有価証券報告書-第132期(令和2年3月1日-令和3年2月28日)
有報資料
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営の基本方針
当社グループは、「健全な娯楽を広く大衆に提供すること」を使命として小林一三により設立されて以来、映画・演劇を中心に、幅広い層のお客様に夢や感動、喜びをもたらす数多くのエンタテインメント作品をお届けしてまいりました。
また、創業者の言葉である「吾々の享くる幸福はお客様の賜ものなり」を大切な価値観とし、「朗らかに、清く正しく美しく」を行動の理念に置き、事業の三本柱である「映画・演劇・不動産」のすべての事業において、公明正大な事業活動に取り組むとともに、常にお客様の目線に立ち、時代に即した新鮮な企画を提案し、世の中に最高のエンタテインメントを提供し続ける企業集団でありたいと考えております。
上記の経営理念に基づき、グループ全体で中長期的に企業価値の向上に努めてまいります。
(2)中期経営戦略について
当社グループは、2018年4月に中期経営戦略「TOHO VISION 2021」を策定しております。その体系と骨子は、以下の通りです。
1.主軸戦略
① コンテンツ戦略(映画・映像・アニメ・演劇・音楽・ゲームなど)
企画開発力をさらに強化し、新機軸の作品を創出する
② プラットフォーム戦略(TOHOシネマズ、帝国劇場、シアタークリエ)
他では得られない上質な「エンタテインメント体験」を提供する
③ 不動産戦略(全国の賃貸物件・開発案件)
保有物件を総点検し、開発と資産の入れ替えを企画・推進する
2.ブレイクスルー戦略
① Godzillaを軸としたキャラクタービジネスの強化
② JAPAN IP(日本の企画)のGlobal(海外)展開の本格化
3.プラス・ワン
・技術革新等により大きく変化する経営環境を見越して、新規事業の育成による裾野の拡大に取り組む
なお、上記中期経営戦略において、経営の目標として重視する指標は「営業利益」とし、2019年2月期から2021年2月期の3年間の連結営業利益について「巡航高度」(標準的に維持すべき水準)400億円を確たるものにするとともに、ブレイクスルー戦略の開花等により、過去最高益(502億円)の更新に挑戦すると定めております。
上記の中期経営戦略は既に3年の計画期間を経過しておりますが、2年度目となる2020年2月期には、主軸戦略である「映画・演劇・不動産」の三本柱がそれぞれの事業領域で充実した成果を上げたことにより、営業利益は528億円となり、最大の数値目標であった過去最高益の更新を達成することができました。しかしながら、最終年度となる2021年2月期においては、新型コロナウイルスの感染拡大により、当社グループを取り巻く経営環境は著しく変化し、「巡航高度」の400億円という目標指標を下回る大幅な業績悪化を余儀なくされました。
本来ならば、当連結会計年度の開始時期より新たな中期経営戦略の策定が求められるところですが、新型コロナウイルス感染の収束時期について現時点では見通しが不透明であることから、当社グループとしては、新たな経営戦略の前提となる中長期的な事業環境は依然不確実性が高く、数値目標等の定量的な要素についても適正かつ合理的な算出が困難な状況にあると判断し、このような状況下において、次期中期経営戦略を公表することは、投資判断の信頼性に懸念を生じさせる可能性もあるとの理由から、次期中期経営戦略の公表についてはいったん延期する旨を2021年2月16日開催の取締役会において決議し、同日開示しております。今後は、アフターコロナの経営環境全般を慎重に見極めながら議論を重ね、中長期の持続的な成長に向けた新たな経営戦略の策定を行ってまいります。
(3)経営環境についての認識
当社グループを巡る経営環境は、新型コロナウイルスの感染拡大の直前まで極めて順調に推移していたと思われます。2020年2月期は、主力の映画事業において邦画・洋画の大ヒット作品に恵まれ、2019年自然暦の全国映画興行収入が歴代最高の2,611億円を記録するなど、映画業界はかつてない活況を呈しました。演劇事業においても多くのミュージカル公演で盛況となり、体験型消費が支持されてライブ・エンタテインメント市場全体が拡大基調にありました。不動産事業においても都心部を中心にオフィス空室率が歴史的に低い水準で推移するなど、当社グループの主力事業「映画・演劇・不動産」はいずれも好環境に恵まれ、順調に業績を伸長させることができ、その結果、中期経営戦略で定めた過去最高益の更新という目標を達成することができました。
