有価証券報告書-第135期(2023/03/01-2024/02/29)

【提出】
2024/05/23 16:00
【資料】
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【項目】
174項目
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営の基本方針
当社グループは、小林一三により設立されて以来、映画・演劇を中心に、幅広い層のお客様に夢や感動、喜びをもたらす数多くのエンタテインメント作品をお届けしてまいりました。
その経営理念は、「健全な娯楽を広く大衆に提供すること」を企業の存在意義(パーパス)とし、「吾々の享くる幸福はお客様の賜ものなり」を大切な価値観(バリュー)とし、「朗らかに、清く正しく美しく」を行動の理念(モットー)としております。
これらの理念に基づき、公明正大な事業活動に取り組むとともに、常にお客様の目線に立ち、時代に即した新鮮な企画を提案し、世の中に最高のエンタテインメントを提供し続ける企業集団でありたいと考えております。
(2)「TOHO VISION 2032 東宝グループ 経営戦略」について
当社グループは2022年4月に、創立100周年に向けた「長期ビジョン 2032」と、最初の3カ年の具体的な施策である「中期経営計画 2025」とから構成される「TOHO VISION 2032 東宝グループ 経営戦略」を策定いたしました。現在、本経営戦略に基づく様々な施策を展開して、持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けて取り組んでおります。その体系と骨子は、以下の通りです。
1.長期ビジョン 2032
(1) コーポレート・スローガン

(2) 3つの重要ポイント
① 成長に向けた「投資」を促進 ②「人材」の確保・育成に注力 ③ アニメ事業を「第4の柱」に
(3) 成長戦略の4つのキーワード
① 企画&IP ② アニメーション ③ デジタル ④ 海外
「企画&IP」をあらゆる価値の源泉として、その中でも「アニメーション」を成長ドライバーにし、「デジタル」の力で時間・空間・言語を超え、「海外」での飛躍的成長を実現すべく、果敢に挑戦していく

(4) 目指す姿(2032年の財務イメージ)
営業利益 750億円~1000億円
ROE 8%~10%程度
(5) 事業ポートフォリオの方向性
既存事業の3本柱である映画事業、演劇事業、不動産事業に加え、「アニメ事業」を第4の柱とする
2.中期経営計画 2025

3.人材と組織/サステナビリティの方針
(1) 人材と組織の戦略
基本方針
成長戦略の推進役となる多様で優秀な外部人材の採用を強化するとともに、よりクリエイティブな組織に進化すべく人材育成と働く環境の整備を推進していく
具体的施策
キャリア採用の拡大・強化、エキスパート社員制度の拡充
多様なキャリアパスと成長支援、公正な評価と成果に報いる処遇
エンゲージメントを高める以下の環境整備の推進
・朗らか健康経営
・TOHO WORK STYLE
・ダイバーシティ&インクルージョン
・オフィス改革
(2) サステナビリティの方針
基本方針
東宝グループは、エンタテインメントの提供を通じて誰もが幸福で心豊かになれる社会の実現に向けて“朗らかに、清く正しく美しく”貢献します
4つの重要課題
朗らかに ① 誰もが健康でいきいきと活躍できる職場環境をつくります
清く ② 地球環境に優しいクリーンな事業活動を推進します
正しく ③ 人権を尊重し、健全で公正な企業文化を形成します
美しく ④ 豊かな映画・演劇文化を創造し、次世代への継承に努めます
(3)経営環境についての認識
当社グループを巡る経営環境は、2024年に入り日経平均株価が34年ぶりの最高値を更新し、賃金の持続的上昇に勢いが見られ、日銀がマイナス金利を解除するなど、経済の好循環が日本全体へ波及していくことが期待されています。一方で、世界的な物価高や深刻さを増す人手不足、ウクライナや中東情勢の緊迫化など、様々な影響も懸念されております。また、当社グループの事業環境においては、約3年に及んだ新型コロナウイルス感染症の影響は払拭されたものの、エンタテインメントを巡る選択肢は多様化し、お客様の嗜好やライフスタイルの変化のスピードは加速しているものと考えられます。
