有価証券報告書-第136期(2024/03/01-2025/02/28)
対処すべき課題
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営の基本方針
当社グループは、小林一三により設立されて以来、映画・演劇を中心に、幅広い層のお客様に夢や感動、喜びをもたらす数多くのエンタテインメント作品をお届けしてまいりました。
その経営理念は、「健全な娯楽を広く大衆に提供すること」を企業の存在意義(パーパス)とし、「吾々の享くる幸福はお客様の賜ものなり」を大切な価値観(バリュー)とし、「朗らかに、清く正しく美しく」を行動の理念(モットー)としております。
これらの理念に基づき、公明正大な事業活動に取り組むとともに、常にお客様の目線に立ち、時代に即した新鮮な企画を提案し、世の中に最高のエンタテインメントを提供し続ける企業集団でありたいと考えております。
(2)「TOHO VISION 2032 東宝グループ 経営戦略」について
当社グループは2022年4月に公表した創立100周年に向けた「長期ビジョン 2032」に基づき、2025年4月に「中期経営計画 2028」を新たに策定いたしました。本経営戦略に基づくさまざまな施策を展開して、持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けて取り組んでおります。その体系と骨子は、以下の通りです。
1.長期ビジョン 2032
(1) コーポレート・スローガン

(2) 3つの重要ポイント
① 成長に向けた「投資」を促進 ②「人材」の確保・育成に注力 ③ アニメ事業を「第4の柱」に
(3) 成長戦略の4つのキーワードと飛躍に向けた成長ストーリー
① 企画&IP ② アニメーション ③ デジタル ④ 海外
「企画&IP」をあらゆる価値の源泉として、その中でも「アニメーション」を成長ドライバーにし、「デジタル」の力で時間・空間・言語を超え、「海外」での飛躍的成長を実現すべく、果敢に挑戦していく。
(4) 目指す姿(2032年の財務イメージ)
営業利益 750億円~1000億円
ROE 恒常的に10%程度以上
(5) 事業ポートフォリオの方向性
既存事業の3本柱である映画事業、演劇事業、不動産事業に加え、「アニメ事業」を第4の柱とする
2.「中期経営計画 2028」
(1)「中期経営計画 2028」の位置づけ

(2)指針
“人”が、情熱を傾けて“企画”をし、エンタテインメントを創り、“世界”に届ける。
これが、どんなに外部環境が変化したとしても、当社グループの変わることのないシンプルで本質的な価値創造ストーリーです。加えて、より持続的に成長していくためには、エンタテインメントを単に広く届けるだけではなく、世界中のお客様の好みやニーズを深く知り、お客様ともっと積極的に“つながる”ことでファンになっていただくことが大切になると考えています。
“人”、“企画”、“世界”、そして、お客様ともっと“つながる”
これを「中期経営計画 2028」の指針として当社グループは世界中のファンから愛されるエンタテインメント企業を目指して邁進していきます。
(3)重点ポイントと数値目標
「中期経営計画 2028」では、「人材」「コンテンツ・IP」「デジタル」「海外」を重点領域とし、以下の通り重点ポイントと数値目標を定めました。これらの目標に向かって、グループ一丸となって各事業戦略を積極的に推進してまいります。


(4)キャピタルアロケーション

(5) 人材と組織/サステナビリティ
① 人材と組織の戦略
人材と組織のビジョン
心が動き、心を動かす仕事を通じて、幸福を得られる会社へ
人材と組織のキーワード
・“少数精鋭”から“精鋭多数へ”
・成長・自律・安心
人材と組織の方針
1.成長を推進し、変化に対応する多様な人材の獲得の強化
2.企画力あふれる東宝らしい精鋭人材の育成の強化
3.社員の強みを活かし、成長を支援する人事施策の推進
4.自らを律し、裁量をもって、安心して活躍できる組織・環境の追求
② サステナビリティ経営の推進
東宝グループは次の3年間においても、サステナビリティの基本方針に則り、各事業戦略や人材と組織の戦略を通じて、4つの重要課題を軸として、持続可能な社会の実現に向けて取り組んでいきます。
基本方針
東宝グループは、エンタテインメントの提供を通じて誰もが幸福で心豊かになれる社会の実現に向けて“朗らかに、清く正しく美しく”貢献します
4つの重要課題
朗らかに ① 誰もが健康でいきいきと活躍できる職場環境をつくります
清く ② 地球環境に優しいクリーンな事業活動を推進します
正しく ③ 人権を尊重し、健全で公正な企業文化を形成します
美しく ④ 豊かな映画・演劇文化を創造し、次世代への継承に努めます
(3)経営環境についての認識
当社グループを巡る経営環境は、雇用環境の改善や賃金の上昇など日本経済には回復の兆しが見られるものの、米国の貿易政策をはじめとして世界的な経済情勢は不透明さを増しており、国内においても慢性的な人手不足や物価上昇などによる消費マインドの下振れも懸念される状況にあります。
当社グループの主要な事業が属する映画、演劇、ライブエンタテインメント業界は、新型コロナウイルス感染症の影響から社会活動が正常化して以降、本格的な市場回復に向かっている状況にあります。国内の映画市場においては、2024年の映画人口は1億4,444万人(前年比92.9%)、興行収入は2,069億円(前年比93.5%)と前年比で微減となりましたが、コロナ前の平均的な興行収入のおよそ9割程度まで市場は回復しております。また、演劇及びライブエンタテインメント市場はさらに力強い回復を見せ、2023年には既にコロナ禍前を上回る市場規模に達し、その後も着実に伸長していると見られます。
また、コロナ禍を経てコンテンツのデジタル化が進み、動画配信が世界的に急速な普及を見せ、映像の視聴形態、コンテンツの楽しみ方が多様化するとともに、グローバル化が進んでおります。特に、当社グループが「第4の柱」の成長ドライバーと位置付けているアニメーションにおいては、動画配信を通じて日本アニメの人気が世界中へ広がっております。日本のアニメ関連市場は2023年に初めて3兆円を超え、過去10年で市場規模が倍増し、国内市場1.6兆円に対し海外市場1.7兆円と初めて海外が国内を逆転するなど、とりわけ海外市場の伸びが著しい状況です。
