訂正有価証券届出書(新規公開時)

【提出】
2015/10/26 15:01
【資料】
PDFをみる
【項目】
108項目

対処すべき課題

当社グループは、「主要三事業の収益力と経営基盤の強化」、「ユニバーサルサービスの責務の遂行」、「上場を見据えたグループ企業価値の向上」の3点を中期的なグループ経営方針として平成27年4月に策定しました。その上で、現在、当社グループが直面している「更なる収益性の追求」、「生産性の向上」、「上場企業としての企業統治と利益還元」という新たな3つの課題を克服するため、当社グループが一丸となって、郵便・物流事業の反転攻勢や郵便局ネットワークの活性化などの「事業の成長・発展のための戦略」、ITの活用や施設・設備への投資などの「ネットワークの拡大、機能の進化を支えるグループ戦略」に取り組み、将来にわたって「トータル生活サポート企業」として発展していくことを目指してまいります。
当社といたしましては、平成27年度におきましても、郵便、貯金及び保険のユニバーサルサービスの確保並びに郵便局ネットワークの維持・活用による安定的なサービスの提供等という目的が達成できるよう、グループ各社の経営の基本方針の策定及び実施の確保に努めてまいります。
そして、当社グループの企業価値向上を目指し、上記方針を踏まえたグループ各社の収益力強化策や更なる経営効率化等が着実に進展するよう、グループ運営を行ってまいります。あわせて、当社グループが抱える経営課題については、持株会社として、グループ各社と連携を深めながら必要な支援を行い、その解消に努めてまいります。コーポレート・ガバナンスの強化のため、グループ全体の内部統制に努めるとともに、コンプライアンス水準の向上を重点課題として、グループ各社に必要となる支援・指導を行い、不祥事再発防止等につきましても、取り組みを推進・管理してまいります。
さらに、グループ各社が提供するサービスの公益性及び公共性の確保や、お客さま満足度の向上に取り組むとともに、当社グループの社会的責任を踏まえたCSR活動に、グループ各社とともに取り組んでまいります。
上場後の金融2社株式の売却については、当社としましては、郵政民営化法に従い、最終的には当社が保有する全ての金融2社株式を売却する方針ですが、その前提として、金融2社株式の売却に伴う当社と金融2社との資本関係の変化が、金融2社の経営状況並びに当社及び日本郵便に課されているユニバーサルサービスの責務の履行に与える影響を見極める必要があります。そこで、当社としましては、まずは、金融2社の経営状況及びユニバーサルサービスの責務の履行への影響が軽微と考えられる、当社の保有割合が50%程度となるまで、段階的に売却を進めることにしました。なお、金融2社株式の2分の1以上を処分することにより、郵政民営化法により課せられている新規業務に係る規制が認可制から届出制へと緩和されることになります。
また、政府も当社株式の売却収入を東日本大震災に係る復興債の償還費用の財源に充てることを目的として、当社株式の売却を段階的に進めていくことが予想されますが、当社及び金融2社の企業規模に鑑みれば、3社の時価総額は相当程度の規模になることが想定されるため、3社の株式を短期間で大規模に売却することは、株式市場の需給の観点からは容易ではないと考えられます。従って、当社としましては、金融2社株式をいつまでに売却するかを明確に示すことはできませんが、株式市場の動向等の条件が許す限り、まずは、保有割合が50%程度となるまで、段階的に売却を進めてまいります。
金融2社株式の売却に伴う手取金については、上記「第一部 証券情報 募集又は売出しに関する特別記載事項 5.自己株式の取得について」に記載の通り、上場時の売却においては、その売却手取金を自己株式の取得資金に充てることとしており、また、上場後の売却においては、その売却手取金を適切な投資機会に対して資本を投下し、企業価値の向上を図るとともに、必要に応じ、自己株式の取得を行うことにより資本効率の維持・向上を図ります。
金融2社株式の売却に伴う事業ポートフォリオの移行を実現するための手段として、当社グループ及びグループ各社の企業価値向上に資するような積極的な業務提携やM&Aも行ってまいります。
各事業セグメント別の対処すべき課題は、以下のとおりであります。
