有価証券報告書-第16期(2025/04/01-2026/03/31)
(1)気候変動に関する戦略
① 気候変動関連のリスクおよび機会の識別
当社は、当社グループの見通しに影響を与えると合理的に見込み得る気候関連のリスクおよび機会として、次のものを識別しております。
<気候関連のリスクおよび機会・その影響が生じると合理的に見込み得る時間軸>
これらのリスクおよび機会の影響が生じると合理的に見込み得る時間軸の定義と戦略的意思決定に用いる計画期間との関係については、前述の「1. サステナビリティ関連財務開示の作成方法 (2)当社グループのビジネス・モデルとサステナビリティ関連のリスクおよび機会 ②サステナビリティ関連のリスクおよび機会の識別」に記載のとおりであります。
② 気候変動関連のリスクおよび機会が企業のビジネス・モデルおよびバリュー・チェーンに与える影響
上記のそれぞれのリスク・機会に関して、現在・将来の当社グループのビジネスに与えている(与えると予想される)影響、また、企業のビジネス・モデルおよびバリュー・チェーンにおいて、気候関連のリスクおよび機会が集中している部分は以下のとおりであります。
③ 気候変動関連のリスクおよび機会の財務的影響
ア.気候関連のリスク
「気象災害による保険引受収支の悪化」に関しては、保険収支の悪化により財務状況が悪化する可能性があると認識しております。しかしながら、気候変動による自然災害の激甚化の影響は、公表機関によって数字にばらつきがあり、不確実性が高いものとなっていることから、定量的情報は有用ではないと判断しております。
「政策移行に伴う運用資産の価格変動」に関しては、当社グループが保有する金融商品の価格は、政策移行公表時に変動する可能性があると認識しておりますが、実際の政策移行の度合いおよびその影響、当社グループの投資計画および資金計画の不確実性が高く、多くの前提条件がつく定量的情報は有用ではないと判断しております。
また、気候関連のリスクおよびその他の要因を踏まえた複合的な財務的影響を合理的に見積もることは困難であり、定量的情報は有用でないと判断しております。
イ.気候関連の機会
「環境配慮型商品・サービスの提供機会の拡大」「レピュテーションの向上」への対応に際しては、短・中・長期的に保険収益の増加が見込まれます。さらなる保険料収入増加やピュテーションの向上による購買行動の増加に向け、リスク・機会の管理を進めてまいります。
「環境配慮型商品・サービスの提供機会の増大」の当報告期間における企業の財政状態、財務業績およびキャッシュ・フローに与えた影響に関しては、後述の「(2) 気候変動に関する指標・目標」に記載のとおりであります。
「レピュテーションの向上」に関する、当報告期間において企業の財政状態、財務業績およびキャッシュ・フローに与えた影響、ならびに気候関連のリスクおよび機会を管理する企業の戦略を踏まえた、短期、中期および長期における、財務業績およびキャッシュ・フローに関する見込みについては、影響を見積るにあたり測定の不確実性の程度があまりにも高いことから、開示しておりません。
また、気候関連の機会およびその他の要因を踏まえた複合的な財務的影響を合理的に見積もることは困難であり、定量的情報は有用でないと判断しております。
ウ.関連する財務諸表
気候関連のリスクおよび機会が影響を与える可能性が高い、関連する連結財務諸表の行項目は以下のとおりです。
・<リスク>気象災害による保険引受収支の悪化:保険サービス損益
・<リスク>政策移行に伴う運用資産の価格変動:金融損益
・<機会>環境配慮型商品・サービスの提供機会の増大、レピュテーションの向上:保険収益、その他の営業収益
④ 気候変動関連のリスクおよび機会が企業の戦略および意思決定に与える影響
保険事業を主業とする当社グループにおいて、新しいリスクやニーズに対する保険提供が遅れることは、それ自体がリスクであり機会損失となります。当社グループでは、気候変動リスク・機会に対し複合的なアプローチを実践するため、2021年度より「SOMPO気候アクション」(気候変動への「適応」、「緩和」、「社会のトランスフォーメーションへの貢献」)を掲げ、各種目標を設定し、取組みを進めてまいりました。
2026年度からは、この「SOMPO気候アクション」を「SOMPO Earth Positive Actions」へとアップデートし、気候変動、生物多様性、循環経済のシナジーアプローチによる統合的な課題解決を目指しております。この新戦略では、地域ネットワーク、サステナビリティに関する国際ルール形成への貢献、環境人材育成といった、当社グループ独自の資源・強みを最大限活用し、「地域に根差した取組み」と「グローバルでの取組み」を展開してまいります。
ア.リスクと機会を管理するための目標
当社グループは、「(2)気候変動に関する指標・目標 ②温室効果ガス排出に関する開示 ク.温室効果ガス排出量目標およびその他の気候関連の目標に関する開示」に記載のとおり、気候変動関連のリスクと機会を管理するための目標を策定し、その進捗の管理を行っております。
イ.リスクおよび機会への対応策
上記の目標の達成および気候関連のリスク・機会への対応策は以下のとおりであります。
<参考:商品・サービスの提供例>
これらのうち、「気象災害による保険引受収支の悪化」に関しては、気象災害リスクを管理する部門やリスクに応じた保険商品の料率改定等に対応する部門、適切な再保険手配を実施する部門を設置するなど、要員を確保しております。
「政策移行に伴う運用資産の価格変動」、「環境配慮型商品・サービスの提供機会の拡大」および「レピュテーションの向上」に関しては、これらの活動を念頭に、「SOMPO気候アクション」ならびに「SOMPO Earth Positive Actions」を主導するサステナブル経営推進部を設置し、人員を配置、物件費を確保しております。
また、これらのリスク・機会への対応にあたり、再生可能エネルギー設備(風力、太陽光)やEV、蓄電池などの新技術はまだ事故データや損害データが蓄積されておらず、適切なリスク評価モデルや保険料率の設定が困難であるといった、技術のリスク評価の難しさ等のトレードオフを考慮しております。
なお、これらのリスク・機会への対応にあたり、現在のビジネス・モデルの変更に至るものは無いものの、今後も気候変動リスクアセスメントを通じて継続的に注視し、再保険戦略等に反映させてまいります。
⑤ 気候レジリエンス(気候関連シナリオ分析)
ア.シナリオの選定
当社グループは、NGFS(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)が公表するシナリオ(以下「NGFSシナリオ」といいます。)が国際的な標準シナリオとして広く参照されていることを踏まえ、これに準拠する形でシナリオを設定しております。NGFSシナリオの中から、発生可能性や影響度の高さに鑑み、下記のとおり性質の異なる3つのシナリオを選択しております。
