有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2022/02/15 15:00
【資料】
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【項目】
168項目

対処すべき課題

以下の記載における将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものです。
(1) 経営方針
① 経営理念
当社グループは、以下の経営理念を原点に事業活動を推進し、提供するサービスと日々の業務の両面において、「創造」と「変革」に取り組んでおります。
・全役職員が正しい倫理的価値観を持ち、信任と誠実を旨に行動することにより、日々徳性を磨き、広く社会から信頼される企業を目指す。
・金融業における近未来領域の開拓と、革新的な事業モデルの追求に日々努め、お客さま、株主、職員、社会の発展に貢献する新しい価値を創造する。
・最先端のIT(情報技術)を駆使した金融取引システムを安定的に提供することにより、お客さまとの強固な信頼関係を築き、揺るぎない事業基盤を確立する。
② 経営方針
当社は開業以来、「金融業における近未来領域の開拓と革新的な事業モデルの追求」と、「どこよりも使いやすく、魅力ある商品・サービスを24時間・365日提供するインターネットフルバンキング」の実現を使命に邁進してきました。
新たなフェーズでは、「銀行」という形にこだわらず、必要なものだけにそぎ落とした「銀行機能」をあらゆる業種に溶け込ませることで、世の中を便利に変えていくことが当社の存在価値だと考えています。このコンセプトを体現したブランドとして「NEOBANK®」を掲げ、ロゴデザインを刷新、Vision & Statementとして当社のありたい姿を明文化いたしました。
Vision & Statement
銀行をインストールする。
世界をアップデートする。
銀行の必要な機能だけを、世の中に行き渡らせていく。
あらゆるモノと繋がって、今までにない体験を創る。
そうして世界を変え続ける、つねに新しい銀行を私たちは目指しています。
Brand Message
ようこそ、新しい今へ。
時間や場所にしばられない。
指先ひとつでデジタルに、時間やお金を自由に使いこなす。
未来、と言われた生き方を、今、楽しんでいる人が増えている。
さあ、あなたも。
今の生き方を、アップデートしよう。
Our Values
NEO 今までにない新しさを。
FLEXIBLE 銀行にとらわれない柔軟性を。
AGILE あらゆる行動に早さと速さを。
(2) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な経営指標
当社グループは、事業の成長性と効率性を評価する客観的な指標として、経常利益、経費率(OHR:業務粗利益に占める営業経費の比率)、自己資本ROE(親会社株主に帰属する当期純利益/純資産)や自己資本比率といった資本関連指標を重視しております。2021年3月期の連結経常利益は207億円、OHRは56.34%、連結自己資本ROEは11.02%、規制上の自己資本比率は7.99%となり、また、2021年12月期の連結自己資本ROEは12.3%(単体自己資本ROEは12.1%)(注1)、親会社株主に帰属する四半期純利益は2021年3月期第3四半期連結累計期間の98億円から2022年3月期第3四半期連結累計期間は130億円と32.7%の成長率となっており、今後も利益ベースでの着実な成長と業務効率を意識した態勢を構築・維持することにより事業を推進してまいります。資本については、資本の有効活用の観点から、収益性の高い分野への資本配賦や効率的な利益獲得を追求しつつ、財務の健全性の観点から、国内基準行の自己資本比率に係る規制水準である4%に適切な資本バッファーを加えた水準を維持いたします。
(3) 経営環境
我が国の2020年のインターネット利用率(個人)は83.4%、スマートフォン保有世帯が2010年の9.7%から2020年には86.8%へ上昇(総務省:令和2年通信利用動向調査)する等、インターネットの利用拡大や通信機器の普及・発展等を通じたデジタル化が大きく進展してきております。インターネット専業銀行である当社を中心とする当社グループを取巻く事業環境は、スマートフォンをはじめとする身近なデジタルデバイスの普及、我が国の人口減少、社会課題の解決に向けた意識の高まり、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う生活様式の変化等の影響を受け、これまで以上のスピードで変化しております。当社は、社会やお客さまの銀行に対するニーズを的確に把握し、技術革新の成果を迅速に事業へつなげる経営が求められていると考えています。
経営にあたっては、自社の利益伸長に留まらず、自社の事業が各種の社会課題の解決に資するよう市民社会を構成する一員として、これまで以上に真摯に取組んでまいります。
