有価証券報告書-第14期(2022/04/01-2023/03/31)
② 戦略
当社グループは、気候変動によるリスクと機会を、重要な経営課題の一つであると認識しており、短期的には、2023中期経営計画、中期的には「明治グループサステナビリティ2026ビジョン」、長期的には、明治グループ長期環境ビジョン「Meiji Green Engagement for 2050」を基に「CO₂排出量の削減」、「水資源の確保」などのマテリアリティとKPIを設定し、将来にわたって自然と共生していくための取り組みを推進しております。
<2022年度の取り組みのポイント>・当社グループにおけるサプライチェーン全体での分析と財務インパクトの算出
・3つのシナリオ(1.5℃・2℃・4℃シナリオ)を設定し、現状、2030年(中期)、2050年(長期)を基準年として中長期の気候変動によるリスク・機会の分析と対応策の検討
・主要原材料における気候変動の影響分析の強化(原材料の範囲拡大、水リスクによる影響分析の追加)
・「Meiji Green Engagement for 2050」の達成に向けて、インターナルカーボンプライシングの導入や移行計画(トランジションプラン)の策定など対応策の強化
・昨年度策定した対応策への具体的な取り組みの推進
・気候変動における機会の抽出と時間軸での優先順位付け
当社グループはIEMAのGHG管理ヒエラルキーに基づき、GHG排出量削減への取り組みを推進しています。
ⅰ Eliminate(回避) :ビジネスモデルや事業ポートフォリオの変更等を通じライフサイクルを通じて温室効果ガスを排出しない事業構造へ転換
ⅱ Reduce(削減) :製造工程や輸送の効率化等を通じ、エネルギー使用量やGHG排出量を削減
ⅲ Substitute(代替) :再生可能エネルギーの活用、低炭素素材の調達等を通じ、よりGHG排出量の少ないエネルギー・調達物品への変更
ⅳ Compensate(補償・相殺):削減しきれなかったGHG排出量に対し、カーボンクレジット購入等のオフセットによって相殺
3つのシナリオ(1.5℃・2℃・4℃シナリオ)での分析結果の内、1.5℃シナリオと4℃シナリオにおける影響の大きい主要インパクトの分析結果は以下のとおりです。
<分析対象範囲>
<1.5℃シナリオ(移行リスク)における当社グループへの影響>
<4℃シナリオ(物理的リスク)における当社グループへの影響>
□ 主要インパクトと具体的影響
<1.5℃シナリオ>・カーボンプライシング導入による影響額(自社)
2030年は、省エネ活動、創エネ活動、再エネ由来電力の購入などで14億円の削減を図り、37億円のコスト増加を想定しています。2050年は、新たな技術や次世代エネルギーの積極的導入など移行計画(トランジションプラン)に沿った対応策の強化により19億円を削減するものの、現在の技術では2050年にCO₂排出量ゼロが見込めないため、排出量実質ゼロに向けて40億円の排出権購入が必要となり、80億円のコスト増加を想定しています。
単位:億円
※1.5℃シナリオにおけるカーボンプライシング導入による影響額については、国際エネルギー機関(IEA)のWorld Energy Outlook (WEO) 2021で公表されているNZEシナリオのカーボンプライス(2030年、2050年)を基に算出しています。
・電力購入金額による影響額(自社)
2030年は、省エネ活動、創エネ活動などで17億円の削減を図りますが、再エネ由来電力のプレミアム価格によるコスト増加があり、20億円のコスト増加を想定しています。2050年は、同様に28億円のコスト増加を想定しています。
単位:億円
なお、現在実施している省エネ活動、創エネ活動、再エネ由来電力の購入などに加え、新たな技術や次世代エネルギーの積極的な導入などを織り込んだ移行計画(トランジションプラン)を策定しました。また、2021年度よりインターナルカーボンプライシング制度(1t-CO₂当たり5,000円)を導入することで、カーボンプライシング本格導入後の円滑な対応に向けた準備も進めております。
※1.5℃シナリオにおける電力購入金額による影響額は、公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)とIEA WEO2018のSDSシナリオの情報を基に算出しています。
自社における移行計画(トランジションプラン)の概要は以下のとおりです。
