有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2021/08/18 15:00
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【項目】
128項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1)会社の経営方針
当社は、医療現場の課題を解決するための多様なモダリティ(医薬品、医療機器、人工知能(AI)ソリューション等)を、医師と共に医療現場で研究開発し、医療イノベーション創出に貢献し続けることで、ヒトが心身共に生涯にわたって健康を享受できるための新しい医療を創造することを経営理念として掲げています。
(2)経営戦略
① 多様なモダリティ
医薬品産業も、低分子医薬品を中心とした開発から、バイオ医薬品(抗体医薬、核酸医薬品、遺伝子治療、細胞治療)へと、モダリティが多様化しつつあります。さらには近年の工学系や情報系技術の進歩により、情報・工学技術との融合による新たな医療の模索も進んでおり、欧米や国内の大手製薬企業では既に医薬品単体のビジネスから医療ソリューション全般にわたるビジネスへと転換を迎えており、学際研究領域での開発が注目されています(図表21)。そのため、これまでの当社の主体である化学系や生物系の研究に加えて、今後工学系や情報系の研究にも視野を広げ、多彩で魅力ある研究と事業のポートフォリオを創生したいと考えます。当社は、新しいモダリティについても、大学など公的研究機関などで発掘されたシーズを育成し、大手企業へつなぐ医薬品等の開発に向けたエコシステムに貢献できると考えます。革新的な次世代医療創出のために、ヘルスケア産業における「医・薬・工」の異分野融合等、産学官オープンイノベーションを推進していきます。
<図表21 医療の変遷とイノベーション>
□ イノベーションの社会実装までの期間が短縮(基礎から臨床への開発タイムラグの解消)
□ ブロックバスター(多数)から個別化医療(個)への転換
□ 大学発バイオベンチャーの役割の拡大(異分野融合での開発、医師主導治験)
② 人工知能(AI)研究の加速
ポストコロナ時代には、ウェットラボ(化学系、生物系)に加えて、ドライラボ(情報工学系)の研究、特に人工知能(AI)を活用した効率的な研究がライフサイエンス領域でも、間違いなく台頭すると予測されます。医師主導治験の患者選択、治験デザイン、データ解析などにもAIがますます活用されていくはずです。これまで当社の事業パートナーは、製薬企業が主でしたが、最近は、医工学機器企業、IT企業との研究及び事業開発連携にも注力しています。多彩な分野の企業との研究開発及び事業開発連携を行うことが魅力あるポートフォリオを創生する上で重要と考えます。
③ グローバル展開
当社は、多くの国外の大学と基礎研究を展開してきましたが、今後は更に国外での臨床研究にも注力いたします。日本で開発された新薬を、国外に展開するための鍵は、① グローバルで通用する知的財産権(新規医薬品化合物を含めた物質特許) ② グローバルに通用するデータやマテリアル ③ グローバルな研究開発を推進できる体制です。国際的に通用する高品質な非臨床データパッケージや治験薬を揃えること、各国規制当局との連携を図ること、グローバルな視点から開発できる様な枠組みが重要と考えます。これまでに、米国ノースウェスタン大学(新型コロナウイルス感染症)、トルコメデニエット大学(新型コロナウイルス感染症)、オランダマーストリヒト大学(糖尿病)の3つの臨床試験を国外の大学・医療機関と共同で実施しています。
世界保健機関(WHO)は、近年では老化関連疾患(非感染性疾患)にも注力しており、がん、心血管疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患の4疾患を非感染性疾患としています(世界の全死亡に占める74%の原因)。当社の開発品目は、がん、心血管疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患という4疾患を全て対象としており、先進国のみならず新興国でも重要な医薬品となり、国際社会に広く貢献できると考えます。
④ ネットワーク拡大に基づくエコシステムの形成
これまでの製薬企業や創薬ベンチャーの多くはパイプラインのバリューチェーン(開発の全ての工程を積み上げていく)を自社で全て構築し、事業価値を高めることに注力してきました。しかし、医薬品のように成功確率が極めて低く、開発期間が長く、投資が大きな分野では研究開発及び事業リスクが大きいため、多くのパイプラインを組み合わせたポートフォリオを形成し、リスク分散をすることが不可欠です。大手製薬企業は潤沢な資金を背景に、多くはパイプラインのバリューチェーンを自社独自で形成するという既存の枠組みでの開発ができますが、ベンチャーのように資金が潤沢でない場合なかなか難しいです。