事業セグメントとしては、デジタルバンク事業とBaaS事業を営んでおりますが、デジタルバンク事業はデジタル化や新型コロナウイルス感染症の拡大によるキャッシュレス化の進行等を背景として、追い風の環境と認識しております。
デジタル化の動きは不可逆性を持っており、今後も継続・加速することを想定しておりますが、徹底した顧客志向によるユーザーエクスペリエンス(UX)の改善により、競合他行に先行し続けることを目指しております。
一方、BaaS事業は、提携先とのシステム接続が一つのポイントになりますが、API接続を始めとした当社の先行者メリットを追求しつつ、人材や経費といった資源を集中することにより、新たな提携先の獲得や各提携先との事業拡大をさらに加速して参ります。
なお、新型コロナウイルス感染症の拡大による銀行への影響として、事業の安定稼働や取引の減少、貸出先のデフォルトなどが考えられますが、当社においては、現時点で顕著な影響は確認されておりません。
(4) 中長期的な経営戦略
当社グループの経営理念を事業活動の基本に置き、新時代における革新的なビジネスモデルの創造、更なる利便性の向上、安定した経営管理・組織運営の実現を目指してまいります。
これまで当社は、先進的な技術の開発と商品への活用によって、高い顧客満足度を実現し、成長を続けておりますが、引続き技術の先進性を維持することにより、さらなる成長を実現して参ります。
デジタルバンク事業では、主力商品である住宅ローンについて、銀行代理店チャネルを中心に拡大し、商品では特にフラット35を伸長することで非金利収益の拡大を進めて参ります。
また、キャッシュレス化の進展を背景として、UXの改善などによりデビットカードを含めた決済関連の取扱高や手数料を伸ばして参ります。特に、法人口座開設を促進することにより、手数料収益の他、トランザクションレンディングの残高増加を図って参ります。
BaaS事業では、外部媒体を活用した広告などによる事業の認知度向上を図り、口座獲得の効率化を進め、各提携先の専用支店口座の増加により、アカウント(口座)手数料を増加させる方針です。また、人材や経費等の資源を集中することにより、提携先の拡大と従来以上に迅速な事業の拡大を図って参ります。
また当社は、BaaS事業の取組みがもたらす、提携先の顧客、提携先、当社それぞれがWin・Win・Winとなる仕組み及び決済や提携先等のデータを活かし、従来の銀行とは異なるビジネスモデルを確立していきたいと考えています。さらに今後、株式会社デジタルホールディングス、データスフィア株式会社、及び東芝データ株式会社と協業し、個人情報の利用に同意いただくことを前提に、銀行の顧客IDをはじめとする様々なIDデータを活用した広告配信ビジネス(ID広告エコシステム事業)を検討していくことに合意しております。
(5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループが、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題は以下のとおりです。
① 新時代における革新的なビジネスモデルの創造
経済・社会の環境変化に加え、我が国ではマイナス金利政策が長期化しており、従来の預金貸出金を中心とした利鞘確保による収益モデルでは、今後の利益成長を継続することが難しいということを課題認識しております。また、近時はインターネット専業銀行についても競合が激しくなってきていると認識しております。そうした中、当社グループは、BaaS事業に限らずに、革新的なビジネスモデルを構築していくことで、従来型の金融収益ではない、非金利収益を積み上げることにより、さらなる利益成長を継続してまいります。
また、当社グループは、APIやクラウド等の先進的なIT技術の活用とお客さま中心の文化を組み合わせることで、デジタルバンク事業の拡大や、より付加価値の高い商品提供をしてきました。当社グループは、新たな価値を創造することを目指しており、正社員の約5割がシステムやテクノロジー業務に従事する社員となっております。当社グループは、高品質なユーザーインターフェース・ユーザーエクスペリエンス(UI/UX)、AWS(Amazon Web Services)のクラウド、APIやAI・ビッグデータ等の先進的・効率的な技術を一早く取り入れ、スピーディに新たな価値を創造することに、引き続き取り組んでまいります。
② 安定した収益基盤・顧客基盤の確立
当社グループは、本邦最大の信託銀行「三井住友信託銀行」、ネット証券最大手「SBI証券」と同一の出資グループに属しております。引き続きお客さまのライフステージに沿った商品提供やお客さまの利便性を追求した新サービスの投入により、収益基盤・顧客基盤の構築を進め、より安定した経営基盤の確立を目指してまいります。
