有価証券報告書-第63期(平成31年4月1日-令和2年3月31日)

【提出】
2020/06/30 13:07
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【項目】
102項目

対処すべき課題

(1) 経営の基本方針
<経営理念>当社は、「社会とお客様から求められる価値の創造を通して、より豊かな社会づくりに貢献する」ために、 以下の経営理念を掲げております。
① 持続的成長
信用を第一として、質の高い経営に裏打ちされた持続的成長を果たします。
② 人間尊重
自律した個人として研鑚を積み、互いに敬意を持って接することで組織としての力を高めるよう努めます。
③ 企業倫理の実践
自ら進んで法と倫理に則って行動し、健全な社会の発展に寄与します。
<経営方針>「社会価値創造企業」
私たちは地球環境を考え、社会の発展と人々の豊かなくらしを実現するため新しい価値を創造し提供する 社会価値創造企業をめざします。
(2) 経営目標
当社グループは「社会価値創造企業」として、SDGsを基点とした「社会課題の解決と持続的成長の両立」に より、中長期的な安定成長(CAGR:5~8%程度)、ならびに、ROA:2%以上、ROE:10%超をめざしております。
「2019~2021年度中期経営計画」(以下、「2021中計」といいます)においては、めざす姿に向けたバックキャスティングの視点で策定し、より付加価値を高める「バリューアップステージ」と位置付け、その実現により、 2021年度の税引前当期利益:550億円、資産効率(ROA):1.7%、資本効率(ROE):9%の達成を目標としております。
2021中計では、あらたな事業機会が見込める「環境・エネルギー」「モビリティ」「ライフ」「販売金融」の4つの重点事業にシフトしていきます。
また、これらの重点事業を地域ごとに推進するため、「日本事業」のほか、「欧州事業」「米州事業」「中国 事業」「ASEAN事業」のグローバル事業をもって、地域戦略を深化させていきます。
<2021中計のハイライト>
事業戦略重点事業への
シフト
メガトレンドを踏まえた重点事業へのシフト
地域戦略の
深化
日本事業のさらなる収益性向上:ROA 2%以上
グローバル事業の規律ある安定成長
付加価値の
向上
事業モデルシフトの加速
事業強化策への経営リソースの重点投入
経営基盤非財務資本の
強化
成長を支える経営基盤の強化
ESG経営の推進
株主還元株主還元の
強化
配当性向の引き上げ(40%程度)
株主還元、格付維持、成長投資のバランス維持

1.日本事業
重点事業へのシフト(環境・エネルギー、ライフなど)に加えて、コスト構造改革の継続により、さらなる収益性向上をめざします。
具体的には、2021中計では、収益性の高い「環境・エネルギー」、「モビリティ」、「ライフ」の営業資産に おける構成比率を2018年度比で5%増加させます。
また、デジタルトランスフォーメーションやプロセス業務改善などによるコスト構造改革を継続してまいり ます。これらの施策により、ROAを2%以上とすることを目標としております。
2.欧州事業
英国事業の安定成長と欧州大陸展開(モビリティ、販売金融)加速により、外部環境に左右されない成長を志向 します。
具体的な施策として、英国事業では、競争力強化に向けた戦略的なIT 投資やモビリティ事業におけるEV化を 見据えた実証実験を推進し、その安定成長を図ってまいります(英国事業の利益成長目標:CAGR6%程度)。
欧州大陸では、M&Aを活用したモビリティ事業の拡大やオランダを拠点とした販売金融の強化などを推進し、 営業資産残高における欧州大陸比率の倍増をめざします。
3.米州事業
重点事業である「販売金融」や「環境・エネルギー」に注力することで、新たな主力ビジネスを構築し、再成長をめざします。
具体的な施策として、米国事業では、収束を決定した大口ファクタリングに変わる新たな主力ビジネスとして、2019年2月に買収した、VAR向けに事業を展開するGlobal Technology Finance, LLCを基点とした販売金融(サプライチェーンファイナンス)の強化やパートナー連携によるサブスクリプション型の省エネ事業への参入を図ってまいります。