なお、下記(1)(2)の主たる事業主体である日本郵便は、平成27年5月に豪州物流企業トール社の発行済株式100%を取得し、子会社化を完了いたしました。今後、同社をプラットフォームとして国際物流事業を拡大することとし、同社の有する3PL、グローバルフォワーディング※等の知見と経験を活用し、アジアにおける日本の多国籍企業のニーズに対応するなどにより、収益拡大を図ってまいります。
※ 荷主と輸送手段を結び付けて、海外自国間及び三国間輸送を行うなど、輸出入貨物の工程管理を行う業務。
(1) 郵便・物流事業
郵便・物流事業においては、次の収益増加及び生産性向上に向けた取り組みを行います。
① 収益増加に向けた取り組み
郵便事業については、引き続きスマートフォン等を使ったSNS連携サービスや手紙の楽しさを伝える活動の展開、DM企画提案営業の強化等により、郵便の利用の維持・拡大を図るとともに、研修・教育の実施等により誤配達を防止する等、品質の向上に努めてまいります。また、あらかじめ自分が選択した相手からのメッセージを、WEB上でまとめて受け取り、保管できる新しいデジタル・メッセージ・サービスの試行的な提供を開始する予定です。
物流事業については、ゆうパック、ゆうメールにおいて、通販市場・eコマース市場を中心に積極的な営業活動を展開するとともに、品質管理の徹底、中小口のお客さまに対する営業の強化、オペレーション基盤の整備やコンビニ受取の拡大や受取ロッカーの展開等による利便性の向上を図ってまいります。物流ソリューション営業や物流ファイナンスサービスなどの戦略的な展開を図りながら、ゆうパックの収益拡大・収支改善に取り組むとともに、通販市場をメインターゲットとしたゆうパケットの提供などによりゆうメール収益の拡大を目指します。
また、国際eコマースプラットフォーム事業者との連携を強化し、国際郵便の利用増を図るとともに、国際宅配便サービスであるUGXの提供によりEMSではカバーできないお客さまのニーズに対応し、これらのサービスにおいて更なる収益拡大を目指します。
なお、過去5事業年度の郵便、ゆうメール及びゆうパックの取扱い物数の推移は以下の通りとなります。
(単位:百万通)
平成23年3月期平成24年3月期平成25年3月期平成26年3月期平成27年3月期
郵便19,81219,10818,86218,57218,189
ゆうメール2,6222,8723,1013,3243,362
ゆうパック347383382428485

② 生産性向上に向けた取り組み
人事・給与制度の面では、業務効率・営業成績等に応じた業績手当の新設や、在職期間中の貢献度等を反映させるポイント制の退職手当制度の導入等、業績・評価に応じた給与・退職手当体系への見直しを行い労働意欲の向上による生産性の向上に取り組む他、従来の正社員より、役割や業務・転勤の範囲を限定する一方で、給与水準を抑えた新たな正社員区分を導入することで、安定的な労働力を確保するとともに、適切なコストコントロールに努めます。
また、高速道路インターチェンジ付近に十分なスペースを確保し、鉄道ターミナル駅付近の地域区分郵便局(比較的大規模な郵便局)を移転・新築することにより郵便物等の区分作業を集約し、機械化・簡素化を進める郵便・物流ネットワーク再編によりネットワーク全体の生産性を大幅に向上させるとともに、ゆうパック、ゆうメールの増加にも対応します。また、次世代郵便情報システムの構築・稼働によって、オペレーション・間接業務の見直しによるコスト削減を行います。
(2) 金融窓口事業
金融窓口事業においては、次の収益増加及び生産性向上に向けた取り組みを行います。
① 収益増加に向けた取り組み
銀行・保険窓口業務をはじめとする金融サービスにおいて、ゆうちょ銀行及びかんぽ生命保険と連携した研修を通じて社員の営業力を強化するとともに、銀行窓口業務においては、ゆうちょ銀行との一体営業の展開、金融預かり資産重視の営業スタイルの浸透等に取り組むことで安定的な顧客基盤の構築に取り組んでまいります。保険窓口業務においては、かんぽ生命保険と一体となって既にご契約いただいているお客さまへのご訪問活動の展開等による営業活動量の増加により、新契約の拡大スピードをさらに加速させるほか、ユニバーサルサービスの対象商品である養老保険・終身保険の販売強化、入院特約付加率の向上を推進いたします。また、がん保険等の提携金融サービスの取扱局の拡大、商品ラインナップの拡充を図ります。
