有価証券報告書-第26期(2023/04/01-2024/03/31)

【提出】
2024/06/27 13:32
【資料】
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【項目】
152項目
②戦略
当企業グループは、気候変動がもたらすリスクを特定するとともに、脱炭素社会の実現に向け、グループの各事業会社における多様なソリューション提供を通じて、環境・社会に関する課題解決に貢献することを新たな事業機会と捉えています。リスクと機会の特定とシナリオ分析においては、気候変動を社会が直面する重要な課題の一つとして捉え、地球の平均気温が産業革命以前に比べて4℃、1.5℃上昇することを想定した2つのシナリオを用いて、気候変動に係るリスクと機会の特定を行っています。当企業グループの主要事業である証券事業および投資事業(プライベート・エクイティ)については2030年度における財務インパクトを試算し、気候変動により被る損失は軽微であると認識しています。銀行事業に関してはSBI新生銀行が2050年までの財務インパクト(累積)を試算しています。
また、温暖化の国際枠組み「パリ協定」で掲げられた目標に沿って、産業革命前より世界全体の気温上昇を1.5℃以内に抑えることに貢献することが重要であると認識し、当企業グループにおける温室効果ガス(GHG)排出量の可視化にも取り組んでいます。
<気候変動に伴うリスク>移行リスク(気候変動対策を目的とする規制強化や顧客行動の変化による影響)と物理的リスク(異常気象の激甚化による資産の毀損や長期的な気候パターンの変化が齎す影響)として、以下に挙げるものを認識しています。
当社および各事業に共通するリスク
リスク:
区分種類想定されるリスク時間軸
(※)
影響度
4℃1.5℃
移行
リスク
法制

法規制
炭素税をはじめとするカーボンプライシングの導入、再生可能エネルギーの使用や省エネに係る政策によるコストの増加短期~
長期
-
技術

市場
以下の<主要事業に係るリスク>をご参照ください
評判環境配慮型ビジネスへの転換を行わない場合の当社のレピュテーションリスクの増加(例:資金調達への影響、顧客流出)短期~
長期
物理的
リスク
急性異常気象(台風、洪水、高潮等)による店舗及びオフィスへの物理的な損害およびシステム障害への対応コストの発生中期~
長期
慢性データセンターやオフィスの空調コストの増加中期~
長期

※時間軸における短期は0~3年、中期は4~10年、長期は11~20年を想定
移行リスク低減への対応として、当社では温室効果ガス(GHG)排出量を可視化し、省エネ対策の推進や再生可能エネルギーを活用するとともに、当企業グループのGHG排出量の削減目標の達成に向けた進捗を管理することで、炭素税などの負担回避によるコスト低減を図ってまいります。
また、従来型の火力発電等に依拠した電力調達はGHG排出量が大きいだけではなく、国家政策や資源価格の影響を受けてコストが変動するリスクがあるため、電力調達コスト安定化の観点からも、再生可能エネルギーによる電力へ切り替えていくことが望ましいと考えております。そのため、これまでの省エネ対策の推進に加え、再生可能エネルギーの活用を推進しています。
今後も当企業グループは、環境配慮型ビジネスへの転換を進め、レピュテーションリスクへの対応および調達コストの変動リスク低減に向けて取り組んでいきます。
物理的リスク低減への対応としては、当社およびグループ各社において、BCP(事業継続計画)等を策定し、災害時の早期復旧の体制構築に向けた対応を進めています。
<主要事業に係るリスク>当企業グループの主要事業である証券事業、投資事業(プライベート・エクイティ)、銀行事業(SBI新生銀行)においては、それぞれの事業の特性上、以下に挙げるリスクを認識しています。
証券事業におけるリスク
・ 移行リスク(評判):ブランド価値の低下により顧客流出に繋がる可能性があります。
・ 物理的リスク(急性):オンライン取引システムの停止等のシステム障害が発生する可能性があります。それによって、事業の一時的な操業停止や復旧対応による財務的影響のほか、セキュリティに支障が生じた場合には損害賠償責任等が発生する恐れがあります。
リスク低減への対応
SBI証券では同社の定めるコンティンジェンシープランに則り、危機管理対策室を迅速に立ち上げ、業務への影響を極小化し、重要業務を中心に事業継続を図っていく運営をすべく、平時よりBCP/BCM(事業継続マネジメント)の取組みを行っています。
投資事業(プライベート・エクイティ)におけるリスク
・ 移行リスク(技術・市場):気候変動に関する政策や規制に対する投資先企業の対応が不十分であった場合、当該企業が保有する技術の陳腐化や競争力低下によるバリューダウンが発生し、結果として、保有する営業投資有価証券の価値が毀損する可能性があります。
・ 移行リスク(評判):投資検討や実行段階における、ESGに関する情報開示の拡充やESGの観点からの管理体制の構築・充実化が求められることが予想され、そのための対応コストが発生する可能性があります。
リスク低減への対応
投資事業(プライベート・エクイティ)では、投資先企業においても脱炭素化に向けた取り組みが当該企業の成長に資する可能性が示唆されることから、投資先企業に対しESG対応を促すことを含めたフルハンズオンでのエンゲージメントを行うことを検討していきます。
銀行事業(SBI新生銀行)におけるリスク
・ 移行リスク(法制・法規制/技術・市場):2℃以下達成に向けた規制強化や技術革新等に起因する、温室効果ガス高排出セクターや気候変動対応が不十分な投融資先の業況悪化に伴い、デフォルトリスクの上昇およびクレジットコストが発生する可能性があります。
・ 移行リスク(評判):温室効果ガス高排出セクターや気候変動対応が不十分な企業への投融資によりブランド価値が低下し、顧客流出に繋がる可能性があります。
・ 物理的リスク(急性):担保価値の毀損によるデフォルトリスクの上昇およびクレジットコストが発生する可能性があります。
リスク低減への対応
SBI新生銀行では、気候変動の影響を受けると思われるセクターについて、その気候変動リスクを定性的に評価しています。また、定性評価の結果およびエクスポージャーの大きさに基づき、セクターおよびアセットタイプごとに優先順位を付けたうえで、定量的な分析などによるリスクの深掘りを実施しています。
<気候変動に伴う機会>脱炭素社会の実現に向けて、グループ会社が多様なソリューションを提供することで、環境・社会に関する課題解決に貢献することを新たな事業機会と捉えています。
当企業グループの主要事業においては、社会全体で、再生可能エネルギーへの転換や循環型経済への移行等によって脱炭素に貢献する事業を展開する企業および異常気象の激甚化により防災・減災に貢献する事業を展開する企業の価値向上が見込まれ、当企業グループにとって新たな事業機会が広がると認識しています。

