有価証券報告書-第129期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

【提出】
2021/06/24 11:33
【資料】
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【項目】
141項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末(2021年3月31日)現在において当社グループが判断したものであります。
(1)会社の経営の基本方針
ブラザーグループは、すべてのステークホルダーから信頼され、従業員にとって心の底から誇りの持てる企業となることを目指しています。2002年に策定した中長期ビジョン「Global Vision 21」では、ブラザーグループが目指す3つの項目を以下の通り掲げ、事業活動に取り組んでいます。
・「グローバルマインドで優れた価値を提供する高収益体質の企業」になる
・ 独自の技術開発に注力し「傑出した固有技術によってたつモノ創り企業」を実現する
・「“At your side.”な企業文化」を定着させる

(2)中長期的な経営戦略
中期戦略「CS B2021」
2021年度を最終年度とする中期戦略「CS B2021」では、“Towards the Next Level ~次なる成長に向けて~”をテーマに掲げ、「事業・業務・人財」の3つの変革をさらに加速させていくことを目指し、グループ全体で以下の4つの経営の優先事項にフォーカスした改革を実行し、成長基盤の構築を進めております。
①プリンティング領域での勝ち残り
・高PV*1ユーザーの獲得強化と本体収益力向上による事業規模の維持、収益力の強化
・新たなビジネスモデルへの転換加速により、安定収益確保と顧客との繋がりを強化
②マシナリー・FA*2領域の成長加速
・自動車/一般機械市場強化による産業機器分野の大幅な成長
・省人化、自動化ニーズを捉えたFA領域の拡大
③産業用印刷領域の成長基盤構築
・シナジー顕在化によるドミノ事業の成長再加速
・インクジェットを核としたプリンティング技術活用による産業用印刷領域の拡大
④スピード・コスト競争力のある事業運営基盤の構築
・IT活用によるグループ全体の業務プロセス変革・効率化の実現
・人財の底上げ、最適人員体制の確立による組織パフォーマンスの最大化
・不採算・低収益事業の梃入れ
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当初掲げていた2021年度の業績目標である売上収益7,500億円、営業利益750億円については、新型コロナウイルス感染症拡大や世界的なサプライチェーンの混乱など、事業環境の大きな変化により、達成が難しい状況ではありますが、変化対応力を一層強化し、成長基盤構築に向けた取り組みを継続してまいります。
加えて、グローバル社会の一員として企業活動のあらゆる面で環境・社会・ガバナンス(ESG)を中心としたCSR経営を推進し、地球環境の保全、従業員の健康維持、人財多様性の確保、コーポレート・ガバナンスの強化などの取り組みを通じて、企業価値の持続的な向上を目指してまいります。
(3)経営環境の変化
当期における世界経済は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、年度前半において急速に減速したのち、緩やかな回復の兆しを見せています。地域別には、中国経済は順調な回復を見せる一方、感染が再拡大した欧州などにおいては、経済活動の制限が長期化し、依然として先行き不透明な状況が続いています。
加えて、世界的な半導体不足や、海上輸送の混乱をはじめとして、サプライチェーンに関連する様々なリスクが顕在化するなど、グローバルにビジネスを展開する企業にとっては、急激な変化にいかに迅速に対応するかが問われた1年でした。
当社グループに関連する事業環境の変化(新型コロナウイルス感染症による影響)
事業事業分野事業環境の変化
P&S事業通信・プリンティング機器・在宅勤務用途として、家庭/SOHO*3向けの小型複合機・プリンターの需要増加
・在宅勤務など働き方の多様化によるオフィスでの印刷量低下
・生産地での感染拡大による生産・供給の遅延
・Eコマースやデリバリーサービスなどの拡大によるラベル印刷需要の増加
電子文具
P&H事業・巣ごもり消費により自宅で手芸などを楽しむ人が増え、家庭用ミシン特需が発生
マシナリー
事業
工業用ミシン・工業用ミシン:顧客である縫製工場の稼働率低下を受けた設備投資需要の低迷
・ガーメントプリンター:米国を中心に需要拡大が継続
産業機器・中国の自動車・一般機械向けを中心に、全地域で受注は回復傾向
工業用部品・製造業全般の設備投資抑制の動きがあったものの、自動化/省人化へのニーズの高
まりを受け、需要は回復傾向