カナダ事業では、ソリューションの拡充やリスク管理による安定成長の持続をめざします。
4.中国事業
事業の選択と集中など、事業戦略の抜本的な見直しを行い、販売金融(小口分散モデル)への回帰をめざします。
具体的な施策として、2018年度に発生した中国事案を受けて、事業戦略の抜本的な見直しを行い、大口ファクタリングやシンジケートローンなどの収束を図ります。販売金融への注力、小口分散モデルへの回帰をめざすとともに、「環境・エネルギー」、「ライフ」などの重点事業における新規ビジネスの展開、パートナー連携の強化などによる事業の再構築を図ります。
また、ビジネスリスクを踏まえた展開地域やパートナーなどの厳選および審査基準の厳格化、プロセスの見直しなど、リスク管理の徹底にも努めてまいります。
5.ASEAN事業
地域のニーズと各社のリソースに合わせた、事業領域および面の拡大を推進するとともに、「ライフ」などの 重点事業で新たな事業機会を模索します。
具体的には、既存展開地域での事業拡大に加えて、フィリピンやオーストラリアなどの新たな地域への事業展開も検討してまいります。
<2021中計における地域別CAGR計画>
日本2%以上
欧州8%以上
米州15%以上(調整後)
中国5%以上(調整後)
ASEAN20%以上

※CAGR :2018年度から2021年度の税引前当期利益の年平均成長率(為替一定ベース)
※CAGR(調整後):2018年度から2021年度の税引前当期利益の年平均成長率(事業見直し(大口ファクタリング等の収束)を反映して計算、為替一定ベース)
(3) 経営環境及び対処すべき課題等
① 経営環境及び当社グループの対処すべき課題
2019年度は、2021中計のスタートの年であり、重点事業(環境・エネルギー、モビリティ、ライフ、販売金融)への注力や付加価値の向上など、当社が掲げる社会価値創造の実現に向けた取り組みを着実に実行してまいりました。
また、当社子会社である日立商業保理(中国)有限公司にて2018年度に発生したファクタリング取引における不正常取引を受けて、2019年度を「基盤強化の年」と位置付け、グローバル事業の総点検を行い、その抜本的な見直しを実施いたしました。また、再発防止を徹底するため、より強固なグローバルにおける与信関連規定の整備や 運用、海外グループ会社と本社部門のより密接な連携、さらには、従業員に対する新たな与信関連規定の教育などを実行し、オペレーショナルリスク管理態勢と詐欺行為に対するリスクマネジメントの一層の強化に努めてまいりました。
2019年度の事業環境は、米中貿易摩擦の継続や英国のEU離脱、新型コロナウイルス感染症の世界的な急拡大など、厳しい状況となりました。
2020年度の当社グループを取り巻く環境は、新型コロナウイルス感染症の影響により、主要国において緊急事態宣言が発せられ、外出や営業の規制が広がるなど、経済活動が大きく制限され、また、第2波(ならびに第3波)の 到来も懸念されることから、その先行きはさらに不透明であると想定しております。
今般、WHOより「新型コロナウイルスはパンデミックである」との認識が示されたことにより、すでに株式市場の暴落、各国間の入国禁止、各種イベントの中止・延期、企業の倒産などの影響が生じております。さらに、東京 オリンピック・パラリンピックの開催延期による日本国内の不況の早期到来にとどまらず、世界同時不況が発生し得る状況にあるといえます。
当社グループにおいては、社員を含むステークホルダーの安全と健康を最優先に、テレワークや時差出勤の活用による感染リスクの低減を図っております。しかしながら、非常事態宣言、外出禁止令など、ヒト・モノの移動が大きく制限され、事業活動においてさまざまな制約が発生しております。そうした経済活動の制約が続くなかで 成長鈍化や業績の下振れなど、先行きはさらに不透明な見通しです。
このような状況において、当社グループが2021中計で定めた目標、さらにはより長期での目標を達成するため には、各地域・事業における施策の実効性を高めていく必要があります。
1.日本事業
