訂正有価証券報告書-第16期(令和2年4月1日-令和3年3月31日)

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2021/06/25 15:59
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対処すべき課題

文中の将来に関する事項は、別段の記載がない限り、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 当社グループの経営理念及び経営方針
① グループ経営理念
郵政ネットワークの安心、信頼を礎として、民間企業としての創造性、効率性を最大限発揮しつつ、お客さま本位のサービスを提供し、地域のお客さまの生活を支援し、お客さまと社員の幸せを目指します。また、経営の透明性を自ら求め、規律を守り、社会と地域の発展に貢献します。
② グループ経営方針
・ お客さまの生活を最優先し、創造性を発揮しお客さまの人生のあらゆるステージで必要とされる商品・サービスを全国ネットワークで提供します。
・ 企業としてのガバナンス、監査・内部統制を確立しコンプライアンスを徹底します。
・ 適切な情報開示、グループ内取引の適正な推進などグループとしての経営の透明性を実現します。
・ グループの持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指します。
・ 働く人、事業を支えるパートナー、社会と地域の人々、みんながお互い協力し、社員一人ひとりが成長できる機会を創出します。
(2) 経営環境
当連結会計年度の国内経済は、新型コロナウイルス感染症の拡大により一時急速に落ち込み、企業収益の減少や雇用情勢の悪化など厳しい状況となりましたが、各種政策の効果や経済活動の段階的再開により、持ち直しの動きが見られました。
世界経済においても、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により一時急速に悪化し、その後持ち直しの動きは見られましたが、ユーロ圏で11月以降感染再拡大の影響により経済活動が抑制されたこともあり、持ち直しは緩やかでした。
金融資本市場では、国内の10年国債利回りは、長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策のもと、ゼロ%付近で概ね安定的に推移しました。日経平均株価は、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により20,000円台を割っていましたが、6月には先進国を中心に経済の回復傾向が見られたことや、国内の緊急事態宣言解除の影響を受け、23,000円台まで回復しました。その後、11月には、新型コロナウイルス感染症が再拡大するなかでも、ワクチン開発進展のニュースなどの影響により26,000円台に突入すると、その後も順調に伸び、約30年半ぶりの30,000円台となりました。
物流業界においては、eコマース市場の拡大に伴う、宅配便市場の拡大により労働力不足への対応が必要となっているほか、サービス品質に対するお客さまニーズの高まりに対応し、AIやロボット等の先端技術を活用しながら、各社がサービスの向上に努めるなど厳しい競争下にあります。郵便事業においては、インターネットの普及や新型コロナウイルス感染症の拡大による経済活動への影響等により、郵便物の減少が継続しております。また、労働市場の逼迫等を背景に、人件費単価の上昇等も続いております。
銀行業界においては、当年度は、全国銀行における預金が対前期比増加となり、貸出金も約10年連続で増加しました。金融システムは、新型コロナウイルス感染症の拡大が引き続き国内外の経済・金融面に大きな影響を及ぼしているものの、全体として安定性を維持しています。
生命保険業界においては、低金利環境の継続、超高齢社会の進展、ライフスタイルの変化等を背景としたお客さまニーズの多様化や選別志向の高まりなどが見られます。
当社グループは、「郵便・物流」「貯金」「保険」の生活に必要な基礎的サービスや物販、提携金融サービス等を全国約24,000カ所の郵便局ネットワークを通じて提供するほか、不動産事業など多数のサービスを展開しています。郵便・物流事業においては1日に約3,100万カ所への郵便配達箇所数、銀行業においては約1億2,000万口座の通常貯金口座数、生命保険業においては2,283万人のお客さま数(契約者さま及び被保険者さまを合わせた人数(個人保険及び個人年金保険を含み、かんぽ生命保険が郵政管理・支援機構から受再している簡易生命保険契約を含みます。))など、毎日の生活の中で多くのお客さまにご利用頂いており、お客さまとの接点の多さは当社グループの強みとなっております。
新型コロナウイルス感染症の収束が見えないなか、当社グループは、お客さまと社員の安全を確保するための感染防止策を講ずるとともに、国民の皆さまへの支援として、死亡保険金の倍額支払など行ってまいります。
当社グループは、2021年4月20日、我が国における新式郵便の創業すなわち郵政事業の創業から150年を迎えました。1871年の創業以来、お客さまの生活に寄り添い、事業の幅を拡げながら、地域のお客さまと一緒に成長してまいりました。今一度、原点に立ち返り、「すべてを、お客さまのために。」のキャッチフレーズの下、グループ一丸となって取り組んでまいります。
(3) 当社グループの経営戦略等
① 中期経営計画等について