N&C事業・店舗の休業や時間短縮営業の影響などにより、カラオケ利用者が大幅に減少
ドミノ事業・設備投資の抑制傾向が続き、デジタル印刷機本体の需要は低迷

(4)事業別の取り組み
当社グループは、中期戦略「CS B2021」に基づく活動を推進するとともに、新型コロナウイルス感染症拡大による外部環境変化への対応に取り組みました。
◆プリンティング・アンド・ソリューションズ事業
レーザー複合機・プリンターでは、在宅勤務や在宅学習の機会が増加したことにより、製品本体の販売数量は増加しました。インクジェット複合機も同様に需要は拡大しましたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で工場の操業が一定期間停止していたことにより製品が十分供給できなかったことで、製品本体の販売数量は大幅に減少しました。
消耗品は、顧客の在宅勤務が継続したことによりオフィスでの印刷量が低下した影響に加え、製品本体と同様に生産活動の制約を受け、売上は減少しました。
製造面での取り組みとしては、生産効率向上のため、連結子会社の拠点再編を決定しました。一方で、消耗品を複数拠点で生産・供給できる体制の整備を進めるなど、安定供給に向けた取り組みを進めています。また、ベトナム工場内で建設を進めていた新棟が1月に竣工し、稼働を開始しました。今後も在宅勤務の定着やオフィスにおける印刷分散化ニーズの拡大など、印刷機会の多様化による複合機・プリンターの需要拡大の流れを的確に捉え、事業規模の維持・拡大を目指します。
電子文具につきましては、ホーム・オフィス向けは各国でのロックダウンやオフィス閉鎖などの影響により一時的に需要が落ち込みましたが、第1四半期を底に需要は概ね前年の水準まで回復しました。また、特殊業務用途向けのビジネスにおいては、Eコマース市場の急拡大やフードデリバリーサービスなどの新しいサービスの台頭に合わせ、バーコードプリンターなどの自動認識市場向けの製品ラインアップの拡充や、ソリューション提案力の強化を進めました。
◆パーソナル・アンド・ホーム事業
巣ごもり消費により自宅で手芸などを楽しむ人やマスクを手作りする人が増えたことで、普及価格帯を中心に家庭用ミシンの販売が好調に推移しました。加えて、欧米を中心に副業を新たに始める方が増え、中高級刺しゅう機の需要も拡大しました。
営業活動については、対面での営業活動が制限を受ける中においても、ディーラー向けのオンラインイベントの開催や、動画配信を活用したマーケティング活動、ウェブサイトでのバーチャルショールームの開設など、新しい形の活動にも積極的に取り組みました。
今後も、オンラインを活用した営業活動の強化や中高級刺しゅう機の販売拡大を進め、顧客基盤の維持・拡大を目指します。
◆マシナリー事業
工業用ミシン分野については、アパレル需要減少による縫製工場の稼働率低下を受けた設備投資の抑制により、売上が減少しました。事業環境の悪化を踏まえ、固定費削減及び生産効率化のため生産体制の見直しを行いました。ガーメントプリンターについては、米国を中心にデジタル印刷市場が成長し、大容量インクにも対応した新製品で、新たな需要を取り込むことに成功しました。
今後については、工業用ミシンでは、ノンアパレル市場での販売拡大、ガーメントプリンターでは、デジタル印刷による大量印刷用途向けでのプレゼンス向上を目指します。
産業機器分野においては、米中貿易摩擦に加え、新型コロナウイルス感染症拡大の影響によりグローバルで工作機械の需要が低迷したものの、受注は第1四半期を底に回復が続きました。地域別では特に中国の自動車・一般機械向け及びIT市場向けの受注が増え、中国向け全体の受注が、第2四半期から好調に推移しました。製品面では、新しい自社製制御装置を搭載した新製品を発売し、製品ラインアップの強化を進めました。
製造面では、今後の中国国内における工作機械需要の増加に備え、中国にある連結子会社、ブラザーマシナリー(西安)の増築を行いました。これにより、中国における工作機械の生産能力は約2倍となりました。営業面では、刈谷工場(愛知県刈谷市)敷地内に、新たに工作機械のショールーム「ブラザーテクノロジーセンター」を新設しました。従来のショールーム機能に加え、加工や自動化などの技術提案機能を一段と充実させた施設として、お客様に対して幅広いソリューション提案をしていきます。
今後については、中国を含むアジア及び国内市場での販売拡大を軸に、自動車・一般機械向けの顧客基盤の拡大を目指します。
工業用部品分野においては、製造業全般での生産活動や設備投資抑制の影響により低迷していた需要が、緩やかに回復しつつあります。減速機については、産業用ロボットやFA機器市場に向けて、高剛性減速機を開発しました。歯車については、従来の熱処理設備を刷新し、環境負荷を低減するとともに、高精度な歯車製造を可能とする、熱処理工場の建設を開始しました。
