有価証券報告書-第82期(2023/04/01-2024/03/31)
②戦略
エプソンは、知的財産を基盤として新たなビジネスの好循環を引き起こし、知的財産を企業価値に変換し、持続的成長を目指しています。これを実現するため、具体的には下記事例のような知的財産に基づく支援活動を行っています。
<事例:当社独自のドライファイバーテクノロジー>エプソンは「環境ビジョン2050」として、2050年に「カーボンマイナス」と「地下資源消費ゼロ」を掲げています。この高い目標を達成するべく取り組んでいる「環境技術開発」において、将来性のある技術として期待しているのが「ドライファイバーテクノロジー」です。
ドライファイバーテクノロジーは水を使わず(※24)繊維素材を価値あるカタチに変え、用途に合わせた繊維化や、結合、成形を行い素材の高機能化を実現するエプソン独自の技術です。ドライファイバーテクノロジーを適用し、大量の水を使わず、使用済みの紙から再生紙を作ることを実現したのが乾式オフィス製紙機「PaperLab」です。施設に輸送して大量の水で使用済みの紙を溶かす紙再生方法に比べ、PaperLabは紙の製造に使用される水の消費量を大幅に削減できることに加え、オフィス内で紙を再生できるため、使用済みの紙の輸送におけるCO2排出量の削減にも貢献できます。
※24 適度な湿度は必要
◆ ドライファイバーテクノロジーの可能性
ドライファイバーテクノロジーはPaperLabだけでなく、さまざまな応用が考えられます。例えば、使用済みの紙を使ってプリンターのインク吸収剤を生産しています。また、ドライファイバーテクノロジーによって使用済みの紙から製造される素材に吸音効果がある特性を活かし、機器の内壁に使用される吸音材として使用されています。他にも素材の硬さや厚さを調節することにより衝撃を吸収する効果もあるため、緩衝材としての活用も進めています。さらに、紙以外の素材では、コットン衣類の縫製過程で発生する端材を原料として新たな包装材を開発し、ウオッチ商品の包装材として活用しています。
一方、当社の知見が乏しい分野への応用についてはオープンイノベーションを進めています。
循環型経済の確立に向け、例えば、バイオプラスチックや再生プラスチックの使用範囲の拡大を促進するため、エプソンでは、ドライファイバーテクノロジーによって生成されたセルロース繊維とプラスチック材料を複合化し、バイオプラスチックや再生プラスチックの強度、耐久性などの課題解決を目指すなど、繊維複合型プラスチック材料による造形技術の共同研究を進めています。
また、世界的に高まる再生繊維のニーズに応えるため、ドライファイバーテクノロジーを応用し、再生が困難な繊維の解繊技術を確立し、新たな衣類再生のリサイクルソリューションの提供を目指す共同開発を進めています。

