有価証券報告書-第77期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/25 10:02
【資料】
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【項目】
176項目

研究開発活動

当連結会計年度の研究開発は、「ガス&エネルギー」を基軸に当社の基幹事業である総合エネルギー、産業ガスからマテリアル、自然産業まですべての事業領域を対象に取り組みました。なかでも水素エネルギー関連では、前連結会計年度に引き続き水素エネルギー社会の推進、再生可能エネルギー事業の拡大に向けて最新の技術開発に注力しました。
研究開発活動の中心となる中央研究所(兵庫県尼崎市)は、当社の技術・商品開発のコントロールタワーとして、すべての事業分野をカバーする新技術・新商品の開発を推進しました。特に、最先端の水素試験研究設備を活用し水素適合性材料や機器の評価を通じて、水素ステーションの建設コストの削減や保安強化に繋がる研究を加速するなど水素のパイオニアとしての地位をより強固なものにしました。さらに、分析を主体とした基盤技術を強化するとともに、オープンイノベーションを前面に掲げ、大学や公的研究機関との共同研究やパートナー企業との共同開発を進め、「技術のイワタニ」としての信用の構築に努めました。
当連結会計年度における当社グループ全体の研究開発費は2,494百万円となります。そのうち、当社の研究開発費は2,361百万円であります。
主な研究開発内容は水素関連のもので、その金額は780百万円です。その他の研究開発費用をセグメント別に分けると、総合エネルギー事業248百万円、産業ガス・機械事業11百万円、マテリアル事業82百万円、自然産業事業14百万円、その他1,357百万円となっております。その他セグメントが多いのは研究開発拠点である当社中央研究所の共有費用が含まれるためです。
なお、セグメントごとの研究開発活動は次のとおりです。
(水素関連)
水素エネルギー関連では、経済産業省が設置した水素・燃料電池戦略協議会で策定された水素・燃料電池戦略ロードマップ及び水素基本戦略に基づき、水素エネルギーの利用拡大に繋がる水素ステーションの整備や将来の大量消費時代を見据えたCO2フリー水素サプライチェーンの構築に重点を置き研究開発を推進しました。具体的には、羽田空港に隣接する「HANEDA INNOVATION CITY(羽田空港跡地第1ゾーン)」での建設を始めるなど新たに10ヶ所の水素ステーションの整備に着手しました。また、水素発電の導入による水素大量消費社会の将来を見据え、水素サプライチェーンの構築に不可欠な技術を確立することを目的に、経済産業省/新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)等の各種研究補助事業(国プロ等)や委託研究に取り組みました。2020年3月には、福島県内に再生可能エネルギーを利用した世界最大級の水素製造施設である「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」を完成させました。今後、クリーンで低コストを兼ね備えた水素製造技術の確立を図ります。
主な研究開発案件は、①水素ステーションの建設コスト削減と保安技術の強化に繋がる水素適合性材料評価の推進、②水素ステーションにおける水素計量技術や水素ガス品質管理技術に関する研究開発、③日豪褐炭水素プロジェクトにおける液化水素大規模海上輸送サプライチェーン構築に不可欠な要素技術の研究、④水素大量消費社会を見据えた液化水素流量計や水素導管供給技術の開発等となります。
(総合エネルギー事業)
当社主力のコンシューマープロダクツであるカセットガスの拡販につながる商品開発に注力しました。具体的には、LPガスの燃焼・伝熱技術を活用した熱電発電モジュールを組み込んだ発電機能付き暖房器具や、LPガスを燃料とした固体酸化物形燃料電池(SOFC)を搭載するポータブル発電機等の商品開発を進めました。
(産業ガス・機械事業)
2018年度に中央研究所に導入した重水素ガス製造プラントにおいては、製造ロスの削減やガス精製技術を向上させるとともに品質管理体制の確立に努めました。同プラントからは核融合研究やエレクトロニクス分野に向けて出荷を伸ばしました。また、2019年4月に茨城県内に完成した国内最大級のヘリウムセンターでは、これまでに培った高純度充填技術を取り入れ6N(99.9999%)を上回るスペックの超高純度ヘリウムガスの製造が可能となりました。今後、新たなビジネスチャンスの獲得が期待されます。さらに、再生医療分野では、大学の研究機関と共同で細胞保存におけるガスの応用や、細胞保管・輸送技術の開発を推進しました。
そのほか溶接技術関連では、新しくレーザー・アークハイブリッド溶接システムを導入しました。現在、自動車、鉄道車両、重電分野をターゲットに、高効率溶接技術の確立を進めています。
(マテリアル事業)
環境問題への取り組みとして、揮発性有機化合物(VOC)を分解する触媒に貴金属を使用せずに低コストと高耐久性を実現した新たな触媒を開発しました。今後、浄化装置のフィルターに組み込まれ、装置の導入コストの抑制とメンテナンスコストの削減が期待されます。
また、ヒートシンクや冷却システムへの採用を目指し、「ロータス金属(多孔質構造の金属)」の量産化に向けた取り組みを強化しました。具体的には、「ロータス金属」の鋳造技術を有するロータス・サーマル・ソリューション社の技術開発拠点を中央研究所内に移設し、量産技術の確立に向けた共同研究開発をスタートさせました。今後、中央研究所の技術との融合により、加工技術や品質管理技術の実用化を図ります。
(自然産業事業)
世界初となるファインバブル水による針葉樹苗木の生育促進技術を開発しました。本技術の採用により、従来2年ほど掛かっていた苗木栽培期間が1年から1年半に短縮することが可能となりました。本技術は林業人口の減少問題の解決に寄与するほか、少花粉スギの植林を促進することにより花粉症対策の健康分野にも貢献できます。