有価証券報告書-第111期(2025/04/01-2026/03/31)
⦅戦略⦆
(イ)LEAPアプローチ(注)に沿った「依存と影響」の診断と「リスクと機会」の評価
当社グループは、世界各地から水産物を調達し、素材の力を最大限に引き出すR&D、加工・生産、品質保証を通じて、高付加価値商品を世界のあらゆる世代のお客様に提供しています。当社グループのバリューチェーンは、漁獲・養殖から加工・販売までを自社グループ内で広く担い、外部との連携も含めて川上から川下までを一体的に運営している点が特長です。水産資源を食品・原材料・飼料・機能性素材など多様な形でお客様に提供しており、「一つの資源が多層的に価値を生み出しながら循環する姿」を体現することで、資源の有効活用と持続的な価値創出を実現しています。
(注)LEAPアプローチ:TNFDが開発した、自然関連のリスクと機会を評価するためのガイダンス。分析プロセスであるLocate、Evaluate、Assess、Prepareの頭文字をとったもの。
イ.評価のスコーピング
対象カテゴリーと範囲の選定にあたり、SBTN(Science Based Targets Network)のHigh Impact Commodity List v1.1を参照しました。当社グループのバリューチェーンの根幹をなす「天然水産物」と「養殖水産物」がHigh Impact Commodityに該当しており、SBTNによる文献レビューによると、自然への影響要因として、天然水産物は「海洋生態系の利用」「海洋生態系の変化」「その他の資源利用」「気候変動」「海洋汚染」が、養殖水産物は「海洋生態系の転換」「海洋汚染」「気候変動」が挙げられています。
また、TNFDが推奨するオンラインツールである「ENCORE(注)」の2024年更新版を使用し、バリューチェーンにおける評価対象活動の絞り込みを行いました。その結果、当社グループのバリューチェーンにおいては、漁業と養殖の事業活動が自然へ大きく依存し、また影響を与える可能性があることを確認しました。よって、自然との直接的な接点が大きい上流工程である「漁業」及び「養殖」を今回の評価対象としました。
(注)ENCORE:ビジネスセクターと生産プロセスごとの自然資本への依存と影響を評価するツール。
ロ.依存と影響の診断
当社グループの操業やバリューチェーンの実態に即し、代表的な依存と影響の経路を想定したうえで自社による評価を行い、自然への依存と影響の関係を以下のとおり整理しました。依存と影響の把握には、「ENCORE」に代表されるオンラインツールが広く用いられますが、オンラインツールによる評価は業界共通の一般的な内容にとどまりやすく、自社事業の特徴を十分に反映した分析が難しいため、自社による評価を重視しています。
自然への依存と影響(漁業) ■自社にとって特に重要と考える項目
自然への依存と影響(養殖) ■自社にとって特に重要と考える項目
ハ.リスクと機会の評価
漁業及び養殖が海洋・河川・沿岸生態系のサービスに強く依存し、同時に影響も及ぼしうるという事業特性に着目し、セクター全体の視点から自然関連のリスクと機会を整理しました。本評価はTNFDのシナリオ分析ガイダンスに基づき、物理的リスク(生態系サービスの変化)と移行リスク(政策・規制・市場の変化)という不確実性を考慮しています。当社では、自然関連の定量シナリオが十分に整備されていない現状を踏まえ、TNFDが例示する探索的シナリオを参照しつつ、TCFD対応で用いている気候シナリオ(1.5℃/2℃、4℃)の前提を組み合わせ、当社グループの実情に即した2つの検討シナリオを設計しました。本分析は簡易的であり、シナリオ分析としては発展途上にありますが、既存の枠組みも活用しながら自社の状況に合わせて工夫するという考え方に沿って、気候変動と自然関連のリスクと機会を一体として検討するものです。
