有価証券報告書-第100期(2023/04/01-2024/03/31)

【提出】
2024/06/27 10:32
【資料】
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【項目】
190項目
(重要な会計上の見積り)
1.福島第一原子力発電所の事故の収束及び廃止措置等に向けた費用又は損失に係る引当金
(1) 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額
(単位:百万円)
前連結会計年度
(2023年3月31日)
当連結会計年度
(2024年3月31日)
災害損失引当金487,614569,793
特定原子力施設炉心等除去準備引当金9,16811,277
特定原子力施設炉心等除去引当金158,783160,572

(2) 会計上の見積りの内容について連結財務諸表利用者の理解に資するその他の情報
イ 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額の算出方法
① 廃炉に関連した見積りの前提
東京電力ホールディングス株式会社(以下、「東電HD」という。)では、機構により指定された額について、廃炉等に充てる資金の積立てを行い(廃炉等積立金)、機構と共同で、廃炉作業を想定した上で必要となる資金について取戻し計画を策定する。
当該計画について、経済産業大臣の承認を受けたのちに、廃炉等積立金の取戻しを行い、実際の廃炉作業への支出を行っている。廃炉作業に関連して発生する費用又は損失に係る引当金は、災害損失引当金、特定原子力施設炉心等除去準備引当金及び特定原子力施設炉心等除去引当金の三つの科目で連結貸借対照表上に計上している。

災害損失引当金、特定原子力施設炉心等除去準備引当金及び特定原子力施設炉心等除去引当金の関係
引当の対象取戻し計画の状況引当金の名称
取戻し計画に定める金額のうち
炉心等除去に要する費用
大臣の承認前特定原子力施設炉心等除去準備引当金
大臣の承認後特定原子力施設炉心等除去引当金
その他災害損失引当金