そのような情勢下で、当社グループの2024年2月期の通期業績は、主力の映画事業において、当社オリジナルIPであるゴジラの70周年記念作品『ゴジラ-1.0』を製作し、日本での大ヒットのみならず北米においても自社配給を行い、邦画実写作品として歴代最高の北米興収を記録するなど、大きな話題となりました。さらにTOHO animationの期待作『劇場版 SPY×FAMILY CODE:White』や『劇場版ハイキュー‼ ゴミ捨て場の決戦』も大ヒットとなり、TOHO animationのラインナップを充実させるとともに、動画配信、商品化権、キャラクターグッズ、ゲーム等の展開を含めて、IPの価値向上につながる多面的な事業展開が会社業績に大きく寄与しました。そのほか、共同製作や配給した作品のうち『名探偵コナン 黒鉄の魚影』が興行収入138億円のシリーズ最高興収を記録、宮崎駿監督の10年ぶりの最新作『君たちはどう生きるか』も夏興行を牽引、洋画では東宝東和㈱配給の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が興行収入140億円以上を記録する大ヒットとなりました。
演劇事業では、2023年5月に新型コロナウイルス感染症の位置づけが「5類」に引き下げられて以降、正常な公演が安定的に可能となり、帝国劇場を中心に全席完売となる公演が多く見られるなど、お客様の演劇公演に対する期待が好調な業績に結びつく状況となりました。また、不動産事業は新規物件を含む全国に所有する不動産が堅調に稼働し、人手不足や資材価格の高騰の影響はあるものの、事業収益に大きく貢献しました。これらにより連結営業利益は592億円となり、「中期経営計画 2025」の2年目において、数値目標の一つであった営業利益の最高益(528億円)の更新を達成することができました。
そしてこれらの結果は、当社グループの成長戦略の4つのキーワードである①企画&IP、②アニメーション、③デジタル、④海外の4つが、今後も積極果敢にチャレンジすべきキーワードであることを証明しており、そのチャレンジを続けることで、持続的な成長と中長期的な企業価値向上に資することができるとの認識を新たにしています。
一方で、冒頭にも記した通り世界的な物価高や深刻さを増す人手不足、ウクライナや中東情勢の長期化による影響など、経営環境は依然として先行き不透明な状況が続いており、それらの影響についても十分に注視する必要がありますが、これらの不透明な要素が当社業績に与える影響は、今のところ軽微との認識です。
以下、セグメント別に現在の経営環境等に対する認識について簡潔な説明を記します。
[映画事業]
映画営業事業においては、実写、アニメの両方で興行力のある邦画コンテンツを継続的に提供できる配給会社としての当社の国内シェアは、2023年(自然暦)において約35%を占め、競合他社との間で圧倒的な競争優位性を維持しています。さらに『ゴジラ-1.0』を北米において自社配給することで大ヒットに結びつけることに成功するなど、オリジナルIPを良質のコンテンツとして製作することで、今後は海外の映画市場においても競争力を発揮する可能性を示すことができました。一方で、公開される作品の興行力には大きな差が見られ、いわゆる作品の“優勝劣敗”を左右するコンテンツ力とマーケティング力の強化が大きな課題です。また、コロナ禍を経て急速に会員数を増やした動画配信プラットフォームについては、競争力のある当社作品の二次利用等の機会創出と付加価値を高めることにつながる反面、それら配信プラットフォーマーが日本国内において自ら作品製作に乗り出すことにより、映画等の製作における影響力を強めていく懸念があります。さらに、東宝東和㈱等が国内配給を担当するハリウッドメジャーの新作についても、100億円を超える大ヒット作品が公開される反面、ハリウッドスタジオにおけるストライキの影響が徐々に顕在化して、短期的には十分な洋画のラインナップを確保することができないなどの影響が予想されます。
映画興行事業においては、自然暦における2023年の全国興行収入は2,214億円(前年比3.9%増)、映画入場者数は1億5,553万人(同2.3%増)と微増になりましたが、コロナ禍前の過去最高であった2019年の全国興行収入との比較では84%に留まっています。そのような状況下にあって、TOHOシネマズ㈱は全国の主要都市の好立地にシネマコンプレックスを展開し、スクリーンシェアでは約19%、興行収入のシェアは約27%と業界トップを維持しており、競合他社との競争優位性に揺るぎはありません。今後も東宝配給作品を中心にバラエティ豊かな強力作品を用意すること、的確な出店戦略により競争優位性を維持すること、適切な映画鑑賞料金施策を実施すること等が重要な課題です。一方で、エネルギー価格や人件費、建設コストなどの上昇傾向が映画館の収支構造に与える影響や、動画配信市場の動向が映画興行事業へ与える影響については、懸念すべき課題として認識しています。また、長期的には国内の人口減の影響や公開される作品の興行力の二極化のように、将来の成長を鈍化させる可能性のある要因についても注視する必要があります。