一方、当社が収益基盤の一つとして重視している不動産事業は、地価の上昇、資材価格や人員不足による建設費の高騰、水道光熱費等の各種経費の増加など、非常に厳しい経営環境に置かれております。それらの影響は不動産賃貸や再開発事業を中心とした当社の事業形態にも確実に及んでおり、今後の当社グループの不動産事業の方向性を定めるうえで無視できない状況となっております。
そのような情勢下で、当社グループの2025年2月期の業績は、映画、アニメ、演劇、不動産の「事業の4本柱」が共に堅調に推移しました。
その中でも映画事業が特に好調に推移しました。当社のオリジナルIPであるゴジラの70周年記念作品「ゴジラ-1.0」が国内のみならず米国でも大ヒットし、国内・海外での配信権販売、商品化ライセンス、マーチャンダイジング、パッケージ販売等により大きく業績に貢献しました。また、自社製作作品の「変な家」が興収50億円を超えたことも製作者利益に大きく貢献しました。
映画事業の中に属するアニメ事業においては、TOHO animation作品の劇場用映画、TVアニメシリーズが非常に好調に稼働しました。興行収入115億円を超え大ヒットとなった「劇場版ハイキュー‼ゴミ捨て場の決戦」をはじめ、「僕のヒーローアカデミア」「呪術廻戦」「葬送のフリーレン」「薬屋のひとりごと」「怪獣8号」等の人気タイトルを国内・海外に向けて動画配信、商品化ライセンス等で積極的に展開し、会社全体の業績を大きく牽引しました。
演劇事業では、舞台「千と千尋の神隠し」をイギリス・ロンドンで日本人キャストによる日本語でのロングラン公演を成功させるという画期的な成果を実現しました。一方で、2025年2月末には当社の基幹劇場である帝国劇場が約60年の歴史に幕を下ろすことになりましたが、そのクロージング・ラインナップは大盛況で終了することができました。
不動産事業では、厳しい事業環境の中、所有する不動産の空室率抑制、賃料アップに尽力し、堅調な成績を収めることができました。また、渋谷アクシュのグランドオープンなど、再開発事業も堅実に進めました。
これらにより連結営業利益は646億円となり、「中期経営計画 2025」で目標としたそれまでの最高益(528億円)を大きく更新し、前期に更新した最高益(592億円)をさらに上回る好成績を達成することができました。
このような成果は、当社グループが掲げている「長期ビジョン 2032」における成長戦略のキーワードである①企画&IP、②アニメーション、③デジタル、④海外の4つが、今後も積極果敢にチャレンジすべきキーワードであることを証明しており、これからも成長投資と変革を継続していくことで、持続的な成長と中長期的な企業価値向上に資することができるとの認識を新たにしています。
一方で、冒頭にも記した通り、世界的に不確実性を増す経済情勢や、深刻さを増す人手不足など、経営環境は依然として先行き不透明な状況が続いており、それらの影響について十分に注視する必要がありますが、これらの不透明な外部環境が当社業績に与える影響は、今のところ軽微であるとの認識です。
以下、セグメント別に現在の経営環境等に対する認識を記します。
[映画事業]
映画営業事業においては、2024年(自然暦)に、当社配給作品の年間累計興行収入が初めて900億円を超え、国内シェアで45%に迫る歴代1位の成績となりました。年間30本程度の強力な興行力を持つ実写、アニメ作品のラインナップに加え、音楽・舞台・スポーツなどのコンテンツを配給するTOHO NEXTレーベルも立ち上げ、豊富かつ多彩なコンテンツを継続的に提供できる配給会社として、競合他社との間で圧倒的な競争優位性を維持していると考えています。また、子会社の東宝東和㈱配給の「怪盗グルーのミニオン超変身」が大ヒットするなど、当社グループとして、東宝㈱で話題の邦画を、東宝東和㈱などで興行力のある洋画コンテンツを配給することで、国内で継続的に話題の作品を提供できる体制が確立できていると考えています。
一方で、公開される作品の興行成績に大きな差が見られるようになっており、いわゆる作品の「優勝劣敗」が拡大していると認識しています。そのため、時代の感性をとらえたコンテンツの企画力はもちろん、SNS等の有効活用などを含めたマーケティング力の強化も大きな課題となっています。
映画興行事業においては、自然暦における2024年の全国興行収入は2,069億円(前年比93.5%)と微減となりましたが、その内訳を見ると、アニメ作品が好調な邦画は1,558億円で過去最高を記録した一方、ハリウッドスタジオのストライキの影響が残る洋画は魅力ある新作に乏しく、511億円と落ち込みが顕著になりました。したがって映画興行界としては、ハリウッドを中心とした「洋画の復活」が待たれるところです。なお、2025年以降はストライキの影響から回復し、洋画の新作、大作の公開が予定されております。
そのような状況下にあって当社グループのTOHOシネマズ㈱は、全国の主要都市の好立地にシネマコンプレックスを展開し、2024年においてスクリーンシェアでは約19%、興行収入のシェアは約27%と業界トップを維持しており、競合他社との競争優位性に揺るぎはありません。今後もお客様に「選ばれるTOHOシネマズ」であるべく、バラエティ豊かな強力作品を用意すること、積極的な設備投資で最高の鑑賞環境を提供すること、コンセッション(売店)やストア等の非興行収入を拡大・強化すること、適切な映画鑑賞料金施策を実施することなどが重要な課題です。一方で、建設費の高騰や出店適地の減少等により、新規出店のペースは鈍くならざるを得なくなっており、出店による収入やシェア拡大は以前より難しい状況になっております。また、エネルギー価格や人件費コストなどの上昇傾向が映画館の収支構造に与える影響や、動画配信の普及が映画館で映画を観る習慣に与える影響についても、引き続き懸念すべき課題です。また、長期的には国内の人口減も市場の縮小につながる大きな懸念材料です。