今後については、高剛性減速機の市場投入のスピードアップや精密歯車での新規案件獲得により、ロボット・FA市場での売上の拡大を目指します。
◆ネットワーク・アンド・コンテンツ事業
新型コロナウイルス感染症拡大により、年間を通じてカラオケ利用者数が大幅に落ち込み、業績が低迷しました。このような状況の中、カラオケを安心して利用できる環境づくりに力をいれ、マスクを着用したまま歌っても歌声がこもらずはっきり聴こえる「マスクエフェクト」の開発・導入や、自宅でもカラオケが楽しめるオンラインでのカラオケ配信などに取り組みました。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の再拡大を受け、自治体の要請などでのカラオケ店舗利用の制限や営業時間の短縮などもあり、厳しい環境が長期化しました。収益悪化に伴い、年間を通じて販管費削減を行ったほか、店舗の営業継続の基準を設け、不採算店舗を閉店したことなどにより、固定費を削減しました。なお、店舗の閉店に伴い、店舗資産の一部について減損損失を計上しております。
今後については、より安心して楽しめる店舗環境づくりや、映像視聴やライブ・ビューイング、会議室としての利用などカラオケルームの多目的利用の促進、音楽をはじめとするエンタテインメント業界とのさらなる連携による魅力的なコンテンツ開発などに注力することで、収益力の回復に努めます。
◆ドミノ事業
各国のロックダウンの影響を受け、一時は欧州を中心に製品本体の需要が減少したものの、食品・飲料・医薬品などの生活必需品の需要の底堅さに支えられ、C&M*4本体販売は堅調に推移しました。一方で、新型コロナウイルス感染症拡大により、営業活動が制限された影響で、DP*5の本体販売は低調に推移しました。消耗品は、C&M・DPともに堅調に推移しました。
DP分野では、ブラザー製プリントヘッド搭載のデジタル印刷機「N730i」を発表しました。加えて、コルゲート印刷機「X630i」により、コルゲート(段ボール)印刷領域に進出しました。
今後については、C&M・DP分野での製品の拡販とサービス・ソリューション強化により、売上成長と収益性の改善を目指します。
なお、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、今後の事業計画をより慎重な前提に見直した結果、2021年3月期第4四半期連結会計期間において、のれんの一部について減損損失を計上しております。
◆スピード・コスト競争力のある事業運営基盤の構築
限られたリソースを有効活用し、顧客への価値提案力を継続的に高めていくために、グループ全体で業務プロセスの抜本的な見直しを行うとともに、RPAやAIなどのITを活用した業務の自動化を推進しています。
また、中期戦略「CS B2021」では、不採算・低収益事業の損益改善を目標に掲げ様々な活動を進めてきましたが、新型コロナウイルス感染症拡大で事業環境が大きく変化したことにより、当面は、事業の継続への対応を優先しながら、引き続き、収益性の改善に取り組んでまいります。
(5)ESGの取り組み
持続的発展が可能な社会の構築に向け、環境・社会・ガバナンス(ESG)を重要視した経営を推進しています。社会的な環境課題の解決に貢献するため「ブラザーグループ 環境ビジョン2050」を定め、重要課題として「CO2排出削減」「資源循環」「生物多様性保全」に取り組んでいます。また2020年2月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に賛同し、気候変動が事業に及ぼすリスクと機会の分析を進め、経営への反映と関連情報の開示に向けて活動しております。さらに、すべてのステークホルダーから信頼される企業を目指し、RBA*6に加盟し、人権・労働・安全衛生・地球環境への影響の削減に取り組むなど、サプライチェーンにおけるリスク評価と是正への体制を強化しています。
ブラザーグループでは従業員一人ひとりの健康をかけがえのない財産ととらえ、従業員の健康の保持・増進に取り組むとともに、ダイバーシティの推進、多様な働き方の支援により、組織能力の最大化を図っております。これらの活動をグローバルに展開することにより、持続的な企業価値の向上を図ってまいります。
*1:Print Volume(印刷量)の略称
*2:Factory Automation(工場の様々な作業や工程を機械や情報システムを用いて自動化すること)の略称
*3:Small Office Home Office(自宅や小規模なオフィスで働く事業者、事業形態)の略称
*4:Coding & Marking(コーディング・マーキング機器)の略称
*5:Digital Printing(デジタル印刷機)の略称
*6:Responsible Business Alliance(CSRの国際的推進団体)の略称