有価証券報告書-第33期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/23 11:54
【資料】
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【項目】
171項目

対処すべき課題

文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(1) 会社の経営の基本方針
当社は、「日本の大動脈と社会基盤の発展に貢献する」という経営理念のもと、鉄道事業において、安全・安定輸送の確保を最優先に、お客様に選択されるサービスの提供、業務効率化等について不断の取組みを行うことにより、日本の大動脈輸送を担う東海道新幹線と東海地域の在来線網を一体的に維持・発展させることに加え、大動脈輸送を二重系化する中央新幹線の建設により、「三世代の鉄道」を運営するということを使命としており、これを長期にわたり安定的に果たし続けていくことを基本方針としています。
当社グループとしても、名古屋駅におけるJRセントラルタワーズ・JRゲートタワーの各事業展開に代表されるように、鉄道事業と相乗効果を期待できる事業分野を中心に事業の拡大を推進し、グループ全体の収益力強化を図ります。
(2) 中長期的な会社の経営戦略
当社グループの中核をなす鉄道事業においては、長期的展望を持って事業運営を行うことが極めて重要であり、経営基盤の強化を図りながら、主要プロジェクトを計画的に推進しています。
東海道新幹線については、これまで安全で正確な輸送を提供するとともに、不断に輸送サービスの充実に向けた取組みを進めてきました。今後についても、安全・安定輸送の確保を最優先に、引き続き東海道新幹線全線を対象とした脱線・逸脱防止対策をはじめとする地震対策を推進するとともに、土木構造物の健全性の維持・向上を図るため、大規模改修工事を着実に推進します。また、車種統一に伴う全列車の最高速度285km/h化等により3月に実現した「のぞみ12本ダイヤ」の活用に取り組むとともに、N700Sの投入を開始するなど、東海道新幹線のさらなる輸送サービスの充実に向けて取り組みます。
超電導磁気浮上式鉄道(以下「超電導リニア」という。)による中央新幹線については、当社の使命であり経営の生命線である首都圏~中京圏~近畿圏を結ぶ高速鉄道の運営を持続するとともに、企業としての存立基盤を将来にわたり確保していくため計画しているものです。現在この役割を担う東海道新幹線は開業から50年以上が経過し、鉄道路線の建設・実現に長い期間を要することを踏まえれば、将来の経年劣化や大規模災害に対する抜本的な備えを考えなければならない時期にきています。また、東日本大震災を踏まえ、大動脈輸送の二重系化により災害リスクに備える重要性がさらに高まっています。このため、その役割を代替する中央新幹線について、自己負担を前提として、当社が開発してきた超電導リニアにより可及的速やかに実現し、東海道新幹線と一元的に経営していくこととしています。このプロジェクトの完遂に向けて、鉄道事業における安全・安定輸送の確保と競争力強化に必要な投資を行うとともに、健全経営と安定配当を堅持し、柔軟性を発揮しながら着実に取り組みます。その上で、中央新幹線の建設の推進を図るため、財政投融資を活用した長期借入を行ったことを踏まえ、まずは品川・名古屋間の工事を進め、開業後連続して、名古屋・大阪間の工事に着手し、早期の全線開業を目指して、取組みを進めます。
また、このプロジェクトは自己負担により進めるものであり、建設・運営・保守など全ての場面におけるコストについて、社内に設置した「中央新幹線工事費削減委員会」で検証し、安全を確保した上で徹底的に圧縮して進めるとともに、経営状況に応じた資源配分の最適化を図るなど柔軟に対応していく考えです。
鉄道以外の事業においても、「会社の経営の基本方針」に則り、諸施策を着実に推進することにより、グループ全体の収益力の強化に取り組みます。
(3) 会社の対処すべき課題
日本経済の先行きは新型コロナウイルス感染症の影響による極めて厳しい状況が続くことが見込まれています。こうした状況のもと、当社グループは、「会社の経営の基本方針」に基づき諸施策を推進します。当面厳しい経営環境が続くものの、引き続き新型コロナウイルスの感染防止に取り組みながら輸送機関としての役割を果たしていきます。また、安全・安定輸送の確保を最優先にサービスの向上を図り、業務執行全般にわたる効率化・低コスト化に努めて、感染収束後の収益回復・拡大に備えていきます。重点的に取り組む施策は、以下のとおりです。
鉄道事業においては、東海道新幹線の脱線・逸脱防止対策について、脱線防止ガードの全線への敷設を進めるとともに、地震による駅の吊り天井の脱落防止対策や名古屋工場、在来線の高架橋柱等の耐震化を進めるほか、東海道新幹線の大規模改修工事について、技術開発成果を導入し、施工方法を改善するなどコストダウンを重ねながら着実に進めます。また、台風や豪雨等により列車運行に大きな影響が予想される場合に、安全を最優先に、早期に抑止することを含めて適切な運行計画を決定し、抑止後には速やかに安全を確認した上で運転再開を行うとともに、より適時かつ的確な案内情報の提供に取り組むほか、ハザードマップ等を踏まえ、諸設備の自然災害対策について検討を行います。さらに、東海道新幹線において特大荷物置場の事前予約制や駅防犯カメラを一元的に監視する体制を開始するなど駅や車内等におけるさらなる安全の確保及び円滑な輸送の提供に努めます。
東海道新幹線については、車種統一に伴う全列車の最高速度285km/h化等により実現した「のぞみ12本ダイヤ」の活用に取り組みます。また、地震ブレーキ距離の短縮や状態監視機能の強化等による安全性・安定性の向上や、バッテリ自走システム等による異常時対応能力の強化等を実現するN700Sについて、7月に営業運転を開始します。