しかしながら、2021年2月期の期初からの新型コロナウイルスの感染拡大により、当社グループを巡る経営環境はまさに一変いたしました。新型コロナウイルス感染症は、映画館や演劇劇場のようなリアルな場所・空間に多くのお客様を集めることによって成り立つ、当社グループの主要なビジネスモデル(集客型のエンタテインメント)の根幹に大きな打撃をもたらすことになりました。緊急事態宣言の発出や政府・自治体からの要請により、主要な事業場である映画館や演劇劇場が全面休業、時間短縮、座席制限等の大きな制約を受け、2021年2月期の通期業績は、映画・演劇の両興行部門において大きな損失を計上するなど、大幅な業績悪化を余儀なくされました。
現時点においても、新型コロナウイルス感染症の影響は依然として予断を許さない状況が続いておりますが、一方で、お客様の安心・安全と従業員の健康を確保すべく、興行現場の感染防止対策は徹底が図られており、ウィズコロナにおける映画館・演劇劇場の事業継続体制はしっかり確保できているものと考えています。また、そこで上映・上演されるコンテンツの供給についても、感染の状況に応じた柔軟かつ臨機応変な公開・公演の方法・時期・スケジュールの設定などのノウハウの蓄積が進んでおります。そして、昨年10月公開の「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が歴代最高の映画興行収入記録を打ち立てたように、コロナ禍においても真に魅力的なコンテンツを提供することができれば、多くのお客様を集客できることは既に証明されています。
このように、当社グループの主力事業は、新型コロナウイルスの影響を色濃く受けながらも、それを乗り越えて段階的に改善に向かう手応えが感じられる状況であり、次期(2022年2月期)以降、新型コロナウイルスの感染状況の収束にあわせて、業績は着実に回復へと向かっていくものと認識しています。また、個々の事業ごとに見ればコロナ禍がもたらした様々な環境変化や今後懸念すべき事項は存在しつつも、経営全体としては、これまで当社グループが培ってきた経営基盤や競争優位性、基本となる事業構造は強固なものがあり、事業の継続が困難になるような状況は想定されません。また、人々のエンタテインメントへの需要が失われたわけではなく、むしろ新型コロナウイルスの感染が収束した暁には、あらためてリアルなエンタテインメントの根源的な価値が見直される可能性が高いと考えております。
以下、セグメント別に新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けた現在の経営環境等に対する認識について簡潔な説明を記します。
[映画事業]
映画営業事業においては、当社配給作品である邦画については、適切な感染防止対策を実施することで、概ね順調に製作・配給が可能となる状況に改善されております。また、洋画が軒並み公開延期となった影響もあり、興行力のあるコンテンツを継続的に提供できている当社の配給会社としてのシェアは相対的に急拡大し、例年30%台のシェアであるところ昨年は50%を超えるなど、競合他社との間で圧倒的な競争優位性を維持しています。一方で、日本に比べ感染拡大が深刻な欧米の映画産業の混乱は依然継続しており、昨年来延期が続いている東宝東和㈱等が国内配給を担当するハリウッドメジャーの新作公開がさらに後ろ倒しになるなど、洋画配給市場の正常化はいまだ不透明な状況にあります。また、外資系配信プラットフォーム各社が急速に会員数を増やすことは、当社作品の二次利用等の機会創出につながる反面、それら配信プラットフォーマーが日本国内において作品製作に乗り出しており、映画製作における影響力を強めていく懸念があります。
