有価証券報告書-第167期(2024/04/01-2025/03/31)

【提出】
2025/06/24 17:00
【資料】
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【項目】
190項目
② 戦略
(イ)概要
当社グループは、「サステナブル・ビジョン2030」の中で「脱炭素社会&循環型社会」の実現を重要なサステナビリティ目標の一つとしています。また、TCFD提言にのっとり、パリ協定に基づく気候変動シナリオを前提とした将来リスクと事業機会を分析・整理しました。それらリスクと機会の影響と財務インパクトを特定した上で、対応策および指標・目標を設定し、経営戦略の強靭性(レジリエンス)向上を図ります。
(ロ)シナリオ分析
気候変動対策の進展によってさまざまなシナリオが考えられる中、以下「シナリオ分析の概要」に記載したシナリオを典型的なものとして参照しました。
今世紀末までの世界の平均気温の上昇が1.5℃に抑えられるシナリオと、4℃まで上昇するシナリオのそれぞれについて、2050年までの事業への影響と、当社グループの新たな機会を検討しました。
■シナリオ分析の概要
設定シナリオ1.5℃シナリオ4℃シナリオ
社会像今世紀末までの平均気温の上昇を1.5℃に抑える努力を追求し、持続可能な社会の発展をかなえるため、大胆な政策や技術革新が進められる。脱炭素社会への移行に伴う社会変化が、事業に影響を及ぼす可能性が高い社会になる。
〈事例〉
●炭素税の導入・炭素価格の上昇
●中国を中心とした自動車の電動化シフト
●再生可能エネルギーと、これに付随する蓄電池需要の拡大
パリ協定に即して定められた約束草案等の各国政策が実施されるも、今世紀末までの平均気温が成り行きで最大4℃まで上昇する。温度上昇等の気候の変化が、事業に影響を及ぼす可能性が高い社会になる。
〈事例〉
●大雨による洪水被害の増大
参照シナリオ●「NZE」(IEA WEO2024)
●「APS」(IEA WEO2024)
●「SSP1-1.9」(IPCC AR6)
●「RCP2.6」(IPCC AR5)
●「Global Ambition scenario」(OECD Global Plastics Outlook)
●「SSP5-8.5」(IPCC AR6)
●「RCP8.5」(IPCC AR5)
●「STEPS」(IEA WEO2024/ETP2020)
リスクと機会の傾向移行面(規制強化などの社会変化)でのリスクおよび機会が顕在化しやすい物理面(気象の変化など)でのリスクおよび機会が顕在化しやすい

(ハ)シナリオ下のリスクと機会の洗い出し
1.5℃シナリオと4℃シナリオを踏まえ、気候変動に特化した当社グループのリスク・機会の抽出を行いました。抽出されたリスク・機会の項目を集約し、社会の変化という観点でまとめ直した上で、それぞれの対策案を検討しています(下表:「シナリオ別のリスク/機会とその対策」)。「サステナブル・ビジョン2030」を踏まえ、影響度と発生可能性の2軸による評価の結果、特に重要であると認識したリスクと機会は後述のとおりです。また、分析の対象とした期間は、「短期」を3年程度、「中期」を2030年まで、「長期」を2050年までとしています。
当社グループでは、原材料調達を含むサプライチェーン全体でのGHG排出量の削減を、リスク低減と機会創出の両面で捉えています。具体的には、Scope1,2の計画的な削減により、将来のカーボンプライシング制度による負担を軽減するとともに、お客さまからの脱炭素化要求に確実に応えられるように備えます。
また、原材料をリサイクル材やバイオマス由来素材へシフトすることにより、石油由来資源への依存度を下げ、将来の事業リスクを低減するとともに、事業機会の獲得・拡大につなげていきます。
さらに、水資源の希少化による様々な高度水処理の需要の高まりに対し、低エネルギーで淡水の造水が可能な海水淡水化用膜や、水資源のリサイクルを促進する高効率濃縮用膜の開発・販売により、事業拡大につなげていきます。
また、従来技術からの置き換えによるGHGの削減貢献製品の事業拡大を見込んでいます。当社グループの代表的製品として、活性炭素繊維“Kフィルター”を用いたVOC回収装置があります。蓄電池関連の生産工場等で発生する揮発性有機化合物(VOC)(※)の除去を省エネルギーで行い、さらに有機溶剤の回収・再利用を可能とすることでGHGの削減と環境負荷低減の両面に寄与します。
(※)Volatile Organic Compounds
■シナリオ別のリスク/機会とその対策