映像事業においては、「TOHO VISION 2032 東宝グループ 経営戦略」において「第4の柱」、成長ドライバーとして位置付けたアニメ事業が急速な成長を遂げております。TOHO animationには、「僕のヒーローアカデミア」「ハイキュー‼」「呪術廻戦」「SPY×FAMILY」「葬送のフリーレン」「薬屋のひとりごと」「Dr.STONE」といった強力タイトルに加え、新たな作品として「怪獣8号」「狼と香辛料」「天穂のサクナヒメ」「ぷにるはかわいいスライム」などがラインナップに加わりました。これらのタイトルの国内外の動画配信、商品化ライセンス、マーチャンダイジング、パッケージ販売などの幅広いビジネス展開や、ゲーム事業における「呪術廻戦 ファントムパレード」や「ゴジラ バトルライン」などが当社グループ全体の業績を大きく牽引しています。アニメ事業については市場そのものが着実に伸長しているという手ごたえが感じられ、国内外の多くの熱心なファンに支えられ、今後も中長期的に成長を続けるポテンシャルがあると認識しています。当社グループは、これら市場の成長を確実に取り込み、アニメ事業の持続的成長を目指してまいります。一方で、強力な原作のアニメ化権の獲得については競争が激化しております。それらの競争を勝ち抜くためには、良質なアニメ・コンテンツをさらに数多く企画・製作できる人員と体制の整備、海外の地域ごとにきめ細かいライセンス販売ができる拠点・機能の整備、ゲーム事業の開発・運営等のノウハウの習得などが課題になるものと認識しています。引き続き、当社グループの成長ドライバーとして経営資源を集中し、多面的・重層的・長期的なビジネス展開に注力してまいります。
また、その他子会社においても、TOHOスタジオ㈱では、映画・映像制作及びスタジオ事業の一体化を図り、外資系動画配信プラットフォームのスタジオ賃貸を誘致するなど、順調に稼働しました。また、㈱東宝映像美術や東宝舞台㈱では、コロナ禍において中断していたテーマパークにおける展示物の製作業務や音楽ライブイベントが復活したことで、美術製作・舞台製作における受注の回復傾向が顕著に見られます。
[演劇事業]
演劇事業においては、建て替えによる休館のため最後の年度となった帝国劇場において「レ・ミゼラブル」「モーツァルト!」「Endless SHOCK」や、掉尾を飾る記念コンサート「THE BEST New HISTORY COMING」等のクロージング・ラインナップが連日満席の賑わいとなり、配信やライブビューイングと合わせて多くのお客様が現帝国劇場との別れを惜しんでくださいました。
さらに「千と千尋の神隠し」は2024年4月から約4か月にわたるロンドンでのロングラン公演が大成功を収め、イギリスで最も権威のある演劇賞ローレンス・オリヴィエ賞4部門ノミネートという快挙を果たし、日本の演劇コンテンツの海外展開の可能性を感じた1年となりました。
一方で、2025年3月以降の帝国劇場休館中においては、代替劇場での公演回数の確保に注力し、一定程度の興行収入を維持・確保する必要があります。また、コロナ禍において積極的に活用し始めた演劇コンテンツの動画配信や公演関連グッズの販売等、興行収入以外の収益源の確保や、海外への作品ライセンス展開等によって収益機会の拡大に向けた取り組みが課題となります。いずれにせよ帝劇休館中において、これまでの長い歴史で培ってきた東宝演劇、東宝ミュージカルのブランドを維持し、さらに高めていくことによって、新・帝国劇場へとつなげていくことが、演劇事業に課せられた大きな課題となります。
また、東宝芸能㈱では、所属俳優がCM・TV・映画出演などで順調に稼働しております。
[不動産事業]
不動産賃貸事業においては、足元の不動産市況は、東京都心地区のオフィス空室率が4%以下に低下するなどオフィスの移転・拡張需要は底堅く、成約賃料についても緩やかな上昇基調が見られます。好立地が多い当社グループ保有物件の空室率は1%未満の低い水準で推移しており、賃料も比較的底堅い状況にあります。しかしながら、建築コストの高騰、エネルギー価格や租税公課などの上昇傾向、さらには世界的な関税戦争、金融政策の変更等に伴う金利上昇が不動産賃貸事業に与える影響について、注視していく必要があります。
道路事業においては、老朽化による道路関連のインフラ整備をはじめとする公共投資の受注は引き続き堅調であり、当面は順調に推移すると思われます。スバル興業㈱と同社の連結子会社が積極的な営業活動により新規受注や既存工事の追加受注による業績拡大に努めてまいります。
不動産保守・管理事業においては、連結子会社である東宝ビル管理㈱及び東宝ファシリティーズ㈱が厳しい競争環境の中でも受注を回復させるとともに、価格転嫁についても積極的な営業展開に努めております。
なお、道路事業、不動産保守・管理事業の両事業においては、深刻な人手不足やインフレによる賃金上昇の影響について、注視していく必要があります。
[その他事業]
その他事業においては、「東宝調布スポーツパーク」でゴルフ練習場、テニスクラブ等を運営する東宝共榮企業㈱が、コロナ禍における屋外スポーツの一時的な特需は過ぎたものの、利用者数は堅調に推移しています。また、TOHOリテール㈱は、演劇事業のグッズ販売等を積極的に展開することで業績を回復しております。
(4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標
当社グループは、経営目標の達成状況を判断するための指標として、営業利益とROEを特に重視しております。本業の稼ぐ力(収益性)や成長性を示す営業利益と、経営全体の資本効率性を示すROEの両面から、バランスの良い数値目標の設定を心がけております。
営業利益については、「長期ビジョン 2032」において、2032年には営業利益750億~1,000億円の企業集団への成長を目指すとしております。また、2025年4月に策定した「中期経営計画 2028」においては、そのための橋渡しとして、2028年2月期までに営業利益700億円の達成を目指すとしております。
ROEについては、長期ビジョンの策定時には2032年に8~10%と設定していましたが、「中期経営計画 2028」の期間においては9%以上とし、2032年までには恒常的に10%以上と目標値を引き上げております。
なお、株主還元に関する指標としては、「中期経営計画 2028」において「年間85円の配当を下限に配当性向35%以上かつ機動的な自己株式取得の実施」としております。
また、「中期経営計画 2028」においては、2028年2月期までの3カ年を「成長投資と変革を継続する期間」と位置付け、キャピタルアロケーションにおいて、コンテンツ・IP関連のM&Aやシネコン出店などの「成長投資」として3カ年で1,200億円程度を見込むとしております。
(5)当社グループが優先的に対処すべき課題
