有価証券報告書-第101期(2024/04/01-2025/03/31)

【提出】
2025/06/20 13:57
【資料】
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【項目】
170項目
③ 戦略
当社グループの事業は、原材料の大半が気候変動による物理的リスクの影響を大きく受ける農産物であること、また製造・加工・販売の過程において多くのエネルギーを消費しており気候変動による移行リスクの影響を大きく受けることから、気候変動を重要なリスクと認識しております。当社グループでは、気候変動にかかるリスクと機会を特定するにあたり、当社グループの中期経営計画との時期的整合性、またパリ協定、日本政府の掲げる目標年といった外部環境要素を踏まえ、短中期の時間的範囲を2031年3月期までの期間、および長期の時間的範囲を2051年3月期までの期間と定めました。
(重要リスクの特定)
気候変動にかかるリスクおよび機会については、当社グループの主力事業である国内砂糖事業、およびライフ・エナジー事業を対象に、網羅的なリストアップを行いました。次に、すべてのリスクおよび機会について公開資料等に基づき財務的影響を検討したうえ、当社グループの事業への影響等に鑑み以下のとおり項目を抽出および整理しました。
期間分類項目種別想定されるリスク・機会財務影響度
物理:4℃
移行:1.5℃
対応策や機会
物理的リスク短期・中期急性自然災害の規模と頻度の増大リスク気象災害の激甚化による、当社グループ工場等の被害額増大・設備の定期メンテナンス強化
・国内6精製糖工場によるバックアップ体制強化
・定期的な訓練やその見直し
・原材料調達先との連携や複数購買
リスクサプライチェーン上の取引先の操業停止等による、当社グループへの損失発生・原材料調達先との連携や複数購買
・依存度の高い原材料・副原料についての代替原料の確保および代替製造方法の検証・確保
慢性海面上昇リスク耕作可能地減少による生産拠点の減少、および物流拠点の減少による、原材料および製品の供給能力低下・BCP計画の策定
・代替耕作地確保に向けた情報収集、代替物流ルートの確保
長期的な気候(平均気温や降水パターンなど)の変化リスク/機会平均気温などの変化による、原料(てん菜およびサトウキビ)供給量の増加や減少・気候・気温変化に対する耐性の高い品種の導入(てん菜およびサトウキビ)
・病虫害耐性の高い品種の導入(てん菜)
・原料供給量の増減に伴う原料価格(国際相場)の変動を見据えた商品および価格体系の見直し
リスク/機会気温上昇による、砂糖消費行動の変化に伴う売上の増加や減少・様々な温度帯で消費される飲料・食品など末端製品へのバランスのとれた販売政策(販売ポートフォリオの平準化)
・気温上昇に伴う疾病リスク増加を抑制する製品の共同開発(例:熱中症対策飲料)
リスク平均気温上昇による、主に生産部門での暑熱対策強化に伴う費用の増加・暑熱対策の継続実施、水平展開
・人的被害リスク軽減の為の製造工程省人化の推進
移行リスク長期政策・法制度炭素価格の上昇リスク炭素税や排出権取引制度等の導入による、費用の増加・創エネ、省エネ、脱炭素エネルギーの採用
・サプライヤーと連携したCO2削減
・商品および価格体系の見直し
・CO2削減のための製造工程の抜本的な見直し(プロセスイノベーションへの取り組み)
・CO2削減のための原料調達方法の抜本的な見直し
技術進歩新たな低・脱炭素型生産技術の開発リスク/機会新たな技術開発のための研究開発費用の増大 エネルギーコスト削減による製造コストの削減・燃料転換導入コスト精査によるコスト削減
・非競争分野における同業者および異業種との共同研究の推進
・製造工場におけるボイラー燃料転換(脱化石燃料化の推進)
リスク再エネ燃料として原料(サトウキビ)がバイオエタノールに使用されることによる、原材料調達コストの増加・原料供給量の減少に伴う原料価格(国際相場)上昇を見据えた商品および価格体系の見直し
低・脱炭素関連の技術革新機会当社グループのサプライチェーン上の取引先企業との共同配送、モーダルシフト、受発注の最適化等による事業コストの増大抑制・共同配送、モーダルシフトの推進