※Scope1 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope2 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
対応策については、当社工場等に太陽光発電設備や省エネ設備の導入をはじめ、RE100対応の再生可能エネルギー由来電力の購入等、様々な取り組みを行っています。移行計画を基に各取り組みを推進し、その結果、2022年度において、総使用電力に占める再生可能エネルギー比率が9.5%となりました。
引き続き、2050年の100%達成を目指して取り組みを推進していきます。
・カーボンプライシング導入による影響額(主要原材料)
主要原材料を調達する各国のカーボンプライスを基にした2030年の影響額は、以下の対応策の実施により201億円の増加を想定しています。2050年は同様に277億円の増加を想定しています。
※1.5℃シナリオにおけるカーボンプライシング導入による影響額については、IEAのWEO2021で公表されているNZEシナリオのカーボンプライス(2030年、2050年)を基に算出しています。
なお、主要原材料におけるCO₂排出量については、CO₂だけでなく酪農業由来のメタンなど温室効果ガス(GHG)全般での排出量削減が重要な課題と捉えています。
GHG排出量削減に向けて、酪農を中心としたScope3における移行計画を策定しました。
GHG排出量削減を効果的に行うために、ライフサイクルにおけるGHG排出量の多いプロセスを特定すべく、はじめに、牛乳のカーボンフットプリント(CFP)を算定し、次にそのプロセスでの排出量削減策を策定し取り組みを開始しました。さらに、その他の原材料における対応策も検討すると同時に、GHG排出量削減に向けたサプライヤーとのエンゲージメントを実施することで、サプライヤーの排出量削減、ひいてはサプライチェーン全体の排出量削減を促進していきます。
サプライチェーン(Scope3)における移行計画(トランジションプラン)の概要は以下のとおりです。
図中の1~4については、以下に対応策詳細を記載しております。
※Scope3 Scope1,2以外のCO₂間接排出(購入した原料・包材等の生産・製造・輸送から、それらを加工した製品の販売・輸送・使用・廃棄に至るまでの企業活動におけるサプライチェーン上で発生するCO₂排出)のこと。
対応策1 牛乳のカーボンフットプリント(CFP)の算定
はじめに、牛乳の算定式を確立する為、数軒の酪農家から収集した実データなどに基づき、「明治オーガニック牛乳」のライフサイクル全体(原料調達~製造~消費・廃棄)におけるGHG排出量を算定しました。その結果、上流部分が90%以上を占めることが分かりましたので、生産者やサプライヤーとともに排出量削減に取り組みます。
対応策2 糞尿由来のN₂O削減のビジネスモデル構築
酪農家、味の素株式会社、当社グループの3者が中心となり、ビジネスモデルを構築しました。
味の素株式会社製品の「AjiPro®-L」を使用し、飼料中のアミノ酸バランスを改善することで乳量を維持しつつ、飼料中の余剰な窒素を抑え、糞尿由来のN₂O排出量を削減することができます。削減されたN₂Oは、酪農家と味の素株式会社がJ-クレジット制度を活用してクレジット化し、そのクレジットを当社が購入することで酪農家を経済的に支援するモデルとなります。
対応策3 容器包装材料の使用量削減
容器包装材料の主たる原料である石油由来のプラスチックを削減することはGHG排出量の削減にもつながります。包装容器は「3R+Renewable」による、より環境に配慮した取り組みを推進します。
具体的な取り組みは以下の通りとなります。
※3R:Reduce(発生抑制)、Reuse(再使用)、Recycle(再生利用)
プラスチック使用量推移、目標
対応策4 サプライヤーエンゲージメントの実施
サプライヤーにおけるCO₂排出量削減は、当社のScope3の削減でもあります。
したがって、CO₂排出量の多いサプライヤーとエンゲージメントを行い、目標値や取り組み事例を共有していくことで排出量削減の推進を図っていきます。
<4℃シナリオ>・洪水被害による操業停止などの機会損失
洪水による被害額は、過去の事例を基に1災害あたり3億円規模を想定しております。この金額は、当社グループにおける過去の洪水を伴う大雨によって発生した被害(物流網遮断などによる廃棄ロスなど)実績より
算出しております。また、洪水により機会損失が想定される拠点は、世界資源研究所(WRI:World Resources Institute)が公開している世界の水リスク評価ツールである「Aqueduct」の結果や代替生産拠点の有無を考慮し、12拠点と想定しております。
