有価証券報告書-第95期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

【提出】
2021/06/28 14:10
【資料】
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【項目】
136項目

対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1)会社の経営の基本方針
当社グループは、常に高品質で価値ある商品とサービスの提供を通じて社会・文化の向上に貢献するべく、法令等遵守のもと、各ステークホルダーの皆様と健全で良好な関係を維持しつつ、適正で効率的な経営に努めております。
また、当社グループは外部環境の変化に対応した強固な収益体質の構築を目指し、効率的な経営、生産効率の向上、研究・開発体制及び販売・サービス体制の強化等を行ってまいります。
(2)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標
当社グループは、「企業価値の向上」を経営方針の一つに揚げており、株主・従業員を含む全てのステークホルダーとのより一層良好な関係を構築し、企業価値を高める為、収益構造の改善と企業体質の強化に努めてまいります。
なお、2019年5月10日に公表した2020年3月期から2022年3月期までの中期経営計画「JANOME 2021 Navigation for the Future」において営業利益率8%、自己資本純利益率(ROE)8%、総資産経常利益率(ROA)7%を中期目標としております。
(3)経営環境
①全般
世界経済は、新型コロナウイルス感染症の拡大により深刻な影響を受けております。一方でワクチン接種の加速から徐々に経済活動を再開させる動きも強まっております。
国別に見ますと、米国ではワクチン接種が加速し、感染者数が大幅に減少するなど、一時の深刻な状況からは脱しつつあり、経済活動の再開とともに個人消費や雇用環境の改善が見込まれております。他方で、本年1月に発足した新政権は、これまでの保護主義的な政策から一転し、各国との協調路線を歩むと見られ、今後の各種政策による世界経済への影響に注視する必要があります。欧州においては、変異株を中心とした感染再拡大により、再びロックダウン等の厳しい措置が講じられましたが、ワクチン接種が進み、制限は緩和されつつあります。日本国内においては、感染拡大が続く中、ワクチン接種が開始されましたが、そのペースは漸進的となっております。また、1月以降、各地域の感染状況に応じて、まん延防止等重点措置の適用や緊急事態宣言が相次いで発出されるなど、人流の抑制に向けて各種対策が講じられました。これにより、飲食やサービス業を中心に引き続き深刻な影響が出ております。新興国に目を向けますと、ブラジルでは感染者数が減少傾向にあるものの、依然高い水準となっております。ロシアでは1月以降、感染者数は減少しつつあるものの、下げ止まり感も見られております。感染を抑制している中国では、製造業を中心に回復ペースを加速させているものの、通商問題など懸念材料は多く残っております。
今後の先行きについては、ワクチン接種の広がりとともに、各地域の状況に応じて段階的に行動制限の緩和が進んでいくことで、経済活動が本格化し、景気は回復していくと見られます。これに伴い、コロナ禍で浸透してきた人々の新しい生活様式と消費行動の変化も徐々に元に戻るものと思われますが、感染症収束後もコロナ禍を経験した社会の行動変容として一定割合で定着していくものと考えております。一方で、新型コロナウイルス感染症の動向に左右されることから、先行きは不透明な面も大きく、また、各国で確認されたウイルスの変異株は再感染へのリスクやワクチンの効果低下が懸念されるなど、依然として予断を許さない状況です。
②家庭用機器事業
近年の家庭用ミシンの市場環境は、ミシンユーザーの減少やネット通販の伸長による低価格化の進行など、厳しい状態にありましたが、新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降、マスク不足を背景に手作りマスクへの関心が高まったことなどを契機にミシンの需要が急増いたしました。その後、マスク不足の解消とともに、需要は落ち着くことも予想されましたが、コロナ禍の長期化により世界各国で外出自粛が続く中、家での過ごし方としてミシンを楽しむ方が増加し、需要は高水準で推移しております。これは、コロナ禍で様々な制約を受ける中、人々の生活を豊かにするものとしてのミシンの価値を再評価いただけているものと考えております。