・非競争分野に於ける同業者および異業種との共同配送等の検討
市場変化環境配慮製品への社会的要請リスク環境配慮製品購入への消費行動変化への費用の発生・環境配慮製品への適切な切り替え
・新たな環境配慮型製品の開発による商品の高付加価値化推進
評判脱炭素に消極的な企業姿勢に対するレピュテーションリスクリスク脱炭素に消極的な企業姿勢に対する企業イメージの低下および企業価値減少・脱炭素への取り組みに関連する情報の適宜開示・情報の発信チャネル拡大
・サステナビリティ経営の強化と投資家をはじめとしたあらゆるステークホルダーとのコミュニケーションの強化

さらに、特に財務影響度が大きいリスクを重要リスクとして特定し、以下のとおり気候変動シナリオ(物理的リスクは4℃上昇シナリオ、移行リスクは1.5℃上昇シナリオ)に基づく評価を行ったうえ、リスクの最小化および機会の探索のための体制を確認しました。
(特定した重要リスクへの対応策)
・気象災害の激甚化による、当社グループ工場等の被害額増大
過去に国内工場で高潮被害を受けている他、大型台風による設備への風害も発生しており、将来的に被害がさらに顕在化する可能性があります。
このような気候変動によるリスクに対応するため、当社グループでは、予防の観点で設備の定期メンテナンスを実施し、自社工場の千葉、神戸、福岡に加えて、製糖委託工場を含む6工場による供給網を確保する他、定期的なBCP訓練やその見直し、原材料調達先との連携や複数購買など、気象災害発生時において主要事業の早期復旧を図るための体制を整備しております。
さらには、緊急時の供給体制を構築し、基礎調味料であり身体の重要なエネルギー源でもある砂糖の安定供給を確かにすることで、サプライヤーとしての信頼を構築することは気候変動に関する機会になりうると考えております。
・平均気温などの変化による、原料(てん菜およびサトウキビ)供給量の増加や減少
てん菜については、「てん菜における2030年代の予測値」によれば、温暖化により収量(根重)は増える一方、夏季以降の高温により根中糖分が低下する側面もあり、その結果として得られる糖量としては微増すると推定されています。一方、病害(褐斑病、葉腐病、根腐病、黒根病等)については発生量の増加、さらにはヨトウガなどの害虫についても食害量の増加が想定されています。
このようなリスクに対応するため、グループ会社の北海道糖業㈱において、病虫害耐性の高いてん菜の導入を推進しております。また、今後は研究機関と連絡を密にしながら、さらなる情報収集により影響評価の精緻化を進めます。
もう一つの原料であるサトウキビについては、温暖な気候でよく生育する特性を持ち、平均気温上昇に伴う有効積算温度の増加により、てん菜同様に収量が高まるものと見込まれます。他方、平均気温上昇が生育を制限する要素(例えば、台風、サイクロン、干ばつ、病虫害)をより深刻化させる可能性があります。例えば、オーストラリア、タイ、ブラジルといった主要生産地域においては、サトウキビ収量が気候変動要因によって減少するとの予測もされています。また、気候変動がもたらす影響は生育状況だけでなく、気象災害の激甚化による輸送経路の分断や生産関連設備の故障など、生育後の収穫や加工の段階においてもリスクをもたらす可能性があります。
このような気候変動による原料調達の不確実性に対し、当社グループではサプライヤーとのコミュニケーションを継続し、調達先の多角化などの検討を進め、安定調達を推進してまいります。
・炭素税や排出権取引制度等の導入による、費用の増加
当社グループの中核である国内砂糖事業では主に生産プロセスで大量のエネルギーを必要とすることから、創エネ、省エネ、脱炭素エネルギーの採用(グリーン電力の購入、バイオマス燃料等)による2051年3月期CO2排出量実質ゼロに向けた取り組みを推進します。また、サプライヤーと連携したCO2削減や商品および価格体系の見直しによって、財務リスクの最小化に取り組んでまいります。
今後も、重要なリスクについての更なる精査や、他の気候変動にかかるリスクと機会の検証を進め、当社グループの気候変動に対するレジリエンス強化に取り組んでまいります。