有価証券報告書-第99期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/26 14:29
【資料】
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【項目】
181項目
文中の将来に関する事項は、当報告書提出日現在において当社グループが判断したものです。
(1) 経営の基本方針
当社は、グループ経営の方向性を明確にするために、当社グループが事業を通じて果たすべき役割・責任や社会に存在する意義を示した「グループ経営理念」を掲げ、この理念を実現しグループ価値の最大化を図ることを経営の基本方針としています。
「グループ経営理念」の内容は以下のとおりです。
<グループ経営理念>
1 経営理念
小田急グループは、お客さまの「かけがえのない時間(とき)」と「ゆたかなくらし」の実現に貢献します。
2 行動指針
私たちは、経営理念の実現のため、3つの精神を忘れることなく、お客さまに「上質と感動」を提供します。
(真摯)
私たちは、安全・安心を基本にすべての事業を誠実に推進します。
(進取)
私たちは、前例や慣習にとらわれず、よりよいサービスの追求に挑戦します。
(融和)
私たちは、グループ内に留まらない外部との連携、社会・環境との共生に取り組みます。

当社では、事業環境の変化に対応し、グループ経営理念の実現とさらなる事業成長を遂げるため、2020年度までに取り組むべき方向性を示した「長期ビジョン2020」を策定しています。
当社グループは、「グループ経営理念」および「長期ビジョン2020」にしたがって、グループ各社がそれぞれの役割を確実に実行するとともに、グループの協働を通じて将来にわたる
キャッシュ・フローを最大化させ、企業価値の向上を目指してまいります。
<長期ビジョン2020>① 基本方針
「わたしたちの挑戦」
経営理念である『お客さまの「かけがえのない時間(とき)」と「ゆたかなくらし」の実現』に向けて、2020年度までに事業基盤をより強固なものとし、成長の種を蒔き育て、躍動的な企業グループを目指して、挑戦します。

② グループ成長戦略
基本方針を踏まえ、2つのテーマおよび当社グループのありたい姿を示す「未来
フィールド」を設定し、沿線の既存事業に再投下すべき資本を継続的に確保するととも
に、沿線外への進出や新規事業の開発に対する資本も確保し、新たな収益源を獲得していくこ
とで、経営理念の実現に向けた強固な成長サイクルを確立します。

テーマⅠ 沿線における複々線完成後のグループ収益を最大化する

複々線完成という大きな機会を捉え、強みのある既存事業やターミナル駅周辺再開発の推進を通じて沿線の魅力を高めるとともに、人口流入を促進することで、グループ各事業の主戦場である沿線エリアの事業基盤を磐石なものとします。
テーマⅡ 2020年度までに成長の種を蒔き育てる

市場での成長性や競争力の高い事業については、外部パートナーとの連携やM&A等を通じて、沿線外や海外の優良なマーケットエリアに進出し、事業規模を拡大します。同様に、新規事業についても、外部パートナーとの連携やM&A等を通じて、変化するお客さまのニーズを捉え、既存事業周辺で不足しているグループ機能を充足させるなど、開発を推進します。
当社グループは、複々線での営業運転開始という大きな節目を迎えましたが、今後ま
すます不確実性が高まると予測される事業環境において、時代の変化へ対応し「新しい小田急」
へと変革していくためには、既存の枠組みや考え方に捉われず、将来のありたい姿を描いたうえ
で、その実現に向けた挑戦を繰り返すことが必要と考えています。こうした認識のもと、当社
グループが取り組むべき新たな方向性について、当社グループの各社・各組織の社員で討議を重
ね、5つの「未来フィールド」を設定しました。「未来フィールド」は、当社グループが
「お客さまや社会にどのような価値を生み出していきたいのか」、「そのために自らがどのよう
な組織でありたいか」という当社グループのありたい姿を示すものであり、各未来フィールドが
目指すありたい姿は以下のとおりです。
モビリティ × 安心・快適 ~新しい“モビリティ・ライフ”をまちに~

90年間積み上げてきた安心・快適という普遍的な価値を揺るぎない土台としながら、これからのテクノロジーを活かして、「会いたいときに、会いたい人に、会いに行ける」、次世代の“モビリティ・ライフ”をまちに生み出します。
まちづくり × 愛着 ~まちの“新しい物語”を紡ぎ出す~

まちの個性や特徴を活かした職、住、商、学・遊のシーンを創り出し、まちとつながる愛着や誇りをお客さまとともに育みます。お客さまや地域社会の課題解決を通じて、まちの“新しい物語”を紡ぎ出していきます。
くらし × 楽しさ ~何気ない日々に“心が動く瞬間”を~

