有価証券報告書-第17期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)
(1) 会社の経営の基本方針
当社は、双日グループ企業理念、双日グループスローガンを掲げ、当社グループの事業基盤拡充や持続的成長などの「双日が得る価値」と、国、地域経済の発展や人権・環境配慮などの「社会が得る価値」の2つの価値の実現と最大化に取り組んでおります。
(双日グループ企業理念)
双日グループは、誠実な心で世界を結び、新たな価値と豊かな未来を創造します。
(双日グループスローガン)
New way, New value
(双日の価値創造モデル)
(2) 今後の見通し及び対処すべき課題
中期経営計画「中期経営計画2020」について
当社グループは、2018年4月からの3ヶ年計画である「中期経営計画2020」~Commitment to Growth~を策定し、計画の実現に向けた取り組みを推進しております。 本計画において、当社グループは、保有資産の価値拡大と共に、キャッシュ・フローをマネージした規律ある投融資(中期経営計画3ヶ年で合計3,000億円程度)の実行を継続することにより、着実な成長の実現を図ります。親会社の所有者に帰属する当期純利益(以下、当期純利益という)につきましては、中期経営計画期間中において前期比10%程度の成長を図り、最終年度に750億円以上とすることを目標としておりました。
「中期経営計画2020」の詳細は、当社ウェブサイト(https://www.sojitz.com)をご参照ください。
「中期経営計画2020」で目標とする経営指標は次のとおりです。
当社の株主資本コスト7~8%を踏まえ、経営指標としてROE目標を設定しております。また、ROE目標を達成するために、全社でのROA目標を定めると共に、各セグメントにおいても中期経営計画最終年度のROA目標を掲げております。
「中期経営計画2020」に掲げる持続的な成長に向けて、規律あるバランスシートとキャッシュ・フローマネジメントに取り組んでおります。優良な資産の積み上げと資産の入れ替えにより、キャッシュと利益を創出し、キャッシュを伴う利益で自己資本を積み上げ、創出されたキャッシュと、積み増しされた資本を基に、さらに良質な資産への投資と株主還元を行うといった、好循環サイクルを維持する取り組みを掲げております。成長のための投資を継続していくため、このサイクルの中で成長投資と株主還元は、期間収益と資産入替により創出されたキャッシュの範囲内でマネージしていきます。
バランスシートのマネジメントについては、良質な資産への投融資を行うだけではなく、継続的な資産の入れ替えや、資産と事業のバリューアップ、リスクリターンを踏まえた見直しを行うことで、収益性の向上につなげていきます。ネットDERについては、これまで通り、株価や為替の変動があったとしても、1.5倍以下を維持するよう、キャッシュのコントロールを意識していきます。
これらにより、バランスシートと、キャッシュ・フローでの規律を維持しながら、更なる成長を図っていきます。
「中期経営計画2020」の2年目である2019年度は、米中貿易摩擦・中国経済成長の鈍化から、先進国における経済成長の減速が継続しています。また、2020年に入り、新型コロナウイルスによる需要減退・諸産業における販売の大幅低迷など、影響が拡大しております。この様な経済環境において、当社グループの業績は、合成樹脂取引の減少やメタノール価格の下落などによる化学での減収や、海外石炭事業の販売価格下落などによる金属・資源での減収、自動車・リテール関連事業の販売低迷により、当期純利益は608億円、ROAは2.7%、ROEは10.2%となりました。
2021年3月期の見通しにおきましては、新型コロナウイルス感染症の影響による世界経済の減速が見込まれることから、2020年3月末時点において当社が把握している情報を基に、足元の状況が3ヶ月(2020年6月まで)継続する前提で見通しを策定しており、当期純利益は400億円、ROA1.8%、ROE6.8%を見込んでおります。
新型コロナウイルス感染症の影響を受ける主な事業は、国内外ロックダウン・外出自粛要請に伴う一部店舗閉鎖の影響を受ける自動車関連事業、産業減退に伴う素材関連の需要減少の影響を受ける鉄鋼関連・化学品といった素材関連事業及び国内外自粛要請に伴う一部商業施設・店舗閉鎖及び消費減退の影響を受けるリテール関連事業などがあり、当期純利益への影響は△230億円を見込んでおります。