また、当社グループに及ぼす影響の波及経路・内容のパターンを想定し、各シナリオについてパターンごとにリスクを評価することで、当社グループに及ぼす影響を深く考察し、当社グループのレジリエンスを様々な環境下で多角的に検証しております(「リスクの波及経路と影響内容のパターン図(例)」参照)。
<リスクの波及経路と影響内容のパターン図(例)>
イ.保険引受における物理的リスク
a. シナリオ分析の目的・内容
当社グループの損害保険事業は、台風や洪水、高潮などを含む自然災害の激甚化や発生頻度の上昇に伴う想定以上の保険金の支払いによる財務的影響を受ける可能性があります。損保ジャパンは、リスクの定量的な把握に向けて、2018年以降、大学等の研究機関と連携することで科学的知見を踏まえた取組みを進めており、「アンサンブル気候予測データベース:d4PDF(database for Policy Decision making for Future climate change)※1」などの気象・気候ビッグデータを用いた大規模分析によって、台風や洪水、海面水位の変化の影響を受ける高潮の平均的な傾向変化や極端災害の発生傾向について、平均気温が上昇した気候下での長期的な影響を把握するための取組みを行っております。また、5~10年後の中期的な影響を分析・評価し事業戦略に活用しております。
気候関連シナリオ分析においては、自社の分析だけではなく、損害保険料率算出機構(以下「料率機構」といいます。)の自然災害リスクモデル(以下「料率機構モデル」※2といいます。)も活用しています。料率機構モデルは、地震、風災および水災に関する基準料率・参考純率の算出や2026年3月期から新たに導入される経済価値ベースのソルベンシー規制の標準的なモデルとしても採用されている業界共通モデルであり、気候関連のシナリオ分析も可能となっています。料率機構モデルを用いたシナリオ分析の前提と当社グループの気候レジリエンス評価は次のとおりであります。
※1 文部科学省の気候変動リスク情報創生プログラムにて開発されたアンサンブル気候予測データベース。多数の実験例(アンサンブル)を活用することで、台風や集中豪雨などの極端現象の将来変化を確率的にかつ高精度に評価し、気候変化による自然災害がもたらす未来社会への影響についても確度の高い結論を導くことを可能とするもの。
※2 料率機構モデルの詳細は、料率機構ウェブサイト「自然災害リスクに関する研究」(https://www.giroj.or.jp/databank/natural_disaster.html)を参照
b. シナリオ分析の前提
・主要な仮定
将来における再保険マーケットの見通しは不透明であることから、元受契約への影響値を試算しております。
また、人口動態や都市構造の変化等を含む将来の契約ポートフォリオの変化、建物の強度や堤防・下水道の整備状況は現時点のまま変わらない前提としており、将来の防災・減災対策は考慮しておりません。
・実施時期
損保ジャパンは、当報告期間(2026年3月期)において、気候関連のシナリオ分析を実施しました。本分析は、2025年9月末時点で保有する火災保険契約を対象としております。
・シナリオ分析プロセスの変更有無
前報告期間ではUNEP FI(国連環境計画・金融イニシアティブ)のTCFD保険ワーキンググループが2021年1月に公表したガイダンスに基づく簡易な定量分析ツール※3を用いた台風に関する影響度の試算結果を開示しておりましたが、本報告期間から最新の知見を反映した料率機構モデルで分析を行っております。
※3 IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:国連気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書のRCP8.5シナリオに基づき、2050年と現在との間の台風の発生頻度や風速の変化をとらえ、頻度や損害額の変化を算出するモデル
c. シナリオ分析の結果からみる当社グループの気候レジリエンス、対応策
(a)シナリオ分析の結果と戦略への影響
損保ジャパンでは、温暖化進行についてのシナリオ分析を行い、国内の台風および水災のリスク量への影響を確認しております。
当社グループではパーパス実現に向けてレジリエンスのさらなる向上に努めており、その中には気候変動により激甚化する自然災害に対するレジリエンス、すなわち気候レジリエンスの向上も含まれております。特に自然災害の影響が大きい火災保険については、料率適正化の取組みに加え、規律ある引受の徹底と補償条件の見直しを通じて利益のボラティリティとリスク量の抑制を図ることでポートフォリオの改善に努める戦略を遂行しております。現在の戦略を継続しつつ、今後もシナリオ分析の結果を踏まえたレジリエンス向上策を実施してまいります。
(b)気候レジリエンスの評価において考慮された重大な不確実性
自然災害リスクモデルは、科学的な知見を用いて自然災害の発生メカニズムや損害発生度合いをモデル化したものであり、一般的に外部の研究機関や専門家の意見も踏まえて開発されております。過去に経験のない巨大災害を科学的シミュレーションにより評価を行うことが可能となっておりますが、観測データが十分でないため、真の発生確率や損害度合いから乖離する可能性があります。
気候変動影響の評価に用いている気候予測データであるd4PDFは、複数の将来気候予測モデルを使用しており、将来の海面水温の予測も複数のパターンが存在しております。パターンごとの気候変動による影響度合いを自然災害リスクモデルに当てはめてリスク量への影響を試算しておりますが、パターンによって結果に相応のばらつきがあり、将来予測の不確実性が高いことを意味しております。
(c)気候変動に対応する当社グループの能力と結論
(a)に記載のとおり、当社グループは、気候レジリエンスの向上に取り組み、対策を講じております。今後さらなる温暖化の進行が生じた場合においても、元受保険商品の販売戦略の転換(料率適正化や、規律ある引受の徹底、補償条件の見直しなど)や再保険戦略の見直し等を検討し、リスク量を抑制してまいります。
同時に、激甚化する自然災害に対する社会のレジリエンス向上のためには、自然災害による損害そのものを軽減させることが重要であり、「HIKESHI DNA 2030 Project」と連動し、気候変動を背景とする自然災害リスクに対する防災・減災の取組みを一層強化してまいります。
気候変動が将来のキャッシュ・フローや財務状況に与える影響の具体的な予測は不確実性が高く、現時点で見積もることは困難であります。気候変動影響を注視しつつレジリエンス向上の取組みを継続し、必要な対策を適時適切に実施することが不可欠だと考えております。これらの取組みにより、将来シナリオが現実に生じたとしても、持続的に商品提供が可能であると自己評価しております。
ウ.資産運用における移行リスク・物理的リスク・機会
