有価証券報告書-第165期(2022/04/01-2023/03/31)
③ 戦略
(イ)概要
当社グループは、「サステナブル・ビジョン2030」の中で「脱炭素社会&循環型社会」の実現を重要なサステナビリティ目標の一つとしています。また、TCFD提言に沿い、パリ協定に基づく気候変動シナリオを前提とした将来リスクと事業機会を分析・整理しました。それらリスクと機会の影響と財務インパクトを特定した上で、対応策とそれに基づく指標・目標を設定し、経営戦略の強靭性(レジリエンス)向上を図ります。
(ロ)シナリオ分析
温暖化対策の進展によってさまざまなシナリオが考えられる中、分析の前提として、以下のシナリオを典型的なものとして参照しました。
今世紀末までの世界の平均気温の上昇が2℃未満に抑えられるシナリオと、4℃まで上昇するシナリオのそれぞれについて、2050年までの事業への影響と、当社グループの新たな機会を検討しました。
(ハ)シナリオ下のリスクと機会の洗い出し
2℃未満シナリオと4℃シナリオを踏まえ、気候変動に特化した当社グループのリスク・機会の抽出を行いました。前期は、「フィルム事業」を対象にしましたが、当期は、当社グループの事業全体に対象を広げました。抽出されたリスク・機会の項目を集約し、社会の変化という観点でまとめ直した上で、それぞれの対策案を検討しました(下表参照)。影響度と発生可能性の2軸による評価の結果、特に重要であると認識したリスクと機会は、後述の通りです。
当社グループでは、原材料調達を含むサプライチェーン全体でのGHG排出量の削減を、リスク低減と機会創出の両面で捉えています。具体的には、Scope1,2の計画的な削減により、将来の炭素価格負担を軽減するとともに、お客さまからの脱炭素化要求に確実に応えられるように備えます。また、原材料をリサイクル材やバイオマス由来素材へシフトすることにより、石油由来資源への依存度を下げ、将来の事業リスクを低減するとともに、事業機会の獲得・拡大につなげていきます。
さらに、全世界でリスクが高まる水不足の問題に対して、低エネルギーで淡水の造水が可能な海水淡水化用膜を販売することで、社会課題の解決を通じた事業機会の獲得・拡大を図ります。
(ニ)特に重要であると認識したリスクと機会
<重要リスク1:水害(洪水・高潮等)による建物・設備への被害リスク>当社グループの主力工場である、敦賀・岩国・犬山工場において、水害リスクがあることを認識しています。気候変動が進行する場合、海面上昇や降雨パターンの変化により、水害リスクはさらに高まると想定しています。2030年代における水害による資産減少額(建物および装置等の被害額)を簿価より試算した結果、当該3工場の合計金額は最大で約500億円となりました。なお、当算定は、それぞれの簿価に国土交通省の基準による被害率(※)を乗じて、概算しています。
当社グループは、工場における水害リスクを気候関連の重要リスクと捉え、生産設備や動力設備等の高台移設/かさ上げ等の水害対策の強化を順次実施しています。
(※)国土交通省『治水経済調査マニュアル(案)』(令和2年4月)
<重要リスク2:炭素価格の導入>2030年度のGHG排出量(Scope1,2)は、2020年度(実績90万トン-CO2)を基準とした成り行き(BAU)(※)シナリオにおいて、売上拡大に伴い約130万トン-CO2に増加します。BAUシナリオにおいて2030年度の炭素価格単価を1.5万円/トン-CO2と想定した場合の年間コストは約200億円となります。
当社グループは、GHG排出量(Scope1,2)の増加を気候関連の重要リスクと捉え、2022年度に2030年度までの「カーボンニュートラルへのロードマップ」を含む「サステナブル・ビジョン2030」を公表しました。このロードマップでは、省エネルギー化(生産効率向上含む)、燃料転換等、再生可能エネルギー導入を含むエネルギーの最適化等により2030年度のGHG排出量(Scope1,2)を65.5万トン-CO2以下に低減することを目標としています。この場合の炭素価格による年間コストは、約100億円となり、BAUシナリオと比較し、約100億円のコスト削減効果があります。この「カーボンニュートラルへのロードマップ」に沿った2025年までの累積投資額は、環境・安全・防災投資額(約330億円)に含まれる計画です。
(※)Business As Usualの略。ここでは特段のGHG排出削減対策を行わなかった場合を指します。
<重要リスク3:石油由来資源の削減や代替化する要請の高まり>および