当連結会計年度、当社グループはかんぽ生命保険商品の募集品質に係る問題により毀損したお客さまからの信頼の回復に向けて取り組むとともに、グループの新たな成長に向けた企業価値向上を目指し、2021年度から2025年度を計画期間とした、新しい中期経営計画「JPビジョン2025」を発表いたしました。当社グループは、少子高齢化の進展による超高齢社会への対応ニーズの高まり、高齢単身世帯の増加等による社会的不安の増加、社会基盤の持続可能性への懸念や、デジタル化の進展によるスマートフォン完結型の各種サービス利用のニーズの高まり、キャッシュレス化の浸透、デジタル・ディバイド問題の顕在化等、グループを取り巻く社会環境の変化を踏まえ、日本郵便においては、ラストワンマイルにおける二輪車の機動力活用や保有データを最大限活用したサービス・オペレーション改革、ゆうちょ銀行においては、DXの推進による、安心・安全なサービス充実と業務改革や地域への資金循環と地域リレーション機能の強化、かんぽ生命保険においては、新たな営業スタイルへの変革やあらゆる世代のお客さまの保障ニーズに応える保険サービスの提供、当社においては、グループ内連携の強化やグループ外の企業等との積極的連携、新たな価値を提供する成長戦略など、成長に向けた課題に取り組みます。当社グループは、お客さまと地域を支える「共創プラットフォーム」を目指し、DXの推進により、リアルの郵便局ネットワークとデジタル(「デジタル郵便局」)の融合に取り組むとともに、ユニバーサルサービスを含むコアビジネス(郵便・物流事業、銀行業、生命保険業)の充実強化に加え、不動産事業の拡大や、新規ビジネス等の推進によりビジネスポートフォリオを転換させ、グループの新たな成長の実現に取り組みます。なお、それらの取組みに当たっては、RAFにより、リスク・リターンを意識した経営管理を行い、グループとしての企業価値向上を目指します。
[日本郵政グループが目指す姿]

当社としましては、当社の収益性を明確にお示しする指標として、連結当期純利益、親会社株主に帰属する当期純利益及びROEを目標に設定しております。また、株主に対する利益の還元を経営上重要な施策の一つとして位置付けております。
あわせて、成長に向けた投資、効率化施策・生産性向上に向けて取り組みます。


② 経営者の問題意識と今後の方針
業務改善計画に基づいた改善策の実行に取り組んでいるかんぽ生命保険商品の募集品質に係る問題に加え、2020年度には、かんぽ生命保険商品と投資信託の横断的な販売について、一部お客さま本位といえない営業が行われていたことや、ゆうちょ銀行のキャッシュレス決済サービスの不正利用等の新たな問題が発覚しました。これらの問題に対しては、外部専門家の方々で構成された、JP改革実行委員会からの評価、助言等も踏まえて対処し、ガバナンス機能、グループコンプライアンス機能、監査部門の機能の強化等を図り、業務改善計画の着実な実行を行ってまいります。さらに、お客さまからの信頼回復に向け、2020年9月に発表した「お客さまの信頼回復に向けた約束」をもとに、お客さまや社員の声を経営や営業・業務改善に活用する等、お客さま本位の事業運営を徹底してまいります。
その他、グループ横串機能での調整・助言の役割を担うグループCxO制を導入するとともに、日本郵政・日本郵便の一体的運営を図り、グループガバナンスを強化します。そして、人的依存度の高いサービスを提供する当社グループにとって、人材は最も重要な経営資源との認識に立ち、お客さまへの総合的なコンサルティングサービス向上に向けた研修等の人材育成、ワーク・ライフ・バランスの確保を目指す働き方改革や、社員の多様な能力・個性を活かすダイバーシティ・マネジメントの推進に取り組んでまいります。
加えて、交付金・拠出金制度も活用し、郵便、貯金及び保険のユニバーサルサービスの確保の責務を果たし、地域社会に貢献するとともに、郵便局ネットワークの一層の活用・維持による安定的なサービスの提供等を図るため、グループ各社の経営の基本方針を策定し、その実施に努めてまいります。
金融2社株式の売却については、当社としましては、郵政民営化法に従い、最終的には当社が保有するすべての金融2社株式を売却する方針ですが、その前提として、金融2社株式の売却に伴う当社と金融2社との資本関係の変化が、金融2社の経営状況並びに当社及び日本郵便に課されているユニバーサルサービス確保の責務の履行に与える影響を見極める必要があります。そこで、当社としましては、金融2社の経営状況及びユニバーサルサービス確保の責務の履行への影響が軽微と考えられる、当社の保有割合が50%以下となるまで、「JPビジョン2025」期間中のできる限り早期の売却を目指します。
なお、2021年5月14日に公表したとおり、当社は、かんぽ生命保険が行う自己株式取得に応じた売付け及び株式処分信託設定により、保有するかんぽ生命保険株式のうち163,306,300株を処分することといたしました。
本株式処分により、当社のかんぽ生命保険に対する議決権保有割合は49.9%となっております(処分前64.48%)。また、当社は、2021年6月9日付でかんぽ生命保険株式の2分の1以上を処分した旨を総務大臣に届け出ました。これにより、郵政民営化法によりかんぽ生命保険に課せられている新規業務に係る規制が認可制から届出制へと緩和されることになりました。
ゆうちょ銀行株式についても「JPビジョン2025」の期間中において、保有割合が50%以下となるまで、できる限り早期に売却することを目指します。
金融2社株式の売却に伴う手取金については、その売却手取金を適切な投資機会に対して投下し、企業価値の向上を図るとともに、必要に応じ、自己株式の取得を行うことにより資本効率の維持・向上を図ります。
金融2社株式の売却を見据えた事業ポートフォリオ移行手段として、当社グループ・グループ各社の企業価値向上に資する幅広い分野での資本提携やM&Aも、投資判断基準等に照らして慎重に検討し、適切と判断したものを実施してまいります。
今後も、当社グループの企業価値向上を目指し、中期経営計画を踏まえたグループ各社の収益力強化策やさらなる経営効率化を図るとともに、不動産事業など、新たな収益源の確保等が着実に進展するよう、グループ運営を行ってまいります。
あわせて、当社グループが抱える経営課題については、持株会社として、グループ各社と連携を深めながら必要な支援を行い、その解消に努めてまいります。まずは、業務の適正を確保するため、コーポレートガバナンスのさらなる強化に向け、引き続き、グループ全体の内部統制の強化を推進し、コンプライアンス水準の向上を重点課題として、グループ各社に必要となる支援・指導を行います。特に、かんぽ生命保険商品の募集品質に係る問題を踏まえ、業務改善計画に掲げた施策に取り組むほか、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策等についても、最重要課題の一つとして取組みを一層推進・管理していきます。
また、激化するサイバーテロリスクに備え、グループ全体のサイバーセキュリティ対策の高度化及び情報共有によるガバナンスの強化に取り組みます。
