有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2022/09/14 15:00
【資料】
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【項目】
122項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において、当社が判断したものであります。
(1)経営方針
より良い社会を創造していくには、その構成要素となる人と組織の生産性を高め、より良い組織を一つでも多く創っていくことが地道でありながら最も確実な方法であると考えます。そして、一人ひとりの多様な能力発揮を支援し、ビジネスと社会の持続的発展を可能にするために当社が考えるテーマは次の通りです。
それは、すべてのビジネスパーソンに「客観的な立場からコミュニケーションできる、経験豊富でスキルもあり信頼できる、あなたの能力発揮をお手伝いする」役割を持ったコーチを活用して頂くことです。
当社は、ビジネス経験・マネジメント経験の豊富な方をパートナーコーチとして迎えています。
当社はパートナーコーチと連携して、エグゼクティブや次世代のエグゼクティブのみならずビジネスの世界で活躍するすべての人の個人の成功、ひいては組織の成功をサポートしていきたいと考えております。
1対1型サービスでは、ハイレベルなエグゼクティブコーチング、ビジネスリーダーコーチング、ビジネスパーソンコーチング等、一人ひとりの課題と状況に対応した幅広いビジネスコーチングを提供するとともに、1対n型サービスでは、組織に対しては1on1の導入・定着・継続を支援するビジネスコーチングプログラムにより間接的にコーチングの素晴らしさを体感頂ける機会を、プロフェッショナルチームとテクノロジーの活用により皆様にご提供することで、コーチングの普及を実現したいと考えています。
これらを実現する企業となるため、当社は次の通り、パーパス・ミッション・ビジョンを定めております。
<パーパス>一人ひとりの多様な魅力、想い、能力の発揮を支援し、働く人が幸せを感じられる社会の持続的発展を可能にする。
<ビジョン>一人ひとりにビジネスコーチがついている社会を実現する。
<ミッション>プロフェッショナルチームとテクノロジーの力で、一人ひとりに最適なビジネスコーチングを提供する。
(2)経営上の目標達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、ビジネスコーチングを1対1型と1対n型で提供しており、現在は1対n型が収益の過半を占めていますが、一人ひとりにビジネスコーチがついている社会を実現するためには、コーチングを受けているコーチング対象者(クライアント)数を増加させる必要があるため、1対1型サービスのクライアント数及び1対1型サービスの売上構成比を重視しております。また、経営の効率性を確保するため、売上高、売上総利益率、営業利益率並びに従業員一人当たり売上高を重要指標として活用することで、健全な収益力の向上と経営基盤の強化を進めて参ります。
(3)経営環境
当社は、「働き方改革関連法」による生産性向上・長時間労働是正・ワークライフバランス実現等を目的とした人材開発関連投資が拡大してきたと考えており、また、コロナ禍により始まったテレワークの実施により組織内コミュニケーションの課題が顕在化して、これを解決するためのコミュニケーションを改善するための人材開発投資も活発化していると考えております。
一方で、企業向け法人研修市場は約5,000億円(※1)で横ばいの状況であり、ビジネスコーチング市場は、その中の小さなカテゴリーで310億円程度(約6.4%)(※2)と考えられ、適切なマーケットデータは存在しません。
当社では、これらの状況から企業向け法人研修市場の中で支出カテゴリーの変化が起きているものと考えています。
米国においては、法人研修市場のうち、ビジネスコーチングが占める割合は約36%(※3)と、日本の構成比の5倍以上です。この差は、米国のジョブ型雇用制度と能力給型報酬制度に対して、日本のメンバーシップ型雇用制度と年功序列型報酬制度の違いによりもたらされているものと考えております。
国内においてもジョブ型雇用制度が話題になる等、米国型制度への転換が模索されており、これにより人材開発投資の内容が変化していると考えております。
また、「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~」(経済産業省)にあるとおり、企業における人的資本への投資状況の開示が望まれる状況となっており、実効性のある人材開発投資が求められる状況になっています。