脱炭素社会への移行が短期・中期・長期それぞれにおいて、当社グループに及ぼす財務的影響を把握するため、NGFSシナリオを前提に、脱炭素社会への転換に向けた法規制の強化や世界経済の変化が企業に及ぼす「政策リスク」と気候変動の緩和に向けた取組みによる「技術機会」、慢性的な猛暑、極寒、大雪、大雨、暴風、急性的な台風、洪水、自然火災など、気候変動がもたらす気象災害が企業に及ぼす「物理的リスク」について、MSCI社が提供するClimate Value-at-Risk(CVaR)※4を用いて、当社グループの保有資産に及ぼす影響を分析しております。詳細は、以下「(a)Climate Value-at-Risk(CVaR)NGFSシナリオ-保有資産別比較」および「(b)Climate Value-at-Risk(CVaR)NGFSシナリオ-短期・中期・長期のTime Horizon別比較」を参照ください。
くわえて、移行リスク削減に向け、脱炭素化への取組みが進んでいない企業への働きかけを促進することが重要であることから、同社が提供するImplied Temperature Rise(ITR)※5を用いて、当社グループの投資先企業が2100年度までに1.5℃の温暖化に抑える目標と整合的な温室効果ガス排出量削減目標を設定しているのかを定量的に分析しております。詳細は、以下「(c)Implied Temperature Rise(ITR)」を参照ください。
※4 Climate Value-at-Risk(CVaR)
•気候変動に伴う政策の変化や災害による企業価値への影響を測定する手法のひとつ。
•気候変動関連のリスクと機会から生じるコストと利益の将来価値を現在価値に割り引いたものであり、当社グループの資産運用ポートフォリオにおける各銘柄の保有時価ウェイトを考慮し、2025年3月末時点における影響度を算出。
※5 Implied Temperature Rise(ITR)
•2100年までに2℃、1.5℃の温暖化をもたらす可能性の程度を、度数(℃)で評価するフォワードルッキングな評価手法の一つ。
•投資先企業の温室効果ガス予測排出量(足元の排出量および企業が設定した削減目標をもとに算出)とカーボンバジェットの差分をもとに温度上昇への寄与度を表したものであり、当社グループの資産運用ポートフォリオにおける各銘柄の保有時価ウェイトを考慮し、2025年3月末時点における影響度を算出。
a.実施時期
当社は、当報告期間(2026年3月期)において、気候関連のシナリオ分析を実施しました。本分析は、2025年3月31日時点の株式・社債ポートフォリオを対象としております。
b.手法(インプット、主要な仮定、選択した理由など)
•分析の対象範囲
当社グループのすべての国内外連結子会社を対象とし、保有する株式・社債ポートフォリオについて分析を実施しております。
•分析の前提とした主要な仮定
分析の前提となる主要な仮定は、選択したNGFSシナリオで定義されている内容に準拠しております。これらのシナリオは、各国の気候政策の強度や導入タイミング(Policy reaction)、炭素除去技術(CDR)の導入度合い、物理的リスクの深刻度といった複数の変数に基づいて将来の世界像を描いております。当社の分析は、これらのシナリオが示す炭素価格、エネルギー需要、GDP成長率といったマクロ経済パラメータをインプットとして、ポートフォリオへの財務的影響を評価するものであります。なお、本分析においては、現時点の静的なポートフォリオを前提としており、将来の投資戦略の変更は加味しておりません。
※NGFSシナリオの各仮定の詳細については、NGFSが公表するドキュメントをご参照ください。上記シナリオに基づく財務影響の分析にあたっては、NGFSシナリオに対応した分析機能を有するMSCI社のClimate Value-at-Risk (CVaR)を用いております。
•インプット情報に関する情報
分析には、基準時点(2025年3月末)におけるポートフォリオの構成銘柄、保有時価、アセットクラスの情報に加え、上記で記載したNGFSシナリオが提供する各種マクロ経済・気候関連パラメータをインプット情報として使用しております。
•シナリオ分析プロセスの変更有無
当社が行ったシナリオ分析のプロセスは前報告期間から変更ありません。
c.シナリオ分析結果
(a)Climate Value-at-Risk(CVaR)NGFSシナリオ‐保有資産別比較
政策リスク、技術機会の影響は、すべての資産において、Net Zero 2050(1.5℃)シナリオが最大となり、1.5℃目標を達成するには、秩序だった移行であっても、政策リスクが大きいことが分かります。一方、物理的リスクの影響は、外国株式を除きNDCs(3℃)シナリオが最大となり、気温上昇がもたらす物理的リスクが大きいことが分かります。
また、保有資産別の比較では、政策リスク、技術機会の影響はいずれも国内株式(下記グラフ:左上)が最大となり、Net Zero 2050(1.5℃)シナリオ下においてそれぞれ△38.4%、6.9%となります。また、物理的リスクにおいても国内株式が最大となり、NDCs(3℃)シナリオ下において△8.6%となります。なお、融資は当社グループの影響が限定的であることを確認しております。
<当社グループ 資産別・NGFSシナリオ別 政策・物理的リスクと技術機会のCVaR分析結果>
• 政策リスク :温室効果ガス排出量削減目標を達成するために必要となる費用をスコープ1、2、3と段階ごとに算出した数値
• 技術機会 :低炭素経済への移行を背景に、企業が保有する環境関連技術が生み出す事業機会のポテンシャルを算出した数値
• 物理的リスク:慢性的または急性的な異常気象が企業の資産や売上にもたらす影響を算出した数値
(b)Climate Value-at-Risk(CVaR)NGFSシナリオ‐短期・中期・長期のTime Horizon別比較
短期・中期・長期のTime Horizon別の比較では、当社グループのポートフォリオにおいて、リスクの大部分は2034年以降に顕在化することがわかります。特に、Delayed transition(2 ℃)(Disorderly:脱炭素への急激な移行)シナリオでは2030年以降に急激な政策移行が想定されていることから、長期影響が顕著に現れます。また、政策リスクはNet Zero 2050(1.5℃)シナリオが△14.72%と最大となり、1.5℃目標を達成するには、秩序だった移行であっても、政策リスクが長期的にも大きいことがわかります。また、物理的リスクは気温上昇を伴うDelayed transition(2℃)シナリオとNDCs(3℃)シナリオで相対的に長期的な影響が大きくなりますが、1%未満と全体的な影響は限定的であります。
<当社グループ Time Horizon別 政策・物理的リスクと技術機会のCVaR分析結果>
(c)Implied Temperature Rise(ITR)
ITRが2℃未満の企業の割合は、国内株式、外国株式、国内社債、外国社債ポートフォリオの時価ベースでそれぞれ57%、100%、70%、87%、ITRが1.5 ℃ 未満の企業の割合は、40%、100%、53%、75%となっており、国内株式以外はパリ協定で掲げる「1.5℃目標」と整合的な企業が過半数を占めております。一方で、ポートフォリオ全体では、国内株式、外国株式、国内社債、外国社債のITRはそれぞれ2.24℃ 、1.18℃ 、2.18℃ 、2.44℃と、外国株式以外は1.5℃を超えております。
