有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2021/11/16 15:00
【資料】
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【項目】
154項目

対処すべき課題

本項における将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 会社の経営の基本方針
当社グループは、以下の経営理念を掲げております。
ミッション
「金融を‛サービス'として再発明する」
この経営理念の下、金融サービス提供者向けの次世代クラウド基幹システムの提供を中心に、ビッグデータ解析支援や金融サービスの企画・開発支援も行いながら、パートナー企業とともに人々にとって遠い存在である金融サービスを暮らしに寄り添ったものにすることを目指しております。また、証券業及び保険業における社会的責任と公共的使命を深く認識し、正しい倫理的価値観を持った上で、多くのお客様に安心をお届けすることを目指し事業活動を行っており、これらの活動が当社グループの中長期的な株主価値及び企業価値の最大化につながると考えております。
(2) 経営環境
当社グループのビジネスは、国内金融業、特に証券業及び保険業に深く関連しております。
国内の証券業の市場規模については、2020年12月末の家計が保有する上場株式及び投資信託の資産残高が192兆円、その過去10年間の年平均成長率は4.5%となっております(出所:日本銀行、2021年)。
国内の損害保険業及び少額短期保険業の市場規模については、2020年度の年間保険料収入が、損害保険は8兆6,927億円で過去10年間の年平均成長率は2.2%、少額短期保険は1,178億円で過去10年間の年平均成長率は9.6%となっております(出所:日本損害保険協会及び日本少額短期保険協会、2021年)。加えて、日本の損害保険業の市場規模は、世界と比較しても4番目に大きい市場となっております(出所:sigma No 3/2021 Swiss Re Insurance)。
また、国内金融業界におけるIT投資の市場規模については、2021年の国内IT支出額の予測は27兆9,730億円、そのうち銀行・証券向けが5兆22億円、保険向けが1兆5,063億円となっており、金融業界向けは国内IT支出の中でトップクラスの規模となっております(出所:ガートナー社、2021年)。
上記のとおり当社グループのビジネスが深く関連する金融業界は、非常に大きく歴史ある産業である一方、モバイルテクノロジーの普及やデータ利活用等の技術進歩により、エンドユーザーはより質の高いサービスを求める傾向が高まり、特に顧客体験の向上が重要な課題となっております。金融庁が2019年8月に公表した「リスク性金融商品販売にかかる顧客意識調査」によると、金融機関の顧客推奨度(利用者が友人、知人に勧めたいと思うか否かを指数化したもの)は、保険、証券、銀行、消費者金融いずれも、他の業種より低く、十分な顧客体験を提供できていないと言えます。
金融サービスの顧客体験を改善し競争力を高めるためには、事業のデジタルトランスフォーメーションとそれに伴って蓄積されるビッグデータの利活用が求められています。これらを成功させるには、金融業界の専門知識と高度なテクノロジーを融合させなくてはなりません。
こうした状況に対応すべく、既存金融機関は、多額の投資を行っております。IDC Japan株式会社によれば、日本におけるFintech向けIT支出額は、2018年から2023年までの5年間において国内金融機関全体で30.2%拡大することが見込まれております。その一方で、 多くの金融機関にとっては、単独でこのような大規模な長期投資を継続することは難しいため、外部のソリューションを活用した効率的な変革が期待されるものと当社グループは考えております。
他方で、新たなプレイヤーによる金融事業への参入も増加傾向にあります。「Embedded Finance(組込型金融)」と呼ばれ、金融以外のサービスを提供する事業者が金融サービスを既存サービスに組み込んで金融サービスも提供することで、既存サービスの利便性の向上と収益の拡大を図る取組みが増加しております。高度なテクノロジーを有する複数の大手企業が、通信・配送・小売といった大規模な個人ユーザーを抱える既存事業を基盤として、金融事業への参入を決定しており、実際に証券仲介業者として既存事業のユーザーを対象とした資産運用サービスを提供する会社も現れております。
更に、日本政府が2018年6月に公表した「未来投資戦略2018」においては、「FinTech/キャッシュレス化の推進」が重点分野として位置づけられており、2020年6月には「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律」が成立する等、金融事業への新規参入を支援する法環境の整備も進んでおります。特に、利用者と金融機関との間に介在する仲介業者は、現行規制では金融商品取引法における金融商品仲介業者、保険業法における保険募集人や保険仲立人というように「機能」ごとに分かれており、事業者が「機能」をまたいで商品やサービスを取り扱う場合には、複数の登録等が必要となっております。その結果、銀行、証券、保険すべてのサービスをワンストップで提供できる仲介業者は数社しかおらず、利用者の利便性の点からは十分とはいえない状況でした。そのような中、今回の法改正により、「金融サービス仲介業」が創設され、仲介業者が少ない負担で複数業種かつ多数の金融機関が提供する多種多様な商品やサービスをワンストップで提供できるようになりました。