映像事業においては、「長期ビジョン 2032」において「映画・演劇・不動産」に加えて「第4の柱」としたアニメ事業がさらなる成長を続けております。当社のアニメーションレーベル「TOHO animation」は、10周年の節目を経て、「SPY×FAMILY」や「ハイキュー!!」が劇場版として大ヒット、加えて「僕のヒーローアカデミア」「呪術廻戦」といった充実したコンテンツの厚みをさらに増すべく、新たなTVシリーズとして製作した「薬屋のひとりごと」「葬送のフリーレン」等の作品もその第一期を好評のうちに終えました。またゲーム事業では、TOHO Gamesの「呪術廻戦 ファントムパレード」が400万ダウンロードを突破するなど好調に推移しました。このように、TOHO animationレーベルの各作品は、パッケージ・配信・商品化ライセンス等の幅広い事業を国内に留まらず海外にも展開することによって、当社グループ全体の業績を大きく牽引しています。また、㈱東宝ステラの運営するECサイト「TOHO animation STORE」は、アニメ関連グッズの売上の拡大に貢献しています。以上のように、国内外の多くの熱心なファン層に支えられ、アニメ関連市場は中・長期的な成長が期待できるものと認識しており、当社グループの成長ドライバーとして引き続き経営資源を集中し、多面的・重層的・長期的なビジネス展開に注力していくこととしています。
また、TOHOスタジオ㈱では、映画・映像制作及びスタジオ事業の一体化を図り、外資系動画配信プラットフォームのスタジオ賃貸を誘致するなど、順調に稼働しました。また、㈱東宝映像美術や東宝舞台㈱では、コロナ禍において中断していたテーマパークにおける展示物の製作業務や音楽ライブイベントが復活したことで、美術製作・舞台製作における受注の回復傾向が顕著に見られます。
[演劇事業]
演劇事業においては、2023年5月より新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが「5類」に引き下げられ、すべての劇場において正常な公演が安定的に可能になるとともに、主力の帝国劇場では「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」が満席となったほか、大人気コミック「SPY×FAMILY」の初ミュージカル化など、他ジャンルの作品を演劇化することで新しいお客様を開拓するなど、シアタークリエやその他の劇場も含め積極的な営業展開に努めました。さらに本年は、2025年2月をもって建て替えのため休館となる帝国劇場のクロージング・ラインナップを上演、熱心なファンの来場が見込まれます。一方で、2025年3月以降の帝国劇場休館中においては、代替劇場での公演数の確保や建て替え後の新劇場での劇場運営等の課題に注力する必要があります。さらに、コロナ禍において積極的活用が始まった演劇の動画配信、公演関連グッズ販売などの二次利用展開、さらに本年4月から上演されている「千と千尋の神隠し」のロンドン公演のような演劇コンテンツの海外展開についても、演劇事業における今後の業績拡大の機会になると認識しております。また、東宝芸能㈱では、所属俳優がCM・TV・映画出演等で順調に稼働しております。
[不動産事業]
不動産賃貸事業においては、足元の不動産市況では、東京都心地区のオフィス空室率が約2年ぶりに5%台に低下するなどオフィスの移転・拡張需要は底堅く、空室率の上昇は限定的なものに留まると見込まれており、成約賃料についても下げ止まり感が見られます。一方で、好立地が多い当社グループ保有物件の空室率は1%未満の低い水準で推移しており、賃料も比較的底堅い状況にあります。しかしながら、建築コストの高騰、エネルギー価格や租税公課などの上昇傾向、さらには金融政策の変更等に伴う金利上昇が不動産賃貸事業に与える影響について、注視していく必要があります。
道路事業においては、老朽化による道路関連のインフラ整備をはじめとする公共投資の受注は引き続き堅調であり、当面は順調に推移すると思われます。スバル興業㈱と同社の連結子会社が積極的な営業活動により新規受注や既存工事の追加受注による業績拡大に努めてまいります。
不動産保守・管理事業においては、連結子会社である東宝ビル管理㈱及び東宝ファシリティーズ㈱が厳しい競争環境の中でも受注を回復させるとともに、価格転嫁についても積極的な営業展開に努めております。
なお、道路事業、不動産保守・管理事業の両事業においては、深刻な人手不足やインフレによる賃金上昇の影響について、注視していく必要があります。
[その他事業]
その他事業においては、「東宝調布スポーツパーク」でゴルフ練習場、テニスクラブ等を運営する東宝共栄企業㈱が、コロナ禍における屋外スポーツの一時的な”特需“は過ぎたものの、利用者数は堅調に推移しています。また、TOHOリテール㈱は、演劇事業のグッズ販売等を積極的に展開することで業績を回復しております。