「中期経営計画2020」に掲げる持続的な成長に向けて、3,000億円程度の投融資計画に基づき、優良案件を確実に積み増しております。2019年度は、自動車の販売金融会社のほか、太陽光、洋上風力などの再生可能エネルギー、通信タワーをはじめとするインフラ系、空港、商業施設などの投資を810億円実行いたしました。 なお、更なる成長に向けた取り組みとして、世界各国のスタートアップ企業を投資対象としたコーポレートベンチャーキャピタルを設立し、イノベーションの創出、機能の獲得・強化を進めております。
「中期経営計画2017」及び「中期経営計画2020」での投融資からの収益貢献について、実績と見通しの推移は以下の通りとなります。
こうした環境下、キャッシュ・フローのコントロール、全社ポートフォリオ・リスク分散の観点を意識し、2020年度及び将来の大きな収益貢献に繋がる優良案件に対する投融資実行を進めていきます。また、投資実行済の事業・資産のバリューアップを図ることで、持続的成長に向けた投融資の実行、優良資産の積み上げを積極的に進めていきます。
さらに、「中期経営計画2020」では、企業理念の実現と双日の持続的な成長のため、サステナビリティの考え方を従前以上に経営に取り込み、環境・社会に関わる課題解決と双日の事業の更なる融合促進を図るとの方針のもと、6つのサステナビリティ重要課題(マテリアリティ)に沿って、基盤、体制の整備を進めております。また、気候変動、人権などのグローバル課題への当社グループの長期的な取り組み姿勢として、長期ビジョン「サステナビリティ チャレンジ」を設定しております。(サステナビリティの取り組みについては、P.54をご参照ください)
低炭素・脱炭素に向けた取り組みにつきましては、2015年の第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定の要請を踏まえ、「サステナビリティ チャレンジ」で掲げる「事業を通じた脱炭素社会の実現」に向けて、再生可能エネルギー事業など気候変動対策に結びつく事業への取り組みを進めており、また、2019年度において一般炭権益を一部売却しております。
また、グローバルに事業を展開する中で、長期的に競争力を発揮し続けるため、性別、国籍、年代などを問わず、多様な人材の採用や育成、活用を進めています。また、これらの人材が、個々の能力を最大限に発揮し、組織の成果に貢献できるよう、制度・環境の整備に取り組んでおります。2020年3月には、女性活躍推進に優れた上場企業を表彰する「なでしこ銘柄」(経済産業省、東京証券取引所主催)に4年連続で選定されました。引き続き、多様な人材が最大限能力を発揮できる環境を整え、企業価値の向上へつなげていきます。
本部別の成長戦略は以下のとおりとなります。
<自動車>経済発展に伴うヒトとモノの移動はアジア・ラテンアメリカなどの新興国を中心にますます活発になり、これら地域の自動車需要は引き続き拡大することが見込まれます。また、電動化・自動運転化などの技術革新と共に、コネクティッドサービス・シェアリングサービスの登場など大きな変化の波が押し寄せています。
こうしたなか、知見を積み上げてきた自動車販売事業をコア事業として位置づけ、有望市場で新たな優良事業のM&Aによって事業領域の拡大を図ります。地域密着型のセールス・マーケティング力とアフターセールサービスの強化、IoT・AIなどの先進デジタル技術を取り入れた機能強化を通じた、事業のバリューアップを図ると共に販売金融事業の強化、時代の変化を捉えた新たなサービス事業の構築にも積極的に取り組んでいます。
また、地域に貢献する事業会社の経営を通じて、現場経験を蓄積した次代の経営人材の育成と、外部環境の変化に対応した新たな機能や事業を創出する開発人材の育成に取り組んでおり、持続的な成長を目指します。
新型コロナウイルス感染拡大の影響により自動車販売事業は一時的な停滞が見込まれますが、当社が培ってきた機能と地域密着型の事業基盤の更なる強化を図り、収束後の需要回復の確実な捕捉に向け取り組みを拡大して参ります。
<航空産業・交通プロジェクト>世界的規模での新型コロナウイルス感染症の拡大により航空機需要や交通・空港インフラ需要の急激な減速による影響は否めませんが、収束後の需要回復を見据えた打ち手を実施していきます。
当本部のミッションは、長年の航空機ビジネスで培ってきた機体メーカー、航空会社、空港事業者との信頼関係を基盤に、鉄道事業や船舶事業を加えたソリューションを創出し、国際社会のニーズに応えた新たな価値を提供することです。
そのためのアプローチとして、民間航空機代理店事業での豊富な実績を起点に航空機ビジネスのバリューチェーンを拡充し、加速していきます。経年機や退役機の中古部品を航空・整備会社に販売するパーツアウト事業はその象徴といえます。また、当本部は世界的に需要が高まるビジネスジェット事業に積極的に取り組んでいます。さらに、空港運営を中心に交通インフラ整備を進め、新興国をはじめとした国内外の地域活性化に貢献する事業を推進していきます。航空関連事業の環境激変への対応を強化すると共に、交通関連では、鉄道MRO事業の機能、規模の拡大を図っていきます。
