有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2023/02/28 15:04
【資料】
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【項目】
159項目

対処すべき課題

以下の記載における将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものです。
(1) 経営方針
① 経営理念
当社グループは、以下の経営理念を原点に事業活動を推進し、提供するサービスと日々の業務の両面において、「創造」と「変革」に取り組んでおります。
・全役職員が正しい倫理的価値観を持ち、信任と誠実を旨に行動することにより、日々徳性を磨き、広く社会から信頼される企業を目指す。
・金融業における近未来領域の開拓と、革新的な事業モデルの追求に日々努め、お客さま、株主、職員、社会の発展に貢献する新しい価値を創造する。
・最先端のIT(情報技術)を駆使した金融取引システムを安定的に提供することにより、お客さまとの強固な信頼関係を築き、揺るぎない事業基盤を確立する。
②経営方針
・法令等遵守・顧客保護・リスク管理・内部監査の態勢構築及び高度化と、各分野に精通する人材の確保及び育成
・利便性・先進性・収益性の高い商品・サービスの企画及び開発と、効果的なマーケティング活動の実践
・信頼性・安定性の高い事務・システムの構築と、それらを継続的に提供する運営体制の確立
③コーポレートスローガン
あまねく、正しく、新しく。
テクノロジーと公正の精神で、豊かさが循環する社会を創っていく。
なぜ、テクノロジーは
進化し続けるのか。
それは、富の偏在を、拡大させていくためではない。
独占を、創出するためでもない。
意思あるすべての人に機会が恵まれ
多種多様な躍動が溢れ、暮らしの中に豊かさが循環していく。
そのためだけに、テクノロジーは存在するべきだ。
と、私たちは考えます。
銀行の存在意義そのものである、公共の精神を、公正の精神を
私たちの存在意義として受け継いでいく。
独占から、公正な競争へ。
豊かさが、循環する社会へ。
創造と変革のDNA、そしてテクノロジーと公正の精神に基づき、豊かさが一人ひとりに行き渡っていくインフラを
創っていきます。
破壊を恐れない、勇気を持って。
(2) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な経営指標
当社グループは、事業の成長性と効率性を評価する客観的な指標として、経常利益、経費率(OHR:業務粗利益に占める営業経費の比率)、自己資本ROE(親会社株主に帰属する当期純利益/自己資本)や規制上の自己資本比率といった資本関連指標を重視しております。2021年3月期の連結経常利益は207億円、OHR(注)は56.3%、連結自己資本ROEは11.0%、規制上の自己資本比率は7.99%、2022年3月期の連結経常利益は232億円、OHR(注)は59.0%、連結自己資本ROEは12.2%、規制上の自己資本比率は7.59%、親会社株主に帰属する当期純利益は2021年3月期の139億円から2022年3月期は171億円と22.8%の成長率となりました。また、2023年3月期第3四半期連結累計期間の連結経常利益は218億円、OHR(注)は50.8%、連結自己資本ROEは13.0%となりました。2022年3月期第3四半期連結累計期間から2023年3月期第3四半期連結累計期間にかけては、業務粗利益が384億円から458億円となり成長率19.1%、経常利益が169億円から218億円となり成長率28.4%、親会社株主に帰属する四半期純利益が130億円から145億円となり成長率11.6%となっており、今後も利益ベースでの着実な成長と業務効率を意識した態勢を構築・維持することにより事業を推進してまいります。資本については、資本の有効活用の観点から、収益性の高い分野への資本配賦や効率的な利益獲得を追求しつつ、財務の健全性の観点から、国内基準行の自己資本比率に係る規制水準である4%に適切な資本バッファーを加えた水準を維持いたします。
(注)2023年3月期第1四半期連結会計期間の期首より、従来「営業経費」として計上していた住宅ローン関連費用等を「役務取引等費用」として組替えており同第3四半期連結累計期間のOHRは組替後の業務粗利益及び営業経費をもとに算定しております。なお、2021年3月期並びに2022年3月期のOHRについては組替前の業務粗利益及び営業経費をもとに算定しております。詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表」の四半期連結財務諸表に係る注記事項(追加情報)をご参照下さい。
(3) 経営環境
