています。加齢と共に生じる種々の疾患、例えば、がん、循環器疾患、呼吸器疾患、糖尿病などを治療できれば、健康寿命の延伸に繋げることができます。これら4疾患は全世界の死亡者数の70-80%に至り、世界保健機関(WHO)でも老化や生活習慣に伴う重要な疾患として位置付けられています。当社は、これら4疾患の治療薬を含めた健康寿命を伸ばすための医薬品開発という医学的あるいは社会的にも重要な課題を解決すべく取り組んでいます。さらに、超高齢化社会の到来を迎えて、今後国際的に著しい成長が期待される「抗加齢・長寿分野」の研究並びに事業にも注力します。近年、これまでの古典的な老化治療(食事療法、運動療法、睡眠療法、サプリメントなど)とは異なる新たな老化に対する治療アプローチやモダリティ[幹細胞治療、エクソソーム治療、エピジェネティック・リプログラミング(老化細胞若返り)、セノリティクス(老化細胞除去)]が提案されており、臨床試験も展開されつつあります。「老化」への治療法開発という挑戦は、社会構造の基盤となるヘルスケアのイノベーションをもたらし、重要なプラットフォーム事業としても捉えられているために、高額な資金が投資されている分野です。当社のPAI-1阻害薬(RS5614)は、複数経路にまたがり統合的に介入することで、崩れた生体全体の機能を改善できる医薬品候補です。老化環境の改善、老化細胞の除去及び生物学的年齢の若返りを通じて、種々の加齢疾患を予防・治療できる可能性を有しており、セノリティクス医薬品としては適したプロファイルとモダリティを備えています。
③ 公的研究機関や医療機関との連携
医薬品のように成功確率が極めて低く、開発期間が長く、投資が大きな分野では研究開発及び事業リスクが大きいため、多くのパイプラインを組み合わせたポートフォリオを形成し、リスク分散をすることが不可欠です。当社は外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用してコストを抑えるなど、効率の高い開発を実践してきました。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理などが異なります。少ない人的リソースや経費で多くのパイプラインを広げ、モダリティを展開し、成果も出つつあります。自己資源や社内環境のみに注力するのではなく、むしろ外部資源や外部環境にも注力し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築していきたいと考えています。
医療イノベーション創出におけるアカデミアなどの研究機関や医療機関の役割が広がりつつあります。低分子医薬品と異なり、バイオ医薬品の技術基盤やシーズは研究機関にあります。また、AIを活用したプログラム医療機器の開発に必要な医療データは企業ではなく医療機関が有しています。当社は、多くの医療機関や診療科と複数の医療分野で医師主導治験を実施しているので、医師から医療現場の課題を把握する機会が多く、またAI開発に必要な医療データも比較的短期間でビッグデータが取得しやすい環境にあります。
④ 基礎研究から医師主導治験まで一気通貫での開発
当社は、国内外の大学などの研究機関で着想された多くのモダリティにわたるコンセプトやシーズを、基礎研究から臨床開発(医師主導治験)まで一気通貫でつなげる研究開発を行い、大手製薬企業等につなぐことで医療イノベーション創出に貢献します。臨床開発は販売の許可を受けるための承認申請に近いところまで自社で対応します。例えば、2022年12月に厚生労働省から承認を得た医療機器(極細内視鏡)は、製品コンセプトから試作品開発、非臨床試験の実施、検証のための医師主導治験まで複数の大学と共同で開発を進め、当社が取得した成績で薬事承認を得ることができました。また、血液がんの一種である慢性骨髄性白血病及び悪性黒色腫の治療薬は承認申請に必要な検証試験である第Ⅲ相試験を実施中ですが、その他のパイプラインについても今後、可能な場合は第Ⅲ相試験まで自社で実施したいと考えています。その理由は、希少疾患などの治療薬は大手製薬企業からは注力されにくい場合が多いことや、さらに第Ⅲ相試験まで自社で実施することで大きな事業収益が期待できるからです。
⑤ 医師主導治験
当社は、基礎研究から医師主導治験まで一気通貫で実施できる医師(physician-scientistという)との共同研究を重視しています。当社は、これまで31件に至る医師主導治験等の実績(図表13)があり、医師主導治験には多くの利点があります。医師自ら治験を立案及び実施できますので、医療現場での課題や実情に合った試験計画や枠組みで実施できます。当社が行う治験は全て未承認の薬剤(first-in-human)を対象としており、海外承認薬(国内未承認)や既存薬の適応拡大のための治験ではありません。
< 図表13 医師主導治験等の数 >
(31件の内訳は、実施済み24件、実施中5件、実施予定2件)
(出典:当社作成)
⑥ オープンイノベーション
当社は、大学との連携を基にオープンイノベーションを推進し、効率的な開発を推進していきます。具体的には、東北大学との「Tohoku University x Renascience Open Innovation Labo:TREx」、広島大学との「Hiroshima University x Renascience Open Innovation Labo:HiREx」、ノースウェスタン大学Potocsnak Longevity Institute(長寿研究所)の日本研究室などオープンイノベーション拠点の設置、台北医学大学やサウジアラビアのキング・アブドラ国際医療研究センター(King Abdullah International Medical Research Center:KAIMRC)との連携などです。
< 図表14 TRExの風景 >
(3)目標とする経営指標
