有価証券報告書-第8期(2021/11/01-2022/10/31)

【提出】
2023/01/27 15:30
【資料】
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【項目】
96項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1)経営方針
当社は、「『教える』をなめらかに」をミッションとして掲げております。このミッションに基づき、学習塾を中心とする教育事業者等の講師等が煩雑なバックオフィス業務に追われることなく本来の目的である「教える」に専念できるプラットフォーム「Comiru」の開発・運営を行っております。なお、当社は「『教える』をなめらかに」というミッションの実現に向けて、人員を増強して組織体制を整備するとともに、情報管理体制を強化し、「Comiru」の安全性を担保する仕組みの改善を図ることで、同分野におけるサービス強化、新規事業の開発等に取り組んでいく方針であります。
(2)経営環境と経営戦略
① 経営環境
教育業界を取り巻く経営環境は、少子化による学齢人口の減少に伴い、市場全体が伸び悩むという厳しい状況にあります。そのため、教育業界では同業者間での生徒数確保に向けた競争が激化していくことが予測され、より一層の業務効率化と経営上の意思決定の迅速化が必要となり、当社事業へのニーズは高まっていると認識しております。
国立教育政策研究所が2019年12月に発表した調査によると、学校教育の授業におけるICT(注1)の活用率はOECD諸国の中で最下位と極めて活用率が低い実態が明らかになりました。また、新型コロナウイルス感染症の流行によりパソコンやタブレットを利用したオンラインでの学習が広がり、さらに政府が推進するGIGAスクール構想により教育業界におけるICT教材導入の準備が進むなど、当業界をとりまく経営環境は大きく変化しております。このような状況の中、株式会社船井総合研究所が2021年10月に行った調査では、民間教育の業務管理市場のポテンシャル(ユーザーがICTを使用した場合の最大市場規模。以下同じ。)が500億円程度と算出され、2026年以降の民間教育におけるICT市場のポテンシャルが2,000億円程度、民間教育及び学校教育におけるICT市場全体の市場のポテンシャルが3,500億円を超えると算出されています。また、生徒数1,000名以下の中小塾等におけるバックオフィス業務はほぼシステムを利用しておらず、エクセルを活用したアナログ作業が中心であることにより、今後の普及率上昇に伴う高い成長が見込まれます。
なお、学習塾以外の教育業界においても、同様の傾向がみられるため、当社は、クラウド型学習塾向け業務管理システムの市場におけるリーディングカンパニー(注2)として、市場を引き続き牽引することが重要であると認識しております。
このような事業環境の中、当社は、学習塾を中心とする教育事業者向けのバックオフィス業務管理システム「Comiru」(売上高の約95%)を直販中心に展開しており、現在学習塾で多く導入して頂いております(売上高の95%以上)が、その他教育事業者への導入も増えている状況であります。また、現状他のクラウド型学習塾向け業務管理システムに比べ提供している機能が多く、利用価格も相対的に安い状況と認識しております。
今後の更なる成長に向けては、業務提携や新サービスの開発等、新領域への積極的な展開を行っていく予定です。
② 経営戦略
a. 顧客基盤の更なる拡大
当社の当事業年度末における有料契約企業数は1,118社(前事業年度末は944社)であり、創業以来順調に拡大し続けております。創業当初は業界展示会への出展や業界紙への広告掲載等による顧客企業の獲得が中心でしたが、マーケティングチームやインサイドセールスチームの立ち上げによるWebマーケティングの強化、自社オウンドメディア(注3)の開設やセミナー開催の強化、教材販売事業者との連携等、顧客企業へのタッチポイントを拡充してきました。さらに、既存顧客企業からの紹介が増加したことにより、顧客基盤が拡大しました。
また、主要顧客である学習塾以外においても、英会話、音楽教室、プロミング教室等習い事全般の顧客事例が増え、今後も教育業界へのタッチポイントの深化、多様化を進めることで、顧客基盤の更なる拡大を進めます。
(「Comiru」サービス有料契約企業数の当社分類別内訳)
分類名生徒規模数※2019年10月期(社)2020年10月期(社)2021年10月期(社)2022年10月期(社)
大手塾5,000人以上36912
中堅塾300~5,000人14305166
個人塾300人未満4866688751,028
その他習い事-37912
合計5067119441,118