※洪水リスクについては、Aqueduct Floodsの悲観(pessimistic)シナリオ(RCP8.5, SSP3)の情報を基に分析しています。
洪水リスクへの対応策
・リスクの高い拠点において、現地と連携しリスク評価結果のGAP分析による実態の把握
・特に優先度の高い事業所への詳細調査及び浸水エリアや浸水深を想定したハード面での対策の検討、実施
対策例:ボックスウォール(仮設止水版)や防水壁の設置
・主要原材料調達への影響
原材料の生産地においても、気候変動による気温上昇や水リスクによって農作物の収量減少に伴う原材料単価の変化が起こることが想定されます。主要原材料の生産地における収量変化や水リスク(水の需給バランスの悪化を意味する水ストレス、渇水リスク、洪水リスク)の分析を実施し、その結果の概要は以下のとおりです。
~想定される収量変化~
・カカオ豆や砂糖の調達国では、将来的に収量が減少すると予測しています。
・一方で、当社グループのカカオ豆の主要調達地域では、2030年での影響が比較的小さく、2050年においても同様です。
・乳への影響は、2030年、2050年においても数%の減少に留まり、飼料の配合変更などによる生産性向上での対応が可能であり、リスクはそれほど大きくないと想定しております。
~想定される水リスク~
・水ストレスと渇水リスクは、一部の地域を除いてほとんどの地域でリスクが低いと想定しております。
・洪水リスクは、将来的にほとんどの地域でリスクが高くなると想定されるため、夫々の生産地の洪水リスクを確認した上で、改善策の検討が必要であると考えております。
※4℃シナリオにおける主要原材料調達への影響について、FAOの公表しているGAEZv4データベース(RCP8.5)や文献調査の将来収量予測情報を基に算出しています。
なお、原材料として調達する農作物は気候変動のみならず、自然資本・生物多様性の保全と密接に関係しています。自然関連財務情報の開示フレームワーク(TNFD)のLEAPアプローチを活用し、当社グループの重要原材料であるカカオ豆の自然への依存度を分析しました。
~カカオ豆生産地での自然関連リスク分析~
・カカオ豆の生産活動は、自然への依存度が高いため、主要なカカオ豆生産拠点(13ヵ所)における依存状況を把握するための調査を行いました。その結果、「自然災害の影響緩和」「土壌侵食の抑制」という項目について、特に依存度が高いということが分かり、加えてその2つの重要項目についてリスクとなる生産拠点を洗い出しました。今後は生産地でのGAP分析等を行う中で収量減少の回避に向けた取り組みを推進してまいります。
・自然災害の影響緩和へのリスクが非常に高い拠点数:2ヵ所
・土壌浸食の抑制へのリスクが非常に高い拠点数 :2ヵ所
このような影響によって、主要原材料の調達コストは増加することを想定しており、以下の取り組みによりコストの抑制と増収によるコストの吸収を図っていきます。
・商品面での対応
◇健康価値・栄養価値の強化、サステナビリティによる社会価値創出などによる商品の高付加価値化の推進
◇商品戦略見直しによるポートフォリオの最適化
◇価格改定による単価アップ
・原材料面での対応
◇配合変更や代替原料の使用
◇調達国/地域/サプライヤーの最適化
・生産・物流面での対応
◇効率的生産による生産性向上、購買物流の効率化
・サプライヤーとの連携
◇エンゲージメント強化による調達コストダウンとリスク低減
□ 機会への対応
気候変動における機会は、気候変動の直接的影響が社会や生活に変化をもたらし、その結果新たなニーズや機会創出につながると考えております。当社グループでは、現在の事業基盤を活かし、新たな資源を取り入れることで以下のような機会獲得の可能性を想定しております。
なお、機会を抽出するまでのプロセスは次の通りです。
・グループTCFD会議の事務局メンバーが、機会検討に関係する組織に個別にヒアリングを実施。
・グループTCFD会議にて、「機会の方向性」を審議。
・既存事業との関係(距離感)や、現状の自社アセットでの対応の可否、実現可能性等の観点から定性的に
整理。
・機会獲得のポイントを実現可能性の高いものに絞り込み、事業機会を抽出。
今後、当社グループ全体で夫々の実現可能性を探り、実現に向けて具体的な取り組みを推進してまいります。
さらにこの9つの事業機会を、現在、既に手掛けているものから、中長期的に仕掛けていくものへと時間軸で優先順位付けを行いました。