当社の事業収益は、医薬品、医療機器、プログラム医療機器の研究開発成果を実用化企業に導出して得る一時金、マイルストーン及びロイヤリティ収入がメインです。そのため下記の経営指標を掲げています。
① 臨床段階にある開発パイプライン数(臨床試験数)
パイプラインを実用化企業に導出するためには、非臨床試験や第Ⅰ相試験(健常者での安全性確認試験)では難しく、少なくとも患者での有効性の確認(第Ⅱ相試験)の治験が終了していることが必要です。そのため、臨床段階(特に第Ⅱ相試験以後)にある開発パイプライン数は重要な数値目標になります。当社は当事業年度末日現在において、2027年3月期に臨床試験を実施予定のパイプラインを7本(医師主導6本、企業治験1本)有しており、内訳は第Ⅲ相試験3本(慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫、皮膚血管肉腫)、第Ⅱ相試験3本(非小細胞肺がん、膵臓がん、脱毛症)、臨床研究1本(抗加齢)に至り、国内バイオベンチャーとして最大級の臨床試験実績です。
② 契約締結パイプライン数
当社は、製品の開発権、製造権、販売権等をライセンスアウトすることで、契約一時金、開発の進捗に応じて支払われるマイルストーン収入、製品上市後に売上高の一定割合が支払われるロイヤリティ収入、売上高に対する目標値を達成するごとに支払われる販売マイルストーン収入等を得る事業モデルを採用しています。また、比較的早期の研究開発段階において、将来のライセンス契約を前提としたオプション権付き共同研究契約(オプション契約)を出口企業候補と締結することもあります(図表4 事業系統図の(共同研究))。
当社は、現在5本の契約締結パイプライン数を有しており、内訳はライセンス契約3本(エイリオン社に脱毛症など皮膚疾患治療薬、ハイレックスメディカル社にディスポーザブル極細内視鏡、チェスト株式会社に呼吸機能検査診断プログラム医療機器)、オプション契約等2本(ニプロ株式会社に維持血液透析医療支援プログラム医療機器、東レ・メディカル株式会社に透析装置搭載型AI)です。
③ 研究開発費
当社の成長や将来の収益を考えると、上記経営指標である臨床段階にある開発パイプライン数、契約締結パイプライン数、医師主導を含む臨床試験実施数の拡大が望ましい一方、医薬品の研究開発、特に治験の実施には多額の研究開発費が必要です。当社は、開発シーズを、医師主導治験を含む臨床試験を活用しながら開発し、製薬企業等へライセンスアウトするビジネス・モデルを基本としているため、高額な研究開発費を自社で負担する必要があります。そこで、研究開発費(特に自己資金)は重要な経営指標と考えています。開発パイプライン数及び医師主導臨床研究の実施数は順調に増加しており、全体の研究開発費は2024年3月期23,633万円、2025年3月期13,286万円、2026年3月期20,166万円となっております。これらリスクの高い医師主導治験に対しては、公的研究助成金を積極的に活用することで、研究開発費の自己負担の軽減に努めてきました。その結果、2024年3月期13,317万円、2025年3月期6,194万円、2026年3月期3,629万円の公的資金が獲得でき、自己負担の研究開発費は2024年3月期10,316万円、2025年3月期7,092万円、2026年3月期16,536万円に抑えることができました。2027年3月期において、医薬品では慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫、非小細胞肺がんが公的資金を確保できています。医療機器、プログラム医療機器ではディスポーザブル極細内視鏡、維持血液透析医療支援AI、糖尿病医療支援AIが公的資金を確保できています。
< 図表15 当社の経営指標 >
(4)経営環境
研究環境
バイオベンチャーの取り組む最先端医療研究は、環境変化のスピードが極めて早く、潜在的な競争相手に先行し、他社の知的財産権を上回る開発をする必要性があります。医療のあり方もブロックバスターから個別化医療へ大きく変遷しています。重要なことは、最先端の研究、技術、シーズをいち早く取り入れる枠組み、速やかに臨床現場で実証することと考えます。このため、多くの疾患領域に対する最先端の科学技術成果の活用の「場」、医師や研究者とのFace to Faceの交流の「場」、行政や医療産業企業とのオープンイノベーションの「場」が必要であると考え、2022年1月、東北大学に東北大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Tohoku University x Renascience Open Innovation Labo:TREx)を開設しました。その結果、血管肉腫や膵臓がんなどの医薬品パイプライン、乳がん病理診断、心臓植込み型デバイス患者における不整脈・心不全発症予測、人工心臓患者における血栓発生予測などのプログラム医療機器パイプラインが立ち上がっています。さらに、日本電気株式会社、NECソリューションイノベータ株式会社、チェスト株式会社、株式会社ハイレックスコーポレーション、株式会社ハイレックスメディカル、ニプロ株式会社、東レ・メディカル株式会社などの契約締結につながっています。さらに、第二のオープンイノベーションラボとして、2023年4月には広島大学に広島大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Hiroshima University x Renascience Open Innovation Labo:HiREx)を開設しました。その結果、非小細胞肺がん、皮膚血管肉腫、全身性強皮症及び膵臓がん等において複数の第Ⅱ相医師主導治験を実施しているほか、糖尿病治療支援プログラム医療機器及び維持血液透析医療支援プログラム医療機器については、それぞれ臨床性能試験を完了しPoCを取得しており、医薬品及びプログラム医療機器の両領域において開発成果の創出が進展しております。また、ノースウェスタン大学Potocsnak Longevity Institute(長寿研究所)の日本研究室などオープンイノベーション拠点の設置、台北医学大学やサウジアラビアのキング・アブドラ国際医療研究センター(King Abdullah International Medical Research Center:KAIMRC)との連携など研究環境の充溢、拡大に努めております。
