有価証券報告書-第100期(2023/04/01-2024/03/31)

【提出】
2024/06/25 15:21
【資料】
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【項目】
150項目
③ 戦略
当社グループの事業は、原材料の大半が気候変動による物理的リスクの影響を大きく受ける農産物であること、また製造・加工・販売の過程において多くのエネルギーを消費しており気候変動による移行リスクの影響を大きく受けることから、気候変動を重要なリスクと認識しております。当社グループでは、気候変動にかかるリスクと機会を特定するにあたり、当社グループの中期経営計画との時期的整合性、またパリ協定、日本政府の掲げる目標年といった外部環境要素を踏まえ、短中期の時間的範囲を2031年3月期までの期間、および長期の時間的範囲を2051年3月期までの期間と定めました。
(重要リスクの特定)
気候変動にかかるリスクおよび機会については、当社グループの主力事業である国内製糖事業を対象に、網羅的なリストアップを行いました。次に、すべてのリスクおよび機会について公開資料等に基づき財務的影響を検討したうえ、当社グループの事業への影響等に鑑み以下のとおり項目を抽出および整理しました。

分類項目種別想定されるリスク・機会財務影響度
物理:4℃
移行:1.5℃
物理的リスク急性自然災害の規模と頻度の増大リスク気象災害の激甚化による、当社グループ工場等の被害額増大
リスクサプライチェーン上の取引先の操業停止等による、当社グループへの損失発生
慢性海面上昇リスク耕作可能地減少による生産拠点の減少、および物流拠点の減少による、原材料および製品の供給能力低下
長期的な気候(平均気温や降水パターンなど)の変化リスク/
機会
平均気温などの変化による、原料(サトウキビ及びてん菜)供給量の増加や減少
リスク/
機会
気温上昇による、砂糖消費行動の変化に伴う売上の増加や減少
リスク平均気温上昇による、主に生産部門での暑熱対策強化に伴う費用の増加
移行リスク政策・
法制度
炭素価格の上昇リスク炭素税や排出権取引制度等の導入による、費用の増加
技術
進歩
新たな低・脱炭素型生産技術の開発リスク/
機会
新たな技術開発のための研究開発費用の増大
エネルギーコスト削減による製造コストの削減
リスク再エネ燃料として原料(サトウキビ)がバイオエタノールに使用されることによる、原材料調達コストの増加
低・脱炭素関連の技術革新機会当社グループのサプライチェーン上の取引先企業との共同配送、モーダルシフト、受発注の最適化等による事業コストの増大抑制
市場
変化
環境配慮製品への社会的要請リスク環境配慮製品購入への消費行動変化への費用の発生
評判脱炭素に消極的な企業姿勢に対するレピュテーションリスクリスク脱炭素に消極的な企業姿勢に対する企業イメージの低下及び企業価値減少

さらに、特に財務影響度が大きいリスクについては、気候変動シナリオ(物理的リスクは4℃上昇シナリオ、移行リスクは1.5℃上昇シナリオ)に基づく評価を行ったうえ、リスクの最小化および機会の探索のための体制を確認しました。
(識別した重要リスクへの対応策)
・気象災害の激甚化による、当社グループ工場等の被害額増大
過去に国内工場で高潮被害を受けている他、大型台風による設備への風害も発生しており、常に顕在化する可能性があるものの、その予測が困難です。
このような気候変動によるリスク顕在化の不確実性に対応するため、当社グループでは、予防の観点で設備の定期メンテナンスを実施し、自社工場の千葉、神戸、福岡に加えて、製糖委託工場を含む6工場による供給網を確保する他、定期的なBCP訓練やその見直し、原材料調達先との連携や複数購買など、気象災害発生時において主要事業の早期復旧を図るための体制を整備しております。
さらには、緊急時の供給体制を構築し、基礎調味料であり身体の重要なエネルギー源でもある砂糖の安定供給を確かにすることで、サプライヤーとしての信頼を構築することは気候変動に関する機会になりうると考えております。
・平均気温などの変化による、原料(サトウキビ及びてん菜)供給量の増加や減少
公開資料によれば、気候変動による気温変化は低緯度地域より高緯度地域の方が大きいとされています。このため、当社グループは高緯度地域で栽培されているてん菜を対象に、影響を評価しました。「てん菜における2030年代の予測値」によれば、温暖化により収量(根重)は増える一方、夏季以降の高温により根中糖分が低下する側面もあり、その結果として得られる糖量としては微増すると推定されています。一方、病害(褐斑病、葉腐病、根腐病、黒根病等)については発生量の増加、さらにはヨトウガなどの害虫についても食害量の増加が想定されています。
このようなリスクに対応するため、グループ会社の北海道糖業㈱において、病虫害耐性の高いてん菜の導入を推進しております。また、今後は研究機関と連絡を密にしながら、さらなる情報収集により影響評価の精緻化を進めます。
・炭素税や排出権取引制度等の導入による、費用の増加
当社グループの中核である精製糖事業では主に生産プロセスで大量のエネルギーを必要とすることから、創エネ、省エネ、脱炭素エネルギーの採用(グリーン電力の購入、バイオマス燃料等)による2051年3月期CO2排出量実質ゼロに向けた取り組みを推進します。また、サプライヤーと連携したCO2削減や商品および価格体系の見直しによって、財務リスクの最小化に取り組んでまいります。
今後も、重要なリスクについての更なる精査や、他の気候変動にかかるリスクと機会の検証を進め、当社グループの気候変動に対するレジリエンス強化に取り組んでまいります。