有価証券報告書-第32期(平成30年4月1日-平成31年3月31日)

【提出】
2019/06/21 12:21
【資料】
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【項目】
174項目

対処すべき課題

文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(1) 会社の経営の基本方針
当社は、「日本の大動脈と社会基盤の発展に貢献する」という経営理念のもと、鉄道事業において、安全・安定輸送の確保を最優先に、お客様に選択されるサービスの提供、業務効率化等について不断の取組みを行うことにより、日本の大動脈輸送を担う東海道新幹線と東海地域の在来線網を一体的に維持・発展させることに加え、大動脈輸送を二重系化する中央新幹線の建設により、「三世代の鉄道」を運営するということを使命としており、これを長期にわたり安定的に果たし続けていくことを基本方針としています。
当社グループとしても、名古屋駅におけるJRセントラルタワーズ・JRゲートタワーの各事業展開に代表されるように、鉄道事業と相乗効果を期待できる事業分野を中心に事業の拡大を推進し、グループ全体の収益力強化を図ります。
(2) 中長期的な会社の経営戦略
当社グループの中核をなす鉄道事業においては、長期的展望を持って事業運営を行うことが極めて重要であり、経営基盤の強化を図りながら、主要プロジェクトを計画的に推進しています。
東海道新幹線については、これまで安全で正確な輸送を提供するとともに、不断に輸送サービスの充実に向けた取組みを進めてきました。今後についても、安全・安定輸送の確保を最優先に、引き続き東海道新幹線全線を対象とした脱線・逸脱防止対策をはじめとする地震対策を推進するとともに、土木構造物の健全性の維持・向上を図るため、大規模改修工事を着実に推進します。また、「のぞみ10本ダイヤ」による弾力的な列車設定に取り組むとともに、N700A(3次車)の投入を完了し、N700Aタイプへの車種統一を行います。加えて、車種統一に伴う全列車の最高速度285km/h化に合わせ、「のぞみ12本ダイヤ」を令和2年春に実現するほか、次期新幹線車両N700Sについて確認試験車の走行試験や営業車両の投入準備を行うなど、東海道新幹線のさらなる輸送サービスの充実に向けて取り組みます。
超電導磁気浮上式鉄道(以下「超電導リニア」という。)による中央新幹線については、当社の使命であり経営の生命線である首都圏~中京圏~近畿圏を結ぶ高速鉄道の運営を持続するとともに、企業としての存立基盤を将来にわたり確保していくため計画しているものです。現在この役割を担う東海道新幹線は開業から50年以上が経過し、鉄道路線の建設・実現に長い期間を要することを踏まえれば、将来の経年劣化や大規模災害に対する抜本的な備えを考えなければならない時期にきています。また、東日本大震災を踏まえ、大動脈輸送の二重系化により災害リスクに備える重要性がさらに高まっています。このため、その役割を代替する中央新幹線について、自己負担を前提として、当社が開発してきた超電導リニアにより可及的速やかに実現し、東海道新幹線と一元的に経営していくこととしています。このプロジェクトの完遂に向けて、鉄道事業における安全・安定輸送の確保と競争力強化に必要な投資を行うとともに、健全経営と安定配当を堅持し、柔軟性を発揮しながら着実に取り組みます。その上で、中央新幹線の建設の推進を図るため、財政投融資を活用した長期借入を行ったことを踏まえ、まずは品川・名古屋間の工事を進め、開業後連続して、名古屋・大阪間の工事に着手し、早期の全線開業を目指して、取組みを進めます。
また、このプロジェクトは自己負担により進めるものであり、建設・運営・保守など全ての場面におけるコストについて、社内に設置した「中央新幹線工事費削減委員会」で検証し、安全を確保した上で徹底的に圧縮して進めるとともに、経営状況に応じた資源配分の最適化を図るなど柔軟に対応していく考えです。
鉄道以外の事業においても、「会社の経営の基本方針」に則り、諸施策を着実に推進することにより、グループ全体の収益力の強化に取り組みます。
(3) 会社の対処すべき課題
日本経済の先行きは緩やかな回復が続くことが見込まれています。こうした状況のもと、当社グループは、「会社の経営の基本方針」に基づき諸施策を推進します。重点的に取り組む施策は、以下のとおりです。
鉄道事業においては、安全・安定輸送の確保を最優先に、東海道新幹線の脱線・逸脱防止対策について脱線防止ガードの全線への敷設を進めるとともに、駅の吊り天井の脱落防止対策や名古屋工場、在来線の高架橋柱等の耐震化等の地震対策を進めます。また、東海道新幹線の大規模改修工事についても着実に進めます。さらに、台風や豪雨等により列車運行に大きな影響が予想される場合に、安全を最優先に、早期に抑止することを含めて適切な運行計画を決定し、抑止後には速やかな運転再開を行うとともに、より迅速かつ的確な案内情報の提供に取り組むほか、自然災害や不測の事態等の異常時に想定される様々な状況に適切に対応するため、実践的な訓練を繰り返し実施します。加えて、G20大阪サミット、ラグビーワールドカップ2019日本大会の開催にあたり、関係機関と提携し、駅や車内等における安全の確保及び円滑な輸送の提供に努めます。
東海道新幹線については、「のぞみ10本ダイヤ」を活用して、お客様のご利用の多い時期や時間帯に、需要にあわせたより弾力的な列車設定に引き続き取り組みます。また、N700A(3次車)の投入を完了し、N700Aタイプへの車種統一を行うとともに、既存車両に地震ブレーキの停止距離短縮等の3次車の特長を反映させる改造工事を完了します。さらに、車種統一に伴う全列車の最高速度285km/h化に合わせ、「のぞみ12本ダイヤ」を令和2年春に実現します。加えて、次期新幹線車両N700Sについては、地震ブレーキ距離の短縮や状態監視機能の強化等による安全性・安定性の向上やバッテリ自走システム等による異常時対応能力の強化などを実現すべく投入準備を着実に進めます。