財務環境
当社は、2021年9月に東京証券取引所マザーズ市場に上場し、公募増資及びオーバーアロットメントによる売出しに関連した第三者割当増資により総額1,653,616千円の資金調達を行いました。この調達資金を活用して、既存のパイプラインの開発(慢性骨髄性白血病や悪性黒色腫などの医師主導治験の実施)、新規プロジェクトの導入と医師主導治験の実施、AIを用いたプログラム医療機器の開発を実施しました。また、2026年3月期にはHeights Capital Management, Inc.が運用する CVI Investments, Inc.との間で、株式及び新株予約権発行プログラムの設定に係る Equity Program Agreementを締結し、第三者割当によって総額1,903,820千円の調達を実施しました。この調達資金を活用して、がん分野における実用化の加速と適応拡大、抗加齢・長寿の国際共同臨床試験や動物用医薬品(イヌ、ネコ)の臨床試験を実施しています。医薬品の研究開発、特に治験の実施には多額の研究開発費が必要です。当社は、公的研究資金を活用し、限られた自己資金の中で効率的な研究開発を心がけており、パイプライン数及び医師主導臨床研究の実施数は順調に増加しております。
(5)優先的に対処すべき研究や事業
医薬品領域では、「がん」分野での開発を重点領域として実施してきましたが、国際的な規模での事業成長が期待される「抗加齢・長寿分野」での研究並びに事業にも注力しています。
(「がん」の開発方針)
「がん」に対しては、国内で複数のがん種に対する治験を実施中です(慢性骨髄性白血病第Ⅲ相試験、悪性黒色腫第Ⅲ相試験、血管肉腫第Ⅱ相試験、肺がん第Ⅱ相試験)。まずは、日本で希少がん(悪性黒色腫、血管肉腫、慢性骨髄性白血病)に対する薬事承認を取得することにより、本医薬品の上市と臨床応用を目指します。悪性黒色腫の第Ⅲ相試験は既に日本で開始しているため(2025年2月18日適時開示)、薬事承認に向けての国外でのブリッジング試験を複数の国の規制当局と協議中です(2025年12月15日適時開示)。血管肉腫に関しては、日本で実施中の第Ⅱ相試験が終了し(2025年12月12日適時開示)、既存治療に比べて極めて良い結果が得られたので(2026年2月10日適時開示)、薬事承認に向けて速やかな第Ⅲ相試験を実施する予定です。並行して、肺がん、膵臓がんなどがん種の適応を拡大し、将来の大きな市場を確保するための第Ⅱ相試験を実施しております(2025年11月26日適時開示、2025年12月16日適時開示)。
(「抗加齢・長寿」の課題と開発方針)
「がん」に比べて「抗加齢・長寿」の研究や事業は課題が多いです。「がん」など従来の医薬品開発は、「単一疾患」、「単一標的」、「明確な臨床評価指標(エンドポイント)」を前提としています。一方、「老化」は加齢に伴う生理的変化の延長でもあり、連続的かつ個体差の大きい現象でもあるため、現在の医療保険の制度上は「疾患」とはみなされていません。「老化」を医療保険上の単独の適応症として定義し、一般的な疾患のように明確な診断基準や評価指標で医薬品として開発することは困難です。ですから、事業化にあたっては薬事規制、臨床試験デザイン、保険償還制度、ビジネス・モデルといった様々な課題が存在しています。しかし、近年、これまでの古典的な老化治療(食事療法、運動療法、睡眠療法、サプリメントなど)とは異なる新たな老化に対する治療アプローチやモダリティ[幹細胞治療、エクソソーム治療、エピジェネティック・リプログラミング(老化細胞若返り)、セノリティクス(老化細胞除去)]が提案されており、臨床試験も展開されつつあります。「老化」への治療法開発という挑戦は、社会構造の基盤となるヘルスケアのイノベーションをもたらし、重要なプラットフォーム事業としても捉えられているために、高額な資金も投資されている分野です。
老化の病態は単一ではなく、エピジェネティック情報、代謝、炎症、幹細胞機能、免疫などが相互に影響し合い、生体全体の恒常性が崩れた状態です。除去されずに蓄積した「老化細胞」は、炎症性サイトカインやケモカイン(老化関連分泌形質:SASP)を持続的に放出し、周囲の健全な細胞や組織に慢性炎症を引き起こします。これが動脈硬化、線維化、神経変性、代謝異常といったあらゆる老化関連疾患の共通基盤を形成しています。したがって、老化介入には「どの病態を改善するか」ではなく、「生体機能への多面的な介入により、崩れた全体のバランスをどう改善するか」という考え方が重要です。当社のPAI-1阻害薬RS5614は、複数経路にまたがり統合的に介入することで、崩れた生体全体の機能を改善できる医薬品候補です。老化環境の改善、老化細胞の除去及び生物学的年齢の若返りを通じて、種々の加齢疾患を予防・治療できる可能性を有しており、セノリティクス医薬品としては適したプロファイルとモダリティを備えています。
RS5614のセノリティクス医薬品としての可能性を検討する重要な臨床試験を、XPRIZE Healthspanセミファイナル試験として実施しました(2025年8月18日適時開示)。RS5614を4ヶ月投与することにより、エピゲノム(遺伝子修飾)あるいは遺伝子レベルでの改善が認められました。特筆すべきは、生物学的年齢の2~3歳の若齢化です。タンパクレベルでも、免疫機能、骨・筋肉機能、代謝機能、並びに認知機能の改善など、抗加齢作用に関わる複数のタンパクの改善が認められました。細胞レベルでも、免疫細胞、造血幹細胞の機能回復や若齢化が認められ、さらに全身での酸化ストレスの軽減も確認されました。比較的健康な高齢者に対してもRS5614は安全に経口で投与できることが確認されたのみならず、4ヶ月間の短期間の投与にも関わらず、免疫、代謝、骨・筋肉、認知・神経生理、抗酸化、造血幹細胞など、広く各種臓器に対して抗老化作用が確認されました(図表16)(2026年5月14日適時開示)。これらの分子、細胞レベルでの変化が、各種臓器の抗老化作用に繋がり、最終的に健康寿命の延伸につながるかどうか、大変興味深いところです。
