有価証券報告書-第82期(平成30年4月1日-平成31年3月31日)

【提出】
2019/06/28 10:01
【資料】
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【項目】
163項目

研究開発活動

当社は、社会基盤整備の要請や顧客の要望に応えるべく、実践的な技術を中心に幅広く研究開発活動を行っております。
(土木事業・建築事業)
当社では、省力化・生産性向上・高品質化に寄与する技術をはじめ、社会インフラのリニューアル技術、防災・減災に資する技術、省エネ・低炭素社会に貢献する各種の環境関連技術に関する研究開発を行っております。また、戸田建設株式会社との共同研究をはじめ、大学などの研究機関や異業種・同業種企業、公共機関との共同研究も積極的に進めております。
当連結会計年度における研究開発活動に要した費用総額は1,377百万円で、主な成果は以下のとおりです。
(1) 生産性向上技術
① 地質・構造物の詳細モデルによるCIMをシールドトンネルに適用
施工計画と施工管理の効率化・高度化を目指し、地質構造や周辺の地上・地下構造物を詳細に表現・統合した3次元モデルを構築して、シールド現場にCIM(Construction Information Modeling/Management)を適用しました。地質変化に的確に対応できるためシールド機と周辺構造物との位置関係が明確になりました。また、施工中の掘削・計測データ等をCIMモデルに取り込むことで、地盤変状等の総合的な評価が可能になりました。これらにより関係者間の合意形成が迅速になり、施工現場全体の生産性や安全性の向上に資すると考えております。
② 切羽作業をAIで自動判定する「掘削サイクル判定システム」
AIの画像分析技術を利用してライブ映像から切羽作業を判定することで、掘削サイクルを把握することが可能となりました。このシステムは、山岳トンネルの生産性向上を目的とする「西松建設の山岳トンネルAIソリューション」の要素技術のひとつであり、トンネル坑内のエネルギーマネジメントシステムの運用や、掘削サイクルの見直しによる施工パフォーマンスの向上等が可能となります。
(2) 省人化・省力化技術
① マッシブウォール工法
軽量鉄骨下地間仕切壁(LGS壁)において、「マッシブスタッド」(下地材)を新規考案するとともに、従来のLGS壁より面外方向の最大耐力を大きく向上させた「マッシブウォール工法」を八潮建材工業株式会社と共同で開発しました。大型物流施設等では最大高さ7.7mまで中間梁なしで倉庫業法2500N/m2に対応するLGS壁を実現しました。2019年2月までに8件の大型物流倉庫で適用しており、着実に実績を積み重ねております。
② コンクリート工事の省力化と工期短縮を両立する「フュージョンビーム工法」
プレキャストコンクリート梁の新たな耐力評価法を確立し、この評価法を設計に取り入れた施工法のフュージョンビーム工法を戸田建設株式会社と共同で開発しました。開発には「等価コンクリート強度」という考え方を採用し、上部と下部で異なるコンクリート強度を有する梁の耐力を断面の比率に応じて合理的に設計します。鉄筋コンクリート造プレキャスト梁の梁上部とスラブを同じコンクリート強度で一度に打設することが可能であり、従来の止め型枠を不要とすることで、躯体工事の省力化及び工期の短縮を実現しました。
(3) 品質向上技術
① 覆工コンクリートのプレキャスト化で山岳トンネルの品質や施工性を画期的に改善
狭隘な空間での作業を無くすことで、さまざまなメリットが期待できる覆工コンクリートのプレキャスト化を戸田建設株式会社及びジオスター株式会社と共同で進めております。プレキャスト製品の使用によって耐久性が向上し、ひび割れや剥離の発生が抑制できます。愛川技術研究所で大規模模擬試験を行い、考案した運搬・組立て方法の妥当性を確認しました。熟練工を必要とせず、両坑口からPCa覆工の運搬が可能であり施工速度が約1.5倍に早まることから、生産性向上・工期短縮も図ることができます。
② コンクリートのひび割れを抑制できる「フィットクリート」の適用推進
株式会社安藤・間、株式会社熊谷組、佐藤工業株式会社、戸田建設株式会社、株式会社フジタ及び前田建設工業株式会社との共同で開発したコンクリートの乾燥収縮ひずみを制御できる技術です。実大試験体の2年間の暴露試験を通して、乾燥収縮ひずみ低減対策に応じたひび割れ抑制効果を確認しました。今後、実物件への適用を開始しコンクリートの高品質化を目指して適用を推進してまいります。
(4) 環境関連技術
① 微細気泡を用いた高効率ばっ気処理装置を現場で実証
京都大学と共同で揮発性有機化合物を含有する地下水又は工場排水を対象とした微細気泡による高効率ばっ気処理装置を開発しております。2年間の実証を経て、地下水に特有の水質成分によるセラミックモジュールの目詰まりなど、処理性能に大きく影響を及ぼす原因を特定し、具体的なメンテナンス手法を確立しました。また、これまでの1,4-ジオキサン含有排水処理に使用していた促進酸化装置は非常に高価でしたが、本装置に酸化剤添加槽を追加設置することで、この処理が安価にできるようになりました。
② 自社所有オフィスビルでZEB Readyを取得
自社で設計施工を行い2018年11月30日に竣工した「NCOメトロ神谷町」で自社所有施設初の「ZEB Ready」を取得しました。高効率空調機システム等の導入により、年間一次エネルギー消費量を、標準的な仕様の建物と比べて53%削減します。ビル全体としてのエネルギー消費状況のモニタリングを継続し、経験を踏まえた改善による更なる省エネルギー化を図るとともに、ZEB設計技術の知見を蓄積し、省エネルギー化に向けた取り組みを推進してまいります。
(5) 新しい取り組み
① 再生可能エネルギーを最大限に活かすための蓄電システム
LEシステム株式会社と共同で太陽光発電等の再生可能エネルギーを最大限に活かすための蓄電システムを開発し、実証試験を開始しました。蓄電池には、安全性が高く再生可能エネルギーの変動吸収や大容量化に適し長期間安定稼動するバナジウムレドックスフロー電池を採用しております。今後は本システムの改良を重ね、再生可能エネルギーの電力需給に応じた蓄電システムを確立し、スマート・グリッド社会に対応した地域分散型エネルギーシステムを構築することで、低炭素社会の実現に貢献してまいります。
② LPWAとIoT技術を活用し農業分野で計測監視システムの実証実験を開始
LPWAとIoT技術を活用した、当社開発の傾斜監視クラウドシステムを農業分野に応用することで、自宅にいながら畑やハウスの状況が把握できるようになります。また、これまで営農者の経験によって収穫時期を決めていましたが、積算温度・日照時間を把握することによって、データに基づいた最適な収穫時期がわかるようになります。農作業の省力化を図るため“手軽”に開始できる環境監視クラウドシステムの構築によって、農業分野における新しいサービスの提供を目指します。今後も新たな社会貢献につながるサービスや技術開発を進めてまいります。
(開発・不動産事業等)
研究開発活動は特段行っておりません。