<機械・医療インフラ>当本部は、医療インフラ事業部、先端産業・軸受部、産業機械・プラント部、機械商社である双日マシナリーの4つの営業組織から構成されています。その使命は、伝統あるプラントプロジェクト事業で培った国内外のパートナーとのネットワークと多彩な事業機能を活かして、世界各国の産業の礎となるインフラを構築することです。
トルコでのPPP型病院運営事業については、施設運営サービスを含めた収益モデルを確立していきます。さらに医療施設にとどまらず、ヘルスケアのカテゴリーへと視野を広げ、遠隔医療・介護分野などで新たな事業機会に取り組んでいます。
また、産業機械・ベアリングなどの既存事業において、新型コロナウイルス感染症の拡大により収益への一定の影響はありますが、両事業とも中国含め各市場での経済活動再開、需要回復を見極めつつ、アフターコロナを見据えた事業構造の変革及びAI・IoT、5Gなどのトレンドを踏まえた取り組みを拡大していきます。
新興国の経済発展を支えるプラント事業も、一時的には新型コロナウイルス感染症の拡大による政府承認などの遅れにより、全体スケジュールに遅れが生じる見込みではありますが、今後も継続的な需要の高まりは期待でき、着実な取り込みを図っていきます。地域社会の持続的な発展に貢献し、かつ日本企業が得意とするプラスチックリサイクルなど、環境対応を切り口としたプロジェクトにも注力していきます。
<エネルギー・社会インフラ>世界のエネルギー情勢は、新型コロナウイルス感染症の拡大と米国シェール革命を背景とした需給バランスの急変により、ますます将来を見通すことが難しくなっています。一方、そのような状況下においても「低炭素化」の流れは不可逆的に進行し、天然ガス・LNG、及び再生可能エネルギーの利用拡大は継続すると考えています。
こうした事業環境の変化に対応すべく、LNG事業と発電事業で培った知見を融合して、アジア新興国にてLNG調達から受入基地・発電所の建設・運営までの一体型事業に取り組んでいます。米国ではシェールガスを利用した最新鋭ガス火力発電を推進する事で電力安定供給と環境負荷低減の両立を目指します。再生可能エネルギー分野では、太陽光発電事業での知見を応用して、欧州や米国での陸上風力、台湾での洋上風力、国内バイオマス発電への参入を果たし、着実に事業を拡大しています。
情報通信分野では、先進国における5G通信やAI・IoT利用の拡大、新興国での高速通信需要の高まりにより、データ通信・処理関連のインフラ整備が重要となっています。当社グループは国内で大規模データセンターを運営しており、新たにミャンマーでの通信タワー事業に参画するなど、同分野での事業拡大を目指しています。
私たちの使命は、「安心・安全・快適」を約束する高度な社会インフラ整備を進める事です。そのために、価値観を共にする国内外の優良パートナーと協調し、世界各国の産業社会の発展に貢献していきます。
<金属・資源>当本部は、中期経営計画2020の重要なテーマとして、市況に左右されにくい安定収益基盤の構築及び地球環境に配慮した低炭素社会の実現を目指して、三つの成長戦略を掲げています。
一つ目は、中長期的な社会ニーズや環境変化への対応をテーマに、新たな事業領域へ挑戦していくことです。
二つ目は、国内及び新興国向けトレードの維持拡大を目指し、環境負荷低減に向けた事業・商品の取り扱いなど機能強化を通じてお取引先のニーズに応えていくことです。
三つ目は、上流権益において、既存プロジェクトの効率化や優良資産への入れ替えにより、低市況下でも利益を生む資産ポートフォリオを構築していくことです。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、国内外を問わず、業界・商品においても生産減や物流停滞などの影響がありますが、収束後のスムースな活動再開、今後の変化への対応と収益機会の追求・実現に努めます。
<化学>化学分野のサプライチェーンは裾野が広く、自動車産業をはじめとして新型コロナウイルス感染症の影響を受け、一時的に各素材の需要は大きく減少しています。原油価格下落に伴い各商品の市況も下落傾向にありますが、強みである事業基盤とマーケティング機能を活かし、中国をはじめとした経済活動の再開、需要回復のタイミングを見据え迅速かつ柔軟に対応していきます。
世界の化学産業の供給構造は、大きな転換期にあり、また、アジアを中心とした新興市場における中間所得層の増大による消費財需要の拡大や、環境問題に対する新製品や技術の開発が進むなど、市場のニーズも絶えず変化を続けています。既存事業の強みを磨きつつ、SDGs・ESGへの取り組みを深化させ、プラスチックリサイクル、バイオケミカル分野において、新しい技術を活用した新たな事業を築いていきます。