<当社グループ 資産別 ITR分析結果>
出所:MSCI Climate Value-at-Risk、Implied Temperature Riseを用いて当社が作成
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(d)分析結果から特定された主要なリスク・機会と対応策
●移行リスクが最も大きいセクター
・化石燃料関連セクター(石油・ガス、石炭): 脱炭素化の目標達成に向けた移行リスクが最も高いセクターであります。リスクが大きいセクターや企業は、投資・保険引受の制限や、排出削減目標を達成するためのエンゲージメントの主要な対象としております。
●物理的リスクの影響が大きいセクター
・農業、製造業、公益事業セクター: 物理的リスクの一環として、水不足による投資リターンへの悪影響を受けやすいセクターであります。リスクが大きいセクターや企業は、排出削減目標を達成するためのエンゲージメントの主要な対象としております。
●機会が最も大きいセクター
・運輸セクター:脱炭素化に向けた世の中の変化によって機会が生まれる可能性が高いセクターであります。これらの企業については、重点的にエンゲージメントを行い、企業の移行の促進や当社グループとの協業機会の創出に向けて取り組んでおります。
d.報告期間の末日における気候レジリエンスの評価
(a)シナリオ分析結果の戦略への影響
本シナリオ分析の結果は、当社グループの投資戦略における気候関連リスクの重要性を再確認するものとなりました。特に、移行リスクが高いと特定されたセクターへのエンゲージメントを強化し、投資制限の方針を継続・徹底するなど、既存の戦略の有効性を裏付ける結果となりました。今後も、本分析で特定されたCVaR値が特に高いセクターや企業については、エンゲージメントの優先順位を引き上げ、対話のテーマをより具体化するなど、既存戦略の実行を加速・高度化を行ってまいります。
(b)評価における重大な不確実性
当社のレジリエンス評価においては、特に「Delayed transitionシナリオにおける急進的な政策変更のタイミングと厳格さ」や、「低炭素技術の進化・普及の速度」が、将来の財務的影響を左右する重大な不確実性の領域であると認識しております。
(c)気候変動に対応する当社グループの能力と結論
当社グループは、健全な財務基盤と、本分析で特定されたリスク・機会を管理するための実効的なガバナンス体制を有しております。また、必要に応じてポートフォリオを機動的に再構築するための資本の柔軟性も有しております。
これらの能力を活かし、本分析で特定された移行リスクや物理的リスクの高いセクター・企業へのエンゲージメントを強化するとともに、機会が期待される領域へのサステナブル投資を加速させます。これにより、投資先・取引先企業の着実な移行を支援し、ポートフォリオ全体のリスク低減と収益機会の創出を図ります。
以上のことから、当社グループの戦略およびビジネス・モデルは、気候関連のリスクと機会に対してレジリエンスを有していると評価しております。
① 気候変動関連のリスクおよび機会の識別
当社は、当社グループの見通しに影響を与えると合理的に見込み得る気候関連のリスクおよび機会として、次のものを識別しております。
<気候関連のリスクおよび機会・その影響が生じると合理的に見込み得る時間軸>
| リスクおよび機会 | 時間軸 | |
| 物理リスク | 気象災害による保険引受収支の悪化 | 中期・長期 |
| 移行リスク | 政策移行に伴う運用資産の価格変動 | 中期 |
| 機会 | 環境配慮型商品・サービスの提供機会の増大 | 短期・中期・長期 |
| 機会 | レピュテーションの向上 | 長期 |
これらのリスクおよび機会の影響が生じると合理的に見込み得る時間軸の定義と戦略的意思決定に用いる計画期間との関係については、前述の「1. サステナビリティ関連財務開示の作成方法 (2)当社グループのビジネス・モデルとサステナビリティ関連のリスクおよび機会 ②サステナビリティ関連のリスクおよび機会の識別」に記載のとおりであります。
② 気候変動関連のリスクおよび機会が企業のビジネス・モデルおよびバリュー・チェーンに与える影響
上記のそれぞれのリスク・機会に関して、現在・将来の当社グループのビジネスに与えている(与えると予想される)影響、また、企業のビジネス・モデルおよびバリュー・チェーンにおいて、気候関連のリスクおよび機会が集中している部分は以下のとおりであります。
| リスク/機会 | 現在・将来の当社グループのビジネスに与えている(与えると予想される)影響 |
| <リスク>気象災害による保険引受収支の悪化 | 地球温暖化によって自然災害が激甚化し、支払保険金の増大や再保険コストの高騰により、保険収支が悪化する可能性があります。これに伴い、元受保険商品の販売戦略の転換(料率の引上げや契約の引受制限、自己負担額の引上げ等の補償縮小など)や再保険戦略の見直しが必要になることが予想されます。 |
| <リスク>政策移行に伴う運用資産の価格変動 | 政策移行はコスト増加や新技術の開発・既存技術の陳腐化などを通じて投融資先の企業価値および当社グループが保有する金融商品の価格に影響を与える可能性があると認識しております。特に温室効果ガスの排出量が多い企業の影響が大きいと考えられます。 |
| <機会>環境配慮型商品・サービスの提供機会の拡大 | SOMPO P&C(保険引受・リスクコンサルティングサービス)の領域において、気候リスクコンサルティングサービスの開発・提供や、自然災害レジリエンスの向上やカーボンニュートラルへの貢献に向けた保険商品・サービス提供の機会が増大しております。 これらの商品・サービスの開発・提供機会は、自然災害の激甚化や法規制の厳格化に伴い、中長期的に拡大することが予想されます。 |
| <機会>レピュテーションの向上 | 従来取り組んでいる環境配慮型商品・サービスの開発・提供や優れた情報開示、地域社会における環境関連活動等の複合的な取組みが評価されることにより、現在においては、当社グループ全体における地域コミュニティ強化の活動進展、共創機会の増加へと繋がっております。 これらの取組みを将来においても継続するとともに、当社グループの顧客となる企業・個人が、法規制の厳格化や消費者行動の変化に応じて、さらに環境配慮型商品を選好することにより、長期的に、優位な評価の獲得、収益の増加につながることが予想されます。 |
③ 気候変動関連のリスクおよび機会の財務的影響
ア.気候関連のリスク
「気象災害による保険引受収支の悪化」に関しては、保険収支の悪化により財務状況が悪化する可能性があると認識しております。しかしながら、気候変動による自然災害の激甚化の影響は、公表機関によって数字にばらつきがあり、不確実性が高いものとなっていることから、定量的情報は有用ではないと判断しております。