※当社は、生徒規模に応じて、学習塾を大手、中堅、小規模と分類しております。
b. 顧客価値の最大化
当社は継続的に新規サービスをリリースしてきたほか、既存サービスの機能改善などにより、顧客価値の向上に努めました。また、大手教育事業者等においても採用しやすいサービスの投入やAPIの拡充により、顧客企業のARPUの上昇を実現しました。
今後は、従来注力してきたバックオフィス業務と保護者コミュニケーション周辺のサービスに加えて、教育業界全体の業務の効率化と可視化をより多くの範囲で実現し、システムパートナーの領域を超えて、顧客企業の経営課題を解決する総合プラットフォーマーとしての価値を高め、持続的な成長と安定的な収益を実現していきます。
(3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、より多くの教育事業者等のバックオフィスの業務効率化に寄与し、講師等の「教える時間」を捻出することで、生徒の学習効果向上及び満足度向上、ひいては教育事業者等の企業価値最大化に貢献する思いであります。そのため、有料契約企業数、利用生徒ID数、ARPU、ARRを重要な経営指標として設定し、企業規模の拡大、企業価値の向上を目指しております。
また、当社の持続的な成長と安定的な収益を実現するために、投資効率を計る指標として広告宣伝費/売上高比率、顧客の解約率、及び売上総利益と営業利益率を重要な経営指標として確認しております。
項目2019年10月期2020年10月期2021年10月期2022年10月期
有料契約企業数(社)5067119441,118
利用生徒ID数(千ID)87147219330
ARPU(円)23,49832,13640,63848,456
ARR(千円)108,632235,794410,532609,923
広告宣伝費/売上高比率(%)23.522.013.25.2
顧客の解約率※(%)0.60.80.50.5
売上総利益(千円)88,946176,536301,727476,244
営業利益率(%)△90.9△73.5△40.8△3.1

※「顧客の解約率」は、「月中に解約した有料契約企業数÷前月末時点での有料契約企業数」の対象期間の平均です。
(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① 組織体制の整備
当社の継続的な事業成長の実現に向けて、多様なバックグラウンドをもった優秀な人材を採用し、強い組織体制を整備することが重要であると認識しております。積極的な採用活動を推進していく一方で、従業員が中長期にわたって活躍しやすい環境の整備、人事制度の構築やカルチャーの推進等を進めてまいります。
② 情報管理体制の強化
当社は、提供するサービスに関連して多数の顧客企業の機密情報や生徒情報、保護者情報等の個人情報を取り扱っております。これらの情報資産を保護するため、情報セキュリティ基本方針を定め、この方針に従って情報資産を適切に管理、保護しております。今後も社内教育・研修の実施のほか、システムの強化・整備を実施してまいります。
③ 新規事業の展開
現在、当社の収益の大半が「Comiru」サービスから成り立っております。今後も継続的な事業成長の実現に向けて、既存サービスの伸長に加えて、「ComiruAir」、「ComiruHR」の販売強化、「Comiru」を利用する教育事業者等の各講師が得意とする科目や空き時間等を活用した個別指導マッチングサービスの提供等により、教育事業者等の企業価値最大化に寄与する新規事業の展開を積極的に検討してまいります。
④ 利益及びキャッシュ・フローの創出
当社は、事業拡大を目指し、開発投資や顧客獲得活動等に積極的に投資を進めており、2022年10月期は営業損失を計上しております。一方で、資金繰りに関しては、第三者割当有償増資による資金調達やメインバンクを中心に各金融機関とは緊密な関係を維持できていることから、取引金融機関と長期的な借入契約を借入の都度締結しているため、現時点において財務上の課題は認識しておりません。
当社の収益の中心であるSaaSビジネスは、サブスクリプション(注4)方式で顧客企業に提供しており、継続して利用されることで収益が積み上がるストック型の収益モデルになります。一方で、開発費用や顧客企業の獲得費用が先行して計上される特徴があり、赤字が先行しております。
当社では、事業の拡大に伴い、ストック収益が順調に積み上がることで、先行投資として計上される開発費用や顧客企業の獲得費用が売上高に占める割合は低下傾向にあり、2021年10月期以降、売上高に占める営業損失の金額は縮小しております。
一方で、SaaSビジネスにおいては、投資効率を計る指標として広告宣伝費/売上高比率、顧客の解約率が重要な指標となるため、当社ではこれを参考しながら、顧客獲得活動における投資判断をしてまいりました。当該指標を満たす場合に積極的に投資していくことが、中長期的に利益及びキャッシュ・フローの最大化に寄与するものと考えております。
今後も、投資効率指標である広告宣伝費/売上高比率、顧客の解約率等に配慮しながら、サービス強化のための開発活動や、認知度向上のためのマーケティング活動への投資を通じて、中長期的な利益及びキャッシュ・フローの最大化に努めてまいります。
(注)1.「ICT」とは、「Information and Communication Technology」の略称で、情報・通信に関する技術の総称です。
2.デロイト トーマツ ミック経済研究所株式会社が発行した「ミックITリポート2021年2月号 高成長続くクラウド型学習塾向け業務管理システムの市場動向」において、当社「Comiru」が、クラウド型学習塾向け業務管理システムにおける導入教室数No.1を獲得しました。
3.「オウンドメディア」とは、広報誌及びパンフレット、インターネットのウェブサイト・ブログ等のメディアのうち、企業や組織自らが管理・運営し、情報を発信するメディアのことであります。
4.「サブスクリプション」とは、顧客企業等の利用量に拘わらず、継続的に一定額の利用料が発生する販売方法です。