当社の特徴の一つが「安定的に堅調な業績成長をあげている」という点です。親会社株主に帰属する当期純利益は、2021年3月期に139億円を計上し、2012年3月期から2021年3月期までの年平均成長率は11.6%となっています。また、当社グループの貸出金残高、預金残高、住宅ローン累計取扱高、預金口座数については、同期間の年平均成長率は、それぞれ19.1%、11.9%、23.0%、14.2%と、各指標とも、すべて10~20%程度のペースでの成長を遂げています。
主力商品である住宅ローンでは、商品性の見直しやお客さまサポート態勢の充実、販売チャネルの拡大、さらにはBaaS事業における株式会社ヤマダホールディングスや株式会社オープンハウスグループのような住宅関連事業を行う提携先との提携の拡大により、一層の残高積上げと収益力の向上に取組みます。また、コンシューマーローンでは、グループ連携などによる取引先開拓、商品力の訴求等による残高積上げ、収益力の強化を図ってまいります。その他、クレジットカードやデビットカード等の決済ビジネスの拡充、FinTech領域における積極的な取組み等により、お客さまの利便性向上を図りつつ、安定した手数料収益の積上げに努めてまいります。
BaaS事業においては、開業以来の取組みで培ったノウハウを活用し、より多くの提携先やそのお客さまに金融サービスにおける新しい価値を創造すべく、「NEOBANK®」サービスの提供に取り組んでまいります。当社が取り組む「NEOBANK®」サービスとは、提携先のお客さまが提携先のサービスをご利用になる際に、それに付随するBankingサービスを当社が基盤となって提供することで、お客さまがスムーズで快適にサービスを利用できる仕組みを、提携先と協同で構築するものです。日本におけるB2C決済市場、住宅ローン市場及び個人向けローン市場の拡大(注2)を踏まえるとBaaS事業の成長余地は大きいと考えております。このBaaS事業の一環として、2020年4月には日本航空株式会社のJALマイレージバンク会員(会員数約3,000万人(2021年3月末時点))向け銀行サービス「JAL NEOBANK」の申込受付を開始したほか、2021年3月にはカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社のT会員(利用会員数約7,000万人(2021年8月末時点))に向けた「T NEOBANK」、2021年7月には住建事業を営む株式会社ヤマダホールディングスのヤマダデジタル会員(アクティブ会員数約6,000万人(2020年10月末))に向けた「ヤマダNEOBANK」、2021年8月には戸建関連事業及びマンション事業を営む株式会社オープンハウスグループのおうちリンクのサービス利用者に向けた「おうちバンク」、2022年1月には株式会社SBI証券の利用者に向けた「SBI証券NEOBANK」も新たに始動いたしました。今後もサービス提供を通じ、お客さまに快適かつ便利な金融体験を提供してまいります。
③経営管理態勢の強化
顧客基盤及び総資産の拡大、業務多様化、ボラタイルな市場環境により、当社グループが抱える経営管理上のリスクも変化しております。今後の事業展開と合わせ、自律的に管理態勢高度化への対応を実施してまいります。
システム面では、お客さまのお役に立つ利便性の高いサービス提供を第一に、将来のビジネスモデル実現に相応しいシステムの構築を継続的に検討するとともに、開発リスクの極小化、障害の未然防止策・発生時の拡大防止策の高度化を進めてまいります。
リスク管理面では、当社グループの保有資産に即した金利リスク管理・流動性リスク管理態勢の強化、信用リスク管理の高度化を進め、バーゼルⅢ等各種規制対応と合わせ、リスク管理強化を図ってまいります。
コンプライアンス面では、銀行代理業者の拡充に適したリスク管理態勢の構築と、金融機関に対する社会的な役割期待の高まりや近年のインターネット上の金融犯罪・サイバー攻撃等が増加傾向にあることを踏まえたセキュリティ対策の強化、顧客保護対策をより一層進めてまいります。
(注)1.2022年3月期第3四半期連結累計期間(単体)の親会社株主に帰属する四半期純利益(四半期純利益)×365/275÷(期初純資産+期末純資産)/2(2022年3月期第3四半期連結(単体)累計期間における期首期末平均)により算出。
2.2020年家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃を除く)は約232兆円(出所:内閣府経済社会総合研究所「2020年度(令和2年度)国民経済計算年次推計2021年7~9月期四半期別GDP速報(2次速報値)」)、2021年3月末時点の住宅ローン新規貸出額は約21兆円(出所:住宅金融支援機構「業態別の住宅ローン新規貸出額及び貸出残高の推移」)、また、2020年度個人向け新規貸出額(消費財・サービス購入資金)は1.2兆円(出所:日本銀行「時系列統計データ」)と見込まれています。