有価証券報告書

【提出】
2024/06/28 16:01
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【項目】
143項目

対処すべき課題

文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 経営の基本方針
当社グループは、オフィスビルの賃貸を主な事業とし、「ビルを造り、街を創り、時代を拓く」という経営理念のもと、誠実を旨に顧客重視の良質なオフィススペースを提供し、経済社会の発展に貢献するとともに、収益の向上に努め企業価値を高めていくことを目指しております。上記の理念の具現化に向け、「ミッションステートメント」、「グループメッセージ」、「グループ行動規準」を制定し、グループ社員全員が掲げる使命及び行動指針を明確にしています。
(2) 中長期的な経営戦略
当社グループは、2023年度を初年度とする「ダイビルグループ中長期経営計画2035 BUILD NEXT.」(2023年度~2035年度)を策定いたしました。本経営計画は、2023年10月に当社創立100周年を迎え、当社グループの次なる100年を見据え、2035年をゴールとする経営ビジョン・方向性を示すものです。
<2035年のビジョン・ありたい姿>・オフィス賃貸事業の安定的な成長に加えて、アセットタイプの多様化や事業の多角化による一層の成長を実現し、人々がもっと愉しさと誇りを感じる“街創り”を推進していきたい。
・街創りや新たな価値創造により、顧客やグローバル・ローカル社会とともに社会課題の解決に向けて“時代を拓いて”いきたい。
●3つの事業戦略
①国内事業戦略
(a)新規物件の取得
都心・地方大型オフィス、都心型商業ビル、都心中小型オフィス、SPC・エクイティ出資
(b)既存物件の建替・リニューアル推進
八重洲ダイビル、御堂筋ダイビル
(c)アセットタイプ拡充の検討
オフィス、都心型商業ビル、ホテルに加え、物流施設、データセンター、レジデンス、シニア施設 等
(d)再開発・街創り
札幌PIVOT再開発、既存物件の建替・周辺地域を巻き込んだ再開発
②海外事業戦略
(a)既投資国への投資拡大
ベトナム、豪州
(b)新規投資国への投資
東南アジア、インド等成長地域への投資
(c)海外新規投資(手法・取組)
海外オフィスファンドへの投資 (d)商船三井との協業
地域ネットワークの活用、海運ビジネスとの連携
③新規事業戦略
(a)新規ビジネス
シェアオフィス、CVC(㈱MOL PLUS(商船三井100%子会社のCVC)との協業)
(b)ノンアセット事業
PM・BM等のフィービジネス拡大
(c)ビジネスモデルの多角化
ファンド・AM事業等
●戦略促進のための触媒
①商船三井グループとのシナジー
②環境・サステナビリティ
③DX
●5つの事業基盤
①テナントリレーション(営業力)
②安心・安全の追求
③財務戦略
④組織・制度・ガバナンス
⑤人材開発・育成
(3) 目標とする経営指標
上記戦略を推進する上で不可欠な物件取得機会を逸することがないよう、機動的な資金調達を可能とする一定の財務規律を維持しつつ、中長期的視点に基づくキャッシュ・フロー拡大と資産効率向上を通じ、更なる業績拡大を目指してまいります。経営計画におきましては以下の経営指標を目標に掲げております。
2035年度 税引前利益 250億円
総資産目安 1兆円(計画期間中の総投資額目安7,000億円)
(4) 優先的に対処すべき課題
●目下の経営環境についての認識
わが国経済は、経済社会活動の正常化が一層進み、個人消費の回復やインバウンド需要の拡大などにより、景気の回復が継続することが期待されるものの、物価高の影響、賃上げや金利の動向、世界経済の減速リスク等を
引き続き注視する必要があり、先行きは不確実性の高い状況が続くものと思われます。
オフィスビル業界におきましては、国内における不動産価格の高騰や少子化によるオフィスワーカーの減少懸念といった予てからの認識に加え、ポストコロナ時代における人々の価値観や行動の変容、DXの進展、テレワークの普及等の働き方の多様化、サステナビリティ課題解決への社会的要請の高まり等を踏まえ、ポストコロナ時代の顧客ニーズを捉えたオフィスを提供していくことが更に重要になってまいります。また、投資においてもこれまで以上に今後の環境変化やニーズの動向を見据えた的確な判断が求められます。
かかる環境下にあるものの、当社が今後も成長し企業価値を向上させていくためには、適切な投資を継続することが不可欠であり、現経営計画で掲げる各施策につき、慎重を期しつつ着実に進めてまいります。
●優先的に対処すべき課題
以上のような経営環境の認識にたち、経営計画において掲げた施策の遂行のため、以下①~④を特に優先的に対処すべき課題ととらえ、取り組みに注力しております。
①国内事業戦略の推進