② 会計上の見積方法
a 災害損失引当金
災害損失引当金に含まれる主な費用又は損失の計上方法等については以下のとおりである。
Ⅰ 福島第一原子力発電所の事故の収束及び廃止措置等に向けた費用又は損失
「(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項) 4.会計方針に関する事項 (3) 重要な引当金の計上基準 ロ 災害損失引当金」に記載の経緯を踏まえ、通常の見積りが可能な費用又は損失については、具体的な目標期間と個々の対策内容に基づく見積額(原賠機構法第55条の9第2項の承認の申請をした廃炉等積立金の取戻しに関する計画における炉心等除去に要する費用を除く)を計上している。一方、将来の工事等の具体的な内容を当連結会計年度末では想定できず、通常の見積りが困難である費用又は損失については、海外原子力発電所事故における実績額に基づく概算額を計上している。
Ⅱ 福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に関する費用又は損失のうち加工中等核燃料の処理費用
「(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項) 4.会計方針に関する事項 (3) 重要な引当金の計上基準 ロ 災害損失引当金」に記載している。
b 特定原子力施設炉心等除去準備引当金及び特定原子力施設炉心等除去引当金
「(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項) 4.会計方針に関する事項 (3) 重要な引当金の計上基準 ハ 特定原子力施設炉心等除去準備引当金及び特定原子力施設炉心等除去引当金」に記載している。
なお、事故炉である福島第一原子力発電所の解体費用の見積りについては、通常炉と同様の状況にまで復旧させるための費用は、災害損失引当金、特定原子力施設炉心等除去準備引当金及び特定原子力施設炉心等除去引当金として計上し、通常炉としての解体費用については、資産除去債務として計上している。前者については、以下の不確実性が存在する一方、後者については、通常炉と同様の省令に準じた見積りとなる。
ロ 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定
災害損失引当金、特定原子力施設炉心等除去準備引当金及び特定原子力施設炉心等除去引当金に含まれる、主要な仮定とその不確実性は以下のとおりである。
① 通常の見積りが可能なもの
2024年3月28日に公表した廃炉中長期実行プランでは、廃炉の主要な作業プロセスを提示した。当連結会計年度末においては、これに基づき関連する費用の見積りを行っている。
福島第一原子力発電所の廃炉は過去に前例のない取組みであり、それ自体に不確実性を内包しているが、それでも至近3年程度は概念検討等が進んでいることから具体的な工事や作業を計画しやすい一方で、それ以降はこれから具体的な検討をするものが多く、中でもデブリ取出しに関しては本格的に取り出すための装置は構想に近い段階にある等、長期にわたる工事や作業の金額を見積もるにあたっては、多くの仮定を置かざるを得ない。今回の見積りでは、それぞれの作業プロセスにおいて、現在進められている国等の研究の状況や実施内容が類似する過去の作業内容に基づいた仮定を置いているが、今後の研究の進展や現場状況のより詳細な把握、ステップ・バイ・ステップのアプローチに基づく新たな技術的知見の獲得等により、見積りの前提として置いた仮定は見直しが必要となることも考えられる。このような場合、新たな作業や想定していた作業方法の変更、作業の範囲の見直し、作業単価の変動等が生じ、廃炉費用の見積りは変動する可能性がある。
② 通常の見積りが困難なもの
工事等の具体的な内容を現時点では想定できず、通常の見積りが困難な費用又は損失については、類似事例である米スリーマイル島原子力発電所(以下、「TMI」という。)の事故における費用実績額に基づく概算額を計上している。
当見積りにおいては、TMIでの費用処理実績額に、TMIの事故発生時から福島第一原子力発電所の事故発生時までの間における物価上昇率、為替レート等に、取出し対象基数等を加味して算定を行っている。これには、廃炉に必要となる作業の種類、範囲及び量は、発電機の基数に比例する等の仮定に基づいているが、TMIと福島第一原子力発電所では、燃料デブリの量や、原子炉内の存在箇所の違いによる難易度の違い等、状況の差異があることから、想定した見積りと実際の作業の種類、範囲及び量が変動する可能性がある。また、事故炉の廃炉という極めて限定的かつ長期にわたって発生する作業について、作業の種類、範囲及び量が一定であったとした場合においても、物価水準の変動、技術革新の状況等が生じ、廃炉費用の見積りは変動する可能性がある。
ハ 翌連結会計年度の連結財務諸表に及ぼす影響
上記により、通常の見積りが可能なもの、通常の見積りが困難なもの、それぞれについて最善の見積りを行っているものの不確実性は存在し、今後の状況の変化によって、翌連結会計年度の財政状態及び経営成績に重要な影響を及ぼす可能性がある。
2.原子力発電設備等の評価
(1) 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額
(単位:百万円)
前連結会計年度
(2023年3月31日)
当連結会計年度
(2024年3月31日)
柏崎刈羽原子力発電所に係る原子力発電設備、建設仮勘定及び核燃料等1,005,6081,058,965