映画興行事業においては、緊急事態宣言の発出による2020年4月~5月の映画館の全面休業、新作映画公開の延期等により、2020年自然暦の全国映画興行収入は前年比55%まで大幅に減少しました。しかしながら、その中で特筆すべきは「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が歴代興行成績の新記録を打ち立てる想定外の大ヒットとなったことです。コロナ禍で外出自粛ムードが蔓延し、巣ごもり消費が進んだと言われる中でも、コンテンツ次第で多くのお客様が映画館に足を運んでいただけることを見事に証明するとともに、大画面・高音質という家庭では得られない迫力ある鑑賞環境や、大勢が一緒に同じ時間・空間を楽しむ映画鑑賞のイベント性といった本質的な点で、映画館ビジネスが変らず多くの人々の支持を得ることができることを実感するに至りました。そのような状況下で、TOHOシネマズ㈱は全国の主要都市の好立地にシネマコンプレックスを展開し、興行収入のシェアは30%弱と業界トップを占めており、競合他社との競争優位性に揺るぎはありません。今後、新型コロナウイルスの収束とともに、映画興行収入は着実に回復していくものと考えていますが、一方で、国内映画興行市場の5割弱を占める洋画のラインナップ編成の先行きが不透明である状況や、海外のメジャースタジオが自社系列のプラットフォームでの独占配信や劇場公開との同時配信を開始するケースが見られるなど、動画配信市場の動向が映画興行事業へ与える影響については、今後も注視していく必要があると認識しております。
映像事業においては、国内に留まらず米国・アジアを中心に世界的な広がりを見せる日本アニメの流行を受け、TOHO animationレーベルのヒット作・話題作を数多く創出することに注力してまいりましたが、それらのパッケージ・配信・商品化・海外等からの各種配分金収入が好調な上、自社IPであるゴジラを中心とした東宝怪獣キャラクターの商品化権収入等も堅調に伸長しております。また、コロナ禍における巣ごもり需要の高まりは、㈱東宝ステラの運営するECサイトにおいて関連商品の売上拡大の機会となっています。一方で、DVD、Blu-rayなどのパッケージ販売に関しては依然として市場の収縮が続いており、また、新型コロナウイルスの感染拡大により、イベント性の高いODS作品の公開や劇場公開に連動するパンフレット等の販売機会が失われるという懸念があります。㈱東宝映像美術や東宝舞台㈱では、テーマパークにおける展示物の製作業務の見直しや音楽ライブイベントの再開見通しが立たないことによる美術製作・舞台製作における受注減の影響を受けており、それらが長引く懸念があります。
[演劇事業]
演劇事業においては、昨春の大規模イベント自粛要請以降、緊急事態宣言の期間中及び解除後も含め、2020年3月~7月中旬という長期にわたって直営劇場を全面休業するに至りました。その後もソーシャルディスタンスに配慮した座席制限の実施や出演者・スタッフの感染症対策によるやむなき休演など、およそ1年にわたり新型コロナウイルス感染症の影響が色濃く残りました。演劇は映画と異なり一回一回の公演が生モノであり、ライブ・エンタテインメントであることから、公演の継続そのものの難しさを感じるとともにリスクマネジメントの重要性を認識することとなりました。また、当社の提供する演劇公演は熱心なコアのファン層に支えられている一方、一定のベースは各種団体のお客様への販売を想定してきたことから、外出自粛ムードが動員活動に与える影響も決して少なくありません。今後も新型コロナウイルス感染症の完全な収束までは、当社グループに留まらず、演劇業界全体でそれらの影響が一定程度続くことが懸念されます。一方で、コロナ禍において演劇の動画配信の積極的な活用等を促進しており、それらについては演劇事業における損失の補填に留まらず今後の業績拡大の機会になると認識しております。
[不動産事業]
不動産賃貸事業においては、緊急事態宣言中に臨時休館を実施した直営商業施設の賃料免除が発生したほか、緊急事態宣言解除後においても、保有する物件の入居テナントに対する賃料減額の措置等の影響が現在も継続しており、さらに一部テナント解約による賃料の減収の影響も発生しております。不動産市況全体では、これまで低く推移していた都市部におけるオフィスの空室率が急速な上昇に転じるなど、新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化しておりますが、好立地が多い当社グループ保有物件の空室率は1.0%台で推移しており、比較的底堅い状況にあります。しかしながら、当社グループのテナントには、新型コロナウイルス感染症が事業に与える影響が大きいホテルや百貨店・飲食店等の商業施設の割合が大きく、それら業種の業績悪化が当社グループの不動産賃貸事業の賃料収入に与える影響については、今後も十分に注視していく必要があります。