< 図表16 セミファイナル試験結果 >
今回のセミファイナル試験結果及びファイナル試験の計画を取りまとめ、2026年4月にXPRIZE Healthspan評価委員会へ提出しました。2026年8月にファイナリスト(TOP10)に採択されれば、日・米・サウジアラビア・台湾の大規模な国際共同臨床試験(100~150名規模のプラセボ対照盲検試験)を実施する予定です。本プロジェクトに関して、ノースウエスタン大学Potocsnak Longevity Institute(長寿研究所)(2025年11月10日適時開示)、台北医学大学(2025年12月15日適時開示)、サウジアラビアのキング・アブドラ国際医療研究センター(King Abdullah International Medical Research Center:KAIMRC)(2026年2月9日適時開示)との間で、臨床試験を共同で実施するための基本合意書を締結しています。
長寿関連事業(医療用医薬品、OTC医薬品、さらには動物医薬品)は、超高齢化を背景に経済や生活に与える効果も極めて大きな成長分野です。PAI-1阻害薬RS5441の脱毛症治療薬としての実例もあり、当社のPAI-1阻害薬の抗加齢・長寿研究をさらに展開する予定です。なお、当社のがん及び抗加齢・長寿領域に関連する取材記事は、科学誌『Nature(Digital edition)』、『Nature Biotechnology』、『Nature Reviews Drug Discovery』に掲載されました(2025年12月1日、2026年2月26日開示)。
当社技術(セノリティクス内服薬)に競合する技術として、幹細胞治療、細胞内成分治療(エクソソーム)、遺伝子治療(エピジェネティック・リプログラミング)などが挙げられます。特に、エピジェネティック・リプログラミングは、米国Life Biosciences社、米国Altos Labsなど20~30億ドルの資金調達を実施して開発を進めているバイオテック企業が注力している分野です。「老化」への治療法の開発という挑戦は、社会構造の基盤となるヘルスケアのイノベーションをもたらし、重要なプラットフォーム事業となり得るため、多額の資金が集まっています。2026年1月、米国FDAはLife Biosciencesが開発する「ER-100」の臨床試験開始を許可しました。ER-100は、遺伝子治療によりOSK(OCT4、SOX2、KLF4の3つの転写因子)を導入し、細胞を部分的に初期化(時間を巻き戻す)する方法です(OSKは「山中4因子」から腫瘍化リスクの高いc-Mycを除いたものです)。治験は視神経症という具体的な疾患が対象ですが、「老化」を視野に入れた研究です。一方、当社のアプローチは細胞の時間を巻き戻す(エピジェネティック・リプログラミング)ための遺伝子治療ではなく、蓄積した老化細胞を除去(セノリティクス)するための内服薬です。セノリティクスのアプローチをとるバイオテック企業も複数あり、細胞治療(CAR-T)、遺伝子治療、既存の低分子医薬品の適応外使用(ドラッグリパーパシング)など複数モダリティが提案されていますが、当社は低分子医薬品(内服薬)で挑戦しています。
当社のPAI-1阻害薬RS5614は生物製剤や核酸系医薬品ではなく、低コストで大量合成可能な低分子化合物(分子量:424.81、錠剤)です。大量の工業的生産が可能で、安定した品質の医薬品を生産可能で、グローバルな供給が可能です。RS5614は経口投与が可能で、他の生物製剤とは異なり、自宅で投与できます。細胞製剤、エクソソーム、遺伝子治療などのバイオ医薬品とは異なり、地理的又は物流上の制約を受けることなく容易に輸送できます。細胞製剤やエクソソームとは異なり、ドナーも必要としません。最も重要な安全性に関しても、細胞製剤、エクソソーム、遺伝子治療などのバイオ医薬品に比べて副作用が少ないことはメリットであり、XPRIZE Healthspanのセミファイナル試験でも、高い安全性が確認されました。世界的な高齢化は、先進国と新興国の両方において深刻な社会問題となっています。長寿医療は、富裕層だけでなく、多くの人々にとって必要な医療でなくてはならず、内服薬であるRS5614は、幹細胞治療、エクソソーム治療、エピジェネティック・リプログラミング遺伝子治療、他のモダリティによるセノリティクス医薬品に対しても優位性は高いと考えます。(図表17)
< 図表17 RS5614の優位性 >
(1)会社の経営方針
当社は、医療現場の課題を解決するための多様なモダリティ(医薬品、医療機器、AIを活用したプログラム医療機器)を、医療現場で研究開発し、医療イノベーション創出に貢献することで、ヒトが心身ともに生涯にわたって健康を享受できるための新しい医療を創造することを経営理念として掲げています。
(2)経営戦略
① 多様なモダリティ開発
当社は特定の技術に特化したベンチャーでは無く、広くモダリティ(医薬品、医療機器など治療の様式)の開発に取り組みます。医薬品産業も、低分子医薬品を中心とした開発から、バイオ医薬品(抗体医薬、核酸医薬品、遺伝子治療、細胞治療)へと、モダリティが多様化しつつあります。近年の工学系や情報系技術の進歩により、情報・工学技術との融合による新たな医療の模索も進んでおり、欧米や国内の大手製薬企業では既に医薬品単体のビジネスから医療ソリューション全般にわたるビジネスへの転換を迎えております。医薬品、医療機器、さらにはAIを活用したプログラム医療機器など、医療現場での治療のオプションも広がりつつあります。当社もこれまで主体であった化学系や生物系の研究に加えて、工学系や情報系の研究にも視野を広げ、がん、抗加齢・長寿、人工知能(AI)など重点研究領域(図表12)を主体に多彩で魅力ある研究と事業のポートフォリオを創出します。