◆ ドライファイバーテクノロジーを支援する知的財産活動
■ 特許ポートフォリオ構築
特許ポートフォリオ構築にあたっては、知的財産本部と開発部門による2者懇談会において、IPランドスケープを活用した量的・質的な競争優位性の評価を確認したうえで、開発活動と連携した知的財産戦略を定めています。
ドライファイバーテクノロジーは知的財産の観点でも競争優位性のある技術です。同分野において、エプソンはドライファイバーテクノロジーによる事業の競争優位性を支援するため、知的財産戦略に基づいて開発黎明期から特許出願を継続的に行っており、量的に他社を圧倒する強力な特許ポートフォリオを構築しています。
また、同分野の特許ファミリーの競争力指標(Competitive Impact)が上位5%となる質の高い特許ファミリーの特許権者毎の保有比率においても当社がNo.1であり、知的財産戦略に基づき、量だけでなく、質の面でもドライファイバーテクノロジーの強い特許ポートフォリオを構築しています。
ドライファイバーテクノロジー分野での年別特許出願件数の ドライファイバーテクノロジー分野の
評価(LexisNexis PatentSightを使用して当社作成) 特許ファミリー競争力指標(Competitive Impact)
上位5%の権利保有率
エプソンの競争優位性のある優れた技術は、(公社)発明協会主催「全国発明表彰」にて多くの賞を受賞しています。令和時代に入っても内閣総理大臣賞、文部科学大臣賞、日本弁理士会会長賞などの特別賞を受賞しています。全国発明表彰などの社外表彰において高い評価を受けることにより、当社技術が競争優位性を有することを対外的に明らかにし、企業価値を向上する取り組みを行っています。
ドライファイバーテクノロジーについても、強力な特許ポートフォリオから中核技術である「2段ふるい」の特許第6127882号が令和元年度全国発明表彰において朝日新聞社賞を受賞しました。この受賞によってドライファイバーテクノロジーが科学技術の振興、産業経済の発展に大きく貢献していることが社外の評価を通じて明らかになりました。
■ IPランドスケープによるイノベーション支援
エプソンでは、スタートアップへの出資やオープンイノベーションによる第三者との共創にともない、IPランドスケープを活用した知的財産面からのイノベーション支援を行っています。例えば、スタートアップへの出資を判断する際には、スタートアップ企業が保有する知的財産の価値評価を行っています。また、オープンイノベーションにおいては、IPランドスケープによってその分野の開発状況と知的財産の取得状況を全体俯瞰図にまとめ、技術の将来性について評価しています。
さらに、開発テーマを事業の成長戦略に結びつけるために、その開発テーマの応用範囲の拡大や基盤技術強化などについて、IPランドスケープを活用した分析に基づき、知的財産面からの提案を含めたイノベーション支援を行っています。
ドライファイバーテクノロジーによるバイオプラスチック生成においては、IPランドスケープを活用した分析に基づいて、当社技術と親和性・将来性があって他社知的財産権の障壁の低い複数の開発プランを開発部門に提案し、当社独自の開発テーマとなるように方向づけました。このように、IPランドスケープの活用により、ドライファイバーテクノロジーによるイノベーション支援を進めています。
■ 第三者との共創スキームにおける契約サポート
エプソンでは、ドライファイバーテクノロジーを核としてさまざまなオープンイノベーションを同時並行で進めています。その際に重要となるのが、共創相手の重要な情報資産である機密情報の管理です。特に同一テーマで共創を同時並行で進める際に機密情報のコンタミネーションのリスクが高まります。そこで、リスク低減のための共創用の機密保持契約(NDA)のひな型を制定するとともに、考え方をガイドラインとして制定し、社内で周知を図っています。当社では共創相手と良好な関係を構築するための契約も重要な知的財産と捉え、法務部門と協力して社員のリーガルマインドの向上を図っています。

■ 技術のブランド化
技術は目に見えるものではなく、技術の専門家でないとその価値を理解することが難しいものです。そこで、「ドライファイバーテクノロジー」という技術の特徴を端的に表した商標権を取得し、お客様に技術名称を認知していただくことで技術のブランド化を進めています。

エプソンは、知的財産を基盤として新たなビジネスの好循環を引き起こし、知的財産を企業価値に変換し、持続的成長を目指しています。これを実現するため、具体的には下記事例のような知的財産に基づく支援活動を行っています。
<事例:当社独自のドライファイバーテクノロジー>エプソンは「環境ビジョン2050」として、2050年に「カーボンマイナス」と「地下資源消費ゼロ」を掲げています。この高い目標を達成するべく取り組んでいる「環境技術開発」において、将来性のある技術として期待しているのが「ドライファイバーテクノロジー」です。
ドライファイバーテクノロジーは水を使わず(※24)繊維素材を価値あるカタチに変え、用途に合わせた繊維化や、結合、成形を行い素材の高機能化を実現するエプソン独自の技術です。ドライファイバーテクノロジーを適用し、大量の水を使わず、使用済みの紙から再生紙を作ることを実現したのが乾式オフィス製紙機「PaperLab」です。施設に輸送して大量の水で使用済みの紙を溶かす紙再生方法に比べ、PaperLabは紙の製造に使用される水の消費量を大幅に削減できることに加え、オフィス内で紙を再生できるため、使用済みの紙の輸送におけるCO2排出量の削減にも貢献できます。
※24 適度な湿度は必要
◆ ドライファイバーテクノロジーの可能性
ドライファイバーテクノロジーはPaperLabだけでなく、さまざまな応用が考えられます。例えば、使用済みの紙を使ってプリンターのインク吸収剤を生産しています。また、ドライファイバーテクノロジーによって使用済みの紙から製造される素材に吸音効果がある特性を活かし、機器の内壁に使用される吸音材として使用されています。他にも素材の硬さや厚さを調節することにより衝撃を吸収する効果もあるため、緩衝材としての活用も進めています。さらに、紙以外の素材では、コットン衣類の縫製過程で発生する端材を原料として新たな包装材を開発し、ウオッチ商品の包装材として活用しています。
一方、当社の知見が乏しい分野への応用についてはオープンイノベーションを進めています。
循環型経済の確立に向け、例えば、バイオプラスチックや再生プラスチックの使用範囲の拡大を促進するため、エプソンでは、ドライファイバーテクノロジーによって生成されたセルロース繊維とプラスチック材料を複合化し、バイオプラスチックや再生プラスチックの強度、耐久性などの課題解決を目指すなど、繊維複合型プラスチック材料による造形技術の共同研究を進めています。
また、世界的に高まる再生繊維のニーズに応えるため、ドライファイバーテクノロジーを応用し、再生が困難な繊維の解繊技術を確立し、新たな衣類再生のリサイクルソリューションの提供を目指す共同開発を進めています。