「政策移行に伴う運用資産の価格変動」に関しては、当社グループが保有する金融商品の価格は、政策移行公表時に変動する可能性があると認識しておりますが、実際の政策移行の度合いおよびその影響、当社グループの投資計画および資金計画の不確実性が高く、多くの前提条件がつく定量的情報は有用ではないと判断しております。
また、気候関連のリスクおよびその他の要因を踏まえた複合的な財務的影響を合理的に見積もることは困難であり、定量的情報は有用でないと判断しております。
イ.気候関連の機会
「環境配慮型商品・サービスの提供機会の拡大」「レピュテーションの向上」への対応に際しては、短・中・長期的に保険収益の増加が見込まれます。さらなる保険料収入増加やピュテーションの向上による購買行動の増加に向け、リスク・機会の管理を進めてまいります。
「環境配慮型商品・サービスの提供機会の増大」の当報告期間における企業の財政状態、財務業績およびキャッシュ・フローに与えた影響に関しては、後述の「(2) 気候変動に関する指標・目標」に記載のとおりであります。
「レピュテーションの向上」に関する、当報告期間において企業の財政状態、財務業績およびキャッシュ・フローに与えた影響、ならびに気候関連のリスクおよび機会を管理する企業の戦略を踏まえた、短期、中期および長期における、財務業績およびキャッシュ・フローに関する見込みについては、影響を見積るにあたり測定の不確実性の程度があまりにも高いことから、開示しておりません。
また、気候関連の機会およびその他の要因を踏まえた複合的な財務的影響を合理的に見積もることは困難であり、定量的情報は有用でないと判断しております。
ウ.関連する財務諸表
気候関連のリスクおよび機会が影響を与える可能性が高い、関連する連結財務諸表の行項目は以下のとおりです。
・<リスク>気象災害による保険引受収支の悪化:保険サービス損益
・<リスク>政策移行に伴う運用資産の価格変動:金融損益
・<機会>環境配慮型商品・サービスの提供機会の増大、レピュテーションの向上:保険収益、その他の営業収益
④ 気候変動関連のリスクおよび機会が企業の戦略および意思決定に与える影響
保険事業を主業とする当社グループにおいて、新しいリスクやニーズに対する保険提供が遅れることは、それ自体がリスクであり機会損失となります。当社グループでは、気候変動リスク・機会に対し複合的なアプローチを実践するため、2021年度より「SOMPO気候アクション」(気候変動への「適応」、「緩和」、「社会のトランスフォーメーションへの貢献」)を掲げ、各種目標を設定し、取組みを進めてまいりました。
2026年度からは、この「SOMPO気候アクション」を「SOMPO Earth Positive Actions」へとアップデートし、気候変動、生物多様性、循環経済のシナジーアプローチによる統合的な課題解決を目指しております。この新戦略では、地域ネットワーク、サステナビリティに関する国際ルール形成への貢献、環境人材育成といった、当社グループ独自の資源・強みを最大限活用し、「地域に根差した取組み」と「グローバルでの取組み」を展開してまいります。
ア.リスクと機会を管理するための目標
当社グループは、「(2)気候変動に関する指標・目標 ②温室効果ガス排出に関する開示 ク.温室効果ガス排出量目標およびその他の気候関連の目標に関する開示」に記載のとおり、気候変動関連のリスクと機会を管理するための目標を策定し、その進捗の管理を行っております。
イ.リスクおよび機会への対応策
上記の目標の達成および気候関連のリスク・機会への対応策は以下のとおりであります。
| リスク/機会 | 過去・現在および将来における 緩和・適応策、対応計画 | 計画に対する進捗 |
| <リスク>気象災害による保険引受収支の悪化 | •気象災害リスクをふまえた元受保険商品の販売戦略策定(料率適正化や、規律ある引受の徹底、補償条件の見直しなど)(国内損害保険事業) •安定した再保険キャパシティ確保に向けた再保険手配先の多様化 | •2024年10月に火災保険の保険料改定を実施(国内損害保険事業) •2025年4月より国内損害保険事業と海外保険事業が一体となった新体制 (SOMPO P&C)へ移行 |
| <リスク>政策移行に伴う運用資産の価格変動 | •(緩和)自社の温室効果ガス排出量、投融資ポートフォリオの温室効果ガス排出量における目標の達成に向け、株式保有先のうち温室効果ガス高排出の上位20社を中心とするエンゲージメントを実施するほか、グループが保有する運用資産を入れ替える際の温室効果ガス低排出セクターへのシフトを進める | •温室効果ガス排出量実績は後述「(2)気候変動に関する指標・目標」に記載のとおり •2025年度は金融や電力等の業界と気候変動(脱炭素・GX)、生物多様性、循環経済、人権配慮などをテーマにエンゲージメントを実施 |
| <機会>環境配慮型商品・サービスの提供機会の拡大 | •(緩和)損保ジャパンにおいて、株式を保有する企業を中心に、取引先企業の持続的成長の貢献に向け、毎年「ESG/サステナビリティへの取組みに関する調査」を実施し、ESG・サステナビリティに関する取組方針および状況を確認 •(緩和/適応)協働を通じた商品・サービスの開発・提供により、社会のレジリエンス力向上を支援 •(緩和)脱炭素に資する保険商品の保険料収入を2026年度に国内・海外合計で250億円にする「トランジション保険目標」(脱炭素に資する保険商品の保険料収入目標)を設定 | •284社から「ESG/サステナビリティへの取組みに関する調査」の回答を受領 •新たな商品・サービスの提供(詳細は下記<参考:商品・サービスの提供例>参照) •トランジション保険:2025年度時点で348億円 |
| <機会>レピュテーションの向上 | •(緩和/適応)PCAF、WBCSD等をはじめとした国際的なイニシアティブへの参画と情報発信 •統合レポート、サステナビリティレポート等を通じた積極的な情報開示 | •損保ジャパンが、2025年11月ブラジル・ベレンにて開催されたCOP30に参加し、日本政府による「ジャパン・パビリオン」において2つのセミナーに登壇 •CDP「気候変動Aリスト」(最高評価)に選定 •ESG関連インデックスへの組み入れ:当社は、様々なESG関連インデックスの組入銘柄となっています。詳細は当社ウェブサイトに掲載しております。(https://www.sompo-hd.com/csr/evaluation/) |
<参考:商品・サービスの提供例>
| 商品・サービス名称 | 概要(提供主体となる会社) |
| ⦅緩和⦆損害保険と連携したメタン排出検知ソリューション | Momentick社(イスラエル)らと協働し、日本初となるメタン排出検知ソリューションを開始。衛星画像を活用し、メタン排出源を特定したリスクレポートを貨物保険と連携して提供することで、顧客の温室効果ガス排出削減をサポート。(損保ジャパン、SOMPOリスクマネジメント株式会社(以下「SOMPOリスクマネジメント」といいます。)) |