道路事業においては、老朽化による道路関連のインフラ整備をはじめとする公共投資の受注は引き続き堅調であり、コロナ禍の影響はほぼ感じられず、今後も当面は順調に推移すると思われます。スバル興業㈱と同社の連結子会社が積極的な営業活動により新規受注や既存工事の追加受注による業績拡大に努めております。
不動産保守・賃貸事業においては、緊急事態宣言中の臨時休業による機会損失があったものの、その後の経済活動の再開において、連結子会社である東宝ビル管理㈱及び東宝ファシリティーズ㈱が社会全体の“エッセンシャルワーカー”としての強みを生かし受注を徐々に回復させております。
[その他事業]
娯楽事業及び物販飲食事業においては、「東宝調布スポーツパーク」でゴルフ練習場、テニスクラブ等を運営する東宝共栄企業㈱が順調に利用者数を回復させている一方、飲食店舗・劇場売店等を運営するTOHOリテール㈱は、外食需要の厳しい落ち込みが長期に渡り、先行きの回復も不透明なことから、2021年8月までに直営飲食事業から撤退することを決定しております。
(4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標
当社グループでは、経営の目標として重視する指標を「営業利益」としております。中期経営戦略「TOHO VISION 2021」においては、連結営業利益について「巡航高度」(標準的に維持すべき水準)400億円を確たるものにするとともに、ブレイクスルー戦略の開花等により、過去最高益(502億円)の更新に挑戦すると定めております。なお、現時点で次期中期経営戦略の策定・公表はなされてないものの、今後も「営業利益」を重視していく方針に変更はありません。
(5)当社グループが優先的に対処すべき課題
当社グループを巡る経営環境は、新型コロナウイルスの感染拡大により、一変いたしました。緊急事態宣言の発出や政府・自治体からの要請により、主要な事業場である映画館や演劇劇場が全面休業、時間短縮、座席制限等の大きな制約を受け、映画作品の公開延期や演劇公演の中止が相次ぐなど、当社グループの業績は大幅な悪化を余儀なくされました。
このような未曾有の事態に直面しながらも、当社グループは、お客様の安心・安全と従業員の健康を守るため、感染防止対策を徹底するとともに、「健全な娯楽を広く大衆に提供する」という使命を全うすべく、魅力的なコンテンツを継続して提供することに努力いたしました。その結果、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が歴代興行成績の新記録を打ち立てるなど、今後の業績回復への道筋をつけることもできました。
しかしながら、今後も新型コロナウイルス感染症の収束時期は不透明であり、お客様の消費行動にも一定の影響が残ることが予想されます。したがって、当社グループが優先的に対処すべき課題は、この厳しい経営環境を乗り越え、「映画・演劇・不動産」の主力事業における業績を着実な回復軌道に乗せることにあります。
映画事業においては、映画・アニメの強力なコンテンツを確保し、効果的なプロモーションにより多数のヒット作を生み出すべく努力するとともに、多様なメディアにおける関連ビジネスを積極的に展開してまいります。また、TOHOシネマズ㈱の映画館では、バラエティに富んだ作品を取り揃え、安心・安全な上映環境と最高のサービスでお客様をお迎えいたします。
演劇事業においては、引き続き劇場や製作現場での感染防止対策を徹底しつつ、出演者・スタッフ一丸となって、一人でも多くのお客様にライブならではの豊かな感動をお届けすることで、すべての公演を盛況に戻すべく専心してまいります。
不動産事業においては、コロナ禍で変化するオフィス環境や保有物件の入居テナントの状況を注視しながら、柔軟かつ機動的な対応により賃貸収入の維持・拡大に努めます。また、自社物件の再開発事業の推進や、他社との共同開発プロジェクトへの参画にも挑戦してまいります。