さらに、引き続き、グループ各社が提供するサービスの公益性・公共性の確保や、お客さま満足度の向上に取り組むとともに、国連で採択された国際目標である「持続可能な開発目標(SDGs)」を踏まえ、ESG(環境、社会、ガバナンス)に関する取組みをグループ全体として推進し、企業価値の向上につなげてまいります。具体的には、政府が掲げる「2050年カーボンニュートラルの実現」に向けた動きを踏まえ、CO2の排出量削減に向けたグループ全体のEV車両の導入拡大等、事業サービスを通じた環境負荷軽減等に取り組みます。
自然災害の発生、感染症の大流行等の危機へ備え、危機管理態勢を整備するとともに、危機発生時には迅速かつ的確な対応を行い、業務継続の確保に努めます。特に、新型コロナウイルス感染症の流行下において、当社グループは、公益性が強いグループとしての社会的使命を果たすため、感染防止・感染拡大防止対策を行い、社員の安全確保と事業運営の継続に取り組んでまいります。
なお、当社は、2021年6月10日付の取締役会決議に基づき、2021年6月11日付で自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)により、当社普通株式276,090,500株を取得しております。これにより、当社の発行済株式総数に対する日本国政府の保有割合は50.7%(議決権保有割合は60.6%)となりました。なお、2021年6月18日開催の取締役会決議に基づき、2021年6月30日付で保有自己株式のうち732,129,771株を消却する予定であり、その結果発行済株式総数は3,767,870,229株となる予定です。これにより、発行済株式総数に対する政府が保有する株式の保有割合は60.6%(議決権保有割合は60.6%)となる予定です。
(4) 対処すべき課題
① 当社グループの「お客さまの信頼回復に向けた約束」について
2019年度に発覚したかんぽ生命保険商品の募集品質に係る問題など金融商品販売に係る不祥事等により、当社グループはお客さまからの信頼を大きく失うこととなりました。お客さまから失った信頼を取り戻し、再びお客さまに安心して当社グループの商品・サービスをご利用していただけるようになるためには、同様の事案を発生させないための再発防止策を徹底することはもとより、当社グループが真にお客さま本位の企業グループに生まれ変わることが必要と考えております。
その決意を幅広く公表するために、外部専門家で構成されるJP改革実行委員会の助言も受けながら、「お客さまの信頼回復に向けた約束」を2020年9月に策定いたしました。
当社グループで働く一人ひとりの社員がこの約束を実践していくことで、お客さまからの信頼が回復できるよう、グループ一丸となって取り組んでおります。
お客さまの信頼回復に向けた約束
「目指す姿の約束」
一人ひとりのお客さまに寄り添い、お客さまの満足と安心に最優先で取り組み、信頼していただける会社になることを約束します。
「活動の約束」
〇 お客さま本位の事業運営を徹底し、お客さまにご満足いただける丁寧な対応を行います。
〇 お客さまの声をサービス向上に反映するため、お客さまの声に誠実に耳を傾けます。
〇 社員の専門性を高め、お客さまにご納得いただけるよう正確にわかりやすく説明します。
〇 法令・ルールを遵守し、お客さまが安心してご利用いただける高品質のサービスを提供します。
〇 お客さまのニーズを踏まえ、お客さまに喜んでいただける商品・サービスを提供します。
② かんぽ生命保険商品の募集品質に係る問題について
前連結会計年度においてかんぽ生命保険及び日本郵便では、お客さまのご意向に沿わず不利益が生じた契約乗換等に係る事案及び法令違反又は社内ルール違反が認められた事案(募集品質問題)が判明いたしました。
これにより、2019年12月27日、当社は、総務大臣より日本郵政株式会社法第13条第2項に基づく業務改善命令、金融庁より保険業法第271条の29第1項に基づく業務改善命令を、日本郵便は、総務大臣より日本郵便株式会社法第15条第2項に基づく業務停止命令及び業務改善命令、金融庁より保険業法第307条第1項及び第306条に基づく業務停止命令及び業務改善命令を、かんぽ生命保険は、金融庁より保険業法第132条第1項に基づく業務停止命令及び業務改善命令を受けました。2019年7月以降、郵便局及びかんぽ生命保険の支店からの積極的なかんぽ生命保険商品のご提案を控えてまいりましたが、当該業務停止命令により、2020年1月1日から同年3月31日までの間、お客さまの自発的な意思表示を受けて行う保険募集及び保険契約の締結を除き、かんぽ生命保険商品に係る保険募集及び保険契約の締結を停止いたしました。また、当該業務改善命令を受けて、2020年1月31日付で、当社及び日本郵便は業務改善計画を総務大臣及び金融庁に、かんぽ生命保険は業務改善計画を金融庁に提出いたしましたが、その後も当該業務改善計画の進捗状況等について報告し協議を行っております。
業務改善計画に掲げたお客さまのご意向に沿わず不利益が発生した可能性が特定可能な類型のご契約の調査について、具体的にお客さまのご意向に沿わず不利益を生じさせたものがないかをご確認する特定事案調査及びお客さまのご意向に沿わず不利益を生じさせたものがないかを全てのご契約について確認する全ご契約調査は、お客さま都合によるもの等を除き、お客さま対応を完了しました。また、全ご契約調査の更なる深掘調査(多数回にわたって契約の消滅・新規契約が繰り返され、お客さまのご意向に沿ったものではない可能性がある事例を確認する多数契約調査等)に係るお客さま対応も、お客さま都合によるもの等を除き、完了しました。
また、募集人調査について、特定事案調査における募集人調査は、2020年4月末までに、病休等で調査ができない事案を除き概ね完了しております。さらに、多数契約調査のうち一昨年より実施している事案における募集人調査は、病休等で調査ができない事案を除き2020年10月末までに完了しております。加えて、深掘調査等の優先的に調査を行っている募集人調査は、2021年3月末までに、退職者等を除いて概ね完了しております。なお、特定事案調査及び多数契約調査のうち一昨年より実施している事案の募集人資格に係る処分、募集人及び管理者等に対する人事上の処分、日本郵便及びかんぽ生命保険の本社・支社・エリア本部等の責任者の人事処分については、2021年3月末までに、病休等で調査ができない事案を除き概ね完了しております。2021年3月からは、お客さまの申出内容などから問題があると考えられる募集人に対して募集人調査を実施しているほか、その他の募集人については、書面による募集実態調査を実施しております。