<食料・アグリビジネス>東南アジアでは、人口増加や経済発展に伴い、ライフスタイルの多様化と食料需要の増加が同時に進んでいます。当本部では、この急速な変化を成長につなげていくために、食料・農関連事業を通じて、収益力の強化・拡大を目指しています。
アグリビジネス事業では、タイ、フィリピン、ベトナムでトップクラスの市場シェアの肥料事業を運営しており、この強みを活かして、ミャンマーなどの周辺国での事業展開を進めています。また、農業に関連する事業にも挑戦していきます。
食料事業では、小麦などの原料供給と製品販売に加えて、アジアでの製粉、製パン、製菓事業などの展開に注力しています。例えば、フィリピンにおいては2017年に製粉会社、食料原料卸会社、製パン会社を設立しました。ベトナムでは2007年から製粉会社に参画しています。
水産事業では、養殖から加工・販売までのマグロのバリューチェーンを、国内外での加工卸事業の推進により強化していきます。また、飼料事業では、ベトナムで港湾事業への参画や飼料製造事業の運営などを行っており、これらを活用して今後の畜産需要の増加に対応していきます。
さらに、他本部で運営している惣菜、食品卸、コンビニなどベトナムを基盤とした事業との連携、及び現地有力パートナーとの協業を通じて、同国やASEAN地域を中心としたグローバルな展開を進めていきます。
<リテール・生活産業>新型コロナウイルス感染症の拡大により、世界的にロックダウンや緊急事態宣言が発令され、消費が大きく低迷しました。一方で、ライフスタイル及び消費トレンドに大きな変化をもたらし、これまで以上に消費者の嗜好・ニーズが多様化していく転換点として捉える事もできます。当本部は、消費市場の“お客様起点のビジネス”にこだわり、「生活の豊かさ」と「利便性」を高める多様な事業を展開し続けて行きます。なかでも、経済成長が続くASEANでの事業拡大、機能の強化は今後の成長戦略の柱となるものです。ベトナムでは、食品卸事業に参入後、四温度帯倉庫事業、コンビニエンス事業、総菜事業のチェーンを構築すると共に、タイ、ミャンマーでも、食品卸事業を展開しています。
また、ベトナムでは、家庭紙・段ボール原紙製造事業を買収し、同国の近代化に伴い増加する製紙需要に応えることで、人々の生活に貢献していきます。
一方、商業施設事業においても「モノ(物販)からコト(体験型)」という消費トレンドを踏まえ、日本では施設の運営力を活かして自社及び他店のバリューアップを図る事業モデルを確立し、培ったノウハウを活かして海外でも日本食のフードコート事業を担っています。
<産業基盤・都市開発>当本部では、長年手掛けてきた工業団地や住宅開発など都市インフラ開発事業から得られた実績・ノウハウ・ネットワークを基盤とし、“アセットの開発/保有~販売~アセットマネジメント~運営~関連サービス事業“というバリューチェーンを構築し、それぞれの機能を最大限発揮することによりバランスの良い収益基盤を積み上げています。今後も時代の変化・ニーズに柔軟に対応し、社会の発展に貢献します。
国内では、J-REIT運用事業や収益不動産の開発/保有により、アセットマネジメント、ウェアハウジング・ブリッジファンド、プロパティマネジメントなどのバリューチェーンを意識した各事業の拡大を図ります。また、働き方改革やSDGsなど時代の変化を意識した新規アセットの開拓やライフソリューション関連事業への取り組みの強化を図っていきます。
海外では、製造業の海外進出をサポートするべく、アジアを中心に工業団地の新規開発事業に引き続き注力すると同時に、既開発工業団地の電気・上下水道など基幹インフラの安定供給や物流・ITサポートなどの進出企業向け各種サービスを拡充し、収益源の多様化を図ります。また、中間層が増加するアジアを中心に、スマートシティなど将来の基礎収益拡大につながる都市開発事業に注力していきます。
(3) 利益配分に関する基本方針
当社の利益配分に関する基本方針につきましては、「第4 提出会社の状況 3 配当政策」をご参照下さい。
※将来情報に関するご注意
上記の文中における将来に関する事項は、現在入手可能な情報から当社が当期末現在において合理的であるとした判断及び仮定に基づいて記載しております。「2 事業等のリスク」に記載の要因及びその他の要因により、実際の連結業績は見通しとは異なる可能性があります。新型コロナウイルス感染症の拡大による影響については、2020年3月末時点において当社が把握している情報を基に、足元の状況が3ヶ月継続すると仮定して算出しております。今後の実際の感染拡大の収束時期や、内外主要市場の経済環境、為替相場の変動など様々な要因により、実際の業績等は大きく変動する可能性があります。