経営管理面においては、デジタル化への対応や柔軟で効率的なワークスタイルの推進、リスクマネジメントやコーポレート・ガバナンスの強化等に積極的に取り組んでまいります。
(1)経営の基本方針
当社グループは、「健全な娯楽を広く大衆に提供すること」を使命として小林一三により設立されて以来、映画・演劇を中心に、幅広い層のお客様に夢や感動、喜びをもたらす数多くのエンタテインメント作品をお届けしてまいりました。
また、創業者の言葉である「吾々の享くる幸福はお客様の賜ものなり」を大切な価値観とし、「朗らかに、清く正しく美しく」を行動の理念に置き、事業の三本柱である「映画・演劇・不動産」のすべての事業において、公明正大な事業活動に取り組むとともに、常にお客様の目線に立ち、時代に即した新鮮な企画を提案し、世の中に最高のエンタテインメントを提供し続ける企業集団でありたいと考えております。
上記の経営理念に基づき、グループ全体で中長期的に企業価値の向上に努めてまいります。
(2)中期経営戦略について
当社グループは、2018年4月に中期経営戦略「TOHO VISION 2021」を策定しております。その体系と骨子は、以下の通りです。
1.主軸戦略
① コンテンツ戦略(映画・映像・アニメ・演劇・音楽・ゲームなど)
企画開発力をさらに強化し、新機軸の作品を創出する
② プラットフォーム戦略(TOHOシネマズ、帝国劇場、シアタークリエ)
他では得られない上質な「エンタテインメント体験」を提供する
③ 不動産戦略(全国の賃貸物件・開発案件)
保有物件を総点検し、開発と資産の入れ替えを企画・推進する
2.ブレイクスルー戦略
① Godzillaを軸としたキャラクタービジネスの強化
② JAPAN IP(日本の企画)のGlobal(海外)展開の本格化
3.プラス・ワン
・技術革新等により大きく変化する経営環境を見越して、新規事業の育成による裾野の拡大に取り組む
なお、上記中期経営戦略において、経営の目標として重視する指標は「営業利益」とし、2019年2月期から2021年2月期の3年間の連結営業利益について「巡航高度」(標準的に維持すべき水準)400億円を確たるものにするとともに、ブレイクスルー戦略の開花等により、過去最高益(502億円)の更新に挑戦すると定めております。
上記の中期経営戦略は既に3年の計画期間を経過しておりますが、2年度目となる2020年2月期には、主軸戦略である「映画・演劇・不動産」の三本柱がそれぞれの事業領域で充実した成果を上げたことにより、営業利益は528億円となり、最大の数値目標であった過去最高益の更新を達成することができました。しかしながら、最終年度となる2021年2月期においては、新型コロナウイルスの感染拡大により、当社グループを取り巻く経営環境は著しく変化し、「巡航高度」の400億円という目標指標を下回る大幅な業績悪化を余儀なくされました。
本来ならば、当連結会計年度の開始時期より新たな中期経営戦略の策定が求められるところですが、新型コロナウイルス感染の収束時期について現時点では見通しが不透明であることから、当社グループとしては、新たな経営戦略の前提となる中長期的な事業環境は依然不確実性が高く、数値目標等の定量的な要素についても適正かつ合理的な算出が困難な状況にあると判断し、このような状況下において、次期中期経営戦略を公表することは、投資判断の信頼性に懸念を生じさせる可能性もあるとの理由から、次期中期経営戦略の公表についてはいったん延期する旨を2021年2月16日開催の取締役会において決議し、同日開示しております。今後は、アフターコロナの経営環境全般を慎重に見極めながら議論を重ね、中長期の持続的な成長に向けた新たな経営戦略の策定を行ってまいります。
(3)経営環境についての認識
当社グループを巡る経営環境は、新型コロナウイルスの感染拡大の直前まで極めて順調に推移していたと思われます。2020年2月期は、主力の映画事業において邦画・洋画の大ヒット作品に恵まれ、2019年自然暦の全国映画興行収入が歴代最高の2,611億円を記録するなど、映画業界はかつてない活況を呈しました。演劇事業においても多くのミュージカル公演で盛況となり、体験型消費が支持されてライブ・エンタテインメント市場全体が拡大基調にありました。不動産事業においても都心部を中心にオフィス空室率が歴史的に低い水準で推移するなど、当社グループの主力事業「映画・演劇・不動産」はいずれも好環境に恵まれ、順調に業績を伸長させることができ、その結果、中期経営戦略で定めた過去最高益の更新という目標を達成することができました。