かんぽ生命保険商品の販売については、2019年7月以降、2020年1月から3月までの業務停止命令期間を含め、郵便局及びかんぽ生命保険支店におけるかんぽ生命保険商品の積極的な営業活動を控えておりましたが、JP改革実行委員会より、当社、日本郵便及びかんぽ生命保険にて設定した営業再開条件について概ね充足したとの評価を受けるとともに、信頼回復に向けた業務運営の趣旨が、社員へ共有・徹底されていること等が確認できたことから、2020年10月5日より、お客さまへのお詫びを第一とした信頼回復に向けた業務運営を行っておりました。
これらの信頼回復に向けた業務運営の活動やかんぽ生命保険商品と投資信託の横断的な販売への対応が進捗し、お客さまからこれらの活動に対する理解を得られてきたこと等を踏まえ、2021年4月より、郵便局及びかんぽ生命保険支店において、お客さまのニーズに応じた保険商品やサービスの情報提供やご提案を全てのお客さまに対し実施することとし、営業活動を通じたお客さまとの信頼関係の構築を進めていく新たな営業スタンスへ移行しました。
今後とも、業務改善計画に掲げる各種施策については、定期的に外部のモニタリングを受けながら着実に進捗管理を実施し、当社グループの全役職員が一丸となって推進してまいります。
③ かんぽ生命保険商品と投資信託の横断的な販売への対応について
日本郵便において、かんぽ生命保険商品と投資信託を同一のお客さまに販売した際に、お客さま本位でない営業が行われた可能性のある苦情が複数発生している状況を把握しました。
これは、かんぽ生命保険商品の募集品質に係る問題を契機に、お客さま本位の業務運営ができているかリスク感度を上げて確認するため、2020年4月よりグループ会社各社が連携して複数の商品にまたがるお客さまの苦情を分析したことにより発覚したものです。当社グループでは本事案の発覚を受けて、お客さま本位の営業の観点から下記のとおり法令等違反調査等を行っております。
(a) 苦情をお申し出のお客さまへの対応
2019年4月から2020年6月までの間に苦情をお申し出の79人のお客さまへの詳細確認及び関連社員へのヒアリングを行い、14人のお客さまのお取引について法令等違反に該当すると判断いたしました。14人のお客さまを含め、契約無効措置等のご要望を頂いたお客さまには、順次必要な対応を実施してまいりました。
(b) 2020年7月から2021年1月までに苦情をお申し出のお客さまへの対応
2020年7月から2021年1月までの間に、横断的取引に関連して36人のお客さまからお申し出があり、詳細確認及び関連社員へのヒアリングの結果1人のお客さまの取引について、法令等違反に該当すると判断いたしました。1人のお客さまを含め、契約無効措置等のご要望を頂いたお客さまには、順次必要な対応を実施してまいりました。
(c) 特にお客さま本位でない懸念のある取引への対応
お客さまからお申し出のあった苦情のうち、かんぽ生命保険商品を解約し、その返戻金をもとに分配型投資信託を購入し、その分配金を新たに加入したかんぽ生命保険商品の保険料の支払いに充てていた事例については、お客さま本位とは言えない取引の可能性があるため、苦情の有無にかかわらず、過去5年に遡って、外形上同様の取引が行われたお客さま全員について、ご意向確認及び関連社員へのヒアリングを実施し、3人のお客さまの取引について、法令等違反に該当すると判断しました。3人のお客さまを含め、契約無効措置等のご要望を頂いたお客さまには順次必要な対応を実施してまいりました。
(d) (a)、(b)、(c)で法令等違反に該当した取引に係る社員への対応
(a)、(b)、(c)で法令等違反に該当した取引に係る社員13人については、法令等に従い厳正に対応してまいります。
(e) その他のお客さまへの対応
上記以外に、一定期間に両方の取引をいただいた約2.1万人のお客さまについてもご意向確認を実施し、ご要望のあるお客さまには必要な対応を進めてまいります。
(f) 改善に向けた取組み
お客さま本位でない営業を防止するため、社内ルールの整備(「投資信託の分配金が一定期間定額であり、かんぽ生命保険商品の保険料を賄える等の勧誘話法の禁止」、「不適切な商品間の乗換え防止の観点で、投資信託購入時の原資及び分配金の使用使途について確認」)、金融商品間の横断的な取引についてデータモニタリングによる取引内容の精査等の取組みを実施しました。
④ ESG経営
近年、関心が高まっているESGやSDGsについては、当社グループにおいても経営における重要課題として認識しており、トップレベルで関与していることが求められる事項と認識しています。
当社グループは、当社グループの強みである郵便局ネットワークを活用し、事業を通じて、地域社会への貢献、SDGs等の社会的な課題に取り組むことにより、当社グループの持続可能な成長と中長期的な企業価値の創出を図ってまいります。また、新たな中期経営計画において、「人生100年時代の『一生』を支え、日本全国の『地域社会』の発展・活性化に貢献し、持続可能な社会の構築を目指すこと」をESG目標として設定し、各種の取組を推進していくこととしています。
環境面においては、「2050年カーボンニュートラルの実現」という超長期の目標と、それを着実に達成するためのマイルストーンとして、2030年度目標(対2019年度比46%削減)を設定し、当面の取組として、EV車両の導入拡大、郵便局等における照明器具等のLED化及び再エネ率の高い電力会社への切替等を積極的に行うほか、当社グループの持つリソースを活用し、再生可能エネルギーの利用拡大など国内外のカーボンニュートラル化を後押しする投資等も展開していく予定です。
社会面では、地方の人口減少局面の中でも地域社会を支えるインフラ機能を果たすため、JR・地方銀行等他企業や地方公共団体との連携・協業を推進しているほか、地域活性化ファンドへの参加により地域社会の発展・活性化に貢献しています。
人権・労働関連では、多様な人材が活躍できるよう、ダイバーシティの推進に取り組んでいきます。女性管理者比率の向上に関しては、2030年度に本社における女性管理者比率30%を目指すほか、本社以外においても、管理者・役職者を目指す社員を増やすための環境整備・人材育成等を進めます。また、健康経営、労働時間の適正化等、社員視点に立った働き方改革の推進にも取り組んでまいります。