2019年度において、第2四半期までの経済情勢は、内需が底堅く緩やかな回復基調で推移したものの、第3四半期は2019年10月に実施された消費増税の影響などにより減速基調となりました。さらに、第4四半期に入り、新型コロナウイルス感染症が拡大し、入国制限や地方自治体による外出自粛要請などが実施された影響等により、経済対策、金融緩和策などはあったものの、急速に景況感が悪化いたしました。
環境・エネルギー事業では、メガソーラーの運転開始やIT導入による運転管理業務の効率化推進により、包括的なエネルギーサービス事業者に進化し、増大するエネルギーニーズに応えるとともに、脱FITに向けた取組みなどを推進いたしました。
モビリティ事業では、CASE(Connected Autonomous Shared Electric)がもたらす変革期に対応した新ビジネス 開発とソリューション提供をめざしております。
ライフ事業(インフラ・まちづくり、ヘルスケア、食農・生活)では、資産ポートフォリオの質的向上、持続可能な街づくりの実現に向けて、新たな実証実験などを実施いたしました。
販売金融事業では、収益性改善のため、バックヤード事務の効率化をはじめとしたローコストオペレーションの継続による安定収益基盤の確立などに取り組んでおります。
2.欧州事業
2019年度において、第3四半期までの英国の経済情勢は、個人消費は堅調だったものの、EU離脱交渉の先行き不透明感による企業投資の縮小等により、減速基調で推移いたしました。第4四半期に入り、英国では2020年1月末にEU離脱が現実のものとなり、不透明感は薄まった一方で、3月には新型コロナウイルス感染症が急拡大し、入国制限や外出禁止令等が発せられ、経済対策、政策金利の引き下げ等が実施されたものの、急速に景況感が悪化いたしました。
英国事業の主体であるコンシューマーファイナンス事業は、安定成長を継続しているものの、銀行の再参入やフィンテック企業の台頭などがみられるため、デジタルトランスフォーメーションの推進による事業強化、さらには、今後の経済成長鈍化に備えた与信基準の見直しなどにより、良質資産の維持、徹底を図ってまいります。
3.米州事業
2019年度において、第3四半期までの経済情勢は、良好な雇用・所得環境を背景とした堅調な個人消費に加え、 政策金利の引き下げ等の経済政策もあり、概ね堅調に推移いたしました。第4四半期に入り、新型コロナウイルス 感染症が急拡大したことで、国家非常事態宣言が発せられ、入国制限や行動制限、外出禁止令等が徹底されたことから、経済対策、追加の政策金利の引き下げ等は実施されたものの、急速に景況感が悪化いたしました。
当社では大口ファクタリング事業を収束し、パートナー連携によるサブスクリプション型の省エネ事業に参入 するなどの取組みを推進しております。
4.中国事業
2019年度において、第3四半期までの経済情勢は、政策金利の引き下げや減税等の政策が実施されたものの、米中貿易摩擦による米国への輸出減少等により、減速基調で推移いたしました。さらに、第4四半期に入り、新型コロナウイルス感染症が急拡大し、湖北省武漢市の都市封鎖や外出禁止令等が実施された影響により、経済対策、追加の政策金利の引き下げ等は実施されたものの、急速に景況感が悪化いたしました。
なお、日立商業保理(中国)有限公司にて2018年度に発生したファクタリング取引における不正常取引に対して、外部専門家の協力を得て再発防止策を策定し、その内容が確実に実行されていることを確認済みです。
5.ASEAN事業
2019年度において、第3四半期までの経済情勢は、世界経済の減速にともない、輸出が減少したこと等により、 減速基調で推移いたしました。さらに、第4四半期に入り、新型コロナウイルス感染症が拡大し、シンガポールや マレーシアをはじめとする各国で入国制限等が実施された影響により、なお一層景況感が悪化いたしました。
当社においては、トップライン(売上総利益)の拡大に加え、経営基盤強化を推進してきたものの、さらなる成長のため、地域展開や新事業の拡大が必要となっております。
② 当社グループの方向性
2020年度は、このような状況下ではありますが、2021中計達成に向けた重要な一年であり、「本格始動の年」と位置付けております。このため、4つの重点事業の成長に邁進するべく、当社グループの経営リソースのシフトを 図る一方、成功モデルや先進的な取組みなどの情報共有を図り、地域ごとの社会課題、お客様のニーズに合致したソリューションにさらに深化させてまいります。