シナリオ1は、政策・規制の強化や投資家・消費者の関心の高まりにより、自然の回復に向けた取り組みが広がる世界観です。シナリオ2は、移行が十分に進まず、地域ごとに対応が分かれ、自然の劣化が進行する世界観です。2つのシナリオを用いることで、将来像に関する前提に幅を持たせ、リスクと機会の検討に偏りが生じにくいよう整理しています。
シナリオの概要
(注):本シナリオは、気候変動に関する温度経路の想定と、TNFDが示す自然関連シナリオの文脈(社会・政策など)を、それぞれ独立に参照して当社で設定した検討用シナリオです。両者を掛け合わせた「公式シナリオ」が存在することを示すものではありません。
■自社にとって特に重要なリスクと機会(漁業)
■自社にとって特に重要なリスクと機会(養殖)
(ロ)具体的な取り組み(取り扱い水産物の資源状態調査)
イ.取り扱い水産物の資源状態調査の概要
当社では、3年ごとに取り扱い水産物の資源状態調査を行っています。2023年度に実施した第3回の調査では、当社及びグループ会社(国内16社、海外20社)において、2022年に取り扱った天然水産物・水産物加工品は原魚換算重量で約276万トンでした。調査データの分析はSFP(注)へ委託し、第三者性を確保しました。
(注)SFP:Sustainable Fisheries Partnership。持続可能な漁業のためのパートナーシップ、サプライチェーンで漁業改善を推進する米国NGO。
調査方法

ロ.資源管理状態の評価結果
SFPによる分析の結果、2022年に取り扱った天然水産物及び水産加工品のうち、約75%が適切に維持・管理できている資源(「優れた管理」及び「管理」)であることがわかりました。一方で、「要改善」状態の資源が8%、「プロフィール未登録(スコアが欠損しており判定できない資源)」が約17%ありました。

ハ.絶滅危惧種への対応
第3回資源状態調査の結果、取り扱った水産物の一部にIUCN(国際自然保護連合)で定められた絶滅危惧種Ⅰ類(IUCNレッドリストにおけるCR, EN)に該当する魚種が含まれていることが分かりました。2022年に「ニッスイグループ絶滅危惧種(水産物)の調達ガイドライン」を策定し、ガイドラインに基づいて魚種ごとに対応策を決定することで、持続性を確保しています。
2022年時点の分類に基づく絶滅危惧I類と、ニッスイグループの対応策
ニ.今後の対応策
・資源状態の把握が困難な魚種(特に魚粉・魚油・すり身の加工原料となる魚種)に対し、ラウンドテーブルへの参加やFIPの支援など、優先して対応します。
・漁獲情報の収集が困難な品目の資源特定や、サプライヤーとの協働によるトレーサビリティの確保に取り組みます。
・調達資源について、人権侵害リスクを把握するための評価方法を検討します。
(ハ)具体的な取り組み(チリのサーモン養殖を対象にしたLEAP分析)
養殖における優先地域を特定するにあたり、事業における重要度に加え、「生物多様性にとって重要な地域」、「生態系の十全性」及び「先住民族、地域社会とステークホルダーへの便益」に着目し、これらを評価の主な観点として評価を行いました。その結果、チリのサーモン養殖事業を優先地域として特定しました。そして同事業を対象に、TNFDの養殖セクターガイダンスで整理されている一般的な養殖バリューチェーンの上流~中流~下流(飼料製造・淡水養殖・海面養殖・加工)の各段階を対象にしたLEAP分析を実施しました。同ガイダンスに従って、チリのサーモン養殖場31拠点のバイオームを特定し、拠点周辺の自然の状態を調査・評価しています。また、同ガイダンスに加え、ASC(水産養殖管理協議会)のサーモン・飼料の各認証基準を参考に現地ヒアリングを実施し、優先拠点別の依存と影響、リスクと機会を整理しました。詳細は、TNFDレポートをご参照ください。