我が国の2021年のインターネット利用率(個人)が82.9%、スマートフォンによるインターネット利用率が68.5%となり(総務省:令和3年版情報通信白書)、インターネットの利用拡大や通信機器の普及・発展等を通じたデジタル化が大きく進展してきております。インターネット専業銀行である当社を中心とする当社グループを取巻く事業環境は、スマートフォンをはじめとする身近なデジタルデバイスの普及、我が国の人口減少、社会課題の解決に向けた意識の高まり、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う生活様式の変化等の影響を受け、これまで以上のスピードで変化しております。当社は、社会やお客さまの銀行に対するニーズを的確に把握し、技術革新の成果を迅速に事業へつなげる経営が求められていると考えています。
経営にあたっては、自社の利益伸長に留まらず、自社の事業が各種の社会課題の解決に資するよう市民社会を構成する一員として、これまで以上に真摯に取組んでまいります。
事業セグメントとしては、デジタルバンク事業とBaaS事業を営んでおりますが、デジタルバンク事業はデジタル化や新型コロナウイルス感染症の拡大によるキャッシュレス化の進行等を背景として、追い風の環境と認識しております。
デジタル化の動きは不可逆性を持っており、今後も継続・加速することを想定しておりますが、徹底した顧客志向によるユーザーエクスペリエンス(UX)の改善により、競合他行に先行し続けることを目指しております。
一方、BaaS事業は、提携先とのシステム接続が一つのポイントになりますが、API接続を始めとした当社の先行者メリットを追求しつつ、人材や経費といった資源を集中することにより、新たな提携先の獲得や各提携先との事業拡大をさらに加速して参ります。
なお、新型コロナウイルス感染症の拡大による銀行への影響として、事業の安定稼働や取引の減少、貸出先のデフォルトなどが考えられますが、当社においては、現時点で顕著な影響は確認されておりません。
(4) 中長期的な経営戦略
当社グループの経営理念を事業活動の基本に置き、新時代における革新的なビジネスモデルの創造、更なる利便性の向上、安定した経営管理・組織運営の実現を目指してまいります。
これまで当社は、先進的な技術の開発と商品への活用によって、高い顧客満足度を実現し、成長を続けておりますが、引き続き技術の先進性を維持することにより、さらなる成長を実現して参ります。
デジタルバンク事業では、主力商品である住宅ローンについて、銀行代理店チャネルを中心に拡大し、商品では特にフラット35を伸長することで非金利収益の拡大を進めて参ります。預かり資産については、資産形成層の安定的な預かり資産の拡大、顧客基盤のライフステージ変化に合わせた外貨預金やロボアドサービス(注1)等の提供により、非金利収益の拡大を目指します。
また、キャッシュレス化の進展を背景として、UXの改善などによりデビットカードを含めた決済関連の取扱高や手数料を伸ばして参ります。特に、法人口座開設を促進することにより、手数料収益の他、トランザクション・レンディングの残高増加を図って参ります。
BaaS事業では、外部媒体を活用した広告などによる事業の認知度向上及び提携先の開拓・連携を図りつつ、やみくもに口座拡大を図るのではなく口座あたりの収益も意識した稼働口座の獲得を促進し、各提携先の専用支店口座の増加により、アカウント(口座)手数料を増加させる方針です。また、人材や経費等の資源を集中することにより、提携先の拡大と従来以上に迅速な事業の拡大を図って参ります。
また当社は、BaaS事業の取組みがもたらす、提携先の顧客、提携先、当社それぞれがWin・Win・Winとなる仕組み及び決済や提携先等のデータを活かし、従来の銀行とは異なるビジネスモデルを確立していきたいと考えています。2022年8月1日に、個人情報の利用に同意いただくことを前提に、銀行の顧客IDやBaaS事業の提携先をはじめとする様々なIDデータを活用した広告配信ビジネス(IDプラットフォーム事業)を担う子会社として株式会社テミクス・データを設立し、データプラットフォームを活用した広告事業を2023年1月5日から開始するとともに、新たな事業として、第1次産業のサプライチェーン最適化等を手掛ける「SDGs事業」を検討しております。
当社は、デジタルバンク事業において引き続き口座数の堅調な増加を図るとともに、BaaS事業においては提携パートナー数を拡大とそれに伴う口座数の増加に向けて邁進し、また、当社グループ全体での住宅ローン実行額の拡大を目指してまいります。業務粗利益及び経常利益においては、デジタルバンク事業における更なる利益の拡大に加え、BaaS事業においてはアカウント手数料、トランザクション手数料及び預金収益(注2)並びにBaaS子会社のバランスにも配慮しつつ、利益の増加を目標に積極的に取り組んでまいります。