証券事業における機会
想定される機会時間軸
(※)
影響度
4℃1.5℃
・脱炭素に貢献する事業を展開する企業の価値向上に伴う、当該企業が発行する株式等の金融商品取扱量の増加
・当該事業分野でのM&Aニーズの増加による関連事業の提供機会の増加
・ESG投資選好の高まりに関連する事業機会の拡大(例:グリーンボンド等のサステナブルファイナンス商品の開発やプロジェクト創出)
短期~
長期
・防災及び減災に貢献する事業を展開する企業の価値向上に伴う、当該企業が発行する株式等の金融商品取扱量の増加
・当該事業分野でのM&Aニーズの増加による関連事業の提供機会の増加
短期~
長期

投資事業(プライベート・エクイティ)における機会
想定される機会時間軸
(※)
影響度
4℃1.5℃
・脱炭素に貢献する事業を展開する投資先企業の価値向上に伴う収益機会の増加
・ベンチャーキャピタル(VC)ファンドへの投資ニーズの増加を通じたファンド出資者の獲得機会の増加
短期~
長期
・防災及び減災に貢献する事業を展開する投資先企業の価値向上に伴う収益機会の増加
・VCファンドへの投資ニーズの増加を通じたファンド出資者の獲得機会の増加
短期~
長期

銀行事業(SBI新生銀行)における機会
想定される機会時間軸
(※)
影響度
4℃1.5℃
・移行支援ファイナンスのニーズ拡大
・脱炭素化に向けた投融資ニーズ拡大
短期
・投融資ポートフォリオは比較的体力のある大手が多いことから、修繕や防災設備強化のための資金需要の増加
・気候変動リスクのヘッジや保険商品へのニーズの高まり
短期~
長期

※時間軸における短期は0~3年、中期は4~10年、長期は11~20年を想定
2030年度における財務インパクト予測(2020年度比):
気候変動が当企業グループの証券事業および投資事業を通じて齎す、当企業グループの操業に係る連結業績への財務的影響額は以下の通り軽微なものと認識しています。
4℃シナリオ:66百万円
1.5℃(2℃) シナリオ:169百万円
(参考)当社 2024年3月期 税引前利益 141,569百万円
※ 証券事業および投資事業(プライベート・エクイティ)における、炭素税・排出権取引導入によるコスト増、電力価格のコスト増、ZEB対応コスト増、気温上昇による冷房コスト増、年平均の洪水被害額、年平均の高潮被害額、年平均の営業停止損害額による財務インパクト予測の総額を記載。
2050年度における財務インパクト予測(2050年度まで累計/銀行事業):
SBI新生銀行では財務的影響額を以下の通り試算しています。
物理的リスク:累計で55億円~90億円程度の与信関連費用
移行リスク:累計で65億円~280億円程度の与信関連費用
※ 本試算上の物理的リスクの対象ビジネスは、国内不動産ノンリコースローン、国内プロジェクトファイナンス、住宅ローン、新生フィナンシャルの個人向け無担保ローン。
※ 本試算上の移行リスクの対象ビジネスは、電力ユーティリティ、石油・ガス、海運。
当企業グループでは試算した財務インパクトを踏まえ、気候変動に伴うリスクの最小化と機会の最大化に対応するべく、グループの各事業会社における多様なソリューション提供等を通じて、脱炭素社会の実現等に向けた環境・社会に関する課題解決に努めています。
グループ各社での具体的な取り組みの一例は以下の通りです。
・グリーンボンドをはじめとしたSDGs債の発行支援(SBI証券及びSBI新生銀行)
・サステナブルファイナンス/インパクトファイナンス(SBI新生銀行)
・サステナビリティ預金(SBI新生銀行)
・SDGsを踏まえた投資先の選定(SBIインベストメント)
・営農型太陽光発電の開発事業(SBIスマートエナジー)
今後も気候変動が当企業グループの事業に及ぼすリスクと機会について継続的に分析を行い、事業活動を通じた持続可能な社会の実現と更なる社会価値の向上を目指します。