https://nissui.disclosure.site/assets/pdf/254/2025_tnfd_ja.pdf

(イ)LEAPアプローチ(注)に沿った「依存と影響」の診断と「リスクと機会」の評価
当社グループは、世界各地から水産物を調達し、素材の力を最大限に引き出すR&D、加工・生産、品質保証を通じて、高付加価値商品を世界のあらゆる世代のお客様に提供しています。当社グループのバリューチェーンは、漁獲・養殖から加工・販売までを自社グループ内で広く担い、外部との連携も含めて川上から川下までを一体的に運営している点が特長です。水産資源を食品・原材料・飼料・機能性素材など多様な形でお客様に提供しており、「一つの資源が多層的に価値を生み出しながら循環する姿」を体現することで、資源の有効活用と持続的な価値創出を実現しています。
(注)LEAPアプローチ:TNFDが開発した、自然関連のリスクと機会を評価するためのガイダンス。分析プロセスであるLocate、Evaluate、Assess、Prepareの頭文字をとったもの。
イ.評価のスコーピング
対象カテゴリーと範囲の選定にあたり、SBTN(Science Based Targets Network)のHigh Impact Commodity List v1.1を参照しました。当社グループのバリューチェーンの根幹をなす「天然水産物」と「養殖水産物」がHigh Impact Commodityに該当しており、SBTNによる文献レビューによると、自然への影響要因として、天然水産物は「海洋生態系の利用」「海洋生態系の変化」「その他の資源利用」「気候変動」「海洋汚染」が、養殖水産物は「海洋生態系の転換」「海洋汚染」「気候変動」が挙げられています。
また、TNFDが推奨するオンラインツールである「ENCORE(注)」の2024年更新版を使用し、バリューチェーンにおける評価対象活動の絞り込みを行いました。その結果、当社グループのバリューチェーンにおいては、漁業と養殖の事業活動が自然へ大きく依存し、また影響を与える可能性があることを確認しました。よって、自然との直接的な接点が大きい上流工程である「漁業」及び「養殖」を今回の評価対象としました。
(注)ENCORE:ビジネスセクターと生産プロセスごとの自然資本への依存と影響を評価するツール。
ロ.依存と影響の診断
当社グループの操業やバリューチェーンの実態に即し、代表的な依存と影響の経路を想定したうえで自社による評価を行い、自然への依存と影響の関係を以下のとおり整理しました。依存と影響の把握には、「ENCORE」に代表されるオンラインツールが広く用いられますが、オンラインツールによる評価は業界共通の一般的な内容にとどまりやすく、自社事業の特徴を十分に反映した分析が難しいため、自社による評価を重視しています。
自然への依存と影響(漁業) ■自社にとって特に重要と考える項目
| 依存/影響 | 分類 | 項目(生態系サービス/ インパクトドライバー) | 説明 | 代表的な経路・例 |
| 依存 | 生態系サービス(基盤) | 海洋の利用 | 漁場の環境条件及び水産資源の再生産力に依存 | 海洋生態系の健全性、海況、産卵場・餌場の維持 |
| 生態系サービス(供給) | 生物資源の供給・遺伝資源 | 対象資源の再生産力・遺伝的多様性に依存 | 資源量・年齢構成の健全性、遺伝資源の維持 | |
| 生態系サービス(供給) | 燃料の利用 | 漁船の燃料として化石燃料に依存 | 重油の使用 | |
| 生態系サービス(調整・維持) | 生息地、産卵場、回遊経路 | 重要生息地の健全性に依存 | 沿岸藻場・干潟・サンゴ礁、回遊経路の連結性 | |
| 生態系サービス(調整・維持) | 水質の自浄・希釈 | 透明度・溶存酸素など水質の安定に依存 | 富栄養化・汚濁の少ない海域での操業 | |