◆ ドライファイバーテクノロジーを支援する知的財産活動
■ 特許ポートフォリオ構築
特許ポートフォリオ構築にあたっては、知的財産本部と開発部門による2者懇談会において、IPランドスケープを活用した量的・質的な競争優位性の評価を確認したうえで、開発活動と連携した知的財産戦略を定めています。
ドライファイバーテクノロジーは知的財産の観点でも競争優位性のある技術です。同分野において、エプソンはドライファイバーテクノロジーによる事業の競争優位性を支援するため、知的財産戦略に基づいて開発黎明期から特許出願を継続的に行っており、量的に他社を圧倒する強力な特許ポートフォリオを構築しています。
また、同分野の特許ファミリーの競争力指標(Competitive Impact)が上位5%となる質の高い特許ファミリーの特許権者毎の保有比率においても当社がNo.1であり、知的財産戦略に基づき、量だけでなく、質の面でもドライファイバーテクノロジーの強い特許ポートフォリオを構築しています。


評価(LexisNexis PatentSightを使用して当社作成) 特許ファミリー競争力指標(Competitive Impact)
上位5%の権利保有率
エプソンの競争優位性のある優れた技術は、(公社)発明協会主催「全国発明表彰」にて多くの賞を受賞しています。令和時代に入っても内閣総理大臣賞、文部科学大臣賞、日本弁理士会会長賞などの特別賞を受賞しています。全国発明表彰などの社外表彰において高い評価を受けることにより、当社技術が競争優位性を有することを対外的に明らかにし、企業価値を向上する取り組みを行っています。
ドライファイバーテクノロジーについても、強力な特許ポートフォリオから中核技術である「2段ふるい」の特許第6127882号が令和元年度全国発明表彰において朝日新聞社賞を受賞しました。この受賞によってドライファイバーテクノロジーが科学技術の振興、産業経済の発展に大きく貢献していることが社外の評価を通じて明らかになりました。
■ IPランドスケープによるイノベーション支援
エプソンでは、スタートアップへの出資やオープンイノベーションによる第三者との共創にともない、IPランドスケープを活用した知的財産面からのイノベーション支援を行っています。例えば、スタートアップへの出資を判断する際には、スタートアップ企業が保有する知的財産の価値評価を行っています。また、オープンイノベーションにおいては、IPランドスケープによってその分野の開発状況と知的財産の取得状況を全体俯瞰図にまとめ、技術の将来性について評価しています。
さらに、開発テーマを事業の成長戦略に結びつけるために、その開発テーマの応用範囲の拡大や基盤技術強化などについて、IPランドスケープを活用した分析に基づき、知的財産面からの提案を含めたイノベーション支援を行っています。
ドライファイバーテクノロジーによるバイオプラスチック生成においては、IPランドスケープを活用した分析に基づいて、当社技術と親和性・将来性があって他社知的財産権の障壁の低い複数の開発プランを開発部門に提案し、当社独自の開発テーマとなるように方向づけました。このように、IPランドスケープの活用により、ドライファイバーテクノロジーによるイノベーション支援を進めています。
■ 第三者との共創スキームにおける契約サポート
エプソンでは、ドライファイバーテクノロジーを核としてさまざまなオープンイノベーションを同時並行で進めています。その際に重要となるのが、共創相手の重要な情報資産である機密情報の管理です。特に同一テーマで共創を同時並行で進める際に機密情報のコンタミネーションのリスクが高まります。そこで、リスク低減のための共創用の機密保持契約(NDA)のひな型を制定するとともに、考え方をガイドラインとして制定し、社内で周知を図っています。当社では共創相手と良好な関係を構築するための契約も重要な知的財産と捉え、法務部門と協力して社員のリーガルマインドの向上を図っています。

■ 技術のブランド化
技術は目に見えるものではなく、技術の専門家でないとその価値を理解することが難しいものです。そこで、「ドライファイバーテクノロジー」という技術の特徴を端的に表した商標権を取得し、お客様に技術名称を認知していただくことで技術のブランド化を進めています。