| ⦅緩和⦆中堅・中小企業向け脱炭素経営支援サービス『デンキチェック』 | 電気代削減ポテンシャルを1分で表示する「電気AI診断」をはじめ、中堅・中小企業が脱炭素経営を推進するうえで必要となるメニューをワンストップで提供。代理店網や地域ネットワークを活用し、企業のコストと温室効果ガス排出量の削減を実効性の高いアプローチで支援する。(損保ジャパン、SOMPOリスクマネジメント) |
| ⦅適応⦆気候リスクに対する保険組成 | 企業の気候変動への適応を促進するため、異常気象による費用増加や売上減少といった事業リスクに対し、オーダーメイドで補償を提供する。専門チームが保険の組成からリスク管理、引受までを一貫して行い、企業の持続的な経営と事業活動の安定化を支援する。(損保ジャパン) |
| ⦅適応⦆雹災スキャナー・ デントリペア導入による短期間での被災車両復旧サービス | 気候変動により激甚化する雹災(ひょうさい)に対し、DRS社(ドイツ)と連携。最新の検知・修理技術を導入し、従来は廃棄されていた被災車両の修理を可能にすることで、環境負荷の低減とお客さまへの迅速な納車を両立する。(損保ジャパン) |
これらのうち、「気象災害による保険引受収支の悪化」に関しては、気象災害リスクを管理する部門やリスクに応じた保険商品の料率改定等に対応する部門、適切な再保険手配を実施する部門を設置するなど、要員を確保しております。
「政策移行に伴う運用資産の価格変動」、「環境配慮型商品・サービスの提供機会の拡大」および「レピュテーションの向上」に関しては、これらの活動を念頭に、「SOMPO気候アクション」ならびに「SOMPO Earth Positive Actions」を主導するサステナブル経営推進部を設置し、人員を配置、物件費を確保しております。
また、これらのリスク・機会への対応にあたり、再生可能エネルギー設備(風力、太陽光)やEV、蓄電池などの新技術はまだ事故データや損害データが蓄積されておらず、適切なリスク評価モデルや保険料率の設定が困難であるといった、技術のリスク評価の難しさ等のトレードオフを考慮しております。
なお、これらのリスク・機会への対応にあたり、現在のビジネス・モデルの変更に至るものは無いものの、今後も気候変動リスクアセスメントを通じて継続的に注視し、再保険戦略等に反映させてまいります。
⑤ 気候レジリエンス(気候関連シナリオ分析)
ア.シナリオの選定
当社グループは、NGFS(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)が公表するシナリオ(以下「NGFSシナリオ」といいます。)が国際的な標準シナリオとして広く参照されていることを踏まえ、これに準拠する形でシナリオを設定しております。NGFSシナリオの中から、発生可能性や影響度の高さに鑑み、下記のとおり性質の異なる3つのシナリオを選択しております。
また、当社グループに及ぼす影響の波及経路・内容のパターンを想定し、各シナリオについてパターンごとにリスクを評価することで、当社グループに及ぼす影響を深く考察し、当社グループのレジリエンスを様々な環境下で多角的に検証しております(「リスクの波及経路と影響内容のパターン図(例)」参照)。
| カテゴリ | シナリオ | 概要 |
| Orderly (秩序的) | Net Zero 2050 | 厳格な排出削減政策とイノベーションにより、地球温暖化を1.5℃に抑制し、2050年に世界のCO2排出量をネットゼロにすることを目指す。米国、EU、英国、カナダ、豪州、日本などでは、CO2以外のすべての温室効果ガスについてもネットゼロを達成する。 |
| Disorderly (無秩序) | Delayed Transition | 2030年まで温室効果ガス排出量が減少しない。温暖化を2℃に抑えるには強力な政策が必要。CO2除去は限定的。 |
| Hot House World(温暖化進行) | NDCs | 各国が約束した全ての政策(現時点では実行されていないものも含む)が実施されると想定。 |
<リスクの波及経路と影響内容のパターン図(例)>

イ.保険引受における物理的リスク
a. シナリオ分析の目的・内容
当社グループの損害保険事業は、台風や洪水、高潮などを含む自然災害の激甚化や発生頻度の上昇に伴う想定以上の保険金の支払いによる財務的影響を受ける可能性があります。損保ジャパンは、リスクの定量的な把握に向けて、2018年以降、大学等の研究機関と連携することで科学的知見を踏まえた取組みを進めており、「アンサンブル気候予測データベース:d4PDF(database for Policy Decision making for Future climate change)※1」などの気象・気候ビッグデータを用いた大規模分析によって、台風や洪水、海面水位の変化の影響を受ける高潮の平均的な傾向変化や極端災害の発生傾向について、平均気温が上昇した気候下での長期的な影響を把握するための取組みを行っております。また、5~10年後の中期的な影響を分析・評価し事業戦略に活用しております。
気候関連シナリオ分析においては、自社の分析だけではなく、損害保険料率算出機構(以下「料率機構」といいます。)の自然災害リスクモデル(以下「料率機構モデル」※2といいます。)も活用しています。料率機構モデルは、地震、風災および水災に関する基準料率・参考純率の算出や2026年3月期から新たに導入される経済価値ベースのソルベンシー規制の標準的なモデルとしても採用されている業界共通モデルであり、気候関連のシナリオ分析も可能となっています。料率機構モデルを用いたシナリオ分析の前提と当社グループの気候レジリエンス評価は次のとおりであります。
※1 文部科学省の気候変動リスク情報創生プログラムにて開発されたアンサンブル気候予測データベース。多数の実験例(アンサンブル)を活用することで、台風や集中豪雨などの極端現象の将来変化を確率的にかつ高精度に評価し、気候変化による自然災害がもたらす未来社会への影響についても確度の高い結論を導くことを可能とするもの。
※2 料率機構モデルの詳細は、料率機構ウェブサイト「自然災害リスクに関する研究」(https://www.giroj.or.jp/databank/natural_disaster.html)を参照
b. シナリオ分析の前提
・主要な仮定
将来における再保険マーケットの見通しは不透明であることから、元受契約への影響値を試算しております。
また、人口動態や都市構造の変化等を含む将来の契約ポートフォリオの変化、建物の強度や堤防・下水道の整備状況は現時点のまま変わらない前提としており、将来の防災・減災対策は考慮しておりません。
・実施時期
損保ジャパンは、当報告期間(2026年3月期)において、気候関連のシナリオ分析を実施しました。本分析は、2025年9月末時点で保有する火災保険契約を対象としております。
・シナリオ分析プロセスの変更有無