変化するトレンドや多様化するお客さまの欲求をスピーディーに捉え、スポーツや音楽、食事、買い物など、何気ない日々を彩る時間や空間をさまざまなパートナーと共創することにより、安心感を上回る“心が動く瞬間”を演出していきます。
観光 × 経験 ~ここでしか得られない“特別な想い出”を~

地域の方々とともにその土地ならではの過ごし方や楽しみ方を発掘し、日本はもちろん、世界から訪れるゲストに“特別な想い出”として心に残る経験のお手伝いをすることで、日本、地域、まちの発展に貢献していきます。
わくわく × イノベーション ~いつの時代もお客さまに“わくわく”を~

社員一人ひとりが、主体性と創造性と情熱を解放し、“わくわく”をアイデアの源泉とします。お客さまに新たな価値をお届けするために、いつの時代も変化を楽しみ、未知への挑戦を続けます。
③ 目標とする経営指標
新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年度の連結数値目標として掲げていた
「EBITDA 1,092億円、有利子負債/EBITDA倍率 7.0倍」の達成は困難なも
のの、各事業における収支構造の改善施策や、投資案件のこれまで以上の選別等に取り組んで
まいります。また、ROA・ROEについても注視し、効率的な経営に努めてまいります。
(2) 経営環境及び優先的に対処すべき課題
① 長期ビジョン2020の実現
当社グループでは、新型コロナウイルス感染症の流行により、足元では当社鉄道事業における輸送人員の減少など業績への影響が生じています。
また、感染症が収束した後も、感染症の影響により生じた顧客の行動変容の一部は不可逆的なものになり得ると捉えており、中長期的に当社グループの事業に影響を与えると予見しています。このほか、当社沿線人口の減少やテクノロジーの進展等により、今後の事業環境の不確実性はより一層大きくなっていくものと捉えています。
当社グループでは、事業環境の変化に対応し、グループ経営理念の実現とさらなる事業成長を遂げるため、2020年度までに取り組むべき方向性を示した「長期ビジョン2020」を策定しています。その中では、事業環境の変化を確実に予測できないため、自らが社会や顧客に提供していきたい価値(ありたい姿)を描き、それに近付くための挑戦を繰り返していく必要があると考えています。そして、「お客さまや社会にどのような価値を生み出していきたいのか」、「そのために自らがどのような組織でありたいか」を表す5つの「未来フィールド」を掲げ、その実現に向けて挑戦を繰り返していくことを中期的な経営の方向性としています。
感染症等の影響により、当社を取り巻く事業環境の不確実性が増していく中だからこそ、引き続き未来フィールドの実現に向けた取り組みを以下のとおり進めてまいります。
モビリティ × 安心・快適 ~新しい“モビリティ・ライフ”をまちに~

今後の具体的な取り組みとして、鉄道事業において、複々線効果を踏まえた増収施策実施による鉄道利用の増加、ホームドアの整備等による安全性の向上、および本年4月より経堂駅、祖師ヶ谷大蔵駅にて運用中のディープラーニング技術を活用した「転落検知システム」等、先進的な技術による高度化・省力化を推進してまいります。また、自動運転バスや利用者のリクエストに応じて運行するオンデマンド交通の実証実験を行うとともに、昨年10月にサービスインした複合経路検索機能や電子チケット発行サービスを備えるMaaSアプリケーション「EMot(エモット)」の更なる機能拡張を行うなど、次世代のテクノロジーを活用した移動サービスの実現に向けた取り組みも強化してまいります。
まちづくり × 愛着 ~まちの“新しい物語”を紡ぎ出す~

今後の具体的な取り組みとして、行政・周辺事業者との間で再開発に向けた協議が進捗する新宿西口や向ヶ丘遊園跡地で、まちの個性や特徴を活かした開発計画を推進します。また、海老名エリアにおいて、神奈川県央地区最大規模のオフィスビル等の建設を進めるとともに、東北沢駅~世田谷代田駅間の地下化により創出された線路跡地「下北線路街」において、昨年11月の商業施設「シモキタエキウエ」オープンに引き続き、温泉旅館や学生寮を整備します。さらに、不動産業において、新規物件の開発・取得を通じた事業規模拡大を図るとともに、本年4月に新設した㈱小田急SCディベロップメントへの商業施設運営事業の集約等に引き続き、専門性強化や運営コスト低減等の実現に向け、グループ各社の組織能力向上に努めてまいります。
くらし × 楽しさ ~何気ない日々に“心が動く瞬間”を~