社会の変化およびその影響リスク/機会項目当社グループの対策
区分期間事象
脱炭素社会への移行に伴う影響
(広範囲に及ぶ政策・法規制・技術・市場の変化等)
移行・
リスク
短期カーボンプライシングの導入・GHG排出量削減計画の推進
(省エネルギー、生産効率向上、燃料転換、再生可能エネルギー導入他)
・インターナルカーボンプライシング制度の活用
中期~
長期
原燃料価格の上昇
(炭素価格の転嫁等)
・非石油由来資源へのシフト
・サプライヤーへの働き掛け・連携(低炭素原料開発等)
・原材料調達手段の多様化(複数購買・現地調達を拡大)
省エネルギー化推進・高効率設備導入等に伴うコスト増加・生産プロセスの革新・超高効率化の追求
・サステナブルファイナンス、トランジションファイナンス等の活用
・バリューチェーン全体における生産の高効率化
(関係会社との統合・連携強化、M&A等)
製品製造時の低炭素/脱炭素化要求への対応に伴うコスト増加・再生可能エネルギーの導入・調達拡大
・生産プロセスの高効率化、省エネルギー化推進
・製品価格への転嫁
石油由来資源の削減や代替化する要請の高まり・原材料のリサイクル材やバイオマス由来素材へのシフト加速
・石油由来資源に依存する汎用素材事業の見直し
移行・
機会
中期低炭素/脱炭素型素材や製品の需要増加・原材料のリサイクル材やバイオマス由来素材へのシフト加速
・微生物(酵母)を活用したバイオ事業の生産プロセス革新(バイオものづくり)
・原材料(リサイクル材やバイオマス由来素材)の調達課題(材料の逼迫)への対応
・低炭素/脱炭素型素材での製品開発・商品企画の推進
・革新的な低炭素/脱炭素型素材の開発加速
・低炭素/脱炭素型製品の生産/品質管理体制の強化
GHG排出削減貢献につながる製品の需要拡大・削減貢献視点でのお客さまを含めたサプライチェーンでの連携
・従来技術からの置き換えによる削減貢献に寄与する製品開発・商品企画(※)の加速
(※)省エネルギー型の海水淡水化用膜、有機溶剤の燃焼処理を回避し再利用を可能にするVOC回収装置、廃液処理由来のGHG排出の低減に寄与する水現像フレキソ版、燃料電池用素材、GHG多排出工程である塗装を代替する塗装代替フィルム等
再生可能エネルギー・蓄電池関連市場の拡大・再生可能エネルギー/蓄電池関連事業(※)の製品開発・商品企画の強化
・東洋紡と三菱商事による合弁会社「東洋紡エムシー株式会社」の立ち上げによるメガトレンドの先取りや海外展開、ソリューション提供力の強化
(※)浸透圧発電用膜、浮体式洋上風力用スーパー繊維・フィルム、リチウムイオン電池工場用VOC回収装置、有価物(リチウム等)濃縮用膜・装置、水素発生装置関連素材、水素キャリア関連素材、有機薄膜太陽電池用ドナー材料等

社会の変化およびその影響リスク/機会項目当社グループの対策
区分期間事象
気候変動の進行に伴う影響
(資産に対する直接的な損傷や、サプライチェーンの寸断による間接的な影響、技術・市場の変化等)
物理的・
リスク
現在~
中期
猛暑による生産性の低下・熱中症予防に関する基本方針の明確化
・作業環境、作業の適切な管理(日よけ・冷房・通風設備の増設、高温多湿作業場での連続作業時間短縮等)
・工場内作業の自動化拡大
・IoT機器等での現場作業者の熱中症管理
自然災害による原材料の供給停止・在庫水準見直し、複数購買の拡大
・物流ルートの多様化
・気候変動に左右されにくい代替原料の検討
原料調達の不安定化
水害(洪水・高潮等)による設備損壊、操業停止・水害対策に関する基本方針の明確化
・生産設備/動力設備等の高耐久化や高台移設/かさ上げ
・生産拠点の分散・移転
・BCP訓練実施
物理的・機会中期土木工事の需要増加・減災/復旧工事用製品(※)の拡充
(※)防砂シート、コンクリート剥離防止シート、軟弱路床改善素材等
水不足や干ばつによる海水淡水化の需要増加
淡水希少化による環境規制強化、産業排水の無排水(ZLD)化(※)の需要増加
(※)Zero Liquid
Discharge
・海水淡水化用膜(RO/FO膜等)(※)の販売拡大
・RO/FO膜等の省エネルギー/高耐久性化開発
・高効率濃縮用膜(BC膜)(※)のシステム開発
・RO/FO/BC膜等の生産/品質管理体制の強化
・三菱商事の海外ネットワークを生かした「東洋紡エムシー株式会社」による販売力の強化
(※)Reverse Osmosis, Forward Osmosis, Brine Concentration
長期気温上昇に伴う感染症対策(予防・治療)の需要増加・食品パッケージ関連製品の需要拡大