当社グループは、2022年4月に公表した長期ビジョン「TOHO VISION 2032 東宝グループ 経営戦略」に基づき、創立100周年を迎える2032年に向けたコーポレート・スローガン「Entertainment for YOU 世界中のお客様に感動を」を掲げ、持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けて取り組んでいます。
長期ビジョンにおいては、①成長に向けた「投資」を推進、②「人材」の確保・育成に注力、③アニメ事業を「第4の柱に」の3つを重要ポイントとし、成長戦略として「企画&IP」「アニメーション」「デジタル」「海外」の4つのキーワードを掲げ、これらに沿った事業展開、成長投資、資本政策を着実に実行してきた結果、「中期経営計画 2025」(FY2023-2025)の3カ年においては、数値目標として定めた①営業利益の最高益(528億円)の更新、②ROE8%以上を達成することができました。
そして、本年4月には「中期経営計画 2028」を策定・公表し、新たな3カ年計画(FY2026-2028)をスタートさせました。「中期経営計画 2028」の位置づけとしては、長期ビジョンで掲げた「企画&IPをあらゆる価値の源泉として、その中でもアニメーションを成長ドライバーにし、デジタルの力で時間・空間・言語を超え、海外での飛躍的成長を実現する」という成長スト―リーを踏襲しつつ、「成長投資と変革を継続する期間」とし、成長戦略に沿った投資や組織の変革をさらに加速させ、次なる「飛躍的成長を実現し、未来へとつなぐ期間」への着実な橋渡しとなることを目指します。
<「中期経営計画 2028」の指針>“人”が情熱を傾けて“企画”をし、エンタテインメントを創り、“世界”に届ける。これが、どんなに外部環境が変化したとしても、当社グループの変わることのないシンプルで本質的な価値創造ストーリーです。加えて、当社グループがより持続的に成長していくためには、エンタテインメントを単に広く届けるだけではなく、世界中のお客様の好みやニーズを深く知り、お客様ともっと積極的に“つながる”ことで、ファンになっていただくことが大切になると考えています。
“人”、“企画”、“世界”、そして、お客様ともっと“つながる”
これを「中期経営計画 2028」の指針として、これに基づく重点ポイントや各事業戦略、数値目標、人材と組織の戦略等を策定いたしました。その概要は以下の通りです。
<「中期経営計画 2028」の重点ポイント>「中期経営計画 2028」では、「人材」「コンテンツ・IP」「デジタル」「海外」を重点領域とし、以下の通り重点ポイントを定めました。これらの目標に向かって、グループ一丸となって各事業戦略を積極的に推進してまいります
① 人材
• 少数精鋭から精鋭多数への転換
――成長の源泉である“人”を3年間で約200名採用、人への投資とエンゲージメント向上に注力
② コンテンツ・IP
• 映画・アニメ・演劇・ゲーム等のコンテンツの企画・製作、IP創出に対し、3年間で約700億円を投下
• 約200タイトルの豊富で良質なエンタテインメントを提供、世界中のお客様に感動を届ける
• 2032年までにTOHO animationの人員を倍増、IP・アニメ事業の営業利益200%以上(2025年2月期比)を目指す
• ゴジラIPの開発・展開に3年間で約150億円を投下し、IPビジネスを本格的に強化する
• コンテンツ・IP領域のM&Aやシネコン出店等の成長投資として3年間で1,200億円程度を設定
③ デジタル
• 東宝グループの顧客データ基盤を整備する TOHO-ONE プロジェクトに対して約50億円を投資
――2026年春、お客様と一つにつながる“新しい会員サービス”ローンチ予定
④ 海外
• 海外拠点の拡充を加速するとともに、新たにグループインした企業とのシナジーを創出
• 2032年に向けて海外売上高比率を現状の10%程度から30%まで引き上げる
<「中期経営計画 2028」の数値目標>① 営業利益 700億円以上(FY2028までに達成)
② 株主還元 年間85円の配当を下限に配当性向35%以上かつ機動的な自己株式取得の実施
③ ROE 9%以上
<事業の4本柱の戦略>当社グループは、2026年2月期より会計上の報告セグメントを「事業の4本柱」に沿って「映画事業」「IP・アニメ事業」(新設)「演劇事業」「不動産事業」に変更いたします。「中期経営計画 2028」における各セグメントの事業戦略の概要は、次の通りです。
映画事業においては、自社企画作品の製作推進、映画以外のコンテンツ配給の拡充により収益力をさらに高め、収益基盤をより強固にしていきます。また、海外グループ会社との連携により、世界を見据えた日本実写コンテンツの企画開発を推進します。
IP・アニメ事業においては、良質なコンテンツ・IPを数多く製作し世界へ展開するために、人員増による体制の拡充と制作スタジオ機能の強化を図ります。また、成長領域である海外とゲームの収益をさらに伸長させ、同事業の営業利益を2032年までに200%以上(2025年2月期対比)にすることを目指します。
演劇事業においては、外部劇場での主催公演、新会員サービス、多様なチケット価格や販売形態の多角化により、帝劇休館中の興行収入の下支えを図ります。また、既存人気作品の価値最大化、オリジナル作品開発、海外展開により、東宝演劇のブランド力を高め、新・帝国劇場へとつなげていきます。
不動産事業においては、中長期的な収益基盤の維持を図りつつ、資産効率の向上を目指します。既存物件の賃料アップに注力し物件価値の向上を図るとともに、「帝劇ビル」の再開発事業を着実に推進してまいります。
<人材と組織の戦略/サステナビリティ経営の推進>以上のような成長戦略を推進していくためには、お客様に感動を届ける当社グループの社員一人ひとりが、朗らかにいきいきと働けていること、つまり“心が動く”状態であることが、なによりも大切だと考えます。そこで「中期経営計画 2028」においては「心が動き、心を動かす仕事を通じて幸福を得られる会社へ」という新たな「人材と組織のビジョン」を策定しました。また、「東宝グループは、エンタテインメントの提供を通じて誰もが幸福で心豊かになれる社会の実現に向けて“朗らかに、清く正しく美しく”貢献します」という「サステナビリティの基本方針」に基づき、人的資本、気候変動、人権、文化継承の4つの重要課題を軸として、持続可能な社会の実現に向け、引き続き取り組んでまいります。