企業統治面では、金融2社商品・サービスに係る不祥事等により大きく毀損した信頼の回復に向け、「お客さまの信頼回復に向けた約束」を実行するとともに、グループの持株会社として、グループCxO制の導入、日本郵政・日本郵便の一体的運営を図り、グループガバナンスを強化します。また、「コンダクト・リスク」を早期に探知し対応する態勢を構築し、グループ一体となったリスク管理を行います。
今後も当社グループは、持続可能な社会の実現に貢献するための活動を、グループ一体となり取り組んでまいります。
各事業セグメント別の対処すべき課題は、以下のとおりであります。
⑤ 郵便・物流事業
日本郵便の郵便・物流事業において、郵便物の減少や荷物需要の増加に対応するため、以下の取組みを行います。
(a) 商品・サービス・オペレーション体系の一体的見直しとサービスの高付加価値化
引き続き、年賀状を始めとしたスマートフォン等を使ったSNS連携サービスや手紙の楽しさを伝える活動の展開等により、郵便利用の維持を図るとともに、eコマース市場の拡大による荷物需要の増加に対応するため、差出・受取利便性の高いサービスを提供するとともに、営業倉庫の拡大等により、eコマース事業を展開しているお客さまの物流に関する課題を解決するソリューション営業を強化することで、収益の拡大を図ってまいります。
また、業務効率向上や不在再配達率の削減に向け、置き配の普及・拡大等を進めるとともに、業務量に応じた担務別人件費・要員マネジメントの高度化を図ることにより、競争力あるオペレーションの確立を目指します。
なお、過去5事業年度の郵便、ゆうメール、ゆうパック及びゆうパケットの取扱物数の推移は以下のとおりとなります。
(単位:百万通・百万個)
2017年3月期2018年3月期2019年3月期2020年3月期2021年3月期
郵便17,73017,22216,78116,35015,244
ゆうメール3,4983,6373,6503,5693,299
ゆうパック
(含 ゆうパケット)
6978769429741,091
(再掲)
ゆうパケット
176261357428497

(注) ゆうメールに含めていたゆうパケットの物数については、2016年10月より、ゆうパックに含めて表示する方法に変更しました。これに伴い、2017年3月期については全ての期間の物数に当該変更を反映しております。
(b) 先端技術の積極的な活用による利便性・生産性向上
先端技術の活用によってオペレーション体系を見直し、生産性を向上させていくため、テレマティクス(移動体通信システムを利用したサービス)技術を用いて取得するデータを、社員の安全確保や配達の相互応援等に活かしていくほか、郵便物の配達順路や配達エリアの見直しにも活用してまいります。加えて、AIによる配送ルートの自動作成等にも取り組み、ローコストオペレーションを実現してまいります。
また、他企業との連携により、効率の良い配送システムの構築や利便性の高い受取サービスの提供等を実現する新たな物流プラットフォームの構築に取り組むほか、将来的な実用化に向けて、ロボティクス(無人搬送車やピッキング用ロボット等)やドローン、配送ロボット等についても試行・実験を重ねてまいります。
(c) 改正郵便法に伴うサービスの見直し
内国郵便約款等の変更認可申請等の行政手続を遺漏なく実施するとともに、お客さまへの丁寧な周知や、正常な業務運営の確保等に向けた準備を進めてまいります。
⑥ 金融窓口事業
日本郵便の金融窓口事業において、地域やお客さまニーズに応じたサービスを提供するため、以下の取組みを行います。
(a) 総合的なコンサルティングサービスの実現に向けた体制への変革
日本郵政グループとして、専門性と幅広さを兼ね備えた「総合的なコンサルティングサービス」の実現を目指し、専門性・機動性を有するコンサルタントと幅広い商品ラインアップを提供する窓口社員の役割分担を明確にし、前者をかんぽ生命保険の指揮下に置く(かんぽ生命保険商品の営業等に限る)準備を進めてまいります。
(b) リアルな存在としての郵便局を活かした、郵便局ネットワークの価値向上
地域金融機関等との連携強化や駅と郵便局の一体的な運営等、地方公共団体や他企業と連携しながら、地域やお客さまニーズに応じた個性・多様性ある郵便局を展開することにより、郵便局ネットワークの価値を向上させてまいります。
(c) 不動産事業の拡大に向けた取組み
JPタワー等の賃貸事業を行うとともに、住宅地に所在する土地の有効活用事業として、住宅、保育所及び高齢者施設の賃貸事業を行います。また、新たな収益機会の拡大や保有不動産の有効活用の観点から、広島駅南口計画、梅田3丁目計画等を推進し、不動産事業が収益の柱の一つとなるよう取り組んでまいります。
⑦ 国際物流事業
日本郵便において、トール社に対する経営管理を強化・徹底してまいります。
同社では、2021年4月に発表したエクスプレス事業※1の売却等による不採算事業からの撤退、本社機能やロジスティクス事業における人員配置等の合理化によるコスト削減等、経営改善に向けた取組みを推進するとともに、シンガポール・ベトナムなど、アジア域内で特に成長が見込まれる数か国と小売業界・工業界といったトール社の得意とする業種にフォーカスした事業展開を行うこと等により、豪州に依存した事業構造から脱却し、日本を含むアジアを中心としたビジネスモデルへの転換による成長を図ります。
さらに、海外のBtoB事業を中心に事業展開するトール社と、国内に顧客基盤を有する日本郵便のシナジーを強化し、コントラクトロジスティクス※2を中心に国内のBtoB事業の拡大を進め、国内外での総合物流事業展開による一貫したソリューションの提供を推進してまいります。具体的には、トール社が持つノウハウを用いて、2018年10月に発足したJPトールロジスティクス株式会社を通じたコントラクトロジスティクスサービスを提供し、一貫性をもった物流サービスの提供を推進します。
また、トール社を親会社とする連結グループの債務超過の金額は2021年3月末時点で880億円であります。トール社の経営環境が非常に厳しい中、資金繰り安定化を企図し、トール社の借入等に対して、日本郵便による債務保証を付しております。
※1 エクスプレス事業とは豪州及びニュージーランド国内におけるネットワークを活用して道路、鉄道、海上及び航空貨物輸送サービスを提供する事業のことです。
※2 コントラクトロジスティクスとは、売買に関与しない第三者が特定の荷主顧客と契約を結び、輸送や在庫・配送業務の効率運営を図るサービスのことです。