当社は、双日グループ企業理念、双日グループスローガンを掲げ、当社グループの事業基盤拡充や持続的成長などの「双日が得る価値」と、国、地域経済の発展や人権・環境配慮などの「社会が得る価値」の2つの価値の実現と最大化に取り組んでおります。
(双日グループ企業理念)
双日グループは、誠実な心で世界を結び、新たな価値と豊かな未来を創造します。
(双日グループスローガン)
New way, New value
(双日の価値創造モデル)
(2) 今後の見通し及び対処すべき課題
中期経営計画「中期経営計画2020」について
当社グループは、2018年4月からの3ヶ年計画である「中期経営計画2020」~Commitment to Growth~を策定し、計画の実現に向けた取り組みを推進しております。 本計画において、当社グループは、保有資産の価値拡大と共に、キャッシュ・フローをマネージした規律ある投融資(中期経営計画3ヶ年で合計3,000億円程度)の実行を継続することにより、着実な成長の実現を図ります。親会社の所有者に帰属する当期純利益(以下、当期純利益という)につきましては、中期経営計画期間中において前期比10%程度の成長を図り、最終年度に750億円以上とすることを目標としておりました。
「中期経営計画2020」の詳細は、当社ウェブサイト(https://www.sojitz.com)をご参照ください。
「中期経営計画2020」で目標とする経営指標は次のとおりです。
経営指標 | ROA | ROE | ネットDER | 連結配当性向 |
目標 | 3%超 | 10%超 | 1.5倍以下 | 30%程度 |
当社の株主資本コスト7~8%を踏まえ、経営指標としてROE目標を設定しております。また、ROE目標を達成するために、全社でのROA目標を定めると共に、各セグメントにおいても中期経営計画最終年度のROA目標を掲げております。
「中期経営計画2020」に掲げる持続的な成長に向けて、規律あるバランスシートとキャッシュ・フローマネジメントに取り組んでおります。優良な資産の積み上げと資産の入れ替えにより、キャッシュと利益を創出し、キャッシュを伴う利益で自己資本を積み上げ、創出されたキャッシュと、積み増しされた資本を基に、さらに良質な資産への投資と株主還元を行うといった、好循環サイクルを維持する取り組みを掲げております。成長のための投資を継続していくため、このサイクルの中で成長投資と株主還元は、期間収益と資産入替により創出されたキャッシュの範囲内でマネージしていきます。
バランスシートのマネジメントについては、良質な資産への投融資を行うだけではなく、継続的な資産の入れ替えや、資産と事業のバリューアップ、リスクリターンを踏まえた見直しを行うことで、収益性の向上につなげていきます。ネットDERについては、これまで通り、株価や為替の変動があったとしても、1.5倍以下を維持するよう、キャッシュのコントロールを意識していきます。
これらにより、バランスシートと、キャッシュ・フローでの規律を維持しながら、更なる成長を図っていきます。
「中期経営計画2020」の2年目である2019年度は、米中貿易摩擦・中国経済成長の鈍化から、先進国における経済成長の減速が継続しています。また、2020年に入り、新型コロナウイルスによる需要減退・諸産業における販売の大幅低迷など、影響が拡大しております。この様な経済環境において、当社グループの業績は、合成樹脂取引の減少やメタノール価格の下落などによる化学での減収や、海外石炭事業の販売価格下落などによる金属・資源での減収、自動車・リテール関連事業の販売低迷により、当期純利益は608億円、ROAは2.7%、ROEは10.2%となりました。
2021年3月期の見通しにおきましては、新型コロナウイルス感染症の影響による世界経済の減速が見込まれることから、2020年3月末時点において当社が把握している情報を基に、足元の状況が3ヶ月(2020年6月まで)継続する前提で見通しを策定しており、当期純利益は400億円、ROA1.8%、ROE6.8%を見込んでおります。
新型コロナウイルス感染症の影響を受ける主な事業は、国内外ロックダウン・外出自粛要請に伴う一部店舗閉鎖の影響を受ける自動車関連事業、産業減退に伴う素材関連の需要減少の影響を受ける鉄鋼関連・化学品といった素材関連事業及び国内外自粛要請に伴う一部商業施設・店舗閉鎖及び消費減退の影響を受けるリテール関連事業などがあり、当期純利益への影響は△230億円を見込んでおります。