在来線については、安全性・安定性のさらなる向上等を実現した新形式の通勤型電車315系の新製に向けて設計等の諸準備を進めます。また、東海道本線(大府駅~岡崎駅間)、関西本線(名古屋駅~桑名駅間)に、集中旅客サービスシステムの導入駅を拡大します。
営業施策については、「エクスプレス予約」及び「スマートEX」の便利さを知っていただき、より多くのお客様にご利用いただけるよう取り組むとともに、観光でのご利用拡大に向けて、需要の喚起を図るほか、ご家族等の複数人のお客様でのチケットレス乗車サービスや、遅延している列車の指定席の予約・変更が可能になるサービスの開始に向けた諸準備を進めます。また、感染防止に取り組みつつ、状況を見極めながら、京都、奈良、東京、飛騨等を対象に、魅力ある商品設定や観光キャンペーンの展開に取り組みます。さらに、引き続き訪日外国人のお客様へのご案内について充実を図るとともに、商品の販売促進等を実施します。加えて、「スマートEX」の訪日外国人のお客様向けサービスについて、英語版予約サイトの認知度向上を図り、ご利用拡大に努めるとともに、「QRコード」によるチケットレス乗車サービス開始に向けた諸準備を進めます。
旅客関連設備については、ホーム上の可動柵について、引き続き東海道新幹線で新大阪駅への設置工事を進め、23、24番線ホ-ムで使用を開始するとともに、在来線では金山駅の東海道本線ホ-ムへの設置工事を進め、上り線の使用を開始します。また、車椅子利用のお客様が東海道新幹線をより便利で快適にご利用いただけるよう、改善に向けて様々な角度から検討を進めます。さらに、自由通路新設及び駅舎改築の計画を引き続き進め、桑名駅、蟹江駅で順次供用を開始するとともに、刈谷駅については、ホームの拡幅、可動柵の設置等の改良に向けた準備工事を進めます。加えて、在来線のホームにおける内方線付き点状ブロックの整備を引き続き乗降1千人以上の駅を対象に進めるとともに、在来線駅におけるエレベーターや多機能トイレの設置等バリアフリー設備の整備を推進します。
超電導リニアによる中央新幹線計画については、健全経営と安定配当を堅持し、柔軟性を発揮しながらプロジェクトの完遂に向けて、さらなる緊張感を持って着実な推進に取り組みます。また、引き続き、地域との連携を密にしながら、測量、設計、用地取得等を計画的に遂行するとともに、工事については、工期が長期間にわたり難易度が高い、南アルプストンネル、品川駅、名古屋駅のほか、山岳トンネル、都市部非常口及び中間駅等について、工事の安全と環境の保全を重視し、引き続きトンネルや非常口の掘削、地中連続壁の構築等の各種工事を着実に進めます。さらに、高架橋工事に着手するほか、都市部トンネルの掘削に向け、シールドマシンの製作及び現地での組立等を行います。加えて、中央新幹線の高度かつ効率的な運営・保守体制の構築に向けて取り組みます。
一方、山梨リニア実験線において、改良型試験車を投入した上で、営業車両の仕様策定に必要なデータ取得のため、走行試験に専念します。また、改良型試験車を投入するなど重要な局面に入ることから、営業運転に対応した保守体系の確立に向けてこれまでの開発成果の実証等を進めるとともに、さらなる超電導リニア技術のブラッシュアップ及び営業線の建設・運営・保守のコストダウンへの取組みをより一層強化します。
高速鉄道システムの海外展開については、米国テキサスプロジェクトの事業開発主体に対して、現地子会社「High-Speed-Railway Technology Consulting Corporation」により技術支援を進めるとともに、現地子会社「High-Speed-Railway Integration Corporation」及び日本側企業とともにプロジェクトのコアシステム受注の契約に向けた活動を継続します。また、超電導リニアシステムを用いた米国北東回廊プロジェクトのプロモーション活動、台湾高速鉄道における運行管理システム及び電力関連設備の更新に関する技術コンサルティングを引き続き進めます。さらに、「Crash Avoidance(衝突回避)」の原則に基づく日本型高速鉄道システムを国際的な標準とする取組みを進めます。
技術開発の推進については、状態監視技術等を活用した検査や保守の高度化・省力化、及び設備の維持更新におけるコストダウンにつながる技術開発を推進するほか、地震や豪雨等の各種災害に対して、より安全性を高めるための技術開発を実施します。また、引き続き、ハイブリッド技術の確立に向けて、在来線次期特急車両HC85系の試験走行車による走行試験を実施するとともに、N700S確認試験車による走行試験を実施します。
鉄道以外の事業については、JRセントラルタワーズとJRゲートタワーの一体的な運営をさらに充実させ、JRセントラルタワーズ開業20周年の取組みを行うなどして相乗効果を最大限に発揮することにより、様々なニーズにお応えし、収益の拡大を図ります。また、流通事業における駅構内の店舗開発や駅ビル事業における駅商業施設のリニューアル等により事業を活性化するとともに、当社所有地の有効活用に取り組み、さらなる収益拡大を図ります。さらに、東京地区において、東京駅で「東京ギフトパレット」、有楽町駅・新橋駅間で「日比谷グルメゾン」を開業します。
地球環境問題については、鉄道本来の地球環境への優位性についてご理解いただく取組みを行うとともに、引き続き大幅な省エネルギーの実現を可能とするN700Sの投入を開始するなどの地球環境保全に資する諸施策を進め、日常の業務遂行にあたっても省資源・省エネルギーに取り組みます。
引き続き、収益力の強化と技術レベルの不断の向上に取り組むとともに、設備投資を含めた業務執行全般にわたり、知恵を絞り効率化と低コスト化を徹底し、経営体力の充実を図ります。