有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2022/05/20 15:00
【資料】
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【項目】
135項目

対処すべき課題


文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において、当社が判断したものであります。
(1)経営方針
当社は、「コミュニケーションを通じて、毎日の元気を。」という経営理念のもと、疾病予防と健康増進の領域において、お客様である企業・健康保険組合、並びにその先にいらっしゃる従業員の皆様・ご家族の皆様に満足いただけるサービス展開を行ってまいりました。また、ネットワーク健診事業において健康診断のお願いをしております全国の医療機関につきましては、当社の大切なパートナーであるとの認識に立ち、健診に関する業務効率化・経営の安定化に寄与すべく、送客含め事業展開を行っております。
また、今後は、コロナ禍の環境にてデジタルシフトが進む企業の健康経営や働き方改革等の流れを汲み、ヘルスサポートシステムを中心とした健康管理クラウド(SaaS)事業に注力してまいります。これまでは中規模~大規模企業向けにヘルスサポートシステムを提供してまいりましたが、中小企業向けに一部機能を絞り、かつ人的な工数をかけずとも健康管理ができるSaaS型新システムの開発に着手しております。今後は、これら小規模事業者~大規模事業者の夫々のご要望に応じた健康管理システムの提供、並びに産業保健活動全般のサービス展開を行ってまいります。
引き続き、当社に関係するステークホルダーの皆様にご満足いただける企業活動を推し進めることにより、企業価値向上を図ることを経営の基本戦略としております。
(2)経営環境
当社のセグメントごとの経営環境は以下の通りであります。
(ネットワーク健診事業)
労働安全衛生法により、企業には従業員の雇用時及び年1回の健康診断を受診させる義務があり、職域における健康管理を川の流れに喩えると、その健康診断は、最上流・源流に位置します。企業は、健康診断の受診を起点として、健康診断結果から下流に向かって産業医面談、就業判定(※)、最終的には労働基準監督署へ提出する定期健康診断の報告等、法令で定められている様々な対応を求められます。
当社は、上流である健康診断から下流にかけて、それら健康に係る対応を一括でサポートするサービスを提供しており、この人間ドックを含む健康診断市場については、これまでは、生産年齢人口の減少、特定健診の受診率向上などの取り組みから市場は横ばいまたは微増傾向で推移してまいりましたが、新型コロナウイルス感染症が急速に拡大したことが要因で、2020年度においては市場の縮小となりました。令和3年版厚生労働白書によると、2019年と2020年の健康診断実施数を比較すると、各種において、初の緊急事態宣言が発令された期間下の4~5月の実施状況が前年と比べて大きく落ち込んでおり、前年同期の半分以下の水準となっております。なお、宣言解除後の6月以降は、一定の回復が見られたものの、顧客の受診控えや、多くの医療機関の健診業務の一時休止・延期により、受診者数は全体的にも前年より減少となりました。一方で、コロナ禍において健康・予防に対する意識が高まりつつあり、健診・人間ドック市場への今後の追い風となると予測しております。
また、2022年度より、団塊世代が75歳以上に到達し始めることから、医療費の高騰による健康保険組合の慢性的な財政状況の悪化が懸念されております。健康診断には、労働安全衛生法のもとで企業が行う法定健診と健康保険組合が実施する特定健診、ならびに健康保険組合の補助のもとに行う人間ドックがありますが、財政状況の悪化を受けて、人間ドックの廃止や、検査項目の削減などが発生しております。また、サービスの利用料についても値下げ圧力が高まっており、これら顧客が置かれる財務状況悪化が当社の本事業における課題であると考えております。当社としましては、業務効率化並びにサービス多様化を図っており、また、企業における健康診断の受診は義務であり、コロナ禍において健診・予防に対する意識が高まりつつあることから、当社経営環境に急速且つ大きな影響を及ぼすものとは考えておりません。