しかしながら、2021年2月期の期初からの新型コロナウイルスの感染拡大により、当社グループを巡る経営環境はまさに一変いたしました。新型コロナウイルス感染症は、映画館や演劇劇場のようなリアルな場所・空間に多くのお客様を集めることによって成り立つ、当社グループの主要なビジネスモデル(集客型のエンタテインメント)の根幹に大きな打撃をもたらすことになりました。緊急事態宣言の発出や政府・自治体からの要請により、主要な事業場である映画館や演劇劇場が全面休業、時間短縮、座席制限等の大きな制約を受け、2021年2月期の通期業績は、映画・演劇の両興行部門において大きな損失を計上するなど、大幅な業績悪化を余儀なくされました。
現時点においても、新型コロナウイルス感染症の影響は依然として予断を許さない状況が続いておりますが、一方で、お客様の安心・安全と従業員の健康を確保すべく、興行現場の感染防止対策は徹底が図られており、ウィズコロナにおける映画館・演劇劇場の事業継続体制はしっかり確保できているものと考えています。また、そこで上映・上演されるコンテンツの供給についても、感染の状況に応じた柔軟かつ臨機応変な公開・公演の方法・時期・スケジュールの設定などのノウハウの蓄積が進んでおります。そして、昨年10月公開の「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が歴代最高の映画興行収入記録を打ち立てたように、コロナ禍においても真に魅力的なコンテンツを提供することができれば、多くのお客様を集客できることは既に証明されています。
このように、当社グループの主力事業は、新型コロナウイルスの影響を色濃く受けながらも、それを乗り越えて段階的に改善に向かう手応えが感じられる状況であり、次期(2022年2月期)以降、新型コロナウイルスの感染状況の収束にあわせて、業績は着実に回復へと向かっていくものと認識しています。また、個々の事業ごとに見ればコロナ禍がもたらした様々な環境変化や今後懸念すべき事項は存在しつつも、経営全体としては、これまで当社グループが培ってきた経営基盤や競争優位性、基本となる事業構造は強固なものがあり、事業の継続が困難になるような状況は想定されません。また、人々のエンタテインメントへの需要が失われたわけではなく、むしろ新型コロナウイルスの感染が収束した暁には、あらためてリアルなエンタテインメントの根源的な価値が見直される可能性が高いと考えております。
以下、セグメント別に新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けた現在の経営環境等に対する認識について簡潔な説明を記します。
[映画事業]
映画営業事業においては、当社配給作品である邦画については、適切な感染防止対策を実施することで、概ね順調に製作・配給が可能となる状況に改善されております。また、洋画が軒並み公開延期となった影響もあり、興行力のあるコンテンツを継続的に提供できている当社の配給会社としてのシェアは相対的に急拡大し、例年30%台のシェアであるところ昨年は50%を超えるなど、競合他社との間で圧倒的な競争優位性を維持しています。一方で、日本に比べ感染拡大が深刻な欧米の映画産業の混乱は依然継続しており、昨年来延期が続いている東宝東和㈱等が国内配給を担当するハリウッドメジャーの新作公開がさらに後ろ倒しになるなど、洋画配給市場の正常化はいまだ不透明な状況にあります。また、外資系配信プラットフォーム各社が急速に会員数を増やすことは、当社作品の二次利用等の機会創出につながる反面、それら配信プラットフォーマーが日本国内において作品製作に乗り出しており、映画製作における影響力を強めていく懸念があります。