当社グループは、気候変動によるリスクと機会を、重要な経営課題の一つであると認識しており、短期的には、2023中期経営計画、中期的には「明治グループサステナビリティ2026ビジョン」、長期的には、明治グループ長期環境ビジョン「Meiji Green Engagement for 2050」を基に「CO₂排出量の削減」、「水資源の確保」などのマテリアリティとKPIを設定し、将来にわたって自然と共生していくための取り組みを推進しております。
<2022年度の取り組みのポイント>・当社グループにおけるサプライチェーン全体での分析と財務インパクトの算出
・3つのシナリオ(1.5℃・2℃・4℃シナリオ)を設定し、現状、2030年(中期)、2050年(長期)を基準年として中長期の気候変動によるリスク・機会の分析と対応策の検討
・主要原材料における気候変動の影響分析の強化(原材料の範囲拡大、水リスクによる影響分析の追加)
・「Meiji Green Engagement for 2050」の達成に向けて、インターナルカーボンプライシングの導入や移行計画(トランジションプラン)の策定など対応策の強化
・昨年度策定した対応策への具体的な取り組みの推進
・気候変動における機会の抽出と時間軸での優先順位付け
当社グループはIEMAのGHG管理ヒエラルキーに基づき、GHG排出量削減への取り組みを推進しています。
ⅰ Eliminate(回避) :ビジネスモデルや事業ポートフォリオの変更等を通じライフサイクルを通じて温室効果ガスを排出しない事業構造へ転換
ⅱ Reduce(削減) :製造工程や輸送の効率化等を通じ、エネルギー使用量やGHG排出量を削減
ⅲ Substitute(代替) :再生可能エネルギーの活用、低炭素素材の調達等を通じ、よりGHG排出量の少ないエネルギー・調達物品への変更
ⅳ Compensate(補償・相殺):削減しきれなかったGHG排出量に対し、カーボンクレジット購入等のオフセットによって相殺
3つのシナリオ(1.5℃・2℃・4℃シナリオ)での分析結果の内、1.5℃シナリオと4℃シナリオにおける影響の大きい主要インパクトの分析結果は以下のとおりです。
<分析対象範囲>
事業セグメント | 食品 | 医薬品 |
財務インパクト算出範囲 | 当社グループ全体 | |
対象原材料 | 主要原材料[乳、カカオ豆、パーム油、砂糖、木材(紙)、鶏卵] | |
分析基準年 | 現状、2030年(中期)、2050年(長期) |
<1.5℃シナリオ(移行リスク)における当社グループへの影響>
気候変動に関わる変化 | 主要インパクトと具体的な影響 | 当社グループへの影響 | ||
関係するサプライチェーン | 影響額(億円) | |||
2030年 | 2050年 | |||
政府の環境規制の強化 | カーボンプライシング負担額の増加 | 製造 | 37 | 80 |
調達 物流 | 201 | 277 | ||
再生可能エネルギー普及に向けた電力設備投資の拡大 | 電力購入金額の増加 | 製造 | 20 | 28 |
<4℃シナリオ(物理的リスク)における当社グループへの影響>
気候変動に関わる変化 | 主要インパクトと具体的な影響 | 当社グループへの影響 | ||
関係するサプライチェーン | 影響額 | |||
2030年 | 2050年 | |||
台風・豪雨などの激甚化や発生頻度増加 | 洪水被害による機会損失 | 製造 物流 | 1拠点あたり約3億円 | |
気温上昇や水リスクなどによる原材料の生育環境変化 | 原材料調達コストの増加 | 調達 | - | - |
□ 主要インパクトと具体的影響
<1.5℃シナリオ>・カーボンプライシング導入による影響額(自社)
2030年は、省エネ活動、創エネ活動、再エネ由来電力の購入などで14億円の削減を図り、37億円のコスト増加を想定しています。2050年は、新たな技術や次世代エネルギーの積極的導入など移行計画(トランジションプラン)に沿った対応策の強化により19億円を削減するものの、現在の技術では2050年にCO₂排出量ゼロが見込めないため、排出量実質ゼロに向けて40億円の排出権購入が必要となり、80億円のコスト増加を想定しています。
単位:億円
取り組み内容 | 2030年 | 2050年 |
対応策未実施のカーボンプライシング負担額 | 51 | 59 |
対応策によるカーボンプライシング削減額 | ▲14 | ▲19 |
CO₂排出量ゼロに向けた排出権購入金額 | - | 40 |
合 計 | 37 | 80 |