上記の取組みを含めた中期的な経営戦略による計数目標として、2025年3月期を到達目標年とする「中期事業目標」を公表しました(2022年11月11日公表、2023年1月27日一部見直し)。中期事業目標においては、中期事業目標期間の最終年度である2025年3月期までに経常利益400億円以上、ROE17.0%以上の達成を目標として設定しております。なお、これらの計数目標の策定においては、社会経済環境、金利動向、為替動向、競争環境、規制環境、技術革新、インターネット環境、デジタル化推進の継続、国内新築住宅供給水準の継続、その他経営環境等について一定の前提を置いており、当社内において合理的な根拠に基づく適切な検討を経ていますが、これらの前提が現実と異なる場合には異なる結果となるため将来に関する事項の達成を保証するものではございません。
(注)1.ウェルスナビ株式会社が「WealthNavi for 住信SBIネット銀行」の名称でスマートフォンやパソコン等を通じてお客様の資産運用に関する提案をし、自動で運用を行うサービスです。利用開始時に「年齢」「保有する金融資産額」「資産運用の目的」等の5つの質問でリスク許容度を診断し、そのリスク許容度に応じた運用プランが提案され、その後はその運用プランに従って自動で運用 を行う資産運用サービスです。当社は、ウェルスナビ株式会社の取引口座(ETFの自動運用口座)開設申込みの紹介、勧誘及び取次ぎ、お客さまとウェルスナビ株式会社との間で締結する投資一任契約の媒介を行い、資産の管理・運用はウェルスナビ株式会社が行います。
2.BaaS事業で獲得した預金は、当社全体として行うBSコントロールによって利益を生んでいるため、社内移転価格により預金量に応じた利益の配分をするものです。
(5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループが、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題は以下のとおりです。
① 新時代における革新的なビジネスモデルの創造
2022年12月の日本銀行の金融政策決定会合で、イールドカーブコントロール(長短金利操作)の10年物日本国債金利の変動幅が「±0.25%」から「±0.50%」に変更されたものの、我が国ではマイナス金利政策が長期化しており、従来の預金貸出金を中心とした利鞘確保による収益モデルでは、今後の利益成長を継続することが難しいということを課題認識しております。また、近時はインターネット専業銀行についても競争が激しくなってきていると認識しております。そうした中、当社グループは、BaaS事業に限らずに、革新的なビジネスモデルを構築していくことで、従来型の金融収益ではない、非金利収益を積み上げることにより、さらなる利益成長を継続してまいります。
また、当社グループは、APIやクラウド等の先進的なIT技術の活用とお客さま中心の文化を組み合わせることで、デジタルバンク事業の拡大や、より付加価値の高い商品提供を行ってまいりました。当社グループは、新たな価値を創造することを目指し、テクノロジー活用のもと、経費率を低く抑え、高い従業員あたり実質業務純益を実現する等、効率的な事業運営を実現しています。当社グループは、高品質なユーザーインターフェース・ユーザーエクスペリエンス(UI/UX)、AWS(Amazon Web Services)のクラウド、APIやAI・ビッグデータ等の先進的・効率的な技術を一早く取り入れ、スピーディに新たな価値を創造することに、引き続き取り組んでまいります。
② 安定した収益基盤・顧客基盤の確立
当社グループは、本邦最大の信託銀行「三井住友信託銀行」、ネット証券最大手「SBI証券」と同一の出資グループに属しております。引き続きお客さまのライフステージに沿った商品提供やお客さまの利便性を追求した新サービスの投入により、収益基盤・顧客基盤の構築を進め、より安定した経営基盤の確立を目指してまいります。
当社の特徴の一つが「安定的に堅調な業績成長をあげている」という点です。親会社株主に帰属する当期純利益は、2022年3月期に171億円を計上し、2018年3月期から2022年3月期までの年平均成長率は13.1%となっています。この結果、当社グループの2018年3月期から2022年3月期までの年平均成長率は、業務粗利益が9.3%、経常利益が10.7%、親会社株主に帰属する当期純利益が13.1%となり、預金口座数の同期間の増加率が13.6%となりました。
主力商品である住宅ローンでは、商品性の見直しや顧客サポート態勢の充実、販売チャネルの拡大、さらにはBaaS事業における株式会社ヤマダホールディングスや株式会社オープンハウスグループのような住宅関連事業を行う提携先との提携の拡大により、一層の残高積上げと収益力の向上に取組んでいるほか、AI審査モデル等の自社テクノロジーや優良な顧客基盤の効果により、当社の住宅ローンの2022年3月末の期待損失率(注1)は0.02%に留まっております。また、コンシューマーローンでは、グループ連携などによる取引先開拓、商品力の訴求等による残高積上げ、収益力の強化を図ってまいります。その他、クレジットカードやデビットカード等の決済ビジネスの拡充、FinTech領域における積極的な取組み等により、顧客の利便性向上を図りつつ、安定した手数料収益の積上げに努めてまいります。