⑧ 銀行業
2020年9月に公表した、ゆうちょ銀行の即時振替サービスにおける不正利用、mijica(Visaデビット・プリペイドカード)を使用した不正送金等に係る対応として、即時振替サービスについては、2020年9月初旬から中旬にかけて、一部の決済事業者について、即時振替サービスの提供を停止しました。また、不正利用等による被害のお申し出に対しては、決済事業者と連携して調査を実施のうえ、補償対象となったお客さまについては速やかに補償手続きを行っております。
mijicaについては、2020年9月中旬に送金機能の取扱いを、同年10月初旬にはmijicaの専用Webサイト及び新規申し込みを停止しました。また、mijica会員間の不正送金の被害に遭われたお客さまへの補償手続きは完了しております。
さらに、ゆうちょ銀行代表執行役社長が直接指揮するセキュリティ総点検タスクフォースを設置し、ゆうちょ銀行が提供する即時振替サービス、ゆうちょPay、mijica等のキャッシュレス決済サービスに関してセキュリティの堅牢性やお客さまのご利用状況のモニタリング等態勢の総点検を行い、その結果を踏まえたセキュリティ強化策等を着実に実行しました。
また、今回の事案を受けて行われた、ゆうちょ銀行監査委員会による「即時振替サービス等の不正利用事案に係るガバナンス検証」の結果等を踏まえ、ゆうちょ銀行において、総合的な苦情・相談態勢の強化及びセキュリティ検証態勢の強化に向けた態勢整備を行いました。
即時振替サービスについては、決済事業者における態勢整備(全国銀行協会ガイドライン及び日本資金決済業協会ガイドラインに基づいた顧客保護態勢等)が確認できた事業者から、順次サービスを再開しております。
mijicaについては、新たなブランドデビットカードへ移行し、新ブランドデビットカード発行後は、mijicaのサービスは終了する方針等を2021年1月に公表いたしました。
ゆうちょ銀行は、キャッシュレス決済サービスを経営戦略上の重要施策と考えており、今般の経験と反省を踏まえ、お客さまにより安全・安心にサービスをご利用いただけるよう、一層のセキュリティ強化に取り組むとともに、リスク感度の向上とお客さま本位の業務運営に更に努めてまいります。
当社においては、ゆうちょ銀行のセキュリティ総点検結果、セキュリティ強化策を踏まえつつ、グループのガバナンスの更なる強化に向け、今回の事案及びこれに関連するゆうちょ銀行のガバナンスの現状と課題等について、JP改革実行委員会に検証を依頼し、2021年1月29日に改善に向けた提言をいただきました。
今後は、この提言を踏まえ、グループのガバナンスの更なる強化に努めてまいります。
なお、当社は本件事案に関して、2020年10月1日にゆうちょ銀行のガバナンスの確実な実施について報告の要請を総務省から受けたため、2020年11月9日に報告書を提出いたしましたが、その後も実施状況等について総務省に報告し協議を行っております。
ゆうちょ銀行は、新しい中期経営計画期間を“信頼を深め、金融革新に挑戦”する5年間と位置づけ、事業環境が大きく変化していく中、ビジネスモデルの変革と事業のサステナビリティ(持続可能性)強化を目指します。
(a) リアルとデジタルの相互補完による新しいリテールビジネスへの変革
安心・安全を最優先に、すべてのお客さまが利用しやすいデジタルサービスを拡充するとともに、郵便局ネットワークを活用し、デジタルサービスの普及を進めます。また、顧客基盤を活用し、多様な事業者との連携による最適なサービスを提供する、オープンな「共創プラットフォーム」の構築にも努めてまいります。
具体的には、各種デジタルサービスの本人確認機能等のセキュリティの強化、「通帳アプリ」の機能拡充や「家計簿・家計相談アプリ」の構築等に取り組んでまいります。
また、資産形成サポートビジネスについては、お客さま本位の業務運営の下、いつもの社員に相談できる「対面チャネル」と、かんたん・べんり・低コストの「デジタルチャネル」でお客さまに最適なサービスを提供してまいります。対面チャネルにおいては、資産運用商品のラインアップを顧客層に合った商品に整理するとともに、投資初心者等のお客さまには主に積立投資を提案してまいります。また、オンライン相談機能の導入・拡大や、「資産運用コンサルタント」の育成等を進め、お客さまに一層寄り添ったライフプラン・コンサルティングを実施してまいります。一方、デジタルチャネルにおいては、競争力のある料金水準の下、Webサイトやアプリでのサービスを拡充するなど、誰もが使いやすい資産運用プラットフォームの整備に努めてまいります。
さらに、2021年5月から開始している「口座貸越サービス※1」や「フラット35※2」の直接取扱いのような、お客さまの長い人生をサポートする新サービスや利便性を高める新サービスを展開してまいります。
※1 口座貸越サービスとは、口座残高を超える払戻し、自動払込み等、各種決済サービスを利用した取扱いの際に、不足額を自動的に融資するサービスのことです。
※2 フラット35とは、独立行政法人住宅金融支援機構の個人向け固定金利住宅ローンのことです。
(b) デジタル技術を活用した業務改革・生産性向上
店舗においては、窓口タブレットを導入する等、定型的な取引のセルフ処理を可能とする仕組みを広げるとともに、デジタルチャネルの充実を図り、お客さまの取引チャネルの選択肢を拡充しながら、窓口業務の効率化を進めてまいります。貯金事務センターにおいては、AI―OCR※1の拡大や、BPMS※2の導入等、デジタル技術を組み合わせた総合的な業務の自動化を推進してまいります。
これらの取組みを通じ、直営店や貯金事務センターの業務量を削減する一方、強化分野に人員をシフトすることで、生産性の向上を図ってまいります。
また、戦略的なIT投資等、重点分野への投資を強化しつつ、既定経費の削減により、経営の効率性の改善を目指してまいります。
※1 AI―OCRとは、AIを活用し、非定型帳票や手書き文字等の認識率を向上したOCRのことです。
※2 BPMSとは、Business Process Management Systemの略。
RPAを自動で起動し、人による確認作業等を要求するなど、業務フローをシステム的に制御し、自動的に工程管理を行うシステムのことです。
(c) 多様な枠組みによる地域への資金循環と地域リレーション機能の強化