| 生態系サービス(調整・維持) | 気候・海象の安定 | 海況の安定性に依存 | 気候変動に伴う資源移動・悪天候増加の影響 | |
| 影響 | 気候変動 | 温室効果ガス排出(燃料消費) | 地球温暖化への影響 | 漁船の燃料燃焼に伴うCO2排出 |
| 陸、淡水、海洋利用の変化 | 生息地の攪乱 | 底生ハビタットの物理的な攪乱 | 底引き網漁業による海底接触 | |
| 資源使用、資源補充 | 生物資源の採捕(過剰採捕を含む) | 資源量や年齢構成を損なう可能性 | 過剰漁獲 | |
| 資源使用、資源補充 | 混獲、保全対象種(ETP種)への影響 | 目的外生物の捕獲、偶発的致死 | 海鳥・海獣類などの混獲 | |
| 汚染、汚染除去 | 漁具の海洋流出 | 海洋生物の被害、生息地損傷、プラスチック汚染 | ネット・ロープの喪失、漂流 | |
| 汚染、汚染除去 | 汚染(排水・廃棄物・油など) | 海水・底質の汚染 | 有機物・固形廃棄物の流出、燃料油の漏出 | |
| 汚染、汚染除去 | 騒音・光などの攪乱 | 感受性の高い生物への行動影響 | 船舶の騒音、夜間照明 |
自然への依存と影響(養殖) ■自社にとって特に重要と考える項目
| 依存/影響 | 分類 | 項目(生態系サービス/インパクトドライバー) | 説明 | 代表的な経路・例 |
| 依存 | 生態系サービス(基盤) | 陸・淡水・海洋の利用 | 生産空間としての水域環境の健全性に依存 | 沿岸・海域・内水面の環境容量 |
| 生態系サービス(供給、調整・維持) | 水供給・水質(温度・塩分・溶存酸素量・透明度) | 健全な水環境に強く依存 | 取水の量・質、流況、希釈能力 | |
| 生態系サービス(供給) | 生物資源の供給・遺伝資源(種苗・飼料) | 種苗・飼料原料の安定供給に依存 | 魚粉・魚油、植物性原料、種苗 | |
| 生態系サービス(供給) | 燃料の利用 | 給餌作業や飼料製造で化石燃料に依存 | 重油・軽油の使用 | |
| 生態系サービス(調整・維持) | 気候・海象の安定 | 極端気象・海況変動の影響を受けやすい | 高水温、赤潮、台風、洪水 | |
| 影響 | 気候変動 | 温室効果ガス排出(燃料・電力・原料サプライチェーン) | 地球温暖化への影響 | 作業船、エアレーション、輸送 |
| 陸、淡水、海洋利用の変化 | 陸上・淡水・海洋生態系の利用 | 生態系への影響 | 施設設置に伴う生息地転換 | |
| 資源使用、資源補充/陸、淡水、海洋利用の変化 | 飼料原料の調達影響(陸・海洋) | 原料由来の資源、土地への圧力 | 小型魚資源、大豆生産地の森林など | |
| 資源使用、資源補充 | 保全対象種を含む野生生物への影響 | 野生生物との接触・偶発的致死 | 養殖場周辺の野生動物(海獣類・鳥類)との接触 | |
| 資源使用、資源補充 | 淡水の利用 | 地域全体の水資源への負荷 | 河川水・地下水の取水 | |
| 汚染、汚染除去 | 栄養塩・有機物の排出 | 富栄養化や底質悪化 | 残餌・排泄物などの堆積 | |
| 汚染、汚染除去 | 医薬品・化学物質の使用 | 水質汚染・耐性化リスク | 水産用医薬品や生け簀網の防汚剤 | |
| 汚染、汚染除去 | 疾病・寄生虫の伝播 | 周辺海域への影響、収量損失 | 周辺養殖場への魚病の伝播 | |
| 汚染、汚染除去 | 漁具の海洋流出 | 海洋環境への影響、プラスチック汚染 | 養殖用フロートの流出 | |
| 汚染、汚染除去 | 固形廃棄物(資材・残餌・斃死魚・加工残渣など) | 生態系・景観・衛生への影響 | 使用済み資材の流出、不適切処理 | |
| 侵略的外来種の導入・除去 | 養殖魚の逃亡 | 在来種・遺伝的多様性への影響 | 設備破損や気象災害時の逃亡 |
ハ.リスクと機会の評価