当社グループの国内における保有アセットは東京・大阪に集中し、また、大半が大型のオフィス用途となっております。経営計画における国内事業戦略では、新規物件の取得、既存物件の建替・リニューアル、アセットタイプの拡充、再開発・街創りに注力する方針を掲げております。新規物件取得では、2022年度の「大手町ファーストスクエア」、「大手門タワー・ENEOSビル」の一部持分取得に続き、2023年度は交換による「楽天クリムゾンハウス青山」の一部持分取得や「虎ノ門ダイビルイースト」の取得を行いました。引続き、規模・用途・地域について投資対象を広げることにより、投資の実現性を向上させるとともに、取得・開発した物件の収益性を最大限に高めてまいります。既存物件の建替・リニューアルでは、2024年1月に御堂筋ダイビルを竣工しました。足許では八重洲ダイビルの建替えプロジェクトを推進中です。アセットタイプの拡充では、当社のメインビジネスであるオフィスビルや商業ビル、ホテルに加え、物流施設やデータセンター事業、レジデンス、シニア施設への参入を検討しております。再開発・街創りでは、札幌ダイビル再開発プロジェクトの他、既存物件の隣地を巻き込んだ再開発に継続的に取組んでおります。
②海外事業戦略の推進
国内においては上記①のとおり、対象を拡充することで投資実現性を高める戦略を掲げる一方で、海外においては既存投資国への投資拡大に加え、新規投資国への投資による成長戦略を描いております。
既存投資国であるベトナムにおいては、2012年にホーチミン市の「サイゴン・タワー」、2014年にハノイ市の「コーナーストーン・ビルディング」と、ベトナム2大都市における好立地Aグレード・オフィスビルを取得し、当社社員を現地のビル保有・運営会社に派遣し日本国内に準じたオフィス賃貸サービスを提供することでテナント及び市場から高い評価を受けております。2023年度にはハノイ中心地区Aグレードビル「63 Ly Thai To」のメジャー持分を取得するなど、ベトナムにおける日系オフィスビル事業者のパイオニアとして同国で着実に事業基盤を築いております。
ベトナムに続く当社海外事業の第二の軸が豪州となります。豪州は先進国でありながら安定した経済成長・人口増加が期待でき、不動産マーケットの透明性・流動性も高いことから当社は同国を投資有望国と位置づけ、2018年にシドニー「275 George Street」開発プロジェクトを取得いたしました。2019年には現地駐在員を派遣し、2020年に完工した「275 George Street」の運営を行うとともに新規投資案件の開拓を進めてきました。2023年5月に豪州大手不動産開発会社Mirvac Limitedがメルボルン中心地区で推進しているオフィスビル開発プロジェクトへの参画を決定し、同社との間で共同事業契約を締結いたしました。2025年末のオフィスビル竣工を目指し、同社と共同でAグレード・オフィスビルの開発を進めております。また、同年8月には同社が運営するオフィスビルファンド「Mirvac Wholesale Office Fund」に出資しており、同社との協業深化を通じ、当社豪州事業を強化してまいります。
海外事業の推進は経営計画において主要戦略の一つであり、当社の100%株主である株式会社商船三井の海外ネットワークも活用し、インドなどの新規投資国への進出を推進することで、これまで以上に海外投資を加速させてまいります。
③新規事業戦略の推進
上記の国内・海外事業戦略の推進に加え、将来的に新たな事業の柱となる新規事業戦略にも積極的に取組んでおります。具体的にはファンドやAM事業立ち上げなどビジネスモデルの多角化を検討するほか、テナントリーシングのノウハウを生かしたPM・BMフィービジネスの拡大に注力いたします。
また、シェアオフィスやCVCといった新規ビジネスにも積極的に取組んでまいります。シェアオフィスについては、2024年5月に当社初のシェアオフィス「ouno御堂筋」を開業することを決定しました。CVC事業では、商船三井CVC(MOL PLUS)と当社CVCの協働運営を開始し、「MOL PLUSダイビルデスク」を新たに設置しました。ダイビルデスクでは不動産テック、スマートシティ、環境サステナビリティ、DX等のスタートアップ企業への出資・支援を通じた不動産事業のアップグレード・新規事業創出で「新しい街創り」を目指します。
④事業基盤の維持・強化
経営計画では、上述の3つの事業戦略を促進するための触媒として、商船三井グループとのシナジーの創出、環境・サステナビリティ、DX推進を位置付けております。
商船三井グループとのシナジーにおいては、商船三井グループの経営資源を活用することで、当社の強みである国内オフィス賃貸事業の成長投資のみならず、オフィスマーケット拡大が期待される海外地域での事業拡大に取組み、持続的な企業価値向上に努めてまいります。
環境・サステナビリティへの取組においては、2021年9月に策定・公表したマテリアリティを踏まえ、国内及びベトナムに保有するすべてのビルにCO2フリー電力(注)を導入するなど、事業を通じて脱炭素社会の実現に寄与し、もって差別化を図る取組を進めております。
DX推進においては、オフィス賃貸事業やビル管理事業でのDXツールの導入を検討するほか、当社グループの働き方改革に活用する方針です。
また、事業戦略を支える事業基盤として、テナントリレーションの強化、安心・安全の追求、財務戦略、組織・制度・ガバナンスの強化、人材開発・育成を掲げております。
(注)非化石証書の使用による実質的に再生可能エネルギー由来の電力。なお、建替予定ビル及び当社が電力需給契約を締結していないビルを除く。