映画興行事業においては、緊急事態宣言の発出による2020年4月~5月の映画館の全面休業、新作映画公開の延期等により、2020年自然暦の全国映画興行収入は前年比55%まで大幅に減少しました。しかしながら、その中で特筆すべきは「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が歴代興行成績の新記録を打ち立てる想定外の大ヒットとなったことです。コロナ禍で外出自粛ムードが蔓延し、巣ごもり消費が進んだと言われる中でも、コンテンツ次第で多くのお客様が映画館に足を運んでいただけることを見事に証明するとともに、大画面・高音質という家庭では得られない迫力ある鑑賞環境や、大勢が一緒に同じ時間・空間を楽しむ映画鑑賞のイベント性といった本質的な点で、映画館ビジネスが変らず多くの人々の支持を得ることができることを実感するに至りました。そのような状況下で、TOHOシネマズ㈱は全国の主要都市の好立地にシネマコンプレックスを展開し、興行収入のシェアは30%弱と業界トップを占めており、競合他社との競争優位性に揺るぎはありません。今後、新型コロナウイルスの収束とともに、映画興行収入は着実に回復していくものと考えていますが、一方で、国内映画興行市場の5割弱を占める洋画のラインナップ編成の先行きが不透明である状況や、海外のメジャースタジオが自社系列のプラットフォームでの独占配信や劇場公開との同時配信を開始するケースが見られるなど、動画配信市場の動向が映画興行事業へ与える影響については、今後も注視していく必要があると認識しております。
映像事業においては、国内に留まらず米国・アジアを中心に世界的な広がりを見せる日本アニメの流行を受け、TOHO animationレーベルのヒット作・話題作を数多く創出することに注力してまいりましたが、それらのパッケージ・配信・商品化・海外等からの各種配分金収入が好調な上、自社IPであるゴジラを中心とした東宝怪獣キャラクターの商品化権収入等も堅調に伸長しております。また、コロナ禍における巣ごもり需要の高まりは、㈱東宝ステラの運営するECサイトにおいて関連商品の売上拡大の機会となっています。一方で、DVD、Blu-rayなどのパッケージ販売に関しては依然として市場の収縮が続いており、また、新型コロナウイルスの感染拡大により、イベント性の高いODS作品の公開や劇場公開に連動するパンフレット等の販売機会が失われるという懸念があります。㈱東宝映像美術や東宝舞台㈱では、テーマパークにおける展示物の製作業務の見直しや音楽ライブイベントの再開見通しが立たないことによる美術製作・舞台製作における受注減の影響を受けており、それらが長引く懸念があります。
[演劇事業]
演劇事業においては、昨春の大規模イベント自粛要請以降、緊急事態宣言の期間中及び解除後も含め、2020年3月~7月中旬という長期にわたって直営劇場を全面休業するに至りました。その後もソーシャルディスタンスに配慮した座席制限の実施や出演者・スタッフの感染症対策によるやむなき休演など、およそ1年にわたり新型コロナウイルス感染症の影響が色濃く残りました。演劇は映画と異なり一回一回の公演が生モノであり、ライブ・エンタテインメントであることから、公演の継続そのものの難しさを感じるとともにリスクマネジメントの重要性を認識することとなりました。また、当社の提供する演劇公演は熱心なコアのファン層に支えられている一方、一定のベースは各種団体のお客様への販売を想定してきたことから、外出自粛ムードが動員活動に与える影響も決して少なくありません。今後も新型コロナウイルス感染症の完全な収束までは、当社グループに留まらず、演劇業界全体でそれらの影響が一定程度続くことが懸念されます。一方で、コロナ禍において演劇の動画配信の積極的な活用等を促進しており、それらについては演劇事業における損失の補填に留まらず今後の業績拡大の機会になると認識しております。
[不動産事業]
不動産賃貸事業においては、緊急事態宣言中に臨時休館を実施した直営商業施設の賃料免除が発生したほか、緊急事態宣言解除後においても、保有する物件の入居テナントに対する賃料減額の措置等の影響が現在も継続しており、さらに一部テナント解約による賃料の減収の影響も発生しております。不動産市況全体では、これまで低く推移していた都市部におけるオフィスの空室率が急速な上昇に転じるなど、新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化しておりますが、好立地が多い当社グループ保有物件の空室率は1.0%台で推移しており、比較的底堅い状況にあります。しかしながら、当社グループのテナントには、新型コロナウイルス感染症が事業に与える影響が大きいホテルや百貨店・飲食店等の商業施設の割合が大きく、それら業種の業績悪化が当社グループの不動産賃貸事業の賃料収入に与える影響については、今後も十分に注視していく必要があります。