漁業及び養殖が海洋・河川・沿岸生態系のサービスに強く依存し、同時に影響も及ぼしうるという事業特性に着目し、セクター全体の視点から自然関連のリスクと機会を整理しました。本評価はTNFDのシナリオ分析ガイダンスに基づき、物理的リスク(生態系サービスの変化)と移行リスク(政策・規制・市場の変化)という不確実性を考慮しています。当社では、自然関連の定量シナリオが十分に整備されていない現状を踏まえ、TNFDが例示する探索的シナリオを参照しつつ、TCFD対応で用いている気候シナリオ(1.5℃/2℃、4℃)の前提を組み合わせ、当社グループの実情に即した2つの検討シナリオを設計しました。本分析は簡易的であり、シナリオ分析としては発展途上にありますが、既存の枠組みも活用しながら自社の状況に合わせて工夫するという考え方に沿って、気候変動と自然関連のリスクと機会を一体として検討するものです。
シナリオ1は、政策・規制の強化や投資家・消費者の関心の高まりにより、自然の回復に向けた取り組みが広がる世界観です。シナリオ2は、移行が十分に進まず、地域ごとに対応が分かれ、自然の劣化が進行する世界観です。2つのシナリオを用いることで、将来像に関する前提に幅を持たせ、リスクと機会の検討に偏りが生じにくいよう整理しています。
シナリオの概要
| シナリオ(注) | 世界観 | リスクと機会の要点 |
| シナリオ1 TCFD:1.5℃/2℃(RCP2.6) × TNFD #1 Ahead of the game | 脱炭素が進展し、自然を守る取り組みも広がる。環境の悪化は局所的に生じるが、適切な管理・対策により影響を抑制できる 環境の変化 • 制度と市場がかみ合い、自然配慮の投資・製品・調達が広がる • 局所的な悪化は生じるが、計画的対策で大きな後戻りは避けられる • トレーサビリティや認証の普及が進む 事業への影響(漁業・養殖) • 養殖は、水量・水質の管理や設備更新の追加コストは増えるが、段階的・計画的に対応可能 • 認証水産物の普及やサプライチェーンの可視化が進み、高付加価値市場の機会が広がる | 自然関連の開示、トレーサビリティ、認証などの要件強化に伴う対応コストの増加が想定される一方、これらへの適切な対応や持続可能な操業の実施は、市場アクセスや評価の向上といった機会につながる |
| シナリオ2 TCFD:4℃ (RCP8.5) × TNFD #3 Sand in the gears | 自然環境の悪化が速く、大きい。そのうえ、国や業界のルールが国ごとにバラバラで対策が進みにくい 環境の変化 • 沿岸の保護機能が弱まり、洪水・高潮の被害が増えやすい。川や海の水質悪化・高水温も発生しやすい • ルールや支援策が地域ごとに異なり、企業は長期投資より目先の対応に追われがちとなる • 急な悪化が生じやすく、対応が後手に回ると費用負担が膨らむ 事業への影響(漁業・養殖) • 漁業は、資源量や来遊時期の振れ幅が拡大 • 養殖は、水温の上昇や赤潮の増加などにより、摂餌効率の悪化や魚病の増加、斃死率の増加につながる • 保険の引受制限や保険料の上振れ、拠点の防護強化・移転や分散、循環水利用などの投資負担が大きくなりやすい | 漁業では水産資源の減少に伴う調達量の減少とコスト上昇が大きなリスクとなる。養殖では高水温・水質悪化・赤潮や魚病の増加、高潮・洪水の激化などにより、生産性低下・操業停止・保険・防災投資の増加が見込まれる。一方で、養殖魚の健康管理や淡水の循環利用といったレジリエンス向上策は、影響の緩和とコスト耐性の強化に資する機会となる |
(注):本シナリオは、気候変動に関する温度経路の想定と、TNFDが示す自然関連シナリオの文脈(社会・政策など)を、それぞれ独立に参照して当社で設定した検討用シナリオです。両者を掛け合わせた「公式シナリオ」が存在することを示すものではありません。
■自社にとって特に重要なリスクと機会(漁業)