これまでの金融業界は、各金融機関が金融商品の組成からエンドユーザーへの販売、それらをつなぐシステムまで多くの機能を自社で担う垂直統合的な産業構造をなしていました。当社グループは、当社グループが提供する金融インフラストラクチャが横串となり、多数の金融商品とエンドユーザーへの販売を担う企業を1つのプラットフォームでつなぐことで、水平統合的な産業構造への転換を目指しております。
(3)経営戦略
当社グループの事業及び事業領域には次のような特徴があり、これらの特徴と上記の経営環境を踏まえて、中長期的な経営戦略を立案しております。
① ユニークな提供価値と市場機会
金融業界において、技術的負債に纏わる課題は広く認識されておりますが、新しいテクノロジーをベースにした基幹システムやソリューションを提供するプレイヤーは非常に少ない状況にあります。こうしたテクノロジーの導入は、既存金融機関の基幹システムを刷新するには非常に長い時間を要する一方で、新規参入や既存金融機関の新規事業の立上げにおいては、比較的導入されやすい傾向にあります。また、導入先企業のオペレーションに深く組み込まれたサービスであるため、一度導入されると解約が生じにくいという特徴があります。
② 安定性と成長性を併せ持つ収益モデル
当社グループの金融インフラストラクチャ事業の収益は、初期導入収益、月額固定収益、従量課金収益の3つから構成されております。初期導入収益は顧客にとっては新規に自前で立ち上げる場合と比較して安価であり、中長期的には月額固定収益と従量課金収益が収益の中心になることから、安定的かつ継続的な事業進捗が見込める収益モデルであります。「(2)経営環境」に記載のとおり、証券、保険ともに個人における市場規模の拡大が見込まれる中で、当社グループの金融インフラストラクチャ事業で提供する各パートナー企業のサービスにおいても取引高が拡大して、従量課金収益が今後拡大するものと考えております。また、導入先企業がその顧客に対して金融サービスの基盤となるインフラストラクチャを提供するという性質上、解約率は低い傾向にあり、顧客LTV(Life Time Value:1顧客あたりの生涯に生み出す収益)の最大化を推進しやすいモデルであります。
③ データ蓄積によるインフラストラクチャの価値向上
当社グループの金融インフラストラクチャ事業の証券インフラストラクチャビジネスにおいては、パートナー企業が仲介業者やマーケティングパートナーとなり、当社グループがエンドユーザーである一般顧客と契約を締結するため、当社グループにも顧客情報が蓄積されることとなります。こうした顧客の属性情報や行動情報を分析可能な形で蓄積することで、サービスやマーケティングの最適化に活用することが可能になります。
具体的な当社グループの経営戦略は、以下の通りであります。
① 金融インフラストラクチャの機能拡充とパートナー数の拡大
近年、個人向けサービスを展開して大規模な顧客基盤を有する企業を中心に、様々な企業が金融事業へ参入しております。更に、こうした動きに対して、既存金融機関も新規事業としてデジタル特化の新たなサービスの立上げを行っており、新しいテクノロジーが導入されやすい環境にあると捉えております。
当社グループは、これまでインフラストラクチャの安定稼働と業務プロセスの確立を優先し安定的な成長を続けておりましたが、様々なニーズに応えられるよう金融インフラストラクチャの機能拡充を図るとともに、大企業向けの事業開発チームを確立し、パートナー数の拡大に取り組み始めております。
既存事業で個人ユーザーを有している企業は、当該個人ユーザーをターゲットとした証券・保険等の金融サービスを提供するニーズが高いと当社は考えており、実際に金融事業へ参入している企業が複数現れております。主な業界としては、銀行、クレジットカード、Eコマース、小売店、運輸、通信、コンシューマー向けアプリ等が挙げられ、各企業が自身の既存事業における顧客を開拓することでARPU(Average Revenue Per User:ユーザー1人あたりの平均売上高)を継続的に拡大し、結果としてLTVの拡大が実現されると当社は考えております。したがって、当社グループは、これらの業種に属する企業を中心に営業活動を行うことにより、当社グループの金融インフラストラクチャを活用したパートナー企業の拡大を図ってまいります。
また、当社グループの金融インフラストラクチャ事業は、各パートナー企業において提供される金融サービスの顧客数、取引の増加により当社が獲得する収益は拡大するものの、かかる金融サービスの顧客(エンドユーザー)開拓はパートナー企業自身が既存事業の顧客に対して行うため、当社グループには顧客開拓コストが発生しにくい特徴があります。したがって、収益の増加に対して発生するマーケティング費用等が押さえられるというビジネス構造であるため、顧客数や取引数の増加に伴い、中長期的に利益率が向上すると考えております。
② データ解析にかかる技術力の向上
現在は、テクノロジーの先進性やコスト競争力によって差別化を図っておりますが、将来的には競合他社が現れる可能性もあると考えております。そのため、当該インフラストラクチャに蓄積されるデータを活用したサービス改善やマーケティングの最適化を行うことにより、持続的な競争優位性を生み出すことが重要と考えております。このため、中長期的な視点に立ちデータ解析の知見と技術力の向上に努めてまいります。