※1.5℃シナリオにおけるカーボンプライシング導入による影響額については、国際エネルギー機関(IEA)のWorld Energy Outlook (WEO) 2021で公表されているNZEシナリオのカーボンプライス(2030年、2050年)を基に算出しています。
・電力購入金額による影響額(自社)
2030年は、省エネ活動、創エネ活動などで17億円の削減を図りますが、再エネ由来電力のプレミアム価格によるコスト増加があり、20億円のコスト増加を想定しています。2050年は、同様に28億円のコスト増加を想定しています。
単位:億円
取り組み内容 | 2030年 | 2050年 |
電力単価上昇に伴う増加額 | 30 | 88 |
省エネ活動、創エネ活動等による削減額 | ▲17 | ▲71 |
再エネ由来電力購入に伴う増加額 | 7 | 11 |
合 計 | 20 | 28 |
なお、現在実施している省エネ活動、創エネ活動、再エネ由来電力の購入などに加え、新たな技術や次世代エネルギーの積極的な導入などを織り込んだ移行計画(トランジションプラン)を策定しました。また、2021年度よりインターナルカーボンプライシング制度(1t-CO₂当たり5,000円)を導入することで、カーボンプライシング本格導入後の円滑な対応に向けた準備も進めております。
※1.5℃シナリオにおける電力購入金額による影響額は、公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)とIEA WEO2018のSDSシナリオの情報を基に算出しています。
自社における移行計画(トランジションプラン)の概要は以下のとおりです。
![]() |
※Scope1 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope2 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
対応策については、当社工場等に太陽光発電設備や省エネ設備の導入をはじめ、RE100対応の再生可能エネルギー由来電力の購入等、様々な取り組みを行っています。移行計画を基に各取り組みを推進し、その結果、2022年度において、総使用電力に占める再生可能エネルギー比率が9.5%となりました。
引き続き、2050年の100%達成を目指して取り組みを推進していきます。
![]() |
・カーボンプライシング導入による影響額(主要原材料)
主要原材料を調達する各国のカーボンプライスを基にした2030年の影響額は、以下の対応策の実施により201億円の増加を想定しています。2050年は同様に277億円の増加を想定しています。
※1.5℃シナリオにおけるカーボンプライシング導入による影響額については、IEAのWEO2021で公表されているNZEシナリオのカーボンプライス(2030年、2050年)を基に算出しています。
なお、主要原材料におけるCO₂排出量については、CO₂だけでなく酪農業由来のメタンなど温室効果ガス(GHG)全般での排出量削減が重要な課題と捉えています。
GHG排出量削減に向けて、酪農を中心としたScope3における移行計画を策定しました。
GHG排出量削減を効果的に行うために、ライフサイクルにおけるGHG排出量の多いプロセスを特定すべく、はじめに、牛乳のカーボンフットプリント(CFP)を算定し、次にそのプロセスでの排出量削減策を策定し取り組みを開始しました。さらに、その他の原材料における対応策も検討すると同時に、GHG排出量削減に向けたサプライヤーとのエンゲージメントを実施することで、サプライヤーの排出量削減、ひいてはサプライチェーン全体の排出量削減を促進していきます。
サプライチェーン(Scope3)における移行計画(トランジションプラン)の概要は以下のとおりです。
図中の1~4については、以下に対応策詳細を記載しております。
![]() |
※Scope3 Scope1,2以外のCO₂間接排出(購入した原料・包材等の生産・製造・輸送から、それらを加工した製品の販売・輸送・使用・廃棄に至るまでの企業活動におけるサプライチェーン上で発生するCO₂排出)のこと。
対応策1 牛乳のカーボンフットプリント(CFP)の算定
はじめに、牛乳の算定式を確立する為、数軒の酪農家から収集した実データなどに基づき、「明治オーガニック牛乳」のライフサイクル全体(原料調達~製造~消費・廃棄)におけるGHG排出量を算定しました。その結果、上流部分が90%以上を占めることが分かりましたので、生産者やサプライヤーとともに排出量削減に取り組みます。
![]() |
対応策2 糞尿由来のN₂O削減のビジネスモデル構築