世界中のファンから愛されるエンタテインメント企業になる。そのような未来を目指して、当社グループはさらなる成長と企業価値向上に向けて、果敢に挑戦してまいります。
(1)経営の基本方針
当社グループは、小林一三により設立されて以来、映画・演劇を中心に、幅広い層のお客様に夢や感動、喜びをもたらす数多くのエンタテインメント作品をお届けしてまいりました。
その経営理念は、「健全な娯楽を広く大衆に提供すること」を企業の存在意義(パーパス)とし、「吾々の享くる幸福はお客様の賜ものなり」を大切な価値観(バリュー)とし、「朗らかに、清く正しく美しく」を行動の理念(モットー)としております。
これらの理念に基づき、公明正大な事業活動に取り組むとともに、常にお客様の目線に立ち、時代に即した新鮮な企画を提案し、世の中に最高のエンタテインメントを提供し続ける企業集団でありたいと考えております。
(2)「TOHO VISION 2032 東宝グループ 経営戦略」について
当社グループは2022年4月に公表した創立100周年に向けた「長期ビジョン 2032」に基づき、2025年4月に「中期経営計画 2028」を新たに策定いたしました。本経営戦略に基づくさまざまな施策を展開して、持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けて取り組んでおります。その体系と骨子は、以下の通りです。
1.長期ビジョン 2032
(1) コーポレート・スローガン

(2) 3つの重要ポイント
① 成長に向けた「投資」を促進 ②「人材」の確保・育成に注力 ③ アニメ事業を「第4の柱」に
(3) 成長戦略の4つのキーワードと飛躍に向けた成長ストーリー
① 企画&IP ② アニメーション ③ デジタル ④ 海外
「企画&IP」をあらゆる価値の源泉として、その中でも「アニメーション」を成長ドライバーにし、「デジタル」の力で時間・空間・言語を超え、「海外」での飛躍的成長を実現すべく、果敢に挑戦していく。
(4) 目指す姿(2032年の財務イメージ)
営業利益 750億円~1000億円
ROE 恒常的に10%程度以上
(5) 事業ポートフォリオの方向性
既存事業の3本柱である映画事業、演劇事業、不動産事業に加え、「アニメ事業」を第4の柱とする
2.「中期経営計画 2028」
(1)「中期経営計画 2028」の位置づけ

(2)指針
“人”が、情熱を傾けて“企画”をし、エンタテインメントを創り、“世界”に届ける。
これが、どんなに外部環境が変化したとしても、当社グループの変わることのないシンプルで本質的な価値創造ストーリーです。加えて、より持続的に成長していくためには、エンタテインメントを単に広く届けるだけではなく、世界中のお客様の好みやニーズを深く知り、お客様ともっと積極的に“つながる”ことでファンになっていただくことが大切になると考えています。
“人”、“企画”、“世界”、そして、お客様ともっと“つながる”
これを「中期経営計画 2028」の指針として当社グループは世界中のファンから愛されるエンタテインメント企業を目指して邁進していきます。
(3)重点ポイントと数値目標
「中期経営計画 2028」では、「人材」「コンテンツ・IP」「デジタル」「海外」を重点領域とし、以下の通り重点ポイントと数値目標を定めました。これらの目標に向かって、グループ一丸となって各事業戦略を積極的に推進してまいります。


(4)キャピタルアロケーション

(5) 人材と組織/サステナビリティ
① 人材と組織の戦略
人材と組織のビジョン
心が動き、心を動かす仕事を通じて、幸福を得られる会社へ
人材と組織のキーワード
・“少数精鋭”から“精鋭多数へ”
・成長・自律・安心
人材と組織の方針
1.成長を推進し、変化に対応する多様な人材の獲得の強化
2.企画力あふれる東宝らしい精鋭人材の育成の強化
3.社員の強みを活かし、成長を支援する人事施策の推進
4.自らを律し、裁量をもって、安心して活躍できる組織・環境の追求
② サステナビリティ経営の推進
東宝グループは次の3年間においても、サステナビリティの基本方針に則り、各事業戦略や人材と組織の戦略を通じて、4つの重要課題を軸として、持続可能な社会の実現に向けて取り組んでいきます。
基本方針
東宝グループは、エンタテインメントの提供を通じて誰もが幸福で心豊かになれる社会の実現に向けて“朗らかに、清く正しく美しく”貢献します
4つの重要課題
朗らかに ① 誰もが健康でいきいきと活躍できる職場環境をつくります
清く ② 地球環境に優しいクリーンな事業活動を推進します
正しく ③ 人権を尊重し、健全で公正な企業文化を形成します
美しく ④ 豊かな映画・演劇文化を創造し、次世代への継承に努めます
(3)経営環境についての認識
当社グループを巡る経営環境は、雇用環境の改善や賃金の上昇など日本経済には回復の兆しが見られるものの、米国の貿易政策をはじめとして世界的な経済情勢は不透明さを増しており、国内においても慢性的な人手不足や物価上昇などによる消費マインドの下振れも懸念される状況にあります。
当社グループの主要な事業が属する映画、演劇、ライブエンタテインメント業界は、新型コロナウイルス感染症の影響から社会活動が正常化して以降、本格的な市場回復に向かっている状況にあります。国内の映画市場においては、2024年の映画人口は1億4,444万人(前年比92.9%)、興行収入は2,069億円(前年比93.5%)と前年比で微減となりましたが、コロナ前の平均的な興行収入のおよそ9割程度まで市場は回復しております。また、演劇及びライブエンタテインメント市場はさらに力強い回復を見せ、2023年には既にコロナ禍前を上回る市場規模に達し、その後も着実に伸長していると見られます。
また、コロナ禍を経てコンテンツのデジタル化が進み、動画配信が世界的に急速な普及を見せ、映像の視聴形態、コンテンツの楽しみ方が多様化するとともに、グローバル化が進んでおります。特に、当社グループが「第4の柱」の成長ドライバーと位置付けているアニメーションにおいては、動画配信を通じて日本アニメの人気が世界中へ広がっております。日本のアニメ関連市場は2023年に初めて3兆円を超え、過去10年で市場規模が倍増し、国内市場1.6兆円に対し海外市場1.7兆円と初めて海外が国内を逆転するなど、とりわけ海外市場の伸びが著しい状況です。