なお、健康診断の予約、精算代行、健診結果データ化等に関するサービス提供者を、総じて健診代行事業者と呼んでおり、競合としては、福利厚生企業や労働衛生機関等があります。当社の持つ競争優位性としては、健康診断関連サービスを専業として行っており、顧客ニーズに即したきめ細かな対応(受診者の受診状況の捕捉、健康診断結果を医療機関から顧客に納品するまでの速度)や、高い品質管理(健康診断結果をデータ化するだけではなく、エラーチェック、当社基準に置き換え一元化)が特徴となります。また、自社で健康管理クラウドシステムまで保有しており、連携が可能であること、ISMSを取得していることで個人情報の管理及びセキュリティ強化に努めていることが強みであります。
※:就業判定とは、企業として労働者の安全と健康に配慮する役割から、定期健康診断の結果に基づき、労働者の就業継続可否を産業医が判断することです。
(健康管理クラウド事業)
当事業がおかれる健康経営支援の一部をなす健康経営支援システムの国内市場は、健康経営に取り組む企業が増加しており、さらに新型コロナウイルス感染症を契機としたテレワーク等の働き方の変化により、企業の健康管理分野のデジタライゼーションが加速度的に進んでいくものと想定しており、市場は従来予想より速いスピードで成長していくことが予想されます。事実、“健康経営銘柄”や“健康経営優良法人”の認定要件でもある経済産業省が実施する、従業員の健康管理に関する取り組みやその成果を把握するための「従業員の健康に関する取り組みの調査」(健康経営度調査)について、第1回目の2014年度は423件であった回答数が、第8回目である2021年度においては過去最多となる2,869件となり、回答数が増加していることからも多くの企業が健康経営に取り組み始めていることが窺えます。
特に大企業においては、メンタル疾患やメンタル不調者が企業における経営課題となりつつある状況も踏まえ、これらメンタル面や健康診断結果をもとにしたフィジカル面のケアが企業に求められております。ヘルスサポートシステムでは、心と身体の一元管理を個人単位にて行う事が可能なシステムであり、これら経営課題の解決ツールとして、今後導入が進んでいくものと想定しております。また、企業側では、SDGsやCSRの側面からも健康経営に関する取り組みを行う企業も見られており、これら企業においては、社員一人当たりの健康投資額は今後も増加していくものと想定しております。
上記に関して、大企業に留まらず、今後は中小企業にも同様の流れがひろがっていくものと考えており、且つ、労働安全衛生法に基づき企業に求められる健康診断受診率向上や、事後措置の強化、長時間残業面談、労働時間管理等の法令対応により、健康経営・健康管理のデジタルシフトが進んでいくものと想定しており、市場規模は継続して拡大していくものと考えております。当社としましては、市場の変化・ニーズに沿ったサービス展開を迅速に行うことを最優先に対応してまいります。
なお、競合他社と比較した際の競争優位性としては、当社は、健康診断関連サービスを専業として行っており、20年近くの稼働実績・ノウハウ・お客様の声を反映した機能提供とサポート体制が特徴となります。また、ネットワーク健診サービスとあわせて導入いただくことにより、当社で精査・一元化された健康診断結果の自動連携が可能になり、健康診断の案内から予約、過年度からのデータ管理から事後措置に至るまで、一貫してサービス利用できる点も大きな強みであります。
(医療機関等支援事業)
当事業におきましては、主要事業であるPET関連事業の施設が地域中核病院内のがん検診関連施設であることから、新型コロナウイルス感染症拡大下においても、過度な外出自粛による医療機関の受診や検査、治療行動控えが起こらない限り、安定した事業として、継続されることを想定しております。
新型コロナウイルス感染症の拡大や長期化により、今後ますます医療や健康管理に求められる役割や責任は増し、特にがん等の疾患に関する発見の遅れやそれに伴う治療の遅れなどが懸念される現況下では、更なる検査需要の拡大などが見込まれ、需要は底堅いものと考えております。