酪農家、味の素株式会社、当社グループの3者が中心となり、ビジネスモデルを構築しました。
味の素株式会社製品の「AjiPro®-L」を使用し、飼料中のアミノ酸バランスを改善することで乳量を維持しつつ、飼料中の余剰な窒素を抑え、糞尿由来のN₂O排出量を削減することができます。削減されたN₂Oは、酪農家と味の素株式会社がJ-クレジット制度を活用してクレジット化し、そのクレジットを当社が購入することで酪農家を経済的に支援するモデルとなります。
![]() |
対応策3 容器包装材料の使用量削減
容器包装材料の主たる原料である石油由来のプラスチックを削減することはGHG排出量の削減にもつながります。包装容器は「3R+Renewable」による、より環境に配慮した取り組みを推進します。
具体的な取り組みは以下の通りとなります。
商品名 | 容器 | 対応策 |
明治ブルガリアヨーグルトLB81低糖 | カップ | 軽量化(Reduce) |
明治ザバスシリーズ | カップ | 軽量化(Reduce)・バイオマスプラスチック配合(Renewable) |
キャップ・スプーン | バイオマスプラスチック配合(Renewable) | |
明治おいしい牛乳 | キャップ他 | バイオマスプラスチック使用(Renewable) |
明治5つ星習慣 | ボトル | 再生PET使用(Renewable) |
※3R:Reduce(発生抑制)、Reuse(再使用)、Recycle(再生利用)
プラスチック使用量推移、目標
年度 | 2017年度 (基準) | 2019年度 (実績) | 2020年度 (実績) | 2021年度 (実績) | 2030年度 (目標) |
実績(t) | 30,807 | 27,777 | 27,265 | 25,878 | 23,107 |
削減(t) | - | 3,030 | 3,542 | 4,929 | 7,700 |
削減量(%) | - | 9.8 | 11.5 | 16.0 | 25.0 |
対応策4 サプライヤーエンゲージメントの実施
サプライヤーにおけるCO₂排出量削減は、当社のScope3の削減でもあります。
したがって、CO₂排出量の多いサプライヤーとエンゲージメントを行い、目標値や取り組み事例を共有していくことで排出量削減の推進を図っていきます。
![]() |
<4℃シナリオ>・洪水被害による操業停止などの機会損失
洪水による被害額は、過去の事例を基に1災害あたり3億円規模を想定しております。この金額は、当社グループにおける過去の洪水を伴う大雨によって発生した被害(物流網遮断などによる廃棄ロスなど)実績より
算出しております。また、洪水により機会損失が想定される拠点は、世界資源研究所(WRI:World Resources Institute)が公開している世界の水リスク評価ツールである「Aqueduct」の結果や代替生産拠点の有無を考慮し、12拠点と想定しております。
※洪水リスクについては、Aqueduct Floodsの悲観(pessimistic)シナリオ(RCP8.5, SSP3)の情報を基に分析しています。
洪水リスクへの対応策
・リスクの高い拠点において、現地と連携しリスク評価結果のGAP分析による実態の把握
・特に優先度の高い事業所への詳細調査及び浸水エリアや浸水深を想定したハード面での対策の検討、実施
対策例:ボックスウォール(仮設止水版)や防水壁の設置
・主要原材料調達への影響
原材料の生産地においても、気候変動による気温上昇や水リスクによって農作物の収量減少に伴う原材料単価の変化が起こることが想定されます。主要原材料の生産地における収量変化や水リスク(水の需給バランスの悪化を意味する水ストレス、渇水リスク、洪水リスク)の分析を実施し、その結果の概要は以下のとおりです。
~想定される収量変化~
・カカオ豆や砂糖の調達国では、将来的に収量が減少すると予測しています。
・一方で、当社グループのカカオ豆の主要調達地域では、2030年での影響が比較的小さく、2050年においても同様です。
・乳への影響は、2030年、2050年においても数%の減少に留まり、飼料の配合変更などによる生産性向上での対応が可能であり、リスクはそれほど大きくないと想定しております。
~想定される水リスク~
・水ストレスと渇水リスクは、一部の地域を除いてほとんどの地域でリスクが低いと想定しております。
・洪水リスクは、将来的にほとんどの地域でリスクが高くなると想定されるため、夫々の生産地の洪水リスクを確認した上で、改善策の検討が必要であると考えております。