お客さまからお預かりした大切な資金を、地域に循環させていくために、多様な枠組みを通じた資金供給により、地域活性化への貢献に努めてまいります。特に、ゆうちょ銀行子会社の「JPインベストメント株式会社」のほか、「株式会社日本共創プラットフォーム」等を通じた資金供給により、地域のエクイティ性資金(リスクマネー)のニーズに応えます。
また、地域金融機関と連携し、「地域の金融プラットフォーム」の中核として、ATMネットワークの活用や事務の共同化など各地域の実情に応じた金融ニーズにも応えていきます。
(d) ストレス耐性を意識した市場運用・リスク管理の深化
低金利が継続する厳しい経営環境の中、リスクアペタイト・フレームワーク(RAF)※1に基づき、取得するリスクの種類や水準を明確にした上で、リスク・リターンを意識しつつ、収益性の向上を目指して国際分散投資を拡充してまいります。
具体的には、投資適格領域を中心にリスク性資産残高を積み上げてまいります。また、リスク性資産のうち、戦略投資領域※2については、選別的に投資を進め、残高の拡大を目指してまいります。
また、ストレス事象発生に備え、ストレス耐性のあるポートフォリオ構築を進めるとともに、ストレステストの高度化やモニタリングの強化等、リスク管理の深化に一層努めてまいります。
※1 リスクアペタイト・フレームワークとは、経営層が事業計画とともに取得するリスクと種類を承認し、想定外損失の回避、リスク・リターンの向上、アカウンタビリティの確保を通じて企業価値の向上を目指す経営管理の枠組みのことです。
※2 戦略投資領域とは、プライベートエクイティファンド(成長が見込まれる未上場企業等へ投資するファンド)、不動産ファンド等からなる戦略的な投資領域のことです。
(e) 一層信頼される銀行となるための経営基盤の強化
「お客さま本位の業務運営」を実現し、一層信頼される企業となるため、次の社内改革に努めてまいります。
イ. 組織風土改革
「サービス向上委員会」を中心に、社員一人ひとりが、日々の活動の中でお客さま本位の業務運営を実践していくために、継続的に組織風土改革に取り組みます。具体的には、経営理念の社内浸透に加えて、お客さま本位の考え方を組織や社員の評価体系等に一層反映してまいります。
ロ. 内部管理態勢の強化
変化の激しい社会・経済環境の中、リスク感度を向上し、変化に対して迅速・柔軟に対応しながら外部との連携も含め、各種管理態勢を強化します。
具体的には、「1線(営業部門、事務部門)」の自律的管理の強化、1線に対する「2線(管理部門)」・「3線(監査部門)」の社内横断的な牽制態勢の強化などリスクマネジメント態勢の強化に取り組みます。あわせて高度なセキュリティ対策の実行と新たなリスクに備えたITガバナンスとセキュリティ検証態勢の強化等、「安心・安全の確保」に努めてまいります。
また、コンプライアンス態勢については、日本郵便株式会社と連携し部内犯罪等の防止を図り、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の高度化については、モニタリングの高度化や新システムの構築等に引き続き取り組んでまいります。
⑨ 生命保険業
かんぽ生命保険は、2021年5月に公表した2021年度から2025年度までの新たな中期経営計画において、生命保険会社としての社会的使命に応えるために、今一度「いつでもそばにいる。どこにいても支える。すべての人生を、守り続けたい。」との経営理念に立ち返り、お客さまから真に信頼される企業へと再生し、お客さま体験価値(CX)※を最優先とするビジネスモデルへ転換することで、持続的な成長を目指してまいります。
※ お客さま体験価値(CX)とは、商品やサービスの機能・性能・価格といった「合理的な価値」だけでなく、購入するまでの過程・使用する過程・購入後のフォローアップなどの過程における経験といった「感情的な価値」の訴求を重視することです。
(a) 再生に向けた取組み
お客さまから真に信頼される企業へと再生するため、お客さま本位の業務運営を徹底し、信頼回復に向けた取組みを継続してまいります。
適正な募集プロセスのもと、新たな営業スタイルへ抜本的に転換し、「お客さまにご納得・ご満足いただいた上で商品・サービスをご利用いただく」活動に徹底して取り組んでまいります。具体的には、勧誘方針やかんぽ営業スタンダードのプリンシプルに基づく活動等や、契約継続やアフターフォロー等の活動プロセスも評価するマネジメントへの転換を図ってまいります。また、ご加入期間をとおして「生命保険というサービスをご提供する」という考え方により、丁寧なアフターフォローに取り組むことで、お客さまとの信頼関係の再構築に努めてまいります。
事業基盤の強化については、信頼回復に向けた取り組みを継続した上で、生命保険会社としてあるべき姿に再生するため、「新しいかんぽ営業体制の構築」、「保険サービスの充実」、「事業運営の効率化」、「資産運用の深化・高度化」などの事業基盤の強化に取り組んでまいります。
「新しいかんぽ営業体制の構築」のため、お客さまの多様な保障ニーズに対応した保険サービスを提供していくため、専門性と幅広さを兼ね備えた新しいかんぽ営業体制を構築し、日本郵政グループ一体での総合的なコンサルティングサービスを実現してまいります。ご家庭への訪問などを通じて、お客さまへの丁寧なアフターフォローや保険サービスをご案内するコンサルタントは、かんぽ生命保険が直接責任をもってマネジメントする体制を整備し、生命保険のご提案及びアフターフォローに専念するとともに、お客さま担当制の導入により、お客さまに質の高いきめ細やかなアフターフォローを実施してまいります。また、全国にネットワークを持つ郵便局窓口において、ご来局いただいたお客さまに保険商品を含む幅広い金融商品をご提案する郵便局窓口社員は、引き続き、広範な商品・サービスを提供してまいります。
また、「保険サービスの充実」のため、人生100年時代における、あらゆる世代のお客さまの保障ニーズにお応えする保険サービスの開発を進めてまいります。具体的には、青壮年層のお客さまニーズに応える低廉な保険料でバランスのとれた保障の提供や、人生100年時代を踏まえた高齢・中高年層の保障等のニーズに応える商品の拡充のほか、健康寿命延伸に貢献する商品の研究に取り組んでまいります。
さらに、「事業運営の効率化」のため、デジタル化の推進により、お客さまサービス向上と業務の効率化及び経費の削減に取り組んでまいります。これにより生じた経営資源は、お客さまサポート領域、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進等の強化領域にシフトしてまいります。
