有価証券報告書-第133期(2023/04/01-2024/03/31)

【提出】
2024/06/25 16:01
【資料】
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【項目】
183項目
(重要な会計上の見積り)
前連結会計年度(2023年3月31日)
Polypore International, LPの買収により認識されたのれんを含む固定資産に関する減損損失の測定等
(1) 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額
Polypore International, LPの買収により認識されたのれんを含む固定資産に関する減損損失計上額及び減損損失の検討を行った固定資産の当連結会計年度末における帳簿価額
当連結会計年度末における
帳簿価額(減損損失計上後)
減損損失計上額
有形固定資産及び無形固定資産(のれんを含む)63,284百万円186,376百万円

なお、上記減損損失について、のれんに130,384百万円、その他の無形固定資産に55,992百万円を配分しています。
(2) 識別した項目に係る重要な会計上の見積りの内容に関する情報
当社グループは、バッテリーセパレータ事業において、リチウムイオン電池用湿式セパレータである「ハイポア™」の技術開発・製品開発力の強化を図りながら、市場での高い評価を築き供給責任を果たしてきました。また、2016年3月期に米国Polypore International, LPを買収し、同社が営むリチウムイオン電池用乾式セパレータである「セルガード」及び鉛蓄電池用セパレータである「ダラミック」をバッテリーセパレータ事業に加えることで、当社グループは、リチウムイオン電池用セパレータ(湿式・乾式)及び鉛蓄電池用セパレータのいずれも有する、唯一のセパレータメーカーとなりました。環境対応車市場は成長市場であるために、急速なテクノロジーの進化や代替可能性のある製品間での競争激化を伴いますが、当社グループは、Polypore International, LP買収の結果得られた幅広い製品ラインアップと市場への多様な供給チャネルを通じて環境対応車市場の変化に対応した最適なバッテリーセパレータを開発・供給し、Polypore International, LP買収によるシナジーの実現を図ってきました。そのため、当社グループは、これらのバッテリーセパレータを管理する体制として 「セパレータ事業統括部」を設置し、当該事業統括部単位で経営戦略や最適な投資バランスの決定、収益管理等の管理会計を一体運営していたことから、当該セパレータ事業を資産のグルーピング単位とした上で、Polypore International, LPののれんを含めた固定資産の評価を行ってきました。
しかしながら、環境対応車市場に関する各国における政策の動向や、リチウムイオン電池用のセパレータについて、湿式・乾式の棲み分けが明確となってきており、各製品から生ずるキャッシュ・イン・フローが相互に補完的な影響を及ぼしあっている状況が年々解消されています。このような状況の中で、当連結会計年度における以下のような経済環境の大きな変化を受け、北米における車載用リチウムイオン電池市場の拡大が明らかとなり、今後の環境対応車市場の動向と、それに向けた各事業の事業戦略の方向性が明確になってきました。
・環境対応車市場が中国・欧州において相次いでEV化にシフトしたことに加え、米国においても2022年8月に成立したインフレ抑制法によってEVにシフトすることが明らかになり、北米において、高容量のリチウムイオン電池に関するサプライチェーン構築が加速する見込みであり、カーボンニュートラルでサステナブルな世界の実現の視点で当社グループが目指す「持続可能な社会」への貢献に欠かせない事業のひとつであるリチウムイオン電池用湿式セパレータ「ハイポア™」の大きな事業機会となっていること
・Polypore International, LP買収時においてEV用リチウムイオン電池セパレータの中心的な製品となることを想定していたリチウムイオン電池用乾式セパレータ「セルガード」については、上記の高容量のリチウムイオン電池を使用したEV用途とは異なる市場として、2022年8月に発表したAmerican Battery Factoryとの戦略的提携契約に代表されるエネルギー貯蔵システム(ESS)向けのリン酸鉄リチウム(LFP)系の正極を使用したリチウムイオン電池や、高出力・高耐久性といった製品の特徴を活かせるハイブリッド車向けリチウムイオン電池での採用に注力していくこと
それを踏まえて、当社グループは、2023年3月8日開催の取締役会において、セパレータ事業の今後の事業方針として、北米市場を中心に、リチウムイオン電池用湿式セパレータ「ハイポア™」に経営資源を集中し、急成長する高容量電池を搭載した電気自動車(EV)等の環境対応車用電池市場に注力していく旨の事業運営方針の変更を行いました。また、同取締役会において、当該事業運営方針の変更に伴い、「ハイポア™」、及びPolypore International, LPのそれぞれの事業による独立運営へと切り替えることを決定しました。
当社グループは、これらの相互補完性が年々解消されてきている点や、事業運営方針の変更による管理会計上の区分の変更を伴う事実関係の変化を契機として、資産のグルーピング単位を「ハイポア™」、及びPolypore International, LPの単位に変更しました。なお、Polypore International, LPの買収により認識されたのれん及び無形固定資産については、Polypore International, LPの資産グループに含まれています。
事業運営方針の変更を受けたPolypore International, LPの今後の事業計画には、リン酸鉄リチウム(LFP)系の正極を使用したリチウムイオン電池や、ハイブリッド車向けリチウムイオン電池等の、EV用途とは異なる市場における販売戦略等が反映されている一方、買収時に想定していた EV向けセパレータの拡大は困難な状況にあります。そのため、当社グループは、環境対応車市場を取り巻く規制強化等の経営環境の変化に加えて、Polypore International, LPにおける事業運営方針の変更が、 Polypore International, LPの買収により認識されたのれん及び無形固定資産を含むPolypore International, LPの資産グループにおいて「回収可能価額を著しく低下させる変化が生じた場合」に該当すると判断し、当該資産グループにおいて、減損の兆候を識別しています。
さらに、当社グループは、減損損失の認識の判定、及び減損損失の測定の結果、のれん及び無形固定資産を対象として、186,376百万円の減損損失を計上しました。減損損失の測定にあたり、回収可能価額として、「使用価値」を用いています。「使用価値」は、将来キャッシュ・フローの現在価値として算定され、事業環境等の企業の外部要因に関する情報や販売戦略を考慮して見積られた将来の売上予測や営業利益率、割引率等の主要な仮定が含まれています。将来の売上予測や営業利益率は事業環境等の企業の外部要因に関する情報や販売戦略を考慮して見積られており、Polypore International, LPの今後の事業方針が反映されています。また、割引率は14.5%を採用しており、当該割引率には、税引前の加重平均資本コストに貨幣の時間価値と将来キャッシュ・フローがその見積値から乖離するリスクの両方が反映されています。
環境対応車市場を主体としたバッテリーセパレータ事業の事業環境は大きく変化しており、将来の売上予測や営業利益率、割引率等の会計上の見積りに使用された主要な仮定は、見積りの不確実性の程度が高く、前提とした状況が悪化すれば、追加的な減損損失が発生する可能性があります。
当連結会計年度(2024年3月31日)
1.マテリアルセグメントの固定資産に関する減損の兆候、認識及び測定
(1) 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額
当連結会計年度末における
帳簿価額(減損損失計上後)
減損損失計上額
有形固定資産及び無形固定資産672,294百万円92,389百万円

