有価証券報告書-第182期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

【提出】
2021/06/24 15:26
【資料】
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【項目】
147項目

対処すべき課題

以下に記載する事項は、当有価証券報告書提出日現在において入手した情報に基づいて当社グループが判断したものです。
経営方針(対処すべき課題)
◎株主価値の向上に関して
当社は、東京証券取引所第一部、名古屋証券取引所第一部に上場していることが、長期的な価値創造に適した安定的な資本構成を提供しており、上場会社としてのメリットを生かすことが企業価値の向上に繋がると現時点では確信していますが、非上場化を含め様々な企業価値向上のための提案を選択肢として排除するものではもとよりありません。他方、非上場化には様々な課題も存在するものと認識しています。客観的に見て具体的かつ実現可能性のある真摯な買収提案がなされた場合には、当社取締役会としてこれを真摯に評価・検討していきますが、その場合のプロセス及び内容は、株主をはじめとする当社ステークホルダーの多くが納得するものでなければならないものと考えています。
当社及び当社株主の最善の利益のために行動することが当社取締役会の責任であり、最も重要であると認識しております。
当社は、取締役会による意思決定の支援を行う戦略委員会を設置し、社外取締役のみで構成される独立した立場から当社の将来について検討を行います。当委員会は、株主をはじめとするステークホルダーの皆様のため、企業価値向上に向け、当社の将来について入念かつ客観的な検討を行い、取締役会による意思決定の支援を行うことをミッションとします。
◎健全で安定的な経営を確保できる体制の再構築
当社では、2021年3月18日開催の臨時株主総会において選任された調査者による2020年7月31日開催の第181期定時株主総会が公正に運営されたか否か(決議が適正・公正に行われたか否かを含む)についての調査が行われ、2021年6月、当該調査の結果を記載した調査報告書を公表致しました。当該調査報告書において、コーポレートガバナンス・コードの規定に照らして2020年7月31日開催の第181期定時株主総会が公正に運営されたものとは言えないという指摘を調査者から受けており、当社としては、かかる指摘を真摯に受け止め、外部の第三者の参画も得て速やかに客観的、透明性のある徹底した真因、真相の究明を行い責任の所在を明確化します。
その上で、当社は、今後、企業価値の向上へと導くために、健全で安定的な経営を確保できる体制を早期に再構築していきます。また、そのなかで、当社のような複雑かつグローバルな事業を経営した、優れた経験を有する人材を独立社外取締役として新たに迎えるべく、株主の皆様の視点も取り入れつつ、入念な調査を開始し、このような候補者を選定次第、臨時株主総会にて株主の皆様にご承認をお願いする予定です。
◎「東芝Nextプラン」
当社は、2018年11月、5年間の全社変革計画「東芝Nextプラン」を策定し、2019年度より実行しています。概要は以下のとおりです(東芝Nextプランにおける方針を変更した箇所については変更後の記載となります。)。
1.当社グループの目指す姿
当社グループは、製造業として永年に亘り培ってきた社会インフラから電子デバイスに至る幅広い事業領域の知見や実績と、情報処理やデジタル・AI技術の強みを融合し、インフラサービスカンパニーとしての安定成長とサイバー・フィジカル・システム(CPS)(注1)企業への飛躍を目指しています。「東芝Nextプラン」は、将来の成長に向けた全社変革の施策及び方向性を定めるものです。
当社グループは今後も新たな製品、サービスやソリューションの創出と提供を通じて、社会課題を解決し、社会のさらなる発展に貢献していく方針です。
(注1)CPSとは、実世界(フィジカル)におけるデータを収集し、サイバー世界でデジタル技術などを用いて分析したり、活用しやすい情報や知識とし、それをフィジカル側にフィードバックすることで、付加価値を創造する仕組みです。