「資産運用の深化・高度化」のため、ERMのフレームワークの下、ALM運用を基本として、安定的な資産運用収益の確保を目指すとともに、2025年予定の経済価値ベースの新資本規制導入の動きに適切に対処しつつ、オルタナティブ等の投資領域毎とポートフォリオ構築の両面から資産運用を深化・高度化してまいります。また、2021年4月からは、全運用資産を対象としてESGの諸要素を考慮するとともに、「Well-being向上」、「地域と社会の発展」、「気候変動対応」を含む環境保護への貢献を重点取組テーマとした投融資を行い、これらを通じて、広くSDGsの目標達成や社会課題解決への貢献に取り組み、かんぽ生命らしい“あたたかさ”の感じられるESG投資を推進してまいります。
(b) 持続的成長に向けた取組み
上記「再生に向けた取組み」のお客さまから真に信頼される企業への再生に取り組みつつ、自らの社会的使命を再認識し、かんぽ生命保険らしい新しい社会的価値を作り出すことで、市場での競争力を高め、持続的成長を目指してまいります。
お客さま体験価値の向上の観点から、保険サービスを抜本的に見直し、お客さまの利便性や募集品質を向上させることで、「かんぽ生命に入っていてよかった」と感動いただけるよう取り組みます。また、その体験価値をご評価いただいたお客さまから、そのご家族や知人、さらには地域・社会全体へかんぽ生命をお勧めいただくことで、お客さまを広げてまいります。
具体的には、「一人ひとりに寄り添う適切なご提案」、「その場で完結する簡便な手続きの提供」、「チーム一体でのきめ細やかなサポート」、「お客さまとのつながりを重視したアフターフォローの充実」に取り組んでまいります。「一人ひとりに寄り添う適切なご提案」を行うため、お客さまのニーズや必要な保障内容など、デジタルを活用したツールにより可視化することで、お客さま一人ひとりに寄り添う適切なご提案を実現してまいります。また、「その場で完結する簡便な手続きの提供」を行うため、デジタル技術の活用により、お客さまのニーズに応じて、オンライン、対面等様々なお申込・ご請求形態を選択できるようにするほか、リモートでの専門スタッフの同席等により、その場での諸手続き等の完了を可能にしてまいります。「チーム一体でのきめ細やかなサポート」を行うため、お客さまのご契約情報やお問合せ情報等をお客さま単位で集約したお客さまデータベースを構築し、コンサルタント、郵便局窓口、カスタマーサービスセンターなど、お客さまにご対応する全ての社員がチーム一体できめ細やかなあたたかみのあるサポートを提供できる環境を整備してまいります。
さらに、「お客さまとのつながりを重視したアフターフォローの充実」のため、訪問による対面対応に加えて、電話・TV会議など様々な方法による手厚いアフターフォローや、メール・SNS等によるお客さま毎に最適なタイミングでのアフターフォローを行い、お客さまのニーズに幅広くお応えし、お客さまの周囲の方々も含めた信頼感の獲得を目指してまいります。
また、社会的使命を果たすことで、サステナビリティ(持続可能性)を巡る社会課題の解決に貢献すべく、ESG経営を推進してまいります。
かんぽ生命保険が優先的に取り組む社会課題(マテリアリティ)として、「郵便局ネットワーク等を通じた保険サービスの提供」、「地域と社会の発展・環境保護への貢献」、「健康増進等による健康寿命の延伸・Well-being向上」、「社員一人ひとりが生き生きと活躍できる環境の確立」、「社会的使命を支えるコーポレートガバナンス」の5つの課題を設定し、解決に向けて取り組んでまいります。具体的には、カーボンニュートラルの実現に向けた温室効果ガス排出量の削減や女性管理者比率など具体的な目標を設定するとともに、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った取り組みなどを進めてまいります。また、これらの取組状況については、サステナビリティレポート等を通じて、積極的に開示してまいります。加えて、お客さまが抱える多様なお悩みにお応えし、お客さまの生活に寄り添うサービスを提供することで、かんぽ生命保険の存在意義を発揮し、少子高齢化や健康などといった社会課題への解決に貢献するとともに、かんぽ生命保険をより身近に感じていただき、更なる信頼を構築していけるような取り組みを検討します。
(c) 再生と成長のための土台作り
経営陣と社員が将来のビジョンを共有し、一人ひとりがやりがい(ES)を感じながら会社とともに成長する企業を目指すことで、企業風土改革・働き方改革を推進してまいります。具体的には、経営陣と社員のコミュニケーションの活性化、社員一人ひとりの多様なキャリア形成の支援、マネジメント力の強化、人事評価制度の高度化を柱とした企業風土改革を推進してまいります。また、ES調査結果を踏まえた自律的な改善活動を推進するとともに、テレワークの活用などにより多様で柔軟な働き方を選択できる環境を整備し、ダイバーシティを実現する働き方改革を推進してまいります。これらの取り組みにより、社内コミュニケーションが活性化され、相互理解の下、全社が一体感を持ち、お客さま本位に基づき自律的・主体的に行動する会社を実現してまいります。
また、ガバナンスの強化のため、かんぽ生命保険は、組織としての透明性・公平性を確実に高め、さらには、社員一人ひとりのリスク感度を高めることにより、健全な事業運営を行ってまいります。具体的には、健全なコーポレートガバナンスを確保した上で、マネー・ローンダリング並びに犯罪防止等対策や個人情報保護・情報セキュリティ対策を強化するなど、健全な業務運営を確保するための取り組みを継続して実施してまいります。また、お客さまの声、社員の声を貴重な財産だととらえ、お客さまサービスや業務運営の改善につなげてまいります。
(参考)
過去の新契約、保有契約の件数の推移は下記のようになります。
(単位:万件)
契約の種類2017年3月期2018年3月期2019年3月期2020年3月期2021年3月期
新契約(個人保険)2441731716412
簡易生命保険1,4411,2481,104990894
かんぽ生命保険1,7151,7921,8091,7161,589

(注) 2007年10月1日の民営化時の簡易生命保険契約は5,517万件でした。