これらのニーズに対して、一人ひとりの能力を最大限に引き出すビジネスコーチングをという、単なる研修ではないサービスの有効性を訴求して、成果を測定できる形でサービス提供することが重要と考えています。
(※1)出典:矢野経済研究所「2021 企業向け研修サービス市場の実態と展望」
(※2)出典:矢野経済研究所「2021 企業向け研修サービス市場の実態と展望」から当社にてカテゴリー区分の上集計。
(※3)出典:IBISWorld刊「61143 Business Coaching in the US Industry Report」から当社にてカテゴリー区分の上集計。
(4)経営戦略等
当社は、現状は1対n型コーチングが収益の柱になっていますが、今後は、1対1型コーチングを伸長させてより多くの顧客の生産性向上に寄与したいと考えています。
人材開発投資の投資効果測定は非常に難しい課題です。1対n型で人材開発投資をしても、プログラム参加者の学習理解度、習得内容の利用機会の有無、習得内容を利用するための支援の有無等により、参加者の成果は一律ではなく、客観的な成果を把握するためには情報の収集と分析に多大な量力を必要とします。
一方で、1対1型コーチングでは、コーチがコーチング対象者(クライアント)に1対1で対応し、行動変容の定着化までフォローアップするので、成果につながりやすく、また成果の把握も容易になります。
米国型の雇用制度・報酬制度に向かって人材開発のニーズが全員一律のインプットから個人別成果実現の支援に向かって変化し、人的資本投資の開示が求められる時代においては、1対1型の人的資本投資がより重視されるようになると考えており、1対1型コーチングの伸長を想定した戦略を準備・実行することで顧客価値の最大化と収益の増加を実現することが可能になります。
① 高品質なコーチの確保・育成・維持
第一は、高品質のコーチを確保し、育成し、維持することが重要です。コーチの品質は「コーチ個人の実践知」×「コーチングスキルの習熟度」で決定すると考えています。コーチングスキルが有ってもコーチ個人の実践知が低いと、クライアントに対して適切な「気づき」をもたらすことが出来ません。コーチが実践知を持っていてもコーチングスキルが無いとティーチングとなってしまい、クライアントはコーチから指示された行動変容を行うことになって継続は難しくなります。これらを解決するための仕組みや環境を整えて高品質のコーチを確保することで、1対1型の成長を目指します。
②フォローアップの特化したサービスの開発と提供
1対n型コーチングにおいても、フォローアップを出来るだけ容易にするサービスを開発して提供することで、安定的な成長を目指します。
③コーチングのAI分析
コーチングや1on1ミーティングは1対1で実施されるために当事者以外にはブラックボックスとなっています。そのため、最適なコーチングになっているかどうかが感覚的にしか判断できないため、動画AI分析や会話音声AI解析により、効果的なコーチングとなるように支援するサービスも開発・販売を開始しており、これらの有効性を高めて成果につながるコーチングや1on1ミーティングの実現を目指していきます。

(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社の優先的に対処すべき事業上の課題は以下の通りであります。なお、優先的に対処すべき財務上の課題につきましては、長期借入金及び社債の約定返済・償還も順調に進み、営業キャッシュ・フローにより実質無借金状態となっていますので、現時点ではございません。
a. ビジネスコーチングのフェーズ1・2・3による営業展開の強化
ビジネスコーチングのサービスを3つのフェーズに区分した体系に基づくサービス提供により、より顧客が成果を得るためのステップが明確になり、長期的ご支援が可能な顧客が増加して参りましたが、顧客と当社の十分な相互理解と信頼関係の確立が不可欠であるため、すべての顧客に幅広く展開するまでには至っておりません。そのため、社内教育による営業担当者の専門知識レベルの向上、営業担当者の人員増強、パートナーコーチとの連携の緊密化、サービス提供を支えるオペレーション担当者の効率化等を図り、より多くの顧客にライフタイムバリュー(顧客生涯価値)を最大化すべく人材育成及び組織開発領域における課題解決につながる体系的サービス提供を実現して参ります。
b. ビジネスリーダーコーチング、ビジネスパーソンコーチングのサービス確立と普及