「中期経営計画2020」に掲げる持続的な成長に向けて、3,000億円程度の投融資計画に基づき、優良案件を確実に積み増しております。2019年度は、自動車の販売金融会社のほか、太陽光、洋上風力などの再生可能エネルギー、通信タワーをはじめとするインフラ系、空港、商業施設などの投資を810億円実行いたしました。 なお、更なる成長に向けた取り組みとして、世界各国のスタートアップ企業を投資対象としたコーポレートベンチャーキャピタルを設立し、イノベーションの創出、機能の獲得・強化を進めております。
「中期経営計画2017」及び「中期経営計画2020」での投融資からの収益貢献について、実績と見通しの推移は以下の通りとなります。
こうした環境下、キャッシュ・フローのコントロール、全社ポートフォリオ・リスク分散の観点を意識し、2020年度及び将来の大きな収益貢献に繋がる優良案件に対する投融資実行を進めていきます。また、投資実行済の事業・資産のバリューアップを図ることで、持続的成長に向けた投融資の実行、優良資産の積み上げを積極的に進めていきます。
さらに、「中期経営計画2020」では、企業理念の実現と双日の持続的な成長のため、サステナビリティの考え方を従前以上に経営に取り込み、環境・社会に関わる課題解決と双日の事業の更なる融合促進を図るとの方針のもと、6つのサステナビリティ重要課題(マテリアリティ)に沿って、基盤、体制の整備を進めております。また、気候変動、人権などのグローバル課題への当社グループの長期的な取り組み姿勢として、長期ビジョン「サステナビリティ チャレンジ」を設定しております。(サステナビリティの取り組みについては、P.54をご参照ください)
低炭素・脱炭素に向けた取り組みにつきましては、2015年の第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定の要請を踏まえ、「サステナビリティ チャレンジ」で掲げる「事業を通じた脱炭素社会の実現」に向けて、再生可能エネルギー事業など気候変動対策に結びつく事業への取り組みを進めており、また、2019年度において一般炭権益を一部売却しております。
また、グローバルに事業を展開する中で、長期的に競争力を発揮し続けるため、性別、国籍、年代などを問わず、多様な人材の採用や育成、活用を進めています。また、これらの人材が、個々の能力を最大限に発揮し、組織の成果に貢献できるよう、制度・環境の整備に取り組んでおります。2020年3月には、女性活躍推進に優れた上場企業を表彰する「なでしこ銘柄」(経済産業省、東京証券取引所主催)に4年連続で選定されました。引き続き、多様な人材が最大限能力を発揮できる環境を整え、企業価値の向上へつなげていきます。
本部別の成長戦略は以下のとおりとなります。
<自動車>経済発展に伴うヒトとモノの移動はアジア・ラテンアメリカなどの新興国を中心にますます活発になり、これら地域の自動車需要は引き続き拡大することが見込まれます。また、電動化・自動運転化などの技術革新と共に、コネクティッドサービス・シェアリングサービスの登場など大きな変化の波が押し寄せています。
こうしたなか、知見を積み上げてきた自動車販売事業をコア事業として位置づけ、有望市場で新たな優良事業のM&Aによって事業領域の拡大を図ります。地域密着型のセールス・マーケティング力とアフターセールサービスの強化、IoT・AIなどの先進デジタル技術を取り入れた機能強化を通じた、事業のバリューアップを図ると共に販売金融事業の強化、時代の変化を捉えた新たなサービス事業の構築にも積極的に取り組んでいます。
また、地域に貢献する事業会社の経営を通じて、現場経験を蓄積した次代の経営人材の育成と、外部環境の変化に対応した新たな機能や事業を創出する開発人材の育成に取り組んでおり、持続的な成長を目指します。
新型コロナウイルス感染拡大の影響により自動車販売事業は一時的な停滞が見込まれますが、当社が培ってきた機能と地域密着型の事業基盤の更なる強化を図り、収束後の需要回復の確実な捕捉に向け取り組みを拡大して参ります。
<航空産業・交通プロジェクト>世界的規模での新型コロナウイルス感染症の拡大により航空機需要や交通・空港インフラ需要の急激な減速による影響は否めませんが、収束後の需要回復を見据えた打ち手を実施していきます。
当本部のミッションは、長年の航空機ビジネスで培ってきた機体メーカー、航空会社、空港事業者との信頼関係を基盤に、鉄道事業や船舶事業を加えたソリューションを創出し、国際社会のニーズに応えた新たな価値を提供することです。
そのためのアプローチとして、民間航空機代理店事業での豊富な実績を起点に航空機ビジネスのバリューチェーンを拡充し、加速していきます。経年機や退役機の中古部品を航空・整備会社に販売するパーツアウト事業はその象徴といえます。また、当本部は世界的に需要が高まるビジネスジェット事業に積極的に取り組んでいます。さらに、空港運営を中心に交通インフラ整備を進め、新興国をはじめとした国内外の地域活性化に貢献する事業を推進していきます。航空関連事業の環境激変への対応を強化すると共に、交通関連では、鉄道MRO事業の機能、規模の拡大を図っていきます。