| リスク/機会 | 分類 | 想定される主な リスクと機会 | 事業インパクト | 影響時期 | 財務インパクト | 主な対応策 | |
| シナリオ1 | シナリオ2 | ||||||
| 物理的リスク | 慢性 | 水産資源の減少 | 調達量の減少(サプライチェーンの不安定化) 調達コストの上昇 | 中期~長期 | 小~中 | 中~大 | 資源アクセスのさらなる強化 調達ネットワークの構築 養殖事業の強化 代替原料の開発 |
| 急性・慢性 | 海水温の変化に伴う資源状態・漁場・種の変化 | 調達量の減少(サプライチェーンの不安定化) 調達コストの上昇 | 短期~長期 | 小~中 | 中~大 | ||
| 移行リスク | 政策 | 漁業規制の強化 | 調達量の減少(サプライチェーンの不安定化) | 短期~中期 | 中~大 | - | 資源アクセスのさらなる強化 調達ネットワークの構築 養殖事業の強化 代替原料の開発 |
| 市場 | 消費者の購買行動変化や小売業からの要請拡大(トレーサビリティ・認証など) | 対応後れによる売上機会の損失 対応コストの発生(例:認証取得費用) | 中期~長期 | 中~大 | - | MSC認証などの取得・維持 資源状態調査の継続と情報発信 | |
| 評判 | (環境への対応が不十分な場合の)投資家・金融機関からの評判の低下 | 投資金融資産の引き揚げ | 短期~中期 | 中~大 | - | 責任ある取り組みと積極的な情報発信、対話 | |
| 技術/市場 | 天然漁獲物から代替タンパク(植物由来・培養魚肉など)への需要シフト | 売上の減少 | 長期 | 小~大 | - | 漁業における環境負荷の低減 LCA評価と消費者への情報発信 代替タンパクの研究開発 | |
| 賠償責任 | 法律や規制への違反 | 売上・利益の減少、ブランド価値毀損 罰金や操業制限 | 短期~長期 | 中~大 | - | 地域ルールも含めた法規制遵守の徹底 | |
| 機会 | 資源効率/自然資源の持続可能な利用 | 調達水産物の持続可能性確保 | サプライチェーンの安定化、販路拡大 | 中期~長期 | 中~大 | - | 調達における資源状態の確認 漁業認証取得や認証品の取り扱い増 |
| 市場/評判資本 | 持続可能性に配慮した水産物に対する需要の高まり(消費者、小売業) | 売上の拡大 | 中期~長期 | 中~大 | - | MSC認証などの取得・維持 持続可能な水産資源調達と情報発信 | |
■自社にとって特に重要なリスクと機会(養殖)
| リスク/機会 | 分類 | 想定される主な リスクと機会 | 事業インパクト | 影響時期 | 財務インパクト | 主な対応策 | |
| シナリオ1 | シナリオ2 | ||||||
| 物理的リスク | 急性 | 魚病の蔓延 | 魚の斃死による資産の喪失、養殖成績の低下 評判低下、周辺漁業者との関係悪化 | 短期~中期 | 小 | 中~大 | 独自の養殖魚健康管理システムによる予防管理、魚のストレス軽減 高リスク拠点の特定、養殖場移転 |
| 急性・慢性 | 渇水による淡水養殖場の操業停止 | 取水制限による操業への影響 魚病の蔓延による種苗品質の低下 養殖コストの増加 | 短期~中期 | 小 | 中~大 | 水リスクの低い拠点の選定、高リスク拠点の特定・移転、設備強化 閉鎖循環方式への移行 水源の森林保全活動 | |
| 急性・慢性 | 海洋環境の変化による飼料向け水産物の供給減 | 養殖飼料向け原料魚の漁獲量減少による調達量への影響や調達コスト増加 | 短期~中期 | 小~中 | 中~大 | 代替飼料の開発・活用 副産物の有効活用 | |
| 急性・慢性 | 気候変動や海流変化による海水温の上昇 | 養殖成績の低下 赤潮の発生 養殖適地の変化 海水温上昇への適応策に伴うコストの増加 | 短期~中期 | 小 | 中~大 | 浮沈式生け簀の導入 海中給餌技術の確立 新規養殖エリアの開拓 選抜育種による高温耐性系統の作出 | |