・感染症関連製品、技術の研究開発促進

(ニ)特に重要であると認識したリスクと機会
<重要リスク1:水害(洪水・高潮等)による建物・設備への被害リスク>当社グループの主力工場である、敦賀・岩国・犬山工場はいずれも河川や沿岸付近にあり、かつ低地にあることから水害リスクを有しています。気候変動が進行する場合、海面上昇や降雨パターンの変化により、水害リスクはさらに高まると想定しています。2030年代における水害による資産減少額(建物および装置等の被害額)を簿価より試算した結果、当該3工場の合計金額は最大で約650億円となりました。なお、当該3工場の水害による資産減少額は、当該3工場の建物や装置等の簿価に国土交通省が公表している水害による被害率(※)を乗じて、概算しています。
(※)国土交通省『治水経済調査マニュアル(案)』(令和6年4月)
(リスクを低減するための施策)
当年度においては、新たに「水害対策ガイドライン」を制定し、当社グループ生産拠点における水害対策に関する基本方針を明確化しました。新規計画の生産設備や動力設備等への水害対策(高台設置/かさ上げ等)をはじめ、既存設備への防水扉や囲い塀の追加設置など優先順位をつけ順次実施しています。
(シナリオ分析に使用した主なパラメータ)
・東アジアにおける海面上昇幅 (「RCP8.5」,IPCC AR5)
<重要リスク2:カーボンプライシングの導入>2030年度のScope1,2は、2020年度(実績90万トン-CO2)を基準とした成り行き(BAU)(※)シナリオにおいて、売上拡大に伴い約130万トン-CO2に増加します。BAUシナリオにおいて2030年度の炭素価格単価を1.5万円/トン-CO2と想定した場合の年間コストは約200億円となります。
(※)Business As Usualの略。ここでは特段のGHG排出削減対策を行わなかった場合を指します。
(リスクを低減するための施策とその費用)
当社グループは、Scope1,2の増加を気候関連の重要リスクと捉え、2030年度までの脱炭素社会に向けた移行計画(「カーボンニュートラルへのロードマップ」)を含む「サステナブル・ビジョン2030」を2022年度に公表しました。このロードマップでは、エネルギー削減・省エネルギー化(生産効率向上含む)、燃料転換、再生可能エネルギー導入を含むエネルギーの最適化等により2030年度のScope1,2を65.5万トン-CO2以下に低減することを目標としています。この場合のカーボンプライシングによる年間コストは、約100億円となり、BAUシナリオと比較し、約100億円のコスト削減効果があります。
このカーボンニュートラルへのロードマップに沿った2025年までの環境関連の累積投資額は、安全・防災・環境投資額の2022~25年度累計見通し170億円に含まれます。
(シナリオ分析に使用した主なパラメータ)
・炭素価格単価(Net Zero Emissions by 2050 Scenario, IEA WEO 2024)
<重要リスク3:石油由来資源の削減や代替化する要請の高まり>および
<重要機会1:低炭素/脱炭素型素材や製品の需要増加>当社グループの主力事業であるフィルム事業はグループ全体の売上高の4割程度を占めます。また、現状のフィルム事業の売上高のうち、大部分が石油由来資源に依存したものです。今後の脱炭素に向けた社会変化(移行)の中で、お客さまを含む社会から石油由来資源の使用量削減や代替化の要請が高まることが予想され、気候関連の重要リスクとして認識しています。また、同時に低炭素/脱炭素型素材や製品の需要は増加し、事業機会が存在すると認識しています。
(リスクを低減する/機会を実現するための施策とその費用)
当社グループは、「サステナブル・ビジョン2030」において、石油由来資源の使用量低減につながる技術や取組み(※)をグリーン化と定義し、2030年度にフィルム製品の60%でグリーン化を実現することを目標に設定しました。当年度においてその比率は14%となりました。
当年度においては、新開発のシュリンクラベル用PET フィルム“ReCrysta”が、国際的なリサイクル性能に関する認証を取得しました。今後、東南アジアを中心に、PETのリサイクル拡大に貢献します。
石油由来資源の使用量を減らすフィルム製品は、低炭素/脱炭素型製品でもあり、フィルム製品のグリーン化を推進することで、リスクの低減と共に、事業機会の獲得・拡大を図ります。フィルム事業の2030年度の目標売上高である約2,200億円のうち、約1,300億円が、当機会の獲得・拡大によるものです。