在来線については、「しなの」、「ひだ」等の特急列車について、引き続き需要にあわせ弾力的に増発や増結を行います。また、東海道本線袋井駅・磐田駅間に開業予定の御厨駅について、建設及び諸準備を進めます。
営業施策については、「エクスプレス予約」及び「スマートEX」の便利さを知っていただき、より多くのお客様にご利用いただけるよう取り組むとともに、「EXのぞみファミリー早特」など観光型商品の販売促進を通じて幅広く需要の喚起を図ります。また、京都、奈良、東京、飛騨等を対象に、魅力ある商品設定や観光キャンペーンの展開に取り組むとともに、「静岡デスティネーションキャンペーン」を通じて、自治体や旅行会社等と連携し、魅力ある観光素材・商品の開発や観光列車の運行等に取り組みます。さらに、海外からのお客様に便利に鉄道をご利用いただけるよう、「スマートEX」の訪日外国人向けサービスのご利用拡大を図るとともに、ラグビーワールドカップ2019日本大会開催による需要も取り込みながら、周遊きっぷ等の販売促進に努めます。加えて、訪日外国人へのご案内の充実を図るため、タブレット端末等を用いた放送や、運行情報を充実させた当社ホームページ等を活用したご案内に努めるほか、無料Wi-Fiサービスの東海道新幹線全車両への導入を完了します。
旅客関連設備については、ホーム上の可動柵について、東海道新幹線では新大阪駅の20~26番線への設置工事を進め、順次使用を開始するとともに、在来線では、金山駅の東海道本線ホームへの設置工事に取り組みます。また、在来線のホームにおける内方線付き点状ブロックの整備対象を乗降1千人以上の駅に拡大して取替を進めます。在来線駅におけるエレベーターや多機能トイレの設置等バリアフリー設備の整備についても引き続き推進します。
超電導リニアによる中央新幹線計画については、健全経営と安定配当を堅持し、柔軟性を発揮しながらプロジェクトの完遂に向けて、さらなる緊張感を持って着実な推進に取り組みます。また、引き続き、地域との連携を密にしながら、測量、設計、用地取得等を計画的に遂行します。さらに、工事については、工期が長期間に亘り難易度が高い、南アルプストンネル、品川駅、名古屋駅のほか、山岳トンネル、都市部非常口等について、工事の安全と環境の保全を重視し、引き続きトンネルや非常口の掘削、地中連続壁の構築等の各種工事を着実に進めるとともに、昨年10月の大深度地下使用の認可を受けて、都市部トンネルの掘削に向け、シールドマシンの製作等を行います。加えて、中央新幹線の高度かつ効率的な運営・保守体制の構築に向けて取り組みます。
一方、山梨リニア実験線において、営業線仕様の車両及び設備により、2編成を交互に運用して、引き続き長距離走行試験を実施することなどにより、営業運転に対応した保守体系の確立に向けた実証等を進めるとともに、さらなる超電導リニア技術のブラッシュアップ及び営業線の建設・運営・保守のコストダウンに取り組みます。また、営業車両の仕様策定に向けた改良型試験車を製作するとともに、改良型試験車の投入も見据え必要な走行試験を着実に行う中で、「超電導リニア体験乗車」を実施し、超電導リニアのさらなる理解促進に取り組みます。
高速鉄道システムの海外展開については、米国テキサスプロジェクトの事業開発主体に対し、現地子会社「High-Speed-Railway Technology Consulting Corporation」により技術仕様策定等の技術支援を進めるとともに、現地子会社「High-Speed-Railway Integration Corporation」により、日本側企業とともにプロジェクトのコアシステム受注の契約に向け、事業開発主体との協議を本格化します。さらに、超電導リニアシステムを用いた米国北東回廊プロジェクトのプロモーション活動、台湾高速鉄道における技術コンサルティングを引き続き進めます。また、「Crash Avoidance(衝突回避)」の原則に基づく日本型高速鉄道システムを国際的な標準とする取組みを進めます。
技術開発の推進については、N700S確認試験車による長期耐久試験や360km/hでの速度向上試験等を行います。また、ハイブリッド方式による在来線次期特急車両の試験走行車を新製し、走行試験を開始します。さらに、状態監視技術等を活用した検査や保守の高度化・省力化、及び設備の維持更新等におけるコストダウンにつながる技術開発を進めるほか、地震や豪雨等の各種災害等に対して、より安全性を高めるための技術開発を実施します。
鉄道以外の事業については、JRセントラルタワーズとJRゲートタワーの一体的な運営をさらに充実させ、相乗効果を最大限に発揮することにより、様々なニーズにお応えし、収益の拡大を図ります。また、流通事業における駅構内の店舗開発や駅ビル事業における駅商業施設のリニューアル等により事業を活性化するとともに、当社所有地の有効活用に取り組み、さらなる収益拡大を図ります。加えて、東京駅において、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を見据え、商業開発を進めます。
地球環境問題については、鉄道本来の地球環境への優位性についてご理解いただく取組みを行うとともに、引き続き大幅な省エネルギーの実現を可能とするN700Aの投入を完了するなどの地球環境保全に資する諸施策を進め、日常の業務遂行にあたっても省資源・省エネルギーに取り組みます。
引き続き、収益力の強化と技術レベルの不断の向上に取り組むとともに、設備投資を含めた業務執行全般にわたり、知恵を絞り効率化と低コスト化を徹底し、経営体力の充実を図ります。