< 図表12 重点研究領域 >

(出典:当社作成)
広くモダリティ開発に取り組むことには、早期の黒字化と将来の収益確保の両立という経営面での利点もあります。医薬品事業は、研究開発費や研究開発期間が比較的大きく事業リスクが高い分野ですが、上市後には極めて高い収益が期待できる事業です。一方、医療機器やプログラム医療機器の事業収益は医薬品と比べると小さいですが、研究開発費や研究開発期間のリスクは小さく、早期に当社収益につながります。当社は、これら2つの事業ポートフォリオを、同時に複数のパイプラインで進めることにより、リスクを分散しながら早期の黒字化と将来の収益の拡大を目指します。
② 少子高齢化の医療課題
平均寿命と健康寿命(平均寿命から寝たきりや認知症などの介護状態の期間を差し引いた期間)の差が約10年あることが大きな課題となっています。加齢と共に生じる種々の疾患、例えば、がん、循環器疾患、呼吸器疾患、糖尿病などを治療できれば、健康寿命の延伸に繋げることができます。これら4疾患は全世界の死亡者数の70-80%に至り、世界保健機関(WHO)でも老化や生活習慣に伴う重要な疾患として位置付けられています。当社は、これら4疾患の治療薬を含めた健康寿命を伸ばすための医薬品開発という医学的あるいは社会的にも重要な課題を解決すべく取り組んでいます。さらに、超高齢化社会の到来を迎えて、今後国際的に著しい成長が期待される「抗加齢・長寿分野」の研究並びに事業にも注力します。近年、これまでの古典的な老化治療(食事療法、運動療法、睡眠療法、サプリメントなど)とは異なる新たな老化に対する治療アプローチやモダリティ[幹細胞治療、エクソソーム治療、エピジェネティック・リプログラミング(老化細胞若返り)、セノリティクス(老化細胞除去)]が提案されており、臨床試験も展開されつつあります。「老化」への治療法開発という挑戦は、社会構造の基盤となるヘルスケアのイノベーションをもたらし、重要なプラットフォーム事業としても捉えられているために、高額な資金が投資されている分野です。当社のPAI-1阻害薬(RS5614)は、複数経路にまたがり統合的に介入することで、崩れた生体全体の機能を改善できる医薬品候補です。老化環境の改善、老化細胞の除去及び生物学的年齢の若返りを通じて、種々の加齢疾患を予防・治療できる可能性を有しており、セノリティクス医薬品としては適したプロファイルとモダリティを備えています。
③ 公的研究機関や医療機関との連携
医薬品のように成功確率が極めて低く、開発期間が長く、投資が大きな分野では研究開発及び事業リスクが大きいため、多くのパイプラインを組み合わせたポートフォリオを形成し、リスク分散をすることが不可欠です。当社は外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用してコストを抑えるなど、効率の高い開発を実践してきました。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理などが異なります。少ない人的リソースや経費で多くのパイプラインを広げ、モダリティを展開し、成果も出つつあります。自己資源や社内環境のみに注力するのではなく、むしろ外部資源や外部環境にも注力し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築していきたいと考えています。
医療イノベーション創出におけるアカデミアなどの研究機関や医療機関の役割が広がりつつあります。低分子医薬品と異なり、バイオ医薬品の技術基盤やシーズは研究機関にあります。また、AIを活用したプログラム医療機器の開発に必要な医療データは企業ではなく医療機関が有しています。当社は、多くの医療機関や診療科と複数の医療分野で医師主導治験を実施しているので、医師から医療現場の課題を把握する機会が多く、またAI開発に必要な医療データも比較的短期間でビッグデータが取得しやすい環境にあります。
④ 基礎研究から医師主導治験まで一気通貫での開発
当社は、国内外の大学などの研究機関で着想された多くのモダリティにわたるコンセプトやシーズを、基礎研究から臨床開発(医師主導治験)まで一気通貫でつなげる研究開発を行い、大手製薬企業等につなぐことで医療イノベーション創出に貢献します。臨床開発は販売の許可を受けるための承認申請に近いところまで自社で対応します。例えば、2022年12月に厚生労働省から承認を得た医療機器(極細内視鏡)は、製品コンセプトから試作品開発、非臨床試験の実施、検証のための医師主導治験まで複数の大学と共同で開発を進め、当社が取得した成績で薬事承認を得ることができました。また、血液がんの一種である慢性骨髄性白血病及び悪性黒色腫の治療薬は承認申請に必要な検証試験である第Ⅲ相試験を実施中ですが、その他のパイプラインについても今後、可能な場合は第Ⅲ相試験まで自社で実施したいと考えています。その理由は、希少疾患などの治療薬は大手製薬企業からは注力されにくい場合が多いことや、さらに第Ⅲ相試験まで自社で実施することで大きな事業収益が期待できるからです。
⑤ 医師主導治験
当社は、基礎研究から医師主導治験まで一気通貫で実施できる医師(physician-scientistという)との共同研究を重視しています。当社は、これまで31件に至る医師主導治験等の実績(図表13)があり、医師主導治験には多くの利点があります。医師自ら治験を立案及び実施できますので、医療現場での課題や実情に合った試験計画や枠組みで実施できます。当社が行う治験は全て未承認の薬剤(first-in-human)を対象としており、海外承認薬(国内未承認)や既存薬の適応拡大のための治験ではありません。
< 図表13 医師主導治験等の数 >