(4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標
当社グループは、経営目標の達成状況を判断するための指標として「営業利益」を最も重視しております。
創立100周年を迎える2032年をターゲットとした「長期ビジョン 2032」においては、営業利益750億~1000億円の企業集団への成長を目指すとしております。なお、その際のROEのイメージを8%~10%程度とし、利益だけでなく資本効率を意識した経営を行ってまいります。
「中期経営計画 2025」では、営業利益において過去最高益(528億円)の更新に挑戦するとしておりましたが、この数値目標については、2年目に当たる当連結会計年度の営業利益が592億円となり、目標を達成しております。また、本期間においては、コロナ禍からの回復を見極めつつ、次の「成長」を実現すべく「投資」を重視し、成長投資の金額として3カ年合計で1,100億円程度を見込むとしております。その他の数値目標では、株主還元として年間40円の配当をベースに配当性向30%以上、かつ機動的な自己株式取得の実施、資本効率の指標としてROE8%以上を掲げております。
(5)当社グループが優先的に対処すべき課題
当社グループは、2022年4月に公表した「長期ビジョン 2032」と、最初の3カ年の「中期経営計画 2025」とから構成される「TOHO VISION 2032 東宝グループ 経営戦略」に基づき、持続的な成長と中長期的な企業価値向上を目指しております。
「長期ビジョン 2032」においては、当社グループのパーパスである「健全な娯楽を広く大衆に提供すること」を再定義した「Entertainment for YOU 世界中のお客様に感動を」というコーポレート・スローガンのもと、成長に向けた「投資」を推進すること、「人材」の確保・育成に注力すること、アニメ事業を「第4の柱」にすることを、3つの重要ポイントとし、さらに「企画&IP」「アニメーション」「デジタル」「海外」の4つを成長戦略のキーワードとして掲げ、積極果敢にチャレンジを続けております。
「中期経営計画 2025」の2年目にあたる当連結会計年度においては、それら挑戦のいくつかが実を結び、数値目標の一つであった営業利益の最高益の更新を達成することができました。映画事業においては、「ゴジラ-1.0」において国内のみならず海外への配給を自ら手掛けた結果、世界的な大ヒットとなり、ゴジラIPと東宝ブランドのグローバルな価値向上につながりました。アニメ事業においては、「SPY×FAMILY」や「ハイキュー!!」の映画版が大ヒットし、「呪術廻戦」のスマホゲームへのチャレンジが成功を収めるなど、TOHO animationの作品ラインナップの充実のみならず、IPの価値向上につながる多面的な事業展開が会社業績に大きく寄与しました。
そして次期連結会計年度は、「中期経営計画 2025」の最終年度に当たります。当社グループは、映画、アニメ、演劇、不動産の「事業の4本柱」それぞれにおいて、積極的な投資や着実な事業展開により、さらなる成長を目指してまいります。映画事業においては、引き続き充実したラインナップを提供するとともに、将来的な海外展開も視野に入れ、自社企画・製作体制のさらなる強化を図ります。アニメ事業においては、新規IPを加えラインナップのさらなる拡充を図るほか、オリジナル作品の開発にもチャレンジし、持続的な収益拡大に努めてまいります。演劇事業では、帝国劇場のラストイヤーを大盛況で終えることを目指すとともに、舞台「千と千尋の神隠し」のロンドン公演を大成功に導くべくチャレンジします。不動産事業においては、市況の変化に注意深く対応し、保有賃貸不動産の賃料アップに努めるほか、現在進めている複数の再開発プロジェクトを着実に推進することを目指します。
また、これら成長戦略を推進していくためには、多様な人材の積極的な採用と育成、誰もが健康でいきいきと活躍できる職場環境の整備が極めて重要と考えております。東宝本社では現在、通年でのキャリア採用を大幅に拡充するとともに、多様なキャリアパスと成長支援、公正な評価と処遇を実現するための人事制度改革、エンゲージメントを高める環境整備の推進を課題として取り組んでおります。さらに、「エンタテインメントの提供を通じて誰もが幸福で心豊かになれる社会の実現に向けて“朗らかに、清く正しく美しく”貢献します」という「サステナビリティの基本方針」に基づき、さまざまな社会課題に対し、エンタテインメント企業ならではのアイデアで解決策を見出して行きたいと考えています。
最後に、取締役会の実効性の確保など、コーポレート・ガバナンスの一層の充実に努め、成長戦略の推進による収益性の向上に加え、適切な株主還元を通じて資本効率の向上を図ってまいります。