2.内容骨子
(1)目的
当社グループの企業行動の基本的な目的は、企業価値の最大化を通じて、株主価値を向上し、顧客・取引先・従業員の価値も向上させることです。基礎的な収益力を強化する施策と成長に向けた投資を継続することとしており、利益ある成長で企業価値の最大化・TSR(注2)の拡大を図ります。
(注2)TSRとは、Total Shareholders Returnの略であり、キャピタルゲインと配当を合わせた、株主にとっての総合投資利回りを意味します。
(2)事業ポートフォリオと事業別施策
既存事業においては、市場の成長性と競争力の観点で整理を行い、今後成長が見込まれる事業については適正な投資のもと、自律的な成長の実現を目指します。モニタリング対象事業については、事業構造転換により収益を改善させる施策を策定しました。施策の進捗状況については、定期的かつ厳格にモニタリングします。
(3)株主還元の考え方
当社グループの株主還元の考え方は、平均連結配当性向30%(注3)以上の実現を基本に、安定的・継続的な増加を図ります。また、適正資本を超える部分は、自己株式取得を含む株主還元の対象とします。なお、適正資本水準は定期的に取締役会の検証を受けるものとします。新型コロナウイルス感染症拡大の影響に備え当面は財務の安定性を重視しますが、将来のキオクシアホールディングス㈱の株式売却から得られる手取金純額の過半を原則として株主還元に充当することを意図しております。今後、新型コロナウイルス感染症の状況が鎮静化しているようであれば、一層の株主還元の促進と当社の長期的な企業価値の向上を目的として、継続的な資本配分の改善のため、積極的なポートフォリオの見直し(これらには成長性の高いM&A機会の検討を含みます。)と事業売却を実行していく方針です。
(注3)当面の間、キオクシアホールディングス㈱に係る持分法投資損益は、当該還元方針の対象外としています。
(4)新規成長分野への集中投資
都市インフラニーズの増大、ヒトとモノのモビリティ拡大、先端技術の発達による自動化、高度医療技術の拡大及び再生可能エネルギーへのシフトといったメガトレンドの中で、破壊的イノベーションによる環境変化をチャンスと捉え、当社グループがもつ独自の技術力と資産を結集し、経営資源を注入することで、新規事業の成長を目指します。
(5)デジタルトランスフォーメーション
デジタル革命が進む世の中において、当社グループ自身が変革を進め、デジタル文化を組織の隅々まで展開します。また、当社はインターネット上のシステム(IoTシステム)の基本設計図であるIoTアーキテクチャを標準化し、その上に様々な事業領域において実践した知識を結集することで、電力、鉄道、ビル、物流、製造業向けにIoTサービスを展開していきます。
(6)実行のための仕組み構築
新規事業を創出する新たなインキュベーションの仕組みを導入します。また、デジタルトランスフォーメーションを推進するための人材育成、外部人材の登用を積極的に進めます。
事業運営体制の強化及び意思決定の迅速化のために、事業部の大括り化や階層のシンプル化等の組織見直しを図ります。あわせて、内部統制機能の更なる強化のため、コーポレート部門による統制機能の拡大と強化を図っていきます。また、株主と一層の価値共有をするとともに、中長期的な業績向上に対するインセンティブを有効に機能させることを目的に、相対TSRを反映した業績連動報酬制度とし、併せて、執行役の業績連動報酬の過半を譲渡制限付株式報酬で支給することとしました。
◎「東芝Nextプラン」の実施状況
フェーズ1:基礎収益力の強化
基礎的な収益力を強化する4つの改革によって、東芝Nextプランを策定した2018年度から2020年度までの累計で合計1,350億円の収益改善効果がありました。構造改革では非注力事業からの撤退は完了しており、子会社削減についても25%の削減目標に対して既に8割削減済みと前倒しで達成の見込みです。子会社については、新たに388社のうち半分を対象として統合計画を更に進める予定です。
またデジタル化の施策も順調に推移しており、既に97%の業務仕様の標準化が完了しています。ITシステム刷新により、システム関連費用の圧縮を図ると共に、業務効率の改善等により間接部門のスリム化も今後進めてまいります。