(31件の内訳は、実施済み24件、実施中5件、実施予定2件)
(出典:当社作成)
⑥ オープンイノベーション
当社は、大学との連携を基にオープンイノベーションを推進し、効率的な開発を推進していきます。具体的には、東北大学との「Tohoku University x Renascience Open Innovation Labo:TREx」、広島大学との「Hiroshima University x Renascience Open Innovation Labo:HiREx」、ノースウェスタン大学Potocsnak Longevity Institute(長寿研究所)の日本研究室などオープンイノベーション拠点の設置、台北医学大学やサウジアラビアのキング・アブドラ国際医療研究センター(King Abdullah International Medical Research Center:KAIMRC)との連携などです。
< 図表14 TRExの風景 >

(3)目標とする経営指標
当社の事業収益は、医薬品、医療機器、プログラム医療機器の研究開発成果を実用化企業に導出して得る一時金、マイルストーン及びロイヤリティ収入がメインです。そのため下記の経営指標を掲げています。
① 臨床段階にある開発パイプライン数(臨床試験数)
パイプラインを実用化企業に導出するためには、非臨床試験や第Ⅰ相試験(健常者での安全性確認試験)では難しく、少なくとも患者での有効性の確認(第Ⅱ相試験)の治験が終了していることが必要です。そのため、臨床段階(特に第Ⅱ相試験以後)にある開発パイプライン数は重要な数値目標になります。当社は当事業年度末日現在において、2027年3月期に臨床試験を実施予定のパイプラインを7本(医師主導6本、企業治験1本)有しており、内訳は第Ⅲ相試験3本(慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫、皮膚血管肉腫)、第Ⅱ相試験3本(非小細胞肺がん、膵臓がん、脱毛症)、臨床研究1本(抗加齢)に至り、国内バイオベンチャーとして最大級の臨床試験実績です。
② 契約締結パイプライン数
当社は、製品の開発権、製造権、販売権等をライセンスアウトすることで、契約一時金、開発の進捗に応じて支払われるマイルストーン収入、製品上市後に売上高の一定割合が支払われるロイヤリティ収入、売上高に対する目標値を達成するごとに支払われる販売マイルストーン収入等を得る事業モデルを採用しています。また、比較的早期の研究開発段階において、将来のライセンス契約を前提としたオプション権付き共同研究契約(オプション契約)を出口企業候補と締結することもあります(図表4 事業系統図の(共同研究))。
当社は、現在5本の契約締結パイプライン数を有しており、内訳はライセンス契約3本(エイリオン社に脱毛症など皮膚疾患治療薬、ハイレックスメディカル社にディスポーザブル極細内視鏡、チェスト株式会社に呼吸機能検査診断プログラム医療機器)、オプション契約等2本(ニプロ株式会社に維持血液透析医療支援プログラム医療機器、東レ・メディカル株式会社に透析装置搭載型AI)です。
③ 研究開発費
当社の成長や将来の収益を考えると、上記経営指標である臨床段階にある開発パイプライン数、契約締結パイプライン数、医師主導を含む臨床試験実施数の拡大が望ましい一方、医薬品の研究開発、特に治験の実施には多額の研究開発費が必要です。当社は、開発シーズを、医師主導治験を含む臨床試験を活用しながら開発し、製薬企業等へライセンスアウトするビジネス・モデルを基本としているため、高額な研究開発費を自社で負担する必要があります。そこで、研究開発費(特に自己資金)は重要な経営指標と考えています。開発パイプライン数及び医師主導臨床研究の実施数は順調に増加しており、全体の研究開発費は2024年3月期23,633万円、2025年3月期13,286万円、2026年3月期20,166万円となっております。これらリスクの高い医師主導治験に対しては、公的研究助成金を積極的に活用することで、研究開発費の自己負担の軽減に努めてきました。その結果、2024年3月期13,317万円、2025年3月期6,194万円、2026年3月期3,629万円の公的資金が獲得でき、自己負担の研究開発費は2024年3月期10,316万円、2025年3月期7,092万円、2026年3月期16,536万円に抑えることができました。2027年3月期において、医薬品では慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫、非小細胞肺がんが公的資金を確保できています。医療機器、プログラム医療機器ではディスポーザブル極細内視鏡、維持血液透析医療支援AI、糖尿病医療支援AIが公的資金を確保できています。
< 図表15 当社の経営指標 >

(4)経営環境
研究環境
バイオベンチャーの取り組む最先端医療研究は、環境変化のスピードが極めて早く、潜在的な競争相手に先行し、他社の知的財産権を上回る開発をする必要性があります。医療のあり方もブロックバスターから個別化医療へ大きく変遷しています。重要なことは、最先端の研究、技術、シーズをいち早く取り入れる枠組み、速やかに臨床現場で実証することと考えます。このため、多くの疾患領域に対する最先端の科学技術成果の活用の「場」、医師や研究者とのFace to Faceの交流の「場」、行政や医療産業企業とのオープンイノベーションの「場」が必要であると考え、2022年1月、東北大学に東北大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Tohoku University x Renascience Open Innovation Labo:TREx)を開設しました。その結果、血管肉腫や膵臓がんなどの医薬品パイプライン、乳がん病理診断、心臓植込み型デバイス患者における不整脈・心不全発症予測、人工心臓患者における血栓発生予測などのプログラム医療機器パイプラインが立ち上がっています。