なお、現在、当社にて運営されている地域中核病院向けのPET関連事業は2025年3月31日に契約期間満了を迎え、その契約更新が行われないリスクが存在しております。当社としては、新たな検査施設及び設備導入を検討する医療機関や、デジタル化・事務業務の効率化・強化を目的としている医療機関向けに、新たなソリューション事業の開発・開拓に取り組んでまいる所存です。
その他のサービスである女性の健康支援については、女性の身体は初潮から閉経期に向かってダイナミックに変化する女性ホルモンが影響し、ホルモンバランスを崩しやすいこと、また、出産や育児などライフステージに応じた大きな出来事があり、それらに伴う特有の健康管理が必要となります。また、現在進められている政府の成長戦略では、「女性が活躍する社会の実現・促進」として、女性の更なる活躍や、管理職の輩出などが大きなテーマとなっております。この実現のためには、男性と同様の、働くための「健康管理」の考え方ではなく、「女性の健康」に着目した新しい施策が求められます。当社は、そんな「女性の健康」を通して、「企業と人を元気にする」ため、顧客の要望に応じて、婦人科疾患啓発・健診受診勧奨としてのリーフレット作成・販売等様々な施策を引き続き提供してまいります。
(3)中期経営戦略
職域における健康管理(コーポレートウェルネス)市場は、健康経営の実践や、健康・福祉や働きがい等に関係するSDGs目標の達成に向けた取組み推進、さらには、新型コロナウイルス感染症によるテレワークの普及等、働き方の多様化への対応、デジタル化におけるクラウドシステム利用意向(※1)といったニーズや課題に対応していくことが求められる状況にあります。また、少子高齢化がもたらす生産人口動態の変化は、国内のコーポレートウェルネス市場において、これまでの、従業員の健康管理や維持向上等の取組み範囲に留まらず、健康経営の実行により従業員の業務パフォーマンスの向上につなげることに対してもニーズが拡がりつつあります。
こうしたコーポレートウェルネス市場の変化に対し、当社では、まず、大企業市場の深耕に優先して取組む目標を掲げ、健康管理クラウドシステム「ヘルスサポートシステム」の健康管理プラットフォーム化、そして、蓄積されたデータに基づく健康支援ソリューションの開発等に取組む方針です。
また、並行して、ネットワーク健診事業におけるメニュー拡充やサービスの高付加価値化や、当社内のオペレーションに関するデジタル化推進や技術投資にも積極的に取組み、一層の収益力向上を図ってまいります。
そして、新たな市場として、国内では大多数を占める中小企業市場に対して、健康管理クラウド「ヘルスサポートシステム」を基盤とした新たなサービスプラットフォームを開発・提供し、同プラットフォーム上で、中小企業で働く従業員や従業員を支える家族の健康管理・健康増進に取組む方針です。当該市場は、大企業市場に比べ、職域における健康管理に従事する人的リソース等が不足していること等から、各企業が独自にその体制を整備する事が困難な状況にあるとの当社認識により、2022年6月には、当該市場向けに、健康診断結果サービスや産業医サービス等との連携を可能とする新たなSaaS型健康管理システム(ベータ版)をローンチいたします。
これにより、従業員規模や業種業態等を問わず、大企業から中小企業まで広く、あらゆる企業に対し、従業員や家族の健康管理プラットフォームとなるIT基盤の提供が可能となり、今後は、その基盤上で、産業医や保健師による面談や保健指導、組織や従業員個人毎のヘルスケアデータに基づき個別最適化された健康情報や健康増進サービスの提供等を行うPHR(※2)事業への布石となる取組みも推進し、「企業と人を元気にする」というビジョンの実現に邁進いたします。
※1:総務省が2020年6月調査(令和元2年通信利用動向調査)によると、2019年において全社的に、あるいは一部の事業所又は部門でクラウドサービスを利用している企業は全体の68.7%と例年増加傾向にあることからも、システムに対するニーズは拡大傾向
※2:PHRは、個人の健康・医療・介護の情報を表し、パーソナル・ヘルス・レコード(Personal Health Record) の略です。