物販事業は、他社との提携等により、利益率の高い非食品分野を中心に商品の拡充・開発を行うとともに、営業・販売チャネルの多様化を推進してまいります。
当社グループが保有する不動産については、郵便・物流事業や金融窓口事業等、郵便局としての本業での利用を優先するものの、不動産事業に活用できる低・未利用資産等については積極的に開発を推進し、安定的な営業収益の確保を目指します。具体的には、JPタワー、大宮JPビルディング、平成27年度竣工予定のJPタワー名古屋及びKITTE博多等のビル賃貸事業、住宅事業及び駐車場事業を推進してまいります。
この他、社員がお客さま宅を訪問、生活状況を確認し、その結果をあらかじめお客さまが指定した報告先にお知らせする「郵便局のみまもりサービス」の実施などにより、トータル生活サポートのメニュー増強を図ります。
② 生産性向上に向けた取り組み
郵便・物流事業と同様に、新たな人事・給与制度の導入により、生産性の向上に努めます。
また、郵便局の新規出店、店舗配置の見直し等を通じた郵便局ネットワークの最適化に引き続き取り組むほか、郵便局の業務効率の向上を目指し、郵便局の現金取り扱いに関して、機器の増配備により資金管理体制の充実を図るとともに、郵便局への訪問支援や関連ツールの充実等による業務品質の向上に取り組みます。
(3) 銀行業
ゆうちょ銀行は、郵便局をメインとするネットワークを通じ、お客さま満足度No.1のサービスを提供する「最も身近で信頼される銀行」、適切なリスク管理のもとで運用の多様化を推進し、安定的収益を確保する「本邦最大級の機関投資家」を目指し、以下の課題に取り組んでまいります。
① 営業戦略の拡充
日本郵便(郵便局)との一体営業を展開し、総貯金残高の更なる拡大に向け、お客さまのライフサイクルに応じ、給与・年金口座等のメイン化商品のクロスセル(関連商品の提案)を促進して、安定的な顧客基盤の構築に取り組んでまいります。このため、各店舗(各直営店・郵便局)のお客さまの属性や取引状況をタイムリーに把握して、的確な商品をご提案するため、「担当顧客システム」の利用定着と機能拡充に注力してまいります。
また、貯金に投資信託等の資産運用商品を加えた「総預かり資産」の拡大を目指し、全直営店に配備したタブレット端末も活用して、フィナンシャル・コンサルタントによるお客さまの運用資産全体に亘る「コンサルティング営業」に注力します。全国に約27,000台設置しているATM・クレジットカード等の収益性向上にも取り組み、市場金利に左右されにくい手数料ビジネスを強化してまいります。更に、「無通帳型総合口座サービス(ゆうちょダイレクト+(プラス))」の導入など個人のお客さま向けインターネットバンキングの機能強化、法人のお客さま向け大量送金・代金収納のリアルタイム・サービス拡充、給与受取口座の営業強化等により、顧客基盤の拡充を図ってまいります。
② 資金運用戦略の展開
安定的な調達構造のもと、有価証券運用をベースとしつつ、一層の収益確保を求めて、運用戦略の高度化を目指してまいります。具体的には、資産・負債の総合的管理(ALM)の枠組みである2つのポートフォリオの内、「ベース・ポートフォリオ」では、国債等によるキャリー収益重視の運用スタイルを基本に、機動的に金利・流動性リスクをマネージし、中期的な安定的収益の確保に注力してまいります。「サテライト・ポートフォリオ」は、市場(金利・為替等)・経済情勢(景気・信用状況)等が安定推移する場合、インハウス・委託運用の高度化、国際分散投資の加速による残高拡大や、オルタナティブ(代替的)投資などの新たな投資領域の開拓に取り組み、主に信用市場リスク商品への運用を更に促進します。このため、市場部門の整備・専門的人材の確保等を進め、運用態勢をさらに強化してまいります。
また、これらの運用多様化を踏まえ、パフォーマンスの要因分析、将来の市場変動に備えたリスク分析・管理態勢の強化、審査態勢の高度化にも注力してまいります。
③ 内部管理態勢の充実
「コンプライアンスなくして会社は存続し得ない」との強い信念のもと、日本郵便と連携しつつ、引き続き、ゆうちょ銀行が平成22年1月に金融庁に提出した業務改善計画の徹底に努め、経営トップからのメッセージの発信や各種研修の強化等による「考えるコンプライアンス」の更なる浸透を通じて、上場企業に求められる法令等遵守意識を醸成し、内部管理態勢の充実を図ります。