一方、当社が収益基盤の一つとして重視している不動産事業は、地価の上昇、資材価格や人員不足による建設費の高騰、水道光熱費等の各種経費の増加など、非常に厳しい経営環境に置かれております。それらの影響は不動産賃貸や再開発事業を中心とした当社の事業形態にも確実に及んでおり、今後の当社グループの不動産事業の方向性を定めるうえで無視できない状況となっております。
そのような情勢下で、当社グループの2025年2月期の業績は、映画、アニメ、演劇、不動産の「事業の4本柱」が共に堅調に推移しました。
その中でも映画事業が特に好調に推移しました。当社のオリジナルIPであるゴジラの70周年記念作品「ゴジラ-1.0」が国内のみならず米国でも大ヒットし、国内・海外での配信権販売、商品化ライセンス、マーチャンダイジング、パッケージ販売等により大きく業績に貢献しました。また、自社製作作品の「変な家」が興収50億円を超えたことも製作者利益に大きく貢献しました。
映画事業の中に属するアニメ事業においては、TOHO animation作品の劇場用映画、TVアニメシリーズが非常に好調に稼働しました。興行収入115億円を超え大ヒットとなった「劇場版ハイキュー‼ゴミ捨て場の決戦」をはじめ、「僕のヒーローアカデミア」「呪術廻戦」「葬送のフリーレン」「薬屋のひとりごと」「怪獣8号」等の人気タイトルを国内・海外に向けて動画配信、商品化ライセンス等で積極的に展開し、会社全体の業績を大きく牽引しました。
演劇事業では、舞台「千と千尋の神隠し」をイギリス・ロンドンで日本人キャストによる日本語でのロングラン公演を成功させるという画期的な成果を実現しました。一方で、2025年2月末には当社の基幹劇場である帝国劇場が約60年の歴史に幕を下ろすことになりましたが、そのクロージング・ラインナップは大盛況で終了することができました。
不動産事業では、厳しい事業環境の中、所有する不動産の空室率抑制、賃料アップに尽力し、堅調な成績を収めることができました。また、渋谷アクシュのグランドオープンなど、再開発事業も堅実に進めました。
これらにより連結営業利益は646億円となり、「中期経営計画 2025」で目標としたそれまでの最高益(528億円)を大きく更新し、前期に更新した最高益(592億円)をさらに上回る好成績を達成することができました。
このような成果は、当社グループが掲げている「長期ビジョン 2032」における成長戦略のキーワードである①企画&IP、②アニメーション、③デジタル、④海外の4つが、今後も積極果敢にチャレンジすべきキーワードであることを証明しており、これからも成長投資と変革を継続していくことで、持続的な成長と中長期的な企業価値向上に資することができるとの認識を新たにしています。
一方で、冒頭にも記した通り、世界的に不確実性を増す経済情勢や、深刻さを増す人手不足など、経営環境は依然として先行き不透明な状況が続いており、それらの影響について十分に注視する必要がありますが、これらの不透明な外部環境が当社業績に与える影響は、今のところ軽微であるとの認識です。
以下、セグメント別に現在の経営環境等に対する認識を記します。
[映画事業]
映画営業事業においては、2024年(自然暦)に、当社配給作品の年間累計興行収入が初めて900億円を超え、国内シェアで45%に迫る歴代1位の成績となりました。年間30本程度の強力な興行力を持つ実写、アニメ作品のラインナップに加え、音楽・舞台・スポーツなどのコンテンツを配給するTOHO NEXTレーベルも立ち上げ、豊富かつ多彩なコンテンツを継続的に提供できる配給会社として、競合他社との間で圧倒的な競争優位性を維持していると考えています。また、子会社の東宝東和㈱配給の「怪盗グルーのミニオン超変身」が大ヒットするなど、当社グループとして、東宝㈱で話題の邦画を、東宝東和㈱などで興行力のある洋画コンテンツを配給することで、国内で継続的に話題の作品を提供できる体制が確立できていると考えています。
一方で、公開される作品の興行成績に大きな差が見られるようになっており、いわゆる作品の「優勝劣敗」が拡大していると認識しています。そのため、時代の感性をとらえたコンテンツの企画力はもちろん、SNS等の有効活用などを含めたマーケティング力の強化も大きな課題となっています。
映画興行事業においては、自然暦における2024年の全国興行収入は2,069億円(前年比93.5%)と微減となりましたが、その内訳を見ると、アニメ作品が好調な邦画は1,558億円で過去最高を記録した一方、ハリウッドスタジオのストライキの影響が残る洋画は魅力ある新作に乏しく、511億円と落ち込みが顕著になりました。したがって映画興行界としては、ハリウッドを中心とした「洋画の復活」が待たれるところです。なお、2025年以降はストライキの影響から回復し、洋画の新作、大作の公開が予定されております。
そのような状況下にあって当社グループのTOHOシネマズ㈱は、全国の主要都市の好立地にシネマコンプレックスを展開し、2024年においてスクリーンシェアでは約19%、興行収入のシェアは約27%と業界トップを維持しており、競合他社との競争優位性に揺るぎはありません。今後もお客様に「選ばれるTOHOシネマズ」であるべく、バラエティ豊かな強力作品を用意すること、積極的な設備投資で最高の鑑賞環境を提供すること、コンセッション(売店)やストア等の非興行収入を拡大・強化すること、適切な映画鑑賞料金施策を実施することなどが重要な課題です。一方で、建設費の高騰や出店適地の減少等により、新規出店のペースは鈍くならざるを得なくなっており、出店による収入やシェア拡大は以前より難しい状況になっております。また、エネルギー価格や人件費コストなどの上昇傾向が映画館の収支構造に与える影響や、動画配信の普及が映画館で映画を観る習慣に与える影響についても、引き続き懸念すべき課題です。また、長期的には国内の人口減も市場の縮小につながる大きな懸念材料です。