(2) 識別した項目に係る重要な会計上の見積りの内容に関する情報
当社グループは、資産グループについて、営業活動から生ずる損益の継続的なマイナスや、使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化、経営環境の著しい悪化等の事象が生じているか、又は生じる見込みである場合には、減損の兆候を識別しています。
基盤マテリアル事業を中心にマテリアルセグメントの業績が近年、悪化傾向にあり、既存事業において「戦略的再構築事業」の戦略の見直しや「抜本的事業構造転換」の方針に基づき、構造転換を検討しています。このような経営環境の中、マテリアルセグメントにおいて、営業活動から生ずる損益が継続してマイナスとなっている資産グループを構成する事業が存在しており、当該資産グループについて、減損の兆候を識別しています。
当社が営む環境ソリューション事業のうち石油化学製品事業、及びモビリティ&インダストリアル事業のうち合成樹脂事業などの、エチレンセンターを起点に主原材料の社内供給関係にある事業を汎用石化・樹脂資産グループとしてグルーピングしています。当該資産グループの製品について、当連結会計年度において、中国市場を中心とした需要の低迷及び中国におけるエチレンをはじめとする各種石油化学製品の生産能力の拡大に起因した製品の需給バランスの悪化により、製品の販売数量の減少や市況の下落が生じ、営業活動から生ずる損益が継続してマイナスとなったことから、減損の兆候を識別しています。当該資産グループについて減損損失の認識の要否を判定した結果、割引前将来キャッシュ・フローの総額が固定資産の帳簿価額を下回ったため、当連結会計年度において58,381百万円の減損損失を計上しています。
また、汎用石化・樹脂資産グループ以外で減損の兆候を識別した資産グループにおいて、減損損失の認識が必要と判定した再生繊維事業などの一部の資産グループについて、減損損失を計上しています。その結果、当連結会計年度においてマテリアルセグメント合計で92,389百万円の減損損失を計上しています。
減損損失の認識の判定及び測定に用いる将来キャッシュ・フローは取締役会により承認された事業計画を基礎としており、製品の需給バランスの見通しに基づく、販売数量や販売価格、原料価格の見通しといった経営者による重要な判断を伴う仮定が含まれています。また、使用価値の見積りに用いる割引率は10%~13.9%を採用しており、加重平均資本コストに貨幣の時間価値と将来キャッシュ・フローがその見積値から乖離するリスクを反映して決定しています。
減損損失の認識及び測定に用いた仮定は、見積りの不確実性の程度が高く、前提とした状況が変化すれば、翌連結会計年度の連結財務諸表において、減損損失を認識する可能性があります。
2.Polypore International, LLCの固定資産に関する減損の認識等
(1) 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額
当連結会計年度末
における帳簿価額
有形固定資産及び無形固定資産67,611百万円

(2) 識別した項目に係る重要な会計上の見積りの内容に関する情報
Polypore International, LLC(Polypore International, LPより組織変更)の固定資産について、前連結会計年度にのれん及びその他の無形固定資産を対象として、186,376百万円の減損損失を計上しました。
当連結会計年度において、Polypore International, LLCのリチウムイオン電池用乾式セパレータについて、生産面での課題の改善に遅れが生じたことや、環境対応車用途及び三元系(NMC)正極を使用したエネルギー貯蔵システム(ESS)用途の需要低迷により、継続して営業損失が計上され、Polypore International, LLCの資産グループに減損の兆候を識別していますが、割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を上回っているため、減損損失は認識していません。
Polypore International, LLCの割引前将来キャッシュ・フローは、取締役会により承認された事業計画を基礎としており、乾式セパレータの高出力・高耐久性といった特長が活かせるハイブリッド車向けリチウムイオン電池市場における販売数量の増加や、リン酸鉄リチウム(LFP)系の正極を使用したエネルギー貯蔵システム(ESS)向けリチウムイオン電池の北米需要獲得等の計画を考慮して見積られた将来の売上予測といった重要な仮定が含まれています。
これらの仮定に変動が生じた場合は、翌連結会計年度の連結財務諸表における減損の認識に影響を与える可能性があります。