さらに、日本電気株式会社、NECソリューションイノベータ株式会社、チェスト株式会社、株式会社ハイレックスコーポレーション、株式会社ハイレックスメディカル、ニプロ株式会社、東レ・メディカル株式会社などの契約締結につながっています。さらに、第二のオープンイノベーションラボとして、2023年4月には広島大学に広島大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Hiroshima University x Renascience Open Innovation Labo:HiREx)を開設しました。その結果、非小細胞肺がん、皮膚血管肉腫、全身性強皮症及び膵臓がん等において複数の第Ⅱ相医師主導治験を実施しているほか、糖尿病治療支援プログラム医療機器及び維持血液透析医療支援プログラム医療機器については、それぞれ臨床性能試験を完了しPoCを取得しており、医薬品及びプログラム医療機器の両領域において開発成果の創出が進展しております。また、ノースウェスタン大学Potocsnak Longevity Institute(長寿研究所)の日本研究室などオープンイノベーション拠点の設置、台北医学大学やサウジアラビアのキング・アブドラ国際医療研究センター(King Abdullah International Medical Research Center:KAIMRC)との連携など研究環境の充溢、拡大に努めております。
財務環境
当社は、2021年9月に東京証券取引所マザーズ市場に上場し、公募増資及びオーバーアロットメントによる売出しに関連した第三者割当増資により総額1,653,616千円の資金調達を行いました。この調達資金を活用して、既存のパイプラインの開発(慢性骨髄性白血病や悪性黒色腫などの医師主導治験の実施)、新規プロジェクトの導入と医師主導治験の実施、AIを用いたプログラム医療機器の開発を実施しました。また、2026年3月期にはHeights Capital Management, Inc.が運用する CVI Investments, Inc.との間で、株式及び新株予約権発行プログラムの設定に係る Equity Program Agreementを締結し、第三者割当によって総額1,903,820千円の調達を実施しました。この調達資金を活用して、がん分野における実用化の加速と適応拡大、抗加齢・長寿の国際共同臨床試験や動物用医薬品(イヌ、ネコ)の臨床試験を実施しています。医薬品の研究開発、特に治験の実施には多額の研究開発費が必要です。当社は、公的研究資金を活用し、限られた自己資金の中で効率的な研究開発を心がけており、パイプライン数及び医師主導臨床研究の実施数は順調に増加しております。
(5)優先的に対処すべき研究や事業
医薬品領域では、「がん」分野での開発を重点領域として実施してきましたが、国際的な規模での事業成長が期待される「抗加齢・長寿分野」での研究並びに事業にも注力しています。
(「がん」の開発方針)
「がん」に対しては、国内で複数のがん種に対する治験を実施中です(慢性骨髄性白血病第Ⅲ相試験、悪性黒色腫第Ⅲ相試験、血管肉腫第Ⅱ相試験、肺がん第Ⅱ相試験)。まずは、日本で希少がん(悪性黒色腫、血管肉腫、慢性骨髄性白血病)に対する薬事承認を取得することにより、本医薬品の上市と臨床応用を目指します。悪性黒色腫の第Ⅲ相試験は既に日本で開始しているため(2025年2月18日適時開示)、薬事承認に向けての国外でのブリッジング試験を複数の国の規制当局と協議中です(2025年12月15日適時開示)。血管肉腫に関しては、日本で実施中の第Ⅱ相試験が終了し(2025年12月12日適時開示)、既存治療に比べて極めて良い結果が得られたので(2026年2月10日適時開示)、薬事承認に向けて速やかな第Ⅲ相試験を実施する予定です。並行して、肺がん、膵臓がんなどがん種の適応を拡大し、将来の大きな市場を確保するための第Ⅱ相試験を実施しております(2025年11月26日適時開示、2025年12月16日適時開示)。
(「抗加齢・長寿」の課題と開発方針)
「がん」に比べて「抗加齢・長寿」の研究や事業は課題が多いです。「がん」など従来の医薬品開発は、「単一疾患」、「単一標的」、「明確な臨床評価指標(エンドポイント)」を前提としています。一方、「老化」は加齢に伴う生理的変化の延長でもあり、連続的かつ個体差の大きい現象でもあるため、現在の医療保険の制度上は「疾患」とはみなされていません。「老化」を医療保険上の単独の適応症として定義し、一般的な疾患のように明確な診断基準や評価指標で医薬品として開発することは困難です。ですから、事業化にあたっては薬事規制、臨床試験デザイン、保険償還制度、ビジネス・モデルといった様々な課題が存在しています。しかし、近年、これまでの古典的な老化治療(食事療法、運動療法、睡眠療法、サプリメントなど)とは異なる新たな老化に対する治療アプローチやモダリティ[幹細胞治療、エクソソーム治療、エピジェネティック・リプログラミング(老化細胞若返り)、セノリティクス(老化細胞除去)]が提案されており、臨床試験も展開されつつあります。「老化」への治療法開発という挑戦は、社会構造の基盤となるヘルスケアのイノベーションをもたらし、重要なプラットフォーム事業としても捉えられているために、高額な資金も投資されている分野です。
老化の病態は単一ではなく、エピジェネティック情報、代謝、炎症、幹細胞機能、免疫などが相互に影響し合い、生体全体の恒常性が崩れた状態です。除去されずに蓄積した「老化細胞」は、炎症性サイトカインやケモカイン(老化関連分泌形質:SASP)を持続的に放出し、周囲の健全な細胞や組織に慢性炎症を引き起こします。これが動脈硬化、線維化、神経変性、代謝異常といったあらゆる老化関連疾患の共通基盤を形成しています。したがって、老化介入には「どの病態を改善するか」ではなく、「生体機能への多面的な介入により、崩れた全体のバランスをどう改善するか」という考え方が重要です。当社のPAI-1阻害薬RS5614は、複数経路にまたがり統合的に介入することで、崩れた生体全体の機能を改善できる医薬品候補です。老化環境の改善、老化細胞の除去及び生物学的年齢の若返りを通じて、種々の加齢疾患を予防・治療できる可能性を有しており、セノリティクス医薬品としては適したプロファイルとモダリティを備えています。