従来からエグゼクティブ層には個別のコーチングを提供し、企業組織の中間層にはビジネスコーチングプログラムを提供してまいりましたが、外部の第三者であるコーチには、社内1on1では実現できない客観的な視点でのコーチングを提供することが可能であります。テレワーク環境が浸透したことで、オンライン会議システムを利用したコーチングでも対面コーチングと比較して遜色ない効果が確認されており、またコーチも居住地等に関係なくコーチングを実施できるため、コーチング提供の機会が拡大しております。
日本国内には各種団体が認定したコーチ資格保持者(国際コーチング連盟(ICF)資格やPHP認定ビジネスコーチ等)が多数おります。しかし、コーチングをビジネスとして提供する機会に恵まれず、多数の方が保有スキルを活用できずにいると当社は考えております。当社では、このような方々のうち、当社のビジネスコーチングの考え方に共感し、当社のコーチング手法を実践できる方々と契約してサービス提供力を拡大して参ります。これに加えて、ビジネスリーダー/パーソンコーチング実施の基盤となるシステム環境を整備し、組織の中間層の多数のユーザーに対してコーチングを提供する仕組みを確立し、普及に努めて参ります。
c. サービス提供力の増強と生産管理の強化
コーチ等の増員によるサービス提供力の増強は、質と量の両面において当社の課題であります。当事業年度においてもサービス提供力の増強を実施しましたが、今後の事業成長のために更なるサービス提供力の増強が必要です。特に、ビジネスリーダーコーチング、ビジネスパーソンコーチングの普及に対応したコーチの確保を重点施策として、コーチの採用チャネルを多様化し、サービス提供力を量と質の両面から増強を図って参ります。
d. ガバナンス体制の拡充と経営目標の融合
当社は2021年9月に「一人ひとりの多様な魅力、想い、能力の発揮を支援し、働く人が幸せを感じられる社会の持続的発展を可能にする」を当社のパーパス(当社の存在意義)として定めました。これは当社が個々人にフォーカスし、ビジネスコーチングを通じて社会の発展に貢献したいという当社の意思を表現しております。
また、2022年4月に独立社外取締役1名を増員し、取締役会を構成する取締役・監査役のうち、半数を独立役員が占め、経営のモニタリング機能を強化して参りました。
これを、より社会の要求に融合した形で推進するため、従来のガバナンスの強化から一歩進めて企業に対する様々な社会的要請に配慮した、会社の成長が社会貢献に繋がるビジネスモデルを確立して参ります。
そのため、現在は意思決定の迅速な実行を重視して、取締役が部門長を兼ねる体制としておりますが、中長期的には経営と執行の分離を実現する体制への変更を検討しております。
e.クラウドコーチングシステムの追加開発
当社は、クラウドコーチングシステムを利用して、クライアントの行動目標設定、行動結果記録、振り返り記録、コーチの対話記録を管理していますが、この他にマイクロラーニングのために動画配信プラットフォームを、コーチングセッション予約のために予約管理システムを、別々のシステムで運用しています。
そのため、クライアントがこれらを利用するためには3つのアプリケーションに別々にログインする必要があるため、利便性が悪く、また3つのシステムにクライアントを登録する管理コストが発生し、またこれらのデータを統合的に活用するためには3つのシステムのデータを統合する作業が必要となっています。
これらを統合的に管理するため、クラウドコーチングシステムのフロントエンドとしてポータル化した仕組みを持ち、バックエンドではこれらの3つシステムがデータ連携できるデータベースを構築することが、重要な課題であります。
そのため、グロース市場上場により調達する資金でこれらの開発を進めて参ります。
f.コーチングベース機能を持った本社設備
当社は、現本社でセミナールームがある施設を利用していますが、新型コロナウイルス感染症の影響で、サービス提供をオンラインに切り替え、役社員も出勤率20%程度のテレワーク体制に変更したため、働き方とオフィス設備のミスマッチが起きております。
また、オンラインでのサービス提供となったことから、顧客に対するサービス提供前後で行われていたコーチ同士、コーチ・社員間のコミュニケーション密度が減少しています。特に、直近でパートナーとなったコーチは、他のコーチと顔を合わせてディスカッションする機会が殆どなく、日常的なパートナー交流の機会を必要としています。
そこで、現本社の定期借家契約が満了する2023年に、テレワーク勤務体制にフィットしたオフィス、日常的にパートナーコーチとの交流が実現できるオフィスの設置を検討しております。
そのため、グロース市場上場により調達する資金でこれらの設備投資を行う予定であります。