他方で、感染拡大の収束時期が見通せない中、コロナ禍のさらなる長期化も予想され、また変異株の出現など新たな懸念材料も出てきております。徹底した感染対策の下、徐々に再開しつつある展示会をはじめとしたミシン関連イベントも、感染状況によっては中止せざるを得ない場合もあり、営業活動の本格化には時間を要する見込みです。ウィズコロナ、ポストコロナを見据え、ウェブサイトやSNSを通じた情報発信等、お客様とのコミュニケーションの多様化を図っていくことで、国内外におけるソーイング文化の深化・浸透、潜在需要のさらなる掘り起こしに繋がるものと考えております。国内においては、ミシン専門店以外のネット通販、量販店など豊富な販売チャネルを活用した積極的な販売活動を行うとともに、直営販売における充実したアフターサービスなど当社の強みを最大限に活かすことで、国内シェアNo.1の堅持に寄与するものと考えております。さらに東南アジアや中南米などの新興国へは普及モデルのミシンの販売余地は大いに残されているものと考えております。また、重要市場である北米・欧州では、コロナ禍でエントリーモデルの販売が伸長しております。これは、他地域に比べミシン文化が浸透している同市場においてもなお、さらなる市場拡大が見込めることの現れと見ております。幅広い層にソーイングやミシンの楽しさを積極的にアピールすることで、新たなミシンユーザーの獲得に繋がるものと考えております。
③産業機器事業
日本産業機械工業会の発表によれば、2020年度の産業機械受注額は、外需の増加により、前年比105.1%の5兆321億円と2年ぶりに前年度を上回りました。他方、内需はコロナ禍における設備投資減退の傾向が続いたことなどにより前年を下回りました。
当社産業機器事業におきましては、米中貿易摩擦問題に新型コロナウイルス感染症の拡大が追い打ちをかける形となり苦戦を強いられております。他方で、いち早く経済活動を再開させた中国を中心に改善も見られるものの、先行き不透明感から設備投資を手控える動きは依然として根強く、回復には時間がかかるものと見込まれます。
コロナ禍において足元では厳しい市場環境にあるものの、中長期的に見れば市場は拡大していくと考えております。特に国内を含めた先進国を中心に「脱炭素社会」を目指す動きが加速している中、主力市場である自動車業界は、電気自動車や自動運転の開発が進むなど大きな変革期を迎えており、今後、様々なビジネスチャンスの機会が増えてくるものと思われます。また、感染対策の観点からも工場の自動化が進んでおり、今後中小企業を中心にさらにニーズが高まると見られ、これらに積極的なアプローチをかけることで、新規顧客の開拓にも繋がると考えております。
当社産業機器事業におきましては、これまで、右肩上がりで成長を続け、当社の第2の柱として着実に成果を上げて参りましたが、外部環境の変化による煽りを受け、大幅な受注の減少となっております。これは、中国市場や自動車関連など特定の市場・業界への依存度が高いことも影響していると考えております。中期経営計画に基づき、新規顧客開拓を一層推し進めていくとともに、新エネルギー、環境・エコ、医療関係など幅広い業種にアプローチを行っていくことで、外部環境に左右されない盤石な販売網が構築できるものと考えております。
④IT関連事業
情報サービス産業におきましては、IoT、AIなどの「デジタルトランスフォーメーション(DX)」による「第4次産業革命」が徐々に社会に浸透してきております。これにより、企業などの生産者側からは、これまでの財やサービスの生産・提供の在り方が大きく変化し、生産の効率性が飛躍的に向上する可能性が指摘されており、かつその対象領域も広がりを見せることが期待されています。企業における競争力強化や生産性の向上のためのIT投資は引き続き堅調に推移している一方で、人材不足が顕在化しており、技術者の増強と育成が重要な社会的課題となっております。
その中で当社グループは、「課題解決型パートナー」としての対応を強化しております。システムインテグレーションでは、様々な業務のシステム構築を行ってきた経験をもとに、システム・ソフトウェア構築を支援しており、アウトソーシングでは、システム運用・監視・機器管理や情報処理業務に付帯するデータエントリー業務、オフライン業務全般をトータルでサポートしています。これら経営戦略・方策の下、新規顧客獲得、品質管理の徹底、人財育成などを実施し、収益基盤の安定・強化を進めてまいります。
(4)当社グループの中長期的な経営戦略及び対処すべき課題
当社グループは、持続的に成長する企業集団を目指しております。短期的に会社の規模や売上高の増大を求めるのではなく、商品とサービスのご提供を通じて社会・文化の向上への貢献に取り組みながら、そこで得られた利益が次の成長に繋がるような持続的成長企業となることが目指すべき姿であり、また課題であると考えております。企業が成長するための要素は様々ですが、当社の強みは創業以来培ってきた「信用」であり、またこれを支えているのは当社製品の品質への信頼であると考えています。引き続き、これに満足することなく、品質の維持・向上に努めてまいります。
①新型コロナウイルス感染症への対応
今回の新型コロナウイルス感染症の世界的大流行は、国内外の経済に深刻な影響を与えております。足元ではワクチンの接種が進むなど明るい兆しも見えているものの、変異株の感染拡大への懸念が顕在化するなど、依然として予断を許さない状況が続いており、収束には相当の時間を要するものと見込まれます。また、感染拡大防止の観点から生産行動や消費行動は大きく制約され、経済活動は停滞を強いられております。