(4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
ネットワーク健診事業においては、健康診断を受診した人数である健康診断結果の出荷数が財務指標である売上高と連携していることから、出荷数を客観的な指標として採用しております。
また、健康診断の料金は、選択される健康診断のコース及び医療機関により顧客毎に単価が変動します。項目が多いコースや人間ドックを選ばれる程、売上単価は高くなります。そのため、全体の売上高を全体の出荷数で割り戻して算出する平均売上単価も当事業の客観的な指標として採用しております。
健康管理クラウド事業においては、より多くのお客様に認知、導入いただくべく、マーケティング活動の強化を行い、法人向けSaaS業界特有の指標を会社のKPIとするべく、客観的な指標は、契約企業グループ数、ユーザーID数、チャーンレートとしております。なお、KPIの算出方法について、契約企業グループは、当社及び代理店と契約を締結している顧客を指し、顧客が健康保険組合の場合、その組合に属する企業は集計しておりません。ユーザーID数については、ヘルスサポートシステムを利用される対象者従業員数及び顧客の管理担当者数になります。チャーンレートは、当月解約顧客数を前月利用顧客数で除算した月次チャーンレートの平均を算出しております。
医療機関等支援事業においては、主要なサービスであるPET関連事業は対象顧客が1社であるため、客観的な指標は設定しておりません。他方、BPOサービスにおいては、顧客の要望により、顧客が必要とするサービスが変動するため、サービス対象者数を客観的な指標としております。
なお、ネットワーク健診事業の健康診断結果出荷数をポータルサイトi-Wellnessの利用者IDとして、健康管理クラウド事業のID数及びBPOサービス対象数を合算したID数を事業全体のKPIとしております。
(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
①市場深耕・市場開拓
昨今の働き方改革や、健康経営・健康投資の推進といった社会環境の変化、さらには新型コロナウイルス感染症によるテレワークの普及など、企業におけるデジタルシフトの流れが健康分野にも広がっております。また、長時間残業問題等を起因とした法的事項に関しても企業側の対応が求められております。当社としましては、それら市場のニーズに沿ったサービスの適宜提供を行うことを優先的に対処すべき課題と考え、健康管理クラウド事業の強化を図ってまいります。具体的には、ヘルスサポートシステムの更なる拡販及び中小規模の企業にも対応したSaaS型健康管理クラウドシステムを2022年6月にベータ版として展開を予定しております。
②当社サービスの認知度向上
上記市場深耕・市場開拓のためには、サービス認知度の向上も優先的に対処すべき課題と考えております。ヘルスサポートシステムの更なる拡販及び中小企業向けSaaS型健康管理クラウドシステムの提供を行うにあたっては、インターネットを活用したマーケティング活動や、他社とのAPIによるサービス連携、他社との提携戦略に取り組んでおり、今後これらの活動をより一層強化してまいります。
③人材の育成と確保
マーケティングの必要性、技術投資の重要性により、人材の育成及び確保も優先的に対処すべき課題と考えております。中小企業向けSaaS提供及び、ヘルスサポートシステムの更なる拡販を行うにあたっては、システム開発体制強化のためのシステムエンジニアの確保、認知度向上のためのインターネットを活用したマーケティングを行う人材の採用をより一層強化してまいります。
④財務上の課題
当社は、これまで金融機関からの借入実績はなく、資金需要は自己資金及び営業活動によるキャッシュ・フローを源泉とした安定的な財務基盤を維持しており、優先的に対処すべき財務上の課題はありませんが、上記事業上の課題に対する対処及び継続的な設備投資を実行できるよう、内部留保の確保と株主還元の適切なバランスを検討し、既存事業の営業キャッシュ・フローの改善等に対処する等、財務体質の強化に努めてまいります。
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