映像事業においては、「TOHO VISION 2032 東宝グループ 経営戦略」において「第4の柱」、成長ドライバーとして位置付けたアニメ事業が急速な成長を遂げております。TOHO animationには、「僕のヒーローアカデミア」「ハイキュー‼」「呪術廻戦」「SPY×FAMILY」「葬送のフリーレン」「薬屋のひとりごと」「Dr.STONE」といった強力タイトルに加え、新たな作品として「怪獣8号」「狼と香辛料」「天穂のサクナヒメ」「ぷにるはかわいいスライム」などがラインナップに加わりました。これらのタイトルの国内外の動画配信、商品化ライセンス、マーチャンダイジング、パッケージ販売などの幅広いビジネス展開や、ゲーム事業における「呪術廻戦 ファントムパレード」や「ゴジラ バトルライン」などが当社グループ全体の業績を大きく牽引しています。アニメ事業については市場そのものが着実に伸長しているという手ごたえが感じられ、国内外の多くの熱心なファンに支えられ、今後も中長期的に成長を続けるポテンシャルがあると認識しています。当社グループは、これら市場の成長を確実に取り込み、アニメ事業の持続的成長を目指してまいります。一方で、強力な原作のアニメ化権の獲得については競争が激化しております。それらの競争を勝ち抜くためには、良質なアニメ・コンテンツをさらに数多く企画・製作できる人員と体制の整備、海外の地域ごとにきめ細かいライセンス販売ができる拠点・機能の整備、ゲーム事業の開発・運営等のノウハウの習得などが課題になるものと認識しています。引き続き、当社グループの成長ドライバーとして経営資源を集中し、多面的・重層的・長期的なビジネス展開に注力してまいります。
また、その他子会社においても、TOHOスタジオ㈱では、映画・映像制作及びスタジオ事業の一体化を図り、外資系動画配信プラットフォームのスタジオ賃貸を誘致するなど、順調に稼働しました。また、㈱東宝映像美術や東宝舞台㈱では、コロナ禍において中断していたテーマパークにおける展示物の製作業務や音楽ライブイベントが復活したことで、美術製作・舞台製作における受注の回復傾向が顕著に見られます。
[演劇事業]
演劇事業においては、建て替えによる休館のため最後の年度となった帝国劇場において「レ・ミゼラブル」「モーツァルト!」「Endless SHOCK」や、掉尾を飾る記念コンサート「THE BEST New HISTORY COMING」等のクロージング・ラインナップが連日満席の賑わいとなり、配信やライブビューイングと合わせて多くのお客様が現帝国劇場との別れを惜しんでくださいました。
さらに「千と千尋の神隠し」は2024年4月から約4か月にわたるロンドンでのロングラン公演が大成功を収め、イギリスで最も権威のある演劇賞ローレンス・オリヴィエ賞4部門ノミネートという快挙を果たし、日本の演劇コンテンツの海外展開の可能性を感じた1年となりました。
一方で、2025年3月以降の帝国劇場休館中においては、代替劇場での公演回数の確保に注力し、一定程度の興行収入を維持・確保する必要があります。また、コロナ禍において積極的に活用し始めた演劇コンテンツの動画配信や公演関連グッズの販売等、興行収入以外の収益源の確保や、海外への作品ライセンス展開等によって収益機会の拡大に向けた取り組みが課題となります。いずれにせよ帝劇休館中において、これまでの長い歴史で培ってきた東宝演劇、東宝ミュージカルのブランドを維持し、さらに高めていくことによって、新・帝国劇場へとつなげていくことが、演劇事業に課せられた大きな課題となります。
また、東宝芸能㈱では、所属俳優がCM・TV・映画出演などで順調に稼働しております。
[不動産事業]
不動産賃貸事業においては、足元の不動産市況は、東京都心地区のオフィス空室率が4%以下に低下するなどオフィスの移転・拡張需要は底堅く、成約賃料についても緩やかな上昇基調が見られます。好立地が多い当社グループ保有物件の空室率は1%未満の低い水準で推移しており、賃料も比較的底堅い状況にあります。しかしながら、建築コストの高騰、エネルギー価格や租税公課などの上昇傾向、さらには世界的な関税戦争、金融政策の変更等に伴う金利上昇が不動産賃貸事業に与える影響について、注視していく必要があります。
道路事業においては、老朽化による道路関連のインフラ整備をはじめとする公共投資の受注は引き続き堅調であり、当面は順調に推移すると思われます。スバル興業㈱と同社の連結子会社が積極的な営業活動により新規受注や既存工事の追加受注による業績拡大に努めてまいります。
不動産保守・管理事業においては、連結子会社である東宝ビル管理㈱及び東宝ファシリティーズ㈱が厳しい競争環境の中でも受注を回復させるとともに、価格転嫁についても積極的な営業展開に努めております。
なお、道路事業、不動産保守・管理事業の両事業においては、深刻な人手不足やインフレによる賃金上昇の影響について、注視していく必要があります。
[その他事業]
その他事業においては、「東宝調布スポーツパーク」でゴルフ練習場、テニスクラブ等を運営する東宝共榮企業㈱が、コロナ禍における屋外スポーツの一時的な特需は過ぎたものの、利用者数は堅調に推移しています。また、TOHOリテール㈱は、演劇事業のグッズ販売等を積極的に展開することで業績を回復しております。
(4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標
当社グループは、経営目標の達成状況を判断するための指標として、営業利益とROEを特に重視しております。本業の稼ぐ力(収益性)や成長性を示す営業利益と、経営全体の資本効率性を示すROEの両面から、バランスの良い数値目標の設定を心がけております。
営業利益については、「長期ビジョン 2032」において、2032年には営業利益750億~1,000億円の企業集団への成長を目指すとしております。また、2025年4月に策定した「中期経営計画 2028」においては、そのための橋渡しとして、2028年2月期までに営業利益700億円の達成を目指すとしております。
ROEについては、長期ビジョンの策定時には2032年に8~10%と設定していましたが、「中期経営計画 2028」の期間においては9%以上とし、2032年までには恒常的に10%以上と目標値を引き上げております。
なお、株主還元に関する指標としては、「中期経営計画 2028」において「年間85円の配当を下限に配当性向35%以上かつ機動的な自己株式取得の実施」としております。
また、「中期経営計画 2028」においては、2028年2月期までの3カ年を「成長投資と変革を継続する期間」と位置付け、キャピタルアロケーションにおいて、コンテンツ・IP関連のM&Aやシネコン出店などの「成長投資」として3カ年で1,200億円程度を見込むとしております。
(5)当社グループが優先的に対処すべき課題
当社グループは、2022年4月に公表した長期ビジョン「TOHO VISION 2032 東宝グループ 経営戦略」に基づき、創立100周年を迎える2032年に向けたコーポレート・スローガン「Entertainment for YOU 世界中のお客様に感動を」を掲げ、持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けて取り組んでいます。