| 移行リスク | 政策 | 養殖における環境規制の強化 | 事業拡大への制約 業規模縮小や養殖場の閉鎖 罰金や課税、ライセンス料による財務影響 | 中期~長期 | 中~大 | - | 養殖漁場の環境モニタリング 飼料・給餌における海洋環境への負荷低減 沖合養殖への移行 淡水養殖場における閉鎖循環方式への移行 養殖魚の逃亡発生防止 地域社会との共生 |
| 市場 | 消費者の購買行動変化や小売業からの要請拡大 | 対応後れによる売上機会の損失 対応コストの発生 | 中期~長期 | 中~大 | - | ASC・BAP・MELなどの認証取得 飼料のトレーサビリティ確保 | |
| 評判 | (環境への対応が不十分な場合の)投資家・金融機関からの評判の低下 | 投資金融資産の引き揚げ | 短期~中期 | 中~大 | - | 海洋環境への負荷低減と積極的な情報発信・対話 | |
| 技術 | 環境負荷が少ない技術への移行の後れ | 技術や設備の導入に伴う費用の増加 対応に後れた場合の事業競争力や優位性の低下 | 中期~長期 | 中~大 | - | 経営資源の集中による対応強化 サステナブルファイナンスによる資金調達 | |
| 機会 | 資源効率/製品とサービス/自然資源の持続可能な利用 | 天然水産資源に依存しない養殖技術の開発、完全養殖による自然資源への負荷軽減 | 競争優位性の確立 品質向上と安定供給の実現、養殖コストの低減 | 短期~長期 | 大 | - | 養殖技術開発への経営資源集中 ブリ養殖における人工種苗100%の継続 |
| 資源効率/自然資源の持続可能な利用 | 飼料効率の向上による自然資源への依存度低減 | 養殖コストの低減 競争優位性の確立 | 中期~長期 | 中~大 | - | 選抜育種による優良系統の作出 養殖飼料における魚粉・魚油使用の削減 種苗品質や飼料品質の向上 | |
| 製品とサービス/自然資源の持続可能な利用/生態系の保護、復元、再生 | 第三者認証の取得 | ビジネス機会の拡大 海外マーケットの開拓 サプライチェーンの安定化 | 短期~中期 | 中~大 | - | ASC・BAP・MELなどの認証取得・維持 | |
| 製品とサービス | 海水温上昇に対応する養殖技術の開発・導入 | 養殖成績の向上 競争優位性の確立 | 短期~中期 | 小 | 中~大 | 浮沈式生け簀の導入 海中給餌技術の確立 選抜育種による高温耐性系統の作出 | |
| 製品とサービス | 陸上養殖技術の開発 | 気候関連リスクの低減 競争優位性の確立、販路拡大、新規ビジネス創出 | 中期~長期 | 中~大 | - | 現状の取り組みの深化 海藻養殖の研究 | |
| 製品とサービス | スマート養殖への移行 | 養殖コストの低減 労働環境の改善、人財獲得 | 中期~長期 | 中~大 | - | ICTやAIを活用した生産管理 | |
| 市場/評判資本 | 持続可能性に配慮した水産物に対する需要の高まり(消費者・小売業) | 売上の拡大 海外マーケットの開拓 | 中期~長期 | 中~大 | - | ASC・BAP・MELなどの認証取得・維持 生産トレーサビリティの確保 責任ある養殖事業の構築と情報発信 | |
(ロ)具体的な取り組み(取り扱い水産物の資源状態調査)
イ.取り扱い水産物の資源状態調査の概要
当社では、3年ごとに取り扱い水産物の資源状態調査を行っています。2023年度に実施した第3回の調査では、当社及びグループ会社(国内16社、海外20社)において、2022年に取り扱った天然水産物・水産物加工品は原魚換算重量で約276万トンでした。調査データの分析はSFP(注)へ委託し、第三者性を確保しました。