前報告期間ではUNEP FI(国連環境計画・金融イニシアティブ)のTCFD保険ワーキンググループが2021年1月に公表したガイダンスに基づく簡易な定量分析ツール※3を用いた台風に関する影響度の試算結果を開示しておりましたが、本報告期間から最新の知見を反映した料率機構モデルで分析を行っております。
※3 IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:国連気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書のRCP8.5シナリオに基づき、2050年と現在との間の台風の発生頻度や風速の変化をとらえ、頻度や損害額の変化を算出するモデル
c. シナリオ分析の結果からみる当社グループの気候レジリエンス、対応策
(a)シナリオ分析の結果と戦略への影響
損保ジャパンでは、温暖化進行についてのシナリオ分析を行い、国内の台風および水災のリスク量への影響を確認しております。
当社グループではパーパス実現に向けてレジリエンスのさらなる向上に努めており、その中には気候変動により激甚化する自然災害に対するレジリエンス、すなわち気候レジリエンスの向上も含まれております。特に自然災害の影響が大きい火災保険については、料率適正化の取組みに加え、規律ある引受の徹底と補償条件の見直しを通じて利益のボラティリティとリスク量の抑制を図ることでポートフォリオの改善に努める戦略を遂行しております。現在の戦略を継続しつつ、今後もシナリオ分析の結果を踏まえたレジリエンス向上策を実施してまいります。
(b)気候レジリエンスの評価において考慮された重大な不確実性
自然災害リスクモデルは、科学的な知見を用いて自然災害の発生メカニズムや損害発生度合いをモデル化したものであり、一般的に外部の研究機関や専門家の意見も踏まえて開発されております。過去に経験のない巨大災害を科学的シミュレーションにより評価を行うことが可能となっておりますが、観測データが十分でないため、真の発生確率や損害度合いから乖離する可能性があります。
気候変動影響の評価に用いている気候予測データであるd4PDFは、複数の将来気候予測モデルを使用しており、将来の海面水温の予測も複数のパターンが存在しております。パターンごとの気候変動による影響度合いを自然災害リスクモデルに当てはめてリスク量への影響を試算しておりますが、パターンによって結果に相応のばらつきがあり、将来予測の不確実性が高いことを意味しております。
(c)気候変動に対応する当社グループの能力と結論
(a)に記載のとおり、当社グループは、気候レジリエンスの向上に取り組み、対策を講じております。今後さらなる温暖化の進行が生じた場合においても、元受保険商品の販売戦略の転換(料率適正化や、規律ある引受の徹底、補償条件の見直しなど)や再保険戦略の見直し等を検討し、リスク量を抑制してまいります。
同時に、激甚化する自然災害に対する社会のレジリエンス向上のためには、自然災害による損害そのものを軽減させることが重要であり、「HIKESHI DNA 2030 Project」と連動し、気候変動を背景とする自然災害リスクに対する防災・減災の取組みを一層強化してまいります。
気候変動が将来のキャッシュ・フローや財務状況に与える影響の具体的な予測は不確実性が高く、現時点で見積もることは困難であります。気候変動影響を注視しつつレジリエンス向上の取組みを継続し、必要な対策を適時適切に実施することが不可欠だと考えております。これらの取組みにより、将来シナリオが現実に生じたとしても、持続的に商品提供が可能であると自己評価しております。
ウ.資産運用における移行リスク・物理的リスク・機会
脱炭素社会への移行が短期・中期・長期それぞれにおいて、当社グループに及ぼす財務的影響を把握するため、NGFSシナリオを前提に、脱炭素社会への転換に向けた法規制の強化や世界経済の変化が企業に及ぼす「政策リスク」と気候変動の緩和に向けた取組みによる「技術機会」、慢性的な猛暑、極寒、大雪、大雨、暴風、急性的な台風、洪水、自然火災など、気候変動がもたらす気象災害が企業に及ぼす「物理的リスク」について、MSCI社が提供するClimate Value-at-Risk(CVaR)※4を用いて、当社グループの保有資産に及ぼす影響を分析しております。詳細は、以下「(a)Climate Value-at-Risk(CVaR)NGFSシナリオ-保有資産別比較」および「(b)Climate Value-at-Risk(CVaR)NGFSシナリオ-短期・中期・長期のTime Horizon別比較」を参照ください。
くわえて、移行リスク削減に向け、脱炭素化への取組みが進んでいない企業への働きかけを促進することが重要であることから、同社が提供するImplied Temperature Rise(ITR)※5を用いて、当社グループの投資先企業が2100年度までに1.5℃の温暖化に抑える目標と整合的な温室効果ガス排出量削減目標を設定しているのかを定量的に分析しております。詳細は、以下「(c)Implied Temperature Rise(ITR)」を参照ください。
※4 Climate Value-at-Risk(CVaR)
•気候変動に伴う政策の変化や災害による企業価値への影響を測定する手法のひとつ。
•気候変動関連のリスクと機会から生じるコストと利益の将来価値を現在価値に割り引いたものであり、当社グループの資産運用ポートフォリオにおける各銘柄の保有時価ウェイトを考慮し、2025年3月末時点における影響度を算出。
※5 Implied Temperature Rise(ITR)
•2100年までに2℃、1.5℃の温暖化をもたらす可能性の程度を、度数(℃)で評価するフォワードルッキングな評価手法の一つ。
•投資先企業の温室効果ガス予測排出量(足元の排出量および企業が設定した削減目標をもとに算出)とカーボンバジェットの差分をもとに温度上昇への寄与度を表したものであり、当社グループの資産運用ポートフォリオにおける各銘柄の保有時価ウェイトを考慮し、2025年3月末時点における影響度を算出。
a.実施時期
当社は、当報告期間(2026年3月期)において、気候関連のシナリオ分析を実施しました。本分析は、2025年3月31日時点の株式・社債ポートフォリオを対象としております。
b.手法(インプット、主要な仮定、選択した理由など)
•分析の対象範囲
当社グループのすべての国内外連結子会社を対象とし、保有する株式・社債ポートフォリオについて分析を実施しております。
•分析の前提とした主要な仮定
分析の前提となる主要な仮定は、選択したNGFSシナリオで定義されている内容に準拠しております。これらのシナリオは、各国の気候政策の強度や導入タイミング(Policy reaction)、炭素除去技術(CDR)の導入度合い、物理的リスクの深刻度といった複数の変数に基づいて将来の世界像を描いております。当社の分析は、これらのシナリオが示す炭素価格、エネルギー需要、GDP成長率といったマクロ経済パラメータをインプットとして、ポートフォリオへの財務的影響を評価するものであります。なお、本分析においては、現時点の静的なポートフォリオを前提としており、将来の投資戦略の変更は加味しておりません。