<重要機会1:低炭素/脱炭素型素材や製品の需要増加>当社グループの主力事業であるフィルム・機能マテリアル事業はグループ全体の売上高の4割以上を占めます。今後の脱炭素に向けた社会変化(移行)の中で、お客さまを含む社会から石油由来資源の使用量削減や代替化の要請が高まることが予想され、気候関連の重要リスクとして認識しています。また、同時に低炭素/脱炭素型素材や製品の需要は増加し、事業機会が存在すると認識しています。
現状のフィルム事業の売上高のうち、約90%の1,200億円が石油由来資源に依存したものです。2022年度に公表した「サステナブル・ビジョン2030」において、石油由来資源の使用量低減につながる技術や取組み(※)をグリーン化と定義し、2030年度にフィルム製品の60%でグリーン化を実現することを目標に設定しました。石油由来資源の使用量を減らすフィルム製品は、低炭素/脱炭素型製品でもあり、フィルム製品のグリーン化を推進することで、リスクの低減と共に、事業機会の獲得・拡大を図ります。
フィルム事業の2030年度の目標売上高である約2,200億円のうち、約1,300億円が、当機会の獲得・拡大によるものです。
(※)バイオマス原料を用いたフィルムの開発、薄型軽量素材のフィルム開発(高強度化)、使用後のフィルムのリサイクルを容易にするための環境配慮設計(モノマテリアル化)、リサイクル原料を使用したフィルム開発およびリサイクル化自体の技術開発
<重要機会2:海水淡水化の需要増加>当社グループは、気候変動の進行により、全世界で水不足や干ばつの発生リスクが高まると認識しています。今後、多くの地域で工業用水だけでなく生活用水の確保にも課題が生じ、海水淡水化の需要がますます高まると予測しています。
当社グループの中空糸型逆浸透膜モジュール“ホロセップ”は、汚れにくい特徴があり、特に閉鎖性海域(中東地域等)などの微生物が増殖しやすい海水での海水淡水化に強みがあります。耐塩素性に優れる“ホロセップ”は、塩素処理した原水をモジュールに直接供給できるため、比較的低コストでモジュール内の微生物増殖を抑制し、さらにはメンテナンスの容易性から淡水化設備の稼働率向上に寄与します。
当社グループは、2022年度に公表した「サステナブル・ビジョン2030」において、2030年度に、膜による海水淡水化で1,000万人分の水道水相当量を造水する目標を設定し、社会課題の解決を通じた事業機会の獲得・拡大を図ります。
(イ)概要
当社グループは、「サステナブル・ビジョン2030」の中で「脱炭素社会&循環型社会」の実現を重要なサステナビリティ目標の一つとしています。また、TCFD提言に沿い、パリ協定に基づく気候変動シナリオを前提とした将来リスクと事業機会を分析・整理しました。それらリスクと機会の影響と財務インパクトを特定した上で、対応策とそれに基づく指標・目標を設定し、経営戦略の強靭性(レジリエンス)向上を図ります。
(ロ)シナリオ分析
温暖化対策の進展によってさまざまなシナリオが考えられる中、分析の前提として、以下のシナリオを典型的なものとして参照しました。
今世紀末までの世界の平均気温の上昇が2℃未満に抑えられるシナリオと、4℃まで上昇するシナリオのそれぞれについて、2050年までの事業への影響と、当社グループの新たな機会を検討しました。
| 設定シナリオ | 2℃未満シナリオ | 4℃シナリオ |
| 社会像 | 今世紀末までの平均気温の上昇を1.5℃に抑える努力を追求し、持続可能な社会の発展をかなえるため、大胆な政策や技術革新が進められる。脱炭素社会への移行に伴う社会変化が、事業に影響を及ぼす可能性が高い社会になる。 〈事例〉 ●炭素税の導入・炭素価格の上昇 ●自動車の電動化シフト、再生可能エネルギーの拡大 | パリ協定に即して定められた約束草案等の各国政策が実施されるも、今世紀末までの平均気温が成り行きで最大4℃まで上昇する。温度上昇等の気候の変化が、事業に影響を及ぼす可能性が高い社会になる。 〈事例〉 ●大雨による洪水被害の増大 |
| 参照シナリオ | ●「SDS」(IEA WEO2021/ETP2020) ●「NZE」(IEA Net Zero by 2050 A Roadmap for the Global Energy Sector) ●「RCP2.6」(IPCC AR5) ●「SSP1-1.9」(IPCC AR6) | ●「RCP8.5」(IPCC AR5) ●「SSP5-8.5」(IPCC AR6) ●「STEPS」(IEA WEO2022/ETP2020) |
| リスクと機会の傾向 | 移行面でのリスクおよび機会が顕在化しやすい | 物理面でのリスクおよび機会が顕在化しやすい |
(ハ)シナリオ下のリスクと機会の洗い出し