<機械・医療インフラ>当本部は、医療インフラ事業部、先端産業・軸受部、産業機械・プラント部、機械商社である双日マシナリーの4つの営業組織から構成されています。その使命は、伝統あるプラントプロジェクト事業で培った国内外のパートナーとのネットワークと多彩な事業機能を活かして、世界各国の産業の礎となるインフラを構築することです。
トルコでのPPP型病院運営事業については、施設運営サービスを含めた収益モデルを確立していきます。さらに医療施設にとどまらず、ヘルスケアのカテゴリーへと視野を広げ、遠隔医療・介護分野などで新たな事業機会に取り組んでいます。
また、産業機械・ベアリングなどの既存事業において、新型コロナウイルス感染症の拡大により収益への一定の影響はありますが、両事業とも中国含め各市場での経済活動再開、需要回復を見極めつつ、アフターコロナを見据えた事業構造の変革及びAI・IoT、5Gなどのトレンドを踏まえた取り組みを拡大していきます。
新興国の経済発展を支えるプラント事業も、一時的には新型コロナウイルス感染症の拡大による政府承認などの遅れにより、全体スケジュールに遅れが生じる見込みではありますが、今後も継続的な需要の高まりは期待でき、着実な取り込みを図っていきます。地域社会の持続的な発展に貢献し、かつ日本企業が得意とするプラスチックリサイクルなど、環境対応を切り口としたプロジェクトにも注力していきます。
<エネルギー・社会インフラ>世界のエネルギー情勢は、新型コロナウイルス感染症の拡大と米国シェール革命を背景とした需給バランスの急変により、ますます将来を見通すことが難しくなっています。一方、そのような状況下においても「低炭素化」の流れは不可逆的に進行し、天然ガス・LNG、及び再生可能エネルギーの利用拡大は継続すると考えています。
こうした事業環境の変化に対応すべく、LNG事業と発電事業で培った知見を融合して、アジア新興国にてLNG調達から受入基地・発電所の建設・運営までの一体型事業に取り組んでいます。米国ではシェールガスを利用した最新鋭ガス火力発電を推進する事で電力安定供給と環境負荷低減の両立を目指します。再生可能エネルギー分野では、太陽光発電事業での知見を応用して、欧州や米国での陸上風力、台湾での洋上風力、国内バイオマス発電への参入を果たし、着実に事業を拡大しています。
情報通信分野では、先進国における5G通信やAI・IoT利用の拡大、新興国での高速通信需要の高まりにより、データ通信・処理関連のインフラ整備が重要となっています。当社グループは国内で大規模データセンターを運営しており、新たにミャンマーでの通信タワー事業に参画するなど、同分野での事業拡大を目指しています。
私たちの使命は、「安心・安全・快適」を約束する高度な社会インフラ整備を進める事です。そのために、価値観を共にする国内外の優良パートナーと協調し、世界各国の産業社会の発展に貢献していきます。
<金属・資源>当本部は、中期経営計画2020の重要なテーマとして、市況に左右されにくい安定収益基盤の構築及び地球環境に配慮した低炭素社会の実現を目指して、三つの成長戦略を掲げています。
一つ目は、中長期的な社会ニーズや環境変化への対応をテーマに、新たな事業領域へ挑戦していくことです。
二つ目は、国内及び新興国向けトレードの維持拡大を目指し、環境負荷低減に向けた事業・商品の取り扱いなど機能強化を通じてお取引先のニーズに応えていくことです。
三つ目は、上流権益において、既存プロジェクトの効率化や優良資産への入れ替えにより、低市況下でも利益を生む資産ポートフォリオを構築していくことです。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、国内外を問わず、業界・商品においても生産減や物流停滞などの影響がありますが、収束後のスムースな活動再開、今後の変化への対応と収益機会の追求・実現に努めます。
<化学>化学分野のサプライチェーンは裾野が広く、自動車産業をはじめとして新型コロナウイルス感染症の影響を受け、一時的に各素材の需要は大きく減少しています。原油価格下落に伴い各商品の市況も下落傾向にありますが、強みである事業基盤とマーケティング機能を活かし、中国をはじめとした経済活動の再開、需要回復のタイミングを見据え迅速かつ柔軟に対応していきます。
世界の化学産業の供給構造は、大きな転換期にあり、また、アジアを中心とした新興市場における中間所得層の増大による消費財需要の拡大や、環境問題に対する新製品や技術の開発が進むなど、市場のニーズも絶えず変化を続けています。既存事業の強みを磨きつつ、SDGs・ESGへの取り組みを深化させ、プラスチックリサイクル、バイオケミカル分野において、新しい技術を活用した新たな事業を築いていきます。