今後の具体的な取り組みとして、小田急商事㈱において、マーチャンダイジングの連携等を目的とした㈱セブン&アイ・ホールディングスグループとの人的交流や、セブン‐イレブンの店舗拡大を推進します。また、海老名駅隣接地において、私鉄系鉄道博物館で最大規模となるジオラマを設置するなど、子どもから大人まで多世代が楽しめる「ロマンスカーミュージアム」の開業準備や、スポーツ競技団体等のパートナーとともに2027年度までにスポーツ関連の100のエンターテインメントコンテンツ創出を目指すプロジェクト「OSEC100(オーセックヒャク)」を進めてまいります。
観光 × 経験 ~ここでしか得られない“特別な想い出”を~

今後の具体的な取り組みとして、箱根登山鉄道㈱において、昨年の台風19号による影響で運休している箱根湯本駅~強羅駅間の本年7月下旬の運転再開を目指し、復旧工事を推進します。また、小田急箱根グループ各社において、早雲山新駅舎および同駅舎内での展望デッキや足湯を備
えた新スポット「cu-mo箱根(クーモハコネ)」をオープンするなど設備投資を進めるほ
か、箱根、江の島エリアでの夜間の観光需要喚起に向けたイベントを継続的に実施してまいりま
す。さらに、「ONSEN RYOKAN 由縁 札幌」等、地域ならではの魅力を体現するホ
テルの出店準備を進めてまいります。
わくわく × イノベーション ~いつの時代もお客さまに“わくわく”を~

今後の具体的な取り組みとして、新たな資源の使用や廃棄物を減らす循環型の経済システムであるサーキュラーエコノミーの事業化に向け、座間市内での資源物収集のスマート化に関する実証実験を端緒に、その検討を深度化するなど、SDGs(持続可能な開発目標)を起点とした新規事業創造に努めてまいります。また、働き方改革や業務効率化および多様な人材が活躍できる基盤づくり等を通じて、社員一人ひとりの考え方や能力等を最大限に活かすための環境整備を推進してまいります。
このほか、新たな価値提供に向けた取り組みとして、引き続きオーストラリア・シドニー郊外での宅地開発等の海外事業展開に努めてまいります。
② 社会的責任を果たすための取り組み
当社グループでは、経営理念の実現を通じて社会とともに持続的に発展していくことが社会的責任(CSR)であると捉えており、以下の内容に重点的に取り組んでまいります。
運輸業は、安全を第一に快適で良質な輸送サービスを提供することが最も重要な社会的責任であると捉え、各社で制定している「安全管理規程」に基づき、安全の重要性を強く認識し日々の業務にあたるとともに、事故防止対策を含めた安全管理体制の継続的な確認や見直し・改善を実施するほか、施設面についても安全の質を高める諸施策に積極的に取り組んでまいります。今後は、ホームドアについて、1日の利用者数10万人以上の駅へ優先して設置することを予定しており、更なる安全性の向上を図ってまいります。また、昨年6月に開講した安全啓発施設「安全深思塾」での啓発プログラムの実施により、鉄道係員の安全意識の更なる醸成に努めてまいります。
さらに、環境面の取り組みについては、「小田急グループ環境戦略」に基づき、当社において、地球温暖化対策や列車運行に係る騒音・振動の低減策を進めるなど、環境負荷の低減に向けて引き続き注力するとともに、沿線各地の豊かな自然環境を活かした地域団体との協働等を通じて自然との共生にも鋭意取り組んでまいります。
このほか、沿線における将来の人口動態を見据え、幅広い世代に対する暮らしやすい環境の整備にも引き続き努めてまいります。
なお、新型コロナウイルス感染症について、事業継続計画(BCP)に基づき、当社内に総合対策本部を設置し、事業継続に必要な対応を推進しています。具体的には、当社において、公共交通機関としての社会的使命を果たすべく、お客さまおよび従業員への感染防止に努めながら、安全・安定輸送を継続しています。また、グループ各社においても、行政からの要請に対応すべく、臨時休業や営業時間の短縮を行っています。今後も、各事業で感染防止策を実施するほか、想定される厳しい事業環境を乗り越えるべく、グループが一丸となって適時適切な事業運営に努めてまいります。
これらの諸課題を着実に遂行することで、「日本一暮らしやすい沿線」を目指してまいりま
す。