2℃未満シナリオと4℃シナリオを踏まえ、気候変動に特化した当社グループのリスク・機会の抽出を行いました。前期は、「フィルム事業」を対象にしましたが、当期は、当社グループの事業全体に対象を広げました。抽出されたリスク・機会の項目を集約し、社会の変化という観点でまとめ直した上で、それぞれの対策案を検討しました(下表参照)。影響度と発生可能性の2軸による評価の結果、特に重要であると認識したリスクと機会は、後述の通りです。
当社グループでは、原材料調達を含むサプライチェーン全体でのGHG排出量の削減を、リスク低減と機会創出の両面で捉えています。具体的には、Scope1,2の計画的な削減により、将来の炭素価格負担を軽減するとともに、お客さまからの脱炭素化要求に確実に応えられるように備えます。また、原材料をリサイクル材やバイオマス由来素材へシフトすることにより、石油由来資源への依存度を下げ、将来の事業リスクを低減するとともに、事業機会の獲得・拡大につなげていきます。
さらに、全世界でリスクが高まる水不足の問題に対して、低エネルギーで淡水の造水が可能な海水淡水化用膜を販売することで、社会課題の解決を通じた事業機会の獲得・拡大を図ります。
| 社会の変化およびその影響 | リスク/機会項目 | 当社グループの対策 | ||
| 区分 | 期間 | 内容 | ||
| 脱炭素社会への移行に伴う影響 (広範囲に及ぶ政策・法規制・技術・市場の変化等) | 移行・ リスク | 短期 | 炭素価格の導入 | ・GHG排出量削減計画の推進 (省エネルギー、生産効率向上、燃料転換、再生可能エネルギー導入他) ・インターナルカーボンプライシング制度の活用 |
| 中期~ 長期 | 原材料価格の上昇 (炭素価格の転嫁等) | ・サプライヤーへの働き掛け・連携(低炭素原料開発、生産技術支援等) ・原材料調達手段の多様化(複数購買・現地調達を拡大) | ||
| 省エネルギー化推進・高効率設備導入等に伴うコスト増加 | ・生産プロセスの革新・超高効率化の追求 ・バリューチェーン全体における生産の高効率化(関係会社との統合・連携強化、M&A等) | |||
| 再生可能エネルギー導入に伴うコスト増加 | ・再生可能エネルギーの調達手段の選定 | |||
| 製品製造時の低炭素/脱炭素化要求によるコスト増加 | ・再生可能エネルギーの導入・調達拡大 ・生産プロセスの高効率化、省エネルギー化推進 ・自家発電用燃料の転換(脱石炭) ・カーボンフリー燃料(水素、アンモニア等)利活用の検討 ・CCU/CCS等の革新技術の導入検討 | |||
| 石油由来資源を削減や代替化する要請の高まり | ・原材料のリサイクル材やバイオマス由来素材へのシフト加速 ・石油由来資源に依存する汎用素材事業の見直し | |||
| 移行・ 機会 | 中期 | 低炭素/脱炭素型素材や製品の需要増加 | ・原材料のリサイクル材やバイオマス由来素材へのシフト加速 ・原材料(リサイクル材やバイオマス由来素材)の調達課題(材料の逼迫)への対応 ・低炭素/脱炭素型素材での製品開発・商品企画の推進 ・低炭素/脱炭素型製品の生産/品質体制の強化 | |
| 再生可能エネルギー・蓄電池関連市場の拡大 | ・再生可能エネルギー/蓄電池関連事業(※)の製品開発・商品企画の強化 (※)浸透圧発電用膜、定置型蓄電池用電極、浮体式洋上風力用特殊繊維・フィルム、リチウムイオン二次電池(LIB)工場用VOC回収装置、LIBリサイクル工場用分離膜、リチウム精製用分離膜等 | |||
| 社会の変化およびその影響 | リスク/機会項目 | 当社グループの対策 | ||
| 区分 | 期間 | 内容 | ||
| 気候変動の進行に伴う影響 (資産に対する直接的な損傷や、サプライチェーンの寸断による間接的な影響、技術・市場の変化等) | 物理的・ リスク | 短期~ 中期 | 自然災害による原材料の供給停止 | ・在庫水準見直し、複数購買の拡大 |
| 水害(洪水・高潮等)による設備損壊、操業停止 | ・BCP訓練実施 ・生産設備/動力設備等の高耐久化や高台移設/かさ上げ ・生産拠点の分散・移転・集約 | |||
| 物理的・機会 | 中期 | 土木工事の需要増加 | ・減災/復旧工事用製品(※)の拡充 (※)防砂シート、コンクリート剥離防止シート、軟弱路床改善素材等 | |
| 水不足や干ばつによる海水淡水化の需要増加 | ・海水淡水化用膜(RO/FO膜等)の販売拡大 ・RO/FO膜等の省エネルギー/高耐久性化開発 ・RO/FO膜等の生産/品質体制の強化 | |||
| 長期 | 気温上昇に伴う感染症対策 (予防・治療)の需要増加 | ・食品パッケージ関連製品の需要拡大 ・感染症関連製品・技術の研究開発促進 | ||
(ニ)特に重要であると認識したリスクと機会