<食料・アグリビジネス>東南アジアでは、人口増加や経済発展に伴い、ライフスタイルの多様化と食料需要の増加が同時に進んでいます。当本部では、この急速な変化を成長につなげていくために、食料・農関連事業を通じて、収益力の強化・拡大を目指しています。
アグリビジネス事業では、タイ、フィリピン、ベトナムでトップクラスの市場シェアの肥料事業を運営しており、この強みを活かして、ミャンマーなどの周辺国での事業展開を進めています。また、農業に関連する事業にも挑戦していきます。
食料事業では、小麦などの原料供給と製品販売に加えて、アジアでの製粉、製パン、製菓事業などの展開に注力しています。例えば、フィリピンにおいては2017年に製粉会社、食料原料卸会社、製パン会社を設立しました。ベトナムでは2007年から製粉会社に参画しています。
水産事業では、養殖から加工・販売までのマグロのバリューチェーンを、国内外での加工卸事業の推進により強化していきます。また、飼料事業では、ベトナムで港湾事業への参画や飼料製造事業の運営などを行っており、これらを活用して今後の畜産需要の増加に対応していきます。
さらに、他本部で運営している惣菜、食品卸、コンビニなどベトナムを基盤とした事業との連携、及び現地有力パートナーとの協業を通じて、同国やASEAN地域を中心としたグローバルな展開を進めていきます。
<リテール・生活産業>新型コロナウイルス感染症の拡大により、世界的にロックダウンや緊急事態宣言が発令され、消費が大きく低迷しました。一方で、ライフスタイル及び消費トレンドに大きな変化をもたらし、これまで以上に消費者の嗜好・ニーズが多様化していく転換点として捉える事もできます。当本部は、消費市場の“お客様起点のビジネス”にこだわり、「生活の豊かさ」と「利便性」を高める多様な事業を展開し続けて行きます。なかでも、経済成長が続くASEANでの事業拡大、機能の強化は今後の成長戦略の柱となるものです。ベトナムでは、食品卸事業に参入後、四温度帯倉庫事業、コンビニエンス事業、総菜事業のチェーンを構築すると共に、タイ、ミャンマーでも、食品卸事業を展開しています。
また、ベトナムでは、家庭紙・段ボール原紙製造事業を買収し、同国の近代化に伴い増加する製紙需要に応えることで、人々の生活に貢献していきます。
一方、商業施設事業においても「モノ(物販)からコト(体験型)」という消費トレンドを踏まえ、日本では施設の運営力を活かして自社及び他店のバリューアップを図る事業モデルを確立し、培ったノウハウを活かして海外でも日本食のフードコート事業を担っています。
<産業基盤・都市開発>当本部では、長年手掛けてきた工業団地や住宅開発など都市インフラ開発事業から得られた実績・ノウハウ・ネットワークを基盤とし、“アセットの開発/保有~販売~アセットマネジメント~運営~関連サービス事業“というバリューチェーンを構築し、それぞれの機能を最大限発揮することによりバランスの良い収益基盤を積み上げています。今後も時代の変化・ニーズに柔軟に対応し、社会の発展に貢献します。
国内では、J-REIT運用事業や収益不動産の開発/保有により、アセットマネジメント、ウェアハウジング・ブリッジファンド、プロパティマネジメントなどのバリューチェーンを意識した各事業の拡大を図ります。また、働き方改革やSDGsなど時代の変化を意識した新規アセットの開拓やライフソリューション関連事業への取り組みの強化を図っていきます。
海外では、製造業の海外進出をサポートするべく、アジアを中心に工業団地の新規開発事業に引き続き注力すると同時に、既開発工業団地の電気・上下水道など基幹インフラの安定供給や物流・ITサポートなどの進出企業向け各種サービスを拡充し、収益源の多様化を図ります。また、中間層が増加するアジアを中心に、スマートシティなど将来の基礎収益拡大につながる都市開発事業に注力していきます。
(3) 利益配分に関する基本方針
当社の利益配分に関する基本方針につきましては、「第4 提出会社の状況 3 配当政策」をご参照下さい。
※将来情報に関するご注意
上記の文中における将来に関する事項は、現在入手可能な情報から当社が当期末現在において合理的であるとした判断及び仮定に基づいて記載しております。「2 事業等のリスク」に記載の要因及びその他の要因により、実際の連結業績は見通しとは異なる可能性があります。新型コロナウイルス感染症の拡大による影響については、2020年3月末時点において当社が把握している情報を基に、足元の状況が3ヶ月継続すると仮定して算出しております。今後の実際の感染拡大の収束時期や、内外主要市場の経済環境、為替相場の変動など様々な要因により、実際の業績等は大きく変動する可能性があります。