(2) 会計上の見積りの内容について連結財務諸表利用者の理解に資するその他の情報
イ 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額の算出方法
会計上の見積方法
事業用の固定資産については、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった場合、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額することが要求される。原子力発電設備等については、独立したキャッシュ・フローを生み出す最小単位である発電所を資産グループに設定しており、このうち柏崎刈羽原子力発電所については、1~7号機の各ユニットに係る原子力発電設備等を一つの資産グループとし、電力取引契約を通じた電気料金収入などによる投資の回収状況を踏まえ、減損の判定を行っている。
同発電所は、総合特別事業計画の下で原子力発電所の新規制基準への対応と地元のご理解を得るべく取組みを進めている。2021年4月に「ID不正使用」、「核物質防護設備の機能の一部喪失」という一連の事案を踏まえ、原子力規制委員会より特定核燃料物質の移動を禁止する命令を受領したが、2023年12月に原子力規制検査に係る対応区分が第1区分へ変更され、特定核燃料物質の移動を禁止する命令が解除されるとともに、当社に対する「原子炉設置者としての適格性に関する再確認」も終了し、再稼働に向けたプロセスを着実に進めている状況にある。同発電所は、2012年3月に定期点検のため6号機の稼働を停止して以降、現在まで長期にわたり不稼働状態が継続しており、こうした状況を踏まえ、当社は同発電所資産グループについて減損の兆候を認識し、減損損失の認識の検討を行った。
当該検討にあたっては、割引前将来キャッシュ・フローの総額を見積り、当資産グループの帳簿価額との比較を行った。
その結果、割引前将来キャッシュ・フローの見積総額が当資産グループの帳簿価額を上回るため、減損は不要と判断している。
ロ 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定
柏崎刈羽原子力発電所に係る原子力発電設備等の資産性評価に含まれる主要な仮定は、ユニットごとの稼働状況、安全対策工事に係るコスト、将来の電力価格であり、いずれも不確実性を含んでいる。再稼働に向けては、原子力規制委員会の安全規制審査に合格した上で立地自治体のご理解を得ていくことが必要であり、また、長期にわたる安全・安定運転に向けては、高経年化対策に継続して取り組み、定期的な原子力規制委員会の審査を受ける必要がある。原子力発電所の新規制基準に対応するための安全対策工事に係るコストについては、計画されている工事についての材料費や作業員の労務費等の工事費の上振れの可能性に加え、原子力規制委員会の他の原子力発電事業者に対する審査も含めた今後の審査の進展により、新規制基準の改訂等による規制対応への要求事項の高度化・厳格化により工事費が上振れする可能性がある。さらに、将来の電力価格も、全国の電力需給の状況、火力発電の燃料費のベースとなる原油価格の状況やこれらを含めた日本卸電力取引所の電力価格等の状況などの影響に大きく依存する。
ハ 翌連結会計年度の連結財務諸表に及ぼす影響
上記の不確実性については、現時点において入手可能な情報をもとに最善の見積りを行っているが、将来のこれらの項目の変動により、当社の財政状態、経営成績に重要な影響を及ぼす可能性がある。今後減損会計の適用により、上記原子力発電設備、建設仮勘定及び核燃料等の総額の一部が影響を受ける可能性がある。
3.退職給付に係る負債及び資産
(1) 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額
(単位:百万円)
前連結会計年度
(2023年3月31日)
当連結会計年度
(2024年3月31日)
退職給付に係る負債318,875309,783
退職給付に係る資産142,545186,359

(2) 会計上の見積りの内容について連結財務諸表利用者の理解に資するその他の情報
イ 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額の算出方法
会計上の見積方法
「(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項) 4.会計方針に関する事項 (4) 退職給付に係る会計処理の方法」に記載している。
なお、退職給付債務の計算において使用する割引率は、主として、期末のダブルA格社債の利回り(指標利率)を基に決定しており、当連結会計年度は1.0%を採用している。また、年金資産の長期期待運用収益率は、運用方針や保有している年金資産のポートフォリオ及び過去の運用実績等を基に決定しており、主として、当連結会計年度は2.5%を採用している。
ロ 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定
従業員の退職給付に係る債務及び費用は、割引率、退職率、死亡率、年金資産の長期期待運用収益率、年金数理計算上の基礎率等について合理的な仮定に基づき見積もっているが、実績との差異や仮定の変動は、将来の退職給付に係る債務・費用に影響を及ぼす可能性がある。
指標利率の変動により割引率を変更することとなった場合は退職給付債務が変動するが、退職給付債務が10%以上変動しないと見込まれる場合は、重要性基準により変更しない。
また、年金資産として保有している株式や債券は、金融市場の動向により時価が変動する。
ハ 翌連結会計年度の連結財務諸表に及ぼす影響
上記により、最善の見積りを行っているものの不確実性は存在し、今後の状況の変化によって、翌連結会計年度の財政状態及び経営成績に重要な影響を及ぼす可能性がある。
会計方針に基づき、数理計算上の差異は、主として、発生の当連結会計年度より3年間で定額償却しており、変動影響は以下のとおりである。
退職給付債務への影響退職給付費用への影響(年)
割引率0.1%あたり7,600百万円程度2,500百万円程度
年金資産運用収益率の差異1.0%あたり5,800百万円程度1,900百万円程度