<重要リスク1:水害(洪水・高潮等)による建物・設備への被害リスク>当社グループの主力工場である、敦賀・岩国・犬山工場において、水害リスクがあることを認識しています。気候変動が進行する場合、海面上昇や降雨パターンの変化により、水害リスクはさらに高まると想定しています。2030年代における水害による資産減少額(建物および装置等の被害額)を簿価より試算した結果、当該3工場の合計金額は最大で約500億円となりました。なお、当算定は、それぞれの簿価に国土交通省の基準による被害率(※)を乗じて、概算しています。
当社グループは、工場における水害リスクを気候関連の重要リスクと捉え、生産設備や動力設備等の高台移設/かさ上げ等の水害対策の強化を順次実施しています。
(※)国土交通省『治水経済調査マニュアル(案)』(令和2年4月)
<重要リスク2:炭素価格の導入>2030年度のGHG排出量(Scope1,2)は、2020年度(実績90万トン-CO2)を基準とした成り行き(BAU)(※)シナリオにおいて、売上拡大に伴い約130万トン-CO2に増加します。BAUシナリオにおいて2030年度の炭素価格単価を1.5万円/トン-CO2と想定した場合の年間コストは約200億円となります。
当社グループは、GHG排出量(Scope1,2)の増加を気候関連の重要リスクと捉え、2022年度に2030年度までの「カーボンニュートラルへのロードマップ」を含む「サステナブル・ビジョン2030」を公表しました。このロードマップでは、省エネルギー化(生産効率向上含む)、燃料転換等、再生可能エネルギー導入を含むエネルギーの最適化等により2030年度のGHG排出量(Scope1,2)を65.5万トン-CO2以下に低減することを目標としています。この場合の炭素価格による年間コストは、約100億円となり、BAUシナリオと比較し、約100億円のコスト削減効果があります。この「カーボンニュートラルへのロードマップ」に沿った2025年までの累積投資額は、環境・安全・防災投資額(約330億円)に含まれる計画です。
(※)Business As Usualの略。ここでは特段のGHG排出削減対策を行わなかった場合を指します。
<重要リスク3:石油由来資源の削減や代替化する要請の高まり>および
<重要機会1:低炭素/脱炭素型素材や製品の需要増加>当社グループの主力事業であるフィルム・機能マテリアル事業はグループ全体の売上高の4割以上を占めます。今後の脱炭素に向けた社会変化(移行)の中で、お客さまを含む社会から石油由来資源の使用量削減や代替化の要請が高まることが予想され、気候関連の重要リスクとして認識しています。また、同時に低炭素/脱炭素型素材や製品の需要は増加し、事業機会が存在すると認識しています。
現状のフィルム事業の売上高のうち、約90%の1,200億円が石油由来資源に依存したものです。2022年度に公表した「サステナブル・ビジョン2030」において、石油由来資源の使用量低減につながる技術や取組み(※)をグリーン化と定義し、2030年度にフィルム製品の60%でグリーン化を実現することを目標に設定しました。石油由来資源の使用量を減らすフィルム製品は、低炭素/脱炭素型製品でもあり、フィルム製品のグリーン化を推進することで、リスクの低減と共に、事業機会の獲得・拡大を図ります。
フィルム事業の2030年度の目標売上高である約2,200億円のうち、約1,300億円が、当機会の獲得・拡大によるものです。
(※)バイオマス原料を用いたフィルムの開発、薄型軽量素材のフィルム開発(高強度化)、使用後のフィルムのリサイクルを容易にするための環境配慮設計(モノマテリアル化)、リサイクル原料を使用したフィルム開発およびリサイクル化自体の技術開発
<重要機会2:海水淡水化の需要増加>当社グループは、気候変動の進行により、全世界で水不足や干ばつの発生リスクが高まると認識しています。今後、多くの地域で工業用水だけでなく生活用水の確保にも課題が生じ、海水淡水化の需要がますます高まると予測しています。
当社グループの中空糸型逆浸透膜モジュール“ホロセップ”は、汚れにくい特徴があり、特に閉鎖性海域(中東地域等)などの微生物が増殖しやすい海水での海水淡水化に強みがあります。耐塩素性に優れる“ホロセップ”は、塩素処理した原水をモジュールに直接供給できるため、比較的低コストでモジュール内の微生物増殖を抑制し、さらにはメンテナンスの容易性から淡水化設備の稼働率向上に寄与します。
当社グループは、2022年度に公表した「サステナブル・ビジョン2030」において、2030年度に、膜による海水淡水化で1,000万人分の水道水相当量を造水する目標を設定し、社会課題の解決を通じた事業機会の獲得・拡大を図ります。