当社は外部機関(研究機関、医療機関、CRO/ARO)の資源を最大限活用し、コストを含めた開発効率を最大限高めるための開発を実践してきました。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理などが異なります。研究所も持たず、少ない人的リソースや経費で多くのパイプラインを広げ、モダリティも展開できていますので、確実に実績もあげています。すなわち、昨年度は12名の役職員(非常勤取締役及び監査役を除く)で8件の臨床開発段階のパイプラインを稼働し、また、これまでに46の医療機関と共同で21件の医師主導治験を実施しています。さらに、AI医療ソリューションを含む7つのパイプラインについて事業会社と提携しました。自己資源や社内環境のみに注力するのではなく、むしろ外部資源や外部環境に注力し、効率的にイノベーションを創出するプラットフォームが形成できれば大きな成長が期待できます(図表22)。
<図表22 当社の構築するパイプライン構築プラットフォームの拡大による成長>
□ 自社でバリューチェーンを生み出すモデルではなく、プラットフォーム形成でエコシステムを実現
□ 少ないリソースで最大価値を創出する優位性(コミュニティから価値を引き出し、価値をもたらす)
(3)目標とする経営指標
現在、研究開発段階にある当社は、ROA、ROEその他の数値的な目標となる経営指標等は用いておりません。当社は、医薬品のパイプライン(医薬品候補群)の一部を製薬企業やベンチャー企業に導出済で、加えてオプション契約及び共同研究契約等を締結し、契約一時金などの収益を上げており、現在医薬品候補品はすべて研究開発のステージにあります。また、医療機器開発におきましても、ディスポーザブル極細内視鏡の検証的試験を終了し、グローバル医療機器企業への導出及び導出先による製造販売申請について準備を行っておりますが、契約一時金以外は事業収益の計上には至っておりません。研究開発パイプラインの進捗状況等に目標を置いた事業活動を推進すると共に、既存医薬品候補群の適応症拡大、新モダリティ(低分子化合物以外の医薬品)を含む新規プロジェクトの導入と開発、更には人工知能(AI)を用いた医療ソリューションを提供するための新規事業開発などを質・量ともに充実させることが、企業価値を高め、経営を安定させる上での不可欠な目標と認識しております。当該目標達成のために、共同研究や事業提携を推進すると共に、より充実した研究・開発体制の確立のための研究開発・設備投資等の施策を推進して参ります。
(4)経営環境
バイオベンチャーの取り組む最先端医療分野は、環境変化のスピードが極めて早いと考えられ、潜在的な競争相手に先行し、他社の知的財産権を上回る開発をする必要性があります。医薬品もこれまでの化学を基盤とする低分子と異なり、近年は抗体医薬、核酸医薬や遺伝子治療といったバイオ医薬品が主流に成りつつあります(図表21)。さらに、今後は、さらにビッグデータやAIなど情報系技術を取り入れていかないと、競争の激しい医療分野での開発は難しくなります。医療のあり方もブロックバスターから個別化医療へ大きく変遷しています。一方、技術は日進月歩で進んでいます。重要なことは、最先端の研究、技術、シーズをいち早く取り入れる枠組み、速やかに臨床現場で実証することと考えます。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な蔓延で、研究のあり方も変わりつつあります。緊急事態制限など理由からウェットラボ(化学系、生物系)での研究制限が生じる可能性は否定できません。一方、リモート研究で実施できる情報工学系のドライラボ研究、特にAIを活用した効率的な研究がライフサイエンス領域でも必要とされています。
また、病院への受診制限や自粛のため新型コロナウイルス感染症に伴い病院を受診する患者数が減少することにより、治験を実施するための患者登録が遅延したり、治験支援のための開発業務受託機関(CRO)などの病院への訪問機会が減少するなど、新型コロナウイルス感染症以外の疾患に対する治験の進捗が遅延することは避けられません。特に、医師主導治験を実施している医療機関でクラスターが発生する場合には臨床試験にも影響が出ます。現時点では、月経前の精神症状以外は健常な女性を対象とするPMS/PMDDの医師主導治験において、新型コロナウイルス感染症のために病院への受診率が低下しており、患者登録が遅延気味のために、実施医療機関数を増加したり、治験の案内や種々啓発活動など対応を講じています。