同時に、ウィズコロナを合言葉に広まった、日常的なマスクの着用やソーシャルディスタンスの確保、テレワーク・Web会議などの新たな働き方は、今では生活の一部として浸透しつつあります。
当社グループとしては引き続き、感染症による事業へのマイナス影響を最小限に抑えるよう、あらゆる策を講じるとともに、この災禍を経験した社会が、ポストコロナにどのように変化していくのかを的確に把握し、これを変革の機会とも捉え、持続的に成長する企業集団を目指してまいります。
②中期経営計画
中期経営計画「JANOME 2021 Navigation for the Future」で「新生ジャノメ」への飛躍を掲げておりますが、創業100周年の2021年を一通過点として永続して成長するジャノメを目指すためには、これまでの「家庭用ミシン専業メーカー」から脱却しなければならないと考えております。
もちろん、当社グループの主軸となっているのは家庭用ミシン事業であり、この事業をさらに強固なものにしていくことが重要ではあります。その上で現在、第二の柱として成長している産業機器事業を拡大し、確固とした事業基盤を確立して「新生ジャノメ」への飛躍に繋げてまいります。
③家庭用機器事業
家庭用ミシンの市場としては、北米、欧州を重要市場と位置付けて、特に高付加価値製品を当社の強みとし、売上拡大を図っております。その他の市場におきましても、その市場ごとのニーズを的確につかみ、サービス・サポート体制の強化とブランドの浸透により普及に努めております。国内市場におきましても、多様なチャネルを通じてお客様のご要望に応え、トップシェアの確立を図ります。
コロナ禍における人々の生活様式の変化は消費行動にも表れ、特に「巣ごもり」といわれる外出自粛生活におきまして、ミシンの価値が再認識され、家庭用ミシンの需要は急拡大しました。
当社グループは引き続き、ミシンの価値を訴求し、より多くのお客様にものづくりの楽しさ、ミシンの魅力を知っていただくことが大切と考えており、このコロナ禍における需要の伸びをミシンファンの拡大に繋げるべく、市場の活性化を図り、マーケティングを強化して市場ニーズを取り込み、業界全体を牽引してまいります。
④産業機器事業
産業機器事業は、ロボット及びサーボプレスを主たる事業商品として、ミシン事業に次ぐ第二の事業分野と位置付けております。ロボットは、ねじ締めや塗布を始めとする多様な用途に対応し、工場の様々な工程で活用されており、サーボプレスは、その動力がサーボモーターであることから、他のプレス機にはない高機能・高精度を実現し、これも様々な場面でご使用いただいております。
市場規模は、用途の広がりにつれて拡大が期待できますが、これを具現化するために、技術力、開発力の強化を行い、特に有望市場や未開拓市場でのサービス・販売拠点の拡充を図りつつ、新しい用途の可能性に繋がる提案型営業を進めてまいります。
このコロナ禍におきましては、先行きの不透明感や業績の悪化から設備投資を手控える傾向となり苦戦が続いております。一方で、DX(デジタルトランスフォーメーション)が加速するとともに、主力市場である自動車産業が100年に1度と呼ばれる大変革期を迎えるなど、中長期視点では、市場は拡大していくものと考えております。これらに積極的にアプローチをかけ、産業機器事業の早期回復を図ってまいります。
⑤研究開発・生産体制
当社は、国産初のミシンメーカーとして創業して以来、技術の改良を重ね、革新的機能の開発には常に先進的役割を果たしてまいりました。また、産業機器分野には、ミシンメーカーとして培った技術を応用・発展するなどして、高機能・高性能の商品開発を実現し、市場に送り出してまいりました。
「品質のジャノメ」として、世界のお客様に高い評価をいただいておりますが、今後はより高品質で耐久性に優れた商品を開発・生産し「品質のジャノメ」として確固とした評価を確立し、信頼あるものづくりを行ってまいります。また、市場のニーズを的確に捉えた魅力ある商品をスピーディーにご提供してまいります。さらには、適地適産を念頭に、原価低減・生産性向上を推し進め、機動的な生産体制を構築してまいります。
⑥働き方改革・人財育成
当社では、当社で働くすべての社員が社業の発展に向けて意欲的に取り組み、労働生産性を向上させ、また私生活も充実して過ごせるようにすることが目指すべき働き方であると考えております。当社は、業務への取り組み方や勤務体制の見直し、時間外労働の縮小、年次有給休暇の消化促進を一層進め、これらにより労働生産性を向上させ、ワーク・ライフ・バランスの充実を図ってまいります。
また、当社は、人財を会社における最も貴重な財産と捉え、能力開発及び知識の習得、技能の継承を継続的に進めてまいります。人間力を高めるための制度・機会作りに会社は積極的に取り組み、支援し、自己啓発にも力を注いでまいります。