※NGFSシナリオの各仮定の詳細については、NGFSが公表するドキュメントをご参照ください。上記シナリオに基づく財務影響の分析にあたっては、NGFSシナリオに対応した分析機能を有するMSCI社のClimate Value-at-Risk (CVaR)を用いております。
•インプット情報に関する情報
分析には、基準時点(2025年3月末)におけるポートフォリオの構成銘柄、保有時価、アセットクラスの情報に加え、上記で記載したNGFSシナリオが提供する各種マクロ経済・気候関連パラメータをインプット情報として使用しております。
•シナリオ分析プロセスの変更有無
当社が行ったシナリオ分析のプロセスは前報告期間から変更ありません。
c.シナリオ分析結果
(a)Climate Value-at-Risk(CVaR)NGFSシナリオ‐保有資産別比較
政策リスク、技術機会の影響は、すべての資産において、Net Zero 2050(1.5℃)シナリオが最大となり、1.5℃目標を達成するには、秩序だった移行であっても、政策リスクが大きいことが分かります。一方、物理的リスクの影響は、外国株式を除きNDCs(3℃)シナリオが最大となり、気温上昇がもたらす物理的リスクが大きいことが分かります。
また、保有資産別の比較では、政策リスク、技術機会の影響はいずれも国内株式(下記グラフ:左上)が最大となり、Net Zero 2050(1.5℃)シナリオ下においてそれぞれ△38.4%、6.9%となります。また、物理的リスクにおいても国内株式が最大となり、NDCs(3℃)シナリオ下において△8.6%となります。なお、融資は当社グループの影響が限定的であることを確認しております。
<当社グループ 資産別・NGFSシナリオ別 政策・物理的リスクと技術機会のCVaR分析結果>

• 政策リスク :温室効果ガス排出量削減目標を達成するために必要となる費用をスコープ1、2、3と段階ごとに算出した数値
• 技術機会 :低炭素経済への移行を背景に、企業が保有する環境関連技術が生み出す事業機会のポテンシャルを算出した数値
• 物理的リスク:慢性的または急性的な異常気象が企業の資産や売上にもたらす影響を算出した数値
(b)Climate Value-at-Risk(CVaR)NGFSシナリオ‐短期・中期・長期のTime Horizon別比較
短期・中期・長期のTime Horizon別の比較では、当社グループのポートフォリオにおいて、リスクの大部分は2034年以降に顕在化することがわかります。特に、Delayed transition(2 ℃)(Disorderly:脱炭素への急激な移行)シナリオでは2030年以降に急激な政策移行が想定されていることから、長期影響が顕著に現れます。また、政策リスクはNet Zero 2050(1.5℃)シナリオが△14.72%と最大となり、1.5℃目標を達成するには、秩序だった移行であっても、政策リスクが長期的にも大きいことがわかります。また、物理的リスクは気温上昇を伴うDelayed transition(2℃)シナリオとNDCs(3℃)シナリオで相対的に長期的な影響が大きくなりますが、1%未満と全体的な影響は限定的であります。
<当社グループ Time Horizon別 政策・物理的リスクと技術機会のCVaR分析結果>

(c)Implied Temperature Rise(ITR)
ITRが2℃未満の企業の割合は、国内株式、外国株式、国内社債、外国社債ポートフォリオの時価ベースでそれぞれ57%、100%、70%、87%、ITRが1.5 ℃ 未満の企業の割合は、40%、100%、53%、75%となっており、国内株式以外はパリ協定で掲げる「1.5℃目標」と整合的な企業が過半数を占めております。一方で、ポートフォリオ全体では、国内株式、外国株式、国内社債、外国社債のITRはそれぞれ2.24℃ 、1.18℃ 、2.18℃ 、2.44℃と、外国株式以外は1.5℃を超えております。
<当社グループ 資産別 ITR分析結果>

出所:MSCI Climate Value-at-Risk、Implied Temperature Riseを用いて当社が作成
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(d)分析結果から特定された主要なリスク・機会と対応策
●移行リスクが最も大きいセクター
・化石燃料関連セクター(石油・ガス、石炭): 脱炭素化の目標達成に向けた移行リスクが最も高いセクターであります。リスクが大きいセクターや企業は、投資・保険引受の制限や、排出削減目標を達成するためのエンゲージメントの主要な対象としております。
●物理的リスクの影響が大きいセクター
・農業、製造業、公益事業セクター: 物理的リスクの一環として、水不足による投資リターンへの悪影響を受けやすいセクターであります。リスクが大きいセクターや企業は、排出削減目標を達成するためのエンゲージメントの主要な対象としております。
●機会が最も大きいセクター
・運輸セクター:脱炭素化に向けた世の中の変化によって機会が生まれる可能性が高いセクターであります。これらの企業については、重点的にエンゲージメントを行い、企業の移行の促進や当社グループとの協業機会の創出に向けて取り組んでおります。
d.報告期間の末日における気候レジリエンスの評価
(a)シナリオ分析結果の戦略への影響
本シナリオ分析の結果は、当社グループの投資戦略における気候関連リスクの重要性を再確認するものとなりました。特に、移行リスクが高いと特定されたセクターへのエンゲージメントを強化し、投資制限の方針を継続・徹底するなど、既存の戦略の有効性を裏付ける結果となりました。今後も、本分析で特定されたCVaR値が特に高いセクターや企業については、エンゲージメントの優先順位を引き上げ、対話のテーマをより具体化するなど、既存戦略の実行を加速・高度化を行ってまいります。
(b)評価における重大な不確実性
当社のレジリエンス評価においては、特に「Delayed transitionシナリオにおける急進的な政策変更のタイミングと厳格さ」や、「低炭素技術の進化・普及の速度」が、将来の財務的影響を左右する重大な不確実性の領域であると認識しております。
(c)気候変動に対応する当社グループの能力と結論
当社グループは、健全な財務基盤と、本分析で特定されたリスク・機会を管理するための実効的なガバナンス体制を有しております。また、必要に応じてポートフォリオを機動的に再構築するための資本の柔軟性も有しております。
これらの能力を活かし、本分析で特定された移行リスクや物理的リスクの高いセクター・企業へのエンゲージメントを強化するとともに、機会が期待される領域へのサステナブル投資を加速させます。これにより、投資先・取引先企業の着実な移行を支援し、ポートフォリオ全体のリスク低減と収益機会の創出を図ります。
以上のことから、当社グループの戦略およびビジネス・モデルは、気候関連のリスクと機会に対してレジリエンスを有していると評価しております。