1.日本事業
2020年度は、トップラインの構造改革の遂行を日本事業の方針として取組んでまいります。
環境・エネルギー事業においては、ポストFITを見据え、エネルギーサービス事業者へと進化し、エネルギーニーズを的確にとらえ、クリーンなエネルギーを提供することを事業戦略に掲げております。
モビリティ事業では、CASEに対応した新しいビジネスの開発とソリューションの提供を推進いたします。
ライフ事業では、ポートフォリオの見直しと回転型ビジネスによる収益性の向上、都市空間の整備を通じた持続可能な街づくりの実現に取り組んでまいります。
販売金融事業では、ローコストオペレーションによる安定収益基盤の確立や優良資産の積み上げによる収益の 確保に注力いたします。
2.欧州事業
2020年度は、英国事業において、モビリティ事業にてEV関連事業の実証実験等を展開するとともに、本事業の 経営基盤構築面での優位性を高めることに注力いたします。一方、デジタルトランスフォーメーションの推進などにより、効率性を引き上げ、コンシューマーファイナンス事業の安定成長を図ってまいります。
欧州大陸事業においては、展開地域の拡大やMaaS(Mobility as a Service)の事業強化をめざします。
3.米州事業
2020年度は、日立グループ連携の強化や新たな主力ビジネスの構築を推進いたします。新たなビジネスとしては、省エネ事業における事業機会の加速やモビリティ事業の開始、パートナーとの連携加速を図ります。
4.中国事業
2020年度は、日立グループや三菱UFJフィナンシャル・グループなどとの連携による小口分散モデルに向けた取り組みを強化するとともに、環境・エネルギー事業やモビリティ事業などでパートナー連携を加速してまいります。
5.ASEAN事業
2020年度は、現在、事業を展開しているシンガポール、タイ、マレーシア、インドネシアに加え、フィリピンへの参入など展開地域の拡大を推進いたします。また、環境・エネルギー事業やモビリティ事業などにおける新事業への本格着手にも取り組んでまいります。
(4) 目標とする経営指標
① めざす姿及び2021中計目標
当社グループは「社会価値創造企業」として、SDGsを基点とした「社会課題の解決と持続的成長の両立」に より、中長期的な安定成長(CAGR:5~8%程度)、ならびに、ROA:2%以上、ROE:10%超をめざしております。
2021中計においては、めざす姿に向けたバックキャスティングの視点で策定し、より付加価値を高める 「バリューアップステージ」と位置付け、その実現により、2021年度の税引前当期利益:550億円、資産効率(ROA):1.7%、資本効率(ROE):9%の達成を目標としております。
② 2020年度の見通し
今後の当社を取り巻く経営環境は、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大がグローバル経済に深刻な影響を与えており、また、第2波(ならびに第3波)の到来も懸念されることから、その先行きは不透明な状況となっております。
当社においても、企業の設備投資や個人消費の減少、さらには、事業活動の制約などにより、日本事業、グローバル事業ともに、取扱高が減少するなどの影響が見込まれております。
そこで、次期の連結業績予想は、現時点において、新型コロナウイルス感染症の終息時期の予測が困難である ことから、新型コロナウイルス感染症が2020年6月までは大きく影響を及ぼし、その後、2021年3月までに緩やかに回復するという仮定のもと、取扱高ならびに売上収益の減少などを織り込んで試算しております。
つきましては、2020年度の連結業績予想は以下のとおりですが、新型コロナウイルス感染症の動向により、変動する可能性がございます。
<2020年度の業績予想(試算値)>
税引前当期利益385億円
ROA(営業資産残高税引前利益率)1.2%
ROE(親会社所有者帰属持分当期利益率)7.1%

なお、新型コロナウイルス感染症の影響等を除いた2020年度の当初事業計画は、税引前当期利益475億円です。