BaaS事業においては、開業以来の取組みで培ったノウハウを活用し、より多くの提携先やその顧客に金融サービスにおける新しい価値を創造すべく、「NEOBANK®」サービスの提供に取り組んでまいります。当社が取り組む「NEOBANK®」サービスとは、提携先の顧客が提携先のサービスをご利用になる際に、それに付随する銀行サービスを当社が基盤となって提供することで、顧客がスムーズで快適にサービスを利用できる仕組みを、提携先と協同で構築するものです。日本におけるB2C決済市場、住宅ローン市場及び個人向けローン市場の拡大(注2)を踏まえるとBaaS事業の成長余地は大きいと考えております。このBaaS事業の一環として、2020年4月に日本航空株式会社のJALマイレージバンク会員(会員数約3,000万人(2020年3月末時点))向け銀行サービス「JAL NEOBANK」の申込受付を開始したほか、2021年3月にはカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社のT会員(利用会員数約7,000万人(2022年5月末時点))に向けた「T NEOBANK」、2021年7月には住建事業を営む株式会社ヤマダホールディングスのヤマダデジタル会員(アクティブ会員数約6,000万人(2022年3月末時点)。住建売上高約2,700億円(住建売上高は2022年3月期の住建事業の売上高(同社2022年3月期決算説明資料より)))に向けた「ヤマダNEOBANK」、2021年8月には戸建関連事業及びマンション事業を営む株式会社オープンハウスグループ(売上高約5,789億円、(2022年9月期における戸建関連事業及びマンション事業の売上高の合計(同社2022年9月期決算説明資料より)))のおうちリンクのサービス利用者に向けた「おうちバンク」、2022年1月には株式会社SBI証券の利用者(証券総合口座数約954万口座(2022年12月末時点の証券総合口座数(同社2023年3月期第3四半期決算説明資料より)))に向けた「SBI証券NEOBANK」、同年6月には株式会社髙島屋の顧客及び友の会会員(クレジットカード・ポイントカード・友の会カード会員数の合計約570万人(2019年2月末時点))に向けた「高島屋NEOBANK」、同年10月にはSBIレミット株式会社の顧客(会員数約65万人(2020年7月29日時点)))に向けた「SBIレミット支店」、2023年1月には第一生命保険株式会社の顧客(保険金等支払金約3兆円(2022年3月期における第一生命単体実績(同社2021年度決算のお知らせより)))に向けた「第一生命NEOBANK」も新たに始動いたしました。
これらの取組みによりBaaS事業はその開始後2年で黒字化を達成しております。今後もサービス提供を通じ、顧客に快適かつ便利な金融体験を提供してまいります。
(注)1.期待損失率は、「銀行法第14条の2の規定に基づき、銀行が保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準」(平成18年3月27日金融庁告示第19号)に基づき算出された居住用不動産向けエクスポージャーのPD (Probability of Default) × LGD (Loss Given Default) により算出しております。
2.2021年家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃を除く)は約253兆円(出所:内閣府経済社会総合研究所「2022年7~9月期四半期別GDP速報(2次速報値)」)、2021年度住宅ローン新規貸出額は約21.8兆円(出所:住宅金融支援機構「業態別の住宅ローン新規貸出額及び貸出残高の推移」)、また、2021年度個人向け新規貸出額(消費財・サービス購入資金)は1.2兆円(出所:日本銀行「時系列統計データ」)と見込まれています。
③経営管理態勢の強化
顧客基盤及び総資産の拡大、業務多様化、ボラタイルな市場環境により、当社グループが抱える経営管理上のリスクも変化しております。今後の事業展開と合わせ、自律的に管理態勢高度化への対応を実施してまいります。
システム面では、お客さまのお役に立つ利便性の高いサービス提供を第一に、将来のビジネスモデル実現に相応しいシステムの構築を継続的に検討するとともに、開発リスクの極小化、障害の未然防止策・発生時の拡大防止策の高度化を進めてまいります。
リスク管理面では、当社グループの保有資産に即した金利リスク管理・流動性リスク管理態勢の強化、信用リスク管理の高度化を進め、バーゼルⅢ等各種規制対応と合わせ、リスク管理強化を図ってまいります。
また、銀行代理業者の拡充に適したリスク管理態勢の構築と、金融機関に対する社会的な役割期待の高まりや近年のインターネット上の金融犯罪・サイバー攻撃等が増加傾向にあることを踏まえたセキュリティ対策の強化、顧客保護対策をより一層進めてまいります。