長期ビジョンにおいては、①成長に向けた「投資」を推進、②「人材」の確保・育成に注力、③アニメ事業を「第4の柱に」の3つを重要ポイントとし、成長戦略として「企画&IP」「アニメーション」「デジタル」「海外」の4つのキーワードを掲げ、これらに沿った事業展開、成長投資、資本政策を着実に実行してきた結果、「中期経営計画 2025」(FY2023-2025)の3カ年においては、数値目標として定めた①営業利益の最高益(528億円)の更新、②ROE8%以上を達成することができました。
そして、本年4月には「中期経営計画 2028」を策定・公表し、新たな3カ年計画(FY2026-2028)をスタートさせました。「中期経営計画 2028」の位置づけとしては、長期ビジョンで掲げた「企画&IPをあらゆる価値の源泉として、その中でもアニメーションを成長ドライバーにし、デジタルの力で時間・空間・言語を超え、海外での飛躍的成長を実現する」という成長スト―リーを踏襲しつつ、「成長投資と変革を継続する期間」とし、成長戦略に沿った投資や組織の変革をさらに加速させ、次なる「飛躍的成長を実現し、未来へとつなぐ期間」への着実な橋渡しとなることを目指します。
<「中期経営計画 2028」の指針>“人”が情熱を傾けて“企画”をし、エンタテインメントを創り、“世界”に届ける。これが、どんなに外部環境が変化したとしても、当社グループの変わることのないシンプルで本質的な価値創造ストーリーです。加えて、当社グループがより持続的に成長していくためには、エンタテインメントを単に広く届けるだけではなく、世界中のお客様の好みやニーズを深く知り、お客様ともっと積極的に“つながる”ことで、ファンになっていただくことが大切になると考えています。
“人”、“企画”、“世界”、そして、お客様ともっと“つながる”
これを「中期経営計画 2028」の指針として、これに基づく重点ポイントや各事業戦略、数値目標、人材と組織の戦略等を策定いたしました。その概要は以下の通りです。
<「中期経営計画 2028」の重点ポイント>「中期経営計画 2028」では、「人材」「コンテンツ・IP」「デジタル」「海外」を重点領域とし、以下の通り重点ポイントを定めました。これらの目標に向かって、グループ一丸となって各事業戦略を積極的に推進してまいります
① 人材
• 少数精鋭から精鋭多数への転換
――成長の源泉である“人”を3年間で約200名採用、人への投資とエンゲージメント向上に注力
② コンテンツ・IP
• 映画・アニメ・演劇・ゲーム等のコンテンツの企画・製作、IP創出に対し、3年間で約700億円を投下
• 約200タイトルの豊富で良質なエンタテインメントを提供、世界中のお客様に感動を届ける
• 2032年までにTOHO animationの人員を倍増、IP・アニメ事業の営業利益200%以上(2025年2月期比)を目指す
• ゴジラIPの開発・展開に3年間で約150億円を投下し、IPビジネスを本格的に強化する
• コンテンツ・IP領域のM&Aやシネコン出店等の成長投資として3年間で1,200億円程度を設定
③ デジタル
• 東宝グループの顧客データ基盤を整備する TOHO-ONE プロジェクトに対して約50億円を投資
――2026年春、お客様と一つにつながる“新しい会員サービス”ローンチ予定
④ 海外
• 海外拠点の拡充を加速するとともに、新たにグループインした企業とのシナジーを創出
• 2032年に向けて海外売上高比率を現状の10%程度から30%まで引き上げる
<「中期経営計画 2028」の数値目標>① 営業利益 700億円以上(FY2028までに達成)
② 株主還元 年間85円の配当を下限に配当性向35%以上かつ機動的な自己株式取得の実施
③ ROE 9%以上
<事業の4本柱の戦略>当社グループは、2026年2月期より会計上の報告セグメントを「事業の4本柱」に沿って「映画事業」「IP・アニメ事業」(新設)「演劇事業」「不動産事業」に変更いたします。「中期経営計画 2028」における各セグメントの事業戦略の概要は、次の通りです。
映画事業においては、自社企画作品の製作推進、映画以外のコンテンツ配給の拡充により収益力をさらに高め、収益基盤をより強固にしていきます。また、海外グループ会社との連携により、世界を見据えた日本実写コンテンツの企画開発を推進します。
IP・アニメ事業においては、良質なコンテンツ・IPを数多く製作し世界へ展開するために、人員増による体制の拡充と制作スタジオ機能の強化を図ります。また、成長領域である海外とゲームの収益をさらに伸長させ、同事業の営業利益を2032年までに200%以上(2025年2月期対比)にすることを目指します。
演劇事業においては、外部劇場での主催公演、新会員サービス、多様なチケット価格や販売形態の多角化により、帝劇休館中の興行収入の下支えを図ります。また、既存人気作品の価値最大化、オリジナル作品開発、海外展開により、東宝演劇のブランド力を高め、新・帝国劇場へとつなげていきます。
不動産事業においては、中長期的な収益基盤の維持を図りつつ、資産効率の向上を目指します。既存物件の賃料アップに注力し物件価値の向上を図るとともに、「帝劇ビル」の再開発事業を着実に推進してまいります。
<人材と組織の戦略/サステナビリティ経営の推進>以上のような成長戦略を推進していくためには、お客様に感動を届ける当社グループの社員一人ひとりが、朗らかにいきいきと働けていること、つまり“心が動く”状態であることが、なによりも大切だと考えます。そこで「中期経営計画 2028」においては「心が動き、心を動かす仕事を通じて幸福を得られる会社へ」という新たな「人材と組織のビジョン」を策定しました。また、「東宝グループは、エンタテインメントの提供を通じて誰もが幸福で心豊かになれる社会の実現に向けて“朗らかに、清く正しく美しく”貢献します」という「サステナビリティの基本方針」に基づき、人的資本、気候変動、人権、文化継承の4つの重要課題を軸として、持続可能な社会の実現に向け、引き続き取り組んでまいります。
世界中のファンから愛されるエンタテインメント企業になる。そのような未来を目指して、当社グループはさらなる成長と企業価値向上に向けて、果敢に挑戦してまいります。