RS5614のセノリティクス医薬品としての可能性を検討する重要な臨床試験を、XPRIZE Healthspanセミファイナル試験として実施しました(2025年8月18日適時開示)。RS5614を4ヶ月投与することにより、エピゲノム(遺伝子修飾)あるいは遺伝子レベルでの改善が認められました。特筆すべきは、生物学的年齢の2~3歳の若齢化です。タンパクレベルでも、免疫機能、骨・筋肉機能、代謝機能、並びに認知機能の改善など、抗加齢作用に関わる複数のタンパクの改善が認められました。細胞レベルでも、免疫細胞、造血幹細胞の機能回復や若齢化が認められ、さらに全身での酸化ストレスの軽減も確認されました。比較的健康な高齢者に対してもRS5614は安全に経口で投与できることが確認されたのみならず、4ヶ月間の短期間の投与にも関わらず、免疫、代謝、骨・筋肉、認知・神経生理、抗酸化、造血幹細胞など、広く各種臓器に対して抗老化作用が確認されました(図表16)(2026年5月14日適時開示)。これらの分子、細胞レベルでの変化が、各種臓器の抗老化作用に繋がり、最終的に健康寿命の延伸につながるかどうか、大変興味深いところです。
< 図表16 セミファイナル試験結果 >

今回のセミファイナル試験結果及びファイナル試験の計画を取りまとめ、2026年4月にXPRIZE Healthspan評価委員会へ提出しました。2026年8月にファイナリスト(TOP10)に採択されれば、日・米・サウジアラビア・台湾の大規模な国際共同臨床試験(100~150名規模のプラセボ対照盲検試験)を実施する予定です。本プロジェクトに関して、ノースウエスタン大学Potocsnak Longevity Institute(長寿研究所)(2025年11月10日適時開示)、台北医学大学(2025年12月15日適時開示)、サウジアラビアのキング・アブドラ国際医療研究センター(King Abdullah International Medical Research Center:KAIMRC)(2026年2月9日適時開示)との間で、臨床試験を共同で実施するための基本合意書を締結しています。
長寿関連事業(医療用医薬品、OTC医薬品、さらには動物医薬品)は、超高齢化を背景に経済や生活に与える効果も極めて大きな成長分野です。PAI-1阻害薬RS5441の脱毛症治療薬としての実例もあり、当社のPAI-1阻害薬の抗加齢・長寿研究をさらに展開する予定です。なお、当社のがん及び抗加齢・長寿領域に関連する取材記事は、科学誌『Nature(Digital edition)』、『Nature Biotechnology』、『Nature Reviews Drug Discovery』に掲載されました(2025年12月1日、2026年2月26日開示)。
当社技術(セノリティクス内服薬)に競合する技術として、幹細胞治療、細胞内成分治療(エクソソーム)、遺伝子治療(エピジェネティック・リプログラミング)などが挙げられます。特に、エピジェネティック・リプログラミングは、米国Life Biosciences社、米国Altos Labsなど20~30億ドルの資金調達を実施して開発を進めているバイオテック企業が注力している分野です。「老化」への治療法の開発という挑戦は、社会構造の基盤となるヘルスケアのイノベーションをもたらし、重要なプラットフォーム事業となり得るため、多額の資金が集まっています。2026年1月、米国FDAはLife Biosciencesが開発する「ER-100」の臨床試験開始を許可しました。ER-100は、遺伝子治療によりOSK(OCT4、SOX2、KLF4の3つの転写因子)を導入し、細胞を部分的に初期化(時間を巻き戻す)する方法です(OSKは「山中4因子」から腫瘍化リスクの高いc-Mycを除いたものです)。治験は視神経症という具体的な疾患が対象ですが、「老化」を視野に入れた研究です。一方、当社のアプローチは細胞の時間を巻き戻す(エピジェネティック・リプログラミング)ための遺伝子治療ではなく、蓄積した老化細胞を除去(セノリティクス)するための内服薬です。セノリティクスのアプローチをとるバイオテック企業も複数あり、細胞治療(CAR-T)、遺伝子治療、既存の低分子医薬品の適応外使用(ドラッグリパーパシング)など複数モダリティが提案されていますが、当社は低分子医薬品(内服薬)で挑戦しています。
当社のPAI-1阻害薬RS5614は生物製剤や核酸系医薬品ではなく、低コストで大量合成可能な低分子化合物(分子量:424.81、錠剤)です。大量の工業的生産が可能で、安定した品質の医薬品を生産可能で、グローバルな供給が可能です。RS5614は経口投与が可能で、他の生物製剤とは異なり、自宅で投与できます。細胞製剤、エクソソーム、遺伝子治療などのバイオ医薬品とは異なり、地理的又は物流上の制約を受けることなく容易に輸送できます。細胞製剤やエクソソームとは異なり、ドナーも必要としません。最も重要な安全性に関しても、細胞製剤、エクソソーム、遺伝子治療などのバイオ医薬品に比べて副作用が少ないことはメリットであり、XPRIZE Healthspanのセミファイナル試験でも、高い安全性が確認されました。世界的な高齢化は、先進国と新興国の両方において深刻な社会問題となっています。長寿医療は、富裕層だけでなく、多くの人々にとって必要な医療でなくてはならず、内服薬であるRS5614は、幹細胞治療、エクソソーム治療、エピジェネティック・リプログラミング遺伝子治療、他のモダリティによるセノリティクス医薬品に対しても優位性は高いと考えます。(図表17)
< 図表17 RS5614の優位性 >