(注)SFP:Sustainable Fisheries Partnership。持続可能な漁業のためのパートナーシップ、サプライチェーンで漁業改善を推進する米国NGO。
調査方法

ロ.資源管理状態の評価結果
SFPによる分析の結果、2022年に取り扱った天然水産物及び水産加工品のうち、約75%が適切に維持・管理できている資源(「優れた管理」及び「管理」)であることがわかりました。一方で、「要改善」状態の資源が8%、「プロフィール未登録(スコアが欠損しており判定できない資源)」が約17%ありました。

ハ.絶滅危惧種への対応
第3回資源状態調査の結果、取り扱った水産物の一部にIUCN(国際自然保護連合)で定められた絶滅危惧種Ⅰ類(IUCNレッドリストにおけるCR, EN)に該当する魚種が含まれていることが分かりました。2022年に「ニッスイグループ絶滅危惧種(水産物)の調達ガイドライン」を策定し、ガイドラインに基づいて魚種ごとに対応策を決定することで、持続性を確保しています。
2022年時点の分類に基づく絶滅危惧I類と、ニッスイグループの対応策
| 分類 | 学名 | 和名 | 重量(t) | 対応策 |
| CR | Anguilla anguilla | ヨーロッパウナギ | 0.9 | 販売先の拡大を停止している。 |
| EN | Leucoraja ocellata | ガンギエイ | 103 | MSC認証品の調達を推進している。また、販売先の拡大を停止している。 |
| Apostichopus japonicus | ナマコ | 38 | 新たに水産流通適正化法(日本)による管理が開始されているため、今後も管理枠内での調達が可能と判断。 | |
| Thunnus maccoyii | ミナミマグロ | 20 | 適切にRFMO(地域漁業管理機関)が管理しているため、今後も管理枠内での調達が可能と判断。 | |
| Anguilla japonica | ニホンウナギ | 5 | 水産流通適正化法の対象魚種に今後、ウナギの稚魚(シラス)が加わる予定であり、その動向を踏まえて、対応策を検討する。 | |
| Anguilla dieffenbachii | ニュージーランド オオウナギ | 0.3 | 販売先の拡大を停止している。 |
ニ.今後の対応策
・資源状態の把握が困難な魚種(特に魚粉・魚油・すり身の加工原料となる魚種)に対し、ラウンドテーブルへの参加やFIPの支援など、優先して対応します。
・漁獲情報の収集が困難な品目の資源特定や、サプライヤーとの協働によるトレーサビリティの確保に取り組みます。
・調達資源について、人権侵害リスクを把握するための評価方法を検討します。
(ハ)具体的な取り組み(チリのサーモン養殖を対象にしたLEAP分析)
養殖における優先地域を特定するにあたり、事業における重要度に加え、「生物多様性にとって重要な地域」、「生態系の十全性」及び「先住民族、地域社会とステークホルダーへの便益」に着目し、これらを評価の主な観点として評価を行いました。その結果、チリのサーモン養殖事業を優先地域として特定しました。そして同事業を対象に、TNFDの養殖セクターガイダンスで整理されている一般的な養殖バリューチェーンの上流~中流~下流(飼料製造・淡水養殖・海面養殖・加工)の各段階を対象にしたLEAP分析を実施しました。同ガイダンスに従って、チリのサーモン養殖場31拠点のバイオームを特定し、拠点周辺の自然の状態を調査・評価しています。また、同ガイダンスに加え、ASC(水産養殖管理協議会)のサーモン・飼料の各認証基準を参考に現地ヒアリングを実施し、優先拠点別の依存と影響、リスクと機会を整理しました。詳細は、TNFDレポートをご参照ください。
https://nissui.disclosure.site/assets/pdf/254/2025_tnfd_ja.pdf