③ 事業領域・地域の拡大
当社グループは、「金融を‛サービス'として再発明する」というミッションのもと、金融サービス提供者向けの次世代クラウド基幹システムの提供を行い、パートナー企業とともに新しい事業やサービスを創出することで、事業成長を実現してきました。現在は、証券インフラストラクチャ「BaaS」、保険インフラストラクチャ「Inspire」を提供しておりますが、更なる成長に向けて、短期的にはレンディング、中長期的には送金/決済等についても、必要な許認可等を取得した上で、参入することを目指しております。当社グループは、今後も他の金融事業領域や日本にとどまらず海外での展開も視野に入れて、事業拡大を進めてまいります。
(4)目標とする経営指標
金融インフラストラクチャ事業においては、売上高の継続的かつ累積的な増加を実現するため、パートナー数を重要指数としております。
(5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
今後当社グループが成長を遂げていくために優先的に対処すべき事業上の課題は以下の通りです。なお、優先的に対処すべき財務上の課題は、現在ありません。
① 金融インフラストラクチャ事業の収益拡大
当社グループは、上記「(3)経営戦略」で記載したように、「BaaS」や「Inspire」等の金融インフラストラクチャを導入いただく企業を拡大することが重要であると考えております。当社グループが提供する金融インフラストラクチャは、個人顧客を数多く有する企業が顧客対象となるため、主に大企業をターゲットとしたセールス体制となっております。当社グループは、これまでの実績を通じたPR等により、大手金融機関や金融サービスに関心を有する大企業とのネットワークを構築し、当該ネットワークを活用して潜在顧客の意思決定層へアプローチし、事業開発チームが顧客とともにビジネスプランニングを行うところから支援することで受注までつなげる体制を構築しております。今後更に大企業向けの事業開発チームを拡充し、パートナー数の拡大に取り組んでまいります。
また、2021年8月には当社子会社の株式会社スマートプラスと三菱UFJ信託銀行株式会社の間で「BaaS」を活用した運用商品をオンライン上で開発・提供していくための、業務提携検討に関する基本合意書を締結しております。「BaaS」で提供されるサービスにおいて、これまで取り扱ってきた株式、投資信託に加えて、金銭信託の販売も可能になるように準備を進めており、当該取扱い開始のために株式会社スマートプラスでは第二種金融商品取引業の登録を予定しております。パートナー企業の希望に沿えるように今後も必要に応じて「BaaS」で取り扱える商品を拡充して、パートナー数の拡大に努めてまいります。
② 売上の拡大並びに利益及びキャッシュ・フローの定常的な創出
当社グループは、事業拡大を目指して開発投資や人件費・採用費を中心に積極的な先行投資を進めており、2021年3月期までの経営成績は営業損失を計上しております。当社の成長事業である金融インフラストラクチャ事業は、原則としてパートナー企業がマーケティングを行なうため、サービス数が増加しても当社グループの広告宣伝費は著しく増加せず、機能拡充のための開発費もパートナー数が増加するほど1社あたりの費用負担は低減する傾向にあるため、収益性については新たなパートナー企業の獲得及びエンドユーザー増加に伴うトランザクションの増加による売上高の拡大が重要となります。パートナー企業については、金融インフラストラクチャのサービスに興味を有する顧客候補は多く、交渉中、契約締結済みのパイプラインは複数存在している状況であります。連結売上高は2019年11月期が前期比+45%(英国子会社を除く売上高は+31%)、2020年11月(注)に終了する12ヶ月が前期比+31%(英国子会社を除く売上高は+47%)と成長した結果、各種費用の連結売上高に占める割合は着実に低減しております。今後も開発投資や採用等の先行投資を進めつつ、中長期的な利益及びキャッシュ・フローの最大化を目指してまいります。
(注) 当社は決算期変更により第7期(2021年3月期)より11月決算から3月決算へ変更しているため、2019年12月1日から2020年11月30日の1年間に係る数値(未監査)を使用しております。
③ 優秀な人材の採用及び育成
当社グループは、継続的な事業成長の実現に向けて、テクノロジーと金融の双方に明るい優秀な人材を採用し、強い組織体制を整備することが重要であると考えております。現在のプロダクト開発に関わる人員の割合は、グループ全体で70%(エンジニア、プロジェクトマネージャー、デザイナー、ウェブディレクターの合計)を占めており、顧客に対して質の高い金融サービスの開発・運用を提供できる体制が構築されております。今後も積極的な採用活動を推進していく一方で、各種社内勉強会の開催をはじめ、従業員が中長期にわたって活躍しやすい環境の整備、人事制度の構築やカルチャーの推進等を進めてまいります。
④ 情報管理体制の継続的な強化
当社グループは、提供するサービスに関連して多くの個人情報を取り扱っており、情報管理体制を継続的に強化していくことが重要であると考えております。これらを保護するため、情報セキュリティポリシーを定め、この方針に従って適切に管理しておりますが、今後も社内研修の実施をはじめ、社内体制や管理方法の強化を行ってまいります。