※4℃シナリオにおける主要原材料調達への影響について、FAOの公表しているGAEZv4データベース(RCP8.5)や文献調査の将来収量予測情報を基に算出しています。
なお、原材料として調達する農作物は気候変動のみならず、自然資本・生物多様性の保全と密接に関係しています。自然関連財務情報の開示フレームワーク(TNFD)のLEAPアプローチを活用し、当社グループの重要原材料であるカカオ豆の自然への依存度を分析しました。
~カカオ豆生産地での自然関連リスク分析~
・カカオ豆の生産活動は、自然への依存度が高いため、主要なカカオ豆生産拠点(13ヵ所)における依存状況を把握するための調査を行いました。その結果、「自然災害の影響緩和」「土壌侵食の抑制」という項目について、特に依存度が高いということが分かり、加えてその2つの重要項目についてリスクとなる生産拠点を洗い出しました。今後は生産地でのGAP分析等を行う中で収量減少の回避に向けた取り組みを推進してまいります。
・自然災害の影響緩和へのリスクが非常に高い拠点数:2ヵ所
・土壌浸食の抑制へのリスクが非常に高い拠点数 :2ヵ所
このような影響によって、主要原材料の調達コストは増加することを想定しており、以下の取り組みによりコストの抑制と増収によるコストの吸収を図っていきます。
・商品面での対応
◇健康価値・栄養価値の強化、サステナビリティによる社会価値創出などによる商品の高付加価値化の推進
◇商品戦略見直しによるポートフォリオの最適化
◇価格改定による単価アップ
・原材料面での対応
◇配合変更や代替原料の使用
◇調達国/地域/サプライヤーの最適化
・生産・物流面での対応
◇効率的生産による生産性向上、購買物流の効率化
・サプライヤーとの連携
◇エンゲージメント強化による調達コストダウンとリスク低減
□ 機会への対応
気候変動における機会は、気候変動の直接的影響が社会や生活に変化をもたらし、その結果新たなニーズや機会創出につながると考えております。当社グループでは、現在の事業基盤を活かし、新たな資源を取り入れることで以下のような機会獲得の可能性を想定しております。
なお、機会を抽出するまでのプロセスは次の通りです。
・グループTCFD会議の事務局メンバーが、機会検討に関係する組織に個別にヒアリングを実施。
・グループTCFD会議にて、「機会の方向性」を審議。
・既存事業との関係(距離感)や、現状の自社アセットでの対応の可否、実現可能性等の観点から定性的に
整理。
・機会獲得のポイントを実現可能性の高いものに絞り込み、事業機会を抽出。
今後、当社グループ全体で夫々の実現可能性を探り、実現に向けて具体的な取り組みを推進してまいります。
気候変動の直接的影響 | 気候変動の社会や生活への影響 |
・平均気温の上昇 ・災害の激甚化 ・降水パターンの変化 ・生物多様性毀損 ・農産物の収量減少 ・海面の上昇 ・永久凍土の溶解 など | ・気温上昇での生活様式変化(外出・移動自粛、巣ごもり、止渇・熱中症など) ・食品・エネルギー価格の上昇、生産者の支出の変化 ・GHG排出規制の強化や水リスク(渇水、水質悪化)顕在化 ・環境負荷を低減させる生活の推進(ロスや廃棄削減、省エネ、エシカル消費など) ・医療ひっ迫の恒久化や感染症予防意識の高まり ・災害対策の意識の高まり ・開発途上国の栄養不足深刻化 |
機会獲得のポイント | 高まることが想定されるニーズ | 当社グループにおける事業機会 |
生活様式の変化による巣ごもりなどへの対応 | ・気温上昇による止渇、熱中症対策 ・家庭内で生活を完結できる商品や仕組み ・栄養バランスの改善による健康維持 | ・暑さ対策商品の拡大 ・宅配ビジネスの拡大 ・カスタマイズ型栄養支援ビジネス |
環境意識の高まりへの対応 | ・環境負荷の小さい商品 (植物由来、細胞培養、循環型農業など) ・廃棄ロスやエネルギー使用を低減した商 品や生活様式 ・原材料の持続可能な調達 | ・環境負荷低減型商品の拡大 ・環境配慮、支援型ビジネス ・持続可能な原料活用商品の拡大 |
新興・再興感染症への対応 | ・感染症予防のための行動の習慣化 (うがい、手洗いの励行、マスク着用、免 疫力強化など) ・感染症に対するセルフメディケーション ・開発途上国における感染症対策 | ・グローバルでの感染症薬、免疫力 強化商品の拡大 ・自然免疫、獲得免疫、治療薬など 感染症トータルケアビジネス ・開発途上国、原料生産国への感染症 対策商品の提供や支援 |
さらにこの9つの事業機会を、現在、既に手掛けているものから、中長期的に仕掛けていくものへと時間軸で優先順位付けを行いました。
![]() |