(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① 新たな治療モダリティへの展開
医薬品産業も、低分子医薬品を中心とした開発から、バイオ医薬品(抗体医薬、核酸医薬品、遺伝子治療、細胞治療へと、モダリティが大きく多様化しつつあります。更には近年の工学系や情報系技術の進歩により、情報・工学技術との融合による新たな医療の模索も進んでおり、欧米や国内の大手製薬企業では既に医薬品単体のビジネスから医療ソリューション全般にわたるビジネスへと転換を迎えており、学際研究領域での研究開発や新規事業開発が注目されています。これまでは、化学系や生物系が当社の研究の主体でしたが、今後工学系や情報系の研究にも視野を広げ、多彩で魅力ある研究と事業のポートフォリオを創生することが課題です。
② 人工知能(AI)研究の加速
ポストコロナ時代には、ウェットラボ(化学系、生物系)に加えて、ドライラボ(情報工学系)の研究、特に人工知能(AI)を活用した効率的な研究がライフサイエンス領域でも、間違いなく台頭することが予測されます。医師主導治験の患者選択、治験デザイン、データ解析などにもAIがますます活用されていくはずです。これまで当社の事業パートナーは、製薬企業が主でしたが、最近は、医工学機器企業、IT企業との研究及び事業開発連携にも注力しています。多彩な分野の企業との研究開発及び事業開発連携を行うことが魅力あるポートフォリオを創生する上で重要と考えます。
③ 医師主導治験の推進
当社は、医療現場のニーズを出発点として研究開発に着手し、医療現場で研究開発を展開することに軸足をおいて事業開発を行っております。優れた技術があっても、医療現場の課題やニーズに合致しなかったり、医療現場のスペックに不適切であるなどの理由から、医療応用(実用化)が難しい事例は多く、技術を有する多くの企業でもこの問題に直面しています。当社は、これまでに蓄積してきた多くの医師や医療機関とのネットワークから、多くの診療科更には複数診療科にわたる開発が可能で、開発領域も特定の疾患に偏っていません。当社の医薬品開発における開発パイプラインの多様性と21件に至る医師主導治験(多くの疾患・診療科・医療機関)の実績は、当社の有する医療機関とのネットワークと医療現場を重視する特徴の証です。当社には、医師主導治験の経験やノウハウが蓄積されていますが、更に加速することで事業価値を向上できると考えております。新型コロナウイルス感染症に伴い治験が遅延しないような取り組むことも重要な課題として認識しています。
④ 研究助成金の獲得
医薬品の研究開発、特に医師主導治験の実施には多額の開発費が必要であり、同時に少なからぬ開発リスクを伴います。当社では、大学等からの外部シーズを獲得し医師主導治験を活用しながらPOCまで成長させ、製薬企業等へライセンスアウトするビジネス・モデルを展開することを基本戦略としておりますので、多大な研究開発費を自社で負担する必要が生じます。これまで当社は、公的研究助成金を積極的に活用することで、これらリスクの高い医師主導治験に要する研究開発費の負担を補ってきました(新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)における事業創出実用化研究開発事業、科学技術振興機構のA-STEP、日本医療研究開発機構(AMED)の医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)等)。既存プロジェクトの導出が完了し、今後、新規プロジェクトの数と実施すべき医師主導治験の数が増加していくことからも、引き続き公的研究助成金を積極的に獲得し活用していくことが、当社の重要な経営課題であると認識しています。
⑤ 優秀な人材の獲得
当社が取り組む医療分野は、今後、国内外バイオ・製薬企業との競争が激化することが予想され、より一層の研究開発の加速と競合他社との差別化が必要になると考えます。そのため、創造的かつ独創的な研究活動を推進し、会社の経営を支える優秀な人材の獲得は、当社の重要な経営課題になっています。
⑥ 財務基盤の拡充
当社が今後とも、既存のパイプラインの開発を展開しながら、新モダリティ(低分子化合物以外の医薬品)を含む新規プロジェクトの導入と開発、更には人工知能(AI)を用いた医療ソリューション開発を安定的に継続していくためには、必要に応じてベンチャーキャピタル等の投資家や株式発行による資本市場からの資金調達を実施するなどして、財務基盤の充実と安定化を図っていくことが重要な課題と考えています。