道路事業においては、老朽化による道路関連のインフラ整備をはじめとする公共投資の受注は引き続き堅調であり、コロナ禍の影響はほぼ感じられず、今後も当面は順調に推移すると思われます。スバル興業㈱と同社の連結子会社が積極的な営業活動により新規受注や既存工事の追加受注による業績拡大に努めております。
不動産保守・賃貸事業においては、緊急事態宣言中の臨時休業による機会損失があったものの、その後の経済活動の再開において、連結子会社である東宝ビル管理㈱及び東宝ファシリティーズ㈱が社会全体の“エッセンシャルワーカー”としての強みを生かし受注を徐々に回復させております。
[その他事業]
娯楽事業及び物販飲食事業においては、「東宝調布スポーツパーク」でゴルフ練習場、テニスクラブ等を運営する東宝共栄企業㈱が順調に利用者数を回復させている一方、飲食店舗・劇場売店等を運営するTOHOリテール㈱は、外食需要の厳しい落ち込みが長期に渡り、先行きの回復も不透明なことから、2021年8月までに直営飲食事業から撤退することを決定しております。
(4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標
当社グループでは、経営の目標として重視する指標を「営業利益」としております。中期経営戦略「TOHO VISION 2021」においては、連結営業利益について「巡航高度」(標準的に維持すべき水準)400億円を確たるものにするとともに、ブレイクスルー戦略の開花等により、過去最高益(502億円)の更新に挑戦すると定めております。なお、現時点で次期中期経営戦略の策定・公表はなされてないものの、今後も「営業利益」を重視していく方針に変更はありません。
(5)当社グループが優先的に対処すべき課題
当社グループを巡る経営環境は、新型コロナウイルスの感染拡大により、一変いたしました。緊急事態宣言の発出や政府・自治体からの要請により、主要な事業場である映画館や演劇劇場が全面休業、時間短縮、座席制限等の大きな制約を受け、映画作品の公開延期や演劇公演の中止が相次ぐなど、当社グループの業績は大幅な悪化を余儀なくされました。
このような未曾有の事態に直面しながらも、当社グループは、お客様の安心・安全と従業員の健康を守るため、感染防止対策を徹底するとともに、「健全な娯楽を広く大衆に提供する」という使命を全うすべく、魅力的なコンテンツを継続して提供することに努力いたしました。その結果、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が歴代興行成績の新記録を打ち立てるなど、今後の業績回復への道筋をつけることもできました。
しかしながら、今後も新型コロナウイルス感染症の収束時期は不透明であり、お客様の消費行動にも一定の影響が残ることが予想されます。したがって、当社グループが優先的に対処すべき課題は、この厳しい経営環境を乗り越え、「映画・演劇・不動産」の主力事業における業績を着実な回復軌道に乗せることにあります。
映画事業においては、映画・アニメの強力なコンテンツを確保し、効果的なプロモーションにより多数のヒット作を生み出すべく努力するとともに、多様なメディアにおける関連ビジネスを積極的に展開してまいります。また、TOHOシネマズ㈱の映画館では、バラエティに富んだ作品を取り揃え、安心・安全な上映環境と最高のサービスでお客様をお迎えいたします。
演劇事業においては、引き続き劇場や製作現場での感染防止対策を徹底しつつ、出演者・スタッフ一丸となって、一人でも多くのお客様にライブならではの豊かな感動をお届けすることで、すべての公演を盛況に戻すべく専心してまいります。
不動産事業においては、コロナ禍で変化するオフィス環境や保有物件の入居テナントの状況を注視しながら、柔軟かつ機動的な対応により賃貸収入の維持・拡大に努めます。また、自社物件の再開発事業の推進や、他社との共同開発プロジェクトへの参画にも挑戦してまいります。
経営管理面においては、デジタル化への対応や柔軟で効率的なワークスタイルの推進、リスクマネジメントやコーポレート・ガバナンスの強化等に積極的に取り組んでまいります。