このフィルム製品のグリーン化を実現するための当年度の費用は、グリーン化フィルムに関する研究開発投資額であり、フィルムセグメントの研究開発費である44億円に含まれます。
(※)バイオマス原料を用いたフィルムの開発、薄型軽量素材のフィルム開発(高強度化)、使用後のフィルムのリサイクルを容易にするための環境配慮設計(モノマテリアル化)、リサイクル原料を使用したフィルム開発およびリサイクル化自体の技術開発
<重要機会2:水資源の希少化による様々な高度水処理の需要の高まり>気候変動の進行により、全世界で水不足や干ばつの発生リスクが高まると認識しています。今後、多くの地域で工業用水だけでなく生活用水の確保にも課題が生じ、淡水や淡水のリサイクル需要がますます高まると予測しています。
当社グループは、1970年代に紡糸技術を活用して開発されたRO膜により海水淡水化事業に進出しました。RO膜はその素材特性により、塩素殺菌に優れた耐久性があります。特に閉鎖性海域などの微生物が増殖しやすい海水での海水淡水化に強みがあり、中東湾岸諸国での安定的な淡水の供給に貢献しています。
また、この技術を応用して、高効率に溶液を濃縮するBC膜を開発・販売しています。当年度においては、中国バッテリーリサイクル大手のリサイクル工場において、使用済みリチウムイオンバッテリーからリチウムを回収する工程に採用されました。この他、塩湖かん水からのリチウム濃縮用途、工場排水の排水処理・リサイクルや無排水(ZLD)化などで売上拡大を見込んでいます。
(機会を実現するための施策とその費用)
当社グループは、「サステナブル・ビジョン2030」において、2030年度に、膜による海水淡水化で1,000万人分の水道水相当量を造水する目標を設定し、2024年度時点で、その造水量は520万人分となりました。今後も、三菱商事との合弁会社「東洋紡エムシー株式会社」でのソリューション提供力の強化により、社会課題の解決を通じた事業機会の獲得・拡大を図ります。
これらの目標の実現、事業機会獲得のための当年度の費用は、水処理膜に関する研究開発投資額であり、環境・機能材セグメントの研究開発費である38億円に含まれます。
<重要機会3:温室効果ガス排出削減貢献につながる製品の需要拡大>当社グループでは、従来技術からの置き換えによるGHGの削減貢献に寄与する製品・設備・ソリューションを数多く有しています。蓄電池、製薬、印刷等の工場で発生する揮発性有機化合物(VOC)を省エネルギーで除去し、有機溶剤の回収・再利用を可能とする装置(VOC回収装置)もその一つです。当社グループでは、1970年代からVOCの吸着材である活性炭素繊維“Kフィルター”と、それを用いたVOC回収装置を開発・販売しています。最新型のVOC回収装置では、加熱した窒素等を用いてVOCを脱着する方式を採用し、さらに窒素の循環使用を可能にしています。この装置は、非常にコンパクトで運転エネルギーが少なく、不純物の少ない高品質の有機溶剤の回収が可能です。脱炭素社会実現の観点から、VOCの燃焼方式から窒素脱着式への置き換え需要が高まっており、従来技術である燃焼方式と比較し、GHG削減効果が高いことが評価されています。
将来的には、次世代電池である全固体電池生産工場での用途展開も進めます。さらに、GHGの削減貢献に寄与するソリューションを積極的に展開していきます。一方、半導体産業では、2000年代からVОC濃縮装置“ハニローター”を用いた装置システムの導入実績があり、昨今の半導体工場の日本国内回帰においても、その性能や実績が評価され採用が進んでいます。
(機会を実現するための施策とその費用)
2023年から東洋紡と三菱商事による機能素材分野における合弁会社「東洋紡エムシー株式会社」の事業を開始しています。三菱商事の持つ海外拠点やエンドユーザーとの接点を活かし、メガトレンドの先取りや海外展開、ソリューション提供力強化を行います。当社グループは、「サステナブル・ビジョン2030」において、蓄電池工場向けのVOC回収装置による2030年度の処理風量目標を70億Nm3/年としました。2024年度時点では、EV化減速の影響を受けてその処理風量は、54億Nm3/年にとどまっていますが、今後も、社会課題の解決を通じた事業機会の獲得・拡大を図ります。
この目標を実現するための当年度の費用は、VOC回収装置に関する研究開発投資額であり、環境・機能材セグメントの研究開発費である38億円に含まれます。

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