また、お客さまの個人情報管理ルール・基本動作を改めて徹底し、資産運用商品販売時の顧客属性・ニーズ・リスクに応じた説明態勢を強化する等、顧客保護態勢の充実に努めます。
更に、店舗の事務品質向上のため、マニュアルの検索性を高め、職場でのOJTを支援するとともに、「ゆうちょダイレクト」の不正送金やサイバー攻撃への対応により、インターネット取引のセキュリティ強化を継続し、お客さま満足度の向上に努めてまいります。
④ 経営態勢の強化
人材育成の充実、女性の活躍等ダイバーシティの推進、戦略的な人材配置による人的資源の有効活用に引き続き取り組みます。
加えて、顧客サービスの向上や成長に向けた投資を拡充する一方、生産性向上のための全社的に仕事の進め方を見直すBPR(Business Process Re-engineering)を継続し、経費の効率的使用に努めます。
(4) 生命保険業
かんぽ生命保険におきましては、「お客さまから選ばれる真に日本一の保険会社を目指す」という方針のもと、成長に必要な経営基盤を確立するとともに、かんぽ生命保険の強みをさらに強固にする商品・サービスを開発することで、本格的な成長軌道への転換に道筋をつけてまいります。
① 引受から支払まで簡易・迅速・正確に行う態勢整備
将来の成長戦略を描くために、競争の基盤となる事務・システムインフラへの投資を行うことで、保険契約の引受から支払まで、簡易・迅速・正確な事務手続きなどの仕組みを構築し、お客さまのご契約を管理する態勢を強化するとともに、質の高いサービスを提供してまいります。また、平成29年1月の基幹系システム更改に併せて、従来システムの開発・運用態勢をより強化することにより、システム品質・開発生産性の向上を目指してまいります。
② 販売チャネルの営業力強化
日本郵便と一体となって、かんぽ生命保険の新契約販売実績の大部分を占める郵便局チャネルの営業力を強化いたします。日本郵便の営業人材である渉外社員の増強及び育成による生産性向上、既にご契約いただいているお客さまへのご訪問活動の展開等による営業活動量の増加により、新契約の拡大スピードをさらに加速させるほか、ユニバーサルサービスの対象商品である養老保険・終身保険の販売強化に加え、お客さまの保障ニーズに広くお応えするために入院特約の付加率の向上を推進いたします。かんぽ生命保険の直営店チャネルでは、法人営業の態勢強化により、法人・職域(職場を拠点とする個人向け営業)等での販売拡大を目指してまいります。
③ お客さまニーズに対応した商品開発、高齢者サービスの充実
貯蓄性商品の魅力向上や満期代替手続の利便性向上を図るほか、高齢者の方でも保険にご加入いただけるように、養老保険・終身保険の加入年齢を引上げるなど、お客さまニーズに対応した商品・サービスを開発することにより、お客さまの利便性向上に貢献するとともに、新契約の拡大につなげてまいります。
また、かんぽ生命保険の強みであり、今後も拡大が予測される高齢者マーケットにおいて、「高齢者に優しいビジネスモデル」を構築し、高齢者の方に対して質の高いサービスを提供できるよう、全てのお客さま接点を高齢者の目線で見直す改革を推進してまいります。
④ 運用収益力の向上
資産と負債のマッチングを推進するとともに、許容可能な範囲で資産運用リスクを取り、運用資産の多様化を進めることにより、収益性の向上を目指してまいります。
⑤ 内部管理態勢の強化、人材育成の強化
経営の根幹である「募集品質の確保・コンプライアンスの徹底」を図るとともに、「お客さまの声」を経営に活かす取組みを推進し、リスク管理の強化を図ることで、内部管理態勢を強化いたします。
また、会社業務の中核となり競争力の源泉となる優れた人材を育成するとともに、多様な人材が働きやすい職場環境の創出(ダイバーシティ・マネジメントの推進)を行い、従業員一人ひとりが会社とともに成長することを目指してまいります。
(参考)
過去の新契約、保有契約の件数の推移は下記のようになります。
(単位:万件)
契約の種類平成23年3月期平成24年3月期平成25年3月期平成26年3月期平成27年3月期
新契約(個人保険)205212220223238
簡易生命保険3,5493,1012,6932,3191,995
かんぽ生命保険6188019871,1661,353

注) 平成19年10月1日の民営化時の簡易生命保険契約は5,517万件でした。