2021年度以降は設計標準化とモジュール化が寄与するエンジニアリング改革とIT刷新による固定費の削減などが大きく寄与すると考えています。
モニタリング事業のうち、システムLSI事業ついては先端システムLSI(SoC)の新規開発から撤退、効率的な事業運営体制の構築を進めて、大幅に損益分岐点を引き下げました。HDD事業は拡大するデータセンター向けのニアラインHDDへのシフトを事業戦略の中核に据えて、開発加速・生産設備増強等による収益改善を進めました。火力事業はサービス比率の向上、人員配置の見直しや製造拠点の適正化による固定費削減などにより基礎的な収益力が改善しています。プリンティング事業については、主に新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、収益改善のための対策が必要となっています。当社としては、東芝テック㈱の構造改革を引き続き注視し、東芝グループとして事業ポートフォリオ戦略の観点から必要な措置について協議してまいります。
フェーズ2:インフラサービスカンパニーとしての安定成長
当社グループは産業別に20近い事業体に分かれています。事業の中身を機能別に分類していくと、デバイス・プロダクト、インフラシステム(構築)、インフラサービス、データサービスに大きく4つのセグメントにまとめることが出来ます。その中で、東芝Nextプランのフェーズ2においてインフラサービスは、当社グループの中核をなす事業です。お客様との長期に渡る関係において当社グループが社会にインストールしてきた機器の保守サービスをサポートすることによって安定的に売上・収益を成長させていきたいと考えています。
先ず、IT・AIなどによるオペレーションの最適化や間接業務の集約、拠点の最適化による「サービスオペレーションの競争力強化」、次に、既存ビジネスの新設拡大やサービス契約の徹底、更にはサービス範囲の他社機への拡大による「サービスロケーションの拡大」、最後に、プロフィットシェアモデルへの移行やマッチングなどの新サービス開発による「付加価値サービスへの進化」の3つのポイントをインフラサービスの成長の要素として掲げています。
当社グループは再生可能エネルギーやエネルギー調整において幅広い分野でトップシェアの事業を保有しており、カーボンニュートラルによる事業機会がインフラサービス拡大の大きな商機になり得ると考えており、カーボンニュートラルへの貢献に向け取り組んでいきます。
グリーン・デジタル技術の代表的な例であるエネルギーマッチングの分野では、欧州再エネ需給調整大手であるネクストクラフトベルケ社と2020年11月に新会社を設立致しました。量子暗号通信の分野では、世界トップクラスの暗号技術を強みに「暗号鍵供給サービス」で世界のデファクト・スタンダードを目指して事業化を行います。また、購買データ・人流データなどを活用し、地域社会をより便利に活性化するデータマッチングプラットフォーム等最先端の技術で時機を逃さず、成長の加速を狙っていきます。
◎東京証券取引所及び名古屋証券取引所市場第一部銘柄の指定
当社株式は、2017年8月1日付で東京証券取引所及び名古屋証券取引所の市場第二部に指定替えとなりましたが、2021年1月、㈱東京証券取引所及び㈱名古屋証券取引所(以下、両取引所)の承認を受け、2021年1月29日付で、当社株式が両取引所市場第二部から両取引所市場第一部に指定されました。
◎新型コロナウイルス感染症
2020年2月、当社は新型コロナウイルス感染症の拡大防止のための「総合COVID対策本部」を立ち上げ、従業員の安全と事態の収束を最優先に対応してきました。新規感染者数が特定の地域を中心に増加していることや、医療提供体制のひっ迫が懸念されていることを受け、当社は全従業員に原則在宅勤務を適用することで、最大限の接触削減を目指してきました。一方、当社グループは、生活の基盤となる社会インフラ事業をはじめ、社会活動の維持に必要な事業やサービス等を多く営んでいます。これらの供給責任や社会的責任を果たすため、お客様、お取引先様への納入、保守、サービスに関する業務、社会活動等の維持に必要な事業については、一層の感染リスク軽減策を講じた上で、必要な範囲で活動を継続しています。
◎内部管理体制の改善
当社は、すべての事業活動においてコンプライアンスを優先するとの基本方針の下、内部統制の更なる強化をはかっております。
当社は、最前線の事業部門を第1線、管理部門を第2線、そして監査部門を第3線とする3ラインディフェンスを設け、各々の役割と職務を明確にしたうえで、牽制機能を働かせながら、各々の職責を適切に果たすことで、有効なリスク管理を実現するべく、各施策を実施してきました。当社は、昨年、内部統制システムの更なる強化への取組みの一環として、外部の有識者が参画する「コンプライアンス有識者会議」を新設し、その提言を受け、法務部内にリスクマネジメント・コンプライアンス室を新設し、コンプライアンス意識の再徹底及び横断的なコンプライアンス体制・諸施策の強化をはかっていくこととしました。また、コンプライアンス有識者会議から要改善・検討事項と指摘を受けた項目については、以下の方向性で当社3ラインディフェンスを強化していきます。
・コンプライアンス意識の浸透については、組織目標よりもコンプライアンスが優先するという大原則を確固として周知徹底すべく、適時適切なメッセージ発信、教育プログラムの整備に取り組んでいきます。
・不正リスク管理については、不正には「ゼロ・トレランス(絶対に許容しない考え)」で臨むとの方針を改めて打ち出したうえで、不正対策の水準の平準化、統制活動の規程化、マニュアル整備、懲戒処分の周知強化等、必要なルールを整備・運用していきます。
・内部通報制度については、一層の周知徹底や、国内での英語受付の開始、海外通報ネットワークの強化により、利用を促進する仕組みを更に整えていきます。
・不正リスク管理体制に対する内部監査については、公表の通り、人員増強等により内部監査機能を強化し対応してまいります。
◎気候変動
当社グループは気候変動による影響を重要なリスクと捉えており、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD(注4))」の提言に沿って事業への影響の分析を行っています。自然災害による物理的リスクや、規制対応によるコストの増加・技術面の対応遅れによる販売機会損失・取り組みの遅れによる評判の下落などの移行リスクが想定され、これらに対応するため体制や活動の強化に努めています。一方で、脱炭素エネルギー技術や省エネ製品・サービスなどの需要拡大を機会と捉え、再生可能エネルギーをはじめとする脱炭素ビジネスへの転換も進めています。なお、経営に影響を及ぼす重要な気候変動関連の課題については、取締役会が適切に監督を行うための体制を構築しています。
当社グループにおける気候変動への対応としては、2020年11月に発表した「環境未来ビジョン2050」において、2030年度までに自社グループのバリューチェーンを通じた温室効果ガス排出量を50%削減(2019年度比)し、2050年に向けて社会の温室効果ガス排出量ネットゼロ化に貢献していくことを目指しています。2030年度の削減目標についてはScope1・2とScope3での内訳を設定し、パリ協定に整合する「科学的な根拠に基づいた目標」としてSBT(注5)の認定を取得しました。
現在は2023年度までの具体的な活動計画「第7次環境アクションプラン」を推進し、事業活動と製品・サービスの両面における温室効果ガスの排出抑制を進めています。事業活動においては、2023年度に温室効果ガスの総排出量を104万t-CO2に抑え、エネルギー起源CO2排出量原単位を前年度基準で1%改善とすることを目指します。また製品・サービスにおいては、再生可能エネルギーや省エネ性の高い製品・サービスの開発・提供を進め、エネルギー供給時の温室効果ガス排出量を2019年度基準で13.6%削減、製品使用時の温室効果ガスの削減貢献量を8,400万t-CO2とすることを目指します。
(注4) Task Force